仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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雷牙の世界
第二十一章/雷牙の世界⑭(前編)


 

―クラナガン・路地裏―

 

 

裕司『───そうか……どうやら思ってた以上に面倒な事態になっているようだな……』

 

 

恭平「面倒なんてモンじゃねーよ。ただでさえ面倒な事に余計な面倒さが増して、厄介極まりない事になってんだよ、こっちはっ……」

 

 

クアットロ達と八雲が退き、一旦の脅威が去ったクラナガン内のとある路地裏の片隅。

 

 

薄暗い闇が辺りを覆うその場所には、ハルや映紀達が駆け付けた騒ぎに乗じてどうにかあの場から逃げられた恭平と薫、全身に傷を負って壁に寄り掛かりながら死んだように眠る真也と、先程人質の男の子を救出する為に戦線を離脱したクレアの姿があり、その中で恭平は別世界の本拠地にいる裕司にモニターで通信を繋いで現状の説明を行っていた。

 

 

裕司『しかし、クアットロが手に入れたというデザイアメモリか……奴等、何処でそんな強力なメモリを……』

 

 

恭平「さてな、そいつはこっちが聞きてぇぐらいだぜ……当初の目的だったサンダーレオン無しでも釣れたのは良いが、羅刹も通じねぇあんな反則染みたメモリがあったんじゃ下手に手出し出来ねぇぞ。しかも──」

 

 

裕司『……小坂井ハル……ある日を境に行方不明になっていたとは聞いていたが、まさか異世界に飛ばされていたとはな……相変わらず無茶苦茶な人だ……』

 

 

ハァッ……、と通信越しにも分かるほど深く溜め息を吐く裕司。彼もハルのあの荒唐無稽さを経験した事があるクチだからか、眉間の皺を抑える裕司の姿に恭平もそれに釣られるように溜め息を吐いてしまうも、すぐに表情を引き締めて報告を続ける。

 

 

恭平「とにかく、こっちはそのメモリで変身したクアットロと俺が捕まったせいで真也が動けない状態だ……悪いんだが、どうにかそっちから増援を送ってもらえねぇか……?」

 

 

裕司『……そちらの状況を聞いた以上、そうしたいのは山々だが、生憎こちらも今は他のメンバーも別の任務で出払っていてな……今残っているのは俺と綾だけだ。終夜も所用で留守にしている以上、此処の防衛の為にも俺まで此処を離れる訳にはいかん』

 

 

恭平「……マジかよ……」

 

 

そうなると此処から先は、怪我人の真也を除いた自分と薫、クレアの三人のみで任務を続行するしかないと言う事だが、驚異的な力を秘めたデザイアメモリを持つクアットロ達に加えて、状況次第では雷牙達や零達、最悪ハルとも戦う可能性がある中、この人数で動く事になるのは正直心許ない。

 

 

せめて同じ任務に赴く事が多い麻衣だけでもと一抹の望みを掛けていたのだがと、恭平が何度目かの溜め息と共に項垂れる中、クレアがふと薄い吐息を吐いて口を開いた。

 

 

クレア「別に増援なんか必要ないわよ……此処までコケにされた上に、手に負えなくなったから味方に泣き付いたなんて事があったんじゃ良い笑いものじゃない。あのクソ女ぐらい、私一人でもぶっ殺せるんだからっ」

 

 

裕司『……その心意気は頼もしいが、現状はそう簡単なものではない。零達や雷牙、最悪小坂井ハル達を相手にしなければならないこの状況下で、驚異的なメモリを手にしたクアットロ達を仕止めなければならないと言うのは現状難しい……此処はやはり、一度出直してチーム編成を見直し「冗談言うなよ、裕司」……!』

 

 

此処は一度恭平達を退かせて、新たにチームを組み見直してクアットロの討伐に向かわせるべきかと提案する裕司の言葉が、掠れた男の声に横から遮られる。そしてその声を聞いて一同が振り返ると、其処にはいつの間にか意識を取り戻し、壁に寄り掛かったままモニターの向こうの裕司を見つめる真也の姿があった。

 

 

薫「せ、先輩……!」

 

 

恭平「真也……!目ぇ覚めたのか?!」

 

 

真也「ああ……けどまだ、身体の方はあっちこちイテェんだけどな……」

 

 

クレア「……それはドジこいたアンタが悪いんじゃない。もっとしっかりやってればそうはならなかった筈でしょうに」

 

