とある碧空の暴風族   作:七の名

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Trick06_ね、琴ちゃん?

 

 

 

「ゲホッ! 一度・・離・れてもらい・・ますか? ジュディスちゃん・・」

 

走ってきた勢いをそのままに抱きついた。

 

つまり全体重をかけたタックルを信乃はくらった。

 

ちなみに信乃の鳩尾の位置にジュディスの頭がぶつかった。

 

≪ジャストミート!! これは痛い!≫ と実況が聞こえそうな当たり方だ。

 

「西折のおにーちゃん~! 探してたんだよ~! 風紀委員(ジャッジメント)に

 なるって聞いたからその場所をお母さんに教えてもらったから

 会いに行こうとしてたんだよ~!」

 

そんなことは気付かずに楽しげに話し続ける少女、ジュディス。

 

信乃の頼みを無視して今だ抱きついている。

 

信乃は痩せ我慢をしているせいか、体勢は崩していないが顔は引きつっていた。

 

「とにかく離れてください・・ゲホッ・・いきなり抱きつくのは良くないですよ・・」

 

冷静を装ってしゃべるがやはり苦しくてせき込んでいる。

それを見て御坂達4人は苦笑いしていた。

 

 

 

 

どうにか離れてもらったが、ジュディスのテンションは“ハイ”のままだ。

 

「あのねあのねあのね~! 風紀委員の支部に行ったらね~! そんな人は来ないって

 支部の人に言われてどうしよ~と歩いていたら~おにーちゃんが歩いてきたから

 嬉しくて飛びついちゃった~!」

 

満々の笑みと体全体で喜びを表現するジュディス。ピョンピョン跳ねながら

しゃべる姿は小動物を連想させて可愛かった。

 

「支部の人に来ないって言われたの? どういうこと?」

 

「あれ? お姉ちゃんたちは~だれ~?」

 

「私は初春飾利っていうの。西折信乃さんとは同じ支部で働くことになったんだよ。

 よろしくねジュディスちゃん!」

 

「白井黒子、同じく風紀委員ですわ」

 

「佐天涙子よ、よろしくね」

 

「私は御坂美琴。風紀委員じゃないけどたまに悪者退治してるわ!」

 

なぜか誇らしげの御坂。無い胸を張って言う。

 

「なぜか失礼なことを言われた気がするんだけど?」

 

「気のせいですよ御坂さん。

 それよりもジュディスちゃん。4人とも、昨日のジュディスちゃんを助けるのを

 手伝ってくれましたよ。すぐ帰ったからわかりませんでしたかね?」

 

「そうなの~!? お姉ちゃんたちありがと~!!」

 

4人へとお礼を言うジュディス。

 

「さっきの話になるけど、支部の人に来ないって言われたの?」

 

初春が先程の質問を繰り返した。

 

「うん~! 体が大きくてゴリラみたいなおじさんが言ってジュディを

 追いだしたの~!!」

 

「私達の支部にゴリラみたいな方はいませんわよ?

 氏神さんの間違いではないですの?」

 

「ジュディスちゃんの行った場所ってあそこにある?」

 

佐天がジュディスの前に膝を付いて目線を合わせた。

そして自分たちが歩いてきた方向を指さした。

 

しかし、ジュディスは首を振り、右手を挙げて指した方向はすぐ100メートルの

建物だ。

 

「・・・117支部ですね・・177支部とは微妙に間違ってますわ。」

 

「ジュディスちゃんって天然さんですかね・・」

 

苦笑いの佐天に言われて首を傾げるジュディス。

 

確かに天然オーラを感じる。

 

それはともかく

 

「西折のおにーちゃん~! ジュディはのど乾いた。飲み物飲んで遊びに行こ~!」

 

再び信乃に抱きついてきた。

 

「今日はもう遅いですし、遊びに行く時間はないですよ。近くの公園に自動販売機が

 あるでしょうからそこで何か買ってから帰りましょうか。」

 

