哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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心からお祝いを

 

 

 人工浮島20区の第4マンション、204号室。

 日当たりの悪い部屋の扉を今日も叩く。修行僧みたいに何もなかったキンジの新居を。

 

「今日も来たんだ」

 

「ああ、かなでいる?」

 

「散歩。ロカたちとさっき出かけたよ」

 

「すれ違いだったか」

 

「いいよ、入って」

 

 と、昨日はロカだったが今日は黒いフードパーカーのツクモが出迎えてくれた。

 

 7月の終わり間近、かなでをめぐって湾岸線で繰り広げられた米軍、Nと俺たちの三つ巴の戦いから今日は既に8月の4日だった。

 

 かなでの体に埋め込まれていた色金は取り除くことこそできなかったが、かなめがパトラから渡されたらしい指輪の力によって機能が停止。

 実質逆色金は使い物にならなくなったことであれ以降米軍からの動きはない。

 

 俺と空中戦に付き合ってくれたドラゴンは、あの後主人の女騎士とセットで武偵庁に拘束というか保護というか、身柄を抑えられた。

 あのドラゴンも俺が使ったエリクサーの時間が切れちまえばテロリストに付き従う危ない獣。そのまま野放しにされるなんてあり得ないができれば命は繋がっていてほしいもんだね。

 

 洗濯物が乾きにくいとカナが愚痴ったらしいこの新居もすっかり顔馴染みになったって感じだな。

 

「おう、待ってたぜ。手土産はどうした? なんか持ってきてんだろ?」

 

「俺より儲けてるくせに。ほら、夾竹桃からだ。かなめに妹がいるって言ったら今度でいいから紹介してほしいって。流行りの店のケーキやらシュークリームやら詰め合わせらしい。なんでだろうな、賄賂を渡された気分だ」

 

 ここ数日、ずっと顔を合わせているジーサード。

 俺より儲けてくるくせに毎回手土産を聞いてくる。

 昨日は俺のアンチョビピザ、今日は夾竹桃がセレクトした洋菓子詰め合わせ。ロカ、ツクモ、かなめにはこっちの方がウケんのかな。そんな気がする。

 

「女に出させたのか? ケチだな」

 

「言っとくけど税金のぶんは俺が払った。妙な言い方すんじゃねえ、お馬鹿」

 

 端的に、しかし棘だらけの言葉を投げてくるマッシュにかぶりを振って返しておく。ロカやかなめも外みたいだし、とりあえずテーブルに置いとこう。

 少し距離を開けて寝転んでいる仲がいいのか悪いのか、たまに分からなくるジーサードとマッシュのちょうど間を取るような位置で俺も腰を下ろした。

 

 

「かなでの様子は?」

 

「心配すんな、派手にやったわりに落ち着いてる。この先多少の凸凹道はありそうだがなァ」

 

 8割ほど楽観的に、残りに僅かな苦さを残す声色でジーサードは答えた。

 

 ‥‥‥あの夜以降、キンジの姿は誰も見ていない。

 キンジが乗り込んだオスプレイは下っ腹からハッチはおろかキャビネット側まで炎に包まれ、かなでの逆色金が停止したときには機体全体が真っ赤に炎上する最中だった。

 

 炎上し、墜ちた機体からはキンジ、ネモのものだとされる亡骸は見つからず、イ・ウークラスの国際テロリストが関わってることで後処理は武偵庁以下お偉いさまの掌。

 首都高で派手にやらかしたわりにお咎めはなく、例によって他言はせず墓の中まで持っていけってことだろう。

 

 今回の件、立場的に一番処罰を被りそうな金一さんも逆色金が機能を失ったことやメンツを大事にするアメリカ米軍がたった数人とその一団に手痛くやられたのを公にしたくないってこともあったらしく、俺たちが心配するほどの処分は受けていないらしい。

 やや無法者寄りのジーサードや俺たちと違って金一さんには公の立場があったからな。仕事もこれまでどおりに続けていける、何よりだ。

 

 そう、天下の米軍やNを巻き込んだにしてはあまりに丸く収まった。上出来だ。

 ただ一つ‥‥‥ネモや水銀女と一緒にあの夜以降、キンジが姿を消しちまったことを除いたら、な。

 

 

 

「お前から見たあの子は、凸凹道の衝撃を上手く吸収できてそうか?」

 

「なんとかな。そりゃ衝撃に強いモトクロスのバイクほどじゃねえが──まあ、ファミリーセダンくらいだな。スムーズだが急なカーブはうまく曲がれてないって感じだ」

 

「驚いた。お前もそんな愉快なたとえを使うんだな」

 

