little Angel story〜1人の少女の物語〜   作:ムーンナイト

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なんとこの度、富士電機さんよりお茶会をしているひなちゃん達のイラストを頂いたのでご紹介します!!
富士電機さんの活動報告に載せて頂いたので、貼っているのはそちらのリンクになります。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=258946&uid=351006

1行で分かったりしなくもない前回のあらすじ
・アイカツスターズ第15話前半戦が終了



28page 姉妹の形

 side:ひな

 

 中世後期のドレスに多いコタルディ。上半身は体のラインにフィットするように作られている。そしてこの時期の特徴といえば、エナンと呼ばれるゴシック後期を代表する帽子。形にも色々なタイプがあって、円錐形のものやドーム型のもの、切型のものは1460年代にネーデルラントで流行していたみたい。

 

 朝のランニングやお勉強を済ませた私は、図書館で借りた本を読み込んでいた。

 今読んでいるのはドレス大全Ⅰという本。ドレスが特に大きく発展した中世ヨーロッパの貴族文化についての解説や、ゴシックからルネサンス、バロックといった時代の移り変わりと共に変わっていくドレスの歴史が詳しく書かれていて、ページをめくる指が止まらない。

 

 1500年を過ぎるとまたドレスも変わる。上質な毛皮が取り入れられるようになってきたのは、この頃に交易が盛んになったからなのかな。

 

「ひなー?」

 

 めぐるの声に本から視線を上げる。

 

「うん?」

 

 パジャマから制服に着替え終えためぐるが立っていた。今日はサツキちゃんが朝から自主レッスンに行っているから、朝ご飯を食べるために2人で迎えに行くことになっている。

 

 本を読んでいると時間を忘れてしまうと少し反省しながら、朝の光を反射して銀色に輝く(しおり)を本に挟んだ。お姉ちゃんとお揃いで持っている羽の形をした金属製の栞は、私のお気に入り。

 

 めぐるはというと、何かが気になるのかじっと上棚の方を見つめていた。

 

「ちょっと気になってたんだけどさ、これ」

 

 指で示したのは、お花を浮かべたグラスボール。

 

生花(せいか)だよね?」

 

 そう言いつつ、めぐるは私の方を向いて首を傾げた。

 

「うん」

 

 頷いてグラスボールに視線を向ける。

 今日浮かべているのはピンク色のバーベナ。小さな花が集まって咲くから、すごく可愛らしいの。

 

「割と毎日変わってるけど、どっかから持ってきてる感じ?」

 

 めぐるの疑問にどう答えればいいのか一瞬迷う。持ってきている…とは違うけれど。

 

「なんと言うか…マジックかな」

 

「どゆこと?」

 

 私の答えにめぐるはたくさんのクエスチョンマークを頭上に浮かべていた。

 百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)にしかずとも言うし、話すよりも見てもらった方が早いかも。

 

 めぐるの方に体を向けると、めぐるも自分の椅子を引いて対面に座ってくれた。

 

 胸の前で(ゆる)く合わせた両手をめぐるの前に持って行き、ふわりと開く。

 

 私の手には明るいオレンジ色の花びらが綺麗なポーチュラカが乗っていた。和名ではハナスベリヒユと呼ばれるこのお花の花言葉は、いつも元気。

 

「えっ?!マジ?!」

 

 ギョッとした様子のめぐるにお花を渡して小さく微笑む。

 

 さっきはマジックと言ったけれど、特にタネも仕掛けも無いから…魔法と言う方が近いのかな。小さい頃はみんなが出来ることだと思っていたけれど、実際に同じことが出来るのは私の知っている限りもう1人だけ。

 フィンランドで出会った女の子、双葉アリアちゃん。5歳の頃、自然が多くて空気が綺麗なフィンランドに夏の間コテージを借りて滞在していたことがあったのだけど、そこを貸してくれた人がアリアちゃんのお父さんだったの。元々お父さん同士がお友達だったみたいで、テラスで楽しそうに話していたのをよく覚えている。

 私とアリアちゃん、そしてお姉ちゃんの3人で遊んだあの夏は色々なことがあって…本当に楽しかった。アリアちゃん、また会えたらいいな。

 

 あの頃の思い出を懐かしみながら目の前に意識を戻す。

 私からお花を受け取っためぐるは、本物だー、と呟きながら花びらに触れていた。

 

「じゃあ飾ってあった花って全部ひなが出したの?」

 

 少し経ってから顔を上げためぐるにそう聞かれる。

 

「うん」

 

 私が頷くと、何かを考えていためぐるの目がキュピーンと光を放った。

 

「ユーフォルビア・アミグダロイデス・プルプレアとかも出せる?!」

 

「え?」

 

 高速で呪文を唱えるようなめぐるからの言葉に思わず聞き返す。

 

 ユーフォルビアアミグダ…えっと、うん??

