仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―機動六課医療区画・優矢とアズサの病室―
姫「──よし、一先ずはこれで完治って所だな」
一方同じ頃。幸助からの治療を受けて全快になった姫は優矢とアズサの病室に訪れ、桜ノ神としての自身の力を用い、二人の怪我の傷の完治を試みていた。
結果は無事成功に終わり、治癒術を受ける中で次第に意識を取り戻した優矢とアズサはゆっくりと身を起こしてベッドの上に腰掛けると、自分の身体の調子を確かめるように腕を回したり、体の至る所に触れてみたりをしてみてもう何処にも異常がないのを確認し、優矢がビックリした様子を浮かべる。
優矢「スッゲェ〜……零が怪我の治療されてるとこは散々見てきたけど、実際に自分が受けるとこんな感じなんだなあ……」
アズサ「……ありがとうヒメ。やっぱりヒメが一緒に旅に同行してくれて良かったって、改めて思った……」
姫「ふふーん。そんなに褒めたって今すぐ出せるのは嬉ションぐらいしかないぞぉ。いる?」
優矢「いらねえよっ!病み上がりすぐに仲間の粗相の後始末なんかしたくないからっ!」
もう反射的に慣れ切ったツッコミを返す優矢。その様子から、彼が本当に完全復活したのだと改めて実感を得た姫は微笑ましげに安堵の笑みを返す。
そしてアズサも一通りの自分の身体の調子を確かめ、次に自身の腹部辺りにソッと触れて何かを確かめるように集中する素振りを見せるが、すぐにその表情は悲しげなものになり、首を静かに横に振った。
アズサ「駄目……体の方は治ったけど、壊されたベルトの自己修復はまだ時間が掛かってるみたい……」
姫「シュロウガとアンジュルグのベルトか……確か断罪の神の話では、君の邪魔をしたのは零の実父の仕業だったと訊く。あの神々と引けを取らない難敵からの襲撃となれば、こうして君が生きてられるのは寧ろ奇跡的といっていい。その代償にベルトが壊れたぐらい安いものさ」
アズサ「……でも、これじゃ零や皆の助けになれない……ただでさえ私が原因で、零と雷が仲違いするきっかけを作ってしまったのに……何も出来ないなんて……」
姫「……アズサ……」
悔しげに膝の上の服の布を握り締め、自分の不甲斐なさを呪うアズサに何か慰めの言葉を掛けようとするも、姫自身も今回の戦いで大した手助けも出来ず、それどころか零が窮地に立たされていた際には何もしてあげられる事が出来なかった。
少なくとも、今の自分達にとっての最大戦力であるアマテラスフォームという切り札を切る事が出来たなら零君をあんな目に遭わせる事はなかった筈だと、今のアズサの感情に引っ張られるように次第に落ち込みを見せて暗い雰囲気を漂われてしまう姫だが、そんな二人の顔を交互に見比べた後、優矢がバッ!とベッドの上から勢いよく起き上がった。
優矢「ほらほら、暗い雰囲気になるなって!二人までそんな落ち込んでたら、それこそ余計に零に負担と心配掛けちゃうぞ?」
アズサ「……優矢」
姫「……やれやれ……神が人の子に励まされてしまうとはな……いよいよ私もヤキが回ってきたかなぁ……」
優矢「……えーと……それ、もしかして遠回しに俺のこと皮肉ってたりとかするっ?」
姫「そんな意図はないから安心してくれ。寧ろ、私もまだまだ未熟なのだと痛感して己を鑑みた所さ」
何処か恐る恐るとした優矢に苦笑いを返してそう言うと、姫は腰に両手を当てて深く溜め息を吐き、優矢とアズサの顔を改めて見やった。
姫「それで……二人には治療しながらで、これまで起きた出来事を簡単に一通り説明した訳だが……どうする?これから君達は」
優矢「?どうする、って……」
質問の意図が読み取れず、優矢が訝しげな顔で聞き返す。同様にアズサも僅かに眉を寄せる中、姫は自分の体を抱き締めるように両腕を組んで深刻な表情と共に言葉を続けていく。
