little Angel story〜1人の少女の物語〜 作:ムーンナイト
1行で分かったりしなくもない前回のあらすじ
・ここから始まる、私の物語!
※今回、体調不良の描写があります。
苦手という方には(以下略
side:ひな
あ、れ…?
ステージ、終わったの?
たくさんの拍手の音が聞こえる。嬉しいはずなのに、ぐわんと耳に響く。
状況が分からない。でもここはまだ、舞台の上。辛そうな顔なんてしてはいけないから、顔に笑顔を浮かべる。
「────結果、白鳥ひなの歌組加入が決定し────らは歌組のメンバーとして、さらなる──」
学園長先生、だよね。
所々聞こえなかったけれど。歌組、入れたみたい…!
浮かべた笑顔が、本物に変わった。・・・でも、どこか体が、ふわふわとしている。
学園長先生が私の方を見て頷き、舞台袖に下がるように
目線を少し上に上げる。
あ、2階席にいるの、きっとお姉ちゃんだよね。赤い制服を着た人が見えた。髪色も大好きなお姉ちゃんの色だった。
一瞬だけはっきりと目が合ったと思ったけれど、すぐに視界が歪んでボヤける。
何だか、…見えない…。
力が、抜けて…
・・ダメっ!
危なかった。
危うく倒れそうになった。
ぐっと足に力を入れて、お辞儀をする。早く下がらないと、このままじゃ…。客席にいる人達の反応も見れないまま、
舞台の裏には、何段かの階段。
1歩踏み出すけれど、視界はもうおかしくなっていた。
階段、降りれている…?
足元がぐにゃぐにゃとしていて、すごく歩きづらい…。多分、この段で最後。
・・・つっ!
「ケホ、ゲホッ!ケホッ!」
力が、入らない…!
喉に何か詰まったような感じで、息を整える暇もなく咳が出る。
「────丈夫か⁉︎」
──アンナ、先生…?
先生が側まで来てくれているみたいだけど、分からない。
「ケホ!だ、大丈夫です・・」
とりあえず、立たなきゃ。
なのに、立とうとしても、立てない…!
体が私の意思に反して
あ、ダメ…
暗くなっていく視界の中に、アンナ先生の声だけが響いていた。
side:響 アンナ
ステージを終えて舞台裏へ戻ってきた白鳥が、階段を降りきった所で膝から崩れ落ちた。サッと血の気が引く。
「白鳥!大丈夫か⁉︎」
慌てて支えに行き肩に手を置く。白鳥は体を支えるように床に片手をついて喉元にもう片方の手を当てながら、苦しそうに咳き込んでいた。
「ケホ!だ、大丈夫です・・」
明らかに大丈夫じゃない。
苦しそうにしながら薄く笑顔を浮かべた直後。白鳥の体がくらりと揺れる。
危ない!
っと、セーフ。
ギリギリ支えられたぜ。
「白鳥!しっかりしろ!白鳥‼︎」
声を掛けるが、反応は無い。
意識を失っている。
「響先生」
いきなり声が聞こえ、ばっと顔を向ける。若干険しい表情を浮かべた学園長がいた。
「学園長!」
眉根を少し寄せたままの学園長は膝をついて白鳥が意識を失っているのを確認した後、フッと息を吐いてアタシと目を合わせる。
「
「分かりました」
了解と頷く。
「頼む」
そう言うと学園長はまた舞台へ向かった。少し時間を作ってくれるのだろう。他の生徒と鉢合わせないように白鳥を運んだ後、桃子に連絡するか。
side:ひめ
「集会も終わった事だし、帰りましょう?」
夜空の提案で私たちは一旦会話を中断して席を立つ。
学園長によるかなり長めの挨拶で締め括られた集会が終わって少し経つ下のフロアからは、まだ興奮冷めやらないざわめきが聞こえている。
なんとなく扉の方に目を向けたら、
「白鳥」
ツバサに用事かと思ったのだけれど。
先生が呼んだのは私だった。
「はい」
皆には先に帰っておいてもらうようにジェスチャーをして、反転して扉の方へ向かう八千草先生に着いて行く。
扉から出た所で先生がこちらを向き、少し周りを確認した後に口を開いた。
「アンナから連絡があったわ。すぐ保健室へ向かいなさい」
保健室…?アンナ先生から?
一体何が………。
──っ、まさか!
