華琳逆行   作:にゃあたいぷ。

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シスターズエピソード.1
春蘭の場合。


間幕.夏侯惇元譲

 華琳(曹操)様から課題が出された。

 それは豫州沛国の暮らしを豊かにする為に何か一つ、目に見えた成果を上げることだ。

 この言葉を聞いた時、姉妹達は夕食の御馳走に想いを馳せるように考えを巡らせた。きっと姉妹達の頭の中では輝かしい未来が映し出されており、それを実現する為にはどうすれば良いのか思案を始めているに違いない。だが私には政治が分からない、故にどうすれば民草の暮らしが良くなるか分からなかった。

 でも民草からの話は聞いている。

 最近、服屋で新商品が手に入らなくなった。店主に理由を問えば、近頃、賊が多くなったことが原因のようだ。賊が商隊を襲うから他郡から商品が納入されなくなる。それはとても困ることだ。何故なら製作中の華琳様人形を完成させたとしても着せる衣服がなければ意味がない為だ。私が困っているなら、きっと周りも困っているはずだ。

 という結論から私は単身で賊退治へと赴いた。

 

 賊が頻出するという街道に赴き、暫く歩き回ってみるが賊は現れない。

 とりあえず現地で獣を狩りながら三日三晩、街道の見張りを続けてみたが賊は現れなかった。はて、情報は間違いだったのだろうか?  首を傾げて、今日の食料を調達しに山へ出向くと道に迷った。更に三日三晩、遭難生活を続けているとふと御飯を炊く匂いがした。その美味しそうな匂いに誘われるように足を運ぶと洞穴の前で(たむろ)する野蛮そうな者達に遭遇した。捕まえようとしてきたので返り討ちにし、全員を地面に叩き伏せた後で――あっ、こいつらが賊か。と気付いた。

 とりあえず彼らを全員簀巻きにした後、馬や荷車を拝借し、溜め込んでいた物資と共に城都まで戻る。

 

「……姉上、その後ろのものはなんだ?」

 

 ちょっとそこで捕らえてきた、と答えたら妹に大きく溜息を零された。

 簀巻きの賊は県令に引き渡し、馬や馬車、そこに詰め込んだ物資は、妹の秋蘭(夏侯淵)と相談して無事に元の商隊に返すことができた。残った賊徒の装備に関しては、なにかしらの役に立つかもしれない。という妹の言葉から華琳(かりん)様に預ける。

 事の経緯の説明を要求されたので以上のことを口にすれば、とても大きく溜息を吐かれた。

 

「いえ、うん、よくやったわね」

 

 そう言って褒めてくれる華琳様は、何故か酷く疲れているように見えた。

 

 それから暫く、単身で街道を渡り歩いては獣狩りがてら賊退治に勤しんだ。

 しかし、それも十回程度も繰り返しているとパタリと賊が現れなくなった。どうやら賊は私達が拠点のある城都、譙国から離れた場所に出没するようになったようだ。これは困ったことになった。いや、平和なのは良いことなのか? しかし賊は未だに現れるというし――むむむ、と切り伏せた人食い虎の毛皮を剥ぎながら思い悩んだ。ちなみにこの人食い虎は通り掛かりの農民に頼まれて退治したものだ。他にも田畑を荒らす熊を退治していたりとかする。街道を巡回するだけの毎日、適度に田畑を耕したり、集落の祭りに参加したりしながら何もない日々を送る。時折、商隊から護衛以来を受けて欲しいと言われるが、流石に華琳様の許可もなしに譙国を離れるのは不味かろうと断り続けた。

 今後、将軍として活躍する為に武芸の鍛錬だけは怠らなかった。

 

 とある日の事だ。

 姉妹達が何か大きなことをしようとしているようだ。その何かは私の頭の中には入って来なかったが、優秀な姉妹達のことだ。きっと良いことなのだろう。しかし、それを為すには人手が足りない、と華琳様は告げる。その言葉を聞いた妹達はとても残念そうに肩を落としたので、ここは年長者として体を張ってやろうと思って「ん、人手が必要なら私が用意してやるぞ?」と名乗り上げた。心当たりもあったし。

 この時、華琳様がとても面倒臭そうな顔をしていたのが印象的だった。

 

 さて、人手を集めるのであれば、それなり良い人間を集めてやりたいと考えるのは姉心として当然だ。

 捕らえた賊と片っ端から面談をし、その中でも素性や経歴に傷が少なそうな者を選んだ。妹の話では賊にも色々といて、情状酌量の余地がある者も居ると言っていた。それはそれとして賊で略奪に働いた者には重い刑罰が必要だとも言っていたが――それもまあ自ら望んで賊に落ちた者ではないのであれば、華琳様の下で奉仕活動に従事させることで罪滅ぼしをさせてやれば良い。

 私達は人手が賄えて嬉しいし、彼も過去の罪を善行を以て償える。正しく一石二鳥の名案だ。

 

 そんな訳で曹家の庭に簀巻きで並べた賊徒一同、さあ華琳様(社長)(重役)達による最終面接だ。励めよ、みんな!

 

 賊の管理は私の管轄になった。

「これも将軍になる為の必要な経験よ」と華琳様に言われたので「はっ、お任せください!」と快諾したのは良いが、しかし私兵の管理というのを私では分からない。分からないが、とりあえず、こいつらは軟弱過ぎる。華琳様の兵卒としては、あまりにも不甲斐なかったので先ずはそこを鍛え直すことにした。

 毎朝、鶏が鳴くと同時に起床させる。華琳様の兵卒であれば、私生活から身嗜みを綺麗に整えておかなくてはならない。と寝起き直後、自分の寝台は自分で整えさせた。衣服の乱れも正した者から朝食を摂らせる。そして庭に並べて点呼を取り、歩兵の仕事の九割は走ることにあると聞いたことがあったので先ずは屋敷の外を三回走らせた。それから肉体を鍛える為、午前中、徹底的に筋肉を虐め抜かせる。昼食を摂らせてから暫しの休憩、おやつ時から武芸の鍛錬を始めた。まだ午前中の疲れも取れていない上での鍛錬になるが、戦場では調子が良い方が珍しいのだ。野営を三日続けて、三日遭難をした後に賊徒と戦ったことのある経験から本調子でなくては戦えない兵など使い物にならないと理解している。そして朝から晩まで痛めつけた体を引き摺らせて、夕食の準備を始めさせた。これもまた実践を想定してのことだ、元気に走って、元気に戦ったら、元気に食べる。戦とは御飯を食べて、眠るまでが戦なのだ。とはいえだ、今は平時だ。華琳様には臭い奴は近付けさせられなかったので毎日のように身を清めさせた、歯磨きもさせた。それを怠る輩は水をぶっかっけてやり直しだ。徹底監視の上で身を清めさせた、時には一緒に身を清めることもあった。そして眠り、また明日がやって来る。さあ今日も元気に鍛錬だ! と寝坊する輩の布団で剥いで回って叩き起こした。

 後々になって妹から執拗な事情聴取を受ける兵を見つけた。

 

「姉上はお前達と共に身を清めているというのは本当か?」

「はい、その通りです! しかし我が隊において、隊長を異性として見る者はおりません! もし仮に隊長に欲情する輩が居るとすれば、我らはその者を英雄と褒め称えた後に獄へ放り込む所存でございます!!」

「それはそれでどうかと思うが……いや、もういい。これは姉上に直接、言うべき問題だな」

 

 面倒なことになりそうだったので踵を返して、来た道を戻った。

 そんな生活を続けさせること一ヶ月、賊に落ちて見窄らしかった姿は今や見る影もない。引き締まった筋肉に整った髪、髭は毎朝のように綺麗に剃らせている。号令一つで隊列を作り、点呼の一声で番号を告げる。右を向けといえば右を向き、左を向けといえば左を向いた。武芸も鍛え直した甲斐あって、今やそんじょそこいらの賊では相手にならないほどに腕を上げた。どうですか華琳様! とお披露目をした時、華琳様は何故か遠い場所を眺めていた。

 またワタシ何かやっちゃいましたか?

 

 ちなみに我らの名前は爆裂団、兵達に話し合わせて決めた名前だった。

「そ、そう。いい名前ね」と華琳様も御満悦だ。

 

 彼らを満足する水準にまで鍛え上げることができたので、部隊を四つに分けることにした。

 これは平時の話になるが、四日の内、鍛錬は二日。内一日が巡回。残る一日が休憩という周期を取った。これを部隊別に分けながら行動をさせるので常に一部隊が巡回に回る計算だ。こいつらの訓練に精を出していた影響で城都周辺には再び賊が湧くようになっていた。まるで夏場の虫のように油断をすれば湧いて出る賊に定期的な巡回は必要だと学び、これを習慣付けることを退治した賊を踏み締めながら決定した。そうして再び巡回を始めれば、すぐに賊は姿を消した。たぶん他の場所に行ってしまったのだろう、追いかけたいがあまり拠点の譙国から離れることはできない。

 代わりに退屈凌ぎに道行く集落で橋を修理したり、田畑を耕したり、と民草の手助けを続けた。

 

「なんで自分の田畑でもないのにこんなことを……」

「馬鹿野郎、お前、戻ったらまた鍛錬だぞ?」

「隊長の限界ぎりぎりを見抜く能力は神がかってるからな」

「それに比べて田畑を耕すことがどれだけ楽なことか」

「ふふ、筋肉が物足りないって疼いてやがるぜ……」

「いいか、お前、めったのことを言うんじゃないぞ」

「お、おう」

 

 兵達もみんな、積極的に参加してくれて何よりだ。

 そうして各地を巡回しながら民草を助けている内に爆裂団に入団したいというものが増え始めた。

 とりあえず新兵には鍛錬を一ヶ月間経験して貰ってから部隊へ編入している。そうして数が膨れ上がること数ヶ月後、なんと規模が膨れ上がった爆裂団の出費が曹家の経済力を上回ってしまったのだ。これには流石の私も困った。そこで賢い私は商隊からの護衛依頼があったことを思い出した。彼らの武芸は最早、譙国周辺では敵なしだ。商隊からの護衛依頼を受諾した、爆裂団の面々が豫州各地に出向くようになったので小物の配達物を承ることも増えた。

 意外なことに爆裂団の面々は出先で問題を起こすことはほとんどなかったようだ。最初に数回あっただけである。

 

「なんで目を見ただけで嘘がわかるんだよ、こえぇよ。こえぇよ……」

「だからめったなことをするんじゃないぞって忠告したのにな」

「嗚呼、美しいな。我が筋肉は……少し前は鍛えてあげられなくてごめんよ、張三……」

「健康ダカラ毎日が楽しい」

「今日も元気だご飯が美味い!」

 

 今や爆裂団の名は豫州全土に轟いている。

 妹達の手助けもあって組織化も進み、部隊運用の効率化が図られていた。まあ細かいことはよく分からないが兎に角、良い感じの流れが来ていることは確かだ。乗るしかない、この大津波に!

 ともあれ爆裂団は今日も元気に営業中です。

 

 

 




後に語り部によって伝えられる夏侯惇将軍物語の一端である。
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