little Angel story〜1人の少女の物語〜   作:ムーンナイト

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1行で分かったりしなくもない前回のあらすじ
・フッ、今年は忙しくなりそうだ

※今回、体調不良の描写が複数あります。
苦手だという方には、横目で読む事を。
無理ですという方には、大丈夫そうなところ以外を飛ばした上でブラウザバックボタンを押す事を推奨いたします。



6page 始まりへのカウントダウン

 side:ひな

 

「♪──タートライン!♪」

 

 ワン、ツー、スリー、フォー

 ワン、ツー!

 

「♪さぁ顔あげて♪」

 

 エイトカウント…1(ワン).2(ツー)

 

「♪チャンスが待ってる!♪」

 

 最後の音の上りが少しだけ高かったから、修正しないと。

 ダンスはアウトロまで丁寧に。

 最後は気持ちを届けるように…

 

 ──体の中の空気を大きく吐いてから息を整える。

 もうそろそろ…かな。

 

「うん、良くなったぞ!ベイビー‼︎」

 

 パチパチと拍手をしながらそう言ってくれたアンナ先生の顔には、ニカッとした笑顔が浮かんでいた。

 

「ありがとうございます!」

 

 ここはレッスンルーム。

 私は残りの時間で少しでもステージの質を高めようと、アンナ先生から初めて指導を受けていた。

 先生の指示やアドバイスは本当に的確で、最初に通した時よりも目に見えて上達したのがとっても嬉しい。

 

「もう直すところはない。あとは思いっきり楽しめばオーケーだ!」

 

 楽しむ。私がステージに立つ上で大切にしていきたい事の1つ。

 それにアイカツをしていく上でも…ううん。何をしていくにしろ、楽しむことは大事だと思うから。

 

「はい!」

 

 私の返事を聞くとアンナ先生はうん、と1度頷いた。

 

「あとはブレイクタイム!レッスンはほどほどにして、ステージに向けて少し休んでおけ。その間、私は歌組の方へ行ってもいいか?」

 

 お忙しい中ここまで指導して下さったのに、これ以上引き止めるなんてしない。教えてもらう所は教えてもらったし、あとは全て私次第だから。

 感謝の想いも込めてアンナ先生に頭を下げる。

 

「はい。ありがとうございました!」

 

 ガララと音を立ててドアが閉まった。

 

 よし。曲の合間に休んで、もう少し練習をしよう。まずはさっき通した時に振りが甘かった所からかな。

 

 プレイヤーの設定をして曲を途中から流す。

 歌詞も口ずさみながら、ステップを踏み出していく。

 

 この曲の振付は日本語の手話も混じっていて、とっても覚えやすい。

 手話は1つの言語だから。私のステージ、目や耳が不自由な人にも楽しんでもらえたらいいな。

 

 …今の目標は、あの日見た、お姉ちゃんのステージ。

 キラキラしていて、とっても素敵で力強くて。これから頑張ろうと力をもらえた。

 

 虹野さんのライブも。

 病室で映像を見た時、この子と一緒に歌ってみたいと思った。

 

 隣に立ちたい。

 みんなの隣に。

 お姉ちゃんの隣に。

 

 私は、あの時に見た1番星の様に、思いっきり輝きたい!

 

 “ズキン”

 

「つっ…‼︎」

 

 なのに…‼︎

 

「ぃつ…!くっ、うぅ…」

 

 きた。もうそろそろだとは思っていた…。だけど、思っていたよりもその衝撃は強かった。

 フラフラとプレイヤーに近付いて淡々(たんたん)と流れ続ける曲を止めた後、思わず壁に手をつく。足からガクンと力が抜けた。

 

「・・ッ!は…っ!」

 

 大きな発作。

 何時間か前にツキンと強い痛みが走った時から予想はしていたけれど…いたい。

 嫌だなぁ…なんて口元を(ゆる)めようとしても、顔は強張って動いてくれない。

 昔、初めてこの痛みに襲われた時は、あまりの痛さに倒れてしまった。

 

