問題児達に妖狐が混じっているそうですよ?   作:せーじゅん

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今回はほぼ原作通りに進みます。前半は端折っても良かったのですが、それだと原作を知らない人は話が分からなくなると思ったので書きました。

また今回から地の文が三人称になります。主人公の影がどんどん薄くなっていますorz


第7話

ゲーム終了を告げるように、木々は一斉に霧散した。樹によって支えられていた廃屋が倒壊していく音を聞いて黒ウサギと十六夜は走り出す。

 

「おい、そんな急ぐ必要ねえだろ?」

「耀さんが怪我をされたらしいのです!生死に関わるほどでは無いようですが…」

 

黒ウサギは“審判権限(ジャッジマスター)”として、その耳に驚異的な情報収集能力を秘めている。常時使えるようなモノではないが、このギフトゲーム中は使用しておりゲーム内容は把握していた。

 

「あら、黒ウサギ。私達の凱旋だと言うのにそんな顔は無いんじゃないかしら」

「余裕だった。私と飛鳥のコンビネーションにかかればあんなの一捻り」

「耀さんは怪我しているんですから無茶しないでください!」

 

そんな黒ウサギの心配を他所に耀達は意気揚々と帰ってきた。

ジンが黒ウサギに駆け寄る。

 

「黒ウサギ、耀さんは足首と肩を痛めてる。コミュニティの工房に運んで治療を」

「ジン、私は大丈夫…」

「ダメです。内臓にもダメージがあるかも知れませんから先にコミュニティに戻っていて下さい」

 

抗議する耀をピシャリと封じ込めるジン。耀は渋々ながら黒ウサギに抱かれて工房へ向かった。

その姿を見て、十六夜は値踏みするような目で見送る。

 

「おい御チビ。黒ウサギは治療のギフトなんかを持っているのか?」

「いえ、僕らの工房においてあるギフトです。しかし扱いが難しい為、彼女しか使えないものばかりです」

 

それはつまり、黒ウサギでなければ治療が行えないのと同義である。

十六夜はその結論に満足そうに喉を鳴らして笑うと、独り言のように呟いた。

「やっぱりアイツが一番面白いな。俺並みには程遠いも、“ノーネーム”じゃ明らかに別格だ」

 

十六夜の興味の対象はコミュニティや彼と同じ境遇の二人よりも、専ら黒ウサギに注がれていた。

“ノーネーム”に協力してやってもいい、という程度に関心を持っているのも、全ては黒ウサギの献身的な姿に思うところがあったからだ。

“箱庭の貴族”と謳われるウサギ達。容姿端麗で強靭不屈。修羅神仏が集うこの箱庭で強者として生まれ、万人の寵愛を得られるはずの彼女がどうして“ノーネーム”なんかにその身の全てを捧げるのか。十六夜はそれを知りたかった。

 

「恋愛感情なんかだったら納得しやすいんだかな……肝心のリーダーがこれじゃあな」

 

チラ、とジンを見下ろす。目が合うとジンは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ん?どうして頭を下げる」

「だって僕は結局……何も出来ず仕舞いでした」

「ああ、そういうこと。でもお前達は勝っただろ?」

 

十六夜の言葉には皮肉も嘲りも、ましてや称賛すら含まれていない。

ジンが不思議そうに顔をあげると、十六夜は続けて補足した。

 

「お前達が勝った。なら御チビにも何か要因があったんだろ。見た限り春日部への応急処置もお前がやったらしいしな」

「は、はい」

「ならそれでいいんじゃねえの?それより、初めてのギフトゲームだったんだろ?楽しめたか?」

「……いえ」

 

苦い顔で首を振る。勝利を飾ったものの彼はゲーム攻略にほとんど携わっていない。二人で十分な相手だと言えばそれまでだが、ジンは己の無力さに失望していた。

 

