仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
零「クアットロっ……」
重苦しい空気を引き裂くように、妖しい微笑みと共に突如前触れもなく零達の前に現れたクアットロ。
このタイミングでの思わぬ襲来に対し驚きと動揺、そして敵対心を露わにしつつ警戒する三人の反応を他所に、クアットロは悠々と塔屋の上から飛び降りながら懐から取り出したデザイアメモリのスイッチを押し、予め腰に巻いていたドライバーのバックルにメモリを装填してデザイアドーパントにその姿を変貌させた。
『DESIRE!』
『──ウフフッ。お元気そうで何よりですわ♪こちらの復讐が成されるもより先に壊れてしまっていたらと心配で来てしまいましたが、どうやら杞憂のようで安心しました。そうでなくては面白くありませんしねえ?』
紫苑(っ、この威圧的な感覚……コイツが僕達を罠にハメた八雲の仲間、零さん達が昔捕まえたナンバーズとかっていう一人のクアットロか……!)
まるで品定めするかのようにじっくりと三人の顔を見回し、顎に手を添えながらクツクツと不気味に嗤うデザイアドーパントを睨み、紫苑も雷もそれぞれのバックルを手に臨戦態勢を取る。
そんな中、クアットロが変貌したデザイアドーパントの姿を暫し睨み付けていた零は何処か呆れ混じりに溜息を漏らした。
零「なんだ。コソコソ鼠みたく無様に逃げ回ってたかと思えば、暫く見ない間に随分様変わりしたじゃないか。悪趣味が極まりすぎて其処まで落ちたか?」
『フフッ……ええ、おかげさまで。このデザイアメモリの力、出来れば貴方にもその一端をお見せしたいと思ってましたが、残念ながら今はそんな時間もなさそうなので、それはまたの機会にさせて頂きます♪』
零「……何?」
あからさまな挑発を仕掛ける零の発言に歯牙にもかけず、余裕の態度を崩さないデザイアドーパント。
その悠々とした振る舞いに何か違和感を感じる零の隣で、雷が腰にベルトを巻きながら叫ぶ。
雷「一体どうやって此処まで侵入した?!今は厳戒態勢を敷いて外部からの侵入はそう簡単な筈が……まさか……!」
『えぇ。私の力を目の当たりにした貴方なら分かるでしょう?このメモリの力、デザイアは私の欲望が際限なく溢れれば溢れ出すだけ、私に限界なくこの世の全てをこの身に注がれ、顕現してゆく最強のガイアメモリ!……この力を持ってすれば、貴方達の隊舎に気付かれず侵入するだなんて容易いこと♪』
雷「くっ……」
異形化した両腕を高らかに広げながら、デザイアドーパントはまるで踊るようにその場でクルリと回ってみせてメモリの力をひけらかし、雷もそんなデザイアドーパントの能力を汎用性を失念していた己のふがいなさを悔いるように顔を歪めてしまう中、ドライバーを巻いた紫苑は雷の前に出て不敵に問う。
紫苑「けど、幾らメモリの力があるからって流石に過信が過ぎてるんじゃない?此処には他の世界からの助っ人が揃っているのは勿論、そっちも小坂井さんにいい様にやられたんだろ?彼女から食堂で話を聞かされた時、てっきり君は暫くまともに動けなくなってるもんだと思ってたけど」
零「先輩に?……そりゃ馬鹿な事をしたもんだ。あの人には俺も剣術や話術で一度も勝てた試しがない。お前如きが出しゃばってどうこう出来る人じゃないぞ、アレは」
やれやれと、紫苑の話を聞いて何処か哀れみを含んだ呆れ口調と共に零が肩を竦めてみせる。そんな零の態度にデザイアドーパントも、一瞬だけ不快そうに眉を寄せた。
『ええ。小坂井ハルにしてやられた傷は深く根付いていて、今もまともに眠る事さえ叶わない程の激痛にずっと苛まれておりました。……あの女から受けた屈辱的な仕打ち、今すぐにでも目に物を見せてやらないと気が済まないんですよぉ!』
