little Angel story〜1人の少女の物語〜   作:ムーンナイト

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あと約1ヶ月で2020年終わる?時の流れは早いなぁHAHAHA!
…いやいや1年かけて6話しか投稿してないなんて、まさかそんなご冗談でしょう(・ω・`)カチカチ

・・( ゜A゜;)?!!!

間が開きすぎて話を忘れた人のための3行で分かったりしなくもない前回のあらすじ
・真昼ちゃんとランチ
・パントマイムひなちゃん
・お弁当買って来てェッ!


23page 劇組のレッスン

 side:ひな

 

 突然めぐるからかかってきた電話の内容はお弁当を買ってきてほしいという普通のものだったけれど、少し暗い声が気になった。

 

 元々私はほぼ食べ終わっていたから、一緒にいた3人に事情を話してからお弁当を買ってカフェテリアを出た。

 持っている袋の中のお弁当が(かたむ)かないようにしながら寮に向かって歩く。

 

 お部屋で食べるのだろうけど、何かあったのかな。

 めぐるは声を聞く限り雰囲気が暗くても体調不良などではなさそうだった。

 そうしたら…汝鳥さん?

 

 そういえば昨日、一緒にご飯を食べた時に少し違和感を感じた。その時は気のせいかと思ってなんでもないと言ってしまったけれど、もしかして…

 

 心配の気持ちが大きくなったからか、私の足取りは知らず知らずのうちに早くなっていた。

 

 ☆☆☆☆

 

 寮内の扉の前で1度呼吸を整えてからノックをして開ける。

 ベッドがあるお部屋の引き戸が閉まっていて2人の姿は見えなかった。短い廊下を歩いたあと、引き戸に手をかけて一瞬耳を澄ます。

 

 うん、2人とも中にいるみたい。

 

「ただいま」

 

 戸を開けてそう言ってから、座っていた私の椅子から立ち上がろうとした汝鳥さんにそのままでいいよと声をかける。

 

「おかえり、ごめん頼んじゃって」

 

 自分の椅子に座っていためぐるが眉尻を下げながら私の方を見た。

 

「ううん。はい、めぐるの分」

 

 お部屋に入りながら首を振って、袋の中からめぐるのお弁当を取り出し手渡す。

 

「ありがとー」

 

 ほわっとした笑顔で返してくれた。

 今度はもう1つのお弁当を取り出して汝鳥さんの方を向く。(そろ)えた膝に手を置いて、視線を少し下に向けながら固まっていた。

 どうすれば良いのか分からなくなっているような、そんな固まり方。

 

 ベッドの側にスクールバッグと袋を置いたあと、汝鳥さんの視界に入るようにしゃがむ。

 

「汝鳥さんの分のお弁当。お腹空いているでしょう?」

 

 カフェテリアでもらったお箸やスプーンと一緒にお弁当を差し出すと、そっと受け取ってくれた。

 

「ありがと」

 

 そう言ってからもなぜかあまり動かず私の方を見つめる汝鳥さん。事情を聞かないのか気になっているみたい。

 

「何があったのかは知りたいけれど、まずは食べてね。まだ温かいから」

 

 微笑んでそう言うと、お弁当に視線を落としてからコクリと頷いてくれた。

 

「いただきます!」「いただきます」

 

 2人の声を聞きながら立ち上がって、今度はベッドに腰かける。

 

 めぐるはきんぴらのライスサンド、汝鳥さんは鶏肉ときのこのスープで、買ってきてほしいと言われたけれど実際には2人がアイカツモバイルから注文したお弁当を受け取るだけだったの。

 カウンターでめぐるから送られてきたコードを提示するとあまり時間を置かずにお弁当が出てきてびっくりした…私も今度利用してみようかな。

 

「あ!そういえばモデルオーディションの詳しい連絡来てたけど、ひなもう見た?」

 

 めぐるからの問いかけに首を振る。

 

 ギリギリまで迷ってエントリーをしたAIKATSU(アイカツ)()STYLE(スタイル)モデルオーディションの詳細…モバイルを確認すると、確かに来ていた。

 

