little Angel story〜1人の少女の物語〜   作:ムーンナイト

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UA1000突破、お気に入り10件、ありがとうございます。

特別編!3行で分かる投稿がゆっくりになった経緯。
・我慢できず…
・新しいアイカツスターズ小説…
・書き始めました!!



13page ルームメイト

 side:ひな

 

 ようやく始まった私の物語…早く進んでみたいな。

 レッスンもしたいし、たくさん新しいことを知りたい。

 

 洗った手をポケットから出しておいたハンカチで()きながら、私はアンナ先生とのやりとりを思い出していた。

 

──「明日は8時15分には201教室に着いてるように。オーケーかい?ベイビー」

 

 20分間しっかりと寝て体力も回復したあと。

 アイカツモバイルで本館の地図も見ながら、アンナ先生に明日のことやこれからのことを説明してもらった。

 

──「はい、オーケーです」

 

 明日は午前中に学力テストがあって、午後からは歌組のレッスンに参加。

 学力テストの方は国語数学理科社会の4教科をやるみたい。英語はやらないのかと思っていたら、学園長先生から免除されていることを教えてもらった。

 

 …楽しみだな。色々なことをやってみたくて、うずうずしている。

 

──「じゃ、アタシは行くぜ。…っと」

 

 説明を終えて立ち上がったアンナ先生が何かを思い出したかのように振り向いた。

 

──「無茶はしないように」

 

 あと荷物な、とスクールバッグを渡してくれたアンナ先生とはお礼を言ってそのまま別れた。

 

 今は八重先生からも動いてよしと言ってもらえたからお手洗いに行って来た所。

 

 そういえばアンナ先生が寮に案内するのはアタシじゃないとおっしゃっていたけれど、誰なのかな。

 

 そう考えながら保健室へ戻ろうと廊下を歩いていたら、扉の前に立つツバサ先輩の姿が見えた。

 案内してくれる人はもしかして…。生徒会長も務められているし、そうかもしれない。

 

「ツバサ先輩?」

 

 扉に手を伸ばしかけた先輩に近付いてから声をかけたのだけど…ツバサ先輩はピタリと時間が止まったように固まってしまった。

 

 

 side:ツバサ

 

 仕事を片付けて学園長に諸々(もろもろ)の報告をし、今度は事務室の方へ作った書類を提出しに行った帰り。アンナ先生から、ひなを寮の方に案内してやってほしいと声をかけられた。

 アンナ先生の側にひながいなかったからどこにいるのかと思いきや、先生が保健室だと言うので少し驚いた。あまり踏み込んで聞かない方が良さそうだったからそのまま分かりましたと返事をして保健室まで来たが…。

 ひなはどこか具合が悪いのか?組分けオーディションのステージでも疲れているだろうし、寮に案内する時は少しゆっくり行った方が良いかもしれないな。

 

 保健室の引き戸タイプの扉はもうすぐ近くだ。私自身は保健室にお世話になった事があまり無いが、ひめが無茶をして倒れた時に駆けつけた事は何度かある。…そう何度もあって欲しくない体験だった。

 

 さて、とりあえず入ろ「ツバサ先輩?」

 

「・・・」

 

 ・・・・・・。

 

「あの、えっと…。驚かせてしまってごめんなさい、ツバサ先輩」

 

 …驚いた。それはもう、数秒間思考が停止してしまうくらいに。

 

 昔から驚きやすい性格だった。だから常に周りを把握(はあく)するように努力していた…後ろ方面は特に。

 扉を正面から開けようとしていた今は横からだったけど、それでも驚いた。視界のすみに夏服であろうクリーム色の生地が映る。

 扉を開けようと伸ばしたまま固まっていた腕を下ろしてそちらを向くと、申し訳なさそうな表情を浮かべたひなが立っていた。…全く気付かなかったな。

 

 四ツ星学園の靴は(かかと)が少し高いから、必然的に足音は聞こえやすいはずなんだが…

 