ドォオオオオンッッ!!!と、ハルへの怒りと苛立ちを露わにデザイアドーパントが勢いよく地団駄を踏み付けた。
たったそれだけの動作で地面が大きく陥没し、巨大なクレーターが作り上げられたその余波で暴風が巻き起こる中、歯を食い縛ってその場に踏み留まった雷と紫苑はそれぞれのバックルにカードを装填しながらデザイアドーパントに挑み掛かった。
雷&紫苑「「変身っ!」」
『CHANGE RAIGA!』
『KAMENRIDE:DECADE!』
―バキィイイッ!!―
重なり響く電子音声と共に雷牙とディケイドに変身すると共に、果敢に飛び掛かった二人の拳がデザイアドーパントの顔と胸部に突き刺さる。
が、二人の攻撃を正面から受け止めたデザイアドーパントはビクともせず、二人の腕を掴んで逆に締め上げてしまう。
雷牙『ぐっ!?』
ディケイド(紫苑)『コイツ……!?』
『ふっふふっ。良い機会ですわ。そもそも此処まで事態がややこしくなったのも、元を辿れば貴方がグズグズしてくれおかげ……その報い、今此処で直接叩き込んであげるわ!』
―ドゴォオオッ!!―
ディケイド(紫苑)『ぐぁああッ!』
雷牙『ごはぁッ!』
零「紫苑っ、雷!くっ……!」
何処までも身勝手な言い分と共に二人を強引に力で捩じ伏せ、デザイアドーパントはディケイド(紫苑)の腹を蹴り付けて吹っ飛ばし、雷牙の片腕を掴んだままその顔を執拗なまでに殴り付けていく。
その光景を前に零も二人に加勢すべくドライバーを腰に巻き付けようとするが、その寸前の所で、自分がこの世界を破壊した時の記憶、そしてイレイザーとして暴虐の限りを尽くした時の姿が何度もフラッシュバックして蘇り、右手に震えが走って動けなくなってしまう。
零(クソッ……何を今更っ、恐怖なんぞっ……!)
仲間の危機を前に根付いたトラウマに何時までも怯える自分の不甲斐なさに怒り、もう片方の手で右手の震えを無理矢理抑え付けようとする零だが、そんな零を他所にデザイアドーパントは散々痛め付けた雷牙を地面にダウンさせた後にその胸を踏み付け、グリグリと雷牙を踏み躙りながら零の方に振り向き、ほくそ笑んだ。
『助太刀したいのでしたら、何時でもどーぞぉ?けれど、貴方の今の力は私にとっても未知数。その手でまた彼らやお仲間の命が破壊された時、今度のように取り返しが付くのかしらぁ?』
零「……っ……」
零の中の罪悪感を抉るように嘲笑うデザイアドーパントに咄嗟に反論が出来ず、言葉を詰まらせてドライバーを手にしたまま固まってしまう零。
其処へ吹っ飛ばされたディケイド(紫苑)がデザイアドーパントに死角から殴り掛かり雷牙の救出を試みるが、デザイアドーパントは見向きせず首を僅かに傾けただけで拳を避けながら二人から身を離し、荒々しく振るった両腕からエネルギーの波動を放出して雷牙とディケイド(紫苑)を纏めて吹き飛ばしてしまった。
雷牙『ガハァッ!』
ディケイド(紫苑)『ぐうぅっ!つ、強いっ……!』
『当然。貴方たち如きの力で勝てるなんて、本気で思いましたかぁ?あの女のせいで幾分か力が弱まりましたが、こうやって貴方達を蹂躙するぐらいワケはないんですよ!』
―ズドォオオオオンッッッ!!!!―
ディケイド(紫苑)『ッ?!ぅぐぁああああっっ!!!』
雷牙『ぐぁああうっっ!!?』
デザイアドーパントが掌の上に収束した赤い光球を軽く投げるような動作で放った瞬間、とてつもない威力のエネルギーの光弾となってディケイド(紫苑)と雷牙に直撃し、二人は胸部から派手に火花を撒き散らしながら吹き飛ばされ、変身が強制解除されて地面を何度も転がり倒れ込んでしまう。
