哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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ゲームナイト

 

 

 

『襲撃したのはNの戦闘員‥‥‥確かなのか?』

 

 

「はい、名はメルキュリウス。かなでを乗っ取ったのもお仲間の一人でしょう。色金についての確かな知識とそれに力を持った凄腕の超能力者、国際テロ組織となれば人材も豊富ですからね」

 

 

 夜の首都高、湾岸線。

 助手席にロカ、後ろにツクモを乗せたカマロSSがアウトバーンさながらの勢いで針を振る。

 

 音声の繋がっているジーサードのマセラティにはキンジ、かなめの他に、あの金一さんも加えて遠山兄妹の揃い踏み。それだけのビッグイベントってことだ。

 

 神社以来の金一さんとキンジの共闘、それにジーサードとかなめも加わってるとなれば頼もしいことこの上ない。

 安心した、相手が天下の米軍だとしても無謀な戦いでもない。むしろ同情するぜ。

 

『ネモだ‥‥‥! シャーロックを倒したNの提督。可能を不可能にする女のネモがかなでに乗り移った犯人だとしたら辻褄が通る‥‥‥!」

 

 張り叫ぶようなキンジの声がカーステレオから響いてくる。

 ‥‥‥イ・ウーを集めた同窓会がとんでもないことになったってのは軽く聞いてたが、シャーロックを退けた女とはね。そりゃまたビッグネームがしゃしゃり出てきたな。

 

 

「ノーチラスにネモ船長。お次はアトランティスや未知の金属オレイカルコスのご登場でも驚かねえよ」

 

『オレイカルコスってオリハルコンのことだよね。アトランティスって実在してたの?』

 

「それがあるんだよ、かなめ。ルシファーはアトランティスが海に沈む前に四人の地獄の王子を作った。悪魔の間じゃそこそこ有名な話だ。ま、何にしても俺たちがかなでを連れ戻しに動いたように──」

 

『Nも動く、ってのはあり得る話だなァ』

 

 ジーサードの見立ては当たって欲しくないのに尽きるが、国際的なテロ組織が一度逃がしただけの標的を潔く諦めてくれるのは些か楽観論が過ぎる気がする。

 伊藤マキリ、あの無駄に美人な女は性懲りもなく二度も俺を襲撃してきたしな。今回も横槍を刺してくる可能性は十二分だ。

 

 連中は間違いなくしゃしゃり出る、100ドルとチキンブリトーを賭けてもいい。

 

 嫌な予感を頭の隅に追いやり、アクセルを強める。

 名前に反しブレーキがイカれてると揶揄される貴希の運転だが、今夜ばかりは俺も貴希のことを言えそうにない。

 

「車の運転ってほんと性格が出るよね」

 

 助手席からそう飛ばしてくるのは、小柄な体に似合わない獰猛なグレネードランチャーで武装しているロカ。

 ツクモもネバダのとき同様にP90を抱えてる。

 

「性格? 第一に今は追跡中だ、第二に前は飛ばせって言ったろ」

 

「私は追ってる米軍のことを言ったの」

 

「ああ、米軍の性格はせっかちってことか?」

 

「その通り。もっと言うといい腕してるね、ウィンチェスター。──サード、対象を目視したよ‥‥‥! キャデラック・エスカレードが1輌。前後をハンヴィーが1輌ずつで護衛してる!」

 

「逃さないでよ! 今だけは銀行強盗みたいに飛ばして!」

 

「仮にも武偵にそのたとえはどうかと思うぜッ! 行くぜ、米国の至宝っ!」

 

 528馬力、野獣が吠えるようにエンジンは唸りを上げてメーターの針が右へ倒れていく。

 

 もはやアウトバーンと化した夜の湾岸。

 ついに俺たちの乗るカマロ、アトラスを助手席にコリンズがハンドルを握るジャガーXK、キースとLOOが駆るジープ・ラングラー、アンガスとマッシュのZ3が護送車の後ろについた。

 

『お前ら、よく見えてるぜ! キャデラックにかなでだ、ひっくり返したりするなよ!』

 

「最初からそのつもり!」

 

 刹那、助手席から身を乗り出すようにしてロカがGM‐94をぶっ放す。口火を切るにしては派手すぎる先制の一発からツクモも短機関銃を車列へ連射。

 他の3台からもそれぞれ弾がばら撒かれ、車体から火花を散らし奇襲に気付いた米軍のハンヴィーからもM4カービンの掃射が始まった。

 

 車の通りも少なく、平和的だった湾岸線は一瞬で戦場と化し、グレネードの爆発と無数の銃声が乱れるカーチェイスというアクション映画定番の景色が代わりに広がった。

 

