仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―機動六課・食堂―
スバル「──そ、そんなっ……」
ティアナ「今回の事件の首謀者が……零さんの父親……?!」
その一方、機動六課の食堂でははやてから連絡を受けて写真館から慌てて駆け付けたスバル等に加えて、先の戦闘の事後処理を一通り終えた理央と奈央達、シャマル(別)の治療を受けた紫苑達が集まり、グランから今までの事の経緯……幸助がなのは達に説明した内容と同じ、今回の事件の黒幕が零の父親の八雲であり、イレイザーと呼ばれる怪物であること。
そして零がその父親の罠に嵌められ、キャンセラーの世界の時と同様に破壊者となり、この雷牙の世界を皆も気付かぬ内に一度破壊してしまった事を説明していた。
因みに、紲那達やカルネなどの一部別世界からの救援組はこの場にはおらず、今は行方をくらましたクアットロ達の捜索に出向いている。
グラン「そういう事だ……この世界の管理局に送られてきた例の警告状や映像の件も、その八雲の仕業で先ず間違いない……目的は恐らく、ディケイドである零と、其処の紫苑の動きを封じる為ってのもあるだろうが……奴の一番の動機は多分、零に償え切れない罪を背負わせる事で、アイツを絶望させる為ってとこか……」
すずか「そんな……ひどいっ……」
ヴィータ「なんだよそれっ……仮にも自分の子供なんだろっ?!何だってそんな真似が出来んだよっ、実の父親がっ!」
あまりにも救われない、残酷に過ぎる真相にすずかは悲痛げに口元を手で覆い、ヴィータも堪え切れない怒りのあまりダンッ!とテーブルに勢いよく拳を叩き付けてしまう。
此処にいる写真館の面々、特に零とは十年も長く苦楽を共にしてきたヴォルケンリッターやすずかは、過去の記憶もなく、本当の家族の顔すら思い出せない自分自身について彼が思い悩む姿を間近で目にしてきた事もあった。
そんな零に本当の父親がいたという事実は、本来なら喜ばしい知らせの筈なのだ。
なのに、その父親がこの雷牙の世界……いや、もしかすれば怪物として多くの人々を不幸に陥れてきた大罪人であり、実の息子に人殺しのような真似をさせて苦しませていたなどと、そんな救いのない話があっていい筈がない。
ヴィータのように口にこそ出さないものの、零を良く知る他の写真館のメンバーも言葉にし難い悲しみや怒りをそれぞれが覚える中、食堂の入り口の方から零の様子を確かめに行っていた雷が戻ってきた。
キャロ「ッ!雷さん……!」
エリオ「零さんは……?!今どんな様子で……!」
雷「……酷い有様だった……黒月の世界の高町達と、クラウンとやらのライダーがどうにか落ち着かせはしてたが、お前達は目にしなくて正解だったと思う……あんな姿、俺ですらまともに直視するのも憚られた……」
ギンガ「っ、そんなっ……」
いたたまれない様子で一同から目を逸らす雷から今の零の悲惨な状態を聞かされ、写真館のメンバーもその顔から血の気が引いていく。そんな中で、顔を俯かせたいたスバルが雷を見上げ、身を乗り出す。
スバル「で、でも……でも大丈夫です、よね……?だって、零さんですし……これまでも何があったって立ち直ってこられたんだから、こ、今度もきっと……!」
顔を引き攣らせながらも、零の再起を信じて他の面々の顔を見回し、何とか前向きに励まそうとするスバル。しかし……
ザフィーラ「それは……恐らく難しいかもしれん……」
ティアナ「……え……」
無念を滲ませた声音でそう告げたのは、ザフィーラだ。スバル達がその声に釣られるように思わず振り返ると、沈痛な面持ちで俯いていたザフィーラが顔を上げ、重たい口を開く。
ザフィーラ「お前達もよく知っての通り、黒月は己自身より、仲間を……特に我々を守る事を何より優先としてきた……それも病的なまでにな……グランの話が事実なら、そんな男が不本意とは言えど、一度は世界ごと我々を手に掛けたなどとあっては……」