 でも、病気と(たたか)うあの子に出会えたから。私は前よりも強くなれた。耐えられるようにもなった。あまり褒められることではないと注意されたけれど、発作を隠せるようにもなった。

 

 …それでも、強い発作には(あらが)えなかった。どうしても、隠せなかった。意識も・・毎回強い発作が終わった後には手放してしまっていたから。

 

 今回こそ、絶対に…負けない‼︎

 

 そんな決意も嘲笑(あざわら)うかのように、容赦無く胸が痛み続ける。

 

「つぅうっ…!」

 

 バシッと床に右手をついて倒れないようにしたのに、逆にそこが支点となってひんやりとした床の上に肩や頭を置くことになった。

 

 …まだまだだ。

 私はまだ、この痛みを隠せない。

 この痛みを、無視できない。

 

 

──「良いですか?この初期の波はひなさんに対する警告だと思って下さい。この痛みがあった後は、なるべく休むこと。そうすれば、この大きな波が来る確率を抑えられる筈です」

 

 

 ごめんなさい、康二(こうじ)先生。

 私は…いうことを聞けないみたい。

 

 

──「休むのが難しくとも、苦しい時はひめさんに助けを求めて、側にいてもらったりして下さい。ひめさんは、きっと力になってくれます」

 

 

 お姉ちゃんは、トップアイドル。S4の白鳥ひめ。

 私がこんな事で頼ったらダメ。

 お姉ちゃんの具合が悪い時なんて、特に。お姉ちゃんには、少しでも休んで欲しいから。

 

 だけど…

 

 “ズキンッ”

 

「あっ…くっ!」

 

 段階が上がるように強くなった痛みに、ぎゅっと、体を縮こませる。

 

 “ズキン ズキン‼︎”

 

 苦しい。痛い、いたい…!

 

「はッ!ハアッ…‼︎」

 

 いたいよ…

 

 今、頼らないって決めたのに…

 休んでいて欲しいのに…

 

 どうしても、そばにいて欲しいと思ってしまう。

 

 私の口から、勝手に言葉がこぼれた。

 

「おね、え…ちゃん…っ。た…す………って……」

 

 

 

 side:ひめ

 

「っ!…はあっ、はあ」

 

 今のはっ…‼︎

 

「ひめ!どうした⁉︎」

 

「ひめ?」

 

 急に起き上がったから頭に血がいってない。心臓の脈打つ音がうるさい。思わず口に手を当てる。

 

「気分が悪いの?」

 

 側に来てくれた夜空が心配そうに聞いてくれているけれど、答えられない。

 抑えた口から荒い息が(あふ)れて、首を横に振るので精一杯だったから。

 先ずは、息を落ち着けなきゃ…。思わず前のめりになる。

 

「そう」

 

 夜空はそれ以上何も言わずに私の背中を撫でてくれた。

 

「っ…、はあ、はあ…!」

 

 ダメ。

 息を抑えようとしても、あの声が頭から離れなくて全く落ち着けない。

 助けてって言った、あの声。

 私の事を呼んでくれた、あの声は…!

 私の意思とは関係無く段々息が吸いづらくなってきた。

 

 ゆっくり吸わなきゃ。まずは押さえて…

 でも、苦しい…!

 

 強く口元に当てていた両手の片方。

 その手が暖かい手に包まれて、降ろされた。

 

「…?」

 

 ツバ、サ…?

 私の手を、ギュッと握ってくれている。でもなぜツバサが何人もいるのかしら?