 

「ロカ! キャディにぶつけんなよ!」

 

「安心して、キャデラックは好きだから!」

 

「キャディがお好き、実に結構ッ!」

 

「足止めというか、減速させるのがやっとだけどね‥‥‥! ッ‥‥‥リロード!」

 

 やや歯痒そうな声でツクモが弾薬を交換。

 サードが防弾仕様をかけてくれたお陰で弾を食らっても問題なく車は走れてる。

 

 それに足止めは無理でも、標的を減速させることはできてる。ジーサードが戻るまではこのまま粘る。

 やってやるさ、相手が天下の米軍でもこっちも人種関係なし、実力第一のジーサードが掻き集めた腕利きの連合軍だからな。

 

 車体から火花を散らしながら続く銃撃戦に、やばい状況だと気付いた一般車が次々に路肩へ寄って車線が開ける。

 こりゃ弾幕を切らせたら空港へ一直線だな。意地でも車両に突っかかっていくしかない。

 

 チッ、無茶苦茶に弾をばら撒いてきやがる‥‥‥!

 防弾をケチってたらとっくに蜂の巣だ。

 

「お嬢様、その物騒なのはまだ持ちそうか!」

 

「まだ後ろに色々積んである! サード! 圧されて出てきたみたいだよ!」

 

「けッ、ここは日本の道路だぞ。LAのナイトクラブみたいな格好しやがって」

 

 ああ、圧されてでてきたみたいだな。

 見えてるぜ。かなでを護送してるキャディの窓からルーフに上がった、あのボンテージって言われても無理もない格好はかなでの護衛役、Zセカンド。

 

 かなりの速度で走行しているのも物ともせず車上に立ったあの女は、実に落ち着いた動作でゆっくりと両手を合わせた──

 

「下がってキリ! あれやばいっ!」

 

「‥‥‥ちくしょうめぇッ!」

 

 ハンヴィーの一番近くにいたジャガーのすぐ後方に位置取っていた俺は、タイヤを痛めつける覚悟で乱暴に距離を剥がす。

 ツクモの切羽詰まった叫びが聞こえた時にはZセカンドは振りかぶりの動作に入っていた。

 

 サブマリン投法、いわゆるアンダースローの態勢になったヤツの手の中には赤く発光するボールが浮かび上がっていた。

 ヤツは、科学と超能力者のハイブリッド。それが超能力者特有のやばい代物であるのは見れば分かる。

 

 鉛弾が行き交っていた最中で見れば、一見気の抜けてしまいそうなZセカンドの投球動作から放たれた球は──ルーフを掠めるようにして一番懐に潜っていたジャガーに食らいついた。

 

「嘘でしょ‥‥‥! アトラス! コリンズ!」

 

 ロカの悲痛な叫びが爆音に掻き消される。

 赤い光が視界の一角で弾けると、激しい爆音を鳴らしてジャガーは宙を舞っていた。

 なんつー威力だ‥‥‥笑えねぇ、こんなことされたら防弾仕様も何もねぇぞ。

 

 

「私たち第2世代にとっての成功とは、神の侵攻から世界の平和を守ること。アメリカは世界を守る。守るために血を流す事を厭わない、そうでなければならないのだ」

 

 

 銃声やら車の唸りやらでロクに聞こねえが、どうせまた世界の滅亡だの神がなんだのお決まりのことをほざいてるんだろ。

 何が世界の滅亡だ、バカバカしい。俺たちが何回世界の滅亡をプレゼントされて拒否ってきたと思ってるんだ。

 5回や6回じゃ足りねえよ。

 

 世界を救うために女の子一人の人生を台無しにしちまう。

 そんなもん許してみろ。エレンとジョーに背中を蹴り飛ばされる、蹴り飛ばされるのはごめんだ。

 

 最後は虚無の底に引きずりこまれるとしても──

 俺は首が落ちるその瞬間まであの二人に、背を向けない生き方をするって決めてるからな。

 

 

「ロカ、運転頼む!」

 

 助手席から伸びたロカの手がカマロのハンドルを掴んだ刹那、俺は両足をシートまで引き、XDを抜きながら運転席から身を乗り出した。

 超能力の産物ってならやりようはある。

 

 Zセカンドの両手に新たな光が浮かび上がる。

 アンダースローの次は弾を一度宙にホップさせ、セパタクローのように蹴って──飛ばしてきた。

 さっきよりも速度を増して、尚且つ直線ではなく微かに曲がって軌道修正をしたところを見ると、ホーミング的な機能もついてるらしい。

 強引にカーブを切って逸らしてもおそらく追尾してくる。

 