シグナム「……ああ……とてもではないが、奴の心が耐えられる筈がない……恐らく黒月の父親も、それを分かっていて、敢えて……っ……」
スバル「っ……」
ギリッと、深刻げに語るザフィーラの隣で、シグナムも顔を背けながら悔しげに拳を固く握り締める。
そんな二人と同様に、ヴィータとシャマルも目を伏せて悲愴の念を露わにし、守護騎士達のその様子を見てスバル達も内心不安を膨れ上がせる中、食堂の入り口からなのはとはやて、そしてフェイトが意気消沈とした様子で入ってきた。
ギンガ「!皆さん……!零さんは?!」
なのは「……みんな……」
はやて「それが……その……」
フェイト「……っ……」
零の安否を今一度確かめる為に慌てて詰め寄ってきたスバル達に、なのはとはやては言葉を詰まらせてただ視線をさ迷わせるしかなく、二人の背後に立つフェイトも辛そうに目を伏せて自身の片腕を強く掴んで握り締めている。
すると、一同の間に雷が割って入り、なのはとはやてにそれぞれ視線を配りながら頷いた。
雷「黒月の容態は、さっき俺の方から軽くだが伝えておいた」
はやて「……?雷君、もしかして病室に様子見に来てたんか……?」
雷「ああ。ただ外から遠巻きに見ても分かるほど、中が酷い惨状だったのが見えてしまってな……あのタイミングで顔を合わせるのは、どうかと……」
なのは「そっ、か……気を遣わせて、ごめんなさい……皆も、その……雷君から話を聞いてるなら、分かってると思うけど……」
キャロ「そんなに……そんなに、酷い状態なんですか……零さんは……?」
はやて「……うん……今は幸助さん達が傍にいて、私らにどうするべきか……話し合え、って……」
エリオ「話し合えって……な、何を……?」
陰鬱な顔で重々しくそう告げるはやてから、何か嫌な予感のような物を感じ取りエリオが恐る恐る聞き返す。
その問いに対し、なのはとはやても互いに顔を見合わせてどう告げるべきか否か悩む素振りを見せる中、今まで無言で俯いていたフェイトが重々しく顔を上げ、惨痛の表情で僅かに声を震わせながら代わりに答えた。
フェイト「今の零を……これからどうするか、私達で決めろって……今の、あんな状態のままにするか……それとも……この世界に来てからの記憶を全部消して……それでっ……」
「「「なっ……」」」
ヴィータ「んだよ、それ……あたし等にアイツの記憶をどーこーするか決めろって、そう言ってんのか?!」
はやて「……そうする以外、立ち直せる方法はないかもしれん、て……」
なのは「もし次に目を覚まして、またさっきみたいな事になれば……零君は、自分で自分を傷付け続けて……最悪、幸助さんに自分から命を差し出すかもしれない……そうなったら幸助さんも、場合によっては意を汲んで、断罪者として手を下すしかなくなるかも……って……っ……」
ティアナ「っ……なんで……何だって、そんなっ……」
紫苑(……零さん……)
ただでさえ過去を奪われた経験を持つ零から、その心を救う為とは言え更にまた記憶を奪う。
そんな形でしか今の零を悲惨な状態から救う方法がないと告げられ、スバル達や守護騎士達も言葉を失うあまり呆然と立ち尽くしたり、力なく椅子に座り込んで項垂れてしまう。
そんななのは達のやり取りを前に紫苑一行も掛ける言葉が見付からず沈黙してしまう中、此処までの話を黙って聞いていたはやて(別)が申し訳なさを滲ませた表情を浮かべ、椅子から立ち上がり一同に向けて頭を深く下げた。
はやて(別)「みんな……それに紫苑君達も……本当に、ごめんなさい……私らがもっと早くに皆を信頼して、協力してさえいればこんな事には……」
