little Angel story〜1人の少女の物語〜   作:ムーンナイト

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初・投・稿!
2019年、あけましておめでとうございます。
今年はイノシシ年ですね。・・牡丹鍋って、美味しいんでしょうか?1度食べてみたいです。

※注意事項(2020年2月追加)
・この作品は、アイカツスターズ原作の小説が読みたい→あんまり無い→書けば読めるっ…というどこか矛盾した思考に気付かずスタートダッシュした物語となっております。

・作者であるムーンナイトはこれまでの人生で小説どころか3000文字以上の作文でさえも書いたことがありません。2700文字までならあります。論文とか無理です。でも打ち込みなら長い文章もいけるかもしれないので頑張ります。

・THE見切り発車(最重要)

以上の3点にそれぞれ2回ずつ目を通していただいた上でお読みください。

それでは、初めての物語が始まります。
どうぞ!
 


1page 始まりの始まり【挿絵あり】

 4月。競うように咲き乱れる桜に舞い散る花片(かへん)が彩りを加える、春爛漫の季節。

 

 東京都きらきら市内の高原でありながらも街からそう遠くない場所に位置する大きな建物。市内随一(ずいいち)の大型医療施設であるきらきら病院の、とある一室。

 私物が多く見られるその個室は、まるで入院している患者の性格を物語るかのように、机の上まで綺麗に整頓されていた。

 

「…」

 

 窓辺に設置された病院ベッドの上には、窓から見える少しだけ遅咲きの桜をぼんやりと眺める1人の少女。

 

 少女は背もたれになるようリモコンで操作したベッドに体を預け、物思いに(ふけ)っていた。

 

 

 ──今頃はもう、最初のレッスンが始まっているのかな…どんなことをしているのだろう。入学式も、出たかったな。

 

 四ツ星(よつぼし)学園。お姉ちゃんも通っていて、2日前に今年度の入学式が晴れやかに行われた日本有数のアイドル育成学校。

 

 シンガーを育成する(はな)歌組(うたぐみ)、女優を育成する(とり)劇組(げきぐみ)、ダンサーを育成する(かぜ)舞組(まいぐみ)、そしてモデルを育成する(つき)美組(うつくしぐみ)。花鳥風月の名前を(かん)す4つの組で、それぞれの道を極めるために日々レッスンが行われている学園。質の高いレッスンもさることながら並行して学力の向上にも力を入れているから、他のアイドル育成学校とは一線を画した人気がある。

 

 私は入学試験には合格したけれど、病気のこともあって試験後にまた入院。すでに休学届を出しているから大丈夫…でも、楽しみにしていたお姉ちゃんと一緒の学園にはまだ通うことができない。

 

 病院と同じきらきら市内に位置している四ツ星学園には顔と呼ばれる存在がいる。4つの組のそれぞれ最も優秀なアイドルから構成される、学園が誇るトップアイドルユニット・S4(エスフォー)

 

 その1人、花の歌組のS4・白鳥(しらとり)ひめ。

 

 中等部入学後わずか数ヶ月でS4に任命されて、3年生となった今もその役職を務め上げている人物。トップアイドルが集まったS4の中でも1つ抜けた実力を持っていて、今の日本を代表するとも言われている、通称()()()()()()()()()()()

 

 彼女が私の──白鳥(しらとり)ひなの、大切なお姉ちゃん。

 

 私はお姉ちゃんに似ている…と、よく言われる。ただ、お世話になった方やよくしてくれた人達からは、似ているけれど良い意味で違うと言われることが多い。

 違う点として挙げるとすれば、まず瞳の色。お姉ちゃんの眼の色は宝石みたいに綺麗な青緑色だけれど、私の眼の色はお姉ちゃんの眼より明るい青緑色に金色と銀色が加わっている。正確には青緑色から段々と色が明るく薄くなっていって、青みがかった銀色になる。そして瞳孔の周りが淡い金色。

