仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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第二十一章/雷牙の世界⑭(後編)

 

 

───体中の全てを覆い尽くすような疲労感と、とてつもない量の汗を流した後かのような不快感。

 

 

重たい息苦しさと共に襲い来るそれらの感覚に刺激され、徐々に徐々に意識を取り戻した黒月零が朧気な視界で最初に捉えたのは、医務室の天井の眩い白い電灯だった。

 

 

零「………………ここ…………は…………」

 

 

「──よう。随分ゆっくりな目覚めだな」

 

 

一瞬、自分が今何処にいるのか感覚が掴めず、思わず口を突いて出た呟きに応えたのは飄々とした男の声。

 

 

釣られて向けた視線の先には、片足を上げて備え付けの椅子の上に悠々と座り込む黒髪の男……天満幸助の姿があった。

 

 

零「……幸助……」

 

 

幸助「ほう。俺が誰だか分かる程度には意識がしっかりしてるか。だったら、一先ずは大丈夫そうだ。……今の気分はどうだ?」

 

 

目覚めたばかりで声はまだハッキリしているとは言えないが、それでも自分の名を答えられた零の今の容態の良さに僅かな安堵を滲ませ、肩を竦めながら幸助が短く問う。

 

 

向けられた質問に零は視線を落とし、自分がベッドの上に横たわっているのを確かめた後、一瞬だけ瞼を伏せがちにすると、顔ごと向けていた視線を天井に戻し、息苦しそうに答えた。

 

 

零「目覚めの気分としては最悪もいい所だな……お前の顔がある時点で、大分急を要する案件になってると否が応でも分かる」

 

 

幸助「なんだ、人の顔見るなり随分な物言いじゃねえか。俺が不機嫌なら、今頃パンデモニウムで約十年分の修行の刑だったぞ?」

 

 

零「それだけ頼りにされてるって事でもあるだろ。……少なくとも、お前がいる分にはこれ以上最悪の事態にならないと確信出来て、俺も安心出来る……」

 

 

幸助「…………」

 

 

喉を鳴らして笑い、いつもの憎まれ口を叩くその様子は、一見して普段と変わらないようにも見える。

 

 

しかし、ただ軽口を交わそうとしていた幸助はそんな零の姿を見て何かを察したのか、安堵で僅かに緩んでいた表情が引き締まって真顔となり、零はそんな幸助の視線から逃れるようにベッドの反対側に顔を背け、徐に口を開く。

 

 

零「あいつら、は……みんなは、どうなった……?」

 

 

幸助「…………。みんな無事だ。少なくとも今は、誰も死んじゃあいねぇ」

 

 

零「………………そうか」

 

 

深く息を吸い、吐き出した呼吸が微かに震え、心底からの安堵を滲ませた呟きだった。

 

 

仰向けになった腹の上に乗せた拳を震えるほど握り締め、ベッドの反対側に顔を背ける零の表情は幸助の方からは見えず、それ以上の掛ける言葉も幸助は口にしない。

 

 

ただ、何かに怯えるように震える様を必死に押し殺すように、浅い呼吸を繰り返し、心の内の感情が表に出ないようにいつもの態度を装いつつ、零は包帯だらけの上体を気怠げに起こしていく。

 

 

零「っ……大分迷惑を掛けて、本当に悪かったな……これで一体何度目なんだって話だが……」

 

 

幸助「気にすんな。俺が出張るのは仕事なのもある。何もなければそれ以上に良いことはないが、平和ばっかってのもそれはそれで仕事がなくて俺個人が困ってくるしな。ままならねえもんさ、世の中ってのは」

 

 

零「……ハッ……神様ってのも案外考え事が多いんだな。……なら、仕事ついでに聞きたい事がある……幸助──」

 

 

幸助「できるぞ」

 

 

神妙な顔付きと共に何かを投げ掛けようとした零の言葉を遮るように、幸助がハッキリと告げる。

 

 

一方で、零はそんな幸助に対し呆気に取られるも、すぐに不満気な顔となって眉を顰めた。

 

 

零「せめて最後まで聞き終えたらどうなんだ。こっちはわりと進退窮まって余裕がないんだぞ……」

 

 

幸助「悪いな。案外余裕がないのは俺も同じだ。だから答えられる事には先んじて答えとく。…"今のお前"を殺せるのかって話なら、俺になら可能だ」

 

 

零「…………」

 

 

零の顔をまっすぐに捉え、戯けも一切含まない真剣な顔つきと共に告げられた答えに、対する零は無言で、真顔のまま受け止める。

 

 

暫し、互いの視線が交わるだけの静寂の後。

 

 

やがて、先に視線を逸らしたのは何処か安心したような笑みを浮かべる零だった。

 

 

零「それだけ聞けてよかった。本当に」

 

 

幸助「……その様子だと、自分の身に何が起きたのか大体把握してるって認識でいいのか?」

 

 

零「流石にな……いや、しっかり呑み込める事が出来たのは、さっき目を覚ましてみっともなく暴れ回ったのが思ったより効いてるってのもあるか……。行き場のない感情を一度全部吐き出しとくってのも、案外大事な事なのかもな……」

 

 

「ははっ……」と、そう言って自嘲気味に笑う零の瞳の奥に生気の光はない。

 

 

何か……人として生きてゆく上で留めなければならない、大切な何かを諦めてしまったと、一目で分かる顔だった。

 

 

そんな彼の心情を慮り、友人として掛けるべき言葉を探し、しかし今の己が通さねばならない"立場"が思考を過ぎり、幸助がその狭間を迷って尻込みしてしまう中、零が不意に震える身体に鞭を打ってベッドから起き上がろうと試みる。

 

 

幸助「今は安静にしとけ。流石に俺でも、無茶して縮まった寿命を延ばすなんて真似は出来ねえんだぞ」

 

 

零「ッ……っ……忠告はありがたいが、寝転けるにはまだ気掛かりな事があってなっ……幸助、頼みがある……」

 

 

幸助「何だ。先に断っとくが、自殺の手伝いなら後回しにしてくれ。死にたくなるのも分かるが、今は猫の手も借りたい状況だ。こんな時に、お前にまで抜けられるのは困る」

 

 

零「そいつはまた、今度頼む……そうじゃなく、てっ……」

 

 

幸助「……?」

 

 

息も絶え絶えに、ベッドに備え付けられた床頭台にどうにか起こした身体を寄りかからせながら立ち上がり、体中の激痛で溢れ出る汗を尻目に、零は怪訝な眼差しを送る幸助に向けて徐に顔を上げた。

 

 

零「連れていって欲しい、ところがある……手を貸してくれ……」

 

 

 

 

 

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