 そう言えばひめも1年生の頃、足音があまりしなかった。その事を言ってみたら、妹は足音がしないの、と悪戯(イタズラ)っぽく答えられた気がする。なるほど、その時はひめより足音がしない人がいるのかと思っていたが…納得した。

 ひめはS4になってから、周りに気付かせないとと意識的に自然な足音を出している節がある。今でもやろうと思えばすぐに足音を少なく出来るだろう。

 

「先輩…?」

 

 気付くと申し訳なさそうな表情から心配そうな表情へと変わったひながこちらを見ていた。考え事に集中しすぎたな。

 

「ん、あぁ。すまない。アンナ先生から寮に案内するよう言われてきたんだ。保健室にいると言われたんだが…何かあった?」

 

 私がそう聞くと、ひなは少しだけ苦笑した後に口を開いた。

 

「もう大丈夫です。少しお世話になってしまっただけですから」

 

 …ひめが桃子先生に呼ばれた理由はこれかもしれない。あとで聞いてみるか。

 

「そうか。ともかく、寮に案内するよ」

 

「お願いします」

 

 ふわっと笑顔になったひなの動きに合わせてミルキーブロンドの毛先が揺れた。同性の私から見ても、綺麗だと思う。ひめとは違う…どこか神秘的な美しさだな。

 それにこっちの髪型の方がひなには似合ってる。

 

 さてと。ひなと同室になるのは…樹神(こだま)か。

 

 

 side:ひな

 

「ここが四ツ星学園の女子学生寮。通称四ツ星寮だ」

 

 保健室に置いてあった私のスクールバッグを回収したあと、ツバサ先輩に連れてきてもらったのは学生寮。さっき館へ向かう途中で通り過ぎた左に曲がる道を進んだ所にあった。やっぱりここで合っていたみたい。

 

 保健室から寮に向かう道中ではツバサ先輩が私の呼び方について話してくれた。

 何でも、お姉ちゃんとの区別が付きづらいと言うのとお姉ちゃん自身が分かりづらいと一蹴(いっしゅう)していたのもあって、ツバサ先輩も私を名前で呼んでくれていたみたい。私もそう呼びたいと思った、と付け加えてくれて嬉しかった。

 だけどS4で生徒会長というツバサ先輩の立場上、入りたての1年生を特別扱いするわけにはいかないから周りに他の1年生がいる所では苗字で呼ばれる事になったんだ。

 あとは、髪型についてツバサ先輩が似合うと言ってくれたのもとっても嬉しかった♪

 

 …四ツ星寮、ここで私は1年間過ごすのかぁ。…もうその内の3ヶ月は終わっているけれど。

 

「白鳥ひなです。よろしくお願いします」

 

 まず最初に、寮の事務室を訪ねて寮務員さんや寮責任者の立花(たちばな)さんにご挨拶をした。寮責任者と言うのは、鍵の管理をしたり寮生のサポートをしたり…寮母さんのような役割を担っているみたい。ニコニコと笑顔で説明してくれた立花さんは、すごく優しそうだった。

 

 それと、ひと段落したら今日か明日中に荷物を取りにおいでとも言われた。寮で生活するために送ったお洋服や本がさっき届いたみたい。

 

 寮内の簡単なルールについて説明を受けたあと、寮事務室を出て扉が並んでいる廊下を歩いて行く。ある扉の前でツバサ先輩が立ち止まった。

 お部屋がたくさんあるけれど、どれくらいあるのかな…100部屋はある?