「兄貴が留守にしてっからなァ。マッシュと賭けてんだ、お前もやるか? 兄貴が生きて帰ってくるかどうか、100ドルでいいぜ」

 

「賭けになんねえよ。キンジの葬式に出るなんてブラックホールの中心で懐中電灯を振り回してる人間を望遠鏡で見つけるくらい難しい──帰って来るに100ドル」

 

「‥‥‥結局賭けるんじゃねェか。俺もお前と同じ、マッシュは逆張りだ」

 

「100ドル募金したのか? 勿体ない、うまいピザとコーラも買えるぞ」

 

「ふん、ジーセカンドの居場所は未だ不明、探したが手掛かりはなかった。Nの瞬間移動に巻き込まれたとして、どこに飛ばされたのかはっきり言うけどサッパリだ。つまり、賭けの行方はまだ分からない」

 

 いや──そうでもないぞ。

 ほら、ツクモがすごい顔で走ってきた。まさに()()でも見たようなそんな顔。

 

 ジーサードがにやっと笑う。

 

「キリ、飯でも食いにいくか」

 

「マッシュの金だ。何食べる? シーフード、うまい肉でもいいな」

 

「お前のインパラで行くか。おい、一緒にセトリ組もうぜ。兄貴やキンイチともやったんだろ?」

 

「お前ともだいぶ気心の知れる仲になってきたし、いいだろう。BGMの半分を決める権利をやる、ただしポリリズムはなしだ。かなめに理子に貴希に、カラオケで聞きまくったからな」

 

「おい、ボクの金だぞ。店はボクに選ばせろ。それとセトリの三分の一はボクも決める! damn it‥‥‥なんて日だ」

 

 あらま、インテリが汚ねぇ言葉使いやがって。

 でもこのインテリ担当、ちょっと乗り気な顔してますよ総司令?

 はっ、幽霊ね。なんだ、幽霊にしては血色がいい。思った以上に元気そうだ。

 

 

「よ、幽霊さん。ちっと日焼けしたか?」

 

「南の島でバカンスをな」

 

「つもる話がありそうだ、後で聞かせて」

 

 

 遠山キンジ──南の島のバカンスより無事帰還。

 ネモ、メルキュリウスの両名も無事生存。 

 ヴァルキュリヤ、ワイバーン、武偵庁が身柄を拘束。

 

 

「おっそいよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんが帰ってこないからいつまでも誕生日できなかったんだよっ!」

 

「誕生日‥‥‥? かなでのか?」

 

「ほら、横槍が入りまくってちゃんとお祝いできなかったから。お前が帰ったらみんなでまたかなでのお祝いやればいいんじゃない? って感じでね」

 

 てなわけで、キンジが帰宅した夜。

 無事に遠山家、ジーサード・リーグの面々でかなでを囲み、ちゃんと遠山かなでとしての初めての誕生日をやることができた。

 

 つまり、嬉しいことに誰が欠けることもなく平和的に幕は降り立ってことだ。

 心の底からこう思うよ。いつもこんな終わり方なら世の中もっと平和になるんじゃないかって。

 

 おめでとう、かなで。

 色々ありすぎたけど、心からお祝いを。

 

 

 

 

 

 

 かなめと逆色金の一件が終わり、キンジも無事に見つかったということで俺にも、変な話だが前の日常が返ってきた。

 寮の自分の部屋で寝て、学校に行き、先生の講義を受けてたまに依頼をこなす。特別履修で車輌科や狙撃科に顔を出したり、たまたますれ違った理子に誘われてその日の夜にヒルダと三人でカラオケに。

 

 落ち着く暇もなく食い潰されていた日常が、リバウンドしたように最近はまったりと穏やかな時間が流れてる。

 体を攫いにくる荒れ狂った激流からいきなり流れるプールに投げ出された気分で、贅沢なことを言うとこの平穏を素直に受け入れられない自分がいる。

  

 

「それで。どうだったの、アメリカから来た遠山キンジの妹は」

 

「楽しい子だった。まるでエネルギーの塊みたいに元気いっぱいで。現実の厳しいところをたっぷりと見てきたわりに中身は純粋で無垢。こっちまで邪気が払われたって言うのかな」

 

「ひねた言葉を使わないって本当にいい子だったのね」

 

「そういうときもある。なんにでもあるさ、使い時ってやつだ」

  

 金一さんから乃木坂のマンションに来てほしいと電話があったのは、久々に夾竹桃と我等が綴先生の恒例三者面談が終わったすぐあとのことだった。

 

 お隣でインパラのハンドルを我が物で握っている元イ・ウーの暗殺者も今ではただの学生、すっかりいい子ちゃんだからなぁ。

 司法取引の身とはいえ、果たしてまだこのカウンセリングいるのかどうか。

 

 ああ、終わりなら終わりでちょっと淋しいよ? 