シャマル「……いいえ、この世界のはやてちゃん達に落ち度なんてないわ……貴方達はただ、自分達の世界を真摯に守ろうとしただけ。そうでしょう?」
はやて「せや……この件に関して、この中の誰が悪いかなんて事は……「違う……」……へ?」
自分達に責任を感じて謝罪するはやて(別)達を責めずに誰が悪い訳でもないと告げようとしたはやての言葉を、彼女の背後からの声が遮った。
思わず皆が振り向けば、其処には惨痛な面持ちのまま俯くフェイトの姿があった。
キャロ「フェイト、さん……?」
フェイト「私……会ってたんだ……今回の事件の、黒幕……零の、父親と……」
なのは「……えっ……?」
はやて「あ、会ってた……?零君のお父さんと、フェイトちゃんが?!」
シグナム「どういう事だ……説明しろ、テスタロッサ!」
フェイトの口から告げられた衝撃的な事実に、その場にいる全員が驚愕と戸惑いを隠せずざわめく中、フェイトは自分の腕を抱いたまま、まるで神に懺悔する罪人のように重たい口を開き始める。
フェイト「この世界にきた最初の朝……私、零と話してて……其処で、零の様子が可笑しい事に気付いたんだ……祐輔達の世界でのこと……私と交わした約束や、自分が撮った写真のこととか……全く覚えていなかったの……」
エリオ「覚えてなかったって……それはたまたま、零さんが忘れてただけなんじゃ……?」
すずか「ううん……確かに零君は約束を破ってしまう事もあるけど、約束自体を簡単に忘れる事なんてそうそうないハズ……なにより……」
なのは「零君が……自分の撮った写真を忘れるなんて……そんなの有り得ない……」
昔から共に過ごしてきたなのはやすずか、はやてには分かる。
確かに彼は真っ当な善人ではないかもしれない。ただそれでも、交わした約束を守ろうと努める人間ではあるし、何よりも記録を残す写真……今までの自分の記憶の軌跡とも呼べるその証を忘れるなど、絶対に有り得る筈がないのだ。
そんな零自身の身に起きていた異常を初めて聞かされて一同は困惑し、フェイトは僅かに開いた瞳に深い影を宿したまま話を続けていく。
フェイト「理由は私にも分からなかった……私と一緒に撮った筈の写真を、初めて目にしたように、まるで他人のもののように私に渡してきて……皆にも相談するべきかどうか悩んでた私の前に、あの人が現れた……」
雷「……黒月の父親……黒月八雲、だな?」
目を細め、そう問い掛ける雷に対し、フェイトは一拍間を置いた後に重々しく頷き返す。
フェイト「零がそうなった原因を、その時に初めて聞かされた……祐輔の世界で、私がヴェクタスに殺されたせいで……零が破壊者として覚醒したその代償として、記憶が壊されたんだってっ……」
ギンガ「代償で、記憶が……?!」
理央「成る程……例の映像がその時の物であるなら、確かに納得する所はある。ただ映像を通して視ただけでも、奴の力は相当に凄まじい物だった。それだけの強大な力、ただの人の身ではどんな犠牲や反動があっても可笑しくはない」
それが奴にとっては記憶の抹消だったのだろうと、フェイトの話を聞いて得心を得る理央だが、はやて達はあまりにも酷で、急過ぎる事実に再び言葉を失ってしまい、なのはは無言のまま静かにそんなフェイトの前に真剣で、しかし何処か憤りを滲ませた表情で歩み寄った。
なのは「だからさっき、幸助さん達と話してた時に零君の父親の件も知ってたんだね……どうして……何でそんな大事な事を今まで黙ってたの……?」
フェイト「……言えなかった……零が破壊者になるきっかけを作って、記憶を失ったのは元を辿れば私のせいで……しかも何も知らない雷達にその時の事を知られたせいで、零が危険視されて……クアットロがその力に目を付けて、私の時と同じようにルーテシアを犠牲にするって聞かされて……まともな判断が出来てなかった……」
はやて「フェイトちゃん……」
フェイト「でも、それだけじゃない……本当は私、なのはに嫉妬してたんだっ……」
