「これをお姉様が・・?」
白井はデパート内の爆発の現場にいた。
その現場のすぐ近くに爆発から無傷の空間がある。
御坂を含めた4人がいた空間。
(お姉様は電撃使い(エレクトロマスター)。能力をどう使ったら
こういう風になりますの?)
御坂の能力は白井が一番知っていると言ってもよい。
その白井ですらこの現状がどうやって作られたか予想がつかないのだ。
そして、
(そして、なにより、“もう一か所の無傷の空間”)
白井は今いる場所から離れたところにある、信乃がいた空間を見た。
(空間移動(テレポート)でも、発火能力(パイロキネシス)でも
爆発を消し去るなんて不可能ですの)
そこには同じように無傷の空間があった。
(あの方の能力は一体なんですの?)
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爆発の直前
信乃は両手を前に向けて構えた。
そして、勢いよく両手が前に出された。
発生したのは
≪風のバリア≫
そもそも風とはなにか
風とはなぜ起こるのか
風は空気の流れで発生する
空気は、空は人が思う以上に柔らかい
ほんの少しでも空の密度が違えば、密度差を埋めるために空気は移動する
それが風
そして空気もまた、風が積み重なって出来ている
風が起こすにはどうすればいいのか
密度差をおこす? 温度差を作る?
ちがう 方法はそれだけではない
大切なのは“面”
空気と空気の密度の隙間
風と風のスキマ
その、境界線
ほんの少し、手を添えてやれば、風はいともたやすくその流れを変える
ほんの少し、手を添えてやれば、風はいともたやすくその形を変える
ほんの少し、手を添えてやれば、風はいともたやすく
操ることができる。
信乃は手を出したのではなく、風の面に手を添えたのだ。
「翼の道(ウィング・ロード)
Trick - Feather Dome - 」
発生させた風のバリア。
たかが風で作り出したとは思えない程の強靭な防御。
バリアにより爆風を防いだ。
しかし、室内では大気の違いが少なく風と風のスキマも少ない。
さらに本来はA・Tを使って出す技(トリック)
体の踏ん張りも弱く、十全な防御を出す事が出来なかった。
信乃の両手は爆発の影響を受けて、火傷と切り傷で血まみれになった。
「ふぅ・・・・
なんとか、成功したみたいだな」
自傷気味に笑いながら信乃は言った。
その時には既に信乃の瞳は碧くなっていた。
風を見るため、感じるために、本気を出すために碧空の眼へと変えた。
その後、後ろを振り向いた。自傷の笑いは消えて無表情になっていた。
「それで、なんで逃げなかったんですか?」
信乃の後ろには爆発に驚いて腰を抜かしている少女。
その右手には扇子が握られているが、爆発の余波で少し穴があいている。
信乃が怒っていた。
爆弾があるという危険な状態にも関わらず、風紀委員の注意を無視した少女に。
残っている理性を総動員して怒りを抑え込み、やっとの表情がこの無表情だった。
「あ、あなた! わたくしを常盤台中学の婚后(こんごう) 光子(みつこ)と知って
質問してますの!?」
(知るかボケ)
思わず出しかけた言葉を飲み込む信乃。
腰を抜かして座ったままだが、しゃべり方だけは威張り散らしている。
質問の内容にもまともに答えていない。
そして逃げなかったことに対して反省も後悔も感じさせないことに
信乃は怒りを通り越して呆れ、少女と会話するのを諦めた。
「・・聞くだけ無駄だな・・・」
信乃は少女、婚后を無視して階段を下りていった。
「待ちなさい! あなた、わたくしを置いていくつもり!?」
信乃は振り向かず、警備員(アンチスキル)のもとへ行き、“初春たち”の保護を
お願いした。
その後に爆弾魔の、ぬいぐるみを持っていた少女と直前まで一緒にいた
くそったれ野郎の魂を探して追いかけた。
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信乃、御坂、初春が事情聴取に向かって歩いていつ途中、御坂が口を開いた。
「信乃にーちゃん、さっきあいつに言った言葉だけど・・」
≪あいつ≫とは爆弾魔のことだろう。
爆弾魔に言った言葉を聞いて御坂は信乃の4年間にあったことを想像していた。
壮絶であっただろう経験をしたからこそ言える言葉と思っていた。
「あー、あれね。深く考えないでください。私の人生経験が元で言っているわけじゃ
ありませんから」
「え?」
予想外に、信乃は軽い返事をした。
「あの言葉はですね、私の母が若いころ、自暴自棄になっていたときに言われた
言葉らしいです。私はそのまま言っただけです。人類最強の受け売りをそのままね」
「は? 人類最強?」
「とにかく急ぎましょう」
信乃は誤魔化すように歩く速度を上げた。
「「待ってよ(ください)!」」
御坂と初春もすぐに追いかけるように歩き出した。
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翌日
風紀委員177支部へ信乃は来た。
「こんにちは」
「あ、信乃さんこんにちは! 怪我の具合はどうでした・・って大丈夫ですか!?
顔色悪いですし、目の下にクマがありますよ!」
支部にはいつもの4人が来ていた。驚いた声を出したのは初春だったが、
他の3人も同じことを考えている顔だ。
信乃の表情、態度はいつもと一緒だが、顔だけは少し青白くて目の下が黒い。
「気にしないでも大丈夫ですよ」
「大丈夫に見えないからいってるんです! 病院行きましょう! 今すぐ!!」
「落ち着いてください佐天さん。怪我は全治1週間程度で問題ありませんから」
「じゃあなんでそんな顔してるのよ! どうみても大丈夫じゃないわよ!!」
「ええと、ですね・・・・傷が痛くて昨日は一睡もしていないから・・」
「「「「は?」」」」
信乃はバツが悪そうな顔をして言った。
「傷が痛くてって、痛み止めのお薬はありませんの?」
「いえ・・実は私、薬が効かない体質なんです」
「どういうことですの?」
「私も初耳よ」
信乃と一番付き合いの古い御坂も初めて知ったことで驚いたようだ。
「薬って元々は毒、ということは知ってますよね。
熱を強制的に下げる毒物を調合した解熱剤。
血圧を強制的に上げる毒物を調合した昇圧剤。
毒と薬はある意味同じなんです。
私は小さいころから免疫が異常に強くて、毒物はおろか薬さえ効かないほどです。
つまり、“神経をマヒさせる”痛み止めも同じく効かないんですよ。
まあ、気にしないでください。代わりに傷の治りも早いので、
全治1週間なら3日あれば治っていますから」
ハハハと信乃は笑っていたが、青い顔で笑われてはこちらとしては笑えなかった。
つづく