 この流れで出たということはお花、もしくは植物の名前なのだろうけど・・。

 

 私が戸惑っているのを感じたのか、めぐるが口を開いた。

 

「んーえっと、赤紫色の葉っぱで、春から夏の初めくらいにかけて明るくて黄色い花をめっちゃ咲かせる感じのヨーロッパから東南アジアを原産とするトウダイグサ科の耐寒性(たいかんせい)宿根草(しゅっこんそう)なんだけど」

 

 すらすらとめぐるの口から出てきた詳しい説明に思わず驚く。

 

「めぐる、お花に詳しいんだね」

 

 トウダイグサ科の植物として思い付くのはクリスマスによく売られているポインセチアや…キャッサバもそうだったかな。

 耐寒性の宿根草といえば、キキョウやナデシコが思い浮かぶけれど、そんなにすぐには出てこない。

 

 私の言葉に、めぐるはフフンと胸を張った。

 

「花屋の娘ですから」

 

 それを聞いて、お花に詳しいのにも納得。

 お花屋さんかぁ…確かにめぐるに花束を作ってもらえたらすごく元気がもらえそうだし、似合うよね。

 

「それで、出せそう??」

 

 めぐるのワクワクとした表情に考え込む。

 どれだけ詳しい説明をしてくれても、そのものがわからないと…。

 

「見たことがないお花は難しいかも」

 

 私が出せるのは、図鑑越しにではなく実際に自分の目で見たことがあるお花だけだから。

 

「そっかぁ…レアな花とか出してもらったらって思ったんだけどなぁ」

 

 魔法のようなことが出来る事について拒否感や嫌悪感を示されなかったのは本当に良かったけれどまさかそうくるとは思わなくて、落ち込むめぐるに私は思わず笑ってしまった。

 

 ☆☆☆☆

 

 ──「ここだよ、美術室!」

 

 午後、お昼ご飯を食べた後にゆめちゃんの案内で美術室に来て、クラスのみんなと美術の授業を受ける。

 

 今はデッサンについて学んでいて、みんなは期末試験となる課題に取り組んでいるみたい。

 授業用のスケッチブックと鉛筆(えんぴつ)のセットをもらって先生に説明を受けてから空いている席に座り、早速準備をする。四ツ星学園の校章が表にデザインされている缶ケースを開けると、それぞれ硬度の違う鉛筆が12本と消しゴム、練り消しとカッターが並んで入っていた。カッターは先生からまだ袋から取り出さないでと言われたからそのままにしておく。これだけの鉛筆が揃っていたら、色々なものが描けそう♪

 

 テストの代わりに提出する今回のデッサンのテーマは『好き』。漠然(ばくぜん)としているけれど、逆に言えばなんでも描いていいということらしい。ただし奥行きを意識して陰影(いんえい)をつけること、と1つだけ条件が出されていた。

 提出期限は金曜日の放課後までとかなり短いから気合いを入れないと。

 

 好きと考えて私の頭に思い浮かぶのは、お花と月と…それからお姉ちゃん。うん、お姉ちゃんを描こう。

 もう2年も前の事だけど、オフの日にお家でドレスのデザインをしていたお姉ちゃんがふと私に気付いてくれたあの時。あの瞬間を切り取って描きたい。

 

 大体のアタリをつけてからラフスケッチを描いて、それから私はデッサンに没頭(ぼっとう)した。

 

 ☆☆☆☆

 

 完成形が見えてきた頃、1度スケッチブックを自分から離して客観的に描いたものを見てみる。…うん、イメージ通りに出来てきているから大丈夫。

 1度小さく伸びをして、リフレッシュするために美術室を見回す。

 

 キャンバスなどの画材が入った棚や、先輩方が描いたらしいデッサンが飾られた黒板。窓の対面にある廊下側の壁には彫刻や絵画がズラリと並んでいた。

 あの1つだけ周りと違う見上げるような大きさで自然と目がいく絵は、『美しい人』というみたい。

 