なのは「……え……?」
絞り出すような声でそう本音を告げられ、目を丸くするなのは。そんな彼女に向けて顔を上げるフェイトの顔は、今にも泣き出しそうな悲痛な色を帯びていた。
フェイト「なのは、言ってたよね……零が悩んで、苦しんでた時、なのはにだけは弱音を吐き出してたって……」
なのは「……それは……」
フェイト「それを知った時、私は『どうして自分じゃなかったんだろう』って、親友にそんな汚い感情を抱いた……そんな醜い自分の心から目を逸らしたくて、私も力になりたくて、罪を償いたくて……あの人の言葉を鵜呑みにしたっ……」
そのせいで一人勝手に暴走し、自分を止める為にクラウン達に迷惑を掛けただけでなく、こうして零がより苦しむ結果を生む更なる手伝いまでしてしまった。
自分を救ってくれたクラウンは、『先ずはそんな自分を赦してあげればいい』と言ってくれた。
……けれど、あんな零の痛々しい姿を見てしまった今、そんな簡単に自分を許す事なんて出来る筈がないと、深い自己嫌悪に苛まれるあまり溢れ出す涙をせき止める事が出来ず、フェイトはただただなのは達に謝罪を繰り返す。
フェイト「ごめんなのは……ごめんなさい、みんな……全部、私のせいなんだっ……!私があの人の口車に乗らなければ零は、優矢や姫達だってあんなっ……!全部全部私がっ──!!」
なのは「やめてフェイトちゃん」
ピシャリッと、なのはの冷たい声がその場に響き渡った。
その声だけで、まるで背筋が凍り付くような冷たい感覚を一同が襲い思わず後退り、謝罪を繰り返すあまり自分でも気付かぬ内に項垂れていたフェイトもその声にビクッ!と涙しながら恐る恐る顔を上げると、なのはは先程よりもあきらかに怒りを露わにした様子でフェイトをまっすぐ見据えていた。
フェイト「なの、は……」
なのは「私は、フェイトちゃんのそんな謝罪なんかいらないし、欲しくもない。私が今凄く怒ってるの、分かるよね?どうしてか分かる?」
フェイト「……それ、は……私が、自分勝手な思いで、一人で先走って……零やなのは達に、皆にも迷惑を掛けたから……だからっ……」
なのは「そうだね。その事に対しても少なからず怒ってる。でも、私が一番怒ってるのは──なんでそんなにも苦しんでいたのに、全部一人で抱え込んで解決しようしたの……?」
フェイト「……ぇ……」
最初は怒りを含んでいたなのはの声音が、最後には何処か悲しんでいるように聞こえた。途中から彼女を直視出来ず気まずげに目を逸らしていたフェイトがその声を耳に思わず視線を戻すと、なのはは寂しげに眉を顰めながらフェイトに悲しげな眼差しを向けていた。
フェイト「なの、は……?」
なのは「零君が悩んでいた事を皆に言わなかったのは、私も悪かったと思う。零君が一体何に悩んでいたのか……私にもそれは詳しく教えてくれなかったし、そんな不確かな事を皆に下手に伝えても不安を広めるだけだと思ってた……でも今思えば、それでももっと深く踏み込んで聞き出すべきだったって後悔してる……」
今更遅いけどね……と目を伏せながら苦笑を浮かべ、顔を上げたなのははフェイトの手を掴んで握り締めていく。切なげに、しかし何処か責めるような眼差しを向けて。
なのは「さっきも言ったように、私は今凄く怒ってる。でもそれはフェイトちゃんが憎いからなんかじゃない。そんな大事を、一人で抱え込もうとした事に対してだよ」
フェイト「っ……で、でも、私……なのはにっ……」
なのは「私に嫉妬してたっていうフェイトちゃんの気持ちも、分かるよ。もしも私がフェイトちゃんの立場だったなら、きっと私も同じ事を思ってたと思う。……ただそれでも、フェイトちゃんには真っ先に私達に頼って欲しかった……零君があんな風になったのは、フェイトちゃんだけの責任なんかじゃない……零君を止めて、もっと早くに助けてあげられなかった私達全員の責任なんだから……」