 

真也「……うっせぇよ……」

 

 

クレアの憎まれ口にそう返しつつ、真也は態勢を変えるように僅かに身動ぎし、裕司の方に目を向けて改めて口を開いた。

 

 

真也「こっちの事なら心配はいらねぇよ、裕司……一度引き受けたからには、やり切ると俺だって決めてんだ……多少怪我したぐらいで任務を続けらんねぇなんて言ってたら、この先やってくなんて出来ねぇからな……こっちは任せて、お前はお前の仕事にでも集中してろ」

 

 

裕司『……そんな状態で、任務を続けられると言うのか?つい先程、クアットロに引けを取った言うのにか?』

 

 

真也「ああ……言葉だけじゃ信じらんねぇだろうが……今の俺にはそれしか言えねぇ……それでも、頼む裕司……俺を信じてくれ」

 

 

裕司『…………』

 

 

真っすぐ、真摯な眼差しで裕司を見据えながらそう告げる真也。裕司もそんな真也の目をジッと睨むが、暫くした後に小さく溜め息を吐いた。

 

 

裕司『いいだろう。其処まで言い切ったからには、必ず相応の成果を持ち帰ってきてもらうぞ。……終夜の方には、俺の方からそれとなく誤魔化しておいてやる』

 

 

恭平「え……マジ?いつもは冷酷無慈悲で終夜に従順のお前が其処まで気を回してくれるとか、何か悪いもんでも食ったか?」

 

 

裕司『貴様は俺をなんだと思ってるんだ……俺はただ、来たるべき決戦の為に貴重な戦略を下手に削るのは得策ではないと判断したまでの事だ……だが、忘れるなよ?今回またお前がヘマをした暁には、その首は終夜の前に差し出してもらう事になると』

 

 

真也「……ああ……わーってるさ……あんがとな」

 

 

と、心身共にボロボロなせいか、何時もの彼らしくもなく素直に裕司に感謝の言葉を告げる真也。

 

 

そんなしおらしい姿に裕司だけでなく恭平や薫も目を点にして意外そうな反応を見せるが、裕司は気を取り直すように咳払いし、そのまま通信を切ってしまった。

 

 

恭平「通信、切れちまったか……けど、どうするよ真也?裕司にはああ言ったけど、正直今の俺らだけじゃクアットロ達に対抗するのは結構厳しいせ?此処からどう逆転したもんかぁ……」

 

 

真也「へっ…‥決まってんだろ、そんなの……至極簡単な話じゃねえか……」

 

 

クレア「?簡単って、何を……?」

 

 

愚問だ、と言わんばかりに軽く鼻を鳴らす真也の言葉の意図が読めずに彼以外の面々が頭上に?マークを浮かび上がらせる中、真也は顔を上げてそんな一同の顔を見回し、不適な笑みを浮かべた。

 

 

真也「今この世界には、零達の危機に駆け付けた異世界の連中がこぞってやって来てんだ。……あのクソ女の鼻っ面をへし折りてぇなら、俺らもその"祭り"に乗じてひと暴れしてやるんだよ」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―機動六課―

 

 

なのは「──え……ど、どういうことですか、それっ……?」

 

 

幸助「…………」

 

 

一方その頃、市街地での戦闘を終えた幸助達は零を回収した後、この雷牙の世界の機動六課を訪れ、姫やアズサ、優矢やヴィヴィオの負傷を聞き付けて同じ様に六課へ急いで駆け付けたなのは達にこれまでの経緯を説明していた。

 

 

重傷の傷を負った姫やアズサ、優矢はシャマルの治癒魔法のおかげで何とか一命を取り留め、ヴィヴィオも三人に比べて其処まで大した外傷はなく、今はチンク達が傍に付き添って四人とも医務室で安静にしており、零は意識不明の状態で集中治療室に隔離されて今も面会謝絶なままその顔を見られない。

 

 

そんな中、零が隔離される集中治療室の前でなのはとはやて、そしてクラウン達に助けられて頬や腕などに白い包帯を巻いて沈んだ表情で俯くフェイトを交え、シズクとクラウン、幸助は目を伏せて淡々とした口調で説明を続けていく。

 

 

幸助「今話した通りだ。零はクアットロ達の術中に嵌り、以前のキャンセラーの世界の時と同様破壊者として覚醒し、この雷牙の世界を一度破壊した。……お前達を巻き込んでな」