姫「零の事情を知った今、彼と共に旅を続けるか否か……今ならまだ、君達にはそれを選ぶ選択肢があると私は思ってる。また彼の力が暴走し、もう一度の世界の破壊が起こされて巻き添えを喰らうことになってしまう前に、私の力で優矢を元の世界へ帰すなり、アズサを私の世界の神社で保護してしまう手もある」
優矢「…………。それ、俺達に旅を降りろ、ってこと?」
姫「あくまで私なりの忠告ってだけさ。……正直に言って、私も彼の持つ力が此処までのモノだとは予測し切れていなかった。桜ノ神として……彼の契約者であれば、傍にいる限り、このような事態起きる前にどうにか阻止出来ただろうと……私自身、己の力を過信し過ぎていた所があった」
アズサ「ヒメ……」
二人から目線を逸らし、自分の無力さを責めるように淡々と語る姫の顔を見て、アズサの瞳に悲しみの色が差す。
一方、優矢は姫からの忠告に対して考え込む素振りを見せた後、彼女に向けて恐る恐る口を開いた。
優矢「姫さんは、さ……初めから知ってたのか?アイツがその、破壊の因子?とかってのを抱え込んで、悩んでた事とか……」
姫「……フォーティンブラスとの決戦の際、契約を交わした彼の記憶を私は垣間見てる。だから一通りの事情を知ってはいた」
優矢「っ、だったらなんで今まで……!」
姫「だからこそ、私の口からは言えなかったんだ。……彼があの力の事を君達に知られるのを、何よりも嫌っていたのを知ってた……だからずっと待ったんだ。彼自身の口から、ただの黒月零という人間として、私達に全てを話してくれる、その時を……」
優矢「ッ……」
申し訳なさそうに項垂れる姫。そんな彼女の言い分にも一理を覚えたのか、優矢もそれ以上何も言えなくなって押し黙ってしまい、気まずげに首筋を抑えながら目を伏せた。
優矢「すんません、ついカッとなって……そッスよね……自分が人と違うもんになるとか、親しかった人からの見る目が変わるかもって……それだけでも誰かに言い辛い事の筈なのに……そんな当たり前の事、いつの間にか忘れちまってたんだな、俺……」
姫「……優矢……」
自嘲気味にそう語る優矢の脳裏を過ぎるのは、嘗て元の世界で自分がクウガに変身出来るようになったばかりの頃の記憶。
初めて変身し、未確認と戦った時はとにかく無我夢中だったし、ディケイド……零と戦う日がいずれ訪れる事を鳴滝から告げられた時には、半信半疑ながらも同時に使命感のようなものを覚え、年相応に特別な存在になれたような感覚に高揚感を覚えたりした事もあった。
……ただそれから、こなた達と共に普通の高校生としての日常を過ごす中で、次第に自分が普通の人間ではなくなってしまったのだという自覚も芽生え始め、自分がクウガである事を彼女達に隠し続ける日々に、時折苦悩を覚えた時もあった。
そんな自分には綾瀬、やまとといった理解者がいてくれたし、彼女達の存在にずっと支えれてきた。しかし零には……
優矢「…………。姫さん。俺、旅を降りる気はないよ。今更」
姫「…………」
優矢「俺さ。アイツには何度も助けられてきたし、支えられてきたんだ。俺の世界でだけじゃなくて、アギトの世界に、GEAR電童の世界、他でも沢山……なのに、借りを作ってばっかで此処で怖くておめおめ帰るとか、何かカッコ付かないじゃないですかっ」
タハハッ、と後頭部を掻きながら照れくさそうに笑うと、優矢は姫の顔を改めて見つめ、真摯な表情と共に迷いなく告げる。
優矢「こんなデカすぎる事、俺一人が手助けしたところで何も変わらないかもしれない。……でも旅の仲間として、アイツが少しでも笑顔になれるんなら、俺は俺なりの全力でアイツと一緒に戦いますよ。だって俺、クウガですから!」
姫「……ふふっ。後ろ向きなのか前向きなのか……だが、君も強くなったんだな、優矢……」
やや呆れ気味に、しかし何処となく嬉しさを滲ませた微笑みを向ける姫に、優矢もニッと人懐っこく笑いながらサムズアップを返す。
そしてそんな二人のやり取りを傍で黙って聞いていたアズサも、静かに顔を上げて姫の顔を見上げていく。
アズサ「ヒメ……私も、優矢と同じ気持ちだよ……」
姫「アズサ……」
