秋蘭の場合。
書籍を読み漁る日々が続いた。
先ずは
だから華琳様は何時も姉妹達から人気があり、常に誰かが彼女の隣を陣取っている。
とある日のことだ、華琳様が私達に課題を出された。
課題内容を聞いてみれば、なるほど、これは卒業試験のようなものであり、今まで華琳様の下で学び身に付けた教養を実戦の場で活かす良い機会でもあった。期間は寺小屋を卒業するまで、それまでに一つ、形になる成果を上げること。
姉妹達が様々な考えを巡らせる中で、かつて華琳様が私に告げた言葉を思い返していた。
――貴方達、王というものに興味はないかしら?
本当に良い機会かも知れない。
何を成すか、よりも、何者になりたいか。それを考える良い機会だと思って、私は改めて書籍を読み漁った。それはかつて読破した華琳様が私に薦めてくれた書籍が詰め込んだ棚であり、此処に私が求める答え、そこまで行かずとも手助けになるものがあると確信して読み返す。書籍は情報だ、古きから受け継がれてきた情報には値千金の価値が詰め込まれている。かつては見逃した情報の宝石、今改めて読み込むことでわかる真意に口元を綻ばせながら読み耽る。
ひと月が過ぎて、ふた月、姉妹達から随分と出遅れてしまったことに溜息を零して、あと少しで掴めそうな何かを求めて、更にひと月が過ぎた。行き詰まっている。薄っすらと見えてきたものがある、しかし、それを形にすることができなかった。幾ら読み返しても見えて来ないものがある、決定的な何かが足りていない。私の理想とするに足る、何かが足りていない。他の姉妹が何かしらの成果を上げていく中で焦りだけが積もり続ける。
そんな日々に辟易した頃、「偶には外の空気を吸って来なさい」と書庫から引きずり出された。
そういえば長らく外の空気を吸っていなかったな。
屋敷を出て、街を抜けて、何処までいくのかと思えば、城壁の階段を登っていった。こんなところまで来て、何をしたいのだろうか? そんな風に思い詰めていると「顔を上げなさい」と、そう言われて、ゆっくりと顔を上げる――そこには人の営みがあった。何時しか見たことのある光景に特別な驚きや感動はない。ただ広いな、とそう思った。後ろに振り返れば、まだ開拓も進んでいない土地が地平線の先まで続いていた。やはり、広い。世界はただただ広大であり、それを手中に収めることなんて烏滸がましいのではないかと思うほどだった。
「この大地は、人が治めるには広すぎるのではありませんか……?」
問いかける、そして小さな主君を見据える。
「ええ、そうかも知れないわね」
そう言って微笑む華琳様に、この大地を全てを手中に収めたいと願う、それそのものが王足る素質だと知る。
やはり私には王は荷が重い。少なくとも今はまだ、私如きが手を出せる代物ではなさそうだ。
「そうですね、私に天下は手に余るようなので――先ずは分割したいと考えます」
何気なく呟いた言葉に、ふと華琳様の気配が変わった。
「……続けて」
「はっ!」
短く静かに告げられた言葉に、思わず臣下の礼を取る。
特に難しいことを考えていた訳ではない、それは単なる思い付きに過ぎなかった。全盛期の漢王朝であったとしても辺境の地、例えば、涼州や交州、揚州といった洛陽から遠く離れた場所を統治できていないのだ。つまり、少なくとも今の人類には大陸全土を中央集権化することは不可能と考えた。であれば国の中心を三つ程度に分けてしまった方が効率が良い。無論、これだけでは三つの国は共存よりも敵対する道を選ぶことになる。だから三つの国を統括する存在が必要だ。
「帝ね」
私が結論を述べるより早くに華琳様が告げる。
漢王朝。例え、国が三つに隔てても漢王朝がある限り、民草は皆、漢王朝の民ということになる。
皇帝が居る限り、私達は皇帝の臣民なのだ。
「……厩を多く作りましょう」
これもまた思いつきの言葉だった。
「街道沿いに厩を多く作り、休憩できる場所を作りましょう。藁を敷き、飼葉を置き、馬を常備する。早馬の為の施設、そして宿泊施設の方は、できることならば一般的にも解放し、もっと人々が街と街を気軽に行き来できるようになれば良い。そうすれば、きっと、この広大過ぎる大地を狭くすることができるかと」
そこまで告げると華琳様は吹き出し、「貴方だけの天下の形が見えているじゃない」と嬉しそうに笑ってみせた。
「でも残念ね、それをするにはまだ私達には力が足りないわ」
強い風が吹いた。
華琳様のくるんと巻いた二つ結いの髪が靡き、そして青色の瞳を凛と輝かせる。
深い色合いに強い意思、揺れる瞳は赤色の炎よりも情熱的だった。
「先ずは郡太守、次の州刺史。そして一国の王になる」
華凛様は広大な大地を背に、左手を自らの胸に添えながら右手を私に向けて差し出した。
「
嗚呼、この御方には敵わないな。
そう思いは口には出さず、彼女の手を受け取った。