 お姉ちゃんはひなちゃんの眼はいつ見てもとっても綺麗ね、と言ってくれる。私は、お姉ちゃんのキラキラしているパライバトルマリンのような瞳が大好き。

 

 お姉ちゃんの髪はサラサラとしていて、どちらかと言えば真っ直ぐ。それに対して私の髪は少しクルッとなっている。毛先の方がゆるりとカールしている髪だけど、これも天然パーマと言うみたい。それに、お姉ちゃんと比べると髪も短い。

 これでも前に比べたらだいぶ伸びて来たし、クルリとなっている部分をまっすぐに伸ばしたらお姉ちゃんと同じくらいになる…かな?ううん、やっぱりまだ短いかも。

 

 お姉ちゃんと同じく0歳の頃から芸能カツドウをしていたから、モデルや子役のお仕事をたくさん経験して、幼い頃は楽しいことや嬉しいことが毎日盛りだくさんだった。

 8歳になる少し前に活動を休止してからはお仕事もしていなかったから、モデルや子役として出ていた期間はお姉ちゃんと比べると少ない。

 

 優しくて、(つよ)くて、でも時々悲しげで寂しげな色を瞳ににじませながら微笑むお姉ちゃん。

 白鳥ひめというアイドルは私の憧れで、白鳥ひめという人は私の大好きなお姉ちゃん。

 

 ……私は、お姉ちゃんの横に並びたい。追い越していくのではなくて、うしろからついていくのでもなくて、隣に。…1番難しいかも知れないけれど、同じ場所に行きたい。同じ景色を見てみたい。

 

 みんなの心にも(きら)めきを届けたい。

 悲しんでいる人、泣いている人、すべての人に本物の笑顔を浮かべてほしい。

 

 これが私の大きな夢。

 

 せっかく夢が叶えられる…アイドルになれる学園に進学したのだから………

 

 

 ────早く、行きたい。

 

 

 ☆☆☆☆

 

 

「〜〜♪」

 

 学園の入学式が行われてから3ヶ月、ようやく待ちわびていた退院の日になった。…と言っても、8月にはもう1度検査入院をしにくるのだけど。

 

 春から病室を移動して過ごしていたこの1人部屋にもまた来るから、着替えや生活用品、その他の物もこのまま置いていく。

 この病棟ではこういう子が多いけれど、入院する人が多かったり入れ替わりが激しい一般病棟だと退院する度に荷物を全部持ち帰らないといけないみたい。…そもそも何度も入院をしないし、期間だって短い人が大半だから。

 

 退院したらまずは、1度お家に帰ったほうがいいのかな?

 でも、荷物を持って帰る必要もないし…やっぱりそのまま制服を着て四ツ星学園へ向かおう。

 

 "ピロリロリロリン"

 

 ベッドから1歩離れた所にある机の上に置いていたアイカツモバイルが()り始めた。入院中にこのモバイルと私の生徒証をクラス担任の(ひびき)アンナ先生が持って来てくれたの。学園に着いたらアンナ先生や学園長先生の所へご挨拶にも行かないと…!

 

 えっと、電話?

 ベッドから降りて卓上のモバイルを手に取る。

 

 相手は…お姉ちゃん!

 

「もしもし?」

 

 ポチッと電話に出るボタンを押して、ひんやりとしているアイカツモバイルを耳に当てながら備え付けのソファに腰を落とす。

 

《ひなちゃん?今大丈夫だったかしら?》

 

 久し振りに聴く、お姉ちゃんが私の名前を呼んでくれる時の柔らかな声。

 

「うん!大丈夫。どうかしたの?」

 

 前にこうやって電話でお話したのは確か、お姉ちゃん達が主演するドラマの撮影が始まる前の日だったよね。昔私がお世話になった岡本監督からよろしく言われた…とベースの練習をしながら伝えてくれた。

 

 アイカツTVに出演しているお姉ちゃんの姿は見てはいたけれど、こうしてお話するのは本当に久し振り。ベースの練習中にかけてくれた電話は忙しい時だったからか、岡本監督からのメッセージを伝えられてすぐ終わってしまったから。

