仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
―風麺―
クロノ「──食事時に唐突な話で申し訳ないんだが……皆、諦め悪く何処までも追い掛けてくる女性を諦めさせるには、どう対処すればいいかとか良い方法を知らないだろうか……」
零「…………」
優矢「…………」
ユーノ「あー……あはは、は……」
とある日、昼時の風麺の屋台にて。
光写真館を抜け出し、男二人で風麺へラーメンを食べにきた零と優矢だったが、屋台先にて、彼等と同じくラーメンを食べに来ていたクロノとユーノと偶然にも再会。
最初はお互いに思わぬ場所での巡り合わせに驚きこそしたものの、それぞれの近況、積もる話もあるだろうとカウンター席に同席し、出てきたラーメンを食べようと皆が箸を手にし割ろうとした直前で、クロノが前触れもなく心底深刻そうな顔でいきなりそんな事を言い出した。
無論、そんなセンシティブな話をいきなり振られた零と優矢は箸を割ろうとしたポーズのまま真顔で固まり、同じく席に着くユーノも急なクロノの話題振りに渇いた笑い声をこぼす中、一足先に我に返った零は静かに箸を割り、真顔のまま目の前に置かれた自分のラーメンの器の中に箸を差し込みながら淡々と口を開いた。
零「なぁおい優矢。既婚者の昔からのダチから急に女絡みのトラブル臭そうな話を持ち掛けられた時、お前ならどんな心境になる?」
優矢「エ……いやまあ、なんだ……なんか気まずくなりそうだし、取り敢えず相槌だけ打って別の話題に逸らすかって考えるかなあって……」
零「ああ全くもってその通りだ。そう言う訳だクロノ、俺の煮卵をくれてやるから暫く口の中に捩じ込んでろ。俺達はその間に完食して帰る」
クロノ「関わりたくないというならもっと取り繕う方法を少しは考えろ!そういうところだぞ昔から君は!」
ユーノ「まあまあまあ……。零、気持ちは分かるけど話だけでも聞いてもらえないかな?ほら、飲みの席での他愛もない愚痴話だとでも思って……」
零「愚痴だと分かってる話ほどしんどいもんも尚更ないだろ……マジの飲みの場ならともかくとして、なんで飯時にそんなもん聞かされなきゃならんのだ。麺がまずくなる」
ユーノ「ホントーにごもっともなんだけど、ほら……そうなってくると、自動的に話し相手が僕ぐらいしかいなくなるから……」
零「………………はぁああああっ……ユーノの人望に死ぬほど感謝しとけよクロノ……?お前とのサシならゼッタイに妥協すら考えもしなかったぞ」
クロノ「執拗に失礼だな君達は!!というかさっきから僕の扱いが可笑しいだろ!?ユーノに関しては君は特に僕の現状を知ってる側じゃないか!!」
ユーノ「いやまぁ……流石に僕も此処まで長く巻き込まれるとは思わなかったというか……正直、そろそろ君と僕の手にも余る事態になってきてるからいい加減打開策が欲しくなってきたというかサ……」
優矢「わぁ……スゲーやつれ切った顔してるぅ……」
零「半分からかい混じりだったのがいよいよ本気で不憫になってきたな……おい女運の悪さはお前のせいでどうにもならないにしてもユーノを巻き込んでやるなよな、クロすけ」
クロノ「ほうその渾名を出してきたという事は宣戦布告だな?ようし二人とも表に出ろ。魔法抜きでの殴り合いもたまになら悪くないっ」
大輝「ふつーに営業妨害だから喧嘩する気なら帰ってくれないかな?」
どの口で言ってんだ、があまりに過ぎる台詞を非難混じりの眼差しと共に向ける零にピキっととなり、喧嘩腰に席から立ち上がり掛けたクロノと零達に向けて、それまで傍観していた店主の大輝が心底迷惑そうな顔で流石にストップを掛けた。
その冷水を浴びせ掛けるような冷たい声にクロノと零とユーノも流石に店先で大人気がなさ過ぎたかと思い、少しの静寂の後に気が落ち着いてくると共に自省してゆき、各々がゆっくりと腰を下ろし直したり姿勢を正したりする中、それから零がラーメンを突つきながら一番最初に怠そうに口を開いた。
零「んで?結局最初に言ってたしつこい女が云々の話、アレがどうしたって?なんかまた面倒なヤマに突っ込んで自分から首を絞められにいきでもしたか?」
クロノ「人を倒錯的な性癖持ちみたく言うなっ。好き好んで自分からトラブルに巻き込まれにいった覚えもないっ」
