キンジとかなでが米軍に拉致られた──ジーサードにそう告げられたのは、ジャンヌとの愉快な一夜が明けてからすぐのことだった。
突如現れた黒のマセラティ・グランカブリオ。癖のあるエンジンサウンドが心を震わせてくれるジーサードの愛車に、俺は半ば強引に乗せられ米軍への乗り込みに加担させられた。
ようするに頼みごとがお見えになったってことだ。
前置きもなく黒塗りの高級車がいきなり目の前に走ってくるんだ。軽い恐怖だぜ。
黒塗りの目立つに目立つ高級車は、現在キンジとかなでが運ばれているとされる在日米軍の高尾基地へ進路を取っている。
(黒塗りのマセラティで米軍基地に突撃か、赤いフェラーリで容疑者を尾行するくらい奇天烈だ)
だが、それ以上に無視できないツッコミどころが一つある。
灯りとして使っている顔面の明るさをマックスにした携帯から、ボスの声が流れてきた。
『米軍は世界一しつけぇ。機を見て仕掛けてくるとは思っちゃいたが、早かったなァ』
『‥‥‥総司令。もう何言っても遅いけど一応言わせてくれ。キャンプついた途端銃撃戦になってトランクが棺になるのだけは勘弁だぜ? ったく、最初から拾うつもりならもう1台用意しろって。なんで俺のシートがトランクなんだよ‥‥‥!』
『我慢してよ。ウィンチェスターだってインパラのトランクに悪魔を閉じ込めたのは一度や二度じゃないんでしょ?』
『ウチはそういう仕事なんだよッ!』
ハンズフリーにした携帯から聞こえてくるのは運転席の総司令ジーサード、そして助手席を陣取っているツクモ。
後部にはネバダ基地でやりあったジーサードの同期であるマッシュと米軍の科学の結晶──LOOが同乗してる。
その一方で俺が寝転んでいるのは、あろうことか走行するマセラティのトランク。
これは座席の都合上、とどのつまり乗れる場所がないからに他ないがもちろん違法だ。トランクは積み荷を運ぶ場所で人を乗せる場所じゃない。
とは言うものの、かなめも大型アメリカンバイクに横からしがみついて箱乗りするくらいアウトロー。
UH─60で最低安全高度をガン無視してる前科もあるし、ジーサードのやり口が多少ジャック・リーチャーみたいなダーティでも驚かないよ。まさかトランクに押し込まれて米軍に殴り込みに行くとは思ってなかったけど。
シートベルトなんてものはもちろんないが一年のときに武藤と抑えたショックもサスペンションもイカれた改造車に比べたら快適も快適だ。無茶な運転でもないしな。
前にいるジーサードたちに肉声が届くわけもないので会話もツクモの携帯を通して即興で繋いでる。
そもそもこの面子自体が、すぐに動けるメンバーを掻き集めた即興の殴り込みだが。
『どうやって二人の場所を割ったか聞いても?』
『ガムだよ。ガムに偽装してる発信機、スイッチを入れたら位置情報が送られるようになってる。援軍が行けるように』
『ガムを噛むフリしてバットシグナル、実に結構。俺たちが
ツクモの言うガム発信機、是非とも俺も一つ欲しいところだがそれはさておいて。少し整理するか。米軍の狙いは十中八九でかなでの奪還、そしてかなでをキーとする秘密作戦の遂行。