スバル「なのはさん……」
顔を俯かせ、声に悔しさを滲ませるなのはにはやてやスバル達も後悔を露わに視線を落としてしまう。フェイトもそんななのはの言葉に衝撃を受けた様子で僅かに目を見開き、やがて自分の本当の愚かさに気付かされ、俯き加減に泣きながら謝罪する。
フェイト「ごめん……ごめん、なのはっ……なのはの言う通り、私がもっと早くその事に気付けていたらっ……!」
なのは「……私の方こそ、ごめん……フェイトちゃんが悩んで、苦しんでた事に気付けなかったのもそうだし……零君の事も、皆にもっと早くに教えるべきだった……」
どんなに後悔して、謝罪しても取り返しは付かないかもしれない。ただそれでも、此処から先何もせずに傍観し続ける訳にはいかない事だけは分かる。
自分達では手に負えない事態を天満ファミリーを初めとした神々に頼り、自分達の悩みをアレンに吐き出すだけでは、この先零を手助けし続けるなど出来る筈がないのだ。
泣きながら謝罪を繰り返すフェイトの背中を優しく何度も撫でながらなのはは心の内で密かにそう決心し、フェイトから僅かに離れ、事の成り行き今まで黙って見守っていた雷に真剣な眼差しを向けて問い掛けた。
なのは「雷君。幸助さん達は今も零君の所にいるって言ってたよね?」
雷「?ああ、そうだが……」
なのは「なら、誰か一人でもいいから此処へ呼んでもらえるかな。……幸助さん達が知ってて、私達が知らない零君が隠してる事……洗いざらい全部話してもらう」
グラン「!待てなのは……!零が今まで秘密を隠してたのはお前達に知られたくないってのもあるが、それを知ればお前達が苦しむからと……!」
なのは「……そのせいで、零君がああなって今も苦しんでいるのに?」
グラン「っ……それは……」
なのはの鋭い言葉に、グランも気圧されて思わず押し黙ってしまう。それを他所に、なのはは構わず言葉を続けていく。
なのは「辛い事も苦しい事も、全部全部零君一人にばかり押し付けて、そんな事も知らずこれからもへらへら笑い続けるなんて私は嫌。仮にもしその秘密が私達を苦しめるものだとしても、今の零君に比べたら何でもないし、もう見て見ぬふりなんてしたくない。それでも零君がシラを切って、幸助さん達も黙っているようなら私だってもう容赦はしないよ。今からでも直接病室に乗り込んで零君の胸ぐらを掴んだ後、何度殴り倒してでも正気に戻して本心を全部吐き出してもらう……絶対に」
勇輔(こ、こえぇっ……)
光(ま、真顔のままなのに、すっごい怒りのオーラが滲み出てるっ……)
紫苑(なるほど……こうして見ると零さんが頭が上がらないのも頷けるなぁ……)
表情も声も平時と変わらぬように見えるのに、明らかに怒りがとっくに沸点を超えているのが分かるほど圧倒的な威圧感を漂わせているなのはに勇輔や光もガクガクと紫苑の後ろに隠れて怯えており、写真館のメンバーは勿論、雷達までもそのオーラに当てられて無意識に冷や汗を流してしまっている。と、その時……
「──ハッ、中々肝が据わったストレートな女じゃねーか。気に入ったぜ!」
「「「「……?!」」」」
なのは「……え……?」
そんな緊迫した食堂の空気を吹っ飛ばすような、豪快な笑い声が何処からともなく響き渡った。その声に釣られて一同が思わず振り向くと、其処には食堂の入口で壁に寄りかかるように肘を付き、もう片方の手で何故か野菜を頬張る茶髪の青年と、そんな青年となのは達を交互に見てあたふたしている銀髪の青年……映紀と海斗の姿があった。
海斗「え、映紀さん……!何か深刻そうな話してるみたいですし、此処で水を差すのは流石にちょっとっ……」
映紀「んあ?そんなんいいだろ別に。大体こんな辛気くせぇー空気、俺様も好きじゃねぇんだよ」
海斗「そんな無茶苦茶なっ」
