哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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レクテイア

 

 

 レクテイアはこことは別の天体に存在する。

 落ち着け、気になる話だが掘り下げるべきはそこじゃない。そこじゃないだろ。

 

「なるほど、そいつは驚きだな。モリアーティは勢力拡大を狙ってるレクテイアの神とお友達になったらしいが、そうか。宇宙人ってことなら納得だ。インデペンデンス・デイやロサンゼルス決戦をやろうってことだろ? ああ納得だ、キンジと神崎にも伝えてやらないとな」

 

 でもそうじゃない、俺が本当に聞きたかったことはそんなんじゃない。

 この期に及んでの自分は関係ないってその言い回しに畏敬と感嘆とこんちくしょうを申し上げるつもりで俺はチャックを睨む。

 

 信仰心なんてのはアルテミスに全部持っていかれた、隣にシスターメーヤが見れば卒倒する光景だろうが俺は、罰当たりなんて思わないぜ。

 

「だけどそれは後回しだ。宇宙旅行だ別の天体だ、そんな話はどうでもいい。神頼みに応えた? 異世界のミカエルが来てこっちで暴れてた時もうんざりするほど祈った俺だけじゃない、みんなが祈った。困ったときの神頼み、今と一緒。同じだ。だがお前は顔一つ見せなかった、グレたミカエルは暴れまくって、ルシファーもまた父に見放されたってそんでお見事、魔王の癇癪再発だ」

 

 ああ、結局いつものパターン。

 犠牲を払ってクランクアップ、足元は血だらけ。

 ここで口を紡ぐなんてできやしない、信仰心なんて瓦礫の中にでも埋まってろ。

 

「それがなんだ? 厄介事を片付けたあとにこうやって現れて‥‥‥祈りに答えるって言うならタイミングはもっと他に、もっとあっただろッ! ミカエルがこっちに乗り込んできたときでも、いつでも、もっとあったはずだ! さんざん血がぶち撒けられたあとにしたり顔で現れやがって!」

 

「分かってくれ。前にも言ったはずだ、介入はしない。まったくというわけじゃないがなんでもかんでも首を突っ込むわけにはいかない、過保護な親はよくないだろう? 自転車の補助輪もいつかは外れる、必要なのは見守ることだ」

 

「見守る? メーターが振り切った放任主義だろ。異世界産でもミカエルはあんたの息子だ、ルシファーもジャックの恩寵を盗んであんたの真似事をしようとした、一度地上を更地にして作り変えようってな。分かるか? あんたがアマラと宇宙旅行してる間にも大天使はあんたの影を追ってる! そんで割を食うのはいつも俺たちだ! 大天使御兄弟とおたくら銀河級プレイヤーに巻き込まれていつも俺たちの足元は血でグチャグチャになってる!」

 

「キリ、文句があるのはよく分かる。たたみかけるように怒りをぶつけたい気持ちも察するよ。だが度を越した干渉は愛情とはいえない、子供を駄目にする」

 

「‥‥‥それは、度を越した放任主義にも言えることじゃないかしら。家族は力を合わせるものでしょ、暗い裏路地を出る為に」

 

「ああ、だから枠組みは作ってある。こうやってまた君たちに姿を見せた。君たちというのはつまり、人間に。タイミングだよ、キリ。子育ては山あり谷ありと言うだろう、現実は君が思う以上に複雑だ」

 

 複雑ね。ルシファーに言わせれば父親を幻滅させるのが成長だそうだ、奴はそれを生き甲斐にしてた。

 

 駄目だ、感情のまま何を吐いたとしてもチャックはチャック。何を言っても通らない、虚しいだけか。そもそも相手が相手だ、こんなこと言うとは思わなかったがルシファーの気持ちが少し分かった気がする。

 

 やんわりと首を振り、数秒店内の音が有線から流れる曲のみになったあと、今度はチャックが切り出した。

 

 

「自然は美しい、だが人間は毒を持っている」

 

 錆びれたバーが一瞬で消え、何の音沙汰もなくまた景色が変わる。

 テレビのチャンネルを切り替えた、リモコンのボタンをちょと押すような気軽さで視界は180度変わった。

 

 人の手が入り込んでいない湖、幻想的なほとりが一瞬にして眼前に広がっていた。夾竹桃も俺もいまさら驚かない。背中を向けていたチャックが反転する。

 