かなでは最近キンジの口添えで学校に通ってるって話だったから今回はその帰りを狙われたんだろう、白昼堂々と衆人の目があるなかでコンタクト──卑しい戦法だが相手がキンジなら奇襲をかけるよりずっと利口だ。
なんたってキンジは人間辞めてます番付けのSDAランク71位、アジアで71番目に危険な男。生身でプレデターとも戦えそうな化物だ、ちゃちな奇襲でなんとかなるレベルを振り切ってる。
『このまま行きゃ着くのはほぼ同時だ。入るには入れるが俺の顔が及ぶのはそこまでだ。話し合いのテーブルに同席できるかどうか、できたところで話がどう転ぶかは場に委ねるしかねェ』
『顔パスできるだけで十分だよ、とりあえず門前払いは避けられるんだからな。インテリ担当、気になってたんだがかなでを追いかけてきた何とかシリーズってのは? 消化器にぶん殴られたってヤツだ』
『Zシリーズ。13、14歳という外見の報告からして中期試作時代の第2世代人工天才だな。分かるように説明してやろう、はっきり言って朗報だ。最新の第2世代は手をつけられないモンスターだが中期試作時代となれば無慈悲な対戦カードと呼ぶほどでもないからね。話し合いのテーブルから仮に戦闘のフェイズに移ったとしてもやりようはある、ババ抜きよりよっぽどフェアだ』
珍しく力の入った声で解説してくれたインテリ担当マッシュ。ババ抜きでの負けがよっぽど悔しかったらしい。その不満が活力になることを祈るよ。
先端科学兵装と最先端科学兵装の関係が表してるように科学ってのは、アマラや大天使みたいか古いものほど強力な超自然サイドとは逆に新しいものほど
この手のことでは嘘を言わないジーサードも最先端科学兵装は先端科学兵装を超えるモンスターと過去にはっきり明言してる。
同様に、第2世代人工天才も第1世代で蓄えたデータを糧にして運用された計画。これもルールの外ってわけじゃないだろう。
ましてや米軍が作戦の重要人物であるかなでのお目付け役に置いた人材だ。それなりの荒事にも対応できる人選なのは間違いない。
だがマッシュの言う通り、やりようはある。
旧式のF14で第5世代戦闘機を落とすようなパイロットもいる、数値やステータスの優劣だけで勝利が約束されるようなもんでもない。ま、本音としては、
『できれば銃もナイフも縁のない話し合いになってほしいね』
誰に届かせるわけでもなく、トランクのなかでぼやく。
それが希望的観測なのも分かってる。
でも乗り込むのは米軍のお膝元、やるとなったらきっと派手になる。なんせ遠山兄弟が揃い踏みなんだからな。
『しかし、どんな真意があるにしてもアジアで71番目にやばい男に手を出すとはね。米軍のしつこさはたしかに世界一かもな』
『ワンヘダ、SDAランクのことを言ってるならその情報はもう古い』
『兄貴のSDAランクは41位。お前の理屈でいけば兄貴はアジアで41番目にやばい男だ。ま、それを分かってて米軍も動いてんだろうよォ』
『‥‥‥』
いっ、一石のランクを‥‥‥僅差どころか飛び越えて引き離しやがった‥‥‥10代で41位かよ。
ハハ‥‥‥20歳越えたらベスト10入りするんじゃねえか?