 

 

はやて「破壊って……な、何の話をしとるんですかっ……?」

 

 

なのは「そ、そうですよ……!私も二人も、それに皆、この世界も今ちゃんとこうして此処にあるじゃないですか!零君が世界を破壊しただなんてっ、そんなの一体いつ……?!」

 

 

シズク「それは皆が気付けていないだけなの。……私と幸助達は実際、この雷牙の世界が破壊された瞬間に立ち会って、零君の手によって再編された別世界で戦ってた……零君を貶めた犯人、イレイザーと呼ばれる怪人達と」

 

 

なのは「……?イレイ、ザー?」

 

 

初めて耳にするイレイザーという怪人の名に、なのはとはやて、そして沈んだ表情を浮かべていたフェイトも顔を上げて訝しげな反応を各々が見せる中、幸助がシズクの説明を補足して続けていく。

 

 

幸助「イレイザーとは、全ての世界、物語から何かしらの罪でその存在を許されず追放されてしまった者達の事であり、それを指す呼称の事だ」

 

 

シズク「彼等も元は私や皆と同じ人間で、彼等が追放された先にも此処とはまた別の次元……えーと……噛み砕いて言うと彼等の為の現実があって、其処で善良に生きれば烙印された罪を清算し、この世界に戻ってくる事が出来るの……ただ……」

 

 

説明を続けてく内に、シズクの表情に影が差す。そんな彼女の様子になのは達が揃って首を傾げる中、シズクの隣に立つ幸助はそんな彼女を横目に何かを察したように目を伏せると、彼女の代わりに説明を受け持ち話を続ける。

 

 

幸助「中には、その罪を謂れのない冤罪だと反発し、無理矢理この世界に戻ってくる連中も大勢いる。物語を歪める力、改竄を用いてな」

 

 

はやて「改竄……ですか……?」

 

 

クラウン『分かりやすく言えば、その世界の本来の歴史を己の自由気ままに変えてしまえる力です。実際の歴史であれば、生きてる筈の人間が何かしらの事故に巻き込まれて亡くなってしまう。その逆に、死ぬ筈だった運命の人間が生き永らえるなど……そうして本来の歴史の流れなら有り得ない改竄を繰り返す事で、自分達の存在が赦される世界を創造する事を目的とし、今も世界の裏側で暗躍し続けている。それがイレイザーと呼ばれる者達です』

 

 

なのは「物語を、改竄……そんな危険な力を持った怪人もいたなんて……」

 

 

幸助達の口から初めて聞かされるイレイザーの存在とその恐るべき力に、なのは達も衝撃を隠せず戦慄を覚える中、今まで口を閉ざしていたフェイトが恐る恐る問い掛ける。

 

 

フェイト「もしかして……そのイレイザーっていう怪人が、クアットロ達を裏で操っていたんですか……?零の父親が……私や彼女達を利用して……零を、苦しめる為だけに……」

 

 

なのは「…………え…………?」

 

 

はやて「フェイト、ちゃん……?い、今、なんてっ……?」

 

 

何か、彼女の口から聞き捨てならない単語を耳にし、なのはとはやては我が耳を疑って思わず振り返ってフェイトに聞き返してしまう。フェイトはその問いに沈痛な面持ちで二人から目を逸らし、シズクとクラウンも彼女達にどう伝えるべきか言葉を探して僅かに逡巡する中、幸助はそんな一同の顔を見回し薄く息を吐き出した後、フェイトに代わって事実を告げる。

 

 

幸助「今回、クアットロ達を裏で手引きしていた黒幕の名は、黒月八雲。……零の実の父親であり、最低最悪のイレイザーとして数々の世界の人間を不幸に貶め、アイツにこの世界を破壊させる為に何重もの計画を張り、零に重罪を犯させた張本人だ」

 

 

はやて「……な……」

 

 

なのは「零君、の……お父さんっ……!!?」

 

 

フェイト「……っ……」

 

 

零に実の父親がいた。それだけでも衝撃なのに、よりにもよってその父親がイレイザーと呼ばれる怪人であり、その息子である筈の零に世界を破壊させる為に、クアットロ達を利用して彼を陥れる計画を実行した今回の黒幕でもあった。

 

 

そんな信じ難い、あまりにも多すぎる情報量になのは達も理解が追い付かずただただ困惑するしかない中、先に我に返ったなのはが悲痛な面持ちと共に、覚束無い足取りで幸助に詰め寄っていく。

