仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT 作:風人Ⅱ
第二十三章/『なのは』の世界④
一樹「──いやぁー。しかしまあ、まさかこんな形での再会になるとは思わなかったっすよねー」
あの突拍子もない展開から十数分後。たまたま訪れた高級店でまさかの記念客となった挙げ句、更にその店を仕切って贔屓にしていたのが零の学生時代の友人の一人である一樹だったというまさかの偶然。
そんなあまりにも出来過ぎてるように感じる再会の中、一樹は一行を店内で一番良い景色が見える席に案内し、声を掛けた従業員達にひと目でお高いと分かる料理を用意させ、次々とテーブルの上に並べさせていた。
優矢「ぅ、ぉおおおっ……!?な、何かめっちゃ高そうなもんがどんどん出てくるんだけどぉ!?」
スバル「こ、これっ、ほんとに全部無料で食べちゃっていいんですか…!?」
一樹「もちろんもちろん。零のご同伴ならダメなんて事はありません。どうぞ、ご一緒に料理を楽しんでいって下さいなー」
エリオ「あ、ありがとうございます!」
キャロ「えっと……ど、どうも……」
どうぞ遠慮せずにと、まだまだ出てくる高級料理を前に両手を合わせた大食いメンバーを筆頭に、他の面々も戸惑いを浮かべつつ遠慮気味に料理を手に口へ運んでいく。
その様子を眺めて笑う一樹だが、そんな優矢達を横目にテーブルに片腕を掛けて座るだけで、料理に手を付ける様子すら見せない零の様子に気付き、首を傾げた。
一樹「おや、全然食い付く感じじゃないっすねー?お気に召す料理がなかったすか?」
零「……何を企んでやがる」
一樹「う…んん?企む、とは?」
ええ?と、目付きの悪い眼差しを向けてくる零からの疑問にあからさまに動揺する一樹。だがその反応も何処かわざとらしさがあり、零の目付きがより悪くなる。
零「白々しいにも程があんだろ……。たまたま目ぇ付けた適当な店でこうやって再会するだけならまだしも、此処がお前のケツ持ちやってる店なんて聞いた事ない。しかも記念の客だとか、何か仕込みでもなきゃこんな偶然ある訳ないだろうが」
一樹「はーん…?ようするに、俺が零達が来るのを予め予想してたから、こんな派手な催しを用意出来た、と?イヤイヤ、それこそナイナイっすよ。そもそも友達相手でもそんな得にもならない事やる俺じゃないって、昔から知ってるでしょ?」
零「む……」
ケラケラと、一樹は怪しむ零の不信感を笑い飛ばすようにそう言うと、出入り口の方で一樹の次の指示を待つようにして立つオーナー達を親指でつつくように指す。
一樹「ここ、元々はうちの親父が贔屓してた店だったんすけど、少し前まで親父が床に伏せったのを良い事に下っ端の叔父が他のモンと一緒に勝手しやがりましてね。そんでいよいよんなって、全然カンケーねーカタギにまで手ぇ出始めたもんだから、うちの方で色々と
ギンガ「落とし前、って……」
零「其処は掘り下げなくていいぞギンガ。……んで?それがこのイベントと何の関係に繋がるんだ」
一樹「勿論、店とかその他諸々の実権を取り戻したのを機に、心機一転!うちのアホ共のせいでご迷惑をお掛けしたお客様達の信用を取り戻す為ってヤツっすよ。……後はまぁ、今回使った金は叔父共の手がベッタリなんでねぇ。そういうの全部洗い落としとかしないと気持ち悪いでしょ、正味」
零「…………」
そう言って、一同から静かに目を逸らす一樹の顔が一瞬だが、心底愛想が尽きて疲れ切ってるような表情を浮かべているように見えた。零がその変化を見逃さず僅かに目を細めていると、一樹は再び零達の方に振り向き苦笑いを返した。
一樹「や、サーセンサーセン。つい愚痴っちゃいましたっすね。テメェん家のセンシティブな事情とか人様に聞かせるような話でも無し。飯を不味くさせちゃったらすんませんね」
ティアナ「い、いえっ。そんな気を遣われなくても…!こんな贅沢過ぎるサービスをしてもらってる時点で十分有り難いですしっ…!ですよね、零さん…!」
零「…………そうだな。悪かった。此処に来る前に不審者に会ったもんだから、何でもかんでも疑いに掛かってたのは否めない。不快な思いをさせたなら謝る」