 

 “コンコンコン”

 

 そんなことを考えながら周りを見渡していたら扉をノックする音が聞こえて、視線を前に戻す。ツバサ先輩がノックしていたみたい。

 

「はーい?」

 

 扉の向こうから女の子の声が聞こえた。ハッキリとしていて、元気そうな声。

 

「生徒会長の如月ツバサだ。少し良いか?」

 

 ツバサ先輩がそう言うと、中からドタバタンッと音がした。

 転んだような音も聞こえたけれど、大丈夫かな…。

 

「ツバサ先輩⁉︎どうかし…。あー‼︎」

 

 少し経ってから扉を開けた女の子は、私を見て大きな声を上げた。

 薄桃色のメッシュが幾筋(いくすじ)か入っているミルキーブラウンの髪に、キラキラと輝いている金色の瞳。

 

「こんにちは」

 

 とりあえず、ご挨拶。…こんにちはよりもこんばんはの方が合っていたかも。でもまだこんにちはでも大丈夫なはず。

 

「歌組1年生の樹神(こだま)めぐるだ。これからはルームメイトとして過ごしてくれ」

 

 好きなものは、シャーベットとソーダ…だったかな?

 四ツ星学園のホームページから見ることのできるアイドルプロフィールに書いてあった。

 

「わかりました」

 

 その他の樹神さんのプロフィールを思い出しながら、ツバサ先輩の言葉に頷く。

 

「樹神、さっきの集会で歌組に編入が決まった白鳥ひなだ。樹神のルームメイトとして一緒の部屋で生活することになった」

 

 ツバサ先輩がそう言うと、樹神さんは目を見開きつつも頷いてくれた。

 

「うん。じゃあ私はこれで。何かあったらいつでも言うようにな」

 

 樹神さんが頷いたのを確認して玄関がある方へ体を向けるツバサ先輩。

 

「ありがとうございました」

 

 先輩を見送ったあと、私はまだ少しポカンとしている樹神さんに向き直る。

 

「改めて、白鳥ひなです。これからよろしくお願いします、樹神さん」

 

「あ、うん!よ、よろしく。とりあえず、部屋に入ろっか」

 

 お部屋に入ると奥へ続く短い廊下があった。左側に扉が2つ、右側には引き戸が1つ。引き戸の方はバスルームと書かれたプレートがあるからお風呂かな。

 奥の広いお部屋には、2段ベッドと2つ並んだ机、それと椅子があった。

 

「あたし、2段ベッドの上の方使っちゃってるんだけど、下でもいい?」

 

 樹神さんが私の方を見ながら言う。

 

「もちろん」

 

 どちらかと言うと、私は下の方がよかったから。

 

「えっと、荷物はこっちのクローゼットみたいなのを使って?」

 

 ベッドの方に視線を向けていて見逃していた。

 お部屋に入ってすぐ右にある両開きの扉をカチャリと開けると、収納スペースが広がっていた。樹神さんは奥のクローゼットを使っているみたい。

 

 四ツ星学園、色々充実しているなぁ。

 持ち込んだ荷物はそう多くないし、荷解きも荷物を取りに行ったら手早く済ませてしまおう。

 とりあえずスクールバッグを入り口に近い方のまだ使われていない机の上に置いたあと、どうぞと言われた椅子にお礼を言って腰掛ける。

 

「えぇっと…あ!自己紹介しなきゃ!」

 

 対面に座った樹神さん。人差し指で頬をかきながら目を彷徨(さまよ)わせた後、パっと思いついた表情をしながら私を見た。

 

「さっきツバサ先輩にも言われてたけど、あたしは樹神(こだま)めぐる!苗字は、大樹(たいじゅ)の樹に神って書くんだ〜」

 

 こーゆーやつ、と空中に指で漢字を書きながら樹神さんは自己紹介をしてくれた。

 

「よろしくね!」

 

 ニカッと明るい笑顔と言葉に頷く。私も改めて伝えた方が良いよね。

 

「もう1度改めまして…白鳥ひなです。こちらこそよろしく、樹神さん」

 

 私がそう言うと、ん?っと首を傾げた樹神さん。

 

「下の名前でいいよ?それとさ、敬語もむず痒いからやめてほしい」

 

 大分ハッキリしている子みたい。樹神さ…めぐるさん。やっぱりまだ慣れないかな。

 

「うん、わかった。これで大丈夫?めぐるさん」

 

 言いなおすと、今度はむむむ…と難しい顔をされた。

 

「なんかなー、あ!名前、できたらさん付けもやめて欲しいんだけど」

 

 さん付けは嫌かぁ。

 

 あっそうだ、とめぐるさんが小さく呟いた。少し嫌な予感がするのだけど…。

 

「じゃ、あたしが呼んで欲しい呼び方で呼んでくれるまで話を進めない!」

 

 !?