雷「ぐぅうっ!!くっ、そォ……!」
『あらあらぁ〜。無様な姿ですこと♪素直にこちらの取り引きに従っていれば、こんな痛い目に遭わずに済んだのに、ねぇえっ!』
―ドグォオオッ!!―
雷「ごふぅっ……!!」
紫苑「っ……雷、さっ……!」
変身が解けた雷にニヤニヤした笑みを貼り付けたまま歩み寄り、デザイアドーパントは追い討ちを掛けるようにその顔を容姿なく蹴り付ける。
地面に血を撒き散らし、痛みに悶える雷。その姿を見て優越感に浸りながら、デザイアドーパントは地面の上に放り出された雷の腕を更に踏み躙る。
『もう一度私の話に耳を傾けてくれるのでしたら、今一度取り引きして差し上げてもよろしいですよぉ?大人しくサンダーレオンを引き渡すのであれば、私達もこれ以上何もせずこの世界から手を引いてあげますわ♪どうです?悪くない条件でなくて?』
雷「っ、あっ……!ふざ、けるな……誰がっ……!」
『……ふう……反骨精神が無駄に旺盛なのが、仮面ライダーの嫌な所ですねえ……もっと痛め付けてあげないと、自分の立場を理解出来ないのかしらぁ?』
グッ、と、雷の腕を踏み付けるデザイアドーパントの足に更に体重が掛かる。
その感覚から"本気"であると察して背筋が凍るような感覚を一瞬覚えるも、雷はそれでも一切物怖じせず逆にデザイアドーパントを鋭く睨み返し、デザイアドーパントもその顔を見て不気味に口端を吊り上げ、雷の片腕を再起不能にするつもりで更に力を込めようとした、其処へ……
零「──くっそぉおおっ!!」
―バキィイイッッ!!―
『……!』
雷「……!?」
紫苑「零、さん……!」
ヤケクソの籠った雄叫びと共に、三人の戦いを見ている事しか出来ずにいた零が生身のままデザイアドーパントにいきなり殴り掛かった。
雷を痛め付ける事ばかりに意識を向けていたデザイアドーパントは完全に油断し切ってその拳をモロに顔面に受けて身体がぐらつき、バランスを崩して雷から離れた所へ零が更に立て続けに追撃の拳を飛ばすが、不意打ちでもない二度目が通ずる筈もなく、今度はデザイアドーパントに容易く正面から受け止められて逆に捕まれてしまう。
『これは驚きですねぇ。変身もせずに生身のまま挑み掛かってくるだなんて、心が壊れたあまり遂に狂っちゃいましたぁ?』
零「っ、舐めるなよ……!テメェを殴り倒すだけなら、この姿のままでも十分ってだけの話だ……!」
『ふ──っははははっ!面白い冗談を言ってくれますね〜!でしたら試してごらんなさいな、その様で!』
―ドゴォオオッ!!―
零「ぐぁあうっ!」
雷「黒月っ……!」
変身すら出来ない癖に尚もまだ他人を助けようとするその姿を愚かだと笑い飛ばし、デザイアドーパントは零の腕を払い除けながらその顔を裏拳で殴り付けてしまう。
凄まじい腕力で殴り飛ばされた零はそのまま無様に何度も地面を転がってしまうが、口内が切れて血が流れる口元を拭ってそれでも二人を助けるべく立ち上がろうとし、そんな姿を見て、デザイアドーパントは馬鹿馬鹿しげに鼻で笑いながら、右手の指先に赤色に光り輝くエネルギーを収束させていく。
『このお二人も大概だと思っていましたけど、そういえば貴方はそれ以上のお馬鹿さんだったとついつい忘れちゃいそうになりますねぇ。……これ以上横槍を入れられるのも癪ですし、用事が済むまでその片足だけでも奪っておくべきかしら?』
零「っ……」
紫苑「やめろっ、クアットロ!」
雷「くっ……!」
幾ら強い力で叩きのめしても、それでもまだ立ち上がろうとする零のしつこさを思い出して嫌気が差したように言いながら、デザイアドーパントが赤い光を纏った指先をスッと零に向けていく。