 けど最近は先生や夾竹桃の愚痴を聞きながら、みんなで菓子摘まんだりブラウン管で映画見たり完全にーーなんかおかしい。前は飲み物とポップコーンをテーブルに置いて『ソルト』見てたし。

 

「なんていうか、あれだな。カウンセリングや面談じゃなくてただの‥‥‥映画鑑賞会?」

 

「でも一番画面に食いついてた。主演女優の演技にまんまとしてやられたって感じでね」

 

「俺よりサムの方が彼女のファンだよ。あれだ、夢に出てくるくらいに」

 

「それは初耳だわ‥‥‥」

 

「だろ? まあでも、兄弟って似てんのか似てないのかたまに分かんなくなる、そこが何とも不思議なんだよな。たとえばタイタニックの主題歌」

 

「タイタニック? 名曲でしょ?」

 

「サムは好きだけど、ディーンは‥‥‥そこまでじゃない。ちなみに俺は嫌いじゃないけどサムほど熱狂的でもないんだ。言うなれば」

 

「二人の中間でしょ、いかにも貴方らしい。どちらの味方にも敵にもなれる、板挟みの仲裁係。貴方のお母さんも言ってたわ、いれば安心するし、ちゃんとあの二人に支えになってる。器用な貴方じゃないとできないって」

 

「母さんも口がうまいよ、自分の負けは絶対認めないって典型的な海兵隊上がりの親父がコロッとやられるわけだ」

 

 母さんも親父に負けないタフさだったからそこでいい感じに働いたのかな。なんたってキャンベル家、恐れ知らずのハンター家系だ。  

 

「対立関係というのは双方が過失を認めることで解消されるものよ。一人が負の感情を抱えてると、化膿して腐り果ててしまう」

 

「嫌だね、手足が落ちるのは」

 

「考えがぶつかったときに間に入ってくれる誰かがいるのは大きいことよ。貴方達みたいな仕事をしてれば特にね。貴方は尖ってて癖がありまくりだけど、あの二人の最後の駆け込み寺だった。誇っていいわ、誰でもできることじゃないもの」

 

「ありがとう。俺たちは心配しなくていいな」

 

「?」

 

「手足が腐りおちるの。俺たちもいがみ合うことはあるが基本的には対等に、お互いのことを認めてる。だから手足が落ちる心配はない、だろ?」

 

 示し合わせたように信号が赤に変わって待ったをかける。テープもラジオもかけていないおとしやかなシボレー・インパラ、こんなに静かならどんなに小さな声でも聞き逃さない。

 

 だから魔が差したのかもしれない。

 少しの好奇心を携えながら、精緻な日本人形のような整ったドライバーの横顔が変わるのをジッと待ってみる。

 

 最初は友人の為にコルトを盗みに、本気で俺の首を落としに来た女だ。

 けど今は真面目に、頼りにしてるし、人間性も実力も認めてる。いいヤツだと思ってるよ、真面目に。

 クレアやキャスみたいな血の繋がりを飛び越えたさきの、そう、かけがえのない存在だと思ってる。

 

 

 ──じゃあ、夾竹桃は?

 

 色々あったけど、こいつの中での俺は結局どんな場所にいるんだろう。

 この1年で俺とこの女との関係は結局のところどう変わったんだ?

 信号がインパラを止めてくれる間、縫い付けられたように俺の視線はその横顔だけを見ていた。どんな答えが返ってくるのかを。

 

 

「奇遇だわ。私も同じことを言おうとしてた」

 

 ま、結局待って返ってきたのはいつものごとくクールな横顔と本心を覗かせない、ある意味夾竹桃らしい解答だったんだけどな。

 

 ああ、すごく無難で。

 すごく夾竹桃らしい。

 信号は青になり、V8エンジンが吠えてまた何事もなかったように景色が流れていく。

 何事もなく、だから爪痕を残してやりたくて咄嗟に頭に浮かんだことをそのまま言った。

 

 

「お前、嘘つきだね」

 

「女にとって嘘はアクセサリーみたいなもの。秘密を着飾って美しくなるのよ」

 

 ‥‥‥それはまた深い言葉だな。

 相手の嘘に食らいつき、その背後にある真実を露わにさせるのが尋問科の仕事。しかし、アクセサリーばかりはさすがに食えそうにない。

 

「でも俺は嘘を重ねてめかしこむより堂々とアクセで盛ってくれる子のほうが好きかな。鈴木先生もどう? 嘘で武装するよりもっと首に南京錠のチョーカー付けるとかさ」

 

