little Angel story〜1人の少女の物語〜 作:ムーンナイト
間が開きすぎて話を忘れた人のための3行で分かったりしなくもない前回のあらすじ
・はじめましてルームメイト
・倒れたその日に猛ダッシュ
・樹神と書いて、こだまと読む
side:ツバサ
「白鳥はいないのか?」
仕事である女子寮の見回りを終えたあと、少し前にひなを送り届けた部屋に寄った。ひめに言われたことも気になったしな。
もっとも、見たところ部屋の中には樹神しかいないようだが。
「それがっ…あの、あたし…」
え、早速何かあったのか?!まだ別れてから数時間も経ってないが…
☆☆☆☆
「──白鳥は私が探してくる。樹神は部屋にいるように」
「はい…」
ここまで元気のない樹神は初めて見たな。
パタリと閉じた扉を見て歩き出す。
流れは確認した。樹神が言い
もし2人の相性が悪いなら部屋替えの提案をすることも考えた方が良いかと思ったが、それはまだ保留にしておこう。
樹神が言うにはひなは荷物を取りに行ったそうだが…ここに来る前に事務所へ寄った時、ひなはそこにいなかった。その時点で荷物を取りに来ていなかったから、すれ違ったというのは無い。そもそもひなは来ていないらしいしな。
時間がかかり過ぎてるというのは樹神も察していたようだ。
ともかく、ここに来るまでに1度もすれ違ってないことを考えると…
「外か」
寮内はひと通り見て回ったからいないだろうし、探しに行こう。
廊下を歩き、玄関へ向かう。
外に行くとしたらまずは出た道を歩いて…館へ向かったりしたのだろうか。いやでも、走りに出たとしたら本館の方か?
ふと顔を上げる。
入ってきた玄関の扉を閉めるひなの後ろ姿が目に入った。
よかった。
息を1つ吐いてほっとした気持ちを切り替える。とりあえず、話を聞かないとだな。
「ひな」
私が後ろから声をかけると、ひなは驚いたように振り返った。
「ツバサ先輩…」
口元に笑みを浮かべてはいるがその前の暗い表情の影が抜けきっていない。…落ち込むなにかがあって深く考え事をしてる時のひめの表情にそっくりだ。
「探しに行こうと思ってたんだけど、ちょうどよかった。座って話そうか」
側にあった椅子の横に移動して手招きをする。
ほんの少し戸惑ったようだが、ひなもこちらに来て対面の椅子に腰掛けた。
「それで、どうして外に?」
私自身も座りながら問いかける。
理由は
「考え事をしたくて…ごめんなさい」
頭を下げるひな。やっぱり話してくれないか。
「いや、謝らなくていい。大体の事情は樹神から聞いた」
顔を上げたひなに、明らかな驚きの表情が浮かぶ。そのあとすぐに納得したような表情をして申し訳なさそうな表情になったから、私がひなを探していた理由にも思い当たったんだろう。…思考速度が速いな。
「もう整理は出来ているのですけど、驚いて、しまって…」
そう言っている最中に口元の笑顔が薄れ暗い表情になった。
状況を聞く際に樹神が言い淀んだ部分。おそらく…というよりも、確実にひめに関してのことだろう。
ひめに対して、ただ天才だから…という一言で難しいことが出来るのは当たり前と片付けた同級生に私も
「そうだな。考え方や物の捉え方が違う人と出会う事は、驚きや悲しみを
その同級生も夏のS4戦が行われた直後に四ツ星学園を去っていったが、結局最後までひめの努力を見ることはなかった。
妹であるひなにとっては姉の努力を見ずに何でも簡単に出来る天才だと言われ、衝撃は私以上だったはずだ。
「はい…」
驚きよりも、悲しみの方が大きかったかもしれない。
「もしもひなが本当に嫌だと思ったら、部屋を変える事だって出来る。どうしたい?」
理由もしっかりとあるから、先生方に提出する書類はすんなり通るはずだ。
「私は…樹神さんと、めぐるともう1度、お話したいです」
さっきまで目線を下げていたひなが、しっかりと私の方を向き目を合わせてそう言った。
余計に傷付くかもしれない。そういう恐怖は誰にだってあるし、その上で対話することを選ぶのには勇気がいる。
それをこうして選べるというのは、それだけで素晴らしいことだと私は思う。
「うん、分かった。無理はしないようにな」
腕を伸ばして、ひなの頭にポンと手を置く。
思わずこうしてしまったが嫌じゃなかっただろうか?