「本当。見てみるね」

 

 サッと内容に目を通す。オーディションの日時と場所、それから内容が書かれていた。

 

 オーディションは7月9日の土曜日…つまり明後日(あさって)。応募人数の関係上、午前と午後の2部構成で行われるみたい。

 9時から美組のスタジオでポージングの写真撮影、お昼休憩を挟んで13時からホールでウォーキング審査。そしてそのあとに結果発表があって、オーディションに合格した人は日曜日に早速撮影…なるほど。

 

 ポーズ写真は4枚でリテイク無し(一発撮り)のようだから、今日と明日で色々考えておかないと。

 あとは夜にもう1度読み直せばいいかな。

 

 画面を閉じてモバイルを(かたわ)らに置き、袋を手に取る。

 

「食べ終わったあとに、まだ食べられる?」

 

 私がそう聞くとご飯を食べていた2人は首を傾げた。

 

「あたしは食べられるけど、サツキは?」

 

「平気。…?」

 

 汝鳥さんの疑問に答えるように袋からカップを取り出す。

 カフェテリアのカウンターでお弁当を待っている間に目に留まった、下にある白色と上に乗せられた透き通る水色のコントラストが綺麗なデザート。

 

 クラッシュされた水色のゼリーには星形のナタデココやシュガーもトッピングされていて、まるで天の川みたい。

 

「七夕限定ゼリー、一緒に食べたくて買ってきたの」

 

 もしもゼリーが苦手だったらと悩んでいたのだけど、小春ちゃんがニコニコしながら大丈夫と言ってくれたから。

 

──「前に2人で食べてるのを見たことあるから、きっと喜んでくれるよ」

 

 めぐると汝鳥さんを見ると、それぞれ驚いた表情を浮かべていた。

 

「え、マジ?!うわ…めっちゃキレイ」

 

「お金払う」

 

「ふふっ、私が食べたくて買ったものだから」

 

 ゼリーに見惚れるめぐるに対して少し身を乗り出してそう言った汝鳥さんにお金はいらないという意図を込めて言葉を返す。

 

 喜んでくれているみたいでよかった♪

 

 ☆☆☆☆

 

 3人で天の川のような七夕ゼリーを食べてひと息吐いたあと、2人から何があったのかを聞くことになった。

 

「つまり、サツキはここ数日お昼ご飯を食べてなかったということです」

 

 汝鳥さんが少し遠回しに話していたことをめぐるがバッサリと(まと)める。

 

「…」

 

 決まりが悪そうに目を()らした汝鳥さん。

 レッスンが終わって合流したあとにめぐるが何気なくお昼なに食べた?と聞いて発覚したみたい。

 今取り組んでいる定期公演の役が上手く掴めていないからレッスンしていただけ、と言っていた。

 

「それであたしは怒ってます。てゆーかめっちゃ怒りました」

 

 プンプンとしながら腕を組んでご立腹な様子のめぐる。

 

「しぼられた…」

 

 お部屋で詳しくお話を聞いためぐるにたくさん叱られたらしい。

 昨日違和感を感じたのもそうだけれど、今朝も早い時間にお腹が空いたと言っていたことを思い出した。

 

「ご飯は食べないと、だね」

 

 真昼ちゃんも食べないでレッスンをしようとしていたし…

 

「ん、ごめんなさい」

 

 私の言葉に頷いてペコリと頭を下げた汝鳥さんを見て、めぐると目を合わせて微笑む。

 

「これからはご飯食べること。絶対だからね」

 

 めぐるが真剣な顔でそう言った。

 

「できるだけ、善処(ぜんしょ)する」

 

 …それだと食べない可能性の方が高い気がするなぁ。

 

「あーダメなやつぅ…」

 

 同じことを思ったのかめぐるも天井を(あお)いでいた。

 

「…レッスンで忘れる」

 

「いや食欲を簡単に忘れないで⁇」

 

 少し困った雰囲気を出しながら言った汝鳥さんにめぐるは真顔で突っ込んでいた。

 