「南京錠‥‥‥?」

 

「変な意味じゃない。前にかなめが見てた雑誌に載ってたんだ、超かっこいい」

 

「考えておくわ。そっちが先に蝶のタトゥーを入れてくれるならね」

 

「蝶? それってあれか、お前が入れてるあんな感じの蝶か? 嫌だよ、あれはお前がやるから似合ってるんだ。俺はやらない」

 

 見えないところからいきなり猛スピードで投石された気分だ。

 案の定というか、手痛い反撃をもらった。

 いや、夾竹桃が入れてるのはダークな感じがあって似合ってるけどあれはお前だから似合ってんだよ。

 

「世の中にはタトゥーの似合わないヤツがいる。1号線沿いにあるタトゥースタジオの店員の言葉だ」

 

「胸に悪魔避けの入れてるじゃない」

 

「あれはファッションじゃない、悪魔に取り憑かれて胸を抉られない為にやってるの。CSIに出てくるような姿になりたくないからやってんの」

 

「はぁ、お揃いにしたかったのに‥‥‥傷ついたわ。この悲しみ、どうしてくれましょうか」

 

 そんな楽しそうな顔して言ったところで説得力皆無だぞ。皆無。

 

「曲がるんだろ?」

 

「曲がるのはもっと先」

 

「あっ、おい! マジか。そこ行ったほうが早かったぞ」

 

「曲がりくねってるでしょ、あっちなら一度曲がったら真っ直ぐ。早く着く」

 

「絶対遠回りだよ、自転車で行っても先に着くぞ」

 

「珍しく運転を譲ったのは脇からごちゃごちゃ文句をつけるためだったの? ()()はどうしたのよ、対等な関係なんでしょ?」

 

「対等な仲間だから間違いをはっきり指摘するんだ」

 

「間違ってない」

 

「間違いなく遠回り」

 

「どう考えても早いわ」

 

「どう考えても?」

 

「ええ、どう考えても」

 

 どう考えても、ね。

 頼りになるよ、ホント。

 

 

 金一さんのマンションは、シージャックの事件が起きる前から住んでいた場所でけっこう地価も高く、レトロでオシャレだとキンジやかなめからも評判だ。

 

 見た目よし、性格よし、化物みたいに強いと四方八方どこにも隙のなさそうな金一さんは住む場所までお洒落と来た。一体何が弱点なんですか、あなたは。

 

 一階、101号室。

 前回来たのは神社で寝起きの神様とやりあったとき以来だからかれこれ数ヶ月前になるのか。

 

 ジャンヌに似て、たまに仕切り屋になりたくなる夾竹桃がインターホンを鳴らすと、金一さんが出迎えてくれた。

 映画俳優って言っても全然通る綺麗なお顔は、目元だけ見るとたしかにキンジとよく似てる。

 

「すまない。お前には話すべきだと思っていたんだがタイミングを測りかねてな。キンジに聞いた、一度アメリカに帰ったそうだな」

 

「ええ、面倒なツケを精算しに。精算が終わったらまた新しいのが転がり込んできて思ったより時間を取られちゃいましたけど。おかげで日本に帰った途端、色んな情報が流れてきて、あれです、コールドスリープから目覚めた気分」

 

「昨日プレデターを見たの、プレデター2。ホテルまで来て一緒に見ようって」

 

「先にお前が誘ったんだろ、深夜アニメはリアルタイムで見ないと満足できないとかなんとか」

 

「ふっ、俺もあの映画は好きだ。特に最後の種を飛び越えた母親同士の一騎打ちには考えさせられるものがある」

 

「それは意外。西部劇以外は見ないのかと」

 

 しかし、世の中ってのは不思議だ。

 だって金一さんからは大人の余裕が溢れてる、逞しさとかその他諸々大人っぽさがある。

 

 でも実際は、後ろをついてくる東大薬学部卒業の童顔夾竹桃先生は金一さんより実は5歳も歳上なんだってんだから世の中分からない。こんなの詐欺だよ。

 

「ねえ、雪平。第六感って信じる?」

 

「んだよ、いきなり」

 

「今物凄く失礼なことを考えてる気がしたの、貴方が私に対して」

 

「‥‥‥珍しく勘が外れたな。いや、今日もお化粧が綺麗だと思ってさ」

 

「切、知っているか。キングコブラに噛まれると15分で死に至る」

 

「金一さん‥‥‥? でもあれってキングってわりに小さいですよね‥‥‥?」

 

「体を伸ばして噛みつくときにでかくなる」

 