◇
キンジとかなでが拉致られたとされる高尾基地は西東京の山奥にある。
日本に置かれてる米軍の施設のなかでも敷地面積は5万㎡──下から数えた方が早い。マッシュの口振りからすると置かれてる兵も少数だ。
ペンドルトン基地に突撃するよりマシ──かなめのなんとも言えない励ましも一応間違いじゃないのかも。五十歩百歩ってところだが。
道中話していた通り、トランクがようやく開けばそこは基地の駐車スペース。東京ドームよりやや広い基地の真っ只中。顔の広いジーサードにあやかって無事入り込めたらしい。
トランクから出ようとした矢先、真っ先に顔を突き合わせたツクモはなぜか怪訝な顔して首を捻った。察するに失礼なことを言う前触れ。
「なんだっけこれ、ミミック?」
「バカなこと言ってると今度からお土産に油揚げ買わねえぞ」
防弾制服の中に潜ませたルビーのナイフ、天使の剣のセットを一通り確認してから少しぶりにツクモ、マッシュ、LOOのジーサードが即興で組んだメンバーと対面。
とりあえずトランクがそのまま棺桶になる心配はなくなった、朗報だ。高級車でもさすがにそれは嬉しくないからな。
「おう、兄貴だ。かなでも無事だなァ」
キンジとかなでを見つけたジーサードが我先にと歩きだし、次にツクモが、残る俺たちも周りの海兵隊に眼を向けられるなかその背に続く。
俺たちに気付くと、キンジは小さく笑みを、かなでは少し驚いたように目を大きくしてる。
見たところ二人とも外傷はなし、かなでは当たり前としてキンジも丁重にお招きされたわけだ。
そう。周囲の海兵隊とは別に一人、黒いプリーツスカートと太腿を隠す白いニーソ、両手にも嵌めた白い手袋でやたら肌の露出を避けた格好のせいで目立って仕方ない。
報告にあった13、14歳前後の顔つきからもこの子が例のZセカンドだな。不愉快そうにその眼はジーサードとマッシュを順番に捉えた。
「フン。ジーサード、アルサードも一緒か」
その声色からは嫌悪感と、同時に格下を相手に見るような軽さと侮蔑が備わってる。尋問科で何度か見てる、どれも自分のほうが優位だと疑わないときに含まれる高圧的な色だ。
「──失敗作どもめ。だが、来てしまったものは仕方ない。フィフス様との対話のテーブルに、同席を許してやる。もちろんそのまま帰ると言うなら止めもしない。ディラーズチョイスだ、どうする?」
そして声からも表情からも緊張や不安はない。この状況はある程度予想していた運びってことか。
敵意や殺気剝き出しのファーストコンタクトは武偵にとってお約束みたいなもんだが、
「おうおう、こそこそやってたのをまんまと嗅ぎつけられたってのに偉そうに言いやがる。お前がZセカンドか。暑苦しいカッコしてやがんなァ。頭ン方も硬そうだぜ」
「聞こえたぞZセカンド。さっきボクを失敗作と呼んだな? 知ってるぞ、護衛対象に消化器で殴られて逃げられたそうじゃないか。ボクがハックした資料ではキミこそ失敗作のような書かれ方をしていたぞ?」
高圧的なZセカンドに対し、こっちも負けてない。
ジーサードもマッシュも女だろうが関係なしの一歩も退かない罵詈雑言。おまけにサードの後ろからは耳を逆立ててツクモが威嚇するしてるし、LOOも無表情なりに上半身を左に傾けて下から見上げるようにガラの悪いご挨拶。
完全に悪役寄りのその風景にキンジも顔を引き攣らせてる。一応援軍ってことで声には出さないが『ガラ悪ッ』って顔がそう言ってる。
なんだよツクモ‥‥‥引っ張るなって。俺はやらないからな‥‥‥敵意も威嚇も四人分で十分だ。対話のテーブルには相席させてくれるって言ってくれるし。
「ちがう、私は試作の成功例だ。人間兵器シリーズは夥しい失敗例──その犠牲のもと、完成度が上がっているのだ。ジーサード、アルサード、お前たちのような失敗例と──」
「た、立ち話もアレだろ! せっかく連れて来られてやったんだから、俺たちを客間にでも上げろ。どう答えるかはともかく、話し合いはしてやるから」