 

 

なのは「なん、で……なんで零君のお父さんが、そんな事するんですか……?本当の親子なんですよねっ?なのにそんな、自分の息子に人殺しみたいな真似をさせるだなんてっ、可笑しいじゃないですかっ!!」

 

 

幸助「……それが八雲という男だ。奴は零を実の息子だなんて微塵も思っちゃいない。それどころか、破壊者の宿命を背負ったアイツを失敗作、産むべきでなかったと蔑んで、今も憎んでいる……奴に人間らしい情を求めているのなら、期待なんてするな」

 

 

なのは「……そん、なっ……」

 

 

はやて「そんなんっ……そんなのあんまりやないですかっ!零君は今までの世界でもずっと、破壊者や悪魔やなんて言われ続けて、誤解されて、傷付いて……!なのに、実の父親にまでそんな風に思われて、憎まれて、しかも世界を滅茶苦茶にしてきた怪物だったやなんてっ……そんなん、あんまりやっ……」

 

 

フェイト「っ…………ぅ、っ…………」

 

 

幼い頃から彼を知り、今まで何度も彼に救われてきた。

 

 

一緒に肩を並べて戦い、共に生きていく内に、ぶっきらぼうに思えたその顔の奥には身近な人を守る為、自分の身すら犠牲に出来る危うい優しさがあるのを知り、そんな彼に惹かれた。

 

 

……なのに、そんな彼をこの世に産んでくれた実の父親は息子である零をその存在ごと憎み、あまつさえ、息子である筈の零を陥れて世界を破壊させるように仕向け、その手を汚させた。

 

 

そんな残酷に過ぎる事実に、なのははショックのあまり膝から崩れ落ち、はやては目尻に涙を浮かべてやりようのない怒りに震えるしかなく、そんな男に自分の中の醜い感情を利用され、零をより苦しめる手伝いをしてしまったフェイトは自分の愚かを呪って涙を流し、悔しさと自己嫌悪のあまりスカートの裾を固く握り締めてしまう。

 

 

幸助「……いずれにせよ、零は八雲の罠に嵌められ、破壊者としてこの雷牙の世界を一度破壊した。今は様々な事情が入り組んで何とか元の形に戻す事はできたが、その事実はもう変えようがない。奴が再び世界を破壊する兆しを見せるのであれば、俺はこの手で奴を断罪するのもやぶさかじゃない」

 

 

フェイト「?!だ、断罪って……!」

 

 

なのは「まって……待って下さい幸助さんっ!!私達はちゃんと無事ですっ!無事なんですっ!この世界もっ、皆もっ……!ちゃんと此処にいてっ、ちゃんと生きてるんですっ!零君は誰も殺してなんていないんですっ!!だ、だから──!!」

 

 

 

 

 

 

―ガシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!!!―

 

 

『……っ!!?』

 

 

 

 

 

 

幸助にしがみつき、泣きながらに零への断罪を必死に止めようと懇願するなのはの悲痛な声を遮るように、突然集中治療室の方からけたたましい音が響いた。

 

 

いきなりの騒音に一同が驚愕と共に治療室の方に振り返ると、次いで部屋の中から何かが割れる音や怒鳴り声が聞こえ、なのは達が慌てて治療室の中へ駆け込むと、其処には……

 

 

 

 

 

 

「落ち着いてっ!!落ち着いて下さいっ!!黒月さんっ!!」

 

 

零「ァあああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!触るなぁああああっっっっ!!!!俺に近付くなぁああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

───ベッドのシーツが見るも無残に破かれ、備え付けの小物なども散乱し荒らされた病室の隅にて、数人の医務局員に必死に押さえ付けられながらも彼等を寄せ付けまいと狂乱して暴れ回る零の姿があったのだった。

 

 

なのは「れ、零君っ?!」

 

 

はやて「ど、どないしたんですか?!一体何が?!」

 

 

「?!や、八神部隊ちょ……あ、いえ、貴方は確か違う世界の……!」

 

 

はやて「今はそないな話はいいです!それより、零君に何が……!」

 

 

「わ、分かりません!急に目を覚ましたかと思えば、突然暴れ出してっ……!何とか落ち着かせようとしてるのですが、幾ら押さえ付けてもあまりに彼の力が強くっ……!」

 