不安になりすぐ手を離して表情を確認すると、ひなはふんわりと嬉しそうな表情を浮かべていた。
「わかりました、ありがとうございます」
さっきとは違う、笑顔が顔に戻った。
よかった…あぁそうだ、もう1つも言っておかないとだな。
「それと体調も」
「え?」
唐突な話題すぎたのか、ひなは目をパチクリとさせた。
こんな風に驚いた時の表情も姉妹でそっくりなのか…
「ひめから聞いたぞ?組分けテストのステージのあと、倒れたそうじゃないか」
腕組みをしながら伝えると、少し目を泳がせたあと表情が苦笑いに変わった。
「えっと…」
はぁ、と息を吐く。
保健室にいた理由、もう少し聞いておけばよかったな。
「これからは、倒れた日に無茶をしないように!」
ひめの予想と違わなければひなは走っていたはずだ。
もっとも、また倒れるというのもあってほしくないんだが。
「気をつけます」
頷きながらそう言われた。全く。
「本当ならおしおきタイムといきたい所だが、樹神に頼まれているからなしだ」
そう。樹神に言われてなければおしおきタイムにするつもりだった。
倒れた日に無理をするのは体にも悪いから軽めのものにしようと思っていたが、それさえも止められたからな。
「めぐるに…?」
ここで樹神の名前が出てくるとは思わなかったのか、ひなは不思議そうな表情を浮かべていた。
「あぁ。その代わり、部屋に帰ったら自分の正直な気持ちを言うこと。わかったか?」
ひなは、なんだかんだで自分の気持ちを胸にしまいそうだ。そしておそらくそれを
だから私から言っておく。これで少しは言ってくれればいいのだが…
「はいっ」
今度こそ笑顔で返事をするひな。
周りが明るくなったかのような錯覚を覚えるほどに、その笑顔は綺麗だった。
side:ひな
お部屋の、扉の前に立つ。
大丈夫。ツバサ先輩にお話を聞いてもらって、すごくスッキリとしたから。
「ふぅ…」
扉に手をかけながら、コンコンコンとノックをする。…このまま入っても大丈夫かな。
返事を待たずに扉を開けると丁度3歩先のあたりにめぐるが立っていた。
「・・っ・!ひな・・!」
目を見開いて、すごくびっくりとしているめぐる。色々な感情がごちゃまぜになっているみたい。
「えっと、遅くなってごめんね、ただいま」
お部屋に入って後ろ手で扉を閉めながら言う。
今気が付いたけれど、荷物を受け取っていなかった。そもそも立花さんの所へも行っていないし…。荷物を取りに行くと言って出て行ったのに…
そしてめぐるはなぜか、私のことを見て固まっていた。
「めぐる?」
不安になって声をかけた瞬間、めぐるの金色の瞳が
「ごめっ、ひな」
ポタッと音がした。
「え?」
思わず声が出てしまった。
音がしたお部屋のカーペットに水跡がついているのを見てから視線を戻したら、めぐるの瞳から涙が溢れていたから。
目をギュッと
「イヤなこと言っちゃって、ごめんなさいっ!」
バッと頭を下げためぐる。
嫌なこと…お姉ちゃんのこと…
「ひなが出て行ったあと時間がたって、考えたの。なにかしちゃったと思った時は、立場を逆転させて考えなさいってママが言ってたから」
そこまで言って、めぐるは顔を上げた。涙がこぼれそうになる度にぐっと
流石にあれくらいの長い時間が経てば荷物を取りに行ったのではないとわかるよね。長く外に出過ぎていた。
「もしママのこと、会ってちょっとの人になんでも簡単にできる天才って言われたらって考えた。そしたら、めっちゃイヤだった…嫌だったし、それとおんなじくらい悲しかった」
めぐるのお母さん…そっか。
私が知っている情報が正しければ、お姉ちゃんのような立ち位置だった人。…努力の量だって、他の人とは比べものにならないくらいの多さだったはずの人。
「歌組に入ってから、ひめトレとかキツいやつやって、ひめ先輩がものすごい努力してんのだって見てたのに、なのにあたしっ、ひどいことっ…!」
言っている最中にも涙が溢れそうになっているめぐる。
その度に
「めぐる…」
ひめトレ。確か、お姉ちゃんがS4になって少し経った頃に考えていたあのトレーニング。歌組のレッスンにも取り入れられているんだ…
「ひな。ほんとにほんとっ、ごめんなさい。同じ部屋になって、めっちゃ嬉しかった。テンションが上がってなんて、そんなんで言っちゃいけないこと言っちゃってっ…ごめん…っ」
どんどん
(自分の気持ちを正直に言うこと)
目を一瞬だけ瞑ると、ツバサ先輩の声が耳元で聞こえた気がした。
「めぐる」
しっかりとめぐるを見て名前を呼ぶ。
私の気持ち、伝えないと。
「びっくりしたの。ひめ先輩…ううん。お姉ちゃんががんばっているの、たくさん見てきたから」
四ツ星学園に入る前…もっと幼い頃から。
お姉ちゃんが子役としてドラマやテレビ番組に出始めた頃、心無いことを言う人も中にはいた。
それでもお姉ちゃんは期待以上の結果を出し続けて、それを跳ね除けた。
「うん」
私が生まれた頃からお姉ちゃんは、みんなの憧れ、白鳥ひめだったから。