信乃は気にもせずにジュディスの肩を掴み、優しく引き離した。

 

駄々をこねる子供に言い聞かせるようにして言った。

 

「え~!? 遊びに行きたいよ~!」

 

「またお母さんが心配しますよ。」

 

「・・はーい~」

 

昨日は帰ってからなにかあったのだろう。母親のことを出すと素直に諦めた。

 

 

 

 

「買ってきましたよ。≪ヤシの実サイデー≫でいいですか?」

 

「うん~! ありがと~!」

 

買ってきた飲み物をジュディスへと渡した。

 

ジュディスはすぐに缶を開けて飲み始めた。

 

飲み物は信乃と佐天の2人で買いに行き、他の4人はベンチで待っていた。

 

ちなみに佐天は自分から買いに行くことを進言したのだが、信乃が振ってくる話には

「は、はい!」「そうですね!」としか返せず、まともな会話にはならなかった。

 

 

「みなさんもどうぞ」

 

「ありがとっ」

 

「いだたきますわ」

 

「信乃さん、佐天さん、ありがとうございます」

 

「お金を出したのは信乃さんだから、お礼は信乃さんに言ってよ初春」

 

4人と同じベンチに座る佐天。信乃はそのままベンチの正面に立つ。

 

「お礼を言われるほどのことじゃないですよ」

 

信乃は相変わらずの笑顔で返してくる。

 

「信乃さんってずっと笑顔と敬語ですよね。私達は年下ですし、気にせず

 普通にしてください!」

 

信乃の笑顔を見てずっと思っていたことを初春は聞いてきた。

 

 

「これはキャラ作りです。気にしないでください」

 

変な答えが返ってきた。

 

「またあなたはふざけた事を言いますわね・・」

 

「キャラ作りですか・・あはは・・なぜそんなことをしてるんですか?・・」

 

意外な答えに呆れた初春だが一応理由も聞く。

 

「口調の方は、ある人に仕込まれました。おかげで敬語でしゃべるのは

 慣れています。

 

 キャラ作りで笑顔と敬語を続けているのはですね、世渡りに役に立つからです。

 丁寧に接したら普通の人は敵意をあまり持たないでしょ?

 

 逆に敵対する人には挑発に取られて攻撃が単調になって戦う時に便利なんですよ」

 

「キャラ作りなら私達の前ではやらなくてもいいじゃないですか?」

 

「もう慣れてしまったのでずっとこの方が落ち着くんですよ。

 あと、私って個性があまり無いのでわざと特徴を付けているのですよ。

 というより、そっちが本音かもしれないですね」

 

「個性がないって自分で言いますか・・」

 

「だからジュディにもケーゴなの~?」

 

「そうですよ。ですから、みなさんは気にしないでください」

 

そう言っている間も笑顔と敬語を続ける。

 

「なんだかちょっと他人行儀ですね」

 

「少し寂しいですよ」

 

不満を漏らす初春と佐天。

 

「ですが、礼儀と言うのは大事ですわよ。お姉様も見習ってはいかがですの?」

 

「う、うるさいわね! 私には関係ないじゃい! それに信乃にー、じゃなくて

 信乃さんだって4年前は普通にしゃべってたわよ!」

 

「そうなんですの? では、信乃さんの4年間と同じ体験をなされば、お姉様も

 少しはお上品になるのかもしれませんわね。」

 

「え、あ・・それは」

 

何気なく言った白井の言葉だが、御坂は急にうつむき表情が暗くなる。

 

 

 

御坂は再会の時に、信乃がどのような体験をしたかを聞いた。

 

そのことを思い出して御坂は血の気が引いていった。

 

(信乃にーちゃんと、同じ体験・・そんなの・・絶対に耐えられない・・)

 

 

 

「お姉様?」

 

御坂は呼びかけが耳に入らず、ますます顔が青くなっている。

 

「お姉様? お姉様! しっかりしてくださいまし! どうしましたの!?」

 

白井が肩を掴んで強く揺らした。ようやく御坂は白井の呼びかけに気付いた。

 