 

「ひめ、大丈夫だ。私と夜空がついてるから。まずは、落ち着いて。私の手と、夜空の手を意識しながら、息をするんだ」

 

 ツバサの手と、夜空の手。

 2人の手を意識して…

 

 1度目を閉じて2人の手を意識。

 

 左手から感じる、力強い手。

 背中から感じる、優しい手。

 

「ひめ、大丈夫よ。息を少しだけ吸って…。そう、そしたら止めて」

 

 夜空の声…。

 

「すぅ…。んっ…」

 

「ゆっくり、そうね…3秒位かけてその息を吐き出して」

 

「ふうぅぅぅ」

 

「もう1回。吸って、止めて。…ゆっくり吐く」

 

 吸って、止めて、吐く。

 

「ふうぅぅぅ」

 

 良かった。自然に息が吸えるようになった。ぐらぐらと揺らめいていた視界も元に戻ってきた。

 

「どう?落ち着いたかしら?」

 

 夜空…。

 あの時とは立場が逆ね。多分夜空も、同じ事を思っているわ。

 

「えぇ、2人とも、ありがとう」

 

 夜空はそのまま背中を撫で続けてくれている。今の私にはありがたい。少しでも取り乱したら、多分また息が上がってしまうから。

 

「・・・」

 

 お礼を言おうと思って向いたら、なぜか片手で顔を(おお)っていたツバサ。

 

「ツバサ…?具合が悪いの?」

 

 私がそう言うと、ツバサは慌てて顔を上げる。

 

「そんな事ない。すまない。ただ、安心したらちょっと…」

 

 そう言いながらもツバサの目は少し(うる)んでいた。…()()、迷惑をかけてしまったわ。

 

「ツバサ、心配かけてごめんなさい。私は大丈夫よ」

 

 私はツバサに微笑んで、大丈夫だと伝える。

 

「…分かった」

 

「それで、どうしてひめはあんなに動揺していたのかしら?普段の貴方ならあんなに慌てる事もあまり無いと思うのだけど」

 

 そうね。

 普段の私なら…。

 でも、さっき聞こえたあの子の声…

 

「…ひなちゃん…?」

 

 私が寝てしまう前はここに居たのに。

 ひなちゃんを見つけるために部屋を見渡す。…いないみたい。

 

「ひなちゃんなら、ひめが寝ている間に、先生の所へ行ったわ。ひめの事、頼まれちゃった」

 

 夜空、何だか嬉しそう。

 どうしてかしら?

 

 それにしても、ひなちゃんじゃなかったのね。あの声。

 耳元で聞こえたけど、それも夢だったのかも。ただの悪い夢…きっとそうだわ。

 

「私の勘違いだったみたい。ひなちゃんに呼ばれた気がしたのだけど、違ったわ」

 

 ここにいない人の声は、聞こえるはずがないもの。

 

「そうか」

 

「まぁでも、分からないわよ?」

 

 ニコニコと少し思案顔の夜空に言われた。

 

「なぜ?」

 

 私が浮かんだ疑問をそのまま口に出すと、夜空は笑みを深くした。

 

「だって、2人は姉妹だもの」

 

 姉妹…。

 

 私がS4に…その中でも特に2年生になってからは(ほとん)ど会えなくなっていたけれど、ひなちゃんとはいつでも繋がってる。

 

 ひなちゃんはどんな時でも笑顔で、病気なんて吹き飛ばしているから。

 今頃は何をしているのかしら?

 ひなちゃんの事だから、元気にしているはず。

 

「そうね。でも、ひなちゃんなら大丈夫だと思うわ。ありがとう」

 

 最近は体の調子も良いみたいだし、ひなちゃんなら心配いらない。

 

 この後は1年生の実力テストの結果発表を見に行かないと。

 

「制服に着替えて来るわね」

 

 立った時に少し目眩がしたけれど、これくらいなら大丈夫。真っ直ぐ部屋に戻って着替えられる。

 

「私はお茶の用意をしておくわ」

 

 夜空の声に(こた)えながら、私は部屋に戻って行った。

 

 

 side:夜空

 

 最近、いつにも増してスケジュールがキツキツね〜。

 お仕事は楽しいけれど、弟妹達との時間が取れないわ。

 それに加えて、真昼ちゃんには避けられてるし…。はぁ、せっかくまた一緒だと思ったのに、お姉ちゃん悲しい。

 

「っ!…はあっ、はあ」

 

 ソファの側の椅子でスケジュール確認をしていたらガバッとひめが起きた。顔色がかなり悪いわ。

 

