哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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女神

 

 

「あのカインが養蜂家とはの。出会ったのが昔すぎて妾の記憶もモヤッとしとるのだがヤツは死臭を垂れ流す幽鬼のごとき悪魔だったはず‥‥‥」

 

「まあ、ルシファーが直々に選抜した地獄の騎士の教官だったからな。呪いの殺人衝動を抑えるのも当時は必死だったんだろ。アバドンが愛人を殺さなきゃもうちょっと穏やかだったのかもしれねえが。養蜂家を怒らせたらとんでもないことになる」

 

「アバドン、またしても忌むべき名前じゃ。鼻につく気取った喋りをする悪魔じゃったの」

 

「腕はいいけど性格に難ありの究極体さ。女王を気取ってる暴君の中の暴君。あれは二度と会いたくない女の筆頭だ。しかし、まさかレクテイアの神がウチのご先祖と縁があるなんてな」

 

 

 荒れたプールサイドからどうにか生き残っていたリクライニングチェアを二つ引っ張り出し、隣合わせに並べて寝転がった俺とリービアーザンは、ああだこうだと地獄の有名人についてボヤいていた。

 

 俺の左手とリービアーザンの右手には超能力者用の手錠が繋がれ、並んだチェアのすぐ外には発火前の聖油で逃げ場を奪うようにサークルを描いている。

 一応逃走を防ぐための保険だったんだが───

 

 「動いて疲れた、海王はそもそも朝貢される立場じゃ」と、リービアーザンは気怠げに言ってリクライニングチェアに一度寝転んでから全然動かない。

 どこから出したのか分からないグラサンまでかけて完全にお寛ぎの様子だ。

 

 このリクライニングチェアも、色々情報を聞かせてもらうためにストレス軽減の意味で並べたんだが──獣人や魔女の話から、カイン、アバドンなどなどどんどん妙な軌道に話が逸れていき、

 

 

「リービアーザンは古くからテラ──この星には何度も来ておるのじゃ。母からもらった記憶にはヒト以外のモノ、過去に権力を握っておった悪魔と懇意にしたものもある。地獄の騎士アバドンもその一体じゃが最後は決裂して妾の魔曲で腕を切り落としてやった」

 

「効果なかっただろ。あいつは手や腕が飛んでも念動力で操れるし、俺も一度体をバラバラにして動けないように埋めてやったが結局しつこく這い出て報復に来たよ」

 

 通りがかった女の子の腹を割いて血まみれのシャツを奪い取ってからな。アバドンはそこにいるだけで血の雨を降らせる最低最悪のモンスターだ。

 殺人衝動の塊みたいな頭に強力な力を備えてるからタチが悪い。

 

「それで、兄弟殺しの血統よ」

 

「その不気味な言い方はよせ。雪平、キリ、ウィンチェスター、どれでもいいから」

 

「では、キリと。最後のは長くてかなわん。アバドンの癇癪を買ってよく生きておったな。ヤツはずる賢く慎重じゃ、ヤツだけがカインの粛清から逃れ生き延びた。よくぞヒトの身で騎士を屠ったものじゃ」

 

「正確には刺したのは俺じゃない、俺の兄さん。俺の家族はみんな、なんていうか綱渡りの連続だよ、褒められたもんじゃない。何とか今でも運良く首が繋がってるだけ」

 

 落ちたこともあるが紆余曲折あって結局首が繋がって元のレールに戻される。回し車を回すだけの人生、否定しないよ。実際、神は俺たちに世界の破滅を毎度押し付けて自分はポップコーンと高みの見物。

 

 世界の終わりを押しのける度に周りの誰かは死んでいく、後味最悪のクランクアップで終わり。そして別の形でまた厄介事が押し付けられる。

 

 まるで史上最悪のペテンにかけられてる気分だ。

 恐ろしいからずっとそう思わないようにしてきたが神は、チャックは腹のなかに『危険なモノ』を隠してる。

 いつかそれが外に出てしまったら──

 

「そう、運良く首が繋がってるだけだよ俺は」

 

 かぶりを振ると、リービアーザンはグラサンを下げて深い深海色の瞳で俺を見てくる。

 派手な見た目に騙されそうになるがその視線に静かに射抜かれると、やはり人とはかけ離れた存在感の大きさを実感させられる。

 

