little Angel story〜1人の少女の物語〜   作:ムーンナイト

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間が空きすぎて話が分からなくなった人のための、3行で分かったりしなくもない前回のあらすじ
・ツバサ先輩ご苦労様です
・ルームメイトと仲直り
・お姉ちゃんがシリアス


15page 伝えたい気持ち

 side:ひめ

 

 突然私から言われたことにツバサは戸惑っているようだった。それはそうよね。

 少しだけ首を傾けて、1度(まばた)き。ツバサが戸惑っている時にする仕草。

 

「とりあえず座って話さないか?」

 

 部屋にあるソファを目で示される。

 その間に一瞬だけ机の方に視線を向けると、モバイルと開かれたままの手帳が見えた。

 

 予定の確認をしていたのかしら。

 

「今日のこと、なのだけど…」

 

 作業の途中に邪魔をしてしまった申し訳なさも加わって、私はソファに座ってからすぐ口を開いた。

 

「何かあったかな…あっ、ひめ」

 

 考え込むような仕草を見せたあと、頭上に電球を(とも)してから私を見るツバサ。実際に電球が出ているわけではないのだけど、ツバサやゆずと話しているとそんなイメージが頭に浮かぶ。

 

「まだ聞けてなかった。具合はどう?」

 

 思わず、息が少しだけ詰まる。

 色々な気持ちが心の中でせめぎあう。

 

──「大丈夫?白鳥さん」

 

 また…

 

「えぇ。もう平気よ」

 

 全部吐き出すように…詰まらせた息を、呼吸をするように自然と吐く。

 

「そうか、良かった」

 

 眉を少し下げて、安心したような表情を浮かべるツバサ。

 

──「具合がよくなったって分かって、ホッとしたんだ」

 

 1年生の時から、変わらない微笑み。

 

「…そのことについてなの」

 

「…?」

 

 膝の上に置いた手。悟られない程度に強く力を入れながら話を切り出す。

 案の定、ツバサはなんのことかと疑問符を浮かべていた。

 

「また迷惑をかけてしまったでしょう?ツバサも仕事終わりで疲れていたのに、ごめんなさい」

 

 雨が降ると気が付いたのはキッチンに移動した時。頭の奥が痛み始めたけれど、お茶を()れるくらいなら大丈夫だと思った。

 激しくなる頭痛に、どんどん襲いかかってくる目眩(めまい)。結局耐えきれずに倒れて、ひなちゃんとツバサが介抱してくれた。

 

 私の方から誘っておいてひなちゃんにお茶を淹れてあげられなかった悔しさももちろんあるけど、ツバサは朝早くからお仕事がギッシリ詰まっていて疲れていたのに。

 

「迷惑なんて思ってない。だから大丈夫だ」

 

 どこか困ったような笑みを浮かべながら言われた。

 いつもなら、そこで終わっていた会話。

 

──「いい?ひめ。今日は自分の思っていることをちゃんとツバサに伝えてみて。(おも)いを飲み込んだらダメ」

 

 夜空の言葉が脳裏をよぎる。

 

「でも…」

 

 思わず、そう口に出していた。

 

 口に出したあと、言葉が続かないことに気が付く。

 

 私がツバサに伝えたかったこと、ずっと思っていたこと・・・

 

「私は」

 

 隣から、(つぶや)くような声が聞こえた。

 

「ツバサ?」

 

 私がそちらを向くと、ツバサの表情はどこか思いつめているようなものから、しっかりとしたものへ変わった。

 なにか決意を固めたような表情に少しだけ身構える。

 

「ひめ。もしひなが具合を悪くして動けなくなっていたとしたら、ひめはひなを助けるか?」

 

 唐突な質問に驚いたけれど、この質問は考えるまでもなく答えが出た。

 

「もちろん」

 

「それはなぜなんだ?」

 

 間を置かずに繰り出されたツバサからの質問。

 

 なぜ…?

 だって、ひなちゃんは…

 

「ひなちゃんは、私の大切な妹だから」

 

 大切な、大事な、私の宝物。

 

 落ち着いた今だから。私はもう大丈夫と送り出してくれたひなちゃんはまだ本調子ではなかったことが分かる。今考えれば簡単に分かるのに、あの時の私は分からなかった。

 

 ツバサが側にいてくれたように、私もあの子の側にいてあげられたはずなのに。

 

 自分の感情に振り回されて、妹のことさえ見てあげられなかったなんて。

 

「迷惑をかけたと謝られるのと、ありがとうと感謝されるの、ひめはどちらが嬉しい?」

 

 ツバサの声が頭の中で文章として組み立てられるまで、少し時間がかかった。

 