「分かりました」
頷いて八千草先生にお礼を言ったあと、保健室の方へ足を向ける。
この嫌な予感が、当たらないといいのだけど…
☆☆☆☆
本来、廊下は走っちゃいけない。
私は生徒の
最後には走りながら保健室に向かっていた。
・・ひと気が無くて良かった…、そんな事を考えていたら、保健室が見えた。扉は…開いてる。
1呼吸して息を整えた後に、コンコンとノックをしながら入り口に立つ。
「失礼します」
何かの書類を見ていた保健室の先生が顔を上げた。
「どうぞ」
頭を下げてから保健室に入り、後ろ手で扉を閉める。
「白鳥、こっちだ」
カーテンで仕切られている1番奥のスペースからアンナ先生が出てきた。
「アンナ先生」
手招きをされてそこに行く。私は自分の嫌な予感が当たってしまった事を理解した。
「っ…ひなちゃん…!」
そこにいたのは、ついさっきまで歌とパフォーマンスでホールを震わせていた、私の妹。
違うのは、意識を失っているかいないか。ずっと前…夢で見たあの時と重なるように、ひなちゃんがベッドに横たわっている。
早足でベッドの横まで行き
「ステージが終わった後に倒れたんだ」
さっき感じた違和感は、間違っていなかった。すぐに行ってあげれば良かった。初めてのステージを終えたこの子を舞台裏で迎えてあげればよかった。
倒れてしまったのだから、ステージが終わった後は苦しかったはずなのに。
「そう、ですか」
後悔先に立たず。
頭からは手を離して、脈を測られたのか片方だけベッドの上に出ているひなちゃんの手に自分の手を少しだけ重ねてみる。
いつのまにか、私の手とひなちゃんの手は同じくらいの大きさになっていて。…もっと、小さいと思っていた。
陶器の様にきめ細やかな肌の、ひなちゃんの綺麗な手。今は血の気がないせいで恐ろしいほど白くなってる手は、少しでも力を入れたらぱりんと壊れてしまいそう。
携帯を取り出して何かを確認したアンナ先生にトンと肩を叩かれる。
「白鳥、学園長から連絡だ。学園長室に来い、だと」
学園長…。
「分かりました」
またあとで来るわね。ひなちゃん…。
後ろ髪を引かれる思いで、今度は学園長室へと足を向けた。
side:諸星
“コンコンコン”
部屋に、ノックされた音が響く。
「白鳥です」
来たか。
「入りたまえ」
いつも通り声を掛ける。
「失礼します」
ガチャリと音を立てて白鳥が入って来た。
・・やはり似ているな。
「早速だが、本題に入る」
コツコツと歩き、机の前で立ち止まった白鳥ひめ。
「…ひなちゃんの事、ですね」
おそらくファンの前では見せる事がほぼ無いであろう、笑顔ではない、いつになく真剣な表情の彼女を見る。
「あぁ、そうだ。君から見て白鳥ひなのステージはどうだった」
あまり間をおかずに、白鳥は口を開いた。
「妹と言う点を差し引いても、余りあるほど素晴らしい初ステージでした」
正当な評価だ。
「今回、白鳥ひなが歌組に入るために、私からいくつか条件を出した。一つ目は、歌の指定。二つ目は観客満足度75%を超えること」
やはりと言うべきか、白鳥は眉をひそめた。
「歌の指定はともかく、75%ですか?」
少し怒っているか。
いや、かなり怒っているのだろう。
それはそうだろう。ステージだけで75%なんて、並大抵の生徒ができることではない。
ただでさえセルフプロデュースが基本の四ツ星学園で、歌の指定も
「私も熱くなってしまった。下げようとしたが、その前に本人に
実力の壁。それは、アイドル誰しもいつかは意識しなければならない時が来る。白鳥ひなはその壁を他の一年生よりもかなり早くに意識していた。
「行ったテスト、筆記は満点。そして、ステージの観客満足度は89%だった」
そこで白鳥が反応をする。
「それは…」
「あぁ。君が一年生の時に叩き出した81%を上回る快挙だ」
素晴らしい事だ。
素晴らしい事だが…。
…今回は、その才能が命取りになるかもしれん。
「力の発現」
その言葉に、白鳥は本当に
「私やゆめちゃんと同じ…ですか」
認めたくないような、若干苦々しい表情を浮かべる白鳥。
「あぁ、おそらく。だがもしそうならば、虹野よりも、その力は強いだろう」
あれが実力なのか、それとも力によるものなのか。