「ひな、どんな感じ?」

 

 隣の椅子に座っていたローラちゃんから小さく声をかけられて、そちらを向く。

 

「もう少し描き足したいかな」

 

 私も小さめの声でそう返しつつローラちゃんが(のぞ)きやすいように体の位置を少し変えた。

 

 流石に授業時間内には完成が難しそう…。ある程度は描けたからそれで良しとすれば提出は出来るけれど、『好き』というテーマで描いているものに妥協はしたくない。

 

「うま…」

 

 私のスケッチブックを覗いたローラちゃんはポツリとそうこぼして、笑顔を浮かべた。

 

「いいじゃん。ひなにしか描けないって感じがする」

 

 オフの時のリラックスしたお姉ちゃんを意識して表情を描いているから、確かにそうなのかも。

 

「ありがとう」

 

 ローラちゃんのデッサンも見せてもらうと、ギターを中心に音符やビートを表すような稲妻が描いてあった。そして、テーマは『ロック!』だということも教えてくれた。

 テーマもデッサンも、ローラちゃんにぴったり♪

 

「「!」」

 

 先生がこちらに来そうな気配を同時に感じ取った私とローラちゃんは、慌てて元の位置に戻ってまた描き始めた。

 

 ☆☆☆☆

 

 あっという間に時間が過ぎて、終わりの挨拶をしてから使った道具の片付け。

 

「ローラ、ひなちゃん!」

 

 授業中は少し離れた所にいたゆめちゃんがパタパタと私達の方に向かってきた。

 

「んー?」

 

「どうしたの?」

 

 ローラちゃんと私がそれぞれ返事をすると、むふふーっと笑顔を浮かべたゆめちゃん。

 

「じゃーん!」

 

 そう言いながら手に持っていたスケッチブックを見せてくれた。

 

「わぁ、ひめ先輩」

 

 思わず口にしたように、ゆめちゃんのスケッチブックに描かれていたのはS4の制服で明るい笑顔を浮かべるお姉ちゃん(ひめ先輩)

 

「うん!」

 

 デフォルメタッチなお姉ちゃんの絵はゆめちゃんの短冊に描かれていたイラストのようで可愛い♪

 

「ゆめらしい絵だよね」

 

 腰に手を当ててジーっとゆめちゃんのスケッチブックを見ながらローラちゃんがそう言った。

 

「それ褒めてる?」

 

「まぁ一応?」

 

 ゆめちゃんとローラちゃんがやいやいと話し始めるのを横目に見ながら自分の鉛筆をケースに戻す。

 

 デッサンは完成していないし、明日の放課後また描きに来よう。めぐるやサツキちゃんはもう完成させているのかなと考えを巡らせながら、私は椅子を片付けた。

 

 ☆☆☆☆

 

 放課後。夏フェスに向けて本館のレッスンルームで歌とダンスの練習をするらしいローラちゃんやそれに付き合うと意気込んでいたゆめちゃんと別れたあと、私は歌組のレッスンルームに来ていた。

 

 めぐるやメイちゃん、それに飴宮さんと花畑さんと一緒に明後日(あさって)の夏フェスに向けて応援看板を作ることにしたの。

 大きなものになりそうだから、模造紙に書いて完成したものを軽い発泡スチロールの板に貼るのがいいよね、という話になった。

 

「こーんな、感じっ?」

 

 持ってきたホワイトボードにマーカーを走らせて、めぐるがみんなの大まかな意見をまとめたものを書き出す。

 

『がんばれ歌組‼︎ ひめ先輩 And ローラ』

 

「「おぉー」」

 

 それを見た飴宮さんとメイちゃんがパチパチと拍手。

 この文字を模造紙に書くとしたら…そうだ!

 

「文字の輪郭(りんかく)を別の色で描いてみたらどうかな?」

 

 模造紙の色にもよるけれど、例えばピンクや黄色なら文字を白い輪郭で囲えばよりハッキリとしそう。

 

「それいいっ!」

 

 私の言葉にめぐるが目をキラキラさせながらそう言ってくれた。

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

「「「「おー!」」」」

 

 グーの形に握った手を上げた花畑さんの後に続いてみんなで同じように手を上げる。

 

「まずは色々もらって来ないとだよね」

 

「あ、定規あったらいいかも〜」

 

 立ち上がった花畑さんにホワイトボードを見ていたメイちゃんが声をかけた。

 