ジトーとした横目を向けられて苛立たしげに否定しつつ、気分を落ち着けようと溜め息を吐きながらクロノは事の仔細を話し始めた。
クロノ「実はこの前、ハルさん達と一緒に別世界に寄った時、たまたま現地の怪人と戦う機会があってな……。戦闘事態は特に問題もなく、幸い被害も最小で犠牲者も一人も出なかった。そこまでは良かったんだが……」
「はぁああっ……」と、机の上に両肘を突いて頭を抱え、クロノが深い溜め息を漏らす。
零が元の世界にいた時、彼が胃を痛めてる時などによく見た事があるポーズだ。零自身も彼に迷惑を掛けた時にはこんな感じだったので見慣れているまでもある。
今は長らく見ていなかったので若干の懐かしさすら感じるが、こういう時のクロノはホントに洒落になってない時だと覚えもあるので、零が眉を顰めながら無言でユーノに視線を向けると、これ以上自分の口から話すのは辛そうなクロノに代わって、ユーノが困り顔と共に続きを語り出す。
ユーノ「その時、クロノに助けられた女の子が一人いてね……。怪我もなく無事だったし、それ自体は良かった事なんだけど、どうやらその子、自分を助けてくれたクロノを気に入ってしまったというか、惚れ込んでしまったというか……現在進行形で、自分と交際して欲しいとずっと付き纏われている状態なんだよ、彼……」
優矢「そ、そうなんすか?」
零「ほーう。身を固めた分際で飽き足らずにピュアな女を弄んだのか?随分と罪な男になったもんだなオイオイ」
クロノ「違うっ。そんなつもりはないっ。やめろっ。つつくんじゃないっ」
えーん?と、箸の持ち手部分の先っぽで頬を突つきながらからかってくる零の手を煩わしげに払い除けるが、最早怒鳴る気力すらないのか、クロノは何度目かの分からない溜め息と共に若干疲れ気味に肩を落としており、零はその様子に呆れつつ席に腰を戻した。
零「何をそんなに真剣に悩む必要があるんだか。その指の指輪は飾りか?あまりにしつこいならそいつ見せ付けて、取り付く島もないとハッキリ分からせてやればいいだろうが」
クロノ「それで済む話なら此処まで悩んでいないっ。結婚して家族がいる事も、その気がないのもしっかりと伝えたさ。なのに、だっ……」
ユーノ「ウーン……それで諦めるどころか、寧ろ逆に発破を掛けてしまったようでね……絶対に振り向かせてみせると断言してきた挙げ句、世界の壁を超える方法を見付けて、何処までも追ってくるようになってしまったんだ……」
優矢「あー……ハイっ?」
零「いやちょっと待て……何か話の流れが大分変わってきたぞ……?コイツの惚れた腫れたの話はどうでもいいが、世界の壁を超えれるようになった?その女がか?どうやってだ?」
他愛もない世間話のつもりで話を聞いていたら、思いも寄らぬ情報が飛んできて零と優矢の目が驚きと困惑の色に変わるが、二人からの疑問に満ちた視線にクロノとユーノも困った表情で首を横に振った。
クロノ「それも分からず仕舞いなのが今の状況なんだ…。一応心当たりがないかハルさんに相談もしてはみたんだが、何やら考え込んだ挙げ句、原因を探る為に暫く別行動しようといわれてこの始末だ……」
零「……ああ……カリムやシャッハの顔もないから妙だとは思ってたが、アレか。ようするにそこまで執念深い女に狙われている今のお前の傍にいるのは危なっかしいからと、囮役に回された感じか?」
クロノ「…………遺憾ながらそういう体もある、とだけ言ってこう」
本当に不服なのか、眉間にこれ以上ないほど皺を寄せて感情を押し殺すように喉を絞った声で否定はしないクロノ。その様相に零と優矢も若干の威圧感を感じて引き気味になるが、彼と同じく囮役にされたユーノはそんなクロノの反応にも慣れているのか、漸くラーメンを啜り、溜め息をこぼす。
ユーノ「追ってくるだけならまだマシな方さ。問題はその彼女、顔を突き合わせる度に勝負を挑んできては自分が勝ったら交際を受け入れてくれ、なんて言ってきてさぁ……。これまで鉢合わせただけでも六回。その度に六度の勝負。告白とお断りのやり取りだけでも二十八はとうに超えてると思うよ、数えられる限りだけど」
優矢「すげぇ執念深いっていうか、最早ストーカーとかの域を超える怪異かなんかじゃないですかねソレ……」
零「色んな世界回り過ぎて変なもんにでも取り憑かれたんじゃないだろうなお前……。おい海道塩よこせ、塩。飯を食いに来ただけなのにタチの悪い怨霊を土産に背負わされるとかたまったもんじゃない」
大輝「生憎だが、うちは無料で塩を提供してないよ。そんなにお祓いしたいんなら君のとこの神様達にでも頼みたまえ。片方は死神なんだから寧ろそっちの方が効果は見込めるだろ?」
零「アイツらに頼めばもれなくいらぬサービスにお小言が付いてくるからお前に言ってるんだろうが」
クロノ「当人を脇に人を呪物みたいに言ってくれるな!大体異性関連で君にどうこう云われる筋合いはないぞ!」
零「幾ら俺でもそんな又聞きしただけでも恐ろしい女に目を付けられる経験なぞないわ。というかタイミングを考えろタイミングを。こっちはこの若いのを慰めてやろうとラーメンを一杯奢りにきたとこだったのに」
ユーノ「うん…?そういえば彼は確かクウガの……」
優矢「あ、ども。桜井優矢です。すんません何か微妙なタイミングでの自己紹介になっちゃって……」
ユーノ「ああいや、こちらこそ見苦しい所をお見せして申し訳ないっ。……しかし慰めるって、何か落ち込むような事でもあったのかい?」
若干気まずそうに会釈しつつ、小首を傾げるユーノからの質問に優矢は「いやぁっ……」と悩ましげな表情を浮かべて三人から目を逸らす。
優矢「ちょっと最近、今までの自分の言動を省みる事があったといいますかぁ…その事でなのはさん達からもお叱りを受けて、自分の世界に帰ったら頭下げなきゃいけない子が何人かいるなぁと反省したと言いますか……」
ユーノ「え…なのは達が叱るって、よっぽどじゃないか?一体何が…」
零「よく分からんが、何か自分の世界で本人も気付かぬ間に何人かの異性を誑し込んでたのが発覚したらしい……。そんで事の顛末の一部始終を見物してたんだが、その後の落ち込みっぷりが見てられなくてなぁ。流石に気分転換させてやろうかと思って此処へ誘ったって流れだ」
クロノ「……そうか……君も中々難儀な困難を送ってるようだな…」
優矢「いやそんな…俺なんてほぼほぼ自業自得ですし…」
クロノ「いや、自省出来るだけ十分に立派さ…ほら見ろ。首にロープを掛けられている所か、自分が絞首台に立たされている事さえ未だ自覚出来ていないヤツだっているのだから…」
優矢「ああ、確かに…コレ見てたら俺ってまだまともな方なんだなって安心出来るっていうか…」
零「…………。もしかしなくても俺は今この二人に貶されているんじゃないのか?」
ユーノ「アハハ……ドーダローネー……」
大輝「なんとも目覚ましい成長だ。まるで今まで四足歩行しか出来なかった赤子が両足だけで立った時の成長を目の当たりにしてるかのような感動を覚えているよ、知らないけど。記念に替え玉でも頼むかい?有料だけど」
零「はっはっはっ、それは有り難いたなー。ならお冷やを三つ頼めるかー?お前を含めて顔面に水を浴びせ掛けたいヤツらが三人いるんでなー」
まるで可哀想な生き物でも見るかのような眼差しを向けてくるクロノと優矢と、わざとらしく涙を拭う仕草と共に煽ってくる大輝の人をコケにするような振る舞いに零は笑顔を顔に貼り付けつつ、首筋から血管を浮かび上がらせながら全方位に向けて一触即発の雰囲気を醸し出すが、その時……
「───やっと見つけましたよ!クロノ・ハラオウン!」
零&優矢&大輝「「「……うん……?」」」
ユーノ「!こ、この声は……」
クロノ「……まさ、かっ」
そんな男共の空気を裂くように、屋台の外から甲高いトーンの女の声が聞こえてきた。
言い争い(というか片方が一方的に噛み付いているだけ)していた零と大輝、そんな二人の間で仲裁に入るべきか否か右往左往していた優矢が何事かと互いの顔を見合わせる中、ユーノは冷や汗を流し、クロノは血の気が引いた顔で慌てて屋台の外に飛び出していき、残った四人もその後を追うようにゾロゾロと外へ出ていくと、其処には……
「こんな所で道草を食っているとは思いませんでした。さぁ、今一度剣を抜きなさい!今度という今度こそ、私からの申し出を受け入れて頂きます!」
……現代の街並みから若干浮いている、男爵令嬢を彷彿とさせる青と黒のブラウスとリボンが特徴的な服を纏う、輝く金色の髪が特徴的な何処となく気高さを感じさせる女性が強気な眼差しと共に、クロノを指さしながらいきなりそんな宣告を飛ばしてきたのであった。