 こんなときに毒性の講義って‥‥‥

 金一さん、平和の象徴で俺の背中を撃っちまうんですか? それをやられたらおしまいですよ‥‥‥

 

 キンジが出ていってからかなり落ち着いたがそれでもバスカービルの連中やかなめ、最近はヒルダまで私物を置き始めた俺の部屋とは違って掃除や整理が隅まで行き届いた、陽光に満ちているような清々しいリビングに、

  

「顔を合わせるのは緋緋神以来ぢゃのう。かなめから聞いたぞ、此度は敵が率いた忠臣を呪いで支配したそうぢゃな。妾にしてもかなでは妹、因縁深きハンターとて此度の義勇には心より感謝しておる」

 

 パトラがいた。

 当然だ、金一さんはパトラと国際結婚してるし、そもそも金一さんは俺を呼んで、夾竹桃はパトラに呼ばれた。何もおかしくない、おかしくないんだ。

 

 お、おかしくないんだけど‥‥‥パトラが、金一さんと婚約してんだから昔より俺に対しての敵意も、前回も一緒に戦ったし、お、穏やかな顔してんのはおかしくないんだけど‥‥‥

 

 彷徨った俺の視線は、隣で目を見開いてる夾竹桃へと向く。

 いや、夾竹桃の視線も俺に向いて見事激突、同じタイミングで目を見合わせた。

 

「いえ、あの‥‥‥えっとぉ‥‥‥桃子さん?」

 

「‥‥‥どうして話さなかったのよキリル。心の準備ってものがあるでしょう、夢でも見てたの?」

 

「お前こそ、寝ぼけるな。こんな大事なことホイホイ話せるかよ、てか知らないって‥‥‥」

 

 普段は滅多に呼ばない名前でやりとりする俺たちは、今世紀最大の驚愕と慌てようで、ソファーにそれはそれは穏やかな笑みで座っているパトラからグルっと首ごと視線を‥‥‥金一さん!

 き、金一さん、あ、あなたはな、なにをしたんですかぁ‥‥‥!

 

「? ──元々敵だった仲であろうと、男と女が共に暮らしていれば自然にこうなる。お前たちなら分かるだろう?」  

 

「ど、どういう意味で!? そ、そんなもん分かんのは星枷と酔ったディーンくらいですよッ! あ、ああ‥‥‥ごめん、パトラ。声は抑える、すまない。いや、えっと‥‥‥」

 

「安心せい。いまは母子ともに安定しておる」

  

「そ、そうか、それは良かった。そ、そうじゃなくてーーいや、それは‥‥‥すごく良かった」

 

 母子って‥‥‥

 だってその‥‥‥ぱ、パトラが、み、みみ‥‥‥身籠ってるじゃないですか金一さんっ!

 俺、何も聞いてませんよ!? パトラが妊娠してるなんてひとっことも聞いてませんよ!?

 

 こんな頼んだピザを受け取りに行くような格好で、き、来ちまったじゃないですかァ!

 

「お、落ちつきなさい‥‥‥SEALDsはマインドをコントロールするものよ」

 

「俺はSEALDsじゃない、Team free willだ‥‥‥!」

 

「でも驚きだわ。そこまで進んでいたなんて‥‥‥」

 

「ああ、その‥‥‥すいません、見苦しいところを。おめでとうございます、金一さん。かなでを取り戻すのに前線に飛び出されてましたから、まさかそんなパトラとこういうことになっていたとは‥‥‥」

 

 そのとき、マナーモードにしてポケットに押し込んでいた携帯電話が震えた。

 

「すいません、ちょっと失礼」

 

「メール?」

 

「ああ、かなめだ」

 

 

 差出人、遠山かなめ。

 題名──報告

 本文──パトラお姉ちゃん、妊娠5ヶ月なんだって。

 

 ‥‥‥

 ‥‥‥‥‥

 

 

「なんだ、かなめから何の連絡だった?」

 

「‥‥‥いえ、ウチの戦妹は非常に頼りになりますというか」

 

 かなめ、教えてくれたのはありがたいがワンテンポ遅いんだ。いや、大事なことだからこうやって実際に見て、気づけたことも良かったと言えばそうなんだが‥‥‥

 

 駄目だ、何も考えられん。

 でもとりあえず──これだけは言わないと。

 

「おめでとうございます。金一さん、パトラ。まずは何よりもそれを」

 

「ええ、心からお祝いを」

 

 ええ、心からお祝いを。

 もう知ってるんだろうけど、きっと喜んでますよキンジも、ジーサードもかなめ、もちろんご両親も。

 そしてかなでも、間違いなく。

 

 

 






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