仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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第二十一章/雷牙の世界⑮(前編)

 

 

 

突然の申し出に困惑する幸助の手を借り、どうにか医療ベッドから起き上がる事が出来た零が部屋を後にして向かったのは、機動六課内にある医療区画。

 

 

先の激戦にて傷を負い、シャマルら医療スタッフの治療を受けた怪我人の多くがこの区画内に収容されているらしく、先程幸助から聞かされた話では一命を取り留めた優矢らも此処に搬送されたらしい。

 

 

皆の安否をその目で直接確かめる為、ガラス張りのとある一室に足を運んだ零が目にしたのは、透明な壁の向こうのベッドの上で未だ意識がなく、呼吸マスクを繋げられて心電図の音だけが鳴り響く病室内で眠る、優矢とアズサの二人の姿だった。

 

 

零「………………」

 

 

幸助「一先ず、二人の容態については峠は超えたらしい。現場に駆け付けて手を貸した紲那達の治療が間に合ったのもあるが、それまでに持ちこたえられたのは持ち前の頑丈さが功を奏したみたいだ。人造人間特有の丈夫さと、肉体の潜在能力を強化するアークルに助けられた部分も大きいんだろう」

 

 

零「…………そう、か…………」

 

 

ドンッ……と、幸助から今の二人の状態を聞きながらガラス張りの窓に頭を預け、優矢とアズサの無事を確認出来た喜びと安堵から溜め息を漏らす零。

 

 

幸助はその姿を後目にそれ以上は何も語らず、ただ両腕を組みながら隣に並んでガラス張りの壁に背中を預け佇み、暫し後、二人の様子を見守っていた零が重たい口を開いた。

 

 

零「聞きたいこと……知りたいことは山ほどあるが、一つだけ教えて欲しい……全部、知っていたのか」

 

 

幸助「……何を?なんて、ここでそんな惚けたジョークを飛ばすのは流石に性根が悪過ぎるかね」

 

 

くっ、と喉を鳴らしてわざとらしく戯けた態度を見せる幸助だが、零は意を介さず、ただ真顔のまま彼の返答を促すようにまっすぐ視線を送り続けている。

 

 

その様子から冗談を挟む余地はないと察したのか、幸助も口元の笑みをスっと消し、腕を組んだまま思案する素振りを見せた後、徐に天井を仰ぎ、目を細めた。

 

 

幸助「全てを把握していたかと言われれば、そうでもなかったとしか言いようがない。今回は俺もしてやられた側だ。最初から何もかも知ってたんなら、少なくとも、お前に此処までの業を背負わさせるような真似はさせなかった」

 

 

零「…………」

 

 

幸助「だからといって、事情を知っていながら今まで黙っていた事にも変わりはないし、それについても言い訳するつもりはない。……本当に、すまなかった」

 

 

そう言って、幸助は静かに瞼を伏せながら深い遺憾の念と共に謝罪の言葉を口にした。

 

 

そんな普段の彼を知っていれば想像も付かなかった姿に零も驚きから一瞬目を見開くも、すぐに平静に戻り苦笑いを返した。

 

 

零「意外だったな……流石に事情くらい聴けるとは思っちゃいたが、お前の口から謝罪を聞く日が来ようとは……」

 

 

幸助「実際今回の件を事前に止められたとすれば、適任は俺達ぐらいしかいなかった。それが叶わなかった上に、みすみすお前の父親……八雲の計画が果たされる寸前にそれを崩す事が出来たのは、お前の中にいるリィル・アルテスタの助力があったおかげだ。俺達が出来た事なんてそう多くはない」

 

 

零「…………」

 

 

淡々と、しかしそう語る声の中に八雲に対する忌々しさを滲ませる幸助の話を聞きながら、零は自身の左胸にそっと手を添え、今も確かに鼓動を刻む心臓の音を感じながら沈痛な面持ちを浮かべる。その顔を見て、幸助は壁から背を離して零と向き直った。

 

 