その光景を前に雷も紫苑も再度変身しようと試み、零は身体の一部が消し飛ばされる覚悟でもう一度デザイアドーパントに掴みかかろうとタイミングを見計らってその光を正面から見据える中、徐々に輝きが強まるデザイアドーパントの指先から零に向けて光が放たれようとした、寸前、
『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』
『……?!―ズガガガガガガガガガガガァアンッ!!―ぐううぅッ!?』
「「「……!?」」」
不意に何処からともなく響いた電子音声と共に、デザイアドーパントの死角から巨大な斬撃破と無数の魔力球が立て続けに直撃し、デザイアドーパントを派手に吹っ飛ばしたのである。
いきなりの展開に零達も思わず目を白黒させ、今の攻撃が現れた方に驚いて振り返ると、其処には剣を振り下ろした姿勢で佇むマントを靡かせるライダーと、ライドブッカーGモードを構えるライダー……幸助が変身したメモリーとなのはが変身したトランス、更にその後ろには二人と共に駆け付けたのであろうはやてと奈央と光、そしてフェイトの姿もあり、デザイアドーパントが吹き飛んだタイミングを見計らって零達の元へと駆け寄った。
奈央「雷っ!」
光「紫苑君!」
雷「!奈央……!」
紫苑「光!」
トランス『皆、無事!?』
零「……おまえ、ら……」
フェイト「っ……」
駆け付けてくれた仲間達の顔を見て雷や紫苑が驚きと共に安堵を浮かべる中、零はトランスやはやて、フェイトの顔を目にした途端、悲痛と怯え、罪悪感の感情が入り交じったような瞳を激しく震わせながら三人から気まずげに顔を逸らしてしまい、そんな零の反応を見てフェイトも苦しく締め付ける胸を抑えるも、光の肩を借りてどうにか身を起こした紫苑がそんな一同に向けて口を開く。
紫苑「皆さん、どうして此処に……?」
はやて「どうしてやあらへんよ!零君の様子見ようかと思うて病室に行ったらいつの間にかもぬけの殻やったし!幸助さんと姫さんから此処におるって話聞いて駆け付けてみたら、どういう状況なんコレ!?」
何がなんだ分からないと言った様子で、屋上に駆け付けた先に何故か此処にいるクアットロが姿を変えたデザイアドーパントと傷だらけの零達の姿を交互に見て状況を飲み込めず、困惑を露わにするはやて。
だがそんな彼女の疑問に答える暇もなく、メモリーとトランスの攻撃で吹き飛んだデザイアドーパントがふらつきながらも身を起こして立ち直り、トランスはすぐに皆を守る様に前に出てライドブッカーを構え、メモリーも無言のままトランスの隣に並び立っていく。
『っ、くっ……高町なのはにっ、天満幸助……フフッ、こうして顔を合わせるのは、どちらも魔界城の世界以来だったかしらぁ?相も変わらず、其処の最低な破壊者とお涙頂戴のお仲間ごっこを続けているみたいで何より。スッッゴく吐き気がしますねぇ〜♪』
トランス『クアットロ……!』
『やぁあん!こぉわぁ〜い〜♪そんな怖い顔していると、大事なだ〜いじな陛下が怖がっちゃいますよぉ?えぇ〜ん!ママのお顔が怖〜いっ!て♪』
トランス『あなたがヴィヴィオの事を気安く語らないで!』
メモリー『落ち着け。奴は俺達の横槍に動揺してイニシアチブを取り返そうと喚いてるだけだ。一々聞く耳なんて持ってたら、奴がまた調子に乗って鬱陶しくなるだけだぞ』
わざとらしく大袈裟なポーズを取るデザイアドーパントの挑発を一蹴しつつ、メモリーはトランスを宥めながらメモリアルブレイドの切っ先を静かに構えていく。
