哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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イヴの血脈

 

 

「ちょっと待て。ナイアガラは彼氏募集の独身のイケメンが集まる? ありえないだろ、何の根拠があるんだ?」

 

「お前が思ってるより真実かもしれないよ。この男の素性、見当はついたね」

 

「へぇ、映画はまだ始まったばかりなのにロカ先生はもう推理できちゃったわけ? お得意の超能力は画面の中にも届くのか?」

 

「コードネームや特殊作戦を好む男はみんな同じ。決まって元軍人、Tier1の凄腕。SEALs、デルタ、色々あるけど彼のキャラクターは毛色が違う感じ──クセが強い。タスク・フォースオレンジあたり?」

 

 道路を走るシボレー・インパラ。

 ハンドルを握る俺の隣、タブレットで映画を満喫中のロカお嬢様はいつもの勝ち気な口ぶりだ。

 アメリカ国内外問わずお洒落には妥協のないロカお嬢様は、今日も薄手のお嬢様ワンピで艷やかな銀髪と宝石顔負けの幻想的な双眸を惹きたててる。

  

 絵本から飛び出てたような見た目しといて、実際はKGBに遣わされるレベルの暗殺者なんだからタチが悪い。

 リリスもそうだったが、相手が幼い少女だからって懐に刃を潜ませていないとは限らない。まさに相手の容姿や見た目で判断するなの究極形だな。

 

 

「それで、さっきの話だがサード御一行は仮住まいに六本木ヒルズ・レジデンスを抑えたって?」

 

「いいところだよ、夜景も見えて」

 

「仮住まいに六本木かよ。これもジーサードやコリンズの手腕か、貧乏モーテルを拠点に四苦八苦やってたのが泣けてくるぜ‥‥‥」

 

「気をつけなよ。傲慢な男のエゴは弱点、火に入る虫だから」

 

「ご忠告どうも。見た目のことで兄弟で張り合うなって意見には同感だ、エゴが傷つくだけだからな。でもな、ロカ。生憎と俺は『傲慢じゃない』」

 

「やけにハッキリ言うじゃん」

 

「七つの大罪の『傲慢』の悪魔を仕留めたからな、お友達の六体も一緒に」

 

「‥‥‥ハンターのジョークって心臓に悪いよね」

 

 お馬鹿、心を読める超能力者相手にジョークも何もないだろ。

 ま、正確には傲慢の悪魔を仕留めたのは懐かしいブロンド髪のルビーなんだけどな。

 

 

 仮住まいの部屋に模様替えを済ませていたらしいロカから連絡があったのがちょうど1時間ほど前。キンジがいなくなって閑散としちまった部屋で一人ベッドに寝転がってるときに知らせがやってきた。

 

 近頃は切っても切れない仲になってきた同郷のジーサード・リーグからのお呼び出し。

 断るだけの理由もない俺は、老舗の時計店に足を運んでいたロカを途中で回収する役目もついでに請け負い、Babyを仮住まいのヒルズまで走らせた。

 

 

 自動ドアを潜ると、そこは涼しいエントランスホールだった。当たり前だがエントランスは息を呑みたくなるほどだだっ広い。 

 高級ホテルや豪華絢爛な住まいには、未だに異教の神たちの集会のことを警戒心を持っちまう。隣の部屋のカップルがスープにされるホテルなんざ、ニューヨーク・コンチネンタル以上にワケありだ。今でも嫌な記憶としてこびり付いてる。

 

 

 

「キリ、ついてきて」

 

 前を歩いて先導してくれるロカを追いかけ、木壁のエレベーターは32階で止まった。

 ここか、ジーサード御一行の仮住まいは──ご丁寧に物騒な門番も控えてやがる。挨拶しとくか、とロカを追い抜くように歩き、鞘から抜かれた刃のような鋭利な気配を垂れ流しにしてる門番に俺は目を配ると、

 

「ウィンチェスター、また生きて会えたか」

 

 冷たく、淡々とした声色ながらも頬に弾痕を刻んだガタイのいいロシア人──キースは無表情ながらも視線を合わせてくれた。

 彼も過去にジーサードの暗殺を請け負って派手にやり合ったKGBの凄腕。現在はジーサードが抱えてる有能な部下の一人。その台詞、数ヶ月サイクルで誰かに言われてる気がするよ。

 

「会えて嬉しいよ、キース。お勤めご苦労さま」

 

 短いながら再会の挨拶ができる程度には信用してもらえる仲にはなったってことか。最初は警戒心の塊みたいな男だった、ここまで来たら上々だ。 

 

「誰を怒らせた?」

 

「大勢いる。お決まりのパターンさ。一つ片付けたらまた次の厄介事がやってくる、まるでヒュドラみたいに頭が次から次に生え変わって──」

 

「やがてお前の弾は尽きる」

 

 物騒なこと言いやがる。

 だが、そのとおりかもな。いつかは弾が尽きて食い殺されるときが来るかもしれない。けどだからってヒュドラの頭から何もせず逃げ切れるかと言われたら別だ、逃げ切れやしない。

 

 研がれた刃物のように淀みなく、真っ直ぐこっちを射抜いてくるキースの視線に俺は苦笑いでかぶりを振った。

 

「弾が尽きるまで撃ち続けるよ。何もせず丸呑みされるよりはずっといい」

 

「そうやって弾切れになるまであんたは言い続けるんだよね──“ お次はなんだ? “ってさ」

 

 知ってる、そう言いたげな顔で見上げてくる左右非対称の瞳は、目を奪われるって言葉を体現して綺麗だった。

 なんつーか、いまのは一本取られた気持ちだよロカ。一瞬頭のなかをよぎりそうになった悲観的な考えが見事に台無しになった。

 

「実はお前ってすごくいい子なのかもな」

 

「バカじゃないの、今頃気づいた?」

 

 咄嗟に絞り出した返しは我ながら酷いもんだが、ロカの返しも大概だ。

 ああ、楽しくやれそうだ。これからもな。

 

 

 

「雪平さま、ご無沙汰しております。再会を心待ちにしておりました」

 

「それはこっちの台詞。俺の方こそ、また会えて嬉しい」

 

 室内に入ると、まずはジーサードの執事とも言うべきチームの屋台骨ことアンガスが三つ揃いのスーツ姿で丁寧に俺とロカを出迎えてくれた。

 主人であるジーサードと血縁のあるキンジはまだしも、俺がまだ客人扱いってのがまだ慣れない。

 

 恒例の苦笑いで応えながら俺は忘れないうちに持ってきたバッグを開く。お土産お土産、っと。

 

「何してんの、財布でも忘れた?」

 

「お土産さ。本土から帰る前に渡せたら良かったんだけどドタバタしてたからな、お互いに。アンガスが鉄道好きって聞いたから持ってきたんだけど‥‥‥俺の記憶が正しかったらレア物だったはず」

 

「レア物?」

 

「本土にいたときのクラスメイトが鉄道好きでさ。やたら力説してたから覚えてたんだ、あった!」

 

 首を傾げていたロカと、動向を見守るように見ていたアンガスの視線が俺の手の一点に集まる。

 かの平賀さんなら21世紀の科学の結晶ドラえもんのそんなに似てないモノマネを自信満々に披露してくれそうな場面。

 

 端的に言うなら、それは鉄道列車の模型だ。所謂レールに乗せればちゃんと運行できて、走らせることのできる列車。名前は確か──

 

「そ、それは‥‥‥HOスケール262ープレーリータンクではありませんか!」

 

 俺が答えの引き出しを探り当てるより先にアンガスが解答をくれる。どうやらレア物ってのは間違ってなかったらしく、アンガスはネバダでトランザムを目にしたときのように熱の入った様子で──とにかく喜んでもらえてよかった。

 

「ホント、幅が広いよね」

 

「広くないよ、昔の話を覚えてただけ。サンタに頼んでもいつも代わりにトーマスが贈られてくるってボヤいてた」

 

「嫌いなの?」

 

「そこは好みの問題。ちなみに俺はトーマスは嫌いじゃないから、特にトーマスって名前がいい」

 

「汽車なのに顔があるって変じゃない?」

 

「極端だぞお嬢様。そこがいいってファンもいる」

 

 

 ようは好みの問題だな。

 無事にお土産を渡し、大きな広間を越えてまた広間を跨いで、お高そうなベルベル人の絨毯を踏んだそこにはいたのはコリンズ、アトラスのお馴染みのメンバーに‥‥‥お、マッシュがいるとは珍しいな。 

 

 運の要素が強すぎるババ抜きに文句を垂れていたところを俺とロカに気付いてマッシュがわざとらしく座ったまま肩を竦めた。

 

「おや、これは驚きだ。ゾンビにしては顔色がいいじゃないか。いい化粧品でも見つけたかい」

 

「スナック菓子を控えてた、グルテンフリーだ。お前もやってみろ、オススメだぞ?」

 

「キリくんじゃないかッ。おお、これは豪快に嬉しい再会だね!」

 

「少尉、お元気そうで何よりです。コリンズも、Hoo-yah」

 

「Hoo-yah。そっちも元気そうね」

 

 

 豪快に白い歯を見せて、輝く笑顔で出迎えてくれたアトラスとコリンズはもう見知った顔だが、ネバダの米軍基地で派手にやり合ったポテチ大好きマッシュも、仲良くトランプやる程度にはジーサード御一行にすっかり馴染んでるみたいだ。

 トランザムでサイクロンを乗り切ったあと、身内から裏切りを貰ったマッシュはLOOを引き連れてジーサード一味に鞍替えした。能力がある人間は人種、宗教、出世を問わないのがジーサードだからな。

 

 ゆえに敵に回すと厄介この上ない。KGBやら元特殊部隊やら腕利きが揃ってる上に資金も豊富。超能力戦まで専門家がいるんだから抜け目ない。

 

 久々に訪ねてもまるで当たり前のように居心地のいい帰宅ムードで出迎えてくれのは、嬉しいもんだな。

 が、いつまでもゆるゆるモードじゃいられない。挨拶だけに来たわけじゃない。俺が誘いを受けたのには別の理由がある。

 

 ──初めて見るであろう俺の存在を意に介さずソイツはボウルに入れられた生のササミにさっきから夢中でありついてる‥‥‥

 ‥‥‥参ったなァ。

 親父の手帳にもこんなのは載ってなかった。

 

 

「キュイキュイ」

 

「キンジめ、また変なのを連れ込んだな‥‥‥」

 

「その反応、あんたでも初めて見るの?」

 

「初めてだ、こっち系のテーマパークだった煉獄でだって見たことがない」

 

 本気で驚いたようなロカの反応に、俺は神妙な顔でソレと目線を初めて合わせた。腕の代わりのような大きな翼を揺らし、キュッキュッと短く鳴きながら初めて目にする俺を軽く威嚇してくる。

 

 距離を取ったまま見聞すれば、まず目に入るのは腕の代わりのような巨大な翼。鷲を思わせるそれは、滑空を目的としたヒルダの翼とはまた違い、完全に空を飛ぶための翼といった感じだ。

 臀部に尾羽、頭の側面にも小さな翼があり、オレンジ色の髪はともかく、赤く鋭い眼光は獰猛な猛禽類に近いものを感じさせる。

 

 名付けたのはキンジらしいが、俺や理子だったとしても同じ名前を付けただろうよ。童話や創作に伝わってるイメージとあまりに嵌ってる。

 

 

()()()()‥‥‥‥か。ドラゴンもセイレーンも人間と大差ない見た目だってのにこっちは完全に人間離れしてやがる。映画に出てくるイメージそのまんまだ」

 

