仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT   作:風人Ⅱ

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第二十二章/響鬼×けいおん!の世界⑪

 

 

大輝「…………」

 

 

ディケイド達が牛鬼と化したヒビキと戦闘を開始したその頃。目的の三本の流派の巻物を手に入れた大輝は、以前梓とやり取りを交わした廃寺に足を運び、其処で盗んだ三本の巻物全てを広げてその内容の解読を行っていた。

 

 

ザンキ流、イブキ流、そしてヒビキ流の巻物の内容を何度も見比べては熟考した末、頭の中で点と点が繋がったような閃きが稲妻のように走った。

 

 

大輝「そういう事か……。音撃道のお宝とは、つまり──」

 

 

「───大輝ィイイイッ!!」

 

 

漸く得心を得たと大輝がお宝の謎に気付いたと同時に、大輝のヒビキに対する暴挙に怒って後を追って来た映紀が疾走のままに大輝へと背後から拳を振りかざして殴り掛かった。

 

 

が、大輝はその気配を察して体を横にずらして拳を軽々と躱すも、映紀は空振ってバランスを崩しながらも構わずそのまま大輝の胸ぐらに掴み掛かり勢いよく詰め寄った。

 

 

映紀「大輝テメェっ!!ヒビキにあんな真似しやがってぇ!!このまま落とし前も付けずにトンズラここうなんざ、この俺様が赦させねえぞォ!!」

 

 

大輝「頼んでもいない君の赦しなんて知ったこっちゃないよ。それよりこの汚い手をどかしてたまえ。こっちは今、君と無駄なやり取りを交わしてる暇なんてないんだよ」

 

 

映紀「んだとテメェ!!」

 

 

映紀から詰められても涼しい顔で淡々と微塵も興味無さそうに語る大輝の口ぶりに更に憤り、映紀は感情のまま再び拳を振り上げて殴り掛かろうとするも、大輝は素早く映紀の片足の脛を蹴りあげる事で態勢を崩させた。

 

 

拳の軌道を逸らされた映紀はそのまま地面に盛大に倒れてしまうが、大輝はそんな映紀を一瞥すらせず、三本の巻物を仕舞い終えてその場を後にしていく。

 

 

映紀「ぐっ……ま、待て!何処にいくつもりだっ!?」

 

 

大輝「決まっているだろう?───この世界のお宝を、最後までこの目で見届けるのさ」

 

 

映紀「ああっ……?」

 

 

肩越しに振り返り、不敵な笑みを浮かべる大輝の言葉の意図が読めず、映紀の頭の上に疑問符が浮かび上がる。

 

 

そんな彼に対し、大輝は簡潔に自分の思考が至った音撃道の宝の謎の秘密を映紀に語っていくのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―採石場―

 

 

『ヴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォーーーーーーーーーオオオオオォッッ!!!!!』

 

 

ディケイド『ぐぅうううっ!!チィッ!』

 

 

移鬼『ヒビキさん!!』

 

 

ヴァイサーガ『ちっ……!』

 

 

同時刻。なのは達から危険を遠ざける為、森を抜けた先の採石場に戦場を移したディケイド達と牛鬼。

 

 

ディケイドと移鬼、そしてヴァイサーガが正面から挑むが、先の戦いの時と同様、強靭な鋼のような肉体とヒビキの卓越とした技量をそのままに受け継いでいる牛鬼を前に三人も苦戦を強いられて中々決め手がつかず、次第に防戦一方となりつつある緊迫した状況に陥っていた。

 

 

そんな中、三人の後方支援を担当する聖桜が指輪を取り替えた右手をバックルに翳し、牛鬼に向けて魔法を放つ。

 

 

『bind now!』

 

 

―ジャラアアアアアッッ!!―

 

 

『ヌゥウウ……!!?』

 

 

聖桜が右手を前に突き出したと同時に、牛鬼の四方に魔法陣が展開され、中から無数の魔法の鎖が放出して牛鬼に全身に絡み付き、完全に捕縛してみせたのだ。

 

 

それを見てディケイドと移鬼、そしてヴァイサーガも瞬時に各々が武器を振るってどうにか一撃を加え、ダメージを与えて牛鬼の勢いを削ごうとするも、やはり三人の武器はその強靭な肉体の前に火花と共に弾かれて何一つ通用せず、更には全身を拘束する鎖を純粋な腕力だけで弾き飛ばしてしまう。

 

 

聖桜『くっ?!やはり私の魔法が通じない……!』

 

 

移鬼『強過ぎる……!これがヒビキさんの体ごと、これまでの強さまで喰らった牛鬼の強さ……!?』

 

 

