仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―クラナガン・高層ビル屋上―
各地区でドゥームズクロックを巡る戦闘が更に激しさを増し、街の被害も広がっていく中、例の不審な熱源反応が感知されたとある高層ビルの屋上にて、それらの情勢を愉悦の笑みと共に眺める女の姿があった。
クアットロ「あらあらぁ。もうカラクリに気付かれちゃいましたかぁー。もぅ少し悪足掻きを続けてる所を見物していたかったのに、惜しいですねぇ」
ンフフッと、言葉とは裏腹に口元に手を添えて愉しげに笑うのは、今回の騒動の黒幕の一人であるクアットロ。
街のあちこちから立ち上る黒い煙。次に紲那の世界のプレシアとエンドがドゥームズクロックが配置された範囲内の市街地に張り巡らせた、大規模な結界の外の上空で絶えず発生する爆発の光に目を移し、溜め息を軽く吐く。
クアットロ(とはいえ、断罪の神サマ方があちら側にいる以上、どうせ種が明かされるのも遅かれ早かれ時間の問題というもの。寧ろ、此処まで時間稼ぎが出来ただけでも上々といった所でしょうかぁ)
思考しながらトントンと、頬を人差し指で軽く叩きながら軽快な足取りで屋上から見える風景から背を向け、クアットロは青空しか見えない、何もない頭上を静かに見上げていく。
クアットロ(思わぬイレギュラーの数々のせいで、当初の目的から大幅に計画を変更せざるを得なくなりましたが……まあいいでしょう。此処までくれば、あとは流れに身を任せるのも悪くありません。それに──)
―バシュウゥンッ!―
クアットロが無言で見上げる空に、前触れもなく何処からか一発の弾丸が飛来し、何もない筈の空……否、風景に擬態して透明化していた何かに着弾し、そのショックで徐々に高層ビルの屋上の真上に巨大な物体が姿を現していく。
それは他の四機のドゥームズクロックと全く同じ外見をした、五機目のドゥームズクロック。
幸助達が看破した通り他の四機を無限に甦らせる為の
クアットロ「挨拶もなしにいきなり発砲だなんて、無粋な御方達ですこと。たった一言のお声掛けも出来ないなんて、礼節に欠けてるのではなくて?」
雷牙『──どの口でほざく……。背中から撃たれなかっただけでも有り難いと思え』
振り返ったクアットロに嫌悪感を露わにそう言葉を返すのは、五機目のドゥームズクロックの破壊をはやて(別)達に申し出て、此処まで辿り着いた雷牙。
そんな彼の後ろには、ドゥームズクロックの透明化を解く為に発砲したライドブッカーガンモードを構えるディケイド(紫苑)の姿もあり、銃を下ろしたディケイド(紫苑)はドゥームズクロックを見上げながら呆れ混じりの溜め息を漏らす。
ディケイド(紫苑)『それが例の本体って奴?こそこそ隠れてこんなものまで用意してただなんて……六課の屋上でわざわざ僕達の前に姿を現したのも、コレに気付かせない為のパフォーマンスも含まれてたって事かい?』
クアットロ「さあ、どうでしょう?ただ私のストレス発散にお付き合いして頂いただけかもしれませんしぃ?実際のところ、とてもスッキリ致しましたよ?あの時の貴方々の無様な負け顔♡」
雷牙『……お前との無駄口を叩いている暇はない。こうして本体が姿が現した以上、さっさと叩き潰させてもらうぞ!』
あからさまに挑発的な態度を取るクアットロの戯言を無視し、雷牙とディケイド(紫苑)は即座に地を蹴って上空に浮かび上がる五機目のドゥームズクロックに向かって飛び掛かった。
今此処でこの本体さえ破壊してしまえば、他の四機のドゥームズクロックも全て復活出来くなる。
それぞれ拳を振り上げ、カウントダウンが進むドゥームズクロックのタイマーに目掛けて正面から殴り掛かる雷牙とディケイド(紫苑)だが、クアットロは何故だか特に妨害する素振りすら見せない。