 いつも何か連絡が来るのはメールでのことがほとんどだったけれど、お姉ちゃんが3年生になってからはそのやりとりもほぼなくなっている。忙しいだろうし無理に連絡はしなくていいよと言ったけれど、少しだけ声を聞きたい時もあったり…。

 

 でもそれは、我儘(わがまま)だよね。

 

《ひなちゃん、今日が退院の日でしょう?会いたくなって電話しちゃったの》

 

 お姉ちゃんの綺麗な声が優しく耳に響く。

 生まれた時からずっと側で聞いていたし、やっぱりどこか安心する。口元が自然と(ほころ)んだ。

 

「ありがとう、お姉ちゃん。お仕事は大丈夫?」

 

 最近はいつにも増して忙しそうだったから。

 

《それがね、いくつか取材を終えたら今日はもうオフなの!だけどドレスのデザインも考えなくちゃいけなくて…。ひなちゃん、私の所まで来れるかしら?》

 

「お姉ちゃんの所?学園のお部屋…?」

 

 ここから学園、S4の(やかた)に行くまでの道順は…、大丈夫そう。

 

《えぇ。学園長にはもう話を通してあるし夜空達にも連絡しておいたから、学園に着いたらまずまっすぐ来て大丈夫よ。去年学園祭へ来てくれた時のこと、覚えてる?病院からの道順も送った方がいいわよね。あとは…》

 

 学園前までは電車で行こうかな。

 

「道のりは覚えているから大丈夫♪退院手続きが終わったらすぐに行くね、お姉ちゃん」

 

《わかったわ。それじゃあ私は、頃合いを見計らって紅茶をいれながら待ってるわね》

 

 お互いにまたねと言って電話を切って、1呼吸する。扉が軽くノックされた後にカラカラと開かれた。

 

「ひなちゃん、検査の時間よー」

 

 看護師の椎名(しいな)(あずさ)さん。

 私が初めて入院した少しあとに新米の看護師さんになって、それからずっとお世話になり続けている人。

 看護師になる前段階として実習に来た梓さんにお仕事を教えていた看護師さんから、梓ちゃんと呼んであげてねと何度も言われた名残(なご)りで今でも梓さんと呼んでしまう。直さなくちゃと思っていたけれど、梓さんがそのままで良いと言ってくれたから呼び方はそのまま。

 

「は〜い!」

 

 今日は退院前の測定と一緒に軽く検査をするだけかな。

 

「──いっしょにしんけいすいじゃくやろって、ゆうくんがいったんだよ!」

 

「でも、あいババぬきやりたいっていってたじゃん!」

 

 カードゲームや折り紙で遊べるプレイルームの前を通ると、中からよく通る元気な声が聞こえてきた。

 

「あらら。おチビさん達、また喧嘩してるみたい」

 

 おチビさん達…ゆう君とあいちゃんは低学年組の2人。

 古川(ふるかわ)ゆう君と西野(にしの)あいちゃんというお名前なのだけど、2人はいとこ同士なの。

 

 ゆう君のお母さんの優美(ゆみ)さんとあいちゃんのお父さんの優慈(ゆうじ)さん、ゆう君のお父さんの龍真(りゅうま)さんとあいちゃんのお母さんの真愛(まな)さんがそれぞれ兄弟だから、2人の顔立ちは双子かと思うくらいよく似ている。最初にこの家族関係を聞いた時はなんだかややこしくて首を傾げてしまったっけ…。

 

 喧嘩というよりも、2人とも相手のやりたがっている遊びをやろうとしているだけ。とっても優しい子たちだけど少し頑固な所があるからよく口喧嘩になっている。大抵はこのあとジャンケンで決めようということになるからすぐに仲直り。

 保育士さん達は、今日はどっちになるのかしらとニコニコしながら見守っている。私も検査が終わったら2人のところに遊びに行こうかな。少しの間会えなくなるからお話もしたいし。

