little Angel story〜1人の少女の物語〜   作:ムーンナイト

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前回のあらすじを忘れたという人のための3行で分かったりしなくもない前回のあらすじ
・ひなちゃん倒れた
・学園長、覚悟をキメる。
・お姉ちゃんの心にクリティカルダメージ



11page 私はあなたを

 side:ツバサ

 

 ひめが桃子先生に連れられて行ったあと、私も頼まれていたステージビデオの確認のためにゆずや夜空と別れた。

 桃子先生がいらっしゃった時は私に用事かと思ったが、ひめが呼ばれて行ったな。何の用事だったんだろう。

 

 ステージビデオは学内のホールで行われたステージをアイカツシステムカメラで録画し、まず最初に資料準備室の専用パソコンに送られる。それを見て少しデータを打ち込み、最後に確認ボタンを押したら作業は完了だ。そうする事でビデオデータのバックアップが取られるのと同時に、資料室のパソコンやアイカツモバイルでも公開され四ツ星所属の生徒なら誰でも見られるようになる。

 ただし、学園のホームページで公開するのは様々なチェックも必要なため学園長を始めとした先生方の仕事となっている…あとで学園長にも連絡をしておかないとだな。

 イベント等でビデオが一気に増える時や元々スケジュールに組み込まれていたステージの場合は事務員の方がデータ入力を請け負ってくれているが、その一方で今日の様なイレギュラーなステージがあると私をはじめとした生徒会役員に確認作業の依頼が来ることが多い。

 

 ・・・ステージビデオはしっかりと撮れていたようだな。日付と白鳥ひなという名前、組分けオーディションと、必要なデータを打ち込んでいく。これで作業完了だ。確認ボタンを押して少し経った後、アイカツモバイルでステージの検索をしてみる。ちゃんとアップロードが出来ていた。

 

 …このあとは生徒会室に行くか。まだ仕事が残っていたはずだ。1度んっと伸びをして、資料準備室から出た。

 

 ひなのステージはビデオで観ても凄かったな。上級生の実力にも届く勢いだった。

 初ステージであの完成度となると仕事のオファーも来るかもしれない。他の生徒の初ステージがアイカツ☆ステップなどの比較的歌いやすい曲だったのに対して、ひなはひめの曲という印象が強く難易度も高いスタートライン!だったからこのままホームページにアップされるかは分からないが…。

 生徒会としても、ひなが困った時に力になれるよう準備しておかないとな。

 

 …さっき、ひなのステージがひめの組分けオーディションのステージに似ていたとひめに言った。純粋にそう思ったから口に出したが、その言葉を聞いたひめが顔を少しだけ強張(こわば)らせてステージの方を向いたのを見るとモヤモヤとしたものが胸に広がった。

 

 現在の歌組は、組在籍人数(くみざいせきにんずう)の割に3年生の数が少ない。というよりも、私達が1年生の頃に、歌組全体の人数が少なくなった。大きく分ければ2段階だったが、最初に減ったのは組分けオーディションの時期。歌組に組分けされたは良いものの、ひめを見てトップになれないと悟りアイドルとしての夢までもを諦めた1年生だ。何名かはその時点で学園長に退学を申し出て、学園を去って行った。結局、私のように組替えをした人はその後も殆ど現れなかったな。

 

 そして7月初旬(しょじゅん)。丁度2年前の今頃、歌組では異例のS4戦が行われ…ひめが勝利した。世間では『伝説のS4誕生!!』と騒がれていたが、歌組の人数が目に見えて減ったのはこの時だ。

 1年生だけじゃなく、当時S4を務めていた先輩を始めとした3年生、優しい先輩が多く在籍していた2年生も、次々と学園を去ってしまった。1年生に至っては、組み分けオーディションの後に残っていた人も退学していき、結果、今の人数になっている。

 

 ──「私が、翼を手折った」

 