 だからって、好きにさせるわけにはいかない。

 まだだ、まだ、外したら終わる、ギリギリまで引き付けろ。

 

「ここだッ!」

 

 これでも一通り、狙撃からボウガンの使い方までガキの頃に叩き込まれてる。気の遠くなるような訓練はすべて、一瞬たらずの実戦のため。

 

 天使の剣を加工した特注の銀弾を撃針が叩き、赤い光球のど真ん中を穿つ。

 刹那、夜の湾岸線そのものにフラッシュを焚いたような真っ白な光が一瞬、視界そのものを迸った。

 

 そして跡には何も残らない。

 ルーフに乗るZセカンド、カマロの運転席側に身を乗り出している俺も依然として無傷。

 貴重な銀弾一発と、ようは相打ちだ。

 

「来いよ、デッドボール狙いの罰当たり投手。メジャーの厳しさを教えてやる」

 

 アンダースローで投げられる次弾も、同じように風に煽られながら撃ち抜く。

 2発、3発──命中だ。ここまで必殺の一撃を台無しにしてやればZセカンドの余裕ぶった顔も、台無しになってることだろう。

 まあ、まだ奥の手があるっていうのは正直お手上げだけどな。

 

 

『よくやった、お前ら! もう見えてる!』

 

 

 ジーサード‥‥‥!

 マセラティが追いついたのか!

 

 

『────協力、感謝する。順次下がってくれ。ここから先は引き継ぐ』

 

「‥‥‥頼もしいお声、お待ちしておりました。くっ、弾切れッ! もうあの火の玉は止められん、全力で下がれ!」

 

「とっくにやってる‥‥‥!!」

 

「ツクモっ! 足持って! 振り落とされるっ!」

 

「自分から出たくせに‥‥‥! いい作戦だったって言おうとしたけど訂正する! やっぱりいい作戦じゃなかった、こんなの詐欺だよ!」

 

「いい作戦ってのはな、実際実行したらいい作戦とは思わないもんなの! うわぁぁッ!?」

 

 

 ツクモ‥‥‥でかした! 

 ロカの離脱重視の荒っぽいハンドル捌きに車体が大きく揺れるが、なんとかツクモが振り落とされる前に車内に引っ張ってくれた。

 た、助かった‥‥‥この速度で落とされたらどうなることやら。

 

 ロカは運転席、空いていた助手席に俺が転がり込んだことで乗車したときとは信じられないことに反対の構図になった。

 ふざけた速度で駆け抜けるアメ車のなかで座席のコンバート、今度やるなら屋根なしのオープンカーにしよう‥‥‥

 追跡から外れ、完全に減速したカマロを後ろからすっ飛んできた黒のマセラティが抜いていく。

 

 

「サード様ーっ! ご武運を!」

 

「よし、どうにか切札に繋げた。あとは戦闘民族遠山家の皆様に任せるぞ!」

 

「大丈夫だと思うけど、コリンズとアトラスを見に行くよ」

 

 大丈夫だよ、ロカ。なんたって二人はSEALsとグリーン・ベレーの元精鋭。

 車の炎上よりずっと過酷な状況を何度も潜り抜けてる。言葉にするよりずっとタフだ。

 

 追跡は遠山兄妹に任せ、銃撃戦を察知して路肩に逃げていた一般車と同様に、俺たちも各々車を寄せる。

 半ば確信を持ちながら、後ろを覗くと‥‥‥

 

 ひっくり返った車をバックに、少尉とコリンズが手を振ってるのが見えた。

 

「わーお‥‥‥全然元気そう」

 

「わーお。不死身だったね」

 

「わーお、不死身が二人」

 

 俺、ロカ、ツクモ、順番に言葉が並んだあと、各々シートに背中から倒れ込んだ。

 ああ、分かってる。一段落だ。って言っても首都高で休むわけにも行かない。せめて近場のジャンクションまではいかねえと。

 

「ねえ、あれ‥‥‥変じゃない? 後ろの雲だよ、変な感じがする」 

 

 後ろからひょこっとツクモが顔を出し、何を言ってるのかと窓から後ろの空を覗く。

 

 両耳を立てたツクモが見ていた背後上空。

 黒い絨毯を敷いたような空にはよく見ると道路に沿うように細長い雲が流れてる。

 

「何かの尻尾みたいだな、確かに不気味だ」

 

「ツクモはそういう意味で言ったんじゃないって。あの雲、環七雲や環八雲みたいに見えるけど周り見て。車なんて全然走ってない。変だよ」

 

「そりゃ雲や天気なんておかしなもんだろ。だから天気予報がアテにならないって言われるんだ」

 