 

 ☆☆☆☆

 

 検査をした後、先生からこれからの予定や注意事を聞いて終わり。

 

 年少組のお部屋にも寄ったあと、今回はあいちゃんがジャンケンに勝ったらしく神経衰弱をしていた2人の所へ。少しだけ一緒に遊んでから3人でお話をした。

 四ツ星学園と言えばアイドル。そこに行くと聞いて、アイドル好きなあいちゃんは目をキラキラさせながら色々お話をしてくれた。ゆうくんも気になるみたいでどこかソワソワとしていて、2人共とっても可愛かった。

 そのあと退院手続きも済ませた私はきらきら市内を走る電車に乗って四ツ星学園に向かっているのだけど…。

 

 

 雨が()り始めた。

 

 

 天気予報を確認した時、雨予報はなかったのに…!

 少し前から始まった頭痛に嫌な予感はしていたけれど、やっぱりザァーっと降り出して来た。

 みんなには看護師さん達がついてくれているし、先生もいるから大丈夫…。…っ。

 

 ・・・いたいなぁ。

 

 胸元を手で少しだけ押さえながら考える。

 雨は苦手。気象病…とも言われているけれど。

 雨というよりも、低気圧が苦手…。頭は痛くなるし、眩暈がして体も重くなる。

 他にもあるけれど私の場合…加えて胸も痛むから。病気のせいで起こる発作は時々あの時みたいに強く痛むから、すごく苦しい。

 天気予報で想定されていれば少しは良いけれど、今のように突然雨が降り出した時は本当に苦しくなる。

 

 でも、まだ大丈夫…

 我慢すれば…無視すればどうという事もない。そう自分に言い聞かせて思考を切り替える。

 

 私の心配は、ただ1つ。

 

 

 

 ──お姉ちゃん…!

 

 

 

 お姉ちゃんは雨の時、私よりひどく体調を崩す。

 小さな頃からそうで、でも大人の前だと心配をかけたくないと無理をして。人の視線がなくなった途端(とたん)イヤな感じにぐらりと揺れて、慌てて抱きつくように支えたら汗がびっしょりで…

 

 撮影中にひどい雨が降った時も周りに人がいる時はずっと笑顔だったけれど、2人だけになった時はすごく苦しそうで。私はただずっと、お姉ちゃんのイタイイタイ治ってと言って手を握っていた。それだけでもすごく落ち着くと言ってくれたから。

 

 今でもあまり変わっていない、カメラの前やみんなの前では休めないお姉ちゃんの性格。本当に辛い時には休んでほしいのに…。

 何度かアイカツモバイルを取り出して連絡してみようとしたけれど、結局スクールバッグの中にしまった。

 

 もし休んでいるなら、邪魔をしてしまう。

 眠っているのならそのまま寝かせてあげたい。

 お姉ちゃんはきちんと休んでるはず。

 だから大丈夫。

 

 (ぬぐ)っても消えない嫌な予感を振り払うように天気予報を見てみると、降っているのは突発的な雨で今日の夜には止む予報が出ていた。

 安心したのも束の間、これからさらにひどくなるという一文を読んで血の気が引く。

 

 これ以上、胸が痛くなるのは…。

 

 顔に出さないで()()を演じ切るのに、支障が出るかもしれない…。不安や痛みで震えそうになる手をギュッと握りしめる。

 

 お姉ちゃん。お願い、休んでいてね。

 

 ☆☆☆☆

 

《次はー 四ツ星学園前ー 四ツ星学園前でぇー ございます。お降りの際はー 足元にぃー お気をつけ下さい》

 

 電車から降りて外に出る。雨は一段と強くなっていた。

 

「(えっと、ここからは…)」

 

 スクールバッグに入れておいた大きめの折り畳み傘を差しながら道なりに進み、四ツ星学園の門をくぐって記憶を頼りに進んでいく。

 まっすぐ続く道を途中で曲がり、上から見ると本館を中心に円を描いている道を進む。劇組のスタジオに続く道も通り過ぎて、右に曲がる。…あそこに見えているのは寮かな?学園案内パンフレットに載っていた気がする。

