キンジに新しい妹が発覚してから二日、三日、今日で四日目になる。どんな大ニュースが飛び込んでこようと平等に日にちは流れていく。
俺は本土の生まれだけど、ハワイじゃ昨日と今日の区別がつかなくなるって話を親父の知り合いの海兵隊員がよくしてくれた。
毎日晴れてて、毎日気温27度。でも本当はノースショアの波だって毎日違ってて変化はある。気付かないだけで変化はあるんだ。
「何カッコつけてんだ。グラビア撮影か?」
「快晴の空の下だったから。おはよう、雪平」
東京武偵高第3男子寮ーー
用意を済ませて戻ると、インパラのドアにもたれかかった夾竹桃は言葉とは裏腹に青一色に染まった空をうざったらしく仰いでいた。
魔宮の蠍、夾竹桃。
イー・ウー随一の毒使い。黒髪、幼い顔、細身が揃った日本人形みたいな無駄に美人な女。
司法取引によって元犯罪組織にいた経歴と実年齢を隠した彼女の学園生活も、退学においやられたキンジと違って無事に理子とジャンヌの同期共々進級を果たせたらしい。
かなめと同じクラスってのは、少し驚いたけどな。
「へえ。なかなか似合ってるぜ、夾竹桃」
「そう」
ポケットに手を突っ込み、閉じたままのドアに俺も背を預けて淡白に呟いた彼女の隣を陣取る。
黒のセーラー服がトレンドマークみたいな夾竹桃だが今日は黒は黒でもアウターはスウェットカーディガン、インナーはまた濃淡の違う黒いシャツで中央には紫が美しいアヤメがプリントされてる。
下はグレーのスカート、モノトーンの黒ソックスとシンプルながら元が良すぎるせいで言う事なし。端正なお顔と危険な魅力で黙らされる。
少しだぶついてるカーディガンの物珍しくなったパッチポケットもヴィンテージライクって感じで一昔前の流行りも大好物な夾竹桃らしい。
訂正。なかなかっていうのは見栄を張ったな、無茶苦茶似合ってる。
「なんだ?」
追加で賛美の言葉を送ってるなんて露知らず、隣に目を向けると手袋を嵌めていない人差し指が俺の胸元を真っ直ぐ射抜いていた。
「それよ。クロスドルーズシャツ、それも無彩色じゃないなんて珍しい。誰の入れ知恵?」
「誰のって‥‥‥スーフォールズのチャリティーでアレックスから買った。たまにはよく分からないアルファベットがプリントされてるの以外のを着ろってさ。だからアレックスと保安官に言っといた、お前がくれたアレもあるって。あのよく分からない花のーー」
「ビスマルクヒヤシンス」
「ビスマルクヒヤシンスがプリントされたのもあるって。ったく、簡単に私服を褒めようとしたのにどんどん話が脱線した」
「話が逸れていくのはいつものことでしょ。褒めてくれたついでに、頼みごとしても?」
いつものことーー
なんだかんだで続いてる付き合いの長さを語ってくれるその言葉は結構嬉しい。
「ああ、お安い御用。で、頼み事って?」
「ーーーーん」
尋ねると、夾竹桃はゆったりとした手つきで煙管を咥えた。
一応、目の前には男子寮があるのだがあくまで喉の薬という認識である夾竹桃には関係ないらしい。
現に中身は体のなかにある毒を中和させる一種のネオシーダー的なもんだが、
「ん?」
やや丸くなった瞳。
煙管を咥えたまま、俺を見る顔が不思議そうに斜めへ傾く。
蠍って二つ名のわりに、いまの姿だけを見たら餌を催促している猫みたいだ。普段は靡かないのに餌をやる時だけなついてくる黒猫。