姫と優矢の目がアズサに向く。そんな二人の眼差しを受け止めながら、アズサは自分の胸に手を添えていく。
アズサ「私が今此処にいられるのは、零のおかげ……もっと言えば、零が自分を顧みずに、破壊の因子の力を使ってくれたからだった……その決意を、優しさを嘲笑って利用しようとする人達を、私は絶対に赦せない……だから零を守る為に、私は戦い続ける。今までも、これからも……その気持ちは変わらないよ。ずっと」
優矢「……ハハッ。予想通りっていうか何と言うか、なんか此処までいつも通りだと逆に安心してくるっていうか……ほんっと、アズサは零一筋だよなぁ」
アズサ「ふふ。……だから、ヒメ……私、どうしてもこの戦いで零を、皆を手伝いたいの……その為にも私のベルト、ヒメの力で直す事って出来ない……?」
姫「……直すこと事態は不可能ではないな。さっきも君の治療を行いながら、同時進行でベルトの修復を試みようとしたのだが、両方共、損傷の具合がバラバラだから、本腰を入れて直すとなると私もかなりの集中を要しないといけないのが難点でな……」
優矢「?そんな難しいんですか?」
姫「うむ……今のアズサの状態を強いて例えると、彼女の体の中で二つのジグソーパズルのパーツがバラバラに散っているようなモノだ。しかもベルトの自己修復が進んでる中で私が外から手を出すと、返ってややこしくなり兼ねない。砕けたパーツを一つ一つ見分けるのにもかなりの集中力と時間が必要になるのだが、外のあの大型時計の残り時間を考えるとそんな余裕も……」
ドゥームズクロックの残り時間を考えると、アズサのベルトを完全に直すのにもかなりのギリギリになる。
そうなるとやはり、アズサは此処に置いていくしかないかもしれないと考える姫の心境を悟ったのか、アズサも気落ちした面持ちで俯いてしまうが、その時……
―……では、私が新しい力をお前に授けよう―
姫&優矢「「……!?」」
アズサ「この……声……」
病室内に、不意に響き渡った男の声。
直後、三人の目の前に突然灰色のオーロラが出現し、其処からチューリップハットとコートの服装に眼鏡を掛けた男……零達の前に幾度となく現れ、アズサとルミナを生み出した鳴滝が姿を現したのだった。
優矢「アンタは……!」
姫「……鳴滝君か。今更何の用だい?こっちは今立て込んでて、君の忠告に耳を傾けてる余裕はないのだけれど?」
鳴滝「知っているとも。……ディケイドによって、この世界は一度破壊されてしまった……だからその暴挙を二度と起こさせない為にも、β、私からお前への贈り物を用意させてもらった」
姫「……贈り物?」
警戒と怪訝の眼差しを向ける姫の問い掛けに対し、鳴滝は無言のまま懐から一つのドライバーを取り出した。
その外見は飛電ゼロワンドライバーの上に、仮面ライダーバッファのプロージョンレイジバックルに酷似した両手の爪のようなパーツが付属されてるように見える形状をした、禍々しいダークブルーのバックル。
見るからに妖しさしか感じられないそのドライバーを見て姫も優矢も一層警戒と不信感を強める中、鳴滝は構わず話を続けていく。
鳴滝「名を"ヴァイザードライバー"……βのこれまでの旅での戦闘データを元に、ディケイドを止める為に私が新たに開発したベルトだ。この力……"仮面ライダーヴァイサーガ"の力で、お前に奴を止めて欲しい。β」
アズサ「……ヴァイサーガ……」
優矢「い、いきなり出てきて、藪から棒に何言ってんだよアンタ!大体どの面下げて言ってんだ!?零を殺す為に、アズサを犠牲にしようとしてた癖に今更出てきて!!」
鳴滝「……そうせざるを得なかった程、奴の力が危険である事を君達も身をもって知った筈だ……リィル・アルテスタの尽力がなければ、こうして君達と言葉を交わす事さえ、二度とは叶わなかっただろう」
優矢「っ……それは……!だからって!」
深刻げに告げる鳴滝に何か反論しようとするも、喉につっかえたように言葉が咄嗟に出てこず言い淀んでしまう優矢だが、それでも何かを言い返そうとした彼を、姫が横から片手で制する。
優矢「姫さんっ……?」