 確かに集中しているとご飯の時間を忘れてしまう感覚も分かるけれど…体を動かすエネルギーを補給するという点でも何か口に入れた方が良いと思う。

 

「ひなって明日劇組だよね、サツキは先にレッスン行っちゃうだろうから頼んでもいい?ご飯ちゃんと食べるかとか」

 

 そう言ってこちらを見ためぐるに頷く。

 

「うん、(まか)せて♪」

 

 汝鳥さんはというと、瞬きをして少し首を傾げていた。

 

「サツキ?もし今そんな子どもじゃない的なこと考えてたら、胸に手を置いて、よぉーく自分の行動思い出してみようか」

 

 めぐるに言われるがままに胸を手を置く汝鳥さん。そんな子どもじゃないと思っていたみたい。

 少し考えていた汝鳥さんが納得したような雰囲気を浮かべて私達の方を見る。

 

「ダメだった」

 

 少し驚いたような声色だったけれど、数日間お昼ご飯を食べていなかったのはダメだと思う…。

 

「うむ、分かればよろしい」

 

 汝鳥さんの言葉に頷くめぐる。

 

「ふふっ」

 

 まるで仙人のような表情と穏やかな動きをしていて、思わず笑みが(こぼ)れた。

 それにつられてなのか2人もそれぞれ表情を緩めて穏やかな空気が流れる。

 

「そうだ!ひな、今日のレッスンどうだった?」

 

 ピコンと思い付いた表情を浮かべてめぐるが私の方を向いた。

 えっと、どこから話そうかな…

 

 頭の中で順番を組み立てながら、私は口を開いて舞組であったことを話し始めた。

 

 ☆☆☆☆

 

「教えてくれてありがとう、白鳥さん!」

 

 午前の授業が終わり、自習時間中に一緒にお勉強をした青山さんからお礼を言われる。

 

「どういたしまして♪」

 

 今日は一昨日(おととい)お願いされたノートを見せることだったり、勉強方法を伝えたりした。

 英語の単語を覚えるには日本語の意味を書いた後に英語のスペリングとカタカナでの読み方を書くこと、他の教科のテストはワークノートから問題が出ることが多いから問題を読んだ瞬間に答えが浮かぶようになるまで繰り返し解くこと、基本的にはこの2つ。

 

 あとは青山さんが分からなかった所を一緒にお勉強して授業が終了。うしろに座っていた花畑(はなばたけ)さんや左隣の机に座っていた音羽(おとは)さんからも今度の自習時間に教えてほしいと言われたから、金曜日の授業にはなるべく出席するようにしようかな。

 

「ひなー!」

 

 教室の入り口からめぐるが顔を覗かせた。

 

「すぐに行くね!」

 

 そう言ってノートをバッグにしまう。

 2時間目が終わった頃に汝鳥さんがレッスンに行ったとめぐるから連絡があったから、お昼ご飯は劇組のスタジオで食べることになるかな。

 

「今日は劇組だっけ?」

 

 そばに来ていたローラちゃんからの問いかけに頷く。

 

「うん、そうなの」

 

「いってらっしゃい!ひなちゃん!」

 

 その隣のゆめちゃんが明るい笑顔を浮かべながらそう言ってくれた。

 

「ありがとうゆめちゃん。いってきます♪」

 

 劇組のレッスン、たくさん学べるといいな。

 

 ☆☆☆☆

 

 カフェテリアでお昼ご飯を買ったあと、劇組のスタジオに向かう。

 舞組が明るく自由な空気で、美組が洗練されたシャープな印象、そして歌組は穏やかで暖かい。組によってスタジオの雰囲気が全く違うことをここ数日で感じていた。

 

 劇組は…あれ?