ティアナ「……え、えーと……すみません、貴方達は一体……?」
映紀「ん?俺様か?俺様は高岡映紀!仮面ライダーディスパーとして世界を旅してる流れもんだ!んでこっちが……」
海斗「あ、えーと……海斗です。どうもっ」
ギンガ「仮面ライダー……ディスパー……?」
紫苑(ディスパー?……僕も知らないライダーだ……)
快活に自己紹介する映紀に反し、控えめに頭を下げて挨拶する海斗のいきなりの登場になのは達と紫苑達も戸惑ってしまう中、そんな一同に為になのは(別)が代わりに説明に入ってくれる。
なのは(別)「ええと……この二人はクアットロ達との戦いの時、人質の救出に手助けしてくれたの。それから他にも、あと三人──」
理央「……そういえば、あの三人は今何処にいる?俺達に一通り説明を終えた後、何か調べ事があるからと有無も言わさずお前達も連れて急にいなくなったが……」
映紀「あ?……あー、あいつらか……あいつらなら今──」
「──此処にいるよ〜」
「「「…………え?」」」
何故だか嫌そうな顔で後頭部を掻きながら言葉を濁す映紀の次の言葉を遮るように、今度は厨房の方からのほほんとした声が聞こえてきた。皆が振り返れば、其処には……
ハル「──ん〜〜、っぱぁあ!やっぱひと仕事教えた後の一杯は最っ高だねぇ〜!どれどれ、次はコイツに……」
クロノ「って、いつまで飲むつもりなんですか!!しかも無断で六課の物資を勝手に!!幾ら並行世界だからといって僕の目の前でそんな横暴っ、ああああっ!相変わらずの馬鹿力!!ユーノ!!君も黙って見てないで手を貸さないか!!」
ユーノ「いや、ハルさんがこうなったら止められないのは目に見えてるし……下手に止めようとしても時間と体力の無駄かなって……」
フェイト「……ク、クロ、ノ……?」
なのは「ゆ、ユーノ君……?!それに、まさかあの人……!」
はやて「せ、先輩……?ハル先輩やないですか?!」
そう、其処にはいつの間に食堂に入り込んでいたのか、隅っこのテーブルにて厨房に貯蔵していたものと思われる何本かのワインを持参し、入れ替わり入れ替わりグラスに注いで飲むハルと、そんなハルを後ろから羽交い締めにして酒飲みを止めようとするクロノ、そしてそんな二人の傍らで半ば諦めたような顔で苦笑いを浮かべるユーノの姿があったのだ。
急に何の前触れもなく、しかも自分達がよく知る顔見知り三人のいきなりの登場になのは達も混乱が極まってざわめくが、当の本人のハルはと言えばクロノの拘束を軽々と解き、ワインが入ったグラスを片手に呑気な調子で一同の下へ近付いていく。
理央「お前達、一体いつの間に……!」
ハル「んー、ついさっきかな?あのクアットロ君が他にも何か良からぬ仕掛けをしていないか映紀君達と一緒に軽く街を見て回ってたんだ。まぁ今のところ何もなかったけど、警戒はまだ解かない方がいいと思うよー。あとそれから……やほー。後輩諸君、元気そうで何より……とは言い切れないかなぁ、今の状況だと。何だか零君も大変みたいだし、君達も相変わらず苦労してるね?」
なのは「……ど、どうして……どうしてハル先輩が、此処に……?」
ハル「ん?どうしてって、そんなの君達が良く知ってる筈だろ?私も君達と同様に巻き込まれたのさ、滅びの現象って奴にね」
はやて「せ、先輩も私らみたいに……?な、なら、そっちのクロノ君とユーノ君も、もしかして……」
クロノ「いっつぅっ……ああっ……僕とユーノも、君達と同様あの現象に巻き込まれたんだっ……。僕は魔法もデバイスも使えなくなった状況の中で、それでも何とか民間人だけでも避難させようと部隊を動かそうとしてた最中に……」
ユーノ「僕も無限書庫に異常が起き始めたのを知って、書庫に向かってる途中であの変なオーロラみたいなのに巻き込まれてね……それから何故か近くにいたクロノと一緒に別世界をさ迷ってた所に、ハルさんに拾われてね。それから三人で、元の世界に戻る為に色んな世界を旅して回ってたんだ」