「昨夜の作戦……僕を担ぎ上げて、やっていけるのでしょうか?」

「名も旗もない俺達に、他の方法で宣伝をするのは無理だと思うけどな。御チビ様が嫌だと仰るなら止めますデスヨ?」

 

からかうような尊敬語で話す。ジンは一拍押し黙り、首を横に振った。

「いえ、やります。僕の名前を全面に押し出す方法なら、万が一の際に皆の被害を軽減できるかもしれない。僕でも皆の風避けぐらいにはなるかもしれない」

「……あっそ」

 

十六夜は少し以外だった。ジンは自ら己の名前を売り、打倒魔王のコミュニティのリーダーになろうというのだ。しかもこれから襲ってくる脅威が自分の名前に集められることを重畳だと生意気にも口にする。

本当に面白い場所に来たと、逆巻十六夜は哄笑を噛み殺すのだった。

 

 

 

その後十六夜とジンは“フォレス・ガロ”傘下だったコミュニティに“名”と“旗印”を返還した。討伐したコミュニティを傘下に加えずに恩を着せることによって、“ジン・ラッセルのノーネーム”という名を売るのだ。

ジン・ラッセルの名で打倒魔王のコミュニティを掲げ、同じく打倒魔王の同士を集めるのが十六夜の狙いだった。魔王から狙われやすくなる反面、覚悟のある強者が集まる可能性が高いこの作戦は、ギフトゲーム前夜に十六夜がジンに持ちかけたものである。ジンはとあるゲームに十六夜が参加することを条件にこの作戦を飲んだのだ。

今回の反応を見る限り、彼らの作戦は一先ず成功だろう。

 

 

 

 

本拠に戻った十六夜、飛鳥、ジンは耀の容態を確認しにいく。耀が治療を受けた工房とは、ギフトを用いた儀式を行う場所である。

“ノーネーム”を襲った魔王はギフトを保管していた宝物庫には手付かずでいたため、工房には様々なギフトが残っている。しかし扱いが難しいものや使い手を選ぶものが多いため市場に卸す事もできず、宝物庫の肥やしとなっているのだ。

見舞いの後に談話室で寛いでいた十六夜は黒ウサギに呟いた。

 

「春日部の傷明日には治るんだって?流石は神様の箱庭ってことか」

「Yes♪そこまで深手というわけでもありませんでしたから、すぐに良くなりますよ!」

「ま、たいした怪我じゃなくてよかったぜ。それで、例のゲームはどうなった?」

 

十六夜と黒ウサギの二人は本拠の三階にある談話室で、仲間が景品に出されるゲームの事を話していた。ジンが十六夜に参加するよう頼んだゲームである。十六夜が参加してくれると聞いて歓喜していた黒ウサギは、申請から戻ると一転泣きそうな顔になっていた。

 

「ゲームが延期?」

「はい……申請にいった先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、口惜しそうに顔を歪めて落ち込んでいる。

十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべった。

 

「なんてつまらないことをしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

十六夜の表情が目に見えて不快そうになる。十六夜は盛大に舌打ちした。

 

「チッ。所詮は商業コミュニティってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいとこだ。“サウザンドアイズ”は巨大コミュニティなんだろ?プライドはねえのかよ」

「仕方がないですよ。“サウザンドアイズ”は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は“サウザンドアイズ”の傘下コミュニティ“ペルセウス”。巨額のお金や協力なギフトを積まれれば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

達観したような物言いの黒ウサギだが、悔しさで言えば十六夜の何倍も感じている。それでも黒ウサギには何も出来ない。

ギフトゲームはこの箱庭世界の法。敗者として奪われた仲間を取り戻すのもギフトゲームでしかないのだ。今回は運が無かったと諦めるしかない。

 

「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

「そうですね……一言で言えばスーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、流れる大河を彷彿させます。」