ディケイド『……(確かに難敵ではあるが、他のカードや市杵宍との合体でツクヨミになれれば確かな勝機はある……だが、それでは……』

 

 

梓「──はぁっ、はぁっ……ヒビキさん……!」

 

 

この劣勢を覆す勝ち筋はある。だが果たして、この世界の人間ではない自分のこの手で牛鬼と化したヒビキをこのまま手に掛ける事が正しい事なのか。

 

 

胸中につっかえるモヤモヤから顔を俯かせて逡巡するディケイドだが、その現場へディケイド達と牛鬼の後を追ってきた梓が息も絶え絶えに到着し、ディケイド達を苛烈に追い詰めていくヒビキの変わり果てた姿を目の当たりにして悲痛で顔を歪めてしまうが、直後……

 

 

―ズギャギャギャギャアァァンッ!!―

 

 

『!?ヌグァアアアッ!?』

 

 

『『『……!!?』』』

 

 

ディケイド『ッ!なに……?』

 

 

再度ディケイド達に仕掛けようと迫る牛鬼の胴体に、何処からともなく無数の銃弾が撃ち込まれて牛鬼を怯ませ、後退りさせたのだ。

 

 

更に其処へ、すかさずディスパーに変身した映紀がディスパランサーを牛鬼に押し付けながら突如参戦し、そのまま力任せに牛鬼をディケイド達から離れさせるように押し出していく。

 

 

移鬼『映紀さん…!?』

 

 

ディスパー『加勢すっぞ!お前らも手ぇ貸せ!』

 

 

ヴァイサーガ『ッ、ええ!』

 

 

ディスパランサーを思い切り弾かれ、牛鬼の腕力で地面にねじ伏せられるディスパーを見て、移鬼とヴァイサーガ、移鬼が即座に牛鬼に飛び掛かって抑えに掛かる。

 

 

一方、徐に身を起こしたディケイドは先程の銃撃が放たれてきた方に顔を向けると、其処には崖上からディエンドライバーの銃口を牛鬼に向けて突き付ける大輝の姿があった。

 

 

ディケイド『海道…お前、どういう風の吹き回しだっ…?』

 

 

大輝「何。せっかく奪ったお宝を見てみたくなってね」

 

 

飄々とした口調で、訝しげな眼差しを向けるディケイドの問いを受け流す大輝。

 

 

そんな二人のやり取りを他所に、梓はライダー達を圧倒する牛鬼を呆然と見つめ、ただただショックで立ち尽し喉を震わせながら呟く。

 

 

梓「ヒビキさんは……なんで牛鬼なんかに……?」

 

 

大輝「鬼の力を制御できなくなったのさ」

 

 

梓「!鬼の力を!?」

 

 

ここで初めてヒビキの身に起きた出来事を知らされ、梓はいつの間にか隣にまで歩み寄ってきた大輝の言葉に驚きと動揺が入り交じったように目を見開いて驚愕を露わにするが、大輝は立て続けに言葉を畳み掛ける。

 

 

大輝「でも、ヒビキって人はこうも言ってた……。正しい心で、鬼の心を制御できるんなら、鬼となって、私を倒せって」

 

 

梓「私がヒビキさんを!?そんなの出来るわけ無いじゃないですか!!」

 

 

先輩として、師としてこれまでずっと慕い続けてきた人を簡単に手に掛ける事など出来る筈がない。淡々とした声音でヒビキからの伝言を聞かれた梓は当然のように間髪入れずに否定し、大輝の顔を見上げながら首を横に振って睨み付けるが、その答えに、大輝は「ふっ」と口端を僅かに吊り上げた。

 

 

大輝「いいんじゃない?それで」

 

 

梓「……え?」

 

 

飄々とした口調でありながら、しかし梓の答えをしっかりと肯定する大輝の思わぬ言葉に、梓は目を白黒させて呆気に取られた表情で彼の顔を見上げるも、大輝は構わず、ディケイド達を圧倒する牛鬼をまっすぐに見据え真摯な口調と共に言葉を続けていく。

 

 

大輝「その優しさがあれば、鬼に心を奪われる事も無いってさ。受け継ぐのは、鬼の力だけじゃない──ヒビキって人の、()を受け継ぐ事なんだ」

 

 

梓「……ヒビキさんの、魂を……」

 

 

ディケイド『グゥッ!海道…!俺の台詞を盗ったな!?』

 

 

真剣味を帯びた眼差しと声音で、ヒビキの意志を汲み取って語る大輝。その言葉の意味を深く噛み締めるように梓が俯く中、移鬼達と共に牛鬼と奮闘するディケイドが地面を転がって受け身を取り、軽く舌打ちしながら大輝に物言いを付けるも、逆に大輝はディケイドを指差し語気を強めて返す。