「そう、毒を秘めている。ヒヒイロカネが大好きな毒だ」

 

「‥‥‥恋心、違うわね。戦争が大好きな愚か者」

 

「そうだ、聖戦とか僕の名のもとに。負けると赦しを乞いにくる。立て直しを頼みにくる、責任を取ろうとしない」

 

「自分は責任を取ったって言うのか?」

 

「だからかつては姿を消した。言ったろ? 過保護な親は良くない、自転車の補助輪を外したって。だが枠組みは決めてある、君に剣を届けたのもそう。カスティエルは何度修復したか分からない。介入すべきタイミングというのがある」

 

 ぱちん、とチャックが指を鳴らすと何事もなかったかのようにまたバーのテーブルに座っていた。湖の静寂も元の古びた店内BGMに。

 

「たとえばこの世界で、国ではなくこの世界全土の話だ。嘘をつけなくなったとしたらそれは、()が介入しなきゃならない」

 

 そう言うとチャックが壁にかけられていた年代物のラジオに向けた指をくるりと回す、チャンネルを‥‥‥捻って回すように、触れていないのに電源が入ったラジオから雑音が聞こえる‥‥‥

 

 

『株価が15000ポイント下落し、暴動が起きています』

 

『『パージ』は実話よ』

 

『政府はインチキ』

 

『外出は控えるように外は危険です』

 

 

 全身を強張らせたままなんとかチャックに向かい、首を斜めに問いかけるように傾ける。

 

「おい、なんだよこれ」

 

「嘘をつけなくなった世界、混乱に陥ってる。まあ、こういうことだ。お隣の彼女、いつから好きになった?」

 

「二人三脚でわざと転ばされて、一緒に高いハンバーガをシェアしたとき──‥‥‥えっ?」

 

 待て、ちょっと待て。

 今、なんと言った‥‥‥?

 

「そこなの? ねえ、よりによってそこ? そこなの? 間違って参加したカップルセラピーが決め手なの?」

 

 目を大きくして夾竹桃が見てくる。というか詰め寄ってくる、ちょっと待て口が勝手に。

 

「それは‥‥‥羽田で間宮の代わりに一人でかなめとやりあったときにお前が本当に死んだと思って‥‥‥あのときは本気でどうにかなりそうだった。ジョーが死んだとき、クレアが狼に転化しそうになったときと同じ怖さがあった、大切な人を失う怖さだ。好きになったキッカケはさっき話したとおり、でも本気でお前が‥‥‥大切だって再認識できたのはかなめとやりあったあの夜。生きててくれて本当によかった、救われたよ本当に、今もこうやって一緒にいられてすごく嬉しい」

 

 ‥‥‥見るな、そんな目で見るなァ夾竹桃ッ!

 ちくしょうめ! そりゃ世界が混乱するわけだ、嘘がつけない世界ってそりゃ外は危険で迂闊に出歩くなとも言いたくなるよ!  

 

 日頃キンジへの好意をバレバレだけど、周りから見たらバレバレすぎるけど隠そうとしてる神崎みたいなのにとっちゃまさに死活問題だ。クレアもジョディに嘘ついて狩りに行くいつもの一手が使えなくなる。

 

「あの‥‥‥夾竹桃、これまずいぞ。今は何も言わないほうが‥‥‥」

 

「‥‥‥とんだロマンチストね。けど私も一緒にいられて嬉しいし、あなたと一緒にいる時間は好き。C79も一緒に参加したいし、打ち上げもやりたい。この先もずっと一緒にいたいって、そう思ってる」

 

「急に素直になるなよ、超かわいいんだけど」

 

「素直じゃないパターンは?」

 

「そっちも好き、両方ありだな。あっ、ちょっと待て。今の尋問か? 誘導したな?」

 

「ええ、チャンスっぽかったし。‥‥‥危険よ、確かに介入するべきね。嘘のない世界って字面は綺麗だけど危険すぎる」

 

「だな。こいつはベビーな世界だ。簡単に友達をロスト、失っちゃいそうだ」

 

 ああ、これは字面とは裏腹にやばい。嘘と真実、どちらが正しいか云々はおいて、危険なのことには間違いない。

 てか、C79‥‥‥? 冬の祭典?