ドゥームズクロックを破壊しようとする二人の姿をただ腕を組んで見上げたまま、口端を微かに吊り上げた瞬間、遙か上空から突如何者かが超スピードで降下し、いきなり二人を殴り付けた。
ディケイド(紫苑)『ガッ……!!?』
雷牙『な、にっ……!!?』
背中に走る凄まじい衝撃と威力。警戒していたクアットロからではない不意打ちに二人はまともに反応する間もなく、そのまま襲撃者と共に屋上へと落下して思い切り地面に叩き付けられてしまった。
グググッ……!と、仰向けに倒れた状態から背中をとてつもない力で踏み付けられて身動きが取れず、それでも二人は頭だけを動かして襲撃者の正体を確かめるべく目を向けると、雷牙が仮面の下で目を剥き、息を拒む。
謎の襲撃者のその姿は、黒い犬の頭部が両肩から生えたケルベロスの外見をした漆黒の異形。
その正体は、零達がこの雷牙の世界に訪れてから幾度となく戦い、前の戦いにて零に敗北して以降、それまで姿を見せていなかったケルベロスインフェルニティだったのだ。
ディケイド(紫苑)『こ、こいつはっ……?』
雷牙『ケルベロス……!?な、ぜ……お前が……!?』
『グルルルルルルゥッ……!!』
何の前触れもなく現れたケルベロスインフェルニティの襲来に驚きを隠せない雷牙だが、当のケルベロスインフェルニティは唸り声を上げるだけで、その様子は明らかに可笑しかった。
戸惑う雷牙の質問に一言も返さないどころか、まるで腹を空かせて獲物を前にした獣のように、歯を剥き出しにした口から夥しい量の唾液を垂れ流すその姿は零達と戦った時とは違い、理性があるようには一切見えない。
この怪人とは何度も戦った経験がある雷牙もその変貌ぶりに困惑を更に深める中、クアットロがくすくすと笑い、何も言葉を返さないケルベロスインフェルニティの代わりにその疑問に答えた。
クアットロ「そのワンちゃんはこの間の戦いで偶然拾ったモノでしてねぇ。私達が密かに監視していた黒月零に無様に敗れ、倒れて気絶してた所を部下が裏で回収し、後から私のデザイアメモリの力で洗脳して忠実な番犬にさせてもらいました。あの忌々しい小坂井ハルにやられた傷もまだまだ痛む事ですしぃ。丁度いい、使い捨ての家畜が出来てとても助かりました♡」
雷牙『ッ!貴様っ、何処まで……!!』
『グルァアアアアッ!!』
何処までも他人を利用する事に躊躇いのないクアットロに怒りを覚える雷牙だが、それをクアットロへの敵意と感じ取ったケルベロスインフェルニティは雷牙の襟首を掴んで無理矢理に起こし、その顔に何度も何度も拳を叩き込んで殴り飛ばした後、もう片方の足で踏み付けるディケイド(紫苑)を屋上の片隅まで乱雑に蹴り飛ばした。
ディケイド(紫苑)『ガッ……!?げほっ、げほぉっ……!!』
クアットロ「ち、な、み、に?洗脳前の戦闘力が大して使い物にならないぐらいすんご〜く貧弱でしたのでぇ、メモリの力で限界まで力も底上げしておきました。なので油断していると、この時計を壊すより先にそちらが壊されてしまうかもしれませんよぉ?」
雷牙『グッ……!』
『ガァアアアアアアッ!!』
人を舐め切ったクアットロの声に耳を傾ける余裕もなく、立ち上がった雷牙にケルベロスインフェルニティが真正面から迫り、両手の鋭い爪を荒々しく振りかざして襲い掛かる。
技も何もない、ただただ野生の獣のように暴力的なケルベロスインフェルニティの攻撃を雷牙はどうにか直撃を避けて上手く捌きつつ後退していく。
そして壁に手を付いてフラフラと立ち上がったディケイド(紫苑)も仮面の汚れを手で拭い、雷牙に加勢しようと覚束無い足取りで歩き出すも、直後にその横からクアットロがデザイアドーパントに姿を変えながら飛び出し、ディケイド(紫苑)の顔を容赦なく殴り飛ばした。
『DESIRE!』
ディケイド(紫苑)『ぐぅううっ!?っ、クアットロっ……!!』
『アッハハハハァッ!本当にお馬鹿さん!私に負けた貴方達如きが揃った所で、勝てるとでも思っていたんですぅ?とんだ思い上がりもいいところです、ねぇええッ!!』