正直終わりの見えなそうないがみ合いについに耐えきれなくなったキンジが言葉を遮り、水を差した。
ありがたい、このままいがみ合いを見せられてんのは俺もごめんだ。世代の違う人工天才、俺たちには理解することのできない因縁や思いがあるのは察するところだが今は別に目的がある。
「主催者さんよ、顔合わせは終わったんだ。話し合いをするなら先に進めてくれねぇか? ここの海兵隊含め、あんたも暇な軍隊ってわけじゃねえんだろ?」
なんとか会話のテーマを変えようとした俺とキンジの試みは実り、Zセカンドの先導でようやく俺たちは話合いの場へと案内されることになった。
格納庫の正面には、大きなプレハブを何棟も繋げたような本営があり、俺たちが通されたのは壁や床が灰色に塗装されたばかりのそのなかだ。明らかな急ごしらえ、まだ作られたばかりなのは見りゃ分かる。
飾り気がなく、窓もない。どれだけ歩いても特徴として挙げられるものがまるでない。なんというか無機質だ。
最終的に俺たちは作戦会議室と呼ばれた、これまたそれなりの広さと細いテーブルが質素に置かれているだけの部屋に通された。
「ここが作戦会議室? 殺風景極まりないね」
臆せずツクモが灰色の壁を見渡しながら毒づいた。
そしてロの字型に並べられた細いテーブルにふんぞり返ったキンジも礼儀は二の次、下手にはつけ込ませないと臆しない態度で睨んでる。
心理的な駆け引きは探偵科のホームゲーム、デススターのど真ん中でも自信満々だな。勲章者だよ。
キンジも気付いてる。
こんな事案、本当は内々で処理したいに決まってるからな。それを公の場で半ば強硬手段に近い形を取るってことは、それだけZセカンドは急いてる。ああ見えて余裕がない。
「Zセカンド。まず最初に言っておく。この子はもうジーフィフスじゃなく、遠山かなでだ。そっちは身柄を寄越せと言うつもりだろうが、こっちにその意志は無い」
てことで、早速キンジの強気な意思表示がテーブルに乗せられた。
キンジとしても、キンジの肩を持つであろうジーサード・リーグの総意としてもかなでを渡すつもりはない。全員キンジの前のめりな第一声にも黙って何も言わないしな、総意だ。
Zセカンドはコメカミを指で何度か叩き、やがて肘を机に乗せながら、
「聞こう、貧しいエネイブル。幾らほしい? そうだな。たとえば月に五万ドル、お前の口座に毎月振り込もうじゃないか」
金。まずはありきたりなカード。一番シンプルな釣り針だ。
キンジと違って資金は潤沢だろうからな。埃っぽいモーテルで生活数十年、したり顔に嫌味を言ってやるつもりで俺が横槍を入れる。
「月に五万ドル、LAならスポーツカーに乗って毎晩寿司が食える金だな。日本円なら約‥‥‥480万か。お笑いだな、それでこの子の身柄を渡せって?」
「それが賢く、平和的な選択でもある。血を流すこともなく、あのウサギ小屋のような部屋よりもっといい場所に住めるんだぞ。悩む必要もないだろ」
俺の横槍にかぶりを振り、確かに狭くて日当たりの悪い新居をディスったZセカンドは真っ直ぐキンジに視線を固定し……やがて口を紡いだままのキンジに姿勢に人差し指で机を小突き始めた。
それを見たマッシュが緊張をあざ笑うように短く口笛を鳴らす。ああ、露骨ななだめ行動だ。だがここまで焦りをオープンにしてくると逆に不気味だな‥‥‥
そうまで必死にかなでを取り戻して何をしようってんだ。
「一度だけ聞こう。沈黙は肯定か? そうでないというなら次のフェイズに入るしかない、対話、圧力、そして最後はこの前の続きだ」
「あいにくだがこういう『場面』で俺が出せる答えはNo.以外にない。この前の北斗神拳の続きを見せたいってなら受けてやる、南斗水鳥拳は無いが、似たのが遠山家の技にあるんでな。弟の南斗孤鷲拳も加えて相手してやる」
北斗神拳ってのはあの女の超能力のたとえだろうが‥‥‥体の内側からバラバラにしてくるのか?