 1度ひめがそう口に出したのを見た事がある。歩いていて、ランニング途中に少し立ち止まっていたらしいひめを見かけたのだ。偶然それが聞こえてしまったのだが、その時のひめは私に気付く事なくケホケホと咳をした後、何かに立ち向かうかのように険しい表情をしてまた走り出していった。

 何に立ち向かっていたのか、何を見据えていたのか、私には分からない。

 だけど、走って行くその後ろ姿が酷く辛そうに見えたから、私は別の道を選んだとしても友人としてひめを支えたいと思ったんだ。

 その後一緒にいるようになり分かったのは、ひめが努力の天才だという事だった。しかし過酷過ぎるトレーニングは続けるし、雨の日には無理をして倒れてしまうしで、危なっかしいという事も同時に分かった。

 

 私は私らしく。さっきもだが、これまでそうして来たはずだ。だけど私がひめの支えになれているのか、分からない。聞いてみれば早いのだろう。でも私はこんな所で臆病な性格を発揮して、1歩を踏み出せないでいる。

 

 そんな自分が腹立たしく、それでいてこの言い訳が1種の逃げになっているのは、紛れも無い事実だった。

 

 

 

 side:ひめ

 

 保健室のある本館(ほんかん)から、(やかた)へ戻る。

 

 ──「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 どこかぼんやりとしながらお話をしていた時に、ごめんねと言いながら手で熱を測られた(ひたい)を触る。

 

 ──「少しぼうっとしているみたい。お部屋で休んだ方がいいと思うな」

 

 私はもう大丈夫だから。

 そう言って私を、側にいてくれてありがとうと送り出してくれた笑顔を思い浮かべる。

 

 

 ──「・・・これが…私…?」

 

 ひなちゃんは私があの力を発現させた時と同じように、ステージでの記憶がすっぽりと抜けていた。

 ステージの映像を見せてもピンと来なかったらしく、むしろ困惑しているくらいだった。

 

 ──「私じゃ、ないみたい…」

 

 ある意味ではそうかもしれない。

 私の方を向きながらひなちゃんが口にした言葉を、思わず肯定(こうてい)しそうになる。・・・だけど。

 

 ──「きっと、一生懸命ステージをしたから覚えていないのだと思うわ」

 

 そう言って妹を安心させた自分が、とても嫌になった。

 

 私が学園長と話したとき、力を体験した先輩として冷静でいられたら。姉としての感情を、抑えられていたら。

 

 ──「ありがとう、お姉ちゃっ…ケホッ、ケホ!」

 

 私の言葉にホッとした顔で微笑んでいたひなちゃんが眉を寄せて咳き込んだ。慌てて背中をさすったけれど、喉と口に手を当てるその姿が、2年前の自分に重なった。

 

 ──「やっぱり、足りない…」

 

 ポツリとこぼされたその言葉に疑問を覚えていると、苦笑いを浮かべながらひなちゃんが口を開く。

 

 ──「病院で出来るトレーニングは全部していたのだけど…。基礎体力がまだまだみたい」

 

 違う。違うの。

 病院では聞く限り沢山のトレーニングをしていたみたいだもの。ひなちゃんの体力は、多い方。

 ランニングマシンやエアロバイク、色々使っていた様だけど。体力を増やす事で佐々木先生と一緒に何かのデータを取っていたみたいね。元々の運動神経だって、とても良い。

 

 だから──

 

「捕まえたわ♪」

 

 そんな声が聞こえたと同時に、その言葉通りふわっと手が体に回された。

 

 (なな)め後ろから抱かれているから顔は見えないけれど、その声と手を回された時の感触と、密着したことで香る匂いで誰かは見当がつく。

 

「夜空?」

 

 そう言うと夜空は、耳元でピンポーンと言った後に手をほどいて私の横に立った。

 

「用事はもう終わった?」

 

 八千草先生に連れていかれた事よね。

 

「えぇ。でも夜空、館の外でこうするの…は・・」

 

 やめた方がいいと思うのだけど。そう言おうとして、周りを見る。…明らかに室内。

 