「ひめ!どうした⁉︎」

 

 バサッと大事な台本を取り落としてしまう辺り、ツバサは相当焦ってるみたいね。

 

「ひめ?」

 

 椅子から立ってひめの後ろに行こうとしたけれど、その時ひめが手で口を覆った。

 

「気分が悪いの?」

 

 慌ててそばに寄ってひめの背中を撫でながら聞いたけど、答える余裕もなさそうね。

 さっき見た時には顔色も大分良くなってたはずだけど…。

 

「はあ、はあ」

 

 取り敢えず首を横に振ってくれたから、気分が悪いわけではないみたい。

 でも苦しそうに体を前のめりにさせるひめを見ていたら、とっても心配になるわ。

 

「そう」

 

 今はひめを落ち着かせないと。…背中も少し震えているから、出来るだけ早急に。

 

「っ…、はあ、はあ…!」

 

 口元を手で押さえて息を整えようとしてるみたいね。

 ひめがこういう方法でうまくいかないなんて、何があったのかしら?

 

 放心状態のツバサがやっと我に帰って、ひめの手を取った。

 

「…?」

 

 ひめが顔を動かして不思議そうにツバサのいる方を見ているけれど、少し場所がずれてるわ。

 意識が若干朦朧(もうろう)としてるのかしら。早く落ち着かせないといけないわね。

 

「ひめ、大丈夫だ。私と夜空がついてるから。先ずは、落ち着いて。私の手と、夜空の手を意識しながら、息をするんだ」

 

 流石はツバサ。

 あとは私に任せて頂戴。

 

「ひめ、大丈夫よ。息を少しだけ吸って…。そう、そしたら止めて」

 

 背中を撫でる力を少し強めて、私の手を意識しやすいようにして、と。

 

「すぅ…。んっ…」

 

 止めたかしら?

 

「ゆっくり、そうね…3秒位かけてその息を吐き出して」

 

 本当は五秒でも良いのだけど、今のひめには少し辛いわよね。

 

「ふうぅぅぅ」

 

「もう1回。吸って、止めて。…ゆっくり吐く」

 

 そういえば、前にもこんな事があったわ。

 その時は立ち位置が逆だったけれど。

 

「ふうぅぅぅ」

 

 これで少しは落ち着いたはず。

 

「どう?落ち着いたかしら?」

 

 ひめも思い出したり思い返したりしてくれてるかしら…なんだか懐かしいわ。

 

「えぇ、2人とも、ありがとう」

 

 もう少し背中をさすっておきましょうか。まだちょっと顔色が悪いもの。

 

「・・・」

 

 ツバサはツバサで、本当に安心したみたいね。

 顔を覆う前に目元が光っていたのが見えちゃったわ。

 ひめの事になると、ツバサは本当に涙(もろ)いんだから。

 

「ツバサ…?具合が悪いの?」

 

 ひめもひめで(にぶ)いわねぇ。

 

「そんな事ない。すまない。ただ、安心したらちょっと…」

 

 そう言ったツバサの目はまた潤んでいて、可愛い。

 

「ツバサ、心配かけてごめんなさい。私は大丈夫よ」

 

 ひめは微笑んで答えているけど、どうしてツバサは一瞬浮かない顔をしたのかしら?

 

「…分かった」

 

 まぁ、とにかく…。

 

「それで、どうしてひめはあんなに動揺していたのかしら?普段の貴方ならあんなに慌てる事もあまり無いと思うのだけど」

 

 普段のひめなら。

 いつもと違うといえば、やっぱり。

 

「…ひなちゃん…?」

 

 そうよね〜。

 やっぱりここでも、ひなちゃんがキーパーソンになるのね。

 それで、ひめはひなちゃんの事を探しているみたい。…ひめの寂しそうな表情なんて久し振りに見た気がするわ。前にこんな表情をしたのって、ひなちゃんとの電話を切った後だったかしら。…あら、こっちもひなちゃんが関係してることだったわね。

 