「うんうん、その通りだ。それに凛としたその佇まいと才知はは箱庭の騎士として恥じるところがない。才色兼備を体現しているよ」

「本当にその通りです……って一葉さん!?いつの間にいらしたのですか!?」

 

当たり前のようにそこにいる一葉に、黒ウサギは驚愕を隠せない。

 

「驚くのはまだ早いぞ黒ウサギ。今日のメインゲストは私じゃないんだから」

 

そう悪戯に笑って窓を指差すと、そこには件のレティシアがいた。

「二人とも誉めすぎだ。今の私は他人に所有物に過ぎない」

 

そう苦笑してレティシアは談話室に入る。美麗な金髪を特注のリボンで結び、赤いレザージャケットに拘束具を放物させるロングスカートを着た彼女は、黒ウサギの先輩にしては随分と幼く見えた。

 

「こんな場所からの入室ですまない。ジンには見つかりたくなかったからな」

「い、いえ。全然構いません。それよりどのようなご用件ですか?」

 

レティシアは他人に所有される身分。その彼女が主の命もなく来たと言うことは、相応のリスクを負ってこの場に来ているのだろう。

ならばただ会いに来たわけでは無いはずだ。それなら彼女はジンにも顔をみせていただろう。ジンに聞かれては不味い話をしに来たと推測するが、レティシアは苦笑して首を振る。

「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないのは会わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

「わるかった。私も少々興奮してしまい、全力を奮ってしまったから」

 

そういって謝る一葉とレティシア。そこで十六夜が口を挟んだ。

 

「一葉。その口調だとお前もギフトゲームに参加していたようだが……ホスト側の参加者はガルドしか許されて無かったはずだぜ」

「前に自分で言ったじゃないか。『お前の能力は狐憑きだろ』って」

「ガルドに憑依していたのですか。だから飛鳥さんと耀さんがあんなに苦戦されたのですね」

 

納得する二人をみてレティシアは本題に入る。

 

 

 

 

「最初、私は黒ウサギ達を止めようと思っていた。ノーネームからのコミュニティの再建。それがどれだけ茨の道かは少し考えれば分かることだ」

「………」

「コミュニティを解散するよう説得するため、ようやくお前達と接触するチャンスを得たとき………看過出来ぬ話を耳にした。神格級のギフト保持者が黒ウサギ達の同士としてコミュニティに参加したとな」

視線が十六夜に移る。おそらく白夜叉に聞いたのだろう。

四桁の外門に本拠を持つ“階層支配者”の白夜叉が、最下層である七桁の外門に足を運んでいた理由は、秘密裏にレティシアを此処まで連れてくる為だったのだ。

 

「そこで私は一つ試したくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

「結果は?」

 

黒ウサギが真剣な双眸で問う。レティシアは顎に手を当て思案する。

 

「なんといったものか。彼女達二人はまだまだ発展途上で判断に困る。しかし成長すれば間違いなくこのコミュニティの最大戦力になるだろう。それほどのポテンシャルを秘めている」

 

そう、ギフトゲームで飛鳥と耀は素晴らしい働きを見せた。強力なギフトを使いこなす柔軟性と発想力も持っている。しかし十六夜の作戦で魔王に目を付けられる可能性が急増したのだ。あの二人ではまだまだ魔王に太刀打ちできないだろう。

そう思案するレティシアに十六夜が声をかける。

 

「魔王相手にこのコミュニティが戦えるかどうか不安なんだろ、アンタ。その不安俺がぬぐいとってやるぜ。表に出な。俺の力はまだ分かってないだろ?」

 

そういって不敵に笑い、窓から外に飛び出す十六夜。それに続きレティシア、一葉も飛び出す。

 

「ふふ………いやはやなんとも分かりやすい。初めからそうしていればよかったなあ」

 

十六夜と相対したレティシアは口に手を当て愉快そうに笑っている。十六夜のほうもその顔に獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「さて、ゲームのルールはどうする?」