 

「さっきのだけどさ。一緒に参加したいって売り子? 手伝い?」

 

「楽しいわよ? サークルチケットもあるし、一緒にどう?」

 

「いいの? じゃあ喜んで。予定あけとくよ」

 

 真上から炎が降り注いだが代わりに年末のスケジュールが一つ埋まった。やや呆れた顔のチャックが「見てられるか‥‥」とでも言いたげな顔でパンと手を合わせて‥‥‥あっ、ラジオが切れた。

 

「これで元通り、もう嘘をつける」

 

「チャックとルシファーは大の仲良し──ああ、本当だ。嘘がつけた」

 

「ねちねちとした嫌がらせをさせれば君はギネス級だな。しかし、嫌な見方をする奴がいればそうじゃない奴だっている、なんだってそうだ。だから嫌な奴を気にしないようにする、そうすれば嫌なことばかりじゃない。それが世の中を渡っていくコツだ」

 

「自分の目と耳に嘘をつくのか?」

 

「真実がいつも救ってくれるとは限らない。それに僕は作家だ、嘘を付くのが仕事。さて、別に君たちの関係を後押しする意図はなかったが分かってもらえたかな。僕が介入するのはしかるべきとき、必要なタイミングで手を加える」

 

 はっ、手を加える、ね。

 なんともまた神っぽい、ルシファーがいれば呆れた顔で溜息ついてるだろうよ、目を逸らして。

 

「では、Nの目論むサード・エンゲージは介入するに足り得るの? そこは是非とも」

 

「ああ、聞いときたいもんだね。令状はないが」

 

 二人分の視線で話の舵を切り返す。

 最近キンジと神崎の間でも話題のレクテイア、各国の間で着々と二分化されているパンスペルミアの砦と扉の勢力を作り上げた、『エンゲージの大移動』について。

 

 嫌でも空気は重たく感じ、気持ちはチャックの口から出る言葉に身構える。

 

「まず介入するかどうかだが、君らも知っての通りエンゲージは今回が初めてじゃない。いや、回りくどいな。遠回しなのはもういいか。いつもどおり、好きにやれ」

 

「待て、どういう意味だ?」

 

「そのまんまさ。リヴァイアサンを倒したいなら好きにやればいい。目障りな相手は蹴散らせ、UKの賢人だっけ? 小物だが‥‥‥まあいいか。これまでだってやってきただろ? エンゲージが気に入らないなら踏みつぶせ、モリアーティ‥‥‥あの犯罪コンサルタントを叩けばいい。好きにしろ。リヴァイアサンを地上に放った君が砦に付くのは皮肉だがまあそれもいい。皮肉はガブリエルも好物だった、好きにやれ」

 

 思わず、いや、叫びかけた言葉が喉に引っ込む。いやそんな気はしてたさ、我関せず。まどろっこしく、結局回りくどくチャックはこう言ってるんだ。

 好きにやればいい、つまり自分は見てるだけ。お前らで勝手にやれ、いつものパターンだ。

 

「結局それかよ。ああ、好きにやれ。気に入らないなら勝手に片付けろのパターンか」

 

「モリアーティ、一応教授を付けてやるか。モリアーティ教授、実はロウィーナとも顔馴染みの彼だが影響力を広げたがってるレクテイアの神をこっちに呼ぶ見返りにギフトを貰ってる。ギフトというか、バックドアを開いてやった代金として新しい命を得た。今の彼は猫のように命を複数持ってる」

 

「‥‥‥命のストック、もう驚きはしないけど笑えない話よ。ツアーガイドのお礼に命をもらうなんて随分と気前がいいのね」

 

「ああ、ガイデロニケ、カーバンクル、ウェゼルフー、ルシフェリア、ラミエリア、アレハハキ、リービアーザン──彼は7柱の神から命を得た。モリアーティ教授と並ぶ、この騒動のメインキャスト7人だ」

 

「‥‥‥なんかのパロディみたいに嫌な名前が数個並んでやがるなぁ」

 

 勢力拡大を狙う連中と友達になってるのは知ってたが、ルシフェリア、ラミエリア、リービアーザン──聞き覚えのある名前をちょいと弄り回したみたいな響きだ。

 とにかく、この移住騒ぎを終わらせるにはこの別天体の神々たちと嫌でも関わることになるだろうって言いたいわけだ、こっちの神さまは。

 