俺はブックマッチを開き、横に並んでいるマッチのうちの一本を折りたたむ。いついかなるときも点火器を持ち歩くのはハンターの性。
指でたたんだマッチを弾き、明るく燃え上がった火を小さな火皿に遠火で着火した。
「ーーーー」
フカシで火を焚べ、少し暖かくなり始めた7月の朝焼けにゆらゆらと紫煙が立ち昇る。
喉の薬と言いながらも、煙混じりの吐息を吐き切る顔はいつものごとく心地よさそうだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「さっきのはお洒落だった。練習したの?」
「親父の教育。煙管に使ったのは初めてだけどな」
普段は幽霊用。
先生が一服するまで退屈そうな青空でも仰いどきますか。雲一つ許さないって青空、プテラノドンでも飛んでりゃおもしろいんだけど。
「驚いたわ。アクション映画が好きな男はみんなジッポーライターが好きと思ってた」
「好きだよ、でもこっちも捨てがたい。デトロイトのくたびれたバーで貰って、何個かあるからあとで一つやるよ」
「学生がバーのマッチとはね。皮肉が利いてるわ」
その小言は、学生で煙管を吸ってるお前にも突き刺さるけどな。皮肉なことに。
そんな俺の心中露知らず、夾竹桃は呑気に煙管を味わってる。蠱惑的な口元、吐息と一緒に吐かれる煙はたしかに大人っぽい。そこだけは年相応か。
「デトロイトで思い出したけど。雪平、あなたあれだけロサンゼルスを贔屓してるのに応援してる球団はデトロイトなのね」
「‥‥‥あの本ってほんとどうでもいいことまで書いてあるよな。いいだろ別に、今年も目指せワールドシリーズ。ワンダーワイドホワイトボールで勝負だ」
「ボークよ、あれは」
「お前、案外詳しいね‥‥‥」
‥‥‥そういや、理子と相撲も見てたもんな。男子寮のウチの部屋で。
漫画家や作家ってのはアイデアの引き出しを増やすために色んなところに常日頃アンテナを張っとくのが大事だからな。役者や漫才師が表現の引き出しを持とうとするのと一緒で。
「それで、どこ行く? ランチ食うか、先にどっか遊びに行くか?」
「それより重要なことがあるでしょ。どっちが運転するかよ」
緩くかぶりを振った夾竹桃は、これ見よがしに黒い兎やら白い猫やらのストラップが繋がったインパラの合鍵を手で揺らしてくる。
古き良きアメ車の荒ぶる魂を受け継いだ愛しの67年インパラの合鍵が動物天国とはね。
「あのな、夾竹桃。一応これ俺の車なんだけど‥‥‥」
「違う。昔はそうだった。でも今は『私たち』の67年シボレー・インパラ。そうでしょ?」
「そう言ったら感動して俺が譲ると思った? 俺を9歳の子供か何かと間違えてないか?」
「ストロー持っていく?」
「塗り絵の本も。人の車を我が物顔で乗り回すのなんてマグナム大尉とマクギャレット少佐、あとはお前くらいのもんだよ。それってつまり」
「つまり?」
「俺は無茶な相棒に振り回される側ってこと。元スパイでも刑事でもないけどな」
一見冷静なように見えてSEALDsのレジェンド二人に負けず劣らず馬鹿やるからね、この毒使いは。
お互い譲らず、どっちがハンドルを握るかの論争はもう埒が明かない。
こうなったときは、我が家のお決まりのルールに従う。
「分かった、あれで決めよう。例のアレで」
「そうね、先に聞くけど3回勝負?」
「いいや、1回だけ。シングル戦で」
広げた左手のパーに右手のグーを乗せる。