「分身はしないみたいだけど」

 

「ペットのドラゴンが復讐しに来ないことを祈る」

 

 このハーピーについては来る前に色々と話を聞かされた。

 どうやら俺が本土で留守にしてるときに襲いかかってきたモンスターで、肩に巻かれてる包帯は中空知が大口径でぶち抜いた傷らしい。

 

 ‥‥‥初めて聞いた時は耳を疑ったぜ。

 中空知、支援だけじゃなくて現場もイケる女だったんだな。武偵の仕事から離れ、キンジと共同経営だった会社を引き継いで立派に切り盛りしてるって話をワトソンがしてくれた。

 

 中空知‥‥‥新しい門出を祝う一方で、もう君と一緒に仕事することがないと思うと少し淋しいよ。俺はあんまり祈ったりはしないけど、今回は明日も君にいい1日が待ってることを祈ってる。

 

 

「ササミを夢中に貪ってるってことは生態は猛禽類に近いのかもな」

 

「アトラスのチキンブリトーを横取りしてから妙に懐き始めたんだよ。いまでは立派な餌やり係」

 

「なるほど、チキンブリトーは世界を救う」

 

 翼の先端で器用にトランプを持ち、ババ抜きに参加するハーピーは‥‥‥どうにもこっちの言葉をちゃんと理解してるような感じだ。コミニケーションは成立してる、それだけ知能も高いってことか。

 

 

 ロカと少し離れてしばらくハーピーの様子を眺めたあと俺はようやくコールをかけてきた本人‥‥‥ジーサードと久しぶりに顔を合わせた。

 言うまでもなく、今日も方向性を模索中のロックバンドみたいな服してる。

 

「悪ィな、聖戦が終わってまだ間もないってのに呼び出してよォ」

 

「最後の聖戦? インディ・ジョーンズなら俺は魔宮の伝説が一番好きだ」

 

「映画の批評で呼び出したわけじゃねェよ。大天使とやりあったんだろ? お前のなかじゃいつも通りの対戦カードでも俺たちからすりゃ聖戦なのさ。神の近親とやり合うんだ、これ以上相応しい言葉はねェ」

 

「安眠を奪うタイプの言葉か。聞きたくない言葉のリストに入れとく」

 

 お高そうなソファーに腰掛けてトマトを齧るジーサードは、フッとキンジにそっくりな顔で口角を歪ませた。

 

「本題に入る前に聞かせろよ。御伽噺のコルトも効かねえようなモンスターをどうやって仕留めた?」

 

「‥‥‥今回も複雑でね。話せば長い」

 

「じゃ、要点だけでいいよ。私もサードもあんたがバカやってないか気になってるだけだから」

  

 ロカ、バカなことやらずに勝てる相手だったら苦労しねえよ。五体満足で生き残れたって少し前の俺が聞いたらきっと目を見開いてる。

 ルシファーとの因縁をやっと振り払えたと思った矢先にミカエルとの連戦だったからな。思い出すだけでもゾッとする。

 

 早く話せと言わんばかりのサードとロカ、社長と秘書の板挟みにされてるような空気感にやがて俺は根負けし、チェリーコーラーを持ってきてくれたツクモとも再会を喜んだあと結局色々端折って話すことになった。

 

「海兵隊ってお洒落なコーヒー飲まないんだっけ?」

 

「人によりけりだ。崇めるのもいれば、泥水って吐き捨てるのもいる。親父はスキットルとアルコールの方に御熱だったけど」

 

 サードの人命救助やテロリスト、麻薬組織の鎮圧の話と違って、ウチの戦いはいつも宗教色が強すぎてセントラルパークのお嬢ちゃんお坊ちゃんへの土産話にはとても使えないってのによ。

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥つまり、こういうこと? 異世界からやってきた大天使ミカエルがあなたの兄に取り憑く、それをやっつける為にあなたは地獄まで行って檻に投獄されてる──」

 

「──ミカエルに協力してもらう為に出向いた、こっちの世界にいるミカエルね? 異世界産のより邪悪さを薄めて堅物具合を増した感じ」

 

 半信半疑のロカに被せる形で、俺は馬鹿げた話に補足を付け足した。

 

「スタール墓地で俺が檻に突き落とした相手だから仲はあんまり良くなかったけど、なんとか利害関係を取り付けて引き入れた。相手はS級のモンスター、対抗できる力を探そうにも残った大天使はミカエルしかいなかった」

 

「‥‥‥ようはまた化物を倒すために自分の頭んなかに化物を招き入れたわけだ。Crazyな頭してやがる‥‥‥他のプランはなかったのかよ」

 

「最悪だよな」

 

「分かっててやるなら仕方ねェな」

 

 ああ。選択肢がないからバカをやるしかない、ゾッとする理屈だぜ。

 

「ミカエルの器になるにはそもそも資格がいる、彼の依代はカインの血があって初めて成立するもの。でもミカエルを入れたのにお前はなんともないって普段通りに動いてる‥‥‥人間があんなのを入れて耐えられるわけない‥‥‥そんなのありえないよ。ねっ、本当に雪平だよね‥‥‥?」

 

「俺がゾンビに見えるか? ‥‥‥ツクモ、おまえすっげえ顔してるぞ? あ、こら‥‥‥ぺちぺちすんじゃない、玉藻さまと同じことしやがって‥‥‥!」

 

 ぺちぺちと、いつかの玉藻みたいに小っちゃい手で俺の額やら頬やらを叩いてくるツクモ。

 ちょっ、お前‥‥‥っ! ぺちぺちすんじゃない、もう油揚げをやんないぞ!

 

「俺は正常だよ、お前の顔もちゃんと見えてる。この、国宝級のおでことちゃちな耳っ!」

 

「ルシファーとかガブリエルとか、天使を入れすぎて体がどうにかなっちゃったんじゃない?」

 

「それがベストな推測かもな‥‥‥っ! いいよなんでも。俺はこうやって生きてる、無知は気楽だ」

 

 ベストな推測とは言ったがなかなか容赦ない推測をしてくれるロカは、絵に描いたような呆れ顔だ。 

 ほら、落ち着けツクモ。

 サードさまの隣にでも行ってろ。え、なに、その不満そうな顔はなに?

  

「どうした、なんか言いたいことあるって顔だ」

 

「何でもないって顔してるから。予想はつくよ。勝ちはしたけど犠牲を払ってなんとか勝った、それを悔やんでる。ね、雪平? 時には全員を救えないこともある、それでも全力を尽くすしかない」

 

 さっきまで俺の頬を叩いていた妖狐は、まるで別人のように大人びた顔と声色で言葉を連ねていく。

 い、いきなり真面目になりやがって‥‥‥

 

「お前の人生が他人より難しい選択の連続だったとしても、非常時に取った行動をあとから理屈で責めちゃダメだよ。お前はいつもできることを全力でやってるし、自分の血を垂れ流して他の誰かの平和の為に尽くしてる。自分で思ってるより上等な人間だよ、お前って。なによりサードさまが認めた男なんだから、自信持ちなよ?」

 

 

 思わず聞き入っちまったが、最後に大好きなジーサードを持ってくるのはすごくツクモらしい。

 ジーサードもツクモの発言に‥‥‥あらま、見ろよあの自慢げな顔を。俺様の部下はすげえだろ、とか言いたげな顔だ。

 

「楽観的すぎると痛い目をみるが、悲観的すぎても前には進めねェ。傷跡を忘れる必要はねェんだ。抱えたまま前に進めばいい」

 

「リーダーらしいお言葉で。努力しよう」

 

「お前ならできるさ。海兵隊の教えをちゃんと受けてんだろ? ()()()()()()()