―ドゴォオオオオオオンッ!!―
ディケイド(紫苑)『ガハァアアアアアッ!!』
雷牙『っ、風間ぁ!―ガギィイイイインッ!!―ぐぁああっ!?』
ふらつくディケイド(紫苑)が辛うじて繰り出す拳も全て軽々といなされてしまう。デザイアドーパントはその様を嘲笑いながら突き出された拳を頭を横に傾けるだけで避けつつ、ディケイド(紫苑)の胸に凄まじい力の掌底を叩き込んだ。
そのあまりの威力に変身が強制解除されながら吹き飛ぶ紫苑を視界の端に捉え、雷牙はケルベロスインフェルニティが振り下ろした凶爪を掻い潜って避けながらその背中を蹴り付けて怯ませ、その隙に紫苑の救援に駆け付けようと走り出す。
が、すぐさま体勢を立て直したケルベロスインフェルニティは雷牙を睨み付けて瞳を一瞬赤く発光させた直後、突如凄まじいスピードで動き出し、残像すらも見えない速さで雷牙に何度も執拗に突進攻撃を繰り返していく。
そして最後に目の前に姿を現し、渾身のアッパーカットを顎に叩き込んで宙に浮かんだ雷牙をフロントキックで蹴り飛ばし、倒れる紫苑の元にまで転がった雷牙はそのまま仰向けに力なく倒れ、雷の姿に戻ってしまった。
紫苑「雷さん……!」
雷「ぁ……ぐっ……!」
六課の制服もボロボロに破け、顔中も切り傷だらけで血を流す紫苑と雷。
地面に倒れ伏すそんな二人の姿に、興奮気味に肩を上下に揺らすケルベロスインフェルニティの隣に並んだデザイアドーパントは「あーあ」と退屈そうに肩を落とした。
『最強の力というのも考えものですね〜。こう何度も同じ相手ばかり一方的にいたぶっても、虚しさしか感じませんし……せめてあの異世界の連中が此処へ来ていれば、私も少しは楽しめたのかもしれませんけどぉ、それもこの世界が終わればもう叶わないでしょうしねぇ』
『あーざんねんざんねん』と、デザイアドーパントはもう二人に興味を失くしたように両腕をぶらぶらさせながら背中を向け、もうすぐ三時間を切ろうとしているドゥームズクロックを暇そうに見上げていく。だが……
雷「……っ、まだ、だっ……」
紫苑「……ええ……その、とーりっ……!」
仰向けの状態から、うつ伏せに体勢を変え、雷は地面に両手を付き、震える身体を無理矢理に立ち上がらせる。その姿に触発されるように、紫苑もボロボロの身体を起こしていく。
が、デザイアドーパントはそんな二人を一瞥するだけでめんどくさそうに溜め息を漏らし、最早用はないと言わんばかりに手の平をパタパタさせる。
『そーゆーのはもう結構ですので。このデザイアメモリの力さえあれば、貴方の飼ってる獅子も、ソレの新しい飼い主にする予定だったあのプロジェクトFの女ももう必要ありません。せいぜいこの世界が終わる瞬間まで、その辺の隅でガタガタ震えてるといいわ。それぐらいの権利は許してあげる』
雷「……もう勝負に勝ったつもりでいるとはな。なるほど……お前らが黒月達に何度も負けてきた理由が、よく分かる」
『…………。はあ?』
ピクッと、それまで最早眼中にすらなかった雷のその発言に、デザイアドーパントが反応を示して顔を向ける。
そんな雷に続くように、激痛が走る胸を苦しげに抑え、顔を歪めていた紫苑も無理して不敵な笑みを作り、挑発する。
紫苑「みっともないって言ってるのさ。零さん達から聞いてるよ。今まで散々負け続けて無様に逃げ隠れしてた癖に、哀れみか何かで貰った力で途端に強気になるとかさ。そんな自分が最強だとか、笑っちゃうんだよね」
『……フフッ。ええ、そう。でもそれがなんです?今まで苦汁を舐めさせられ、漸くあの連中に復讐する機会を得られた。これで漸くその全てに決着が付き、ドクターと、私達の夢が、もうすぐ其処に──!』
雷「ドクター……ああ、ジェイル・スカリエッティか……あんな
『─────は?』
