little Angel story〜1人の少女の物語〜 作:ムーンナイト
3行で表す前回のあらすじ
・どんよりーぬ先輩
・ぼんやりーぬ先輩
・さっぱりーぬ先輩
side:ひな
「康二君を知ってる?」
ベッドの側に置かれた椅子に座って私の脈を測っていた
髪の毛をお団子に纏めている、白衣を着た保健室の先生。お互いに自己紹介をしたあと、持っていたクリップボードを置いて
目が覚めてから側にいてくれていたお姉ちゃんはどこかぼんやりとしていて危うく感じたから、私は大丈夫と言って少し強引に帰ってもらった。どれくらいぼんやりとしていたかと言うと、思わずごめんねと言ってから額に手を当てて体調を確認してしまうほど。
熱は無かったけれど、すごく疲れているみたいだった。
館にどなたか先輩がいてくれたら安心なのだけど…
あ、そうだ。
こうじ…
「佐々木康二先生、ですか?」
思い浮かんだのは、今日も退院前にお話をした康二先生。ずっとお世話になっている私の主治医の先生。
5歳の時、健康の康に漢字で二と書いて康二です…と裏紙にボールペンで漢字を書きながら自己紹介してくれた。その頃は看護師さんも含めると病棟に佐々木さんが4人もいたから、みんなそれぞれ下の名前で呼んでいて、その
「えぇ、そう。きらきら病院の」
やっぱり先生の事だったみたい。流石にきらきら病院に勤めている同姓同名の人はいないはずだから。
「はい、知っています」
少しだけ慎重になる。どうして先生のことを…?
「彼、後輩なのよ」
カルテのようなものに何かを書き込みながらさらりと言われた言葉に、思わずパチリと
後輩…つまり八重先生は先輩。
先生の瞳に、私の姿が映った。
「病気の事も知ってるわ。白鳥さんがそうだというのも」
病気について口を開いた時。一瞬だけだったけれど、先生の微笑んでいる顔の中に、
私がその病気だと知っているのは、多分康二先生から教えてもらっているからだよね…
「そうなの、ですか」
落ち着いていると思ったけれど。私は自分が思っている以上に驚いていたみたいで、言葉が少し詰まってしまう。
「だから何という訳ではないけど、私があなたの病気と状況をちゃんと理解している事を覚えておいてね」
入り口の方からガラガラと扉の開く音が聞こえた。
それでも先生は、しっかりと私の目を見つめたまま話してくれる。先生の瞳の中にいる私は自分にしか分からないほど少しだけ、不安そうな表情を浮かべていた。
でも先生と目を合わせていると、どんどん落ち着いて。
あれ、この目は…
「辛い時はいつでもここに来なさい。私はあなたを、全力でサポートするから」
あぁ、康二先生に似ているんだ。まっすぐ私の目を見てお話をしてくれるその姿も。
だから私は落ち着いたし、この先生なら大丈夫と安心することが出来る。
「サポートならこっちもするぜ、ベイビー」
そんな言葉と共にカーテンを開けて入ってきたのは、ステージ前も背中を押してくれた私の事情を知っているもう1人の先生。
「アンナ先生」
入院中、アイカツモバイルと学生証を届けてくれた後も
私が起き上がり座った姿勢になっているのを見ながら、アンナ先生は応えるように頷いた。
「Hey、調子はどうだい?白鳥」
片手を腰に当てて目を少し細めながら首を傾けるアンナ先生。
「もう大分良いです」
疲れているけれど、もう調子は大丈夫。
「えぇ。体力が回復してないまま無理をしている事を除けば、大分良いわね」
…見破られた。
私の後に口を開いた八重先生の言葉に、思わず体をカチンと
アンナ先生の片眉が上がった。細められていた目も、少しジトッとした目に変わる。
「・・・」
そのままじぃっと見つめられて、無意識に目を
アンナ先生はどこか苦笑いの様な表情を浮かべていて、1つ息を吐き出した後に口を開いた。
「白鳥、もう少し休め。時間なら気にしなくてOKだ」
時間が…と言おうとしたら、ずいッと顔を近づけられて少し強めにそう言われた。
「私も賛成ね。20分くらい眠った方がいい。ほら」
そう言う八重先生に少し肩を押されて、ベッドに横になる。そうしたら、糸が切れたように眠気が襲ってきた。お布団をかけ直してくれている先生の手を感じるのと同時に、
20分も寝れば体力も回復する。その間アンナ先生をお待たせしてしまうことになるけれど…。それに今は、響先生かな・・?