 

  

 ‥‥‥ったく。

 コリンズやアトラスの気持ちも分かる。こんなこと言われたらキャリアも立場も全部投げ出してでもついていきたくなるよな、金一さんやキンジの持ってるカリスマは──立派にこの男にも引き継がれてるってわけだ。

 

 ふざけてるときと、おふざけを抜きにしたときの落差がツクモもサードもロカも大きすぎる。

 

「‥‥‥笑えねぇ、カウンセリングに来た気分だ。じゃ、そろそろ俺にも仕事させてくれ。タダでコーラを貰ったんじゃ気持ちが落ち着かない。呼んだのはあのハーピーのことだな?」

 

 いい縁に恵まれたことを感謝し、話を切り替える。というよりはやっと本題を持ち上げれる。ロカが続くように、新たな会話の口火を切った。

 

「うん、あたしとツクモで色々調べてみたんだけどモンスター退治の専門家の意見も聞きたくてね」

 

 モンスター退治の専門家ね‥‥‥そりゃまた嬉しい称号ですこと。

 

「ハーピーから魔力は出てないけど、飼い主や生育環境から高濃度の魔力を被曝し続けてたみたい。DNAは9割ぐらい人間と同じだけど、残りは鳥にも動物にも類型ナシって結果だった」

 

「系統樹をどこまで遡って調べればいいのかも分かりません。かなり独特な進化を遂げた生き物です」

 

 サードに向け、神妙な面持ちでツクモは答える。

 9割は人間、しかし残りはどの系統にもあてはまらないってのが不気味だ。超能力関連ではまさに腕利きのツクモとロカが揃っても完全には暴けてないってのが拍車をかけてる。

 

 腕を組み、やがてツクモと結んでいたサードの視線が行先を俺へ変えた。

 

「お前ならどっかでエンカウントしてるかと思ったんだがなァ」

 

「ツクモがもう話してると思うが、鳥に似た魔物や怪物の目撃例自体は世界中の至る所にある。たとえば日本なら姑獲鳥だが‥‥‥‥ジーサード、あのハーピーは‥‥‥ただの獣人や化生の類じゃない。かなり特殊だ、かなりな」

 

 一目あのハーピーを見たとき、初めて見たその瞬間脳裏に違和感が浮き出た。これまで腐る程怪異の類を見てきたが、あれはかなり‥‥‥特殊だ。 

 2回、繰り返して念押ししだけにジーサードの視線が食いついた。

 

「いいぜ、話せ」

 

「系統樹の話はさっきも出たが、すべての怪物は元を辿ればイヴ──マザーから産み落とされた子供だ。あの女自体は煉獄に閉ざされて隔離中だがヤツの子供はこの世界の至る所にいて脈々とその血は受け継がれてる」

 

「‥‥‥イヴ。すべての怪物の原点、煉獄でリヴァイアサンと一緒に閉ざされてるんだよね?」

 

「嬉しくないことに俺はあの女とウィンチェスターのなかで一番縁がある。だからあくまで感覚だがあのハーピーからは、どうにもイヴの気配を感じない‥‥‥どんな怪異からも感じられたあの女の気配が、あのハーピーからは感じないんだ。むしろ別の()()()‥‥‥これまで狩りをしてきた怪物たちとは毛色の違う()()()を感じる」

 

 そっちの方面にはやはり詳しく首を控えめに揺らしたツクモに対し、俺もやや苦々しい顔で答える。

 勘や推測の域をでない、経験から組み立てただけのぐらぐらな結論だ。但し、脇に置いて素通りしていくにはあまりに後味の悪さが残る。

 

 けど、だとしたらおかしな話さ。

 あのハーピーはどうやって生まれ、どこで生まれたのか。出口の消された、答えの見つからない迷宮に放り込まれた気がする。

 

 

 

  






残りのレクテイアの神と原作次第ですが現状はリービアーザン前後には完結予定で舵取ります。
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