 

 

大輝「言っておくけど!俺は君よりもずっっと前から、通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ……!」

 

 

『KAMENRIDE──』

 

 

手の中で回転させながら取り出したディエンドライバーにディエンドのカードを装填し、銃身下部をスライドさせて電子音声が鳴り響くディエンドライバーの銃口を頭上に掲げ、叫ぶ。

 

 

大輝「変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

トリガーを引き、周囲に現れた無数の人型の残像が駆け巡って大輝の姿に重なり、その身をディエンドに変身させた大輝はすかさず牛鬼に向けてドライバーの銃口を向けて発砲した。

 

 

 

 

―ズガァアアンッ!!―

 

 

『グォオオォゥッ!?』

 

 

ヴァイサーガ『牛鬼が怯んだ……!』

 

 

ディスパー『今だ!!抑え込め!!』

 

 

ディエンドの銃撃を真正面から浴びせられ、思わぬ威力に怯む牛鬼にディスパー達が四方から全力で抑えに掛かる。その様子を見届け、ディエンドは隣に立つ梓にヒビキから預かった変身音叉を取り出し、ソッと差し出してゆく。

 

 

ディエンド『後は君次第だ。──鬼になるか。ならないか』

 

 

梓「……私は……」

 

 

ディエンドからの問いに、梓は目の前に突き出される音叉から牛鬼へ視線を移す。

 

 

全員掛かりで動きを封じようとするライダー達の奮闘をものともせず、ただひたすら獣ように暴れ、変わり果てた師匠のその痛ましい姿を前に瞼を伏せて迷う素振りを見せるも、暫しの間の後、静かに目を見開き、ディエンドの手から変身音叉を手に取っていく。

 

 

梓「私は──鬼に、なります!」

 

 

決意を固めた瞳でディエンドの元から飛び出し、崖上に立った梓は変身音叉を展開する。

 

 

そして音叉を人差し指で鳴らして音波を響かせ、変身音叉を徐に額の前に翳していき、紫炎にその身を包み込ませた。

 

 

燃え盛る炎の中で少しずつ姿を変えていき、ゆらりと掲げる右腕で身に纏う紫の炎を力強く払い除けて現れたのは、ヒビキから託された音叉で変身した梓の『仮面ライダー響鬼』であった。

 

 

響鬼

 

 

響鬼『──やああああッ!!』

 

 

掌を固く握り締め、一息に駆け出した響鬼の鋭い拳が牛鬼へと突き刺さる。ディケイド達に意識を向けていた牛鬼は不意の一撃に巨体を揺らして怯み、その隙を逃さず立て続けの攻勢を仕掛けて牛鬼にサイドキックを打ち込んで吹っ飛ばす。

 

 

しかし、苦しげに呻き声を唸らせながら身を起こしていく牛鬼の弱々しい姿を前に、追撃を仕掛けようとした響鬼はヒビキの顔が脳裏を一瞬過ぎって決意が僅かに揺らぎ、躊躇して足を止めてしまう。

 

 

響鬼『ヒビキ、さんっ……』

 

 

『ッ……そうとも。この俺を消せば、ヒビキの全てはこの世から消え去る事になる!お前に俺は倒せまい!!』

 

 

自らはヒビキそのものと相違ないと。彼女の存在を人質に不敵に笑い、完全に体勢を立て直した牛鬼は俯いて立ち尽くす響鬼に向かって猛スピードで突撃を仕掛けるが、寸前の所で移鬼が横から飛び出し、響鬼を抱えて牛鬼の攻撃から彼女を庇った。

 

 

響鬼『っ、スバルさん!?』

 

 

移鬼『ぐっ…!梓っ、気持ちは分かるけど今はしっかりして!』

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

『チョーイイネ!』

 

『finish strike!サイコー!』

 

 

ディスパー『つおらぁああッ!!』

 

 

聖桜『ハァアアッ!』

 

 

―ジャギィイイイインッ!!ドゴォオオオオオンッ!!―

 

 

『ヌゥウッ!』

 

 

響鬼と移鬼が離れたのを見計らい、ディスパーの刃が分身するディスパランサーと聖桜のウィザーソードガンを媒体に変化させた真炎龍剣の業火の同時攻撃が牛鬼に背中から炸裂し、牛鬼の動きを一瞬だけ封じる。

 

 

その隙にディケイドとディエンドはそれぞれ一枚ずつカードを取り出してそれぞれのドライバーにセットし、ヴァイサーガも金色のオーラを全身から放出しながら鞘に納めた五大剣を一気に振り抜いた。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ヴァイサーガ『地斬疾空刀……!疾走れ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガァンッ!!ズジャアアアアッ!!―