「定規とかハサミはあたし持ってくるー。愛理、ペン頼んでいい?」

 

「オッケー!」

 

 めぐると飴宮さんに続いて立ち上がる。

 

「私、発泡スチロール板の在庫があるか確認してくるね」

 

 アンナ先生か、美術の真杉(ますき)先生に聞いてみようかな。

 

「それじゃあ模造紙は私たちで!」

 

「うん!」

 

 花畑さんとメイちゃんは本館の事務室へ向かうみたい。

 何かあったら連絡しようと話してから、めぐるは四ツ星寮に、飴宮さんは生徒会室に、そして私は職員室へと足を向けた。

 

 ☆☆☆☆

 

 発泡スチロール板は職員室でたまたま私とアンナ先生の会話を聞いていた技術科の鐘打(かねうち)先生が用意してくれることになった。スチレンボードという看板作りに適したものを丁度良さそうな大きさに切ってくださるみたい。明日には用意出来るらしいから、また取りに行かないと。

 

 レッスンルームに戻ってからはまず花畑さんとメイちゃんがもらって来てくれた薄ピンク色の模造紙に大体の文字の位置をシャープペンシルと定規を使って書いて、それから早速文字入れをしていた。

 

 花畑さんが書いた輪郭をなぞるように線を引いてから、みんなで中を塗り始める。

 

「そういえば、さっき聞いたんだけど…」

 

 ホワイトボードを元の場所に戻して来てくれた飴宮さんがペンを持ってしゃがみながら口を開いた。

 

「美組の真昼ちゃん、明日の夏フェスのステージ辞退したんだって」

 

 あまりの情報に思わずペンを取り落としそうになって、慌てて持ち直してから飴宮さんの方を向く。

 

「真昼ちゃんが?」

 

 聞き間違いではないよね。

 

「うん。だから代理を立てるかどうか混乱してるって。幹部の先輩が話してるの聞こえちゃって」

 

「え、マジ?」

 

 真昼ちゃんが、夏フェスのステージを辞退…。

 

 昨日の出来事が頭の中を駆け巡る。保健室から飛び出したらしい真昼ちゃん、その保健室にいた夜空先輩、ボロボロのレッスンシューズに、手を当てていた不自然に片方だけ赤みを帯びた頬、真昼ちゃんを包んでいたごちゃまぜの感情。

 

 ──「私の目標は、お姉ちゃんを追い越すこと。ひなは違うの?」

 

 ──「今度のステージだって、絶対にすごいパフォーマンスを見せつけてやるんだから」

 

 一緒にお昼ご飯を食べた時の言葉がよみがえる。

 険しい顔で、悔しそうで…

 

 ──「平気」

 

 張り詰めたものが切れかけているように、今にも泣き出しそうだった。

 

「ステージ、明日だよね。大丈夫なのかな…」

 

 メイちゃんの言葉がレッスンルームに小さく響く。

 真昼ちゃん、夜空先輩、美組のみんな、夏フェスのステージ。その全てに向けられた言葉のようだった。

 

 ☆☆☆☆

 

 夜。本当はサツキちゃんの自主レッスンにめぐると付き合う約束をしていたのだけど、どうしても真昼ちゃんのことが気になっていた私は2人に謝ってから四ツ星寮に向かっていた。

 

 寮に着いてお部屋へ続く廊下を歩いていると、向こうからも誰かが歩いて来ているのに気付く。

 あのスミレ色の髪は…

 

「小春ちゃん」

 

 (うつむ)いて歩いていた小春ちゃんが顔を上げた。

 

「あ、ひなちゃん。お疲れさま」

 

 小春ちゃんは、心配の表情を色濃く残しながら微笑んだ。

 

「もしかして真昼ちゃん?」

 

 確信に近いものを抱きながら聞く。

 

「うん。ひなちゃんも?」

 

 その言葉に頷くと、小春ちゃんは浮かべていた微笑みを曇らせた。

 

「私、真昼ちゃんが心配で来たのに、怒らせちゃった…」

 

 そこに見えるのは心配と不安と(わず)かな後悔。それと、他にも…。

 同じ美組に所属する小春ちゃんは、その性格もあいまってか私が話した誰よりも真昼ちゃんを心配していた。

 ステージを辞退したことも耳に入るだろうし、真昼ちゃんのお部屋に行って…小春ちゃんは真昼ちゃんの心の奥にあるものを的確に突いたのかも。

 今もし真昼ちゃんが昨日のように不安定なら、それで怒ってしまうことも考えられる。

 