もしも力によるものだった場合。力は選ばれた者の本当の力、つまり才能に比例して強くなる筈だ。
虹野も何十年…いや、もしかすると百年に一人程の
彼女には虹野よりも早く限界が来るかもしれない。
「では、私がサポートを…」
やはりそうなるか。
白鳥には辛いだろうが、いばらの道を歩んでもらわねばならない。
「しないでくれ」
「っ!何故ですか?」
今の反応は、あの力を体験した者としても、そして姉としてもの反応だろう。
だからこそ、しないで欲しいのだ。
「君には、虹野のサポートに徹して貰いたい。白鳥ひなには、自力で乗り越えてもらう」
再び真剣な表情になった白鳥。
「それは…あの力に一人で向かえと言うことでしょうか?」
孤独…
何より白鳥ひめ本人がよく知っているであろう辛いものだ。
「あぁ、そうだ。正確には、力の事に関して、君には関与しないでもらいたい。その他のアイドルとしてのアドバイスなら、して構わない」
言葉を選びながらゆっくりと伝える。
これまで真剣な表情を崩さなかった白鳥の顔が、僅かに歪む。
「そんな事をして、あの子に何かあったらっ…!」
やはり、姉としての感情が勝ったか。
少し黙ると、どういう事か気付いた彼女。ハッとした表情を浮かべた後、悔しそうに目線を下に向けた。
「私は、君と同じように、白鳥ひなが自分自身の力であの力を乗り越えられると信じている。もしも乗り越えられずに時が来たら、君が話をするといい」
これは、白鳥ひめにとって辛い選択だろう。何しろ妹をいばらの道へと送り出す選択なのだから。
それでも、そうしなくてはならない。その理由が分かってしまったからこその
「…わかりました」
目を閉じて、彼女は答えを出す。
「君には迷惑をかける。すまない」
「いえ、失礼します」
そのまま彼女は部屋を去って行った。
いくらS4とは言え、まだ中学三年生だ。そんな彼女に、私が背負わせてしまっているものは計り知れないだろう。
嫌われても構わない。恨まれようと構わない。
どれだけ私が世間からのバッシングを受けようとも。
アイドル生命が絶たれてしまわないように、退学を強いる事になったとしても。
あの力を乗り越えさせるために、様々な困難をぶつけよう。
それが、学園長として、私に出来ることの全てだ。
side:ひめ
理由が分かった。分かってしまった。それがとても悔しくて。きっと今の私は、ひどい顔をしている。
ひなちゃんを1人に…孤独に…?
「失礼します」
学園長との会話を頭の中で
「はいどうぞ。アンナ先生はさっき戻ったわよ」
事情を深く聞かずにいてくれるこの先生には、1年生の頃からお世話になっている。今日だって、ひなちゃんが運ばれて来ても深くは聞かずに寝かせてくれたはず。
「分かりました。ありがとうございます」
先生にお礼を言い、ひなちゃんのベッドに近づく。
…まだ目は覚めていないみたい。
「・・・」
綺麗な額に、うっすらと浮かんでいる汗。
懐からハンカチを取り出して、起こさない様に優しく拭く。悪い夢を見ていないといいけど。
ベッドの側にあった椅子を手元に引き寄せて腰掛ける。
この行動がさっき夢で見たものの続き、過去の光景に重なって、言いようのない不安が胸に広がった。
…大丈夫。そう自分に言い聞かせて、深呼吸。
ステージが終わった後に、力が発現した影響で体力が尽きて倒れてしまっただけ。目を覚まさない事なんて無い。
…意識を切り替えても、何となく不安が残っていて。
もう1度ひなちゃんの手を握る。
こうしてひなちゃんの手をギュっと握ったのは、いつ以来かしら…。
四ツ星に来てからもそうだけど2年生になってからは時間が殆どなくなって、会いに行くことさえままならなくなってしまっていたから。最後に会ったのだって、ひなちゃんが四ツ星に合格した時にほんの少し話しただけだもの。
どうか、ひなちゃんが力を乗り越えられますように。
そう祈りながら、絹の様な手触りの髪を撫でて頬に触れる。
少し苦しそうだったのに、そうするとひなちゃんの表情は
自分の表情が、その顔を見ただけで和らぐのが分かった。
握っている手に視線を落としながら、少し目を瞑る。
お願い。私のように、乗り越えて…。
「……ん…」
…!