 

 

『グゥオオオアッ!!』

 

 

無軌道に宙を舞いながら空から降り注ぐ無数のマゼンタとシアンの弾丸の威力が牛鬼をその場に釘付けにし、その間にヴァイサーガが放った地を駆る斬撃波が牛鬼の足に直撃して膝まつかせた。

 

 

ディスパー『梓!やるんだ!』

 

 

ディケイド『このままだとヒビキの魂も完全に消え去るぞ!』

 

 

響鬼『ぅ……っ……!』

 

 

移鬼『梓……!』

 

 

各々の武器と技を必死に駆使して牛鬼を食い止め、響鬼に激励を送り続けるディケイド達の声を耳に、響鬼は移鬼の肩を借りながら身を起こし、ディケイド達の攻撃を受けながら尚も迫る牛鬼の顔を見つめた瞬間、先のヒビキの最後の言葉が脳裏に蘇る。

 

 

 

 

―あずにゃん…ごめんね……後は────―

 

 

 

 

響鬼『────ッッッ…………ぅぁぁああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーああァっっっっ!!!!!』

 

 

 

 

あの瞬間の彼女の貌。彼女の言葉に背を押されるように、響鬼は音撃棒・烈火を両手に力強く握り締めて奮起の雄叫びを荒らげながらディケイド達の間をすり抜けて飛び出し、牛鬼へと音撃棒を振りかざし殴り掛かった。

 

 

上段から振り下ろされる音撃棒を見て咄嗟に両腕を掲げて防御姿勢を取る牛鬼。だが、響鬼はそれを読んでいたかのように手の中で音撃棒を回転させながら攻撃の軌道を咄嗟に変え、牛鬼の両脇腹に音撃棒を叩き付けて火花を撒き散らせた。

 

 

『グォォォォッ!?』

 

 

響鬼『はぁああっっ!』

 

 

痛みに悶えて牛鬼が頭を僅かに下げた瞬間、響鬼はすかさず下から突くように牛鬼の顎の下に目掛けて膝蹴りを叩き込む。

 

 

その威力と衝撃で上半身を大きく仰け反らせる牛鬼の空いた懐に、響鬼は怒涛の勢いで音撃棒による連撃を叩き付けていく。

 

 

聖桜『牛鬼の動きを、先んじて読んでいる……?』

 

 

ディエンド『あの魔化魍は彼女の長年の技量をそのままに取り込んでいる。其処には無論、技量者本人がつい取ってしまう動きの癖や隙だって含まれている筈だ。なら、』

 

 

ディケイド『──ずっとアイツの背中を傍で見て追い続けていた梓が、奴に遅れを取る筈がない』

 

 

ヒビキの強さを手に入れた所で、その強さを完全に活かす事が出来るなど彼女本人にしか不可能だ。

 

 

長年ヒビキの元で修行し、彼女の弟子としてその背中と生き様を見続けてきた梓が付け焼き刃のヒビキの強さを行使するだけの牛鬼を相手に引けを取る筈がなく、響鬼はヒビキが戦いの中で意識的に抑えていた隙や動きの粗を突いた立ち回りで牛鬼を確実に追い詰めていき、牛鬼がやぶれかぶれに殴りに放った腕の脇の下を掻い潜りながら腰のバックルから取り外した音撃鼓を牛鬼の腹に貼り付け、振り向き様に音撃鼓が巨大化して動きを封じられた牛鬼を前に、響鬼は静かに音撃棒・烈火を両手に握って構えを取っていく。

 

 

響鬼『音撃打…!猛火怒涛の型!!』

 

 

 

 

最初は重く、そして次第に速さを増して打ち込まれていく猛烈な勢いの清めの音を浴び、牛鬼が苦しみに悶えて唸り声を漏らしていく。

 

 

その悲痛な声に胸を締め付けられる想いに駆られながらも、響鬼はその感傷さえも振り払うが如く勢いで音撃棒を振るう両腕の速さと重さと鋭さが増していき、大きく振りかぶった最後の一撃を振り下ろした直後、牛鬼の顔に微かに浮かび上がった見覚えのある女性の眼と視線が交わり、刹那、最早有り得る筈のないビジョンが目の前を過ぎった。

 

 

───あの普段と変わらない、明るく、そして人懐っこい穏やかな笑みを口元に浮かべて目の前に立ち、徐に響鬼の変身音叉を差し出す女性の姿。

 

 