「でも、ひなちゃんなら、真昼ちゃんに言葉が届くかも」

 

 少し力を取り戻した小春ちゃんの声に意識を戻す。

 

「私の言葉?」

 

 そう聞くと、真剣な表情を浮かべて小春ちゃんは頷いた。

 

「2人とも、S4のお姉さんがいるから」

 

 美組のS4夜空先輩と歌組のS4ひめ先輩。

 真昼ちゃんと私のお姉ちゃんたち。

 

 やっぱり真昼ちゃんと夜空先輩の間に何かがあったみたい。

 同じようにお姉ちゃんがS4である私の言葉なら、と小春ちゃんは思ってくれた。

 

 …さっき小春ちゃんの顔に浮かんでいたもう1つの感情は、自分に対するほんの少しの失望。言葉が届かないというのは、相手に自分の言葉が響かないと捉えてもおかしくないから。それは、悲しい気持ちになると思う。

 

「ひなちゃん、任せてもいいかな?」

 

 それでも真昼ちゃんに言葉を届けるために、より可能性の高い私に任せようとする小春ちゃん。泣きそうになるほど優しくて、みんなが小春ちゃんのような優しい心を持てたら争いも少なくなるのに…という考えまで浮かんできてしまうくらい。

 

「任せて、小春ちゃん。私も一生懸命伝えてみる」

 

 届くかどうかは分からない。真昼ちゃんの心に触れられるかも分からない。

 でも、小春ちゃんが任せてくれたから。

 

「うん!」

 

 自分のお部屋に戻る小春ちゃんに手を振って見送り、私は真昼ちゃんのお部屋へと歩き始める。

 

 程なくして到着。1度自分を落ち着かせるように深呼吸をして扉をノックした。

 

 ──コンコンコン

 

 返事は無し。

 

「真昼ちゃん、ひなです」

 

 聞こえるようにそう言うと、中からの小さな音を耳が拾う。

 

「なに?」

 

 扉越しにくぐもった真昼ちゃんの声が聞こえた。

 

「ごめんね。昨日のこともあったから心配で…言葉にすることで整理も出来ると思うの。少し、お話を聞かせてくれない?」

 

 左手を胸の中心に軽く当てながら伝えて、反応をじっと待つ。

 

 真昼ちゃんは、ゆっくりと扉を開けてくれた。

 

 ☆☆☆☆

 

「──それで、辞退しますって学園長の所に行ったの。結構噂、広まってるでしょ?」

 

 ベッドに腰掛けた真昼ちゃんは、ポツポツと何があったか話してくれた。

 元々真昼ちゃんと夜空先輩は仲の良い姉妹で、小さな頃はずっと一緒に遊んでいたこと。ある時、夜空先輩が突然四ツ星学園に入ると言い出したこと。置いて行かれたことが悔しくて、見返すために真昼ちゃんも四ツ星学園に入ったこと。代表に選ばれてから、夜空先輩の圧倒的な実力を理解してしまったこと。レッスンに1人で打ち込んでいたら過労で倒れてしまったこと。

 保健室での出来事は、真昼ちゃんが頬に手を当てたことでどんなことがあったのか分かった。無理に話さなくていいよと伝えて、真昼ちゃんの口からは話されていない。

 

 今朝、学園長先生の所へ直接辞退を伝えに行ったらしい。

 

 噂については…

 

「うん」

 

 私も飴宮さんから聞いたし、実際にかなりの速さで真昼ちゃんが辞退したことが(おぼろ)げながら広まっているみたい。

 

 使われていない机の椅子に座ったままそっと頷いた私の返事を聞いて、真昼ちゃんは深くため息を吐いた。

 

「私、なにしてるんだろう…もういいやって、未練も後悔もなかった。でも…」

 

 浮かない顔。言葉でそう言っていても、心では未練や後悔があるのを真昼ちゃん自身が分かっているのだと思う。

 

 私はそんな真昼ちゃんへ言葉をかけた。

 

「喧嘩が出来るほど、お互いがお互いを思っている。真昼ちゃんは小さい頃から夜空先輩と一緒に遊んでいて、どうだった?」

 

「あの頃は…楽しかったし、嬉しかった」

 

 あまり間をおかずに真昼ちゃんからそう返ってくる。

 