「ひなちゃんなら、ひめが寝ている間に、先生の所へ行ったわ。ひめの事、頼まれちゃった」

 

──「姉の事、お願いしてもいいですか?」

 って頼まれちゃったもの♪

 まぁ、頼まれなくとも、だけど。

 

「私の、勘違いだったみたい。ひなちゃんに呼ばれた気がしたのだけど違ったわ」

 

 呼ばれた気ねぇ…

 

「そうか」

 

 ツバサは納得しているけど、もしかしたら…

 

「まぁでも、分からないわよ?」

 

 ひめとひなちゃん。

 とっても似ていて、お互いの事が大好きで、多分どちらも同じ様な性格で。

 此処(ここ)までくれば、離れていても意思疎通が可能なんじゃないかしら?

 

「なぜ?」

 

 何より…。

 

「だって、2人は姉妹だもの」

 

 ひめとひなちゃん(しか)り。

 私と真昼然り。

 あぁ、もちろん朝陽もね。

 姉妹姉弟の絆はとっても強いもの。

 

 それにしても…。

 最近、本当に真昼成分が足りないわ。

 近くにいるのにまともに話せてもいないし。

 はぁ。

 

「そうね。でも、ひなちゃんなら大丈夫だと思うわ。ありがとう」

 

 流石はひめ。ひなちゃんの事を分かっているのね。

 

 でも…

 もしも、それが間違っていたら…。真昼に辛い思いをさせてしまってるかもしれない私のように。

 ひめの想いがひなちゃんの想いとすれ違っていたら…。

 

 もう…ネガテイブはダ〜メ!

 しっかりしなさい。香澄 夜空!

 

「制服に着替えて来るわね」

 

 私は月の美組S4、香澄 夜空。

 表に出してしまうのは、美しくない。

 

「私はお茶の用意をしておくわ」

 

 私は私なりのやり方で進まなきゃね♪

 

 

 side:ツバサ

 

 ダメだな。さっきから全く台詞が頭に入ってこない。

 

 私に出来る事…か。

 

「っ!…はあっ、はあ」

 

 突然、寝ていたはずのひめが勢いよく起き上がった。

 

「ひめ!どうした⁉︎」

 

 思わず台本を落としてしまったが、今はどうでもいい。いや、どうでもよくなんてないけど、でも今だけは許して欲しい。

 

「ひめ?」

 

 ひめが手で口を覆う。

 どうしたんだ⁉︎

 気持ちが悪いのか?気分が良くないのか?何にせよ心配すぎる。

 

「気分が悪いの?」

 

 夜空が聞いてくれているが、答える余裕も無いみたいだ。

 

「はあ、はあ」

 

 顔色がとても悪くなっている。

 首を横に振ってはいたから、気分が悪い訳では無いか。

 

「そう」

 

 夜空は夜空に出来る事をしている。

 なら、私は?

 

「っ…、はあ、はあ…!」

 

 ひめ…。

 私は、私なりに出来る事を‼︎

 

「…?」

 

 ひめの手をとって、話しかける。

 ひめが少しでも落ち着けるように。

 

 これが、今の私に出来る事だ。

 

「ひめ、大丈夫だ。私と夜空がついてるから。先ずは、落ち着いて。私の手と、夜空の手を意識しながら、息をするんだ」

 

 力強く話しかける。

 ひめは1人なんかじゃない。

 私達がついてるから。

 

 ひめの背中を優しく撫でる夜空にアイコンタクトを送る。

 私に出来るのは、ひめに呼びかける事。

 夜空に出来ない事は私がして、私に出来ない事は夜空がする。

 

 あとは任せた、夜空。

 

「ひめ、大丈夫よ。息を少しだけ吸って…。そう、そしたら止めて」

 

 私はひめの手をギュッと握る。

 

「すぅ…。んっ…」

 

「ゆっくり、そうね…3秒位かけてその息を吐き出して」

 

「ふうぅぅぅ」

 

「もう1回。吸って、止めて。…ゆっくり吐く」

 

「ふうぅぅぅ」

 

 私が握るひめの手に、少しずつ力が戻って来た。

 

「どう?落ち着いたかしら?」

 

 これで、落ち着いたか?