今までとは違う吸い込まれるような感覚を覚えながら、私は眠りに落ちていった。
side:響 アンナ
布団をかけ直す短い間に眠ったようだな。
すぐにすぅすぅと寝息を立て始めた白鳥を見ながらテンションを切り替える。…既に切り替わりかけていたから、眠る前の白鳥は何か察していたかもしれないが。
先にカーテンの外に出ると、後から桜先生も出てきた。
「寝る直前、すみませんって小さく声に出していた。あれは無意識ね」
そう肩をすくめているが、思う所は一緒。
「「似てますね(るわね)」」
重なった言葉に顔を見合わせ、互いに苦笑する。
本当に。似てるぜ、あの姉妹は。似すぎてるほどな。
アタシから目を逸らした後、上目遣いのようにこっちを見る時の動きなんて瓜二つだった。
「まぁ、それを言ったら貴方も同じような事をしてたわね」
耳が痛い。
片手を白衣のポケットに入れながら笑う桜先生から目を逸らす。
S4だった頃から、この人には敵わないからな。ノーコメントでいかせてもらう。
「そういうトコ、その目の動きも白鳥さん達そっくり。やっぱり似てるわよ?」
視線から軽く逃げるようにして、カーテンの隙間から白鳥を見る。
ちゃんと寝てるようだな。うん。
「ほらまた…まぁいいわ。それじゃ、白鳥さんが寝てる間に話をしましょうか。…その間に書類も片付けさせてもらうけど」
そう言いつつ引き出しから紙をドッサリと取り出す桜先生を横目に、壁に背中を預け腕を組む。
「それで、今後の予定としてはどうするつもり?研究生課程をすっ飛ばして組分けをしたし、まずはそれからするの?」
一番上の書類から目を通しサインをし印鑑を押し追記を書きそれぞれ開けてある三つの引き出しへ分類する作業を無造作にしながら問われる。
アタシのテンションの切り替えがすごいと以前口にした桜先生だが、この人だって人のことを言えない。こっちがハイテンションモードと真面目モードなら、先生は普通モードと事務モード。
書類仕事を片付けるスピードと正確さは今のアタシと桃子の二人でかかったとしても、絶対に勝てない。
「明日の午前中は学力テストに当て、午後は歌組のレッスンに合流。水曜・木曜・金曜の三日間で各組の授業に参加させます」
学力テストがある事を通達してはいるが、白鳥がどの辺りのレベルにいるのか分からない。初めて会った時はイタリア語の勉強をしていたほどだからな。幼少期に出演していたバラエティ番組でも相当な頭の良さが
果たして中学の範囲なのか、高校の範囲なのか…もしくはその上か。
何はともあれ、午前中はある程度体を休められるはずだ。
「それはよかった。もし明日の午前からレッスンなんて言ったら、強制ストップをかけさせてもらう所だったから」
思わず口からハハハと
その判断を取らなかったアタシ、ナイスだ。…こっちに向けたあの目はマジだった。
「じゃあ次」
声色が変わったのを感じて目を向ければ、こっちを真剣に見つめる桜先生がいた。
…あの山の様な書類、残ってるのはもう半分もないな。
「先に言っておくわね。白鳥さんの病気に、特効薬はないわ」
・・・ガツンと、殴られた気がした。突然の情報に感情が追いついてこない。こっちが呆然としてる間に桜先生が書類に何か書き込みながら口を開いた。
「正確に言えば、発作が起きた時に使える薬ならある。あるけど点滴タイプのみよ。副作用も出るから、使うのにはかなり慎重になるの」
副作用というと…酔い止めを飲んだ時に眠くなったりするアレか。
ん・・?