「ちなみにルシフェリア、彼女は君の友人に一足先に口説き落された」  

 

 キンジか。

 

「でしょうね」

 

「案の定、いつものパターン。根っからの女たらしはレクテイア人にも効果ありか、勲章者だな」

 

「とまぁ、ビールサーバーも使わず長々と話したが砦でも扉でも好きにするといい、エンゲージを止めるにしろ勧めるにしろ、それを決めるのは私じゃない。君たちが決める、そう、決めるのは人間だ。ああただし、キリ。もし話をするつもりなら海王リービアーザン──彼女に会いに行くといい。君やディーン、クラウリーみたいなタイプと一番波長が合うのは彼女だ。フィーリングってやつか。ちょうど西海岸でくつろいでるところだ、一杯もらうよ?」

 

 まるで言いたいことは一段落したと、指を鳴らして手品のようにテーブルに取り寄せたビールを呷る。

 

 嘘だろ、西海岸だと?

 アメリカ本土にレクテイアの神の一柱が来てるって言うのか? 

 

「そのレクテイアの神がこっちに来ている7柱の中では一番対話しやすいと言うの?」

 

「キリに関してはそうだ、正直他の連中になると会話の席につけるかどうか。同じクリエイターのよしみでアドバイスすると、特にラミエリアと話をさせるのはお勧めしない。ナイフを抜くまで一分も持たないな」

 

「分かった、アドバイスをくれるのはありがとう。そのことは素直に礼を言うよ、そのリヴァイアサンの親戚みたいなのについてだが」

 

「あれよりは少食だ。あれは僕の作品を餌としか認識してなかった。それにちゃんと顔がある」

 

「どうせ西海岸のどこにいるかまでは教えてくんないだろう。いいよ、こっちでなんとかする。だから最後にもう一つだけ聞かせてくれ」

 

 話は一段落、ビールを飲んでくつろぎムードのチャックにこれが最後の質問だ。この機会を逃せば、もう聞けるときはいつになるか。俺の首が繋がってる間には無理かもしれない、だからここだ。ここで聞いておく。

 

 明らかな俺の変化に、チャックの、そして隣に座る夾竹桃の目も落ち着き、冷たくなる。

 

「言うのはタダだ、止めはしない。どうぞ」

 

「去年、剣を持ってきてくれた。おかげで俺はかなめを何とかできて、色金の一件も刻印と剣でどうにかなった。刻印と剣はセット、両方あってこそ価値がある。だが俺の刻印はあくまでも、ロウィーナの本を盗み見ただけのでっちあげ。ハリボテだった」

 

 刻印の効果を誰よりも知ってるアマラが評した、ただのハリボテ、でっちあげ、立派なのは見てくれだけ。

 

「ところがある日、ヒルダと俺は前触れもなく煉獄に飛ばされてた。数年ぶりにリヴァイアサンや魔物の群れに追いかけ回されたんだ。そこでイヴに、刻印を完成させるためには必要不可欠の、俺がでっち上げたハリボテにはなかった『リヴァイアサンの蜜』をあの女が混ぜたことで話は変わった。でっち上げの刻印は出力が跳ね上がって、殺しのドラッグとして俺の頭をぐちゃぐちゃにしてくれた、忌まわしいリリスの幻覚を見るくらいにな」

 

「回りくどいな、一から十まで説明したあとに入れないと駄目なのか? その質問は?」

 

「煉獄の扉を開ける奴なんてたかが知れてる。死の騎士でさえ少しの間扉を開くのに準備が必要だった、鍵を回せるやつなんて限られてる。いったい誰がぶち込んだ?」

 

 なあ、チャック。

 たとえば、お前は剣を持ってきた、だけど俺の刻印はでっちあげだ。そこで煉獄でイヴにリヴァイアサンの花を用意させた、するとどうだ。刻印と剣は揃い、俺はかつてディーンがそうなったように涎を垂らして殺人ドラッグを撃ち込まれた狂犬だ。

 

 妙な話と妙な話が合わさって、少し筋の通る話になったと思わないか?