 

 スタジオの近くまで来て、ふと入り口に誰かが立っているのを見つけた。

 

「来たわね」

 

 少し距離があるのに近くで話されているかのような不思議な感覚。

 劇組の担当コーチ、八千草(やちぐさ)桃子(ももこ)先生だった。

 

「歌組1年の白鳥ひなです。よろしくお願いします、八千草先生」

 

 少し急いで先生の元へ行ってからご挨拶をする。

 口元に笑みを浮かべながら八千草先生は口を開いた。

 

「ここ劇組では、演技のプロフェッショナルになるためのカリキュラムを用意しているわ。まずは食べて、それから学びなさい」

 

 短い会話の合間に私が早く来た目的を把握したらしい八千草先生に言われた。

 

「わかりました」

 

 私がそう返すと、笑みを少し深くした先生はついてきなさいと私に背を向けて歩き出した。

 足を踏み入れた時に感じたけれど、劇組のスタジオにはどこか(おごそ)かで身が引き締まるような空気が流れている。疲れていてもスタジオに入ればしっかりと集中出来るような、そんな雰囲気。

 

 八千草先生についていくと、先生はある扉の前で立ち止まりそのまま手をかけて開いた。

 

「“わたしは…!”」

 

 …そこにいたのは、心の内を必死に伝えようとする女の子(汝鳥さん)。少し震えたその言葉に込められたエネルギーに思わず立ち止まる。

 

 八千草先生がパンと手を叩いたことでこちらに気付いてくれたようで、(まと)う空気が私の知っている汝鳥さんのものに変わった。

 

「どう?」

 

 言葉少なく問いかける八千草先生。

 それに対して、汝鳥さんは少し雰囲気を暗くしながら首を横に振った。

 

 役が上手く掴めていないと言っていたのはこの事だったのかな。

 

「如月との合わせもあるわ。今日はちゃんと食べなさい」

 

「はい」

 

 何気なく今の会話を聞いていたけれど、お昼ご飯を食べていなかったことを八千草先生は知っていたみたい。

 

 ☆☆☆☆

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 汝鳥さんとお弁当の空箱を重ねて袋にしまう。

 どこででも食べられるおにぎり弁当にしておいてよかったな。

 

「美味しかったね、汝鳥さん」

 

 更衣室で着替えてからレッスンルームでお弁当を食べている間に色々と劇組について教えてもらった。

 普段のレッスン内容や今取り組んでいる演目について、S4であるツバサ先輩や幹部の坂本ありさ先輩のことも。

 

 次の定期公演で上演する劇に、汝鳥さんはツバサ先輩と並ぶメインの役で選ばれたらしい。

 でもそれが中々難しくて苦戦中なのだとか。

 

「めぐるのも達成」

 

 私の言葉に頷いたあと、満足気にそう言った汝鳥さん。

 めぐるからちゃんと食べることと言われていたから、そのミッションを達成したということみたい。

 

「ふふっ」

 

 あとでめぐるにお昼はちゃんと食べたよと連絡しておこうかな。

 

 そんなことを考えていたら入り口の方から視線を感じた。

 目を向けるとこちらを覗いていた子と目が合う。

 

 同じクラスの蓮見(はすみ)さんに、鷲谷(わしや)さん?

 

「あの、白鳥さん、ちょっといい?」

 

 遠慮がちに蓮見さんからそう言われた。

 

「少し行ってくるね」

 

 台本を手に取っていた汝鳥さんに声をかける。

 

「ん」

 

 蓮見さん達、レッスンルームに入ってこないのかな?

 少し怪訝(けげん)に思いながらも入り口へ向かった。

 

「大丈夫?嫌なこと言われたりしてない??」

 

 出てすぐ、心配そうな顔をした鷲谷さんから言われた言葉に面食らう。

 

「えっと…?」

 

「汝鳥さんから」

 

 よく分からなくて首を傾げると、蓮見さんが口を開いて補足してくれた。

 

 …私が汝鳥さんから何か嫌なことを言われていないか心配してくれた、ということなのかな。

 

「ううん、何も言われていないよ?」

 

 ありがたいけれどその心配は必要ないと思う。

 

「そっか…」

 

 ホッとしたように下を向く鷲谷さん。ホッとしているというよりも、少し落ち込んでいる気がする。何か望んでいたこととは違うものだったような反応。

 

「汝鳥さん、組分けテストも1位通過だしツバサ先輩や先生にも評価されてるからすごいと思う。でも…」

 

 蓮見さんがそこまで言って口を(つぐ)む。

 

「すぐコピーされちゃうから、ちょっと」

 

 代わりに顔を上げた鷲谷さんが口を開いた。

 

「コピー?」

 

 思わず聞き返す。

 コピー、演技を真似るということ?