両腕を広げて頭上のドゥームズクロックを仰ぎ見、もうすぐ叶う復讐に胸を踊らせながら爛々と語っていたデザイアドーパントの声音が、雷のその一言で変わった。
ゆっくりと、腕を下ろして二人の方に振り返るデザイアドーパントの表情は読めないが、その瞳の眼差しは心做しか、まるで氷河のように冷たくなっているように見える。
『今──何か言いました?』
雷「くだらない男に仕えて、哀れだと言ったんだ。あんな奴に利用されているだけとも知らず、こんな馬鹿げた騒動まで起こして……ああ。そう考えてみれば、お前もある意味では、あの男の被害者と言えるのかもな」
『────ばか、に────』
紫苑「……っ?」
軽く鼻を鳴らしてジェイル・スカリエッティをこき下ろし、挙げ句、今のデザイアドーパントの有り様を哀れだと断じる雷だが、二人のやり取りを傍観していた紫苑は、雷からデザイアドーパントに視線を向けた途端に訝しげに眉を顰めた。
今の雷の発言に、デザイアドーパントは顔を俯かせ、その身体がフルフルと小刻みに震えている。
先程までの饒舌ぶりから打って代わり、急に大人しくなったデザイアドーパントのその雰囲気の変化に紫苑も何か直感的に嫌な予感を感じ取るが、それを雷に伝えるよりも先に、デザイアドーパントがバッ!と勢いよく顔を上げた。
『なに、も───何も知らないお前如きがァァああッッ!!!!私達をっ、ドクターを馬鹿にするなァああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!』
―ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!―
雷「……っ!!?」
紫苑「雷さんっっ!!」
先程までの、人を小馬鹿にするような飄々とした態度から突然豹変したデザイアドーパントが腹の底からの激昂の雄叫びと共に荒々しく右腕を突き出し、雷に向けて掌から赤く巨大なエネルギー波を放出した。
突然の不意打ちに傷付いた身体の雷は反応が遅れて咄嗟に動けず、異変を事前に察知していた紫苑は慌てて雷に飛び付き、彼を抱き抱えながらその場から飛び退こうとするも、エネルギー波の迫るスピードが速すぎて回避が間に合わない。
もう駄目だと、雷も紫苑も鼻先まで迫ったエネルギー波を前にして思わずキツく目を閉じ、そして……
『ATTACKRIDE:CLOCK UP!』
『──!?』
―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーアアァアンッッ!!!!!!!―
何処からともなく、聞き覚えのある電子音声が鳴り響いた直後、エネルギー波に飲まれる寸前だった雷と紫苑の姿が忽然と消え去り、エネルギー波はそのまま何もない空を切って、屋上の一角に着弾した同時に大爆発を巻き起こした。
凄まじい爆風と衝撃波が吹き荒れる。その後、激しい炎と黒煙に包まれる消し飛んだ屋上の一角をジッと見つめ、デザイアドーパントは肩で呼吸をしながら、少しずつ冷静さを取り戻し始めた頭で考える。
『(今の……間違いない……しかし、
動揺する心を落ち着けようと、深く息を吸い込み、吐き出す。
そして先程の一瞬。自分のエネルギー波から目にも止まらぬ速さで離れるのが見えた影が逃げた先に目を向けると、其処には離れた場所に両脇に抱えた雷と紫苑をゆっくりと地面に下ろしていく、赤いカブトムシのライダーの後ろ姿があった。
紫苑「──……っ!今のって……クロックアップ……?」
雷「……お前……」
その一方で、紫苑は自分の身に何が起きたのか状況を分析して辺りを見回し、雷は目の前で膝を着いて屈む赤いカブトムシのライダーの顔を朧げな目で見上げていくと、二人を見下ろす赤いカブトムシのライダー……仮面ライダーカブトにカメンライドしたディケイドは静かに変身を解除し、露わになった仮面の下の顔に、笑みを浮かべた。
零「悪い。ちょっと出勤が遅れた」