 そこを通り過ぎて少し歩くと、大きなお城が見えてきた。

 S4の(やかた)と呼ばれているけれど、お城の方が似合うと思う。お姉ちゃんは館と寮、2つの呼び方を使うみたい。

 雨の中だからなのか近くに来たからなのか、以前遠目に見た時よりも迫力を感じる…

 

「ここで合っているはず…」

 

 外れていたら困るけれど、多分大丈夫。

 橋のようになっている道を歩いて扉の前で傘を閉じる。濡れないようにできるだけしっかりと傘をさしていたつもりだったのに、制服は少し濡れていた。

 

「(胸の痛みが強くなってきているし、息も苦しい…。でも、大丈夫、大丈夫。私は大丈夫)」

 

 自己暗示をしっかりとかけて(くも)りかけていた表情を元に戻したあと、水を飛ばした傘を丁寧に畳んでいく。

 

「ひめ?」

 

 突然、うしろから声を掛けられた。

 

 その声に慌てて振り向くと、そこにいたのは鳥の劇組トップ・S4の如月(きさらぎ)ツバサ先輩。

 少しぼーっとしていたのとこの雨の音で、先輩が近づいてくる足音に気付けなかったみたい。

 

「すみません。私、白鳥ひめの妹の、白鳥ひなと言います」

 

 そう言いながら頭を下げる。

 

「あぁ、そうか。君が…。いや、すまない。…はぁ、私も少し焦っていたのかも知れないな」

 

 ニコリとしながら答えてくれた先輩はとてもカッコよかったけれど、混乱している様にも見えた。どちらかというと()()()()()()()()ような…それにしても、何を焦っていたのかな?

 

「そういえば…ひめは雨で具合が悪くなるけど、君は大丈夫なのか?」

 

 いきなり痛いところを突かれた。

 

「えぇ、まぁ…」

 

 誤魔化す様にそれだけ答える。一瞬怪訝(けげん)そうな顔をしたけれど、先輩は直ぐ笑顔になった。切り替えがとても早いみたい。

 

「そうか。それなら良いんだ。そろそろ入ろうか、ひめに会いに来たんだろう?」

 

 そう言いながらツバサ先輩は扉を開けてくれた。

 

「はい、お邪魔します」

 

 はぐらかしてしまったけれど、実際はあまり大丈夫じゃない…。

 …でも、お姉ちゃんの方がきっと辛いだろうから。

 私はまだ大丈夫。あの時より痛くない。あの時より苦しくないから。

 

 ・・・あれ?そういえば私、お姉ちゃんのお部屋がどこか、知らないかも…。

 

 

 

 side:ツバサ

 

 仕事が終わり、学園に帰っている途中で雨が降り出した。

 見る見るうちに雨脚は強くなり、乗っているリムジンの窓ガラスがぼやける。

 

 ひめ・・・。

 私は同じS4であるひめの事を思った。

 彼女は雨…低気圧が苦手だ。苦手というより天敵といったほうがいいかもしれないレベルで体調が悪くなってしまう。

 

 今日は何件か取材を終わらせたら後はオフだと言っていたから、今は館にいるだろう。とりあえずは一安心だな。

 

 ロケに行っているゆずと夜空に大丈夫かメールを送る。夜空は私より少し遅れて帰って来るが、ゆずは近場で泊まりだったはず。海での撮影と言っていたが、この天気だとどうなるだろう…。

 生徒会長として。同じS4として。

 ひめにも送ろうとしたけど、少し迷ってやめた。休んでいるときに起こしてしまう可能性があったからだ。

 

 大丈夫かな…。

 同じ考えが頭の中をぐるぐると回っている。

 

 私は初めてひめが自分の弱さを見せてくれたとき自分に誓った。

 

 私が守る。

 