 

「私たちの演技を1回見ただけでコピー出来ちゃうの。それに普段はずっと無表情で何を考えてるか分からないし…」

 

 汝鳥さんと話していて、何を考えているのか分からないということは無かった。

 表情豊か…というよりも雰囲気豊かにお話してくれるから。確かに表情筋の運動は少なかった気もするけれど、無表情ではないと思う。

 

「前、S4の先輩方が主演を務めるツバサ先輩プロデュースの映画に、生徒役として出演出来る校内オーディションがあって…2グループに別れて競って勝負が決まった後、負けたチームから汝鳥さんだけが台詞(セリフ)付きの役に選ばれたの。他の子たちもそれは贔屓(ひいき)じゃないかって思っちゃったみたい」

 

 蓮見さんがそう教えてくれた。

 

 もしかしてROCK(ロック)ROCK(ロック)GIRLS(ガールズ)!のことかな。

 ベストセラー小説の『ガリ勉していたギャルがロックバンドで音楽大学に現役合格した話』がドラマ化されると知って、病室で原作の大ファンである(あずさ)さんと一緒に驚きながらもワクワクしていた。

 

 ツバサ先輩がプロデュースをする映画に生徒役として出演するチャンスがあった校内オーディションはそれだけだったはずだから、きっとそうだと思う。

 

 1年生で台詞付きの役だったのは確か…チラシを断るだけではなくてM4の結城(ゆうき)すばる先輩が演じたボーカルの彼女役もしていたゆめちゃん、小春ちゃん、ローラちゃん、めぐる、鷲谷さん、蓮見さん、奥谷(おくたに)さん、寺田(てらだ)さん、野々宮(ののみや)さん、沙浄(さじょう)さん、飴宮(あめみや)さん、宇佐美(うさみ)さん、早乙女(さおとめ)さんに、汝鳥さん。

 

 一瞬映るその他生徒役としては御堂(みどう)さんや玉川(たまがわ)さんも出演していたけれど、オーディションに合格したら台詞付きの役をもらえたようだし、負けてしまったチームにいたのかな。

 

 印象に残っているのはツバサ先輩演じる主人公がチラシを配ろうとするもひたすら断られ続けるシーン。早乙女さんも自然体で上手だと思ったのだけど、なにより汝鳥さんが一瞬見せた瞳の奥の冷徹さに鳥肌が立ったことを覚えている。

 

「だから、あんまり1年生の空気が良くなくて…それで呼んじゃったの」

 

 鷲谷さんの言葉に思考を一旦止める。

 

「そうだったんだ」

 

 負けたチームの中には劇組の子もいただろうし、それで空気が悪くなっているのかな。まだレッスンが始まっていないから何とも言えない。

 

「急にごめんね、白鳥さん」

 

 私が何も言われていないと分かったからか、申し訳なさそうに謝ってくれる蓮見さん。

 

 蓮見さんは汝鳥さんの事を話す時に少し心配の表情が浮かんでいた。特に悪い感情を抱いているわけではないみたい。

 対して鷲谷さんは少しだけそういう感情を抱いているようだった。でもそれくらいなら誰でも抱くようなものだし、その感情に対しての罪悪感もあるようだったから。

 

「ううん、教えてくれてありがとう。汝鳥さん、ここ数日お昼ご飯も食べずにレッスンをしていたみたいで…さっきまで一緒に食べていたの」

 

 最初にお話を聞けたのがこの2人でよかったかもしれない。

 廊下の向こうから歩いてくる坂本ありさ先輩に気付いてお辞儀をしながら、私はそう思った。

 

 ☆☆☆☆

 

「うん、今の発声はみんなよかったわ」

 

 劇組のレッスンが始まってから少し。

 1度最初に発声練習をしてから体をほぐすためのストレッチや持久縄跳びをして、改めてもう1度発声練習をした。

 