「え・・、あ、いや、・・なんでもないわ、大丈夫よ」

 

「どうしたんです御坂さん? 顔が真っ青ですよ?」

 

佐天も心配そうに顔をのぞかせる。

 

「御坂のおねーちゃん~、大丈夫なの~?」

 

「気分でも悪いんですか?」

 

ジュディスも初春も心配そうに見てくる。

 

「大丈夫だって・・ちょっと考え事としていただけよ! もう平気!!」

 

明るく言う御坂だが、それはだれが見ても空元気だった。

 

 

御坂がそう言ったので周りもこれ以上は言えなくなり、沈黙が流れた。

 

不意に信乃が手を伸ばして御坂の頭を撫でた。

 

「御坂さんが気にすることじゃないですよ。あれは私の経験で同情がほしいわけも

 誰かに落ち込んでほしいわけでもありません。

 変に気を使わないでください。

 

 ね、琴ちゃん?」

 

久々に信乃から言われた小さい頃からの愛称。再会してから一度も呼ばれていなかったため、

その言葉がどこか、くすぐったくて少しだけ笑顔になった。

 

「うん、わかった・・」

 

そのまま撫でられ続ける御坂。周りも御坂がもう大丈夫だと感じた。

 

 

「こうして見ると、本当の兄妹みたいですの。」

 

「西折のおにーちゃん~! ジュディにもなでなでして~!」

 

白井とジュディスの言葉で御坂が今の状況を思い出した。

 

中学2年生にもなって頭を撫でられるこの状況はかなり恥ずかしい(御坂的に)。

 

 

すぐに信乃の手を振り払った。

 

「ちょ! やめてよ信乃にーちゃん! もう子供じゃないんだから!」

 

「その割には、されるがままでしたよ。あと、また呼び方が戻ってます」

 

「うるさい! どうでもいいでしょ今は!」

 

御坂は顔を真っ赤にして反論、信乃は何事もなかったように注意し、笑っていた。

 

白井、初春、佐天は信乃の過去が気になったが、今は触れない方がいいと思い、

これ以上、口には出さなかった。

何より、元気になった御坂を見て笑いがこぼれて来たのだった。

 

「お姉様、お顔が真っ赤ですわよ?」

 

「もう、御坂さんったら、ふふふ!」

 

「御坂さん、照れちゃって可愛いですね~!」

 

 

周りは先程の暗い雰囲気はなくなり、御坂の照れ隠しにみんなが笑っていた。

 

 

 

「さて、そろそろ暗くなってくる頃ですし、解散しましょう。ジュディスちゃんは

 私が送っていきます」

 

締めるように西折が言ったので、5人はベンチから立ち上がり始めた。

 

「そうですね、もう暗くなりますし昨日の今日ですから。佐天さん、帰りましょう!」

 

「私達も帰りましょうか、お姉様。 あ・・結局、能力についての情報を

 聞き出せませんでしたわ・・」

 

白井が思い出したようにつぶやいた。

 

 

しかし、この直後に信乃の能力を見る機会がおとずれるとは

誰も思ってなかった・・

 

 

 

 

 

 

 

「あのガキでいいんだな」

 

「ああ、間違いない。あの赤い髪だし、写真と同じ顔だ」

 

「あのガキ連れてくるだけで大金よこすなんて、変わったやつもいるもんだぜ」

 

 

6人が帰ろうとして立ち上がる光景を、木の陰から見ている男たちがいた。

 

男が持っている写真に写っているのは≪氏神ジュディス≫。

 

「連絡は行き届いているか?」

 

「ああ。金になる話って聞いてすぐに集まってきやがった。あいつらをぶちのめす

 連絡は今からメールする」

 

「そうか、じゃ行くか・・」

 

男の手には金属バット。これから楽しいことをしに行く雰囲気ではない。

 

いや、男たちにとっては楽しいことだろう。

 

イライラしているときに人を殴り、それで金が入るのなら。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

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