姫「君の言葉の全てを否定するつもりはない。実際のところ、君の警告を無視しておきながら彼の暴走を止める事が出来ず、要らぬ大罪を背負わせて挙句、イレイザーになんてさせてしまったのは、確かに仲間の私達の責任ではあるからな」
鳴滝「……イレイザーか……確かにあれらの存在も危険ではあるが、しかしそれさえも、ディケイドにとってはただの
アズサ「……え……?」
忌々しげに顔を歪める鳴滝に、アズサが思わず呆けた声音を返す。
鳴滝はそんなアズサの顔と、姫と優矢の顔を見回しながら更に言葉を続けていく。
鳴滝「奴がイレイザーになったのは確かに脅威ではある。だが奴にとって、その力さえただの一端でしかなく、いずれ世界の全てを滅ぼす……!そうなった時、最早誰にも奴を止める事は叶わなくなってしまう……。神々から奴の抑止力として派遣された君も、その危険性は分かっている筈だ、桜ノ神……!」
優矢「……は?」
アズサ「ヒメが……零の抑止力……?」
姫「…………」
鳴滝の口から告げられた衝撃的な事実に、優矢もアズサも我が耳を疑い、思わず姫の方に目を見遣る。
当の本人である姫はそんな二人の視線を瞼を伏せて受け止め、一瞬の間の後、何処か意を決したように薄く息を吐き、優矢とアズサの方に振り返りながら苦笑を浮かべた。
姫「彼の言う通りさ。……私は彼と契約し、その旅に同行すると決めた。ただその裏でちょっとしたゴタゴタがあってね。私の世界の神界……上役達の指示で、いざという時、彼が道を誤った際には、この手で彼を討つようにと命じられているんだ」
優矢「んな……」
姫が零や自分達との旅の同行を申し出たのには、彼の契約者として、いずれ零を討つという目的があっての事だった。
あまりにも突然に聞かされた姫が抱えていた秘密に優矢だけでなく、アズサも大きく目を見開いて流石に驚きを隠せない中、姫も二人のその反応に複雑げな笑みを浮かべて気まずげに目線を逸らしてしまう中、鳴滝は姫に向け改めて口を開く。
鳴滝「幻魔神の侵攻を止められなかった責を全て背負わされ、神界からも永久に追放された君に課せられた最後の使命……今でこそ、君はその使命を果たす時ではないのかね……?」
姫「………………」
真剣な口調で、零を討つ役目を今こそ実行に移すべきだと促す鳴滝に、姫は何も答えない。
そんな彼女の次の言葉を待つ様に、優矢もアズサも声を発せられず緊張から固唾を呑んで見守る中、姫は不意に天井を仰いで溜め息を吐き出した後、鳴滝の方に振り返り、彼の手からダークブルーのドライバー……ヴァイザードライバーを半ば強引に奪った。
鳴滝「!何を……!」
姫「ふーむ……ドライバーにこれといった細工は無し、か……嘗てアズサを操って零を殺そうとした前科もある事だから何かあるやもと思ったが、以前のように非道な手段を取る気はないとは意外だった」
まじまじと、ヴァイザードライバーを手に取って良からぬ仕掛けが施されていないかしっかりと確認して眺める姫。
そんな彼女の突拍子もない言動に鳴滝も呆気に取られる中、姫は鳴滝に顔を向け、その顔に不敵な笑みを浮かべた。
姫「君に言われるまでもないよ。もし本当に彼が道を誤った時、私は迷いなく彼を討つ。……それが彼と同じ道を歩むと決めた、私自身の矜恃であると自負しているからね」
鳴滝「っ、ならば何故……」
姫「無論──彼がまだ
鳴滝「……な……」
堂々と、自信に満ちた一切の淀みのない姫のその言葉に鳴滝も思わず気圧されて言葉を失い、絶句してしまう。
そんな男に、姫は穏やかな顔付きで言葉を続けていく。
姫「私は不甲斐ない神だ。上役達からもその烙印を押され、神の世界からも追放された身……ただそれでも、私達の世界を、数多の世界をその身を粉にしてまで救ってきた彼の善性を、私は最後の最後のその瞬間まで信じ、見守りたいんだ。……だからどうか、少しでもいい。彼の歩む旅のその先を、君も信じてあげてはくれないかい?」
鳴滝「っ……!」
切なげに眉を潜め、どうか零を信じてやって欲しいと訴え掛ける姫の目を、鳴滝は眉間に皺を寄せて睨み返す。