「どうせ力試しだ。手間隙をかける必要もない。双方が一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

「受けきれなかったら負け。いいね、シンプルイズベストって奴?」

「さて、そろそろ始めようか」

 

レティシアは黒い翼を広げて飛び上がり、金、黒、赤のコントラストで彩られたギフトカードを取り出す。

 

「レ、レティシア様!?そのギフトカードは!!」

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、これが決闘であることに変わりはない」

 

ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。

光の粒子が収束して外殻をつくり、それが爆ぜると手には深紅のランスが握られたいた。

 

「互いにランスを一打投擲する。受けては止められなければ敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

「好きにしろ」

 

投擲用のランスを掲げる。

 

「ハァア!!!」

 

レティシアが呼吸を整え、全身をしならせた反動で打ち出すと、その衝撃で空中に視認できるほどの波紋が広がった。

怒号と共に放たれた槍は瞬く間に熱を帯び、一直線に十六夜に向かう。

流星の如く大気を揺らして突っ込んでくる槍を前に、十六夜は牙を剥いて笑った。

 

「カッ、しゃらくせえ!!」

 

十六夜はその拳を振りかぶると

()()()()()

 

「「………はっ!??」」

 

素っ頓狂な声をあげるレティシアと黒ウサギ。

しかし此れは比喩ではない。他の表現の仕様もない。レティシアが放った槍は鋭い先端も高緻に細工された柄も、たった一撃で拉げて只の鉄塊と化し、第三宇宙速度に匹敵する速度で跳ね返されたのだ。

(ま、まずい………!)

 

なんと馬鹿馬鹿しい破壊力。避けの一手を打つしかない。しかし驚愕により、思考に体か追い付かない。

鬼種の純血である彼女なら、たかが鉄塊ごとき振り払うことなど造作もない。しかし、今の彼女には馬鹿馬鹿しいほどの速度で迫るコレを退けることは不可能だった。

 

(こ……これほどか………!)

 

着弾する間際、苦笑が漏れた。尋常ではない才能を目の当たりにしたレティシアは、自分の目測の甘さを恥じ入る。しかし同時に安堵した。

これほどの才能ならばあるいは……と、血みどろになって落ちる覚悟を決めたとき、

 

「「レティシア(様)!」」

 

黒ウサギがレティシアを抱え込み、一葉が鉄塊を受け止める。

 

「な、何を!」

 

レティシアが声をあげる。だが、

決闘が邪魔されたことに対してでは無い。レティシアのギフトカードを黒ウサギが掠め取ったことに対する抗議の声だった。

だが黒ウサギは抗議には応じず、レティシアのカードを見つめて震える声で向き直る。

 

「ギフトネーム“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”………やはりギフトネームが変わって…鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

「今の君に十六夜の相手は難しいと以前言っただろう?」

 

二人の言葉にさっと目を背けるレティシア。歩み寄った十六夜は白けたような表情で肩をすくませた。

 

「なんだよ、もしかして吸血鬼のギフトしかのこってねえの?」

「……はい。武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵(ギフト)は……」

 

十六夜は隠す素振りもなく盛大に舌打ちした。

そんな弱りきった状態で相手をされた事が不満だったのだろう。

 

「ハッ。道理で手応えが無いわけだ。他人に所有されるとギフトまで奪われるのかよ」

「それは違うぞ十六夜。彼女は……」

「一葉っ!」

「今更隠しようがないだろう?」

 

一葉の言葉に俯いてしまうレティシア。そんな彼女を見て十六夜は頭を掻きながら鬱陶しそうに提案する。

 

「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」

「……そう、ですね」

 

沈鬱そうに頷くレティシアと黒ウサギ。

 

そこに遠方から褐色の光が差し込んだ。

 




はい、七話も終了しました。読んでくださってありがとうございます。
今回で一時更新が止まります。楽しみに待って頂いている方、本当に申し訳ありません。詳しくは活動報告を見てください。

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