 

「えぇ、2人とも、ありがとう」

 

 最後に1つ大きく息を吐いて、ひめの眼の焦点(しょうてん)も戻った。

 良かった。本当に良かった。

 …!涙が出そうだ。はは、なんでこんなに涙脆いんだろうか。

 

「・・・」

 

 あぁ、もう。

 なんでこんなになるんだ?

 

「ツバサ…?具合が悪いの?」

 

 …‼︎

 そうだ。ひめを心配させちゃいけないだろう。

 慌てて涙を飛ばす。

 

「そんな事ない。すまない。ただ、安心したらちょっと…」

 

 そう言ってる最中にも、涙が少し出そうになる。

 

「ツバサ、心配かけてごめんなさい。私は大丈夫よ」

 

 ()()だ…。

 ひめ、その表情で大丈夫と言わないでくれ。

 私は1年生の時から、少しもひめに近づけてないのか?

 

「…分かった」

 

 どうしたら、君に近づけるのだろう。

 果てしなく遠いな。ひめは。

 でも、絶対に、隣に立ってみせるよ。

 

「それで、どうしてひめはあんなに動揺していたのかしら?普段の貴方ならあんなに慌てる事もあまり無いと思うのだけど

 

 落ち着かせるようにひめの背中を撫でながらそう聞く夜空。

 普段のひめなら。

 いつもと違う所と言えば…。

 

「…ひなちゃん…?」

 

 だな。

 一体何があったんだ…?

 

「ひなちゃんなら、ひめが寝ている間に、先生の所へ行ったわ。ひめの事、頼まれちゃった」

 

 そうだったのか。もしその時に起きていたら、私がそう言われていたかもしれないな。

 

「私の、勘違いだったみたい。ひなちゃんに呼ばれた気がしたのだけど違ったわ」

 

 勘違い…もしくは夢を見たのかもしれない。

 

「そうか」

 

「まぁでも、分からないわよ?」

 

 その時、夜空が言った。

 

「なぜ?」

 

 ひめの疑問に笑顔を一層深くさせて夜空が答える。

 

「だって、2人は姉妹だもの」

 

 姉妹…か。

 そうか。夜空にも妹と弟がいるからな。

 私は一人っ子だから、そういう姉妹とか兄弟とかの事は分からない。

 

「そうね。でも、ひなちゃんなら大丈夫だと思うわ。ありがとう」

 

 本当に信頼しているんだな。

 ここまで言い切れるのも中々に凄い。

 

「制服に着替えて来るわね」

 

 ひめ…。

 大丈夫かな。

 

「私はお茶の用意をしておくわ」

 

 はぁ。何だか今日は疲れた…。

 

 

 side:ひな

 

「はぁ、はぁ…」

 

 ・・・(おさ)まって、きたかな。

 アレから少し…ようやく波が過ぎ去って、フラつきながらだけれど立てるようになった。

 

 …痛い時は意識を失いたいけれど、痛い時ほど意識は失えない。

 

「…おみず、飲もう」

 

 アンナ先生が用意しておいてくれたペットボトルのお水を飲んで、壁に背中を預けて座る。

 

 今回は意識を落とさなかった。

 だけど、もし大きな発作がお仕事中に起こったら…隠し通せるのかな…。

 

 でも、隠さな…きゃ…?

 

「あ、れ?…力が…」

 

 体の力が、一気に抜けていく。

 眠く…なっているの?

 

 ダメ…まだ、練習しない…と…

 




しりあすぅ。おかしいですね、指が勝手に。
さて。サブタイトルですが、色々な意味でのカウントダウンが始まっています。

これから更新は、18時頃になる事が多いと思います。
それくらいの時間になったら、更新してるかな、と覗いていただければ・・。

(2019年8月・文章整形や加筆を行いました。毎日更新していたあの数日間に戻りたいです…
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