一樹「?それはいいっすけど、不審者…?まさか、うちで取りこぼしたモンが皆さんに何か吹っ掛けたりしてんじゃ……」
エリオ「い、いやいや!そういうんじゃなくて!全然大丈夫ですから!」
目付きが鋭くなり、席から腰を上げようとする一樹から何やらただならない気配を感じ取って一行が慌てて止めに入る。そうして一樹を落ち着かせ席に座り直させると、零はテーブルの上の料理をジッと見つめて暫し口を閉ざした後、やがて薄い溜め息を吐きながら手元に用意されたフォークとスプーンを両手に取った。
零「ま、そうだな……お前とこうして飯を囲むのも久しぶりな訳だし、積もる話も他にもあるだろう?愚痴がまだあるなら少しは聞くぞ。あんま重め目なヤツじゃなければだが」
一樹「たっはは、相変わらずのぶっきらぼうっぷりっすねぇー?ほんじゃまあ、軽めな話を少々お出しするとしてぇ……こういうのはどーです?」
と、一樹は飄々と言いながら奥に控えるオーナーに指で指示を示すと、オーナーが頭を下げて零達が席に着くテーブルに静かに歩み寄り、両手に持つ数枚の紙を零の前に差し出した。
零「……これは?」
一樹「叔父達が持ってた土地や家の権利、ケツ持ちしてた店やらその他諸々の権利書っす。大体でしめて……数億は軽く超える価値あるんじゃなかったかなぁー?その全財産、零に譲渡するっす」
「「「………………。はい!!!?」」」
それまで高級料理に食い付いていた零以外の面々が、一樹が何となしに口にした聞き逃せない金額に手を止めて思わずグルン!と振り返った。
一方の零は目の前に出された数枚の紙……土地や多くの会社等の権利書の文字を一枚一枚冷めた瞳で目を通していくと、それらをテーブルの上に適当に放り出して一樹の顔を再び睨んだ。
零「単なるイタズラかと思えば、どれもガチのヤツじゃねえか……何の真似だよ一樹」
一樹「言葉の通り意味っすけど?さっきの続きになるんすけど、落とし前を付けたついでに親戚連中が持ってた財産を俺が引き継ぐ形になったんす。ただ正直な話、奴らの手垢の付いたモンに手ェ出すとか鳥肌立つぐらい嫌なんで、今回のイベントの記念客に丸ごと渡しちゃおうかと思いまして」
スバル「お、思いましてってっ…」
ギンガ「そんな簡単に人に譲渡していい金額と規模じゃないような気が……」
あまりにもスケールの大きい話に反して、軽い口調でそれらをポイッと投げ寄こすような一樹の口振りに若干引いてしまうスバルとギンガ。零は一樹をジト目で暫し睨むと、溜め息を深く吐き出して席から立ち上がった。
零「悪いが、いきなりダチからこんなモン寄越されても扱いに困るだけだ。どうしてもってんなら、次の客辺りにでも渡してやれよ」
一樹「あれ…何か機嫌損ねちゃったすかね?俺的には、そんじょそこらの赤の他人に渡すぐらいなら零なら任せられると思ったんすけど」
零「俺の何処見てンな見当外れな思い違いすんだよ……。俺達の周りでこういうの向いてるのって、どっちかといえばアリサやすずかの方だろ?それこそアイツらのどっちかにでも譲渡すりゃいいじゃねえか」
溜め息混じりにそう言いつつ、零はもう此処に用はないと出された食事を一つも口に運ぶ事なく、店の出入り口に向かって足の爪先を向けて歩き出していく。他の面々はその背中を見て、今手を付けてる料理を慌てて口の中に放り込んでその後を追い掛けて席から立っていくが、テーブルに一人残された一樹は椅子の背もたれ背中を預かるように深く座り込み、胸の内側から何かのパスを取り出した。
一樹「零」
零「?」
声を掛けられて振り返る零に目掛けて、一樹がパスを乱雑に投げ付ける。それを片手でキャッチして零が渡されたパスに視線を落とすと、その表面部分には様々なレジャー施設がポップな絵柄で描かれていた。
零「何だこれ」
一樹「うちが関わってるとこ、全部の施設の年間無料パスっすよ。元々記念客の為に用意したモンでしてね。せっかく気合いを込めて用意したのに、このまま受け取って貰えないとなると流石に俺も落ち込んじゃうんで、せめてそれぐらいは貰ってやってもらえません?それでお仲間さんを労わってやってくださいよ」
零「…………」