だとしたらヒルダの超能力並みに笑えない。触れられたらほぼ防御不可じゃねえか。
「勘違いしているようだな。エネイブル、お前はフィフス様が亡命を謀られたなどと思っているかもしれないが現実は、お前はフィフス様を攫った無法者で今取り調べを受けているのだ。知っての通りアメリカは世界の秩序を維持する警察、発言には気をつけろ」
そう言い放ったZセカンドは対面するキンジだけでなくご丁寧に俺たちにも視線で釘を差してきた。
だが、そんな半端な牽制はむしろ煽りだとジーサードはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「だとよ、キリ。今の聞いてたか? 警察、つまり捜査官さまだとさァ」
「つまりこう言いたいんだろ。下手な発言や行動は司法妨害」
「重罪だよな?」
「懲役20年」
慇懃無礼なジーサードと、それに相乗りする形で俺も吐き捨てる。
キンジの石頭は第一級だがジーサードの意思の固さも大概だ。そんな牽制じゃ怯みやしない。一向に傾くことのない交渉のテーブル、漆黒の綺麗に染まった黒髪に負けていないZセカンドの整った瞳は焦りと苛立ちが絡んで細められていく。
「死を恐れないという者は嘘つきか、グルカ兵だ。エネイブル、ジーサード、アルサード、お前たちは嘘つきか?」
「それってクイズか?」
対面するZセカンドを真似るようにキンジもまた半眼を作る。
「この子は遠山かなで、俺の妹だ。家族は助け合うものなんだよ、見返りも損得も関係ない。ただ無条件に困ってたら助けてやる、自分の身を削ってでも手を伸ばしてやる、そういうもんだ。それにな、あそこにいる俺のルームメイトの数少ない特技は地雷原を車で突っ切ることだ。危険地帯に突っ込むからなんだ、そんなのいつも通りだぜ」
へぇ、いつになく覚悟が決まってる。
家族のことには熱くなるのは分かるが、正直ここまで淀みがないとじーんと来た。母さんがこんなの見たらまたキンジのこと気に入っちまうな。
地雷原を突っ切るのお馬鹿な話は見逃してやる。それが得意なのは俺じゃない、煙管とペンが手放せない腐れ縁の方だ。
しかし、話し合いのテーブルとは言ってもキンジの方針は最初から不動、微動だにしてない。テーブルに交渉のカードがただ積み重なるだけ、実際には場はまったく動いてない。
本土の空港でロカと交換したMWCの腕時計に一瞬俺が目を落とした次の刹那──
「‥‥‥揺れないか。気高い志だな。いや、その志は立派だが今回は揺れてくれたほうがお前の為だったのだ。フィフス様は‥‥‥お前たちが思っているような国攻め、司法機関のヘルプ、そういう次元の務めをする存在ではないのだ。このままフィフス様が軍に帰投しないと、アメリカが国難──いや、世界が星難を乗り越えられなくなる。返してくれないか?」
一転して、強情なキンジの姿勢にZセカンドは称賛とも取れる言葉を置いた。
いや、前置きした上でZセカンドはテーブルにもたれさせていた肘を退き、今度は懇願するような目をキンジに向けている。
膠着していたテーブルが動いたのには違いないが一緒に付いてきたその不気味な言葉は‥‥‥何だ?
国難? 星難……?
