仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―機動六課・休息スペース―
零「──つまり、お前は今から数十年後の未来から、わざわざ俺に会いにタイムスリップしてきたって事か……?」
海斗「ええ、その通りです」
街でドゥームズクロックを巡る戦いが徐々に激化しつつある中、ハルに呼び止められた零は機動六課の休息スペースにて、自分に話があると告げた大輝とベルの息子と名乗る青年……海斗の口から、彼自身について、そしてこの時代に未来からやってきた経緯を聞かされていた。
彼が生きる数十年後の未来では、その世界の鳴滝が嘗てアズサやルミナのように造り、その凶暴性から封印されていた筈の二人の人造人間が動き出し、人々を襲っては世界を滅茶苦茶にされていること。
未来のなのは達や大輝、優矢やアズサもその人造人間達を倒す為に立ち上がったものの、力及ばず次々に倒れ、海斗に戦いを教えてくれた"師匠"も数年前に命を落としたこと。
───そんな彼女達を守る事も出来ず、未来の零は人造人間達が現れる数年前に、亡くなってしまったことも。
零「成る程な……話は大体分かった……」
海斗「え……あ、あの、それだけなんですか……?こう、なんか、驚きとか、色々聞きたい事とかは?自分で言うのもアレですが、いきなり貴方達が亡くなった未来からやって来ただとか、わりと突拍子もない事を、俺……」
零「そういった突飛な展開にはもう慣れ切ってる。今更驚きもない……。それに今、俺達も知り合いの過去の世界にいる状況なんでな。立場的に言えば、今のお前とそう変わりはない……」
海斗「そ…そうだったんですね……」
通りでこんな話を聞かされてもずっと落ち着いていたのかと、壁に背中を預ける零の落ち着き払った佇まいを前に思わず感心を覚える海斗だが、そんな海斗に休息スペースのベンチに映紀と並んで座り込んでいたハルが腰を上げて歩み寄り、ポンッと肩の上に軽く手を置いた。
ハル「まあ、そこに加えて間が悪かったってのもあると思うよ。今起きているこの異常事態の数々。零君からしてみれば、情報量のキャパシティオーバーで今すぐ倒れ込んでも可笑しくないだろうからね」
零「アンタが此処にいるって事も一役買ってはいるけどな。……それで、こんな非常事態の中でわざわざ俺を呼び止めた理由はなんなんだ?アンタはさっき、俺の中のコイツをどうにか出来るみたいな口ぶりをしてたが」
今は文字通り時間がない。急いで雷やなのは達の救援に駆け付けなければならないこの状況下で足止めを食らっている事に内心焦りと不服さを覚えつつも、先程のハルの言葉に期待を抱き此処まで大人しく付いてきた。
海斗の身の上話も気にはなるが、今はそれ以上にこの内の忌々しい存在をどうにか出来る術を知りたい。
急かす零の焦燥感を感じ取り、ハルは無言で海斗に目配せすると、海斗も頷き返し、自身の革ジャンの内ポケットから黒く光輝く輝石を取り出し、零に差し出した。
零「……その石は?」
海斗「先程、貴方が未来で亡くなったお話をさせてもらいましたよね?その原因は、貴方がその内に抱えるイレイザーを長年自分自身の中に、無理に押し留め続けた為……自らの寿命を削ってまで、最期までただの人として有ろうともがき続けた結果、生命を使い果たし、死んでしまったのです」
零「…………そうか……。少なくとも、他の要因を顧みなければ、そっちの俺はマシな死に方が出来た訳だ」
深刻な口調で海斗の世界の未来で自分が死んだ経緯を聞かされても、零は悲観する様子もなく、寧ろ海斗の世界の自分に対して何処か羨ましそうに目を逸らして複雑げに笑う。
そんな予想に反しての痛ましい反応に海斗は一瞬戸惑いを覚えるが、未来人であるが故に零の抱える問題についてはある程度知っている為か、一度気を落ち着かせるべく瞼を伏せて一拍置いた後、改めて、零に差し出す輝石について説明を再開する。
海斗「俺達の時代では、ある人のおかげでイレイザーに対する対抗策を幾つか開発・運用する事が出来るようになっているんです。この輝石もその一つで、これさえあれば、貴方の中に宿るイレイザーの力をコントロール出来るようになれます」
零「コントロール……つまり完全に取り除くのではなく、力そのものを俺の制御下に置けるようになる、という事か……?」
海斗「ええ。……イレイザーとは、人の犯した罪が怪人の姿となって具現化した存在……残念ながら、その人自身の手で自らの過ちを清算しない限り、外的要因で消し去る事は出来ないんです……」
零「だろうな……なら、十分だ」