「それは…あっ」

 

 突然浮かび上がってきた、懐かしい記憶。

 

 ────私は昔、今のツバサと同じことを、ひなちゃんに言った。

 

 ☆☆☆★

 

 その日は家族全員でピクニックに行く予定だった。

 皆でお出かけをするなんて久しぶりで、私もひなちゃんもカレンダーを使ってカウントダウンをするくらい楽しみにしていたけれど…

 

 当日、ひなちゃんが熱を出してしまった。

 

「ごめんなさい、おねぇちゃん」

 

 高い熱にうなされていたひなちゃんの側に行って手を繋いでいた時、薄く開けた目に涙を()めて言われた。

 

「ううん、いいのよ。それにねひなちゃん」

 

 私は、言ったはず。

 

 ────「ごめんなさいより、ありがとうって言われた方がうれしいわ」

 

 ★★★☆

 

「感謝、された方が…」

 

 ツバサを見れば、いつも以上に真剣な瞳が私を見つめていた。

 

「ひめは、私の大切な友達だから」

 

 その言葉は、まるで私が言ったばかりの言葉をなぞっているようだった。

 

「だから助けたいし、支えたいんだ」

 

 初めて伝えられたツバサの想いは、真っ直ぐで力強くて。

 

 何より、とてもあたたかかった。

 

 

 

 side:ひな

 

 この服類はクローゼットの中に入れて…

 

「ふーさっぱりしたぁ」

 

 あ、めぐるがお風呂から出てきたかな。

 

 仲直りをしてめぐるが落ち着いたあとに荷物を取りに行ったら、立花さんがお弁当まで用意してくれていた。樹神さんも晩ご飯まだのはずだから…と言ってめぐるの分も一緒に。

 

 その時にまだ夜ご飯を食べていなかったのを思い出して、お部屋に戻ってから2人で食べた。

 急ごしらえで申し訳ないけど…とも言われたけれど、おにぎりや卵焼き、ピックに刺さったお野菜まで食べやすいように工夫されていて心がポカポカと暖かくなった。

 

 お風呂も今日はお部屋のものを使っていいと言われたから、私が先に入らせてもらって()(ほど)きを始めていたの。

 

「片づけどうー?ってあれ?ひな、もう髪乾いたの?」

 

 バスルーム、バスタブは足をぐーっと伸ばせるほど広くてびっくりしたな。

 そのバスルームの扉からタオルで髪の毛の水分をポンポンと取りながらめぐるが出てきた。

 

「髪の毛が乾くのは昔から早いの」

 

 ミヅハ様がいるお陰で。

 

「なにそれいいなー。あたしくせっ毛だからさ、ちゃんとしないとすぐピョンピョンなる…」

 

「そうなんだ」

 

 確かにめぐるの髪の毛はくるりとなっているから、ドライヤーできちんと整えないと大変そう…

 

 そう考えていたら、めぐるがじっと私を見ていることに気付いた。

 

「めぐる?」

 

 どうしたんだろう?

 

「もしかしなくてもさ、ひなもくせっ毛?」

 

 じぃーっと髪を見ながら言われた。

 

「うん、実はそうなの」

 

 お姉ちゃんはふんわりとしているけれどストレートな髪質だから、髪の毛を整える時もあまり困らないと言っていた。

 質問に肯定で返すと、うっと息を詰まらせためぐる。

 

「んでこの違いかぁ…うー、羨ましい」

 

 コミカルな動きでがっくりとうなだれるめぐるを見ていたら、自然と笑顔になっていた。

 

「ふふっ」

 

「よし!お風呂も入ったし、あたしも片付け手伝うよ」

 

 今度はぐっとサムズアップをしてそう言ってくれた。

 

「いいの?」

 

 なんだか少し申し訳ないけど…

 

「もち!」

 

 でも嬉しかった。

 

「ありがとう」

 

 だから、ごめんねと言うよりもありがとうと伝えた。伝えたい大事な気持ちだから。

 

「いいっていいって。それであたし、なにすればいい?」

 

 なんでもするよ?とウィンクされた。

 会った時からなんとなく思っていたけれど、めぐるの瞳、スファレライトみたい。取り込んだ光が明るい金色の瞳の中でたくさん反射しているような、そんな感じ。

 

「この中の本を机の上に出してもらうの、お願いしたいな」

 

 何冊か持ってきていた本。何度読み返してもまた読みたいと思える本を中心に持ってきた。

 

「りょーかいっ。まかしといて」

 

 よし、さっさとおわらせよー!