 

零「ぅ、ああああああっっっっ…………!!!!お、俺がっ……俺がっ、この手でっ、ぅ、ああっっっ……!!!!ァァああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」

 

 

なのは「れ、零く──!!」

 

 

フェイト「零っっ!!!!」

 

 

医務局員が説明する間にも、零は己の頭を掻き毟りながら発狂して自分を押さえ付けようとする他の医務局員達を押し飛ばすだけでなく、壁や床などに自分の頭を滅茶苦茶に打ち付けて血まで流し、自分自身を躊躇なく傷付け続けていく。

 

 

そんな零の異常な姿になのはが思わず駆け寄ろうとするよりも速く、フェイトが零に駆け寄りその身体を強く抱き留めた。

 

 

フェイト「零っ、零っ!!落ち着いてっ!!大丈夫だからっ、私達はちゃんと此処にいるからっ!!」

 

 

零「ぅ、あっ、ぁ…………ああっっ…………ア…………」

 

 

フェイト「大丈夫っ、大丈夫っ……!私も無事だよっ。もう、何もっ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………アリ……シア……………………すま、ないっ……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「…………ぇ…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……フェイトの顔を間近で目にし、零の口から漏れ出たのは今は亡き、もうこの世にはいない筈の彼女の姉の名と謝罪の言葉だった。

 

 

その名を口にした零の声音には、何処か深い後悔と罪悪の念が込められているように聞こえ、フェイトが呆然と零の顔を見つめる中、零の背後に一瞬で移動したクラウンが素早い手刀を零の後ろ首に打ち込んだ。

 

 

零「がっ……!ぁ……っ……」

 

 

―ドサッ……!―

 

 

なのは「っ!零君っ!!」

 

 

クラウン『……今の内に彼をベッドに。それから鎮静剤の投与もお忘れなく。次にまた目を覚ました時、彼がまた暴れ出さないとも限りませんから』

 

 

「は……はい……!」

 

 

クラウンの手刀で意識を手放し、慌てて駆け寄ったなのはに抱き止められる零を医務局員が数人掛かりでベッドへと運んでいく。

 

 

その姿を目で追いながら、フェイトは呆然と立ち尽くしたまま先程零が口にした言葉を頭の中で何度もリフレインさせていた。

 

 

―………………アリ……シア………………すま、ないっ……………………―

 

 

フェイト「……なんで……なんで、アリシアに謝るの……零……」

 

 

クラウン『……………………』

 

 

アリシアの名を口にしただけでなく、自分を通して今にも泣き出しそうな顔で彼女への謝罪の言葉を口にした零に、ただただ困惑を深めて立ち尽くすフェイト。

 

 

そんな彼女の様子を横目にクラウンも仮面の下で複雑げに目を伏せて俯く中、事の成り行きを治療室の入り口から見守っていた幸助はベッドに寝かされる零を見つめ、先の八雲の言葉を脳裏に思い返していた。

 

 

 

 

 

 

―フェイト・T・ハラオウンを殺されたぐらいで復讐心で我を忘れ、キャンセラーの世界を破壊しようとした罪悪感を未だに引きずっているような奴だ……例えお前達が全てを元に戻したところで、あの出来損ないが自身の仲間達と多くの人間を手に掛けた事実は消えはしない。果たして奴は、その事実を許容し正気を保っていられるかどうか……さぞ面白い見物になると思わないか?―

 

 

 

 

 

 

幸助(…………八雲っ…………)

 

 

シズク「……幸助……」

 

 

 

 

 

 

ギリっと、怨敵の言葉が現実になった今の光景を目の当たりにし、無意識に唇を噛み締める幸助。シズクもそんな彼の横顔を見上げてどんな言葉を掛けるべきか一瞬悩むも、悲惨な姿に変わり果てた零と、そんな彼に涙ながら寄り添うなのは達の姿を見て自身もショックを隠せず、ただ今は零が立ち直ってくれるのを心の中で祈る事しか出来ない己の無力さを恨むしかなかった。そして……

 

 

 

 

 

雷(……黒月……)

 

 

 

 

 

……集中治療室から少し離れた廊下の角から、室内の騒動の一部始終を覗き見ていた雷も今の零の悲惨な姿を見てしまい、沈痛な面持ちで目を伏せた後、そのまま誰にも気付かれず無言でその場から離れていったのだった。

 

 

 

 

 

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