海斗「……え?」
根本的な解決策を提示出来ない事に申し訳なさそうに俯く海斗にそう言って、零は差し出される輝石を手に取っていく。その表情には心做しか、思わぬ形で訪れた希望を前に安堵と喜びの色が差し込んだかのように、ほのかに晴れやかな笑みが口元に浮かんでいた。
零「今更自分のしてきた事から逃げる気なんざ更々ない。この世界での事も、アイツらを傷付けた事も……リィルの事も……これまでの全ては、俺が背負うべき罪なのだから……」
海斗「……零さん……」
輝石を震える手で握り締め、己が犯した罪と改めて向き合い、決意を新たにする零のその迷いのない顔を見て、海斗は一瞬、嘗ての自分の師の姿を重ね合わせて僅かに目を見開かせた。
そんな彼に対し、零は真剣な眼差しを向けて口を開く。
零「使い方は?俺はコイツをどうすればいい?」
海斗「……バックルを出して下さい。手伝います」
零「……?こうか?」
言われた通り、懐からディケイドライバーを取り出して海斗の前に差し出すと、海斗は零の前に片手を掲げて黒紫色の魔法陣を展開していく。
すると、零の手に握られた輝石が光の粒子となって二人の周囲に拡散した後、粒子がバックルに吸い込まれるように集まっていき、一瞬の発光が収まると、ディケイドライバーのバックル中央部の周りに刻まれている九つのライダーズクレストの縁に金の色が差し込まれた。
零「……これが……」
海斗「ふーっ……これで、一先ずは大丈夫です。後は貴方がそのベルトを使えば使い続けるだけで、輝石の力が徐々に身体に浸透していき、貴方の内に潜むイレイザーも簡単には表に現れる事が出来なくなる筈です」
零「……そうか……助かる」
新たに力を得て変化したディケイドライバーを胸に当てて、零は力を貸してくれた海斗に感謝を伝える。
そんな零に海斗は微笑み返すが、その表情も何故か一瞬で曇り、何処か罪悪感を顕わにした顔を俯かせてしまう。
海斗「本当は、こんな風に人の生き死にに関わる過去を変えるのはいけない事なんです……でも、このままあんな最低な未来になるぐらいならと、俺はこの時代に跳んできましたが……貴方が生きてさえいてくれれば、きっと何かを変えてくれる。こうして言葉を交わせただけで、俺はそう確信を持てました」
零「そいつは買い被り過ぎだ。俺はただの破壊者でしかない。だから──」
バックルを持つ手を静かに下ろし、海斗と、その傍らに立つハルの目を交互に、まっすぐに澄んだ瞳で見つめ返す。
零「今ある目の前の理不尽の総てを、この手で壊してみせる。……その先に繋げる事が出来た未来を、お前達の手で、どうか作り上げて欲しい……」
海斗「零さん……」
ハル「……フフッ。正直まだ少し心配してた部分があったけれど、ちょっとは吹っ切れたようだね。なのは君達のおかげかな?」
零「…………ノーコメントで」
ハル「素直じゃないなぁー!……でも、私からも一つ言わせてくれ」
零「……?」
ぶっきらぼうに顔を逸らす零の変わらなさにケラケラと笑っていたハルだが、不意にその顔付きが変わり、零の両肩の上に手を置きながら、真剣にその瞳を見つめていく。
ハル「君が犯した過ちは確かに許されない事だろうと思うし、君自身、そんな自分を許せず、これからも卑下し続けるかもしれない。でも忘れないで。君がその手で守ってきたモノも確かにある。救われてきた人達が大勢いること。……何があっても、私にとって君は変わらずいつまでも可愛い、胸を張って、皆に自慢出来る後輩だって事を」
零「………………」
零の罪を否定せず、しかし同時に彼がこれまで成してきた功績を心の底から誇らしげに語るハルに、零は思わず息を呑んで呆気に取られてしまう。
そしてハルはそんな彼の肩を最後に軽くポンッと叩いて微笑むと、海斗の顔を一度見て静かに頷き、自らも戦地に赴くべく徐にその場を後にしていった。
映紀「……やーっといったか……。アイツがいるとつい調子狂うから、ずっと黙ってんのもしんどかったぜ……」
海斗「あははっ……何処までもマイペースな人ですからね、ハルさん……」
零「……というか、しれっと此処にいるお前はお前で何なんだ。明らか面倒そうだから敢えて今まで触れずにいたが」
映紀「誰がめんどくせーだ!俺様はコイツの付き添いで、後見人みてーなもんだからな。たまたま知り合っただけとはいえ、コイツを拾った責任がある以上、俺様にはコイツのやりたい事を最後まで見届ける義務ってもんがある!」
海斗「ペットじゃないんですから、拾ったとか言わないでください……」
ムンッと、腕を組みながら胸を張る映紀に慣れた様子でツッコミを返す海斗。