幸助「お前の心臓、再生の因子の元々の主は彼女だった。それが何の因果かお前の手に渡った事で、破壊の因子を抑え込む術と驚異的なまでの治癒能力も手に入れた。これまで因子が暴走する兆しを見せた際、幾度となく危機に瀕したお前の前に彼女の影が見られたのも、その魂が常にお前の傍にあり続けたからだ。今回もその例に漏れなかったが為に……」

 

 

零「……イレイザーなんてモンに変わり果てた俺の存在を繋ぎ止めようとした結果、アイツまでイレイザーにさせてしまった……だろ」

 

 

幸助の言葉の続きを察し、自虐的な笑みを浮かべながらそう返した零は未だ眠る優矢とアズサの方へ目を向けた。

 

 

零「とんだお笑い草だよな。散々悪魔だ破壊者だの云われてきたかと思えば、実際に化け物のなり損ないで、庇ってくれた皆の顔に泥を塗る所か、血の繋がった父親に嵌められて本当に一度世界をぶっ壊したんだぜ?挙げ句、自分の失態に恩人も巻き添えで怪物にさせるときたもんだ。……ロクな死に方はしないって自覚はしてたが、それすらも生易しくなるとは思わなかったな……」

 

 

幸助「…………」

 

 

吐いて止まない自嘲の言葉とは裏腹に、その瞳には悲しみも後悔もない。

 

 

ただ胸中を渦巻くのは、己自身への失望と怒り、そして今すぐにでも自分を殺してしまいたいという強い願望だけ。

 

 

敵に陥れられた形だったとはいえ、あれだけ抑え込もうとしていた力に飲まれて化け物となり、その手で一度はなのは達や雷達をこの世界ごと破壊し、そんな自分達を救う為にリィルを犠牲にさせてしまった。

 

 

到底許せる筈がない。

 

 

最初に意識を取り戻し、頭の中に一度に流れ込んできたそれらの記憶を"理解"した瞬間、真っ先に考え付いた自分の命を絶つ事も叶わず、こうしてまだ生き恥を晒している。

 

 

その現実が、零には耐え難い苦痛だった。しかし、

 

 

幸助「それでも、お前はこうして生かされた」

 

 

零「…………」

 

 

幸助のその言葉が、零の胸に重く伸し掛かる。

 

 

幸助はそんな零の心中を察し、それでも尚、言葉を紡いだ。

 

 

幸助「リィル・アルテスタが魂だけの存在になって尚、イレイザーに堕ちてまでお前を救おうとしたのもその為だったんだろう。……ただ生きていて欲しい。彼女はその願いの為だけに、誰にも、どうにもならない筈だったお前を生かす道を繋ぎ止めた」

 

 

零「……そんな資格……俺に……」

 

 

幸助「お前がどう思うかは勝手だ。だが、彼女はお前にそんな資格なんて、ハナから求めちゃいなかったろうぜ」

 

 

零「っ、お前が何を──!」

 

 

知ったような口を……!と、何もかもを見透かすような言い草に思わず食って掛かろうとする零だったが、普段の飄々とした態度やおちゃらけた雰囲気とは打って変わり、どこまでも真っ直ぐで真剣な幸助の眼差しを見て、その先の言葉を失った。

 

 

幸助「俺は彼女に会った事は一度もない。だからリィル・アルテスタの人となりは分からないが、それでも、彼女がお前にどんな願いを掛けていたのかぐらい何となく想像が付く。……断罪の神としてお前を斬る立場であっても、ただの天満幸助として、そう願っているのは俺も同じだからな」

 

 

零「幸助……」

 

 

幸助のその言葉は、今の零にはあまりに優しすぎる毒だった。

 

 

しかし同時に、その優しさが今自分がどれだけ恵まれているかを実感させられ、零はただ込み上げる熱を堪えながら俯く事しか出来ず、そんな感情の揺らぎを悟らせぬよう徐に顔を逸らす。

 

 

零「その気持ちだけ、有り難く受け取っておく……悪かった……」

 

 

幸助「心底恨まれないだけ上等過ぎると思ってるよ。……俺がお前にしてやれる事なんざ、もう数えるぐらいしかないんだしな……」

 

 

零から目を逸らし、幸助もまた己の胸に開いた深い傷口を抉るようにそう呟く。

 