 雲は低く流れるように広がっている。

 形だけ見れば生き物のように見えなくもない。だが雲は雲だ、あの雲が突然口を開いて俺たちを追いかけてくるなんてことになったら阿鼻叫喚だがそんなことは‥‥‥

 

 

「‥‥‥えっ?」

 

 雲が口を開けるわけはない。雲なんだから。

 しかし、それまで道路を沿うように広がっていた雲は左右に広がり始め、その左右だけがみるみるうちに下がってきてる。

 それはまるで道路の横に広がる、邪魔な景色を覆い隠していくようだ。自然の、動きじゃない。あの雲には意思がある。

 

「‥‥‥いや、やっぱり訂正。お前らの勘は正しい」

 

「……自然の雲じゃない……! あれは超能力で作った霧のブラインドっ! 何か来るよっ!」

 

 遠目に見えていた景色が隠され、一気に殺風景となった湾岸線。

 外に飛び出したロカの言葉に寒気を感じながら、俺とツクモもカマロのドアを開ける。

 

 あの雲がブラインドだとしたら、中には()()が潜んでいる。

 追いかければ首が痛くなりそうな長さに広がった雲の、ある一点に渦が、竜巻が巻いていた。濃霧のなかで竜巻が渦巻いてやがる‥‥‥

 

 普通からかけ離れた、いつもの光景。

 てことは、やってくるのはおそらくいつも通りの普通じゃない何か。

 勘弁してくれと、内心思いながら空を仰いだ。

 

 

「────お次はなんだ」

 

 

 否が応でも目を惹きつけられたその時、灰色の濃霧のなかからその、2匹の生物は飛び出した。

 

 高度を下げ、徐々に見えてくるその風貌に、俺は苦笑いし、ロカは言葉を失い、ツクモは予備の武器を潜ませているトランクを静かに開いた。

 

 ──左右に大きく翼を広げ、雄々しい叫びを上げながら空で尻尾をはためかせるその姿は、キンジや理子とよく遊んでたモンハンに出るリオレウスのモーションを思わせる。

 

 いや、思わせるとかそんな話じゃない。

 濃い緑の体表と、恐怖を煽るようなでかい頭と実際に火球でも吐いてきそうな突き出た口。遠目にでも分かる、でかい鳥とかコウモリとかそんな優しい表現じゃヌルい。

 

 

「‥‥‥退治したことあるんだっけ?」

 

「俺が仕留めたのは全部人間サイズ。あんなの専門外だって‥‥‥」

 

「あるって言ってほしかった。嘘でもいいから。あんなのアニマルプラネットでも見たことないよ」

 

 ロカが引き攣った顔を向けてきて、俺も引き攣った顔のままかぶりを振った。

 

 

 

 

 

 

 

 巨体に対し、前足は人間の手足ほどの太さしかないが後ろ足は丸太のように太く発達してる。牙を立てずともあの足で踏まれてしまえば獲物は一発だ。

 

 5mほどはある尻尾を靡かせ、並び立つようにして下降してくる二匹。いや、二頭と呼ぶべきなのかこの場合は。

 

 

「あ、ありえない‥‥‥ドラゴンだってー!?」

 

「マッシュ、あれはワイバーン。足が2本なのはワイバーン、ドラゴンは4本足。サードが前にそう言ってた」

 

 無事だったマッシュにこんなときでもやや得意げにロカがツッコむ。

 得体の知れないモンスターの登場にさすがのキースの目も見開き気味だ。

 

 それに、二頭のうちの一頭には信じられないことに誰かが騎乗してる。ドラゴンに騎乗し白銀の槍を携え、全身を重たそうな萌黄色の鎧で纏めてる。

 

 ‥‥‥女?

 雰囲気的にはラスプーチナに似てるが、あの女は魔女としての空気が強かった。あれは魔女よりも騎士や槍兵の側面に傾いてる。

 ま、どこの誰にしてもまだそれなりに離れてるこの距離でさえ、敵意が伝わってくる。

 

 

「友達じゃなさそうだ。あのアングマールの魔王みたいなの誰か知ってるか?」

 

「あの女竜騎士はヴァルキュリヤ! 明治神宮でサードさまが見たって『N』の槍の名手と特徴が一致してる!」

 

「てことは?」

 

「てことは敵ってことだよ‥‥‥! それに」

 

 

 ロカは自分に対する、相手の考えや心を読める。

 その距離が如何程のものかは知らないが、半眼で睨んでいた空でヴァルキュリヤ──女騎士は高度を落としたまま空港方面へ、もう一匹はそのまま俺たちの方向へ下降してくる。

 