 驚いて思わず、え?と口に出してしまった。

 

「呼んで欲しい呼び方ってどんな呼び方?」

 

 口をつぐんだまま小さく首を振るめぐるさん。

 

「・・・」

 

 そうきたかぁ…

 指でバツを作って口元に当てているのを見ると、私が当てるまで本当にお話を進めないみたい。

 

「えっと、めぐるさんはダメ…」

 

 確認のために1度口に出してみる。

 

「・・・」

 

 あ、すごい勢いで首を振られた。

 

「めぐる…ちゃん?」

 

「・・・」

 

 少し違うみたい。めぐるさんよりはこちらの方がいい、という感じ。

 えっと、他には………

 

「…呼び捨てって選択肢は無いの?」

 

 私が考え込んでいたら、思わずといった感じでバツ印を解いて口を開いためぐるちゃん。

 

「え?」

 

 少し呆れたような顔をしていた。

 呼び捨て…。その考えは浮かんでこなかった。

 

「ほら、ルームメイトだしさ!お互い呼び捨ての方が仲良くなれそうで良くない?あたしもひなって呼ぶし、それでおあいこっしょ?」

 

「うん。それじゃ…あ」

 

 流れるようにめぐるちゃんを呼び捨てで呼ぶと決まったけれど…

 

「どしたの?」

 

「私、あまり呼び捨てで呼んだことが無いの。だから、どうすれば良いのかよくわからなくて」

 

 今まで呼び捨てで呼んでいたのは、あの2人だけだったから。

 

「普通にちゃんづけしないで呼べばいいんだよ?慣れてないんなら、下の名前で呼ぶのこれからめっちゃ増えるだろうし、なおさらあたしで練習しといた方がいいって!はい、カモン!」

 

 展開が早い・・・

 でもルームメイトとしてこれから過ごしていくし、呼び捨ての方が良いよね。

 1度すぅ、はぁ、と深呼吸をして目を開く。

 

「それじゃあ。よろしくね、めぐ…る」

 

 つい癖でまためぐるちゃんと呼んでしまう所だった。

 少し詰まってしまったけれど、大丈夫…だよね?

 

「っっっ・・!!!」

 

 え?え?!

 いきなり顔を(おお)ってプルプルとなって…。

 

「(え、なに!?天使じゃん!!今のはマジでヤバいって!!)」

 

「どうしたの⁈どこか具合が悪い?」

 

 首を振っているから具合が悪いわけではないみたいだけれど、どうしたのかな…?

 

「(落ち着け!落ち着けあたし!!)ふぅ…。ごめん、ちょっと取り乱した。もう大丈夫だから」

 

 えぇっと…???

 

「ならいいのだけど…」

 

 よくわからないけれど、大丈夫みたい。

 ほっと安心していたら、こだ…めぐるがピシッと姿勢を正した。

 いきなり(かしこ)まって今度はどうしたのだろう?

 

「それでなんだけど、白鳥って名前さ、もしかして…」

 

 …そのことか。

 私の名前と容姿を見れば、誰でも白鳥ひめに行き着くと思う。お姉ちゃんはトップアイドルだから当たり前だよね。

 

「白鳥ひめ先輩のこと?」

 

 そう言うと面食らった顔をしためぐる。違ったのかな?

 

「え・・あ、うん。えっと…」

 

 合っていたみたい。

 

「私のお姉ちゃんだよ」

 

 そう言った瞬間、めぐるは目を閉じてスゥッと大きく息を吸った。

 えっと、今度は…?

 

「ええぇーーー‼︎⁉︎⁉︎‼︎」

 

「!」

 

 びっくりした…

 いきなり叫んだあと、めぐるはこっちに迫ってきた。

 

「本当‼︎⁉︎」

 

「うん」

 

「白鳥ひめってあの白鳥ひめ⁉︎‼︎」

 

「うん」

 

「S4の⁉︎‼︎」

 

「うん」

 

「アイドルすぎるアイドルの‼︎⁈」

 

「うん」

 

「妹⁉︎‼︎」

 

「うん」

 

「本当に本当⁉︎‼︎」

 

「うん」

 

 私、ここまで連続でうんと言ったのは初めてかも…。

 

「信じてくれた?」

 

 息が切れて脱力したのか膝に手を置いているめぐるに問いかける。

 それにしても、肺活量がそこそこあるみたい。今追求された中でめぐるは1度も息継ぎをしていなかった。

 

「う、うん。あたし、名前と外見がめっちゃ似てる人だと思ってた」

 

「・・その方が珍しいかも…」

 

 思わず少し間を置いた後にそう返す。

 

 白鳥ひめと白鳥ひな。1文字違いで髪の色も瞳の色も似ているのに、ただそっくりな人だと思っていた人には初めて会った。かなり珍しいよね。

 

「やっぱり、ひめ先輩とは違うとこの方が多いと思うけどなぁ…」

 

 私の姿をまじまじと見ながらめぐるが言う。

 

「そうかな?」

 

 初対面の人は大抵私とお姉ちゃんがそっくりだと言うから、めぐるに違う所の方が多いと言われて驚いた。

 

「そうだよ!それとあたしね、ひめ先輩の大ファンなんだ!」

 

 お姉ちゃんのファンと言われると、自分のことみたいに嬉しい。

 

「そうなんだね」

 

「うんっ!あっそうだ!あのさ、ひめ先輩って普段はどんな感じなの⁉︎」

 

 目をキラっとさせてこちらを見てくるめぐる。

 

「普段?」

 

 お姉ちゃんはいつでもお姉ちゃんだけど…?

 

「もちろんプライベート!いくらS4とはいえ、家とかでは素が出るでしょ?」

 

 …う〜ん。お姉ちゃん、いつでも自然体だから作っているとかでは無いのだけど。

 

「お家でもずっと優しくて可愛い人だよ」

 

 ここ数ヶ月はお姉ちゃんも私もあまりお家に帰れていないけれど…お姉ちゃんはお仕事で、私は検査や入院。それぞれ色々あったから。

 

「ずっと?」

 

 それでも、私の一時退院とお姉ちゃんのオフの予定が合った時にはお家に帰って、2人で一緒にお昼寝をしたりお菓子を作ったりしていた。色々なデザインが出来るアイスボックスクッキーをよく作っていたかな。プレーンのシンプルな丸いクッキーに、うず模様や市松(いちまつ)模様、お花の形にしてみたり…。

 お姉ちゃんがまだ焼く前の生地を、味見♪と言ってパクっと口に入れてすごく焦ったりもした。

 

「うん。ずっと」

 

 そう言うと、めぐるは体を椅子の背もたれに預けた。

 

「ふぁー!すごいなぁ‼︎家族の前でもS4の白鳥ひめなんだ!」

 

 意見が根本的にずれている気がするけれど言ったところで治らないかな、これは。

 

「ふふ。そうかな?」

 

 ぐっと反動をつけて椅子に座りなおすめぐる。

 

「絶対そうだって!だってひめ先輩はすごいんだよ⁉︎」

 

 そこまでお姉ちゃんのファンでいてくれるなら、私も嬉しいな。なんだかもう少し聞いていたくなった。

 

「確かに、すごいよね」

 

 1年生の夏にS4になって…夏にS4戦が行われるのも異例だし1年生がS4になるのも異例の事態だったから重圧はかなりのものだったと思うけれど、それでもずっとトップを走り続けているお姉ちゃん。

 裏では計り知れないほどのレッスンやトレーニングをしているはず。

 