 

その声に宿る微かな悲哀の感情に気付き、思わず言葉を詰まらせた零だったが、すぐに気を取り直すように頭を振りながら幸助に向き直った。その時……

 

 

「──零?」

 

 

零「……!」

 

 

背後から不意に訝しげな声を掛けられ、零は思わず背後を振り向いた。幸助もまたその声に反応するように同じ方へ向くと……

 

 

姫「──やっぱり君か!良かったっ、無事だったのだな……!」

 

 

零「……木ノ、花……」

 

 

奥の病棟へと続く廊下の向こう側から、安堵の表情と共に白い包帯に何重にも巻かれた片足を引きずりながら零達の下へ駆け寄ってくる黒髪の女性……先の戦いにてアズサ達を庇って重傷を負い、頭から右目に掛けて包帯で覆われ、片腕もギプスで固定された痛ましい姿に変わり果てた姫の姿があった。

 

 

そんな痛々しい姫の姿を見て零が息を呑んで言葉を失う中、姫は零の目と鼻の先にまでどうにか駆け寄ってその頭から足の爪先まで眺め五体満足を確認した後、安堵の溜め息を漏らし、途端にムッとした顔になって零の肩を軽く小突いた。

 

 

姫「まったく君という奴はっ、人に相談も無しに勝手に色々と動いてくれて!こっちも大変だったんだぞ!口酸っぱく言わせてもらうが君はもう少しこう、契約した神に対しての配慮だったり思い遣りをもっと心掛けてだな……!」

 

 

毎回毎回君という奴は性懲りもなくだなー!と、普段と変わらない何時もの調子で、自分達を置いていった上に心配までさせた零を咎めるようにくどくど苦言を口にする姫。

 

 

だが一方で、零は見開いた目と震える瞳でそんな姫を凝視したまま、まるで死人とでも対面したかのように固まってしまっていた。

 

 

姫「……?零?」

 

 

一歩一歩、瞬きもせず食い入るように見つめたまま、零が恐る恐る歩み寄ってくる。

 

 

そのただならぬ雰囲気に姫も訝しげに小首を傾げる中、零は傷だらけの姫の顔に微かに震える手を伸ばすが、ガーゼ越しの頬に触れる寸前に急に思い留まったように手を引っ込め、今にも泣き出してしまいそうな苦悶の表情を姫から隠すように顔を背けながら腕を下ろしてしまう。其処へ、

 

 

「──ここに居たのか、黒月」

 

 

姫の背後からまた別の声が響き、その声に釣られるように三人が一斉に振り向くと、廊下の向こうから二人組の青年……雷と紫苑が肩を並べて歩いて来る姿が見えた。

 

 

零「…………。木ノ花をここまで連れてきたのはお前らか」

 

 

雷「たまたま一緒になっただけだ。二人でお前を探してた所、廊下の真ん中でお前を探して道に迷ってた彼女を見付けてな」

 

 

姫「む……い、いや、別にこの歳で迷子になってた訳ではないんだぞ?ただアレだ、おりものチェックの為にトイレを探してた折に偶然にもこの二人に見付かったというだけであってだな……」

 

 

幸助「迷子には恥じらう癖に其処に恥じらい感じないのはどういう基準なんだよ」

 

 

ポッ、と羞恥で顔を赤くして恥ずかしがる部分が可笑しい姫にジト目の幸助が冷静なツッコミを飛ばす。そのやり取りに紫苑も苦笑いを浮かべつつすぐに気を取り直し、零と向き合うように一歩前へ踏み出た。

 

 

紫苑「話したい事があるんです、貴方と。……内容が内容だから、出来れば人が少ない場所で」

 

 

零「…………」

 

 

神妙な口調と共に突然そう申し出た紫苑に、零は口を閉ざして何も答えず、目線だけ動かして彼の後ろに控える雷を見やる。

 

 

紫苑と同様に真剣な面持ちをしている所から彼もまた自分に用向きがあるらしいのを何となく察し、暫しの沈黙の末、やがて観念したように小さく息を吐き出した零は何処か意を決した様子で静かに顔を上げたのだった。

 

 

 

 

 

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