 楽しい、嬉しい。その頃を思い出している真昼ちゃんの表情を見て、私はこの先に踏み込んでいくと決めた。

 

「その気持ちは、今でも真昼ちゃんの中で大きな物なのではないかな。だから、さみし」

 

 言葉の途中で真昼ちゃんの感情が爆発的に(たかぶ)る。

 

「寂しくなんかない!さっきから、小春もひなも、わかったようなこと言わないでよ!」

 

 立ち上がって違うと首を振りながら自分の心を守るように視線を鋭くした真昼ちゃん。

 …小春ちゃんも、やっぱりここに触れていた。

 

 任されたのは、この後。小春ちゃんは真昼ちゃんと同じように私にもS4のお姉ちゃんがいるから言葉が伝わるかもと思ってくれたようだけど…真昼ちゃんに共感する言葉を、私はかけることが出来ない。

 

「…私ね、お姉ちゃんも私も0歳の頃から芸能カツドウをしていたから、あまり真昼ちゃんと夜空先輩のように遊べていないの」

 

「・・!」

 

 衝撃を受けたような真昼ちゃんに対して、私は微笑んだまま静かに続ける。

 

「もちろん、一緒にお菓子を作ったりずっとお喋りをしたり、楽しいことばかりだったけれど…忙しくて」

 

 私が生まれた頃にはもうお姉ちゃんはベビーモデルとして活躍していて、私もすぐに芸能カツドウを始めた。

 ありがたいことにたくさんのお仕事をいただいて、色々な現場で様々なことを体験する毎日。

 キラキラしていて楽しくて、毎日が輝いていたけれど、一方で真昼ちゃんと夜空先輩のように姉妹で1日中遊べる時期はあまり無かった。…例外は、フィンランドに行っていた時くらいかな。

 

「…」

 

 じっと私の話を聞いてくれている真昼ちゃんに言葉を投げかける。

 

「ぶつからないとわからないことだってあると思うの。だから、ありのままの思いを伝えてみたらどうかな、夜空先輩に」

 

 お姉ちゃんに。

 

 真昼ちゃんは、ぎゅっと目を瞑った。

 

「そんなの、出来るわけないじゃない…!」

 

 出来るわけがないけど、出来るならそうしたい。そんな気持ちが痛いほど伝わる。

 

「真昼ちゃん…」

 

 寂しい、悲しい、辛い…真昼ちゃんの心が揺れているのを感じて、胸が詰まるように苦しくなっていく。

 

「ごめん、ひな。でもやっぱりわからない…」

 

 …気持ちが、引きずられすぎないように。

 真昼ちゃんと自分の感情が混同しないように心を落ち着かせる。

 

 さっきまで激しく揺らめいていた真昼ちゃんの感情。今は強く静かに混乱しているように見える。

 

「ちょっと、外の風に当たってくる」

 

 そう呟いてから歩き出した真昼ちゃん。バタンとお部屋の扉が閉まった。

 椅子の背に体を預けてゆっくりと息を吐いてから、またさっきの姿勢に戻る。

 

「……本当は、真昼ちゃんが羨ましいと思っちゃった」

 

 1人の空間でポツリと言葉をこぼした。

 

「私はお姉ちゃんと喧嘩なんて、したこともないから…」

 

 お姉ちゃんと喧嘩…そう考えるだけで嫌だと思うけれど、でも一方で真昼ちゃんが羨ましいとも思っている。

 

 私の言葉は、静かに溶けて消えていった。

 

 

 

 side:ひめ

 

 ここにいたのね。

 星々の集いをする中庭で1人椅子に座る姿に、私は微笑んだ。

 

 手に持つ何かを見つめてそっとため息を吐いた所に近付く。

 

「明日は本番でしょう?」

 

 本当に珍しい。負の感情を表に出さない夜空が、こんなに不安で悲しそうな顔をするなんて。

 

「体、冷えちゃうわよ」

 

 一瞬の間に感情を覆い隠した夜空。1度瞬きをしてから、観念したような表情を浮かべた。

 

「…ステージ辞退されちゃった」

 

 無理をした微笑み。夜空はあらゆる表情が美しいと言われているけれど、私は胸を()き乱されるようなこの微笑みがたまらなく苦手だった。

 

「私の愛情は、間違っていたのかも」

 

 そんな微笑みさえも()がれ落ちた後に出てきた言葉。

 