すると、そんな二人のやり取りを無言で見守っていたアズサがゆっくりとベッドから腰を上げて立ち上がり、姫の傍にまで近付くと、彼女の手からヴァイザードライバーを徐に手に取っていく。
優矢「あ、アズサ……!?」
アズサ「……私も、私を救ってくれた零を、零の仲間たちを守りたい……だけどもし、零が自分の手で守りたいモノを傷付ける時が来た、その時は……」
ヴァイザードライバーを眺め、バックルを掴む手に静かに力を込めたアズサは、徐に顔を上げ、鳴滝の目をまっすぐに見つめ、断言する。
アズサ「その時は……私が零を止めるよ……もうこれ以上、優し過ぎるあの人の心が傷付く事がないように……貴方がくれた、この力を使ってでも」
姫「アズサ……」
鳴滝「…………………………」
迷いのない、新たな決意表明を口にするアズサの力強い意志を感じ取ったのか、鳴滝は彼女に何も言い返せず、暫しの視線の交錯の末に帽子で顔を隠すように俯くと、再び背後に灰色のオーロラを出現させ、踵を返してそのままオーロラを潜ろうと歩み出す。だが……
アズサ「まって」
鳴滝「……?」
そんな彼の背を、アズサが急に呼び止める。
思わぬ声掛けに鳴滝もふと足を止めて振り返ると、アズサは僅かな逡巡の末、鳴滝の目を見つめて口を開いた。
アズサ「光たちの世界で、私が貴方から受けた仕打ち……正直、まだ複雑で……多分、私は貴方を許せていないって、思ってると思う……けれど、これだけは言いたかったんだ……ずっと」
両手に握り締めたヴァイザードライバーを静かに胸に抱き、アズサは切なげに、だが何処か、その瞳の奥に情味を帯びて小さく頷く。
アズサ「──ありがとう……貴方が……貴方がこの世に私達を作ってくれたから、私は零と、ヒメと優矢になのはたち、光たち……沢山の人たちと出逢えて、仲間になって……今私、自分の人生が凄く幸せだって、そう思ってる……」
鳴滝「っ……!!?」
アズサ「だから……ありがとう……私を生んでくれて……私や、ルミナ姉さんに命を吹き込んでくれて……ありがとう」
鳴滝「っっ…………!!!くっ……!!!!」
何も含みなどない。ただただ、自分を生み出してくれた鳴滝に対して純粋に感謝の言葉を伝えるアズサを見て、鳴滝は複雑げに歪んだ顔を背け、まるで彼女から逃げ出すかのように灰色のオーロラの向こうへと渡り、そのままオーロラと共に何処かへと消え去ってしまった。
アズサ「…………私、もしかして何か、嫌な気持ちにさせちゃった……のかな……」
姫「……いいや。そんな事はないさ、アズサ」
優矢「ああっ。ほんっと、もう何かスゲーよ、アズサ!」
アズサ「え?…………?」
困惑するアズサの両脇に、姫が優しげに寄り添い、優矢が尊敬の眼差しと共に彼女の背中をポンっと柔らかく叩く。
対するアズサは二人からの賛辞の意図が読めずに更に困惑を深め、姫と優矢の顔を交互に見て頭の上に疑問符を浮かべてしまうが、其処へ……
「───やれやれ……彼らと長く一緒に居過ぎたせいで、甘さが伝染してしまったようだ。とてもじゃないが見てられないよ」
姫&優矢&アズサ「「「……?!」」」
そんな三人の背後から再び、しかし鳴滝の声とはまた別の男が届いた。
慌てて振り返れば、其処にはいつの間に侵入したのか、壁に背を預け、右手には銀色のジュラルミンケースを手にした薄黒い緑色のジャケットを羽織った黒髪の青年……海道大輝が悠々と佇む姿があった。
優矢「海道さん!?あ、あんたいつの間に……!!?」
大輝「鳴滝さんがいなくなったタイミングに、コソッとね。ま、なーんか込み入った話をしてたみたいだったし、俺まで出ていったらややこしくなるだろうからって暫く様子見してたのさ。感謝したまえよ?」
姫「……あいっかわらずの恩着せがましさだなぁ……いい加減そういう所を直さないと、いつまで経っても零との犬猿の仲は直らないぞっ?」
大輝「そりゃあいい。なら、俺はこのままのスタイルを維持させてもらうよ」