 今のはありさ先輩が言ってくれたように声がよく通っていた…体から無駄な緊張が抜けたからなのかな。この感覚をよく覚えておかないと。

 

「それじゃあ次は、指を歯で挟みながら同じようにアエイウエオアオの発声をしてみて。はっきり声が出る舌の位置を確めながら口を大きく開けるのを意識すること」

 

「「「「はい!」」」」

 

 ありさ先輩が見せてくれたお手本を思い出しながら取り組んでいく。

 声を出してみると思わず歯が指から離れてしまいそうになったり、思っていたよりも難しい。

 

 まわりの人も上手に発声出来ていなかったり音がつまったりする中で、汝鳥さんの発声はクリアで綺麗な音…

 

 上手な人の息の使い方や体の動きをよく見て自分の発声に取り込みながら、修正を重ねていった。

 

 ☆☆☆☆

 

 発声練習や簡単なアクションの練習をしたあと、表情の動きについて学んだ。

 人間の表情の種類から始まり、日常の中で自然と出来ている表情なのになぜ舞台の上だと出来なくなってしまうのか、逆になぜ大袈裟(おおげさ)にやりすぎてしまうのかなどがデータと共に(まと)められていてすごく分かりやすかった。これは代々劇組の組カツドウで生徒が実践して集めてきた資料を元にしているのだとか。

 

 劇組の生徒は日々この膨大な資料から学びを得て新たなページを加えながら更に次へと繋げていく…脈々と受け継がれてきたものの大きさは4つの組の中で1番かもしれない。

 

 レッスンルームにある黒板を使ったありさ先輩による講義が終了した頃、廊下側からコツコツとこちらに向かってくる足音が聞こえた。この足音は…目を向けるのと同時に扉が開かれる。

 やっぱり、ツバサ先輩だった。

 

「「「「ツバサ先輩、お疲れ様です!」」」」

 

 …すごく綺麗に揃っていたなぁ。

 ありさ先輩を始めとして、レッスンルームにいた劇組のみんなが揃ってした挨拶に驚く。

 急なことで私はご挨拶が出来なかった。

 

「あぁ、お疲れ様」

 

 驚くことなく挨拶を返したツバサ先輩がこちらを見て微笑む。それに応えるようにぺこりと頭を下げた。

 

「どこまでレッスンが進んだ?」

 

 ツバサ先輩が、広げた資料をしまって黒板の内容を少し修正していたありさ先輩に声をかける。

 

「はい、舞台上においての表情の動きについて講義が終了した所です」

 

 ありさ先輩は体をツバサ先輩の方へ向けてきっちりと答えていた。

 

「ありがとう。ここからは実践練習をしようか」

 

 レッスンルームへ入ってきながら伝えられたツバサ先輩の言葉に周りのみんなが嬉しそうにする。ワクワクしているような、気合を入れているような雰囲気。

 

 実践練習、何をするのかな。

 

「発声方法から始まり、これまで喜怒哀楽の表現や泣くという感情の演技の基礎を学んできた。そして今日は、悲しみについて触れようと思う」

 

 悲しみ…

 

 悲しんで泣く、であればもっと単純だったかもしれないけれど、悲しみだけというのは幅が広くて複雑。

 例えばS4のライブチケットが抽選で当たらなかった時や、長年飼っていたペットが天国へ旅立った時、はたまたご飯に苦手なものが入っていた時まで、それは等しく悲しみと表せる。

 (ともな)われる感情や心への負荷が大きく違うから、観ている人に正しく伝えることが難しい。

 

「壇上で1人ずつ演技をし、私が“大丈夫か”と声をかける。それに対して何か反応をして先生が手を叩いたら終了だ」

 

 ツバサ先輩と1対1の演技になるみたい…!