「後ろ向きな物言いじゃな。キサマの仕事は魔を仕留めること、武勲は求めぬのか?」

 

「はっ、屍の山の上にか? 自己犠牲も平和と犠牲の等価交換もごめんだ。この国には大勢の敬虔な民が神に祈りをささげてるが肝心の祈られるべき神は──あんたほど話が通じるヤツじゃない」

 

「ふむ、神にも色々ある。話が通じるかどうか、それは神によりけりなのじゃ。我みたいに高潔で民の声にも等しく耳を傾ける、賢くてカワイイ神ばかりとは限らんよ」

 

「‥‥‥賢くてカワイイ?」

 

 半信半疑の目を向けてやると、リービアーザンは両手の人差し指で自分を指し、そのギザギザな歯をニッと剥いてあざとい笑顔を見せてくる。

 

 なんつーか、賢くてカワイイ女神っていうより、デビュー仕立てのこれから絶対売れてやるって底なしの野心を抱いてるアイドルみたいなんだけど‥‥‥

 

 テレビ以外でそんなポーズしてるの理子以外に初めてみたぞ。

 破茶滅茶なノリと個性たっぷりのツートンカラーの髪の毛は絶対に理子が食いつくやつだ。きっと仲良くやれるよ、おたくら。

 

「あんたは神様っていうよりノリのいいバーテンダーみたいなんだけど‥‥‥。けど実際、あんたとは別のレクテイアの──ラミエリア。そっちの女神と俺は絶望的話が合わないって言われたんだが」

 

「ラミエリアは自分のことが大好きで大好きで堪らん女神じゃからの。臣下に自分を誉めさせ、持ち上げさせるのが大好きな自己愛の塊のような女神なのじゃ」

 

「会ったことはないが石にでも派手に躓いて転んでほしいね」

 

「それが答えじゃ。キサマがラミエリアの言葉に噛みついて、ヤツは怒りをより滾らせる。となれば堪え性のないキサマとラミエリアの間で死合いが始まるのも必然。話の分かる妾に謁見したのは紛うことなき慧眼よ」

 

「ま、たしかに。他の女神とこうやってプールサイドで寝転んでられるかって言ったら怪しそうだ。特にそのラミエリアってのとは無理だろうな。バッタリどこかで鉢合わせないことを祈っとく」

 

 ラミエリア、ここまで言われるとどんな女神なのか逆に気になってもくるが備えなしで会いたいとは思わないな。

 

 

「──じゃが、ラミエリアも死の龍ガイデロニケ。あの殺戮の女神に比べれば遥かに温厚と言うべきじゃろうな」

 

 

 ふと、ところどころ陽気な物言いで続けていたリービアーザンが声のトーンを下げた。

 ガイデロニケ、そいつもたしかにレクテイアの女神の一柱だったはず‥‥‥

 

 

 

「その感じはお友達じゃないよな?」

 

 なんだ、いまのは‥‥‥ただ名前を口にするだけなのにリービアーザンが、警戒した?

 

「殺戮の女神、星を渡る不死の龍神。キサマが真に避けるべきはラミエリアの謁見ではなく死龍ガイデロニケの降臨よ」

 

 不気味な言葉が連なりまくってるがリービアーザンは誇張してるって感じじゃない。破茶滅茶な物言いもするがこの人魚はこういうつまらない嘘をつくタイプじゃない。

 本気でやばいんだな、このガイデロニケってのは。

 同じレクテイアの女神でも警戒する、モノホンの化物ってことか。

 

「死龍ね‥‥‥これまた伝説の殺し屋みたいな不穏すぎる二つ名だこと」

 

「妾と死合ってまだ首が繋がっているヒトというのも珍しい。これは武勲、勲章代わりにキサマに教えてやろう。レクテイアには『ガイデロニケは忘れた頃にやってくる』という諺がある。その危険性を忘れぬようにな」

 

「忘れたころにやってくる危険な女神─────まるでおとぎ話みたいだな」

 

「それも間違えではない。ガイデロニケはある日いきなりどこかに何らかの方法で降臨し、それから数十年の活動期に入り、いずれ休眠期に入る。休眠期には数年から数百年と幅があるのじゃ」

 

 ああ、なるほど。

 暴れたあとには長い眠りに、まるで何もなかったかのように姿を消しちまう。

 