「彼の嫌がる顔は大層見物だからねえ」と、相変わらず意地の悪い発言をかます大輝に優矢と姫もあからさまに嫌そうな顔を隠そうともしないが、アズサは一人、大輝が手にしてるケースの存在に気付いて小首を傾げた。
アズサ「大輝……それ何……?また新しいお宝?」
大輝「ん?流石に目敏いねぇ、アズサ。まあお宝といえばお宝ではあるけど、コレと似たような奴は大量に手に入った事だし、せっかくだから姫さんに餞別を送ろうと思ってね」
姫「……は?わ、私に?」
大輝から意外な名指しを受け、思わず自分の顔を指さして間の抜けた声で返してしまう姫だが、そんなリアクションも他所に、大輝は適当なベッドの上にジュラルミンケースを置き、ケースを開き、三人にその中身を見せていく。
優矢「え……これ……?」
姫「……刃の付いたバックルに……錠前……?」
そう。ジュラルミンケースの中に収められていたのは、右側のサイドバックルに刀のようなアタッチメント、左側のサイドバックルには黒いプレートが備え付けられた黒のバックル。
そしてそのバックルと一緒に、桃、ライム、スターフルーツ、そして梅の花がカバーの中央に描かれた南京錠型のアイテムが複数収納されていたのだ。
始めて目にするそのバックルとアイテムを前に姫と優矢が目を白黒させる中、大輝はズボンのポッケに両手を突っ込み、ゆらゆらと体を揺らしながら部屋の中を歩き回っていく。
大輝「姫さん。貴方はアズサと同様、先の戦いでベルトを破壊させられた筈だ。まっ、貴方の力ならまた再生成出来るだろうけど、それでまた連中に挑んだ所でどうせ返り討ちに遭うのは目に見えている。……そこで、俺から貴方にそのドライバーをプレゼントしにきたって訳さ」
姫「いや……プレゼントって……」
優矢「……どーゆー風の吹き回しだよ?アンタが何の前触れもなしにこんな大層な贈り物をくれるだなんて……さては、何か俺達に見返りを頼もうって魂胆じゃないだろうなあっ?」
大輝「え?ハッハッハッ!何を言い出すかと思えば馬鹿な事を言ってくれるじゃないかー。見返りもなしに俺が善意で君達に親切なんかする筈ないだろ?」
優矢「清々しいほど言い繕いもしねえなぁこの人ォおおっ!?いや知ってたけどねっ?!」
まるでこっちが馬鹿を言ったかのように爆笑する大輝にキレてツッコム優矢。そんな二人を他所に、ジッとジュラルミンケースの中のバックルを見つめていた姫はゆっくりと手を伸ばし、バックルを手に取ってその外観を先程のヴァイザードライバーの時のようにじっくり眺めていく。
姫「こっちも特には異常はなし、と。……先程見返りがどうとか言ったな、大輝。コレを受け取った私に、君は何を要求する気なんだ?」
大輝「フッ、決まってるでしょ?
……今度また零が暴走した時に、彼にトドメを刺して欲しいってだけですよ」
優矢&アズサ「「……っ!」」
先程の鳴滝の時と同様、大輝が要求したのは姫にいざという時、零の命を奪って欲しいというモノだった。
今までずっとディケイドを敵視してきた鳴滝はともかく、良好な関係でなかったとはいえども日常で共に多く過ごしてきた零に対し、いつものスカした顔でそんな発言をする大輝に優矢も頭に血が上り、荒々しく飛び出して大輝の胸ぐらに掴みかかった。
アズサ「優矢!」
優矢「次から次に……!なんだってんだよアンタ等は!!あの人はともかくっ、少なくとも俺達と一緒に過ごしてきたアンタまで零に消えて欲しいだなんて言うのかよっ?!」
大輝「……ふう……アズサだけならまだしも、君まで彼等の甘さに大分毒されてしまったようだねえ?」
優矢「何っ?!―ドゴォッ!―ぐぉおっ!?ぅ、ぐっ……!」
やれやれと肩を竦める大輝に苛立って優矢が更に詰め寄ろうした瞬間、腹部に強烈な痛みが衝撃と共に打ち込まれた。
優矢が目線を下げて見れば、大輝の拳が優矢の鳩尾に突き刺さっており、あまりの痛みに腹を抑えて崩れ落ちる優矢にアズサが慌てて傍にまで駆け寄って体を支えると、大輝はそんな二人を他所に不機嫌そうな姫の隣まで歩み寄っていく。