 またとない機会に心が躍る。

 

「悲しみというのは、どのような背景のものですか?」

 

 1人の子が手を挙げて聞いていた。それに対して口を開いたのはツバサ先輩ではなく、その隣に移動していた八千草先生。

 

「大衆に求められるのはリンゴ。それが普通。でも今は、バナナでも葡萄(ブドウ)でもいいの」

 

 より深い笑みを浮かべながら伝えられた言葉を頭の中で反芻(はんすう)していく。

 大衆に求められるリンゴはつまり、ドラマなどで演じる最適解の伝わりやすい悲しみ。

 

「えっ・・と」

 

 挙手をした鈴木さんは八千草先生の言葉がよく分からなかったようで、戸惑った表情を浮かべていた。

 

 普通はがっくりと項垂(うなだ)れたり、泣き崩れたり、悲しんでいると誰にでも分からせる演技が求められる。

 

「分からないのか?」

 

 ツバサ先輩の声を耳を入れながら考え続ける。

 

 八千草先生はバナナでもブドウでも良いと言っていた。リンゴとは別の種類の果物(演技)でも構わないという意味。今は、ということだからこの練習限定。つまり…私の悲しみを表現すればいい。

 

「何にも(とら)われない、自分だけの悲しみ」

 

 同じ考えになった人もいたみたい。

 

 声がした方にチラリと視線を向けると、隣にいる汝鳥さんがツバサ先輩と八千草先生を静かに見つめていた。

 

 まわりの人の空気が納得したようなものになって…えっと、どうしてここで後ろ向きな感情が出てくるのかな。何人かから少しマイナスな空気を感じた。注意して感じとらないと分からない程度だから、表面化はしていないようだけど…。

 

 1度視線を前に戻すと、ツバサ先輩が頷いていた。

 

「汝鳥の言う通りだ。演じることに正解はない。常識に囚われず色々な悲しみを見つけてくれ。奇抜(きばつ)なものでも面白いだろうな」

 

 ・・最後の言葉、ツバサ先輩の誘導かもしれない。

 

 奇抜という言葉が使われたことでみんながより考え始めた。中には元々あった自分の中の構想を崩して考え直している人もいるはず。

 それが悪いとは言わないけれど、奇抜ということに重きを置きすぎると自分だけの悲しみからズレてしまう気がする。

 

 周りがワクワクした表情で色々考え直しているのを不思議そうに見ていた汝鳥さんと目があって、お互いに少し首を(かし)げる。

 汝鳥さんにも、自分なりの悲しみの形がハッキリと見えているようだった。

 

 ☆☆☆☆

 

 八千草先生が手を叩くのと同時に、色々な世界が元に戻っていく。

 

 泣くようなこともあったけれど、コミカルな悲しみも多かった。

 宝くじが当たらなかった、イヤリングを片方落としていた、やっと休みが来たと思ったら用事が重なってやりたいことが出来なかったなどなど…表情の使い方はさすが劇組という子が多くて勉強になった。

 

「次」

 

 ツバサ先輩が壇上から呼びかける。

 

「はい!」

 

 手を挙げながら返事をして舞台へ上がった女の子。

 

 早乙女あこさん。

 オレンジ色のロングヘアの頭頂(とうちょう)部分を猫の耳のように纏めていて、可愛らしい鈴が付いたリボンを付けている子。劇組の組分けテストでは汝鳥さんに続いて2位通過していた。

 既にドラマへのゲスト出演がいくつか決まって実力的にも新人の域を出かかっている汝鳥さんに対して、早乙女さんは劇組1年生のホープと注目されているみたい。

 プロフィールには、好きなものは猫で特技はバレエと書いてあったかな。

 

 入院中にアンナ先生が特別にとDVDにして持ってきてくれた四ツ星映画祭のオリジナル映画『リトルフェアリー物語』でも、鏡に逃げられて追いかける女王役がぴったりとハマっていた。

 オリジナル映画、何度観ても()きないくらい楽しかったなぁ。

 

「…?」

 

 私の方を見て小さく疑問を浮かべた汝鳥さんになんでもないと首を振る。

 壇上へと視線を向けると、2人とも準備を終えていた。

 

「始め」

 

 八千草先生の声と共に、世界が広がる。

 

 一瞬涙を浮かべたかと思えば、早乙女さんはわっと顔を(おお)った。

 

「大丈夫か?」

 