そんな短いやり取りだけで二人の関係性を何となく察し、零は海斗に同情とほのかな親近感の篭った眼差しを無言で向けるが、映紀は構わず不遜な口調で零に告げる。
映紀「俺様もお前達みたく、色んな世界を旅してる流浪人でな。そん中であの鳴滝とかってオッサンからお前を倒すように依頼された事もあったが、俺様はまっすぐじゃねー奴がキライでな。人の手ぇ借りて自分の手を汚さねぇあのオッサンの頼みは勿論蹴ったし、興味本位でお前らの事もちょくちょく様子見してた事もあったが、いつまでもウジウジ自分の気持ちを伝えらんねーあの嬢ちゃん達の事も、仲間内に本音隠して抱え込むお前の事も正直気に入らねえ!ぶっちゃけイライラしてたぜ!」
零「……聞いてもいないのにベラベラとやかましい……ああ、大体分かったっ。ようするに俺達が気に食わないんだろ?ならさっさと──」
映紀「けどな」
用事を済ませたんなら何処へでも行けと、真正面からこれでもかと痛罵を受けて不機嫌そうに映紀を追い払おうとした零だったが、映紀の態度が突然真面目な雰囲気に変わり、何やら意味深にジーッと零の顔を見つめた後、途端にニィッと痛快な笑みを浮かべて零にサムズアップを向けた。
映紀「さっきのお前の決意表明、中々にストレートだった。お前の中にも、熱い冒険者魂が感じられて気に入ったぜ!グッジョブって奴だ!」
零「……グッジョ……何だってっ……?」
先程まで痛烈に批難してきたかと思えば、いきなり態度を変え褒めてくる映紀の情緒に付いていけずに戸惑ってしまう零だが、それを他所に、映紀は一人スッキリした様子で気合いを入れるように自分の左掌にパシッと拳を打ち付けた。
映紀「よっしゃ!そろそろ俺様達もあのデケェ時計をぶっ壊しにいくかあ!いくぜ海斗!お前もさっさと来いよディケイドー……じゃなくて、零!待ってっからな!」
うおおおおおおおおおっ!!と、映紀は海斗と零にそう言うや否や、暑苦しい雄叫びを上げながら休息スペースを勢いよく飛び出して廊下を爆走し、そのまま振り返る事なく走り去っていってしまった。
海斗「ちょ、映紀さん!すみません零さん、俺もいってきます!あのまま一人で行かせるのは心配なんで……!」
零「あ…ああ……何か大変だな、お前も……」
海斗「い、いえそんな……あ!あと、俺の事とかはあんまり他の人には話さないでおいて下さい!特にこの時代の父さんと母さん!下手したらこの世界線で俺が生まれなくなったり、干渉した俺自身にも何か影響が出るのか分からないので!」
零「あ、ああ……分かった……その辺は安心してくれていい。お前には大きな借りがあるしな……」
海斗「ありがとうございます!では、失礼します!」
勢いよく、しかしとても綺麗な姿勢で零に頭を下げると、海斗も映紀の後を追って急いで走り出していった。
零(……嵐みたいな連中だった……色々あり過ぎて頭が痛ぇ……)
そして、一人休息スペースに取り残された零は漸く落ち着きを得られ、眉間を抑えながら気分を落ち着けるように深く呼吸を吐き出すと、海斗から新たな力を与えられた自分のディケイドライバーを眺めていく。
―貴方が生きてさえいてくれれば、きっと何かを変えてくれる。こうして言葉を交わせただけで、俺はそう確信を持てました―
―でも忘れないで。君がその手で守ってきたモノも確かにある。救われてきた人達が大勢いること―
―さっきのお前の決意表明、中々にストレートだった。お前の中にも、熱い冒険者魂が感じられて気に入ったぜ!グッジョブって奴だ!―
零(本当に好き放題言ってくれるな……だが……悪くない……)
今の自分は、沢山の人達に支えられて、此処に在る。
これまでも。
そしてきっと、これからも……。
その献身に、想いに応えたいという気持ちが胸の内を占め、こんな自分に今もまだ手を差し伸べようとしてくれる皆への負い目と、そんな彼ら彼女たちを助けたいという想いが入り交じった感情に突き動かされるように走り出し、休息スペースを出てすぐ近くの曲がり角を曲がった矢先、その足が止まった。
零「……フェイト……」
フェイト「──ぁ……零……」
まるで自分が来るのをずっと待っていたかのように、廊下の壁に力無く背中を預けて静かに佇む、茶色いキャスケットの帽子を顔が隠れるほど深く被った、自分の仲間であり……自分が深く、酷い心の傷を付けてしまった一人。
自分の存在に気付き、自責の念と後悔がグチャグチャに入れ混じったかのような仄暗い表情を浮かべて壁から背を離し、向き合うフェイトの姿を見付け、零は思わぬ場面での彼女との再会に驚きから目を見開くのだった。