 夜空の愛情。1年生の頃から時々垣間(かいま)見せていた真昼ちゃんへの深い想い。

 それが間違っているなんて私は思わない。それに…

 

「大好きって気持ちに、きっと間違いなんてないわ」

 

 そう口にしながら夜空に近付く。

 

 笑みを深めて、そっと肩に手を置いた。

 

「だって、2人は姉妹なんだから」

 

 これは夜空が私に言ってくれた言葉。

 今の夜空に、私がかける言葉。

 

「伝えたいことが、あるんでしょう?」

 

 真昼ちゃん(大切な妹)に。

 

 肩に置いた手を後ろから少し押すと、夜空は(うなが)されるままに手に持ったものへ視線を向けた。

 くしゃくしゃにされたような(しわ)がある、夜空が大切にしている1枚の紙。真昼ちゃんとの思い出が詰まっていると前に聞いた。

 

「ありがとう、ひめ」

 

 心が決まったのかしっかりとした顔付きになって駆け出していく夜空を見送る。

 

 きっともう大丈夫ね。真昼ちゃんとの仲も、明日のステージも。

 

 ツバサから夜空と真昼ちゃんが喧嘩したらしいと聞いた時は驚いたけど、よかった。それにまぁ、喧嘩するほど仲が良いとも…

 

 喧嘩…

 

「喧嘩をしなくても、仲の良い姉妹だっているわ」

 

 誰に話すわけでもなく、私は呟く。

 私とひなちゃんのように。喧嘩をしなくたって仲の良い姉妹はいる。

 

 ひなちゃんのことを考えていると、自然とあのステージが目に浮かんだ。組分けテストの、ひなちゃんの初ステージ。

 

 ゆっくりと椅子を引いて、そこに腰掛けた。数秒座ってから立ち上がって館へ歩き出す。

 わざと意識的にそれらをしても、気は紛れない。

 

 …まさかひなちゃんにまであの力が発現するなんて、考えてもいなかった。

 ゆめちゃんにもとびっきりの才能はある。でも、ひなちゃんの才能はそれ以上。恐らく…私よりも上。

 普段なら嬉しいのと同時に新しいライバルが増えると気を引き締める事が出来る。だけど、今回は…。

 

 才能の大きさに比例して、あの力は強くなる。力を発現させたステージのあとには、必ず反動が来る。才能が…力が強ければ強いほど、その反動は大きい。

 

 私はレッスンやトレーニング、特訓を重ねてあの力を乗り越えた。

 ひなちゃんも乗り越えられると、信じるしかない。

 

 

 孤独

 

 

「っ!」

 

 突然、頭の中にこの言葉が浮かんだ。

 

 分かってる、分かっているけれど。

 

 あの子を、あの道に進めるなんて。

 でもそれしかない。私も…大丈夫だった。だから、ひなちゃんもきっと大丈夫。

 

 私の頃とは違う。

 あの時と違って、S4は私。

 周りには明るいゆめちゃん、実力のあるローラちゃんやめぐるちゃんがいる。他の組にだって…美組には真昼ちゃん、劇組にはサツキちゃんがいる。私の時とは違う。切磋琢磨出来る、ライバルになり得る存在がたくさんいる。

 

 だから、きっと・・・。

 

 無意識に手をギュッと握りしめて、気付いた事に愕然(がくぜん)とした。

 

 ・・私は孤独を、恐れているの…?

 

 

 

 side:ひな

 

 そわそわと、寮の入り口付近にある椅子に座ったり立ったりを繰り返す。

 

 あれから1度自分のお部屋に戻った。ずっと真昼ちゃんのお部屋にいるわけにもいかないし、同じように心配していためぐるに電話もしたかったから。

 

 電話をしている最中に近くのお部屋…真昼ちゃんのお部屋へ誰かが来た音がしたけれど、もしかして夜空先輩だったのかな。

 

 色々な事を考えていると、ガチャリと扉を開ける音が聞こえた。立ち上がってそちらを向く。

 

「ひな!」

 

 お部屋を出た時とは(まと)う空気が違う真昼ちゃんが少し驚いた顔をしながら駆け寄ってきてくれた。

 

「おかえりなさい、想いは伝えられた?」

 

 この顔を見ればわかるけれど、真昼ちゃんの口から聞きたくて問いかける。

 

「私、夏フェスに出る。お姉ちゃんと一緒に!」

 