 お姉ちゃんは病院へお見舞いに来てくれた時、いつも笑顔でいてくれた。ものすごく疲れている時も、辛そうな時も。

 隠そうとしていても私は見ただけでお姉ちゃんの状態が何となく分かるから…。今は大丈夫そうだけれど、1年生の頃のお姉ちゃんはボロボロになるまでレッスンをしていたみたいで見ていて私も辛かった。だから、お話を聞いたり歌ったりして本当の意味でお姉ちゃんが笑顔になってくれた時はすごく嬉しかった。

 

 レッスンは欠かさない。でもその辛さは感じさせない。お姉ちゃんは、本当にすごい。

 

「そうでしょ!ひめ先輩はすごいから、なんでも簡単に出来ちゃうんだよ‼︎」

 

 ・・・スッと頭が冷えるのを感じた。何でも簡単に出来る…そんな訳ない。確かに結構何でも出来るけれど、私はお姉ちゃんがその分たくさん努力しているのを知っている。その知っていることだって、まだほんの少しかもしれないのに…!

 

「そんなことはないと思うけど…」

 

「そんなことあるよ!ひめ先輩は天才だから‼︎」

 

 天才…?

 

「そっか。そういえば私、荷物を取りに来てと言われていたの。取りに行ってくるね」

 

 急速に思考が冷たくなっていくのが分かる。少し、離れたい…

 

「りょーかい、行ってらー!」

 

 そのままお部屋を出て廊下を歩く。

 荷物を取りに行かなくちゃいけないけれど、今はまだ帰りたくない。

 

 ガチャリと四ツ星寮の扉を開けて外に出た。

 静かに吹く風が頬を撫でて、気持ち良い…

 

 そのまま風に身を任せるようにして、私は走りだした。

 

 ☆☆☆☆

 

「はあ…」

 

 気付けば、いつの間にか広場に来ていた。

 かなり全力で走ったけれど、こんなことで息切れしてはダメ。これからは毎日走ろう。

 

 息を整えている内に広場の中心に設置された石のテーブルと椅子を見つけて、そこに腰掛ける。

 

「どうしてかな…」

 

 めぐると私の中の『すごい』は全然違った。

 めぐるはステージに立つお姉ちゃんだけを見ていて、その他のレッスンをしているお姉ちゃんや一生懸命に努力をしているお姉ちゃんが見えていない。

 

──「ひめ先輩は天才だから‼︎」

 

 めぐるの言葉が頭をよぎる。

 確かに、お姉ちゃんには大きな才能があると思う。それは世の中の人が天才と呼ぶのに相応しいくらいの。

 でもそれが今開花しているのは、お姉ちゃんが頑張っているから。

 

 何でも軽々と出来るなんてこと、ない…!

 

「そんな言葉で、片付けないで…」

 

 大好きな月が見たくて空を見上げても、そこにはただ分厚い雲があるだけだった。雨はもう、止んでいたみたい。

 

 腕に顔を(うず)める。

 

 今日は…少し疲れちゃった。




最初の1文は心の叫び。物語を早く進めたいムーンナイトです。
前書きにも書きましたが、UAが1000を突破、そしてお気に入りも10件と2桁になりました。ありがとうございます。

そして今回投稿がゆっくりになった理由ですが、前話で語っていた新しい物語の設定が突如うんぬんというので、書きたいという欲が我慢できずに書き始めたからです。
どちらもアイカツスターズ2次創作、これからはこちらも向こうも全力で頑張ります。
『姉バカレコード in かすみけ!』と名付けましたが、もはや別人格が書いていると思った方が良いレベルではっちゃけたものとなってます。そして題名からある通り、香澄家を題材としています。

それと今回、ルームメイトが出てきました。
かなりポップであり、桃色のメッシュが入ったミルキーブラウンというどこかで聞いたことある髪色をしています。
そして次回、ある意味での爆弾を投下するかもしれません。

(2019年9月・文章整形や加筆修正を行いました。
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