その冷淡な反応にデザイアドーパントも興醒めしたかのように無表情になり、不躾さを隠そうともしない口調でやれやれと首を横に振った。
『その出しゃばりな性分、断罪の神になってもお変わりがないみたいですねぇ。この世の全てを俯瞰して見るべき立場でありながらもう一方にばかり肩入れするだなんて、断罪者としての肩書きが泣いちゃいますよ〜?』
メモリー『テメェのその自惚れ屋な性分も変わりねえようだがな。俺がわざわざ金魚の糞の為に出張ると思うか?どうせ八雲の事だ。お前を顎で使って何か企んでるってのは分かり切ってる。さっさと洗いざらい吐いて得意げに失せろよ。好きなんだろ?そういう芸が』
『…………時の神の時代からそうでしたが、人の神経を逆撫でするのが本当にお上手ですこと……ですが、フフッ、良いでしょう』
クアットロ自身に微塵も興味が無さそうな口振りのメモリーに苛つきながらも、デザイアドーパントは意に介さず、マントを大きく翻して自身の背後に灰色のオーロラを出現させていく。
『でしたらその期待にお応えして差し上げますわ。これは言わばウォーミングアップ。私からの復讐はこんなものではないと、これから嫌というほど理解らせて差し上げましょう!アハハハ!』
雷「っ!待て!」
雷が呼び止める間もなく、デザイアドーパントは背後から迫った灰色のオーロラに呑まれそのまま何処かへと姿を消してしまう。
後には何もなく、目の前でみすみす逃亡を許してしまった事に雷が悔しげに俯く中、トランスとメモリーは変身を解除し、今のデザイアドーパントの口振りに困惑する他の皆と顔を見合わせた。
奈央「今の、一体どういう意味なんだろ……」
紫苑「まだ何かやろうとしてる、って事は確かだろうね……でなきゃわざわざこんな風にちょっかい出して来ないだろうし……痛っ……」
幸助「考察も結構だが、今の内に傷の治療をしてた方がいい。連中がまたいつ仕掛けてくるか分からねぇからな」
はやて「ですね。ほら零君、立てる?病室まで肩貸し──」
と、一度治療の為に病院に戻るべくはやてが零を支え起こそうと手を伸ばしかけるが、その手が途中で止まってしまう。
零がはやての手を触れる寸前、まるで怯えて逃げるように身動ぎ、その視線を拒むように顔を背けていたからだ。
はやて「零君……」
零「…………すま、ない…………」
はやて「…………。それは、何に対しての謝罪やの?」
出来るだけ今の零を刺激せぬよう、いつもの調子を崩さないように心掛けてはやてはそう問い掛けるが、零は尚も身体を小刻みに震わせながら更に深く俯いてしまう。
いつもの彼らしくもない、そんな零の変わり果てた姿をはやてが悲しげに見つめる中、皆から一歩引いた場所から様子を見守っていたフェイトが恐る恐る歩み寄り、零に声を掛けた。
フェイト「零……あ、の……」
零「っ…………」
フェイトに声を掛けられた零は一瞬息を詰まらせるが、それでも決して彼女と目を合わせようとはせず、零の反応を目の当たりにしてフェイトもまた何も言えずに顔を伏せてしまう。
そんな二人を見てはやてが歯痒さに顔を曇らせる中、今まで口を閉ざして様子を見守っていたなのはが目を伏せて深く息を吐き出し、何か意を決したように顔を上げてズンズンズンッと零の前に歩み寄ると、膝を折って零の両頬をガシッ!と両手で掴み、その顔を無理矢理上げさせ目と目を合わせた。
フェイト「え、ええ!?」
はやて「なのはちゃん!?」
零「ほ、ほまっ……!?」
なのは「しっかりして!ちゃんと見て!」
零「……っ……」
なのはの突然の行動に零が動揺する中、そんな反応すら許さんと言わんばかりになのはは自分の方を強引に向かせ、その視線を真っ直ぐに射抜く。