 喜び、わくわく、幸せ、真昼ちゃんの言葉がそんな感情に満ち溢れていた。つられて嬉しくなりながら私も頷く。

 

「それは?」

 

 真昼ちゃんが見せてくれた1枚の紙。

 少し皺があるけれど、描かれているのはドレスを着た女の子。すごく明るい表情を浮かべていて、見ているだけで笑顔になれそう。

 

「お絵かきコーデ…小さいころ、お姉ちゃんと一緒に描いてた思い出のものなの」

 

 そう言ってその紙をそっと胸に抱いた真昼ちゃん。

 

 お部屋を出る前は持っていなかったし、夜空先輩が持っていたということかな。ずっとそれを大切に持っていたのかも。

 

 2人の想いが繋がってよかった!

 

「素敵だね!」

 

 私の言葉に、真昼ちゃんは輝くような笑顔を浮かべた。

 

 

 

 side:夜空

 

 真昼と別れてから館へ急いで戻ったわ。

 扉を開けてエントランスホールに入ると、やっぱりいてくれた。

 

「ひめ!」

 

 思わず駆け寄ったら、そのまま手を握ってくれたひめ。

 

「おかえりなさい、夜空。ちゃんと真昼ちゃんへ伝えられたみたいね」

 

 まだ言ってないけど、顔でバレちゃうのかしら?

 

「私、明日は真昼と一緒にステージに立つわ」

 

 他の誰でもない、真昼と一緒♪

 

 頷いてくれたけど、表情が少し寂しそう。

 

「ありがとう、ひめ。仲直りが出来たのはひめのおかげよ」

 

 お礼を伝えながらぎゅーっとする。

 

「私はただ少し背中を押しただけ。真昼ちゃんが大好きな気持ちは夜空のものでしょう?」

 

 もぅ…

 

「それでもお礼を言いたいの♪」

 

 体を離して目を見ながら言ったら、仕方ないという感じの微笑みを浮かべてくれたわ。

 

 そうそう、お礼と言えば…

 

「それに、ひなちゃんにもね」

 

「え?」

 

 ちょっと唐突すぎたのか、ひめは戸惑ってるわね。

 

 ──「届けたら、一緒に寮へ帰ります」

 

 ベッドへ腰掛けていた時に聞こえたあの言葉に、どんなに支えられたか…

 

「どうしていいか分からなかった時、ひなちゃんが寄り添ってくれたの。私の心と、真昼に」

 

 さっき別れる前に真昼から聞いたのだけど、どうやらひなちゃんが側にいてくれたみたいなの。

 それから、小春も気にかけてくれた、と言っていたわ。

 

「そう」

 

 私にはひめが、真昼にはひなちゃんが。それぞれ私達に寄り添って支えてくれたのね。

 

 いつか何かがあった時に今度は私達が2人を支えられたら嬉しいけど…そうは言っても、ひめとひなちゃんが私たちのように喧嘩をする光景が全然想像出来ないわね。うーん・・

 

「夜空?」

 

 とりあえず、2人へのお礼はまた考えるとして…。

 

「今ならなんでも出来る気がするわ」

 

 だって、真昼と仲直りができたのよ?本当になんでも出来る気がするの。

 

「ふふっ、明日のステージも?」

 

 口元に手を当てて笑ったひめにニコニコと言われたわ。

 

 それは当然!

 

「みんなに魅せるわ、私達姉妹の輝きをね♪」

 




 
ピンク色のバーベナの花言葉は“家族の和合、家族愛”

みなさんこんにちは、今年度は昨年度以上にてんやわんやすることが確定していますムーンナイトです。
ですが更新頻度は上げていきたいので、キリキリ頑張ります。

そして改めてお知らせを…

ひなちゃん達のイラストを、描いていただきました!!

見ていただけたでしょうか?もしまだの方はこちらからどうぞ。ムーンナイトは興奮気味にコメントを書き込ませていただきました。

活動報告【はじめてのハーメルン】

ツイッターの方でも呟いていただけるそうです。ありがたや…

さて、今回のお話はいかがでしたか?
とても驚くことに、この小説の1話目からここまでの28話分…アニメでは1話で済んでおります(衝撃)
アニメの話数で言うと第15話になりますね。

これからひなちゃんのアイカツはどんどん進んでいきますので、その様子を楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしければ感想やお気に入り登録、よろしくお願いします!とても励みになりますので…!

それでは、また!
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