「それ以外に薬は?発作が起きたら…」
止まった言葉の続きを言うように先生が目を伏せて口を動かした。
「発作が起きれば終わるのを待つしかない。ただし、痛みは
それは、そうか。発作の度に発狂ものの痛みを味わい続けて
それに、終わるのを待つしかない…か。
「難しい病気なの。だからこの病気は、研究そのものを進めようとしてもあまり出来なかった。…
アタシが閉じていた目を開けて顔を向ければ、桜先生は微笑んでいた。
寂しそうな笑顔だ。その二十年前に何かあったのか。それともそこにいたのか。
「当時のその病気の持ち主としては珍しく、その人は二十六まで生きたわ。その間に、データがかなり取れた。今ある点滴薬剤が開発されて、手術方法も考えられた」
二十六まで生きて珍しいか。…白鳥は今十二だ。
当時の、がつくから今はもう少し伸びてるのか?…きっと伸びてるんだろう。そうじゃなきゃ──
「その手術をすれば病気は治るんですか?」
嫌な考えを頭から振り払うように桜先生に問いかける。
「えぇ、発作も殆ど起きなくなる。けどその手術、成功確率が高くはないの」
書類の最後の一枚に印鑑を押しながら言われた。
…というよりもう終わったのか。
「話を戻すわね。その人が亡くなった後、考察は進んだけど研究開発のスピードは遅くなった」
まぁ、それはそうだろうな。
「そんな中で私は四ツ星の、康二君…白鳥さんの主治医ね。研究室の後輩だった佐々木康二君はきらきら病院所属の医師になった」
あの先生からの封筒を何度か預かって桜先生に渡してたが、元々知り合いだったのか。
どこか白鳥に雰囲気が似ていて喋りやすい人だった。
「…六年前、突然連絡が来て驚いたわ。今、病気の研究がまた前の様に進み始めてるって」
「それはつまり…」
キーパーソンであろうベイビーが眠ってるベッドに目を向ける。
「そう、白鳥さん」
桜先生の方に視線を戻す。
「白鳥さんは
強い…この場合、勁いか。
突然出てきたアタシの出番に身構える。
「もしも発作が起きてる時に居合わせたら…ただ側に居てあげて」
言われた事が予想していたのより遥かに小さい。
「側に?」
思わず聞き返した。
それだけなのか、という意思も込めて。
「それくらいしか出来ないわ。でも、それだけで随分違う」
それだけで良いじゃなくて、それだけしか出来ないのか。少し前の自分をカッ飛ばしてやりたくなった。
確かに、辛い時に誰かが側に居てくれるありがたさならアタシにも分かる。
「ただし、一つだけ注意してほしい発作があるの」
発作にも種類があるのか。あとでちゃんと調べておこう。
「
名前からして嫌な予感が止まらない。
その場合は、アタシの車で病院までまっすぐ行った方が良いだろう。道ならあるからな。
「私も一緒に行くから、その時はすぐに連絡をちょうだい」
「分かりました」
壁から背を離して桜先生と向き合う。
「約束します」
アタシの肩にかかってるのは、命の重さ。
白鳥のだけじゃない。
教師になって初めて分かった、四ツ星学園の生徒達の、アタシ達教師が預かる命の重さだ。
「ありがとう、響さん」
そう微笑む桜先生の凄さも、教師になってから知った。
朝は早く、夜は遅く。
少なくともアタシが起きている間はいつも起きている。
コーヒーをゆったりと飲んでいることが多く時間があるのかと誤解されがちだが──事実アタシもそうだった──書類を書いたり作成したり、その実学園長と同じくらい多くの仕事をこなしている。
「しっかり先生してるわね」
そんな先生からそう言われて、嬉しくない訳がないぜ。
なぜかこっちより嬉しそうな桜先生に礼を言いながら、アタシはそう思った。
そっと更新。
保健室の先生の名前を八重 桜さんとしました。名前が出てなかったので。…出て、ませんよね?
前回から更新まで間が空いてしまいすみません。
アニメ15話を見直したり、新しい物語の設定が突如浮かんで来てちょっと書いてみたり、今後の展開どうしようかと見切り発車のせいで設定に悩んだり、お気に入りの小説を最初から一気読みしたり…忙しかった。
文字にすると好きなことしかしてないですね。楽しかったです。
主人公のひなちゃんが持つ病気については、完全にオリジナルです。こんなの現実じゃありえないとおかしな点もあるかとは思いますがご了承下さい。
それと、アンナ先生の1人称をアタシに変更しました。
今までのpageも手直したり文を加えたりしました。
(2/21サブタイトルを『命の重さ』から変更しました。
(2019年9月・文章整形や加筆を行いました。