とんとん、と二度拳を打ち鳴らすと夾竹桃も同じ構図を取って拳を作る。至ってシンプルにジャンケンで勝負だ。
「‥‥‥しつこいようだけど負けたあとにマッチ戦だったって逃げ道はなしよ?」
「しないよ。潔く負けを認めて、唯一残った誇り高き道を進む」
「それって?」
「つまり自尽、切腹だ。好きなだけ運転もセトリも自由にどうぞ。ターンテーブルはお前に任せて、俺は助手席からドライブを楽しむ」
それなら、と夾竹桃は肩を揺らす。
夾竹桃の正面に立ち、俺は刀を鞘から抜くような息遣いで拳を掌で打ち鳴らす。
一度、二度、そして三度目の振り下ろしで手札をオープンーー夾竹桃の手はパー、ミスったな。見せてやるぜ、俺が信じた一手はーー
「残念だったな、夾竹桃」
「なんで喜んでるの‥‥‥?」
「グーの勝ちだから」
「‥‥‥ルールを書き換えるのは潔さとはかけ離れてると思うんだけど」
「知らないのか、石は紙を打ちやぶる」
「いつから?」
「ずっとそうだったさ。西部開拓前の東部のルールだな」
「はぁ‥‥‥言ってなさい。どんなゲームでもルールを守れないプレイヤーには恐ろしい罰ゲームが待ってるの。たとえばそれはあとになってやってくる後悔とか罪悪感とかね」
呆れた顔と嘆息をセットで挟み、夾竹桃は運転席へ正面突破。一応足掻いてみたがトークバトルではやっぱ一枚俺より上手らしい。
「石は紙を打ちやぶる、試してみたらいいじゃない。戦妹の磁気推進繊盾を拳で突き破れるかどうかね」
馬鹿、あれは紙じゃなくてコンクリをサイコロステーキみたいにスライスできる浮遊する刃物だ。血まみれになる。
しかし、罰ゲームってのはいくつになっても怖い。罪悪感も後悔も嫌いだからな。
おとなしく引き下がろうそうしましょう。
それと、悪趣味なカラーのヴェスパはいつから停まってたんだ?
「即興劇の練習終わった?」
助手席のドアに手をかける寸前、改造ヴェスパに跨った理子が体を前に突き出すような一見だらけてるようにも見えそうな姿勢で聞いてきた。
「あれが即興劇に見えるか?」
「じゃなかったらなに? 倦怠期の夫婦喧嘩?」
「‥‥‥久しぶり、理子。ただの挨拶だけってわけじゃないんだろ?」
久しぶり。
理子と顔を合わせて話すのは久しぶりだ。電話やメールのやり取りはしてたけど、こうやって顔を合わせて話すのはほんと‥‥‥3、4ヶ月振りだな。
「実はただの挨拶なんだよねー。まだキリくんにお帰りをメールでしか言ってなかったから、フェイスtoフェイスでお帰りを言おうと思って。朝から夾ちゃんと出かけるって聞いたからこうして立ち寄ったわけですよー」
と、自分もこれから出掛けるところって様子な峰理子さんは早々とエンジンをかける。
おいおい、まだ会って3分も経ってねえぞ?
「ーーお帰り、キリ。また会えてよかったよ」
鋭くも凛とした、裏理子の声色で言い残すと理子は去っていった。
長話も、回りくどい言葉もなし。本当にただ再会の挨拶だけを残していった。
正直、久々に会ったんだからもう少し話そうぜって気持ちはちょっとあった。けど、
生きていれば、どうせまた会えるから今日はこれだけでいいーー
小さくなっていく見慣れた背中は、不思議とそう言ってるような気がする。そういう女だから、俺の知ってる峰理子って女は。
子供っぽく見えて、実は誰より大人びてる。
「お待たせ。それで、どこ行く?」
「気の向くままに」
プランはない。
そう受け取れそうな返しのわりに、フード店でバーガーをテイクアウトした以外は迷うことなく一直線だった。