「そしてみんなが忘れた頃に現れるわけか」

 

「ガイデロニケは皆がその存在を忘れ、油断してる頃にまた降臨してくる常。この世界の言葉で言うならヤツは予期することのできぬ災害」

 

「降臨と同時に周りの環境をぶっ壊すのか? 特大のハリケーンみたいに」

 

「そんなところじゃ。ガイデロニケの降臨は自分の血を引く竜人族の娘を標にして行われる。そして標とした者の記憶を読み、敵対している種族を辺り一面の全生物ごと滅ぼすのがヤツの習性よ」

 

 ちょ、ちょっと待て‥‥‥!

 

「本気か? 敵勢力を取り除くために、敵味方関係なしに丸ごと焼き払うだって?」

 

「ガイデロニケは答えが見つかるまで石を一つ一つ裏返し、手がかりを束ねていくような女神ではない。敵認定した者は周囲の全生物ごと滅ぼす。ミジンコ一匹、海草一本残さず、生きとし生けるものを等しく鏖殺する、まさに死の龍よ。そしてその降臨は近く、テラ──こっちの世界の標を使って行われるおそれありと、妾の貝占いが示してな」

 

 一瞬、頭が真っ白になる。

 が、すぐに冷静になって背中が冷たくなる。

 今、リービアーザンは何て言った‥‥‥?

 

 

「ちょっと待て、その傍迷惑なレクテイア産のサイコパス女神がこの地球に現れるってのか!?」

 

「妾の貝占いにはそう出ておる。降臨を防ぎたくばその標を取り除くのが手っ取り早いがヤツの血族がテラに来ておるかどうか。この海王と死合い、生き残った名誉にもう一つ忠告しよう。クラゲほどの記憶力しかないかもしれんがよく聞いておけ」

 

 一呼吸置き、完全にサングラスを取って真剣な眼差しになったリービアーザンに俺も息を呑む。

 

「ガイデロニケは平等に死をもたらす」

 

「それはさっき聞いた」

 

「ヤツの力は強大。おまけに不死じゃ、どのようなものであれガイデロニケは殺せぬ。妾はそこそこお主が気に入った、あの地獄の騎士に一泡吹かせてくれた礼もある。じゃから言っておく。逃げろ。ガイデロニケとは戦うな。決して勝てぬ」

 

 凛として、一切の茶化した様子もなくリービアーザンは言い切った。

 混じり気のない、真実だけを連ねてるのはこの短い時間の関係でも分かった。

 

「ありがとう、さっきまで本気でやり合ってたのに心配してくれるのか。そのやばい情報をくれたのにも素直に礼は言っとくよ、海王リービアーザン」

 

「ふん。礼とあらば妾のテラ侵略計画がうまくいった暁に、兵として力を貸すがよい。まずは珊瑚を底引き網でバキバキに折りまくる不遜な人間共じゃ、この妾が直々に引導を渡してやる」

 

「‥‥‥珊瑚については頭が痛いな。けど、手当たり次第に魔物を凶暴化させて兵にしようとするよりは、あんたの侵略計画は遥かに平和そうだ」 

 

 異世界のミカエルよりは。

 あのグレた天使に比べたら温厚、平和的だしな。

 

「さて。妾はなにか食べにいく。さっきキサマと死合ったゆえ腹が減ってかなわぬ」

 

 と、唐突に立ち上がったリービアーザンは濡れた鱗を玉虫色に燦めかせて、その腰の周囲に水色の光粒が周り始めた。

 立ち上がったことで伸びた手錠の鎖も、パキっと折れるような音を立てて鎖から引きちぎられる。超能力者用の手錠が外れた‥‥‥? それにこの光は──

 

「お、おい‥‥‥リヴァイア!」

 

「妾はノアに帰る、聖油で閉ざすか? 残念ながらそれでは止められん」

 

 光の粒は彼女の周りで円を描き続け、その数は2粒に、4粒に。次第に分裂し、数を増やしていく。

 その奇妙奇天烈な光景は何度も見た。間違えるわけがない、このタイミングで瞬間移動かッ!?

 

 ちぎれた鎖がむなしく垂れた片方の手錠だけが俺の腕に残り、タダのブレスレットみたいになってるリービアーザンの手錠も割れるように解錠され、そのