仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
事が一先ず収拾し、日が暮れようとしている時間帯。梓は昼間にイブキ流とザンキ流の決戦の場として集まった河原にて、密かに連絡を取っていた澪と紬と密会し、お互いの今の流派内での状況を報告し合っていた。
梓「イブキさんの様子は…?」
紬「今日の一件は、ザンキ流の策略だと仰っています……」
澪「こっちも似たようなものだ。巻物を盗まれた件も相まって、相当ご立腹というか……次は必ずイブキ流を倒すと言ってる……」
この期に及んで、結託する所か溝が更に深まってしまった現状を嘆く二人。梓も同様に憂いを帯びた表情を浮かべる中、紬がふと何かを思い出したように口を開く。
紬「そういえば、ヒビキちゃんは?」
梓「……鬼を、引退すると……」
澪「はあ!?ど、どうして?!」
梓「それは…私にもよく……。理由を問いただそうとした所に、色んな事が起き過ぎたのもあって聞きそびれてしまって……」
紬「そんな事が……」
イブキとザンキを頼れない今、こうなれば彼女を頼らざるを得ないと考えていた澪と紬はここに来て始めて聞かされたヒビキの引退宣言に、驚きと動揺を隠せずにいる。
そうなってくるとこれから一体どうすればいいのか。悩ましげにお互いに顔を見合わせる澪と紬に対し、梓はずっと両手に握り締めていたヒビキのディスクアニマルを掴む手に力を込めながら意を決するように告げた。
梓「あの……!こうなったら、私達でやるしかないかと!」
紬「?やるって、何を……?」
梓「牛鬼を倒すんです!今こそ皆の力を合わせて、伝説の魔化魍を倒す事が出来たのなら、これまでの流派間の確執も失くす事も出来るんじゃないかって……!」
澪「それは……どうだろうな……。流石に難しいじゃないか……?」
牛鬼という脅威を前にしても、あんな子供染みた喧嘩をするようなあの二人にその話を呑んでくれるとはとても思えず、懐疑心を拭えず不安を帯びた表情で顔を見合わせる澪と紬に、梓はそれでも尚食い下がる。
梓「やる気さえあれば、不可能なことなんてありません!まずは動く事です。動けば、何かが始まります!」
紬「……梓ちゃん……」
ヒビキから破門を言い渡され、酷く落ち込んでいた時に大輝から教えられた言葉を脳裏に思い起こしながら、梓は勇気と覚悟を振り絞って二人に訴え掛ける。
彼女のその諦めない姿勢に二人も一瞬目を丸くするが、次第に彼女のまっすぐな気持ちが直に伝わったのか、澪と紬の表情も力強いものに変化していく。
澪「そうかもな……。動く前に、何もかも駄目だと決め付ける事はないのかもしれない」
紬「私たちの世代なら、流派でいがみ合う事もありませんし……みんなで、一緒に!」
梓「澪先輩…むぎ先輩……!」
ディスクアニマルを握り締める梓の手の上に、それぞれに手を重ね合わせて団結の意を伝える澪と紬。そんな二人の顔を交互に見上げて嬉しそうに笑顔を浮かべる梓だが、そうなると一つ問題が浮上する事を急に思い出した。
梓「でも、そうだ……私が鬼を引き継ぐには、ヒビキさんの許しがないと……」
梓はまだ正式には鬼になれていない、せいぜい変身体止まりと言う現状。引退宣言をし、しかもヒビキ流を自分の代で終わらせるとまで言っていたヒビキから、果たして鬼になる許しを得られるのだろうか。
澪と紬と一致団結した直後に頭を悩ませる問題が残ってた事を思い出して項垂れる梓だが、そんな三人の元に、何処からともなくフラりと一人の青年が姿を現した。
大輝「だったら俺が、ヒビキって人に頼んであげようか?」
梓「!貴方は……!」
澪「お前……!」
急にそんな申し出と共に現れた青年、大輝に梓は驚く。だが、澪と紬にとっては二人の流派から巻物を盗んだれっきとした盗っ人である為、警戒して身構える二人の険しい眼差しも何処吹く風と言わんばかりに受け流し、大輝は意味深な笑みを浮かべながら三人に歩み寄っていくのだった。
◇◇◆
―ヒビキのキャンプ地―
それから暫くして、日が完全に落ちた夜の時間帯。なのは達は牛鬼化してディケイド達との戦いで傷付いたヒビキを拠点にまで運び終え、魚見の治癒魔法で傷を治したヒビキと共に焚き火を囲んでいた。ただ、一同の間には重く深刻げな空気が流れており、焚き火に薪を投げ入れるヒビキはそんな雰囲気に苦笑いを浮かべてなのは達の顔を見渡していく。
ヒビキ「もう。みんなちょっと空気重すぎだよぉ?ほら。今焼きマシュマロも焼いてるんだぁ。美味しそうでしょー?」
映紀「……んなんではしゃいでられる状況じゃねーだろ……」
スバル「ヒビキさん……その……どうして、あんな事に……」
沈んでる皆を元気づけようと、焚き火の周りに刺されてる鉄串に刺したマシュマロを見せるヒビキに、スバルがおずおずとした口調で彼女が牛鬼となった経緯について尋ねる。
すると、ヒビキは「あー……」と少し困った顔で目を泳がせた後、手に取ったマシュマロを刺した鉄串を焚き火の周りに戻し、遠い記憶を思い返すように語り出した。
ヒビキ「私達はね、魔化魍を倒す為に鬼になる道を選んだの。だから鬼として戦うからには、正しい心で鬼の力を制御しなくちゃ駄目なんだ」
なのは「正しい、心……」
今の説明から察するに、ヒビキはその正しい心を制御出来なかった為に牛鬼となってしまったという事なのだろうか。
だが、今の目の前にいるのんびり屋な彼女がそんな失敗を犯すような人物にはとても思えないが、ヒビキはパチパチッと音が鳴る焚き火を見つめながら、心做しか穏やかな顔で微笑みを浮かべる。
ヒビキ「私ね。音楽やってた時も、鬼になって音撃を始めてからも、人の笑う顔が凄く好きなんだぁ。誰かが魔化魍に襲われて、その人を助けられて笑ってくれると、私も嬉しくて笑っちゃうの。誰かの笑顔を守れたんだって」
優矢「……誰かの、笑顔……」
ヒビキ「そっ。……でも、全部が全部上手くいけてたかっていうとそうでもなくって……凄く強い魔化魍が出てきた時とか、全然勝てなくてね。その時の私は皆を守らなきゃって、自分を鍛え続けて、相手を倒したいって気持ちだけが強くなりすぎちゃって……私は、鬼に心を奪われちゃったんだぁ」
恥ずかしい若気の至りを語りながらヒビキの脳裏に蘇るのは、巨大なムカデの胴体にシュモクザメの頭部がくっついたような魔化魍ロクロクビや、龍のような姿をした魔化魍オロチに敗北し、孤独にも力だけを求め鍛え続け、死に物狂いの死闘の末にそれらの難敵を独りで倒した時の記憶。
今思えば、それももう遠い記憶になったのだと物思いに耽るヒビキの寂しげな横顔を目にし、スバルは得心を得て項垂れた。
スバル「だからヒビキさんは、鍛える事を辞めちゃったんですね……」
ヒビキ「そーゆーこと。……多分、次に牛鬼になった時には、私はもう戻らないと思う。そんな確信があるんだ」
なのは「そんなっ……そうだ!魚見さんや姫さんの力を借りれば、牛鬼だけをヒビキさんから切り離す事も……!」
魚見「……いいえ。それは不可能です」
名案を思い付いたと顔を向けるなのはの期待の篭った眼差しに対し、魚見は目を伏せて静かに首を横に振った。その答えになのは達が息を拒んで目を見開かせる中、魚見はジッとヒビキの顔を見つめて言葉を続けていく。
魚見「死神でもある私には、魂を通して視る能力がある。だから分かるんです。彼女の中に巣食う牛鬼という存在は、外側から取り憑かれた外的要因ではなく、彼女の魂の内側から生まれ出たモノ。言わば、彼女の魂の一部とも呼べます。それを無理矢理切り離したり、消滅させるという事は、彼女の魂を削り切るのと同義……そうなれば、彼女は今までのようにはいられず……最悪、ただの廃人になってしまう可能性が高い」
優矢「そんな……!」
ヒビキ「ふふ。ん、知ってた。牛鬼になっちゃったばかりの頃、私もどうにかしようって古い資料とか沢山引っ張り出したりしたけど……魚見ちゃんが今言ってたように、私から牛鬼を切り離す事は出来ないんだって、知っちゃっただけだった」
「──で、少女君を破門にして、自分から彼女を遠ざける事を選んだって感じかー」
苦笑いを浮かべるヒビキの言葉を補足するように、何処からかそんな何の感情も篭っていない棒読みな台詞が聞こえてきた。
驚きと共にヒビキ以外の面々が振り返ると、其処にはいつの間にいたのか、大輝が飄々とした佇まいでテントの傍に立つ姿があった。
優矢「海道さん……!」
映紀「てめぇ……今度は何しに来やがった……!」
大輝「そうカッカしないでくれよ。俺はただ、少女君の願いを伝えに来ただけさ。正式に鬼を継ぎたいっていう、彼女の意志を」
ヒビキ「…………。あずにゃんには、私と同じ道を歩んで欲しくないんだ。だから貴方にあの子を託したの」
大輝「そっかぁ。そりゃ残念だな。若い世代で音撃道をひとつにするって、燃えてたのに」
ヒビキ「!……あずにゃんが?」
大輝「みんなの中心になって頑張ってるよ」
ヒビキ「………………」
意外といった様子で、何処か呆気に取られた顔で焚き火を見つめていくヒビキ。その間に大輝が歩み出すが、そんな彼の足元に焼きマシュマロを食べた後の鉄串をヒビキが振り向きもせず投擲して突き刺し、歩みを止めさせた。
ヒビキ「分かってるよ。狙いはヒビキ流の巻物なんでしょ?」
大輝「……流石だね」
優矢「お前……!こんな時にまでいい加減にしろよ?!」
映紀「こっちはおめぇの盗みに構ってる暇なんざねーんだ。それでもやるってんなら……!」
此処で倒すのもやぶさかでないと言わんばかりにディスパランサーを取り出す映紀と変身の構えを取ろうとする優矢だが、ヒビキはそれを片手で制し、徐に立ち上がって大輝の元にまで歩み寄ると、腰に掛けた音叉を取り外して大輝の前に無言で差し出した。
魚見「ヒビキさん……?」
ヒビキ「これはね。響鬼の変身音叉」
大輝「……それで巻物を諦めろ、とでも?俺はそんなの要らないよ」
ヒビキ「違うよぉ。……梓ちゃんに渡して欲しいの。あの子の優しさがあれば、鬼になったとしても、私みたいに鬼に心を奪われないかもしれない」
スバル「でも、ヒビキさんは梓ちゃんに同じ道を歩んで欲しくないって……」
ヒビキ「それはあの子が選ぶ事だから。正しい心で鬼を制御できるなら鬼に。出来なければ、諦めて欲しい」
言いながら、ヒビキは大輝の手を取って変身音叉をその手に握らせる。大輝は受け取った音叉を眺めて、ヒビキの目を見つめ返すと、ヒビキはいつものように屈託のない笑顔を返す。
ヒビキ「音撃も、音楽も、誰かを笑わせる事が出来るのはどっちも同じだって私は思う。だからあの子が鬼になるんなら、代わりに伝えてくれるかな?……私はあの子の手で終わらせて欲しいって。それが私の、
なのは「……ヒビキさん……」
大輝「…………」
梓の正しい心に賭けて、自分に引導を渡して欲しい事を、自分の魂を継いで欲しい旨を彼女に伝える役を大輝に託すヒビキに、なのは達もそれ以上は何も言えず口を閉ざしてしまう。
そして、ヒビキが何か憑き物が落ちたかのような軽快な足取りで焚き火に戻る中、大輝は自分に託された変身音叉を手の中で弄って眺めると、ヒビキを一瞥した後、音叉を手にしたまま無言でその場を後にしていくのであった。
◆◆◆
一方その頃。火が灯された松明が幾つも並ぶ、巨大な岩山の前。其処には光写真館から密かに抜け出したキバーラが、妖しげな笑みを浮かべて闇夜の中を羽ばたく姿があった。
キバーラ「『追跡者』の介入もあったとはいえ、牛鬼だけでは物足りないわぁ」
妖艶な笑みと共にキバーラがそう告げた瞬間、灰色のオーロラが岩山の前を横切り、オーロラの中から巨大な紫色の音撃棒を手にしたコブラをモチーフとした紫のミラーライダー……『仮面ライダー王蛇』が首をぐるりと捻らせながら姿を現した。
王蛇『ぁアアァァ……祭りの場所は、此処かァ?』
キバーラ「うっふふっ、魔化魍復活の儀式の始まりよ〜!」
意気揚々とオーロラから現れた王蛇に近付くキバーラ。だが、巨大な音撃棒を軽々と肩に担いだ王蛇はそんなキバーラを一瞥し、
王蛇『イライラするんだよ……ォオオアアッ!!』
―バゴォオオンッ!!―
キバーラ「べぶぅうっ!!?ひ、ひど~いぃぃぃ……!」
すぐさま興味を無くしたように音撃棒を大きく振り回し、王蛇は巻き添えで殴り飛ばされたキバーラに一切の関心すら向けずに岩山を愉快げな笑い声と共に音撃棒で殴り続け、破壊されていく岩山の中から少しずつ巨大な蟹のような外見をした魔化魍が露わになっていくのだった。