パッと手を離す。ひなちゃんの方を見ると、うっすらと目を開けていた。
「ひなちゃん、目が覚めた?」
そう声を掛けると、ひなちゃんはゆっくりと
「……おねえ…ちゃん?」
まだ少し混乱しているみたい。
でも大丈夫。私が、ついているから。
side:ひな
「…おねえ…ちゃん?」
ぼんやりと目を開けたら、目の前にはほっとした様子で
私、ホールにいたはずじゃ…。
「…ここは?」
体を少し動かすと、体の上に布団の様なものがかけられているのが分かった。
ベッドに寝かされているみたいだけど…
「保健室よ。ひなちゃん、倒れてしまったの」
倒れた…
待って、そんな事よりっ!
「私、ステージっ…!」
お姉ちゃんの方を見ながらがばっと起き上がった途端に、頭の中の血が下がるのが分かった。
「あっ…」
目の前が、一気に暗くなる。
「ひなちゃん!いきなり起きたりしちゃダメよ!それにステージも終わったじゃない」
お姉ちゃんが慌てて肩を抱き止める様にして支えてくれて、どうにかなった。
「……」
下がった血が戻って来るまでゆっくりと背中を撫でてくれるお姉ちゃん。
倒れてしまった上に、心配もかけてしまうなんて。
「…ありがとう、お姉ちゃん。もう大丈夫」
それにしても、ステージの事…。
終わったと言われたけれど、私は。
「覚えていないの?」
言葉が出ないでいたら、お姉ちゃんが助け舟を出してくれた。
「思い…出せない…」
するとお姉ちゃんはすっと微笑んだ。
「見てみる?」
そう言ってアイカツモバイルを取り出したお姉ちゃん。頷くと、ベッドに腰掛けて私のステージを見せてくれた。
♪────スタートライン!♪
・・え?
「・・・これが…私…?」
全て見終わってから私は思わず声を上げた。確かに私はステージをしていた。していたけれど。
「えぇ、そうよ」
そこに映っていた私は、まるで…。
「私じゃ、ないみたい…」
感じたことを呟きながらお姉ちゃんを見た。
ステージでの事も思い出せないし、一体どうなっているの…?
お姉ちゃんは目を
「きっと、一生懸命ステージをしたから覚えていないのだと思うわ」
そう、なのかな…もしかしたらそうなのかも。
お姉ちゃんに言われると、何だか安心する。
「ありがとう、お姉ちゃっ…ケホッ、ケホ!」
お礼を言おうとしたら、急に
「!ひなちゃん!大丈夫⁉︎」
お姉ちゃんが慌てて背中をさすってくれた。
「ケホッ、大…丈夫」
また迷惑をかけちゃった…
腕も体も、少し重たい。
「やっぱり、足りない…」
私がポツリとそう言うとお姉ちゃんは不思議そうな顔をした。
「?何が足りないの?」
苦笑いをして、お姉ちゃんの方に顔を向ける。
「病院で出来るトレーニングは全部していたのだけど…。基礎体力がまだまだみたい」
病棟のリハビリテーションルームには、普通のところと目的が違って体力をつける機械がメインにあった。どちらかと言うとジムのような感じかな。先生の許可も貰ってランニングマシーンで走ったり、色々なトレーニングをずっと続けてきた。そのおかげで体力はついている方だと思っていたけれど。まだまだ足りない。
もっともっと基礎体力をつけて、せめてステージが終わった時に倒れないようにしないと。
「そう…。私に出来ることがあったら言ってね、ひなちゃん」
・・・お姉ちゃんはS4。
私が頼ってしまったらダメだと思う。
心配をかけたら、ダメだと思うから。
だから…
「大丈夫。ありがとう、お姉ちゃん」
"笑顔"で私は言う。
お姉ちゃんに心配をかけたくないから。頼ってしまいたいと思う、弱い私を封じ込める。甘えたいと言う自分も、心の奥底に閉じ込める。
大丈夫、大丈夫。
私は・・・大丈夫。
祝!10page!
節目の10pageは楽しい話にしようとウキウキと書き始めました。ウキウキと書き始めたんです。・・サブタイトルからして不穏ですね。一体どうしてこうなった。
組み分けも終了し、ここから物語は動き出し加速しますが、更新速度は比例して減速します。ご了承を。
ふと確認をしたら、お気に入りが3件になっておりました。ふわあぁあい↑とテンションが上がりました。ありがとうございます。
(2019年9月・文章整形や加筆を行いました。