 誰を相手にしても変わることのないツバサ先輩の問いかけ。この問いに色を付けるのが私達。

 

 早乙女さんは・・・

 

「大丈夫なわけ、ないじゃないっ」

 

 顔を覆っていた手を()がしてツバサ先輩をキッと睨みつけていた。

 強い悲しみと問いに対する怒りの色。

 

 パン、と音が聞こえた瞬間、その色は霧散(むさん)した。

 早乙女さんの顔に浮かんでいるのは勝気な笑顔。

 

「よし」

 

「ありがとうございます!」

 

 この切り替えの速さ、すごい…

 

「すごかったね」

「私、ツバサ先輩をあんなに睨むなんて出来ないなぁ」

「さすがホープって感じ!」

 

 周りのみんなは早乙女さんが戻ってくるまでの間に意見を交換していた。

 

 あと残っているのは私と汝鳥さんだけだよね。

 みんなの演技で流れを掴むために私は最後と言われたから、次は汝鳥さん。

 

「次」

 

「はい」

 

 ツバサ先輩に呼ばれた汝鳥さんは、早乙女さんと同じくらいの長さのストレートな髪をサラリと揺らして壇上に上がっていった。

 

「お願いします」

 

 そう言ってぺこりとツバサ先輩に頭を下げたあと八千草先生の方を向いてコクリと頷いた汝鳥さん。もう準備が出来ているみたい。

 

「始め」

 

 目を閉じた汝鳥さんが、ゆっくりと(まぶた)を開く。

 

 …それだけでレッスンルームにいる全ての人の視線を集めて離さないような引力を発していた。

 

 息をするのさえ惜しいほどの空気の中、汝鳥さんの目が抑えきれなかったように(うる)み…瞳から溢れるようにして一筋の涙が頬を伝う。

 

「大丈夫か?」

 

 かけられた声にそちらを見た汝鳥さんは、ハッとなるほど(はかな)い笑顔を浮かべた。

 

 悲しくて苦しいけれど、それでも前に進んでいく。進んでいこうとする。

 

「…うん」

 

 その言葉がレッスンルームに響ききった所で終わりの合図。

 

 胸が苦しくなるほど切ない世界が終わった。

 

 ☆☆☆☆

 

「最後に白鳥、やってみようか」

 

「はい」

 

 ツバサ先輩の声に返事をして舞台へ向かう。

 

 2段上がっただけなのに、景色が随分変わった。懐かしい感覚だなぁ。

 

 ふと汝鳥さんを見るとがんばれという雰囲気で頷いてくれた。応援というよりも信頼のような、暖かくて気持ちの良い感情が伝わってくる。

 微笑んで小さく頷き返した。

 

「よろしくお願いします!」

 

 ツバサ先輩に頭を下げて、1度気持ちを切り替えるように深呼吸。

 

 さぁ、想いだそう…私の悲しみを。




 
お盆休みがもうすぐやってくるからその期間に少しでも更新出来ればとか言ったのはどこの誰ですかと思いましたがムーンナイトでした。凹む。

皆さま、こちらの物語ではお久しぶりです。
お待たせいたしました、こちら更新になります(深々)

今回は八千草先生の口調がよく分からず何度か書き直しました…らしさが出ていると嬉しいです。
近頃全くと言っていいほど小説を読めていないのですが、アイカツシリーズ原作の小説がじわじわりと増えているようで歓喜しています。まだ読めていないものもたくさんあるので時間を見つけて読みたいです。

もう発表からずいぶん経ってしまいましたが、最新作はアイカツプラネット!という新しいスタイルのものでしたね。
実写×アニメ×CGというのは業界初なのではないでしょうか?
2次創作がとても難しそうだと思いました(小並感)

何はともあれ、まずはこのアイカツスターズ!の物語を完結させないといけませんね。それからフレンズと・・どれくらいかかるんでしょう。

お察しの方もいると思いますが、次の話も劇組回になります。もはやサツキ=チャン、カワイイが挨拶になるレベルまで持っていきたい。
なるべく早く更新をする予定なのでそれまでお待ちいただけると嬉しいです。

それでは、また!
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