姫「あんまり彼等を虐めないでやってくれないか。せっかく病み上がりから立ち直ったばかりなんだ。これ以上手を出せば、今度は私の拳が飛ぶぞ」
大輝「それは恐ろしい。貴方を怒らせてこっちの要求を断られでもしたら大変だ。これ以上は流石に控えるよ」
そうは言いつつも、大輝は澄まし顔を隠そうともせず悪びれた様子を見せない。
姫はそんな大輝を横目に鋭く睨むが、この男に誠実な態度を求めるだけ無駄だと知っている為に半ば諦めたように溜め息を吐き出し、気を取り直し、右手に握るドライバーを大輝にチラつかせた。
姫「それで?こんなモノまで用意して改めて私に彼を討てだなんて、何故君が私にそんな要求をする必要があるんだ?正直、お宝の事しか頭にない君が今になって零を消したいなんて思う魂胆が読めない」
大輝「俺の考えなんて単純ですよ。……そのお宝の為だからこそ、彼を止めなきゃならないとね」
姫「…………」
大した事でもないように飄々と答えを返し、大輝は姫の顔を一瞥すると、彼女が手にするドライバーをクイッと顎で指す。
大輝「零のあの暴挙がまた再び起これば、この世のお宝は今度こそ二度と戻る事はなくなってしまう。そんなのは俺も御免だ。だからこそ貴方には、彼と契約した神としてその新しい力……戦極ドライバーを使って、アイツの傍らにいる貴方や、其処にいる二人にも零を倒せる様に万全を期して欲しいとわざわざ頼みにきてやった訳なんだけど、まさか鳴滝さんとバッティングするとはねぇ」
何だか先越されたようで癪だと言わんばかりに、ポリポリと頭を搔く大輝。
そんな彼に殴られた優矢がアズサに支えられながら大輝を睨み付けながらゆっくりと身を起こす中、姫は大輝から渡されたバックル……戦極ドライバーをジッと見つめると、暫しの思考の末に「ふう……」と溜め息を吐き、ベッドの上に置かれたジュラルミンケースに近づいてケースの中に残った錠前を手に取っていく。
優矢「っ……姫さんっ?」
姫「……私やアズサの考えは鳴滝君にも伝えた事が全てだ。改まって説明する必要はないだろ?どうせ君の事なんだから、初めから私達のやり取りを盗み聞きぐらいしていただろうから」
大輝「人聞きが悪いなあ……ま、別に否定する気もないけどね。貴方とアズサの決意表明を聞いた以上、俺もこれ以上の杞憂は抱かなくて済むから気が楽ですし」
姫「それは良かった。……だが、私達も諦める気はこれっぽちもないよ」
言いながら、姫は自身の腹部に戦極ドライバーを当てていく。
すると、ドライバーの端から黄色いベルトが伸びて姫の腰に巻き付いていき、戦極ドライバーの左サイドバックルのフェイスプレートに、まるで戦国武将の兜をモチーフにしたような薄桃色のパルプアイと、鎧武と斬月の中間に近いデザインの銀色と桃色の仮面のライダーの横顔の絵柄が浮かび上がった。
姫「この世界は必ず救う。これから歩む世界も。今まで通り、彼と一緒にな。……それが私達が考えて決めた、私達の旅の行き先って奴さ」
アズサ「ヒメ……」
大輝「……ふっ……」
自信満々に、凛とした微笑みと共に振り返る姫。
その聞き覚えのある台詞に大輝も一瞬目を丸くするも、すぐに含み笑いを浮かべて踵を返し、病室の入り口に向かって悠々と歩き出した。
優矢「お、おいっ、何処行く気だよ……!」
大輝「決まっているだろ?あの悪趣味な時計を叩き壊しにさ。まだこの世界のお宝を頂戴してもいないのに、その前に粉微塵になんてされたら堪ったもんじゃない」
姫「……相変わらず我が道をいくか……あんな事があった後でも変わらないな、君も」
大輝「当然さ。──俺の旅の行き先は、俺だけが決めるからね」
先程の姫の台詞の意趣返しと共に、不敵な笑みを浮かべて振り返った大輝は三人に向けて指鉄砲で狙いを定め、弾を撃つように軽く指を揺らした後にそのまま病室から出ていってしまう。
そして室内に残された姫と優矢はやや呆れた様子で何度目かも分からない深々とした溜め息を吐き出し、アズサはそんな変わらぬ皆のやり取りに何処か微笑ましげに小さな笑みを口元に浮かべるのであった。