「もちろんしないわ〜。でも、ここは館の中だからいいんじゃないかしら?」

 

 首をかしげる夜空を見る。玄関の所ならまだしも、ここは廊下。しかも行こうと思っていたリビングを通り過ぎてるわ。いつの間に、ここまで帰っていたのかしら…

 

 

 

 side:夜空

 

「ちょっと待っててくれる?」

 

 椅子に腰掛けたひめに言って、冷蔵庫にしまってあるグラスを取りにキッチンに来た。…そうねぇ、差し入れで頂いたマドレーヌも一緒に出そうかしら。

 

 ひめが帰って来た時は驚いたわ。

 まず、細い身体に手を回して抱きついたらスウッと不気味なほど滑らかに止まって面食らったでしょう?

 次に、心配になって顔色を確認しようとしてみたら、ひめの表情があまりにも無に近くてちょっと衝撃を受けたでしょう?少し会話をした後でようやく私を見てくれたけど、その前は瞳がぼんやりとしていて心配したわ。

 それにどうやって帰って来たか、いつ帰って来たかも分かってなくて驚いたわね。

 

「はい、どうぞ」

 

 ひめの前に持ってきたグラスを置いて、マドレーヌのお皿も2人の真ん中に来るように置いて、と。さて、私も座りましょうか。

 向かいの席に腰掛けてひめの方を見たら、グラスを見て首を傾げてたわ。

 

「これは?」

 

 グラスの中に入っているのは、パッと目を引くオレンジ色のジュース。私やひめ、2人とも紅茶を淹れることが多いから珍しいわよね。

 

「特製トロピカルジュースよ♪ゆずがね、ひめちゃんに飲んで欲しいって言って私に預けてくれたの」

 

 納得した顔で頷くひめ。

 そのゆずは今、お仕事でラジオの生放送に行ってるわ。

 ひめが八千草先生に連れていかれた後、ツバサとも別れて2人で館に帰って来たの。お仕事に行く前に、このオレンジやグレープフルーツがバランスよく使われたジュースをゆずが作ってくれたのよね。フンフンと鼻歌を歌いながら楽しそうにジュースを作るゆずは、とっても可愛かったわ。

 

 ──「ひめちゃん、疲れて帰ってくるかもしれないから。えっとね、ゆずの勘だゾ!」

 

 そんな言葉も残してお仕事に行ったゆず。

 すごいわね。やっぱりゆずの勘はよく当たるみたい。また当たったわ。…あとで帰って来たらお礼を言わなきゃ♪

 

 ジュースを飲んで、美味しいと顔を(ほころ)ばせているひめ。うん、表情も雰囲気も戻って来たわね。

 

 このあとは、ひめと一緒にお喋りをして…そうだわ。ツバサの事も聞いておこうかしら?お風呂に入ってひと段落したらアロマキャンドルでリラックスしたいわね。それに、真昼と打ち合わせしたい内容もあらかた決めておかないと。スケジュールの確認も含めて、それくらいかしら?

 

 色々な企画も動いているし。これからもっと忙しく、楽しくなりそうね♪




投稿期間が少しあいてしまった作者さんが稀によくやっているように、顔文字を使ってこの話を置いた後サッと壁に隠れようとしましたが、何故か完全に煽っているようなものになり断念しました。
顔文字等の使い方がよく分かっていない、ムーンナイトです。
…最近では、あまり顔文字も使わないみたいですね。風の噂で聞いたのですが、本当なのでしょうか。驚きです。

話は変わって。
実はですね、初めて感想や評価を頂きました。
嬉しくて嬉しくて、上がっていく心拍数を手首に指先を当てて冷静(本人談)に脈を(無駄に)測りながら落ち着けなくて左右に揺れるムーンナイトという、まあまあなカオス空間が出来上がりました。ありがとうございます。
これからも感想や評価、よろしくお願いします。いつでも受け付けておりますので…!

ではまた次の後書きで。

(2019年9月・文章整形や加筆を行いました。
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