 神崎に打ち込まれた緋弾、色金のしがらみを断つ為にいつもどおり犠牲を払う。それはなんというか、自己犠牲や代償を美化してなんぼのつまらなさそうな物語に見えてこないか?

 

 

「もしかしてなんだけど、俺とヒルダを煉獄にぶち込んだのってあんたじゃないのか?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「いや、だってさ。あんたは小説家だ、物語を書き連ねるのがライフワーク」

 

 

 その方がお前の好きな展開だから。

 お前の望む展開だから、そう思っちまう俺は。

 やはり信仰心なんてとっくに、どこかに捨てちまったんだろう。

 

 

 

 

 

 

「なあ、本当によかったのか。もう一ヶ月と少しなんだぞ、冬の祭典。入稿とか色々と追いかけられる時期なんじゃねえの?」

 

「45日あれ行けるわ。去年は45日でなんとかできたから、今年もなんとかなる。闇のあとには朝が来るものよ」

 

「竜巻も来るけどな」

 

 アメリカ西海岸。ロサンゼルスと並んで主要空港の一つであるサンフランシスコ国際空港のロビーを抜けると、冬のカリフォルニア州の空と空気が出迎えてくれた。

 11月でも晴れた空の下はまだ穏やかな暖かさを残してくれてる。これが東海岸ならそうはいかない、西海岸をバカンスに選んでくれた彼女に感謝だな。

 

「ウェルカムドリンクは?」

 

「あとでいい。本当に迎え頼んだの?」

 

「頼んだというか向こうから連絡が。チャックが言ってただろ、顔馴染みだって」

 

 前回イギリスに行ったときも存分に俺の足を轢いてくれた赤いキャリーバッグを引きずる夾竹桃は、右に左に、空港を出るなりに辺りを探るように首を振る。

 

 西海岸の主要空港だけあり、送迎サービス、バス、電車、移動手段には事欠かないがあらかじめ打ち合わせた通りに俺と夾竹桃は公的機関をスルー、空港から溢れる他の観光客と別れていく。

 

 さすがに西海岸、正反対のスーフォールズからアレックスやクレアを呼ぶのもさすがに悩んだ。

 道路の脇にコンバーチブルのマスタングを見つけ、俺は助手席、夾竹桃は後ろをバッグと陣取るように乗り込む。真っ赤なマスタング、この系統とは本当に縁があるぜ。

 

「キリエル、私をタクシーに使うなんて偉くなったわね」

 

「出迎えありがとう。でもその名前は不気味だから呼ぶなって言ったろ」

 

「いいじゃない、私は好きよ。炎魔戦士キリエロイドみたいで」

 

「援護しなくていいの、だから不気味だって言ってんだよ。ロウィーナ、いいから出して。トークバトルは走りながらやろう」 

 

「次のダイナーまでよ、そこで交代ーーちゃんと鏡は見てるの。首の裏が真っ黒、日焼けでもした?」 

 

「日焼けサロンに潜入したからな」

 

 

 派手なサングラス、赤毛の髪をなびかせて珍しく車を駆るのはロウィーナ・マクラウド。スコットランドの赤毛の魔女で、あのモリアーティ教授の顔馴染みらしい。

 長く生きてるだけに顔が広くて驚く。

 

 またもや本土に舞い戻り、今回は夾竹桃も引っ付いてきて西海岸の冬の空の下、久々の故郷の土を踏んだのも束の間にUS-101号線を車で駆けている。

 

「それで、だだっ広い西海岸を走り回ってモリアーティが招いた客を探すつもりなの?」

 

「ま、そうなる。だからこれからあの手この手、探す方法をこれから考える」

 

「いつもどおり、無計画ってことね」

 

 吐いて捨てたロウィーナの運転に揺られ、見慣れた本土の景色は前から後ろ、車と一緒に流れていく。

 

「朗報もある。モリアーティはレクテイアの神から命を分けてもらったらしいがその一つをシャーロックがかすめとったせいで魔術の式がぐちゃぐちゃ、一割二割くらいしか機能してないらしい」

 

「シャーロック・ホームズがスリ? 笑った」

 

 ああ、笑えるけど救われたよ。 

 だだっ広い西海岸、この本土のどこかにいる。

 モリアーティ教授が呼び込んだレクテイアの神の一柱──リービアーザンが。

 

 

 

 





 
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