レジャー施設でもなんでもなく、インパラが停まったのは去年誰かさんが叩き落されたレインボーブリッジと東京湾が見える、海岸3丁目の一角。
「‥‥‥他に行くところなかったの?」
「お言葉だけどな、運転したいって聞かなかったのはどこの誰だよ」
仕方ない、制圧や潜入の作戦立案はできてもこういうプランを立てるのは俺もお前も得意じゃない。今回身に沁みた。
「せめて夜ならムードがあった」
「だな、夜景っぽくて」
もしもの話をしながら、ハンバーガーをインパラのボンネットを席にして並んで食べる。
ムード云々を持ち出すならそんなものはない、粉砕され玉砕されミキサーでズタズタだ。
「話題はないの? それっぽく、楽しい話題」
「俺の引き出しの薄さは知ってるだろ」
どうでもいい会話だ。
けど、どうでもいい会話ができるのは平和だって証なのかもな。モノレールは今日も動いて、呑気に鳥は空を飛んでる。
尊いことだと思うぞ、無駄話も。退屈に感じるまではな。
「鉄道ってのはいいよな」
「どうしたのいきなり。放浪の旅が恋しくなった?」
「仕事としてはってことだよ。歴史を感じつ、人を乗せたり、人に物を運んだり」
「転がる石に苔生ぜず」
「諺だろ、動いてないと苔に覆われるってやつ」
転がる石には苔が生えず、動かない石には苔が生えてそのまま覆われちまうって諺だ。
『アドレナリン』の映画と一緒、常に動いてないと毒が回ってそのままアウト。
「ちょっと違う。一箇所に落ち着かないものは何も築けない、だけど留まることでしっかり根が生える。そういう訓戒よ」
「苔に根なんかないだろ」
「家出が趣味のあなたには苦い諺かもね。それに、勘違いしてるようだけど。苔は、いいものよ?」
ああ、そりゃそうだろうよ。
植物とか、苔とか、毒への探求がライフワークのお前にはそりゃ贔屓される。
7月、もう7月か。
去年は何してたんだろう、去年の夏といえばカジノ。そしてパトラやカナがやってきた頃。かのシャーロックとキンジがやりあったのも夏だった。
そう思うと、月日が経つのは異常に早い。
「月日が経つのって早いよな。年々、1年過ぎるのが早く思える。あっという間だ」
「それには少しだけ同感。日は長く、年月は短い。今ある歓びを大切にしましょう」
「ああ。それはとても、素敵な言葉だね。1万ドルの価値のある答えだ」
コーラはおしまい。
ハンバーガーもこれにて完食。あとはお隣さんが食い終わるのを待つわけなんだが、
「空、晴れてるわね」
「‥‥‥何を当たり前のことを」
頭一つ分、柔らかな重みが膝にかかる。黒髪が広がり、とりあえず努めて意識しないように晴れてる空を仰いだ。
「夾竹桃先生、ちょっとよろしいですか?」
突如として自分の膝を枕にされた心境をどうたとえるべきだろうか。もういい、お好きにどうぞ、ターンテーブルは好きにぶん回せと言ってやった解答なんだろうか。
突拍子もなく膝の自由を奪われた俺は、とりあえず次の一言を待つことにした。
「低反発枕ならぬ高反発枕ね」
まさかケチをつけられるとは思わなかった。
本当の高反発枕ってのは、石の上に服を被せる最終手段のことを言うんだよ。ったく。
「人の膝にケチつけながら眠たそうな顔してんのはどこの誰だよ。大丈夫か?」
「‥‥‥少し眠るわ。膝貸りるから。少し経ったら起こしてちょうだい」
少しってどのくらい‥‥‥?
聞く暇もないまま瞼は閉じられ、浅い吐息と一緒に細く長い眉がゆっくり上下する。
とてもじゃねえが声をかけれる雰囲気じゃない。これが寝たフリだとしたらかなりの演技派だ。
いくらなんでも睡眠に入るのが早すぎだが、フグの毒を使って意図的に仮死状態にだってなれる女。好きなタイミングで眠りに陥ることくらい造作もないんだろ。
徹夜が得意なのも案外そこが絡んでるのかもな。毒と薬は紙一重って言うし、体調もある程度弄り回せるのかも。
‥‥‥ま、どうでもいいか。世の中には若く見てほしいって努力する女が溢れてんのに、この寝顔で24歳なんだから世は常にアンフェアだ。
「‥‥‥」
我ながら、奇天烈というか変な状況になった。
行場のない手を迷わせた挙句、左手は黒髪に飾られた造花のすぐ近くに、右手はとりあえず携帯を開いて逃がしておく。
お気に入りのF-14の待ち受けは、画面そのものがヒビでやられてよりにもよって両翼に亀裂ができたみたいになってる。
フィルム変えようと思って結局そのまま。覚えてるうちにまた貼り直そう、どうせまたダメになりそうだが。
「‥‥‥眠れない」
「おはよう。たぶん、まだ5分も経ってねえぞ」
「高反発枕のせいで眠れないんだもの。だから眠くなるまで話しをしましょう。折角だし」
「それなら付き合う」
なんかすごい構図だけどな。
周りはなにかのまじないがかかってるみたいに人気もないし、まるで本土の田舎町レベルで人気が無い。
ふと、気怠げに上がった夾竹桃の手が黒髪に挿した造花に触れる。そういや、夾竹桃が借りてるあのお高いホテルにもしばらく行けてない。
また見たことのない観葉植物が増えてそうだけど。
「遅れたけど今日はやけに飾ってて驚いた。さっきの訂正しとくよ、カーディガンすごく似合ってる」
「‥‥‥本気で言ってる?」
「なんだよ、疑うのか?」
「思い出したの。あなたの香水と虫よけスプレーのエピソードをね」
「‥‥‥あれか。ご機嫌取りに香水を褒めたら『これ虫よけスプレーよ?』って一蹴された話だ」
「ご機嫌取りって黙ってサラダにピスタチオでも入れちゃった?」
「覚えてない。ていうか、世の中にはねもっと大切なことがたくさんあるんだから忘れろ忘れろ、そんなどうでもいいエピソード」
黙ってサラダにピスタチオ入れたり、ピザにパイナップル乗せるのはたしかに犯罪だけどな。唐揚げに勝手にレモンをかけるのなんてダンチの重罪だ。
「夜、なに食べに行く?」
「あなたの予算によりけり」
「分かった。財布の中身四千円、そのうち二千円を寄付する」
「スーフォールズで食べたときも同じこと言ってたわよ。全財産4ドル、2ドルを寄付するって」
小さく笑った夾竹桃に、俺もああそうだったかもってかぶりを振る。
ーーそういや、あれ‥‥‥まだキンジに返してなかったんだな‥‥‥
「訂正する。財布の中身四千円と‥‥‥キンジから預かってる『レッドアイズ・ブラックドラゴン』のレリーフ1枚」
「れ、レッドアイズ‥‥‥?」
「そ、レッドアイズ。キンジがジャンヌと欧州の応援に行くときに預かってーーまさか、退学になっちまうとはな。いいや、今度ちゃんと返しとこう。本土から戻れてよかった」
「‥‥‥ダメ、睡魔が醒めた」
「やっぱちゃんと部屋に帰って寝ろってことかもな」
膝が軽くなり、手持ち無沙汰に開いたままだった携帯もここまで。ボンネットから立ち上がって軽く体を伸ばし、携帯もズボンのポケットに投げ込む。
「行くか。食べに行くには早いし、どっか寄り道して」
「じゃあ、服でも買いに行きましょう。あなたの服」
「俺の?」
「言っておくけど、どれでもいいはなしよ? よく分からないアルファベットが並んでるだけの白黒のシャツもなし。ちゃんとした服でディナーでも行きましょう、生きて会えたお祝いに」
「ならATM寄ってくれ、ちゃんとお金も下ろしてく」
「魔法のクレジットカードは?」
「魔法のクレジットカード? 打ち切りの決まったドラマのタイトルか?」
傷口を引き裂くブラックジョークをどうも。
ああ、でもこれが命をかけて戦ったご褒美ならそこそこ、満足できるかもな。そこそこ。
この時間が、ミカエルを追い払ったことへのギフトだっていうなら、価値はあったとそう思える。
「結局さ、何食べに行く?」
「菜食カフェ」
「‥‥‥今度も運転代わってやるからそれだけはやめてくれ。野菜、サラダ、もう飽きた」