「悲しかったし、嫌だったから、お部屋から飛び出しちゃった」
だから嫌だった。悲しかった。
「っ…うん…」
でも・・・
「ふふっ、いいよ」
…めぐるの顔は、泣きそうになりながらも私の話を真剣に聞こうとしてくれていたせいで、こちらを睨んでいるみたいになっていた。
「えっ…?」
その顔が、私の言葉を聞いてポカンとした表情に変わる。
「こうしてごめんなさいと言ってくれたから、いいよ。めぐる」
きちんとお話をしてよかった。ツバサ先輩にお部屋を変えるという提案をされた時、それにすがって逃げなくてよかった。
めぐるのことを知れたから。
努力しているお姉ちゃんを見てくれていたと知れたから。
そんな想いを込めてめぐるを見る。
「……うぅっ」
いきなり、めぐるが自分の服の
「めぐる?!」
慌てて少しあった距離を縮めて側に行く。
…よかった、具合が悪い訳ではないみたい。
「ごめん、ホントごめんね、ひなぁ…!」
めぐるは泣いていた。ポロポロと大粒の涙を
なんだか、小さな子みたい。
自然と落ち着かせるように抱きしめていた。
「うん。私はもう大丈夫だよ」
そう言いながらお姉ちゃんが昔してくれたみたいに頭を撫でる。
「うんっ…うんっ…」
もう少しかかりそうかな、めぐるの泣き虫は。
どうしてかどこか懐かしい気持ちになりながら、私はめぐるの頭を撫で続けることにした。
side:ツバサ
館に帰りながら思い出す、寮の見回りに来る前のこと──
☆☆☆★
「あら、どうかしたの?ツバサ」
ひめは中庭にいた。
花を見ていたのかしゃがんでいたが私が来るのに気付いて、聞きたいことがあるのも察したのか立ち上がった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ。ひめは、ひなが今日保健室にいたのは知ってる?」
単刀直入に私がそう聞くと、ひめは少し含みを持たせて答えた。
「…えぇ」
「どうして保健室にいたのか、知ってたら教えて欲しい」
ひめは咲いている花に目線を落とすと、そっとその花を
そしてひめにしては珍しく少し時間が経ってから口を開いた。
「・・・倒れたのよ」
「倒れた⁈」
思わぬ回答に、
「ステージが終わったあとにね」
「それで…」
そこにきてようやくひめが視線を上げ、顔をこちらに向けてくれた。
「ねえ、ツバサ。これから寮の見回りよね?」
「あぁ、そのつもりだ」
「その時に余裕があったら、ひなちゃんの部屋にも寄って欲しいの」
珍しいな。ひめがこういうことを言うのは。
「それは別に構わないが、どうして?」
私がそう聞くと、ひめはまた少し視線を落とした。
「なんとなく…もしかしたら、外に出てるかもしれないの。
お部屋にいてくれればいいけど。そう言ったひめへ疑問に答えてくれたお礼を言い、私は学生寮へ向かった。
★★★☆
────まさか、ひめの言う通りとはな…。
廊下を歩き、部屋に戻る。
今日はこの後の仕事もない。
S4のマントを脱いで、クローゼットのハンガーにシワにならないよう吊るす。
ブーツも脱ぎ、マントの足元へ置く。
ベスト、スカートをマントと同じようにハンガーへ吊るしたあと、リボンを外してシャツや靴下も順に脱いでいく。
明日のスケジュール確認をするか。
室内用のシューズを
スケジュールの確認…とは言っても、四ツ星寮に行く前に1度してあるから仕事の流れをサッと確認するだけだ。
“コンコンコン”
耳に扉をノックする音が届いた。
誰だろう。
机にモバイルと手帳を置いて扉を開ける。
「はい…って、ひめ?」
私と同じように制服から部屋着に着替えたひめが立っていた。
「どうしたんだ?」
とりあえず部屋に招き入れて声をかける。
「あのねツバサ」
その表情は少し暗い。
…さっき同じような顔を見たな。ひなの方はアイスティーが美味しかったと別れる直前に伝えた時、花が咲くような笑顔を浮かべてくれたが。
そんな他愛ないことを考えていると、ひめがもう1度口を開いた。
「まだ、謝れていなかったから」
爆弾なんて無かったッ。
約3カ月ぶりにこちらを投稿、前回、次回爆弾を投下するかもです(キリッ…なんて言っておきながら自分の思う爆弾が次回に持ち越しになりました、ムーンナイトです。
書いていたら1万字を超えかけたので分割することにいたしました。
改めまして、3カ月ほどこの物語の更新ができず申し訳ありません。
新年度が始まり時代が変わり、ようやくひと時の休息がやってきたので、この間に少しでも楽しく小説を書いていこうと思います。
…夏休みのお盆が遠いですね。
最近投稿しているもう1つの小説は、頭を空っぽにして書いているので更新ペースもこちらよりは速いです。よろしければ一読ください。どちらも全力で書き進めていきます。
さて。本作オリジナルキャラクターの樹神めぐるちゃん。
いかがでしたでしょうか。こんなに画力が欲しいと願ったのは人生初ですね…
それでは、また次の後書きで。
(2019年9月・文章整形や加筆を行いました。