何だ。何を言ってる‥‥‥
「アルサード、お前のIQは407だったな。IQなんてものは文化的な傾向ですぐ変わるあてにならない数字だ、この世界には理屈や言葉では理解できないものが……覗いている。それは私たちが思うよりもすぐ近くに」
国はともかく、惑星がどうだのそんなスケールの話は死の騎士やアマラがするような話だ。言い間違いで飛び出すようなもんじゃない。
それまでの高圧的な態度を潜ませ、代わりに一語一句緊張感を滲ませながらZセカンドは続ける。
「私はフィフス様が攫われた今回の件を本国に隠蔽している。半分は自分の失策を隠すためだが、半分は同じ研究所で育ったフィフス様の身を案じての事だ。隠蔽を見破られ、明るみに出ればロスアラモスから人工天才の実戦部隊が派遣されて来るだろう。エネイブル、ジーサード、お前たちは殺され、フィフス様も故障と見做される──意味は分かるな?」
テーブルの前でふんぞり返っていたキンジの体が、僅かに揺れる。
故障。おおよそ人に使う言葉じゃないが人工天才の実態は人の形をした兵器。かなめやジーサードがそうであったように、使い物にならない、自分たちの障害になると見做されてしまえば一生首を狙われることになる。
「……ロスアラモスは今こちらの異常に気付きつつあり、私に再三報告を求めている。その最終期限は今夜。もう、フィフス様の不在を隠し通せない……」
キンジが通そうとしているカードが、かなでの首に刃をかけようとしている。Zセカンドの言葉のつまりそういうことだ。
Zセカンドはかなでの護衛役、彼女も彼女なりにかなでの身を案じてる。それは真実だと思う。
だが、すんなりと呑み込むには一連の言葉には違和感があった。俺だけじゃない、ふんぞり返っていたキンジが、Zセカンドがそうしていたようにコメカミを数回指でノックする。
「なぜだ。米軍はジーサードにあらゆる方面から追っ手を差し向けて、片っ端から返り討ちにされた経験があるだろ。生かしておくことが国益に繋がって、殺すにはリスクが高すぎる。手放すものと得るものがつり合わない──
高天原先生曰く、探偵の調査で大事なのは目を光らせてちょっとでも変だと思うものを見逃さないようにすること。
ほとんどのものは別におかしくとも何ともない。パズルを解く鍵になるのは、彼氏も兄弟もいないのに男物のシャツが転がってるとか、そういうぴったりとはまらないピース。
ほっておけば国益に繋がるジーサードをわざわざ犠牲覚悟で殺しにくる、アジアでもトップクラスに危険な武偵として広まっているキンジも含めて──だとしたら普通じゃない。
高圧的な態度がすっかり見えなくなったZセカンドにキンジは揺さぶりをかけ、引き出そうとしてる。話し合いの根、そもそもこの件の中心にいる、かなでのことを。
テーブルを傾かせるならここ。流れを決める場面と踏んだらしいジーサードも腕組みを解き、キンジの隣へ寄っていく。
「俺も挟ませてもらうぜ? 兄貴にしてはいいところを引っ掻いた、抵抗されるのを覚悟で俺たちを殺しに来るってなら普通の理由じゃねェ」
鋭い目と共に義手の手がテーブルを突く。
「お前、かなでのことを──“そういう次元の務めをする存在“じゃないって言ったな? 見えてるぜ、俺たちを本当に説得したいなら持ってるカードは全部切りな。こっから先は駆け引きも探り合いもなしだ」
ジーサードはここでZセカンドが抱えてる
立場と感情を天秤にかけ、かなでの為にどこまで話してくれるか、だな。ツクモ、マッシュ、LOOと同様に黙って場を静観し──
「……ここから先の話は、米主要軍の機密を含む。聞いても忘れろ」
必死感のある顔はキンジやジーサードの背後にいるツクモを一瞬捉えると、Zセカンドはそのまま語り始めた。
「私たち第2世代の人工天才は皆、超能力者としてデザインされている。だが超能力者はその能力が安定せず、他国での諜報活動や
これはZセカンド自身が最初に否定した国攻めや司法機関のヘルプには向かない、そういうことだろう。超能力者は天候や気温、その場の環境で出力が変わる代物だ。
確実性に欠けば、その時点で兵器としては使い物にならない‥‥‥理屈は分かる。
「じゃあ、なんで敢えて第2世代をみんな超能力者にデザインしたの」
この場の誰もが思った疑問をツクモが投げかけた。
それは素朴な当たり前の疑問。
だから誰も予想してなかった。
「第2世代は破壊工作のためにではなく、次世代の戦争に備えて作られたからだ」
Zセカンドが口走る、笑えもしない言葉を。
意外とジーサードとリーグ・のメンバーが同郷繋がりで絡ませやすい‥‥