その手から恐る恐る音叉を確かに受け取ると共に、胸に迫った別離の確信から瞳から零れ落ちそうになる熱を堪えて静かに頷き返すと、そんな自分の姿を見て安心したように、けれど何処か師匠らしく振る舞う己を恥ずかしがるかのように照れ臭く笑う彼女の笑顔が、振り下ろされた音撃棒の太鼓の重い響きと共に、白い光に塗り潰されるように儚く消え去った。

 

 

響鬼『──唯……センパイ……』

 

 

思わず溢れ出た声は小さく。終わりの一撃をその身に受けた牛鬼は断末魔を上げる事はなく、これまで倒されてきた魔化魍達と同様に、無数の枯葉となって消滅していった。

 

 

あまりにも呆気なく。あまりにも無常で。

 

 

形と呼ぶにはあまりにも忍びない、彼女だったモノの無数の枯葉の雨の中で佇む響鬼に掛ける言葉が何も見付からず、ディケイド達が口を閉ざして静かにその背中を見つめる中、響鬼は徐に降り注ぐ枯葉の雨を見上げるように顔を上げていく。

 

 

響鬼『最後の一瞬……気のせいかもしれないけど、見えた気がするんです……ヒビキさんの、笑ってる顔を……』

 

 

ディエンド『……音楽も音撃も、人を笑顔にするものだと彼女は言っていた。それが見間違えでないのなら、君は胸を張るべきだ。あの魔化魍から、君はその手で、彼女のお宝を確かに守ったのだから』

 

 

響鬼『…………………。はい』

 

 

短く返した言葉は、微かに喉が震えて、まだ上手く返せない。

 

 

だが、受け取ったモノは確かに此処にある。

 

 

少しずつ実感を得ていく喪失感とこの寂しさも。今はハッキリと視える、明日の夢へ進むべき路と希望も。

 

 

どちらも大切なモノ。どちらも彼女から受け継いだ魂。

 

 

ただ今は。今だけは──

 

 

次の一歩を踏み出す前に、仮面の下に隠した悲しみが枯れるまでの間だけ、どうか足を止める事を許して欲しいと切に願う。

 

 

そうすればきっと、貴方のように、この青い空を笑って見上げる事が出来ると思うから。

 

 

移鬼『梓……』

 

 

響鬼『……大丈夫……大丈夫、ですからっ…………』

 

 

ディケイド『……………』

 

 

心配で駆け寄る移鬼に、響鬼は俯いたまま首を横に振って平静を装おうとするも、その声は微かに震えている。

 

 

移鬼はそんな彼女の両肩の上に手を置いて慰める中、ディケイド達も互いに無言で顔を見合わせ、二人の元に歩み寄ろうと歩き出した、その時だった……

 

 

 

 

―ゴゴゴゴゴゴォオオッ…………ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーオオオオオオオオォォォォオンッッッッ―

 

 

『『『……!!?』』』

 

 

ディスパー『な、なんだあ!?』

 

 

聖桜『この揺れは……!?』

 

 

 

 

 

突如何の前触れもなく、立っているのもままならない程の大きな地震が発生した。そのあまりの揺れに何事かとディケイド達が慌てて周囲を見回す中、一同から離れた場所の大地が捲れ上がって吹き飛び、地中から蟹の姿を巨大な魔化魍・バケガニが勢いよく飛び出して現れ、その頭上には怒りの形相を浮かべた鳴滝の姿があった。

 

 

ディケイド『鳴滝……!?』

 

 

鳴滝「おのれディケイドぉおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーッッッッ!!!!このバケガニで始末してくれるぅううううっっっっ!!!!」

 

 

忌々しげにディケイドを睨み付けて激昂の雄叫びを荒らげた後、鳴滝は背後から現れた灰色のオーロラに飲まれて何処へと消えてしまう。直後、バケガニは制御を失ったかのようにその巨大な両手のハサミをディケイド達に向けて立て続けに突き立てて荒々しげに襲い掛かり、ディケイド達も慌てて四方に散開しバケガニのハサミを回避していく。

 

 

ディケイド『クソッ……!空気も読まずに余計なモン残していきやがって!』

 

 

ヴァイサーガ『もういつも通りの事よ……!それより集中を切らさないで!また来るわ!』

 

 

ディケイドが鳴滝への悪態を吐く間も与えまいと、バケガニはその巨体に似合わぬ俊敏な動きで駆けずり回りながらハサミの連続突き攻撃を緩めず、何とかライドブッカー等の射撃武器で迎撃に出るも、バケガニはそれらをものともせずその巨体を回転させて放った横殴りのハサミでディケイド達を纏めて派手に殴り飛ばしてしまうのであった。

 

 

 

 

 

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