 ああ、ここにお目当てがいないのを察して方向転換しやがったか。それとも単純に最初から俺たちを確認するだけの為に下降してたか。

 だが、お供の一頭を置いていくってことはおとなしく放置しといてくれるわけじゃなさそうだ。

 

 

「おい、冗談と言ってくれ! ドラゴンが相手だなんてボクは聞いてないぞ!?」

 

「ナケルゼー」

 

「お前はR2並みに落ち着いてんな。見ろ、今からここを焼け野原にする情け無用の男って感じだ。主の命を受けてやる気満々って感じだぞー」

 

 

 ほぼ風なんて吹いてない。

 だが旋回した竜は、まるで風でも掴んだように速度を爆発的に上げて頭を正面にして降りてくる。

 いや、あの速度じゃもう突っ込んでくると言ったほうがいいか‥‥‥

 

 9mmじゃ止まらないよな、あんな硬い鱗。

 キースがAK-74の残弾を確認し、俺もトランクを漁っているツクモに準じて持ってきたリュックに手を突っ込む。

 あの女騎士はキンジを追った、Zセカンドとのカーチェイスにあの女も加えての三つ巴になるだろう。

 

 なら俺たちにできるのは、せめてあのドラゴンがご主人のもとに帰るのを足止めすることだ。

 

「今度は何持ってきたの?」

 

「狩りの女神ーアルテミスの矢。あの主神ゼウスも仕留めた、でかいトカゲの一匹なんとかなる」

 

「この状況だから何も聞かないけどさ。外さないでよ。コミニケーションが取れる相手じゃなそうだし」

 

「野球のルールより先にボウガンと弓矢の扱いを覚えた。大丈夫だ、うまくいく。外したときはなんとかしてくれ」

 

「最後に保険かけるの姑息すぎ‥‥‥」

 

 結構姑息な妖術を習ってるはずのツクモも武装の補充を終えて、トランクを締める。

 ハンターにとっちゃ紛れもない守護天使、というか幸運の神であるアルテミスの矢。この状況でここまで頼りにできる武器もない。

 弓は装備科の叩き売りで買ったヤツだがなんとかなるだろ。

 

 夜でも存在感を失わない色の違う宝石のような瞳を大きくし、上空を見据えるロカは──

 

 

「お金と一緒に頼んだら引き返してくれないかな?」

 

 と、頼もしいのか天然なのかよく分かんない言葉を振ってくる。

 

「テロリストのペットだぞ? 無理だろ。友達にはなれないし、交流も無理。人間にたとえたらあいつはきっとサイコだ」

 

「その壊れたスピーカーみたいなトークでうんざりさせて降参させてくれない?」

 

「お前の超能力で心臓を揺らしてくれたら即解決なんだけどね。会った時も言ってたよな、オークション会場。心臓を止められるってさ」

 

「今度ブレゲのオークションに行きたいんだけど、軍資金が心もとなくて寄付を募ってるんだよねー」

 

 ちらりと悪っぽい笑みが向く。  

 

「はっ、そういうのはあのデカブツをなんとかしてからする話でしょうが」

 

 

 風はない。

 弓は銃よりずっとサイレンスで、銃火器マニアが思ってるよりもずっと凶悪な武器だ。アルテミス愛用の矢となれば、あの硬い鱗も問答無用で貫ける。

 

 時間切れだ。

 もう輪郭が、クッキリと目に見えるところまで来てる。

 ああ、間違いなくこれはドラゴン。長い尻尾でサマーソルトや口から火も吐いてきそうなれっきとした化物だ。

 

 

「サードさま、どうかツクモにお力を! っ──来たぞ、来たぞおおぉぉぉ!」

 

 

 ツクモの全身全霊の叫びから始まった一斉掃射の弾幕を受け、突き出していた頭を一度持ち上げるように両翼を振って、ワイバーンが傾いていた体を直立させる。

 あの速度で突っ込んできて‥‥‥そんな切り返しができんのかよ‥‥‥

 

 そして、打って変わりホバリングするように止まったその喉からグルルルッと異音が響き始めると、ほんのりと赤い光が喉奥から輝き始める。

 

 

「なに‥‥‥してるの?」

 

 

 ロカがひやりと呟く。

 冷たいものが背を撫でるのは一瞬だった。

 

 俺が放った矢、LOOからの重イオン弩発銃、隙間なく放たれるような鉛の雨が──

 刹那、夜の暗闇を染めるような紅蓮の炎に飲み込まれた。

 

 

 

 

 





 
動かしやすい場所にいるせいで、ロカとツクモがそこそこ出番を取っていく。
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