 カメラの前では休めない性格。趣味はお昼寝!と豪語(ごうご)しているが、アレだけは、お昼寝とは言わない。

 それに気付いたゆずを始めとして、私や夜空は知っている。ひめの()()()の中には時々、極度の疲れからくる自己防衛の様なものが混ざっていると。勿論、元々昼寝が好きだったのもあるからひめはよく眠るのだが…。自己防衛のお昼寝が普通の昼寝に混ざって起こるのは、そうでもしないとひめの体がいつか壊れてしまうから。

 それをひめは理解していて、コントロールもしている。

 

 眠るといってもその眠り方は糸が切れた人形の様な感じだから、初めて見た時は倒れたのかと思った。

 それくらいパタリと寝るのに加えてどこでも寝られてしまうから、いつか怪我をしないか気が気じゃない。

 …気にしないといけない周りからの目が無くなった時、星々の集いでピンと張っていた気の糸が切れた瞬間、仕事から帰ってきた夜。ひめはパタリと眠る。オフの時なんかは、普通の昼寝も交えて1日中眠っている事だってあった。うとうとし始めたら、眠いのかと声をかける間も無く眠りに入るのだ。

 理解している人は少ないが、ひめはかなり華奢(きゃしゃ)で思っているよりも小さかったりする。どうやってあの体からステージの時の力が溢れ出ているのか疑いたくなるほど…。

 恵まれた基礎体力に続けたトレーニングで得たモノを加えても(なお)、体への負担は減らない。

 

 それ(ゆえ)に彼女は眠る。

 私は彼女が安心して眠れるように、彼女を守る。側にいる。

 

「如月さん、到着致しました」

 

 運転手の方から声が掛かる。

 いつの間にか学園に着いて止まっていたらしい。普段は目的地に到着したら私からお礼を言って車を降りているのもあり、運転手の方から声がかかる事はほとんどなかった。どうやら考え込んでいたせいで到着にしばらく気付かなかったようだ。

 

「ありがとうございました」

 

 傘をさしながら車を降りて、一礼してから館に向かう。

 雨は豪雨となっていて、降ってくる雨のせいで先があまり見えない程だった。

 

 ひめ・・・!

 

 足は自然と早足になる。

 (ようや)く館が見えてきた時、扉の前に誰か立っているのが見えた。

 

 こんな時に来客なんて珍しいな。

 そんな事を考えながら近付き、思わず立ち止まった。

 

「!」

 

 スラリと細く華奢な足、ハーフアップで纏められた絹のように綺麗なブロンドの髪。

 見慣れた後ろ姿に思わず声を掛ける。

 

「ひめ?」

 

 その声に、少女はふわりと振り返った。

 

 ひめではなかった。

 似てはいるが、瞳の色がひめとはまた違った輝きを放っていて、ひめよりも更に幼い印象を受ける顔立ちをしている。

 

「すみません。私、白鳥ひめの妹の、白鳥ひなと言います」

 

 そう言うと、彼女はぺこりと可愛らしいがどこか洗練された動作で頭を下げた。

 少し落ち着いて見ると、髪の色や長さ、肌の色も…ひめとは違う点が色々見えてくる。

 

 ・・・白鳥ひな。

 何年か前までメディアに出ていた頃の姿が目の前の彼女に重なる。

 前にひめからも聞いた。

 

 ──「あの子は私と同等か…いいえ。きっとそれ以上のアイドルになれるわ」

 

 そう言ったひめの顔はとても誇らしそうで、でもほんの少しだけ寂しげだった。

 

 そういえば今日、妹が来るってキラキラインでも連絡が来ていたな。

 昨日の夜から終始ご機嫌だったのもそういう事だったのか。

 

「あぁ、そうか。君が…。いや、すまない。…はぁ、私も少し焦っていたのかも知れないな」

 

 思わず声に出てしまって少し慌てた。落ち着いて考えれば、ひめが一般生徒の制服を着ているわけがないか。

 