シャマル「そうだったのね……でも良かった、二人も無事で……」
最悪に次ぐ最悪が続くこんな状況の中、クロノとユーリもこうして無事にいてくれて再会出来た事を喜ぶなのは達。すると、そんな一同の喜びムードを横目にハルはグラスの中の酒を一口口にした後、改めてなのは達と向き合った。
ハル「ま、感動の再会と積もる話は今は後にして……ところで、さっき何だか興味深い話をしてたね?零君の秘密がどうのこうのって話」
なのは「え……あ、はい……それが、何か……?」
ハル「いや?これはまた数奇な偶然があるもんだなぁと思ってね。君達とは別行動で色んな世界を回ってて、その中で私達も色々と事情通になったんだよ。例えば、そう……君達が今知りたがっている、零君を蝕む"力"について、とか?」
「「「……!!!?」」」
まるで惚けるように小首を傾げながらそう告げたハルの衝撃的な言葉に、なのは達は揃って目を剥き驚愕し、ハルはそんな彼女達を尻目にテーブルの縁に寄り掛かりワインの中の酒を揺らしている。
なのは「ほんとう、なんですか……?零君が隠してる事、先輩が……!」
ハル「普段ふざけてばかりの私だけど、こういう大事な時は嘘は言わないのは知っているだろう?無論、彼の力の秘密も知っているとも。……何故彼が記憶を失うまでに至ったのか、その理由もね」
フェイト「……!!」
はやて「な、なら……そんなら教えて下さいっ!零君に何が起きてるのか……!どうしてこんな事になったのか、全部っ!」
グラン「お、おい!―スッ……―……っ!雷っ?」
雷「…………」
全てを知るというハルに詰め寄り、零の身に起きてる異常とその原因を聞き出そうとするなのは達。
そんな一同を見てグランが思わず身を乗り出し口を挟み掛けるが、雷がそれを横から手で制し、ハルも何かを見定めるようになのは達の顔を一通り見回すと、やがて目を伏せて薄く息を吐き、テーブルから身を離した。
ハル「覚悟はある……と思ってもいいんだよね?自分から言っといてなんだけど、これから話す事は結構残酷だよ?無論、君達にとってもだ」
フェイト「……そんなの……もう、間に合ってます……」
なのは「もう、何も知らないままでいるのも、私達だけ蚊帳の外なんて嫌なんです。だから、お願いします……先輩……」
ハル「…………。そうかい」
真剣な眼差しを向けるなのは達から力強い覚悟を感じ取ると、ハルは目を細めて含み笑いを浮かべた後、手に持ったままグラスをテーブルの上に置いていく。
ハル「では、私が知ってる限りの事は教えてあげるよ。零君が今まで隠してきた秘密……何故彼が破壊者と呼ばれるのか、その由縁の一つ……破壊の因子、そして再生の因子の事をね」
なのは「……?破壊と……再生の、因子……?」
ハル「そっ。それにもう一つ、その因子を語る上で、彼が破壊の因子を与えられる事になったきっかけも話さなければいけない……それが仮面ライダーロストの正体……それを知る覚悟はあるかい?フェイトくん。それに、八神一家の皆さん?」
フェイト「…………え…………?」
はやて「ロストの正体て……な、なんで其処で私らに話を振るんですか?」
ルーテシアの事ならまだしも、何故其処で急にロストの正体の話が出てくるのか。
ハルの言葉の意図が読めず、急に問い掛けられたフェイトとはやては困惑し、ヴォルケンリッターの面々も訳が分からなそうにお互いに顔を見合わせている。
そんな彼女達の反応にクロノとユーノも事情を知っているのか複雑げな顔を浮かべ、グランも唇を噛み締めて直視出来ず目を逸らす中、ハルは目を伏せて一拍置いた後、瞼を開き、何処か真剣な表情と共にゆっくりと口を開き、零がずっと隠してきた真相を語り始めるのであった。