 めぐるがそう言った後に2人でエイエイオーと手をあげて笑いあった。

 

 めぐるとルームメイトになれて、よかった。

 

 

 

 side:ツバサ

 

「だから助けたいし、支えたいんだ」

 

 やっと、伝えられた。

 まだ心臓がバクバクとうるさいほど脈打っている。

 

 一方でひめはというと、驚いたような表情で瞬きをしていた。

 

 突然あんなことを言われれば驚くか。

 

「いきなりごめん」

 

 一気に血が下がっていくかのような感覚を押し殺し、なんでもないように笑顔で謝る。

 

 …こうすればいつものように会話が終わって、普段通りに戻るはずだ。

 

「私、嬉しかったわ」

 

「え…?」

 

 口から疑問と驚きの音が勝手に出た。

 

 私の言葉から沈黙していたひめが小さく言った言葉。

 その言葉は、私を固まらせるのに充分な威力を持っていた。

 

 膝に乗せた手を見つめながらひめが口を開く。

 

「嬉しかった。ツバサが側にいてくれて。…でも雨が降るたびに、また迷惑をかけている申し訳ない気持ちが膨らんでいったの」

 

──「…ごめんなさい、如月さん」

 

 そう保健室で言われたのを思い出した。あの頃、ひめはS4になったばかりで、私は劇組の生徒になっていた。

 

──「ごめんなさい、ツバサ。また迷惑をかけてしまって」

 

 2年生。私が劇組の幹部になってからは、ひめと会う頻度(ひんど)も少し減った。

 それでも雨が降ると、私はひめを探していた。

 

 ひめはずっと、ごめんなさいと口にしていた。

 

「…私がちゃんと言えなかったせいだ」

 

 理由は、火を見るよりも明らかだ。

 

「ツバサ?」

 

 ひめの心配そうな声が聞こえた。

 いつもそうだ。ひめは自分の思っていることさえ伝えられない私を、いつも心配してくれていた。

 

 それでも、今なら伝えられる。向き合って話すという選択をしたひなの姿から勇気をもらったんだ。

 ここで伝えなければ、私はきっと、ずっと後悔する。

 

「1年生の時から思ってた。ひめの支えになりたい。せめて休んでいる時は安心できるように、ひめを守りたいって」

 

 思っていただけじゃない。

 私は自分に誓った。

 

「だけど、歌組を離れた私にそんなことを言う資格があるのかって。傷付くのが怖くて、そう理由を付けて逃げていたんだ」

 

 結局、私はひめにそのことを伝えて拒絶されるのが怖かっただけだ。

 自分に言い訳をして、自分を(だま)して。

 

「資格ならあるわ」

 

「っ!」

 

 自己嫌悪に(おちい)りかけていた時に聞こえたそんな言葉に私は弾かれたように顔を上げ、ひめを見た。

 

 その顔は嬉しそうなのと同時に、どこか切なげだった。

 

「だってツバサは、私の隣に来てくれた。劇組のS4として、私の隣に」

 

 ひめの、隣に…?

 まだまだだと思っていた。どんなに手を伸ばしてもひめには届かなくて、隣に並び立てるのはいつなのかと自問自答を繰り返す日々だった。

 

「だから…だからねツバサ」

 

 ひめの手が私の手を包む。

 少しひんやりとしていて、それでいてひめの手は暖かかった。

 

 手に下ろしていた視線を上げる。

 ひめの目は(うる)んでいて、そこにうつる私が揺れていた。

 

「ありがとうって、言わせてほしいの」

 

 告げられた言葉には、ひめの想いがつまっていた。

 私がもっと早くに伝えていればよかった。

 

 それでも、その言葉はいままで言われてきたどんな言葉よりも嬉しくて。

 

「いや、私こそ、あり、がとう…っ」

 

 結局また、涙をこらえきれずに(こぼ)した。

 

 その涙は、とてもあたたかかった。




爆弾?知らないなぁ…(申し訳ない…)

皆さま、お久しぶりでございます。ムーンナイトです。
この度休みがやってまいりましたので、分割して保存していたはずが寝ぼけてデータを丸ごと消してしまい悲しみに苛まれながら書き直した15pageを投稿しました。

そして、お盆休みを利用してこの物語『little Angel story〜1人の少女の物語〜』を読みやすくしたいと思います。
1pageから順に文章整形やルビ振り、それに伴い文章を少し変えていく予定です。
そのため、こちらの物語の新投稿はお盆中に出来ない可能性があります。ご了承くださいませ。

一方で、もう1つの小説『姉バカレコード in かすみけ!』の方は突っ走れる限り更新していきますので、お暇があれば一読ください。

それではまたぁ…

(2019年9月・文章整形や加筆を行いました。
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