そのあまりの勢いに圧されて他の皆も困惑する中で、なのははしっかりとした声音で続け様に言葉を紡いだ。
なのは「私達はちゃんと此処にいる、触れられる!誰も消えてなんかないし、この世界だってまだ壊されてない!なのにこのままじゃ、クアットロ達に滅茶苦茶にされて今度こそ大変な事になるかもしれないんだよ!」
零「……なの、は……」
なのは「言いたい事は山程あるけど、お話もお説教も取りあえず全部後回し!今は皆で協力してこの世界を守らないとなんだから!分かった!?ハイ!分かったら立つ!」
真っ直ぐ目を見据えたまま有無も言わさぬ口調で捲し立て、呆気に取られる零の両手を掴んで引っ張り半ば強引に立ち上がらせるなのはの気迫に、傍で見ていたフェイトとはやても毒気が抜かれたようにポカンとした顔を浮かべている。
そんな二人と同様なのはの剣幕にたじろいでいた零だったが、掴まれた両手から伝わってくる確かな熱を感じ取った瞬間、僅かに目を見開いた。
零(いき、てる……本当に……)
生も何もない、あの冷たさしかなかった黒い世界から目覚めてから久方振りに感じた、誰かの生の温もり。
身勝手な想いからこの手で一度は壊し、もう二度と取り返しが付かないと思っていた何ものにも変え難い温かな感覚。
それが今、確かに此処にあるのだと漸く実感を得て、なのはに触れた自身の手を見下ろし、胸を締め付けられる想いと共に唇を微かに震わせてしまう。
なのは「……?なに?まだあれこれ悩んでるなら喝を入れてあげようか?こう、背中をバシッ!て」
零「…………要らん。こういう時のお前は加減を知らんし、腫れ上がった背中のせいで何日も寝込むことになったらたまったもんじゃない……」
なのは「なぁっ……そ、其処まで酷くはならないから!人聞きの悪い言い方はやめてよね!?」
目を伏せ、顔を背けながら憎まれ口を返す零になのはもカチンッとなり、思わず食って掛かるように言い返す。
そんな二人のやり取りに呆気に取られていたフェイトとはやても、少しだけいつもの調子に戻ってきた零を見て微かに微笑み、その吉兆に雷や紫苑、幸助も僅かながらの安堵を覚えるが……
光「──ぇ……あれ、なに……?」
紫苑「……え?」
紫苑を支える光がふと遠くを見つめ、何か信じられない物を目にしたかのように呆けた呟きをこぼした。
そんな彼女のただならぬ様子から何事かと紫苑や零達が光の視線の先を追っていくと、其処には機動六課の建物から遠く離れた市街地の空に、つい先程まで見られなかった筈の巨大な灰色のオーロラが浮かび上がる異様な光景が広がっていた。
なのは「あれって……!」
はやて「まさか、滅びの現象なんか!?」
幸助「いや、違う……まさか……」
これまで辿ってきた世界で幾度となく目にしてきた光景から、滅びの現象を連想してどよめくなのは達だが、幸助はその予想を否定し、何か心当たりがあるように険しい目付きで灰色のオーロラを睨み付ける。
その間にも不気味に流動するオーロラに変化が起こり、灰色のオーロラの向こうから酷く重たい轟音と共に何かが徐々に姿を現し、クラナガンの上空に"ソレ"は突如現れた。
雷「なんだ…アレは……?!」
奈央「巨大な、時計っ……?」
黒銀色の巨大な球体の正面に、巨大なデジタル表記のタイマーが表示されたモニターが取り付けられた空に浮かぶ建造物。
まるでデジタル時計のようにも思える外見のその建造物を見て零達が呆気に取られる中、時計の正面に備わった『00:00:00』の表示が映ったモニターに何故かノイズが走り、画面が激しく切り替わった末に『08:00:00』のタイマー表示がされ、何かのカウントダウンを静かに開始したのであった───。