 内心の混乱を隠して、顔に笑顔を浮かべる。(いつわ)っているようだからあまりしないが、こうすれば中々感情を見破られる事はない。

 彼女は傘をたたんでいた様で、手元には綺麗に畳まれたパステルブルーの折り畳み傘があった。前にひめが同じ様なパステルピンクの傘を持っていたから、お揃いなのだろうか。

 それより、ひめは…。

 そこまで考えて、私はある疑問を浮かべた。

 

「そういえば…ひめは雨で具合が悪くなるけど、君は大丈夫なのか?」

 

 ひめ特有の体質なのかもしれないが、少し気になった。

 すると少しだけ仕方ないというような笑みを浮かべた後、

 

「えぇ、まぁ…」

 

 と言われた。

 どちらとも取れる言い方だが…

 一瞬疑問が浮かんだものの、すぐに切り替える。

 

「そうか。それなら良いんだ。そろそろ入ろうか、ひめに会いに来たんだろう?」

 

「はい。お邪魔します」

 

☆☆☆☆

 

 ここのロビーに初めて入った人は大抵その豪華さに息を呑むが、白鳥は…(まぎ)らわしいな。ひなで良いか。

 ひなは首を動かして見渡しただけで、あまり驚いてはいない様子だった。

 

「初めて入った人は大抵驚くんだけど…例外かな?」

 

 少しだけニヤっとした笑みを浮かべてそう声を掛けると、ひなはパッとこちらに顔を向けた。

 

 明るい場所に来て初めて向けられた瞳は、明るい青緑色に銀色。それに金色も。かなり珍しい色だな。

 あまり見る事の無い光を放つ瞳に思わず視界を奪われる。

 

「いいえ、驚きました!でも、お姉ちゃんはどこにいるのかなと、つい探してしまって…」

 

 その顔にはまだ見えない姉を心配する妹の表情があった。

 ひめにも言える事なのだが、先程からひなはずっと微笑んで笑顔を保っていた。そのせいもあってか雰囲気も年齢に似合わないくらい大人びていて、こちらからは何を考えているのか分からなかった。だけど、今心配そうな顔になった瞬間に雰囲気も変わった。

 ちゃんと年相応の表情になれることが分かって、何故か安堵(あんど)した私がいた。

 

「ひめなら自分の部屋で休んでいると思う。私も心配だし、一緒に行こうか」

 

 そう話すと、ひなの表情が明るくなった。そういえばひめは彼女に部屋の位置を知らせていたのだろうか。

 しっかりしているようでたまにどこか抜けているのがひめだ。忘れていた可能性が高いな。

 

「よろしくお願いします、ツバサ先輩!」

 

 廊下を歩き、ひめの部屋に向かう。

 

「ここだ」

 

 コンコンコン、とノックをする。

 ひめは耳が良い。体調が悪い時でも何かしら反応を返してくれる。

 

「ひめ、入っていいか?」

 

 しかし少し待っても中からの反応は無く、シーンとしていた。

 …何かあったのか?

 

「ひめ?入るぞ」

 

 もう1度ノックをした後にかちゃりと扉を開け、私はひめの部屋へ入っていった。

 




良いですよねお鍋。
改めまして、ムーンナイトと申します。
好きなものは寄せ鍋です。
これからのんびりと投稿をさせて頂きますので、どうぞよろしくお願い致します。

↓入院中のひなちゃん

【挿絵表示】


↓ツバサ先輩との出会い

【挿絵表示】

(2019年8月・文書整形やルビ振りを行いました。☆☆☆☆のマークがある際はその都度時間が飛んでいると認識していただければ幸いです。場面転換のようなものですね。
それと初投稿時のムーンナイトはどれだけお鍋が食べたかったんでしょうか。短い文の中に3回もお鍋という単語が出てきてます。お鍋食べたくなってきました。
(2020年2月・物語を読む上での注意を前書きに追加しました。
(2022年2月・挿絵を挿入しました。

あ、微シリアス注意です(遅い)
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