一樹が照れ隠しのようにそう言って零を見やると、零は渡されたパス券を空に翳して何か考えるように一度黙り込む。そして僅かな沈黙の間を置いてから小さく溜め息を溢すと、
零「わーったよ…んじゃ、ありがたく貰っとく…」
一樹「あざすっす〜。是非ともガンガン使ってやってくださいませ〜」
零「ああ……ありがとうな、一樹」
零は最後にそう言い残し、皆と共に店から去っていった。残された一樹は先程よりも明るい表情を見せ、親指を立ててウインクを飛ばしながら一行を見送った。
一樹「──はぁ……流石に土地や金を積んだくらいじゃそう簡単に墜ちる訳ないか……まあそんなんで陥落するなら、これまでのライダーの世界でとっくに脱落してるだろうし……」
暫くしてから、一樹は天井を仰ぎながら店内で独り言を呟く。その表情は何処か悔しそうにしつつ、それでいて面白いものを見るかのようなニヤつきを交えていた。
一樹「いやぁー、それにしても相変わらずの難攻不落っすねぇ。本格的に手に入れるには、アプローチも骨が折れそうだなぁ……ふふっ」
──と、一樹は口元を歪めるように楽しそうに嗤いつつ、上着のポケットから携帯を取り出し何処かへ連絡をし始める。
一樹「──俺っす。第一段階は失敗しましたが、次の段階への誘導は上手くいきました。後はそっちに任せるっすよー」
◆◇◆
高級レストランから出た零。その背中をスバル達が慌てて追い掛けて追い付き、優矢が自分達が出てきたレストランと零を交互に見ておずおずと口を開く。
優矢「な、なぁおい零、ホントに良かったのかよっ?」
零「何がだ」
スバル「な、何がって……」
ティアナ「だってその、さっきの一樹さんって零さんやなのはさん達の昔からのご友人なんですよね…?なのにあんな沢山の食事とか、一品も口にしないで断ったりとかして……」
呆れたような表情のまま皆と歩幅を合わせるように足を緩めて零が道を行く中、未だ状況が飲み込めないでいる優矢達は首を傾げるばかりだった。そんな面々に、零は溜め息混じりに呟く。
零「逆だ。昔からのダチだからこそ、何か裏があるんじゃないかと警戒してんだよ」
「「「……え?」」」
零の返答に、スバル達は再び困惑する。すると、零は続けた。
零「さっき話してた通り、アイツは生まれも育ちも生粋のヤクザ家系の人間なんだ。俺も何度かアイツの家や組に行った事はあるが、そん時の一樹の身の置かれ方も色々と厄介そうでな」
優矢「え……じゃあ、さっきの土地の権利書みたいなのもやっぱ……?」
零「そうだな。マジでああいうの渡してきたりする時は、必ず裏で別の目的があってそういう手段を使ってくる時しか見た事がない。普段は良い奴ではあるが、根っこの部分は昔から変わってないらしい。あの様子だと、まだまだ腹の中に隠してるモンもありそうだし……」
そう言いながら、先程一樹から渡された手の中の無料パスを無言で見下ろし、暫く何か熟考する素振りを見せた後、零は顔を上げながら空を仰いで溜め息を漏らした。
零「ま、何にも分かっていないこの状況、奴に裏があるんなら逆手に取って調査に利用するのも一つの手だ…。こうして新しい手掛かりが手に入った事だし、調査のついでにお前らにうちの地元のレジャー施設を堪能させてやろうじゃないか」
スバル「え、ホントですか!?やったぁ!ねぇねぇ!ティアはどうする!?私ボーリングとか行ってみたい!」
ティアナ「バッカ…!あくまでも調査の一環って意味よっ。ただ遊びにいくって訳じゃないんだからっ」
スバル「ええー?ホントにー?そんなこと言ってぇ、実は内心ウキウキしてるんじゃなギャアアアアアアアッ!?ちょっ、まっ……!無言でヘッドロックは止めてぇええええっっ!!!?」
エリオ「ティ、ティアさん落ち着いて?!そんなに締め上げたらスバルさん落ちゃいますからぁ!!」
ギンガ「あっははは……まぁ、皆も大なり小なり楽しみにしてるみたいだし、ちょっとした息抜きも兼ねて行ってみましょうか?」
キャロ「ですね。零さーん!そろそろ私達も移動を……零さん?」
額に青筋を立てて激しくタップするスバルの首に両腕を回して力を込めるティアナをエリオが慌てて横から止めに入り、そんな慌ただしい光景を前にギンガとキャロも苦笑いを浮かべつつ、自分達の後ろで高級レストランを無言で見上げる零の背中に呼び掛けるが、零はその声に応えず、険しい顔付きでレストランの外観を見上げていた。
零(今のところ、クロと確信出来る点はまだ見付かってない……ホントにお前らは、俺達が知るダチなのか……?それとも──)
先程は話の続きを適当に切り上げたが、正直、自分の中での終夜や一樹らへの疑念の念が未だ晴らせずにいる。
同時に、異世界の友人である紲那や祐輔らから度々忠告を受けてきた記憶がふとこの時になって呼び起こされていき、「もしやアレはそういう……?」と当時はピンと来ていなかった彼らのアドバイスが徐々に内心効いてきて、目を伏せて悩ましげに頭を唸らせる中、そんな零に優矢が駆け寄ってきて背中をポンッと叩いてきた。
優矢「どーしたんだよ?皆待ってるし、さっさと行こうぜ」
零「……ああ。分かってる」
とにかく今は何でもいい。この世界が本当に自分達の世界なのか、あの終夜や一樹が本当に自分が信頼を寄せていた友人なのか。
例え罠でもなんでもいい。その確たる証明を得る為にも、一樹から貰った無料パスが使用できるレジャー施設に向かおうと先を行った優矢を追い掛けて歩き出す零だが、その道中、横から突然一人の女性が零にぶつかってきた。
「きゃっ──!」
零「うおっ、と…!すまん、考え事をしてて前をちゃんと見てなかったっ。大丈夫か?」
ぶつかって後ろへ倒れそうになる女性の片腕を慌てて掴み、腕を軽く引っ張り彼女を立たせる零。女性は何処かの会社員なのか、キッチリとしたスーツ姿にメガネを掛けており、長い黒髪を揺らしながら零に向けておずおずと頭を下げた。
「い、いえ。こっちこそすみませんでした!急いでたあまり前を見てなくて……」
零「気にするな。それで言えばお互い様だ。それじゃ次からは気を付け──」
頭を下げる女性に軽く手を振り、彼女から離れようとした零の動きが不意にピタリと止まる。
ギンガ「……?零さん?」
キャロ「あの、どうかしました?」
零「──いや。なんでもない。それと悪いんだが二人とも、先に行ってスバル達の方を見てやっててくれないか?さっきの店に忘れモンしたのを思い出してな。ちょっと取りに戻ってから追い掛ける」
ギンガ「?ぁ、はい。わかりました……」
零からの突然の申し出に訝しげにしつつも、ギンガとキャロは言われた通り未だ喧嘩しているスバルとティアナの仲裁に入る為に皆の元へ走り出す。
その背中を笑って見送ると、零の表情が途端に険しくなり、頭を下げたまま何故か一向に傍を離れようとしない女性に視線を向けた。
「──意外ですね。てっきりお仲間に助けを求めるんじゃないか、内心ヒヤヒヤしていたのだけど」
零「ぬかせ。うちの可愛い教え子共に、街中で躊躇なくこんなもん突き付けるような奴を近づかせる訳ねぇだろ」
冷え切った瞳を静かに下ろす。其処にはいつの間に向けられていたのか、ネイルの様に伸びる鋭い鉄の爪が零の脇腹の前に突き付けられており、その鉄爪を身に付けた右腕をスバル達からは見えないように伸ばしている目の前の女性は、下げていた頭をゆっくりと上げて零の目線を笑って見つめ返す。
「案外余裕そうなのね。そのふてぶてしさのおかげなのかしら?貴方がこうして旅を終える事が出来たのは」
零「随分訳知り顔じゃねえか……。ただその物騒な爪には俺も見覚えがある。まさか……」
「あら。こうして顔を合わせるのは初めてだったと思うけど、何処かでコレを見る気があったのかしら?元の世界での何かのリスト?もしくは別世界の私と出会った?いずれにせよ──」
何処となく声に悦を滲ませながら喋る女性の髪が、毛先から徐々に黒から金色に変化していく。まるでホログラムが解けていくように変化していく目の前の女を前に零が僅かにたじろぐ中、髪色が完全に元に戻ったその顔で微笑む。
ドゥーエ「──その持ち主は、どれもこんな顔をしていたのではなくて?」
零「っ、お前……!」
口端を吊り上げて蠱惑的に笑うその顔には、零も見覚えがあった。
ジェイル・スカリエッティが生み出した戦闘機人、ナンバーズの2。
『揺り籠』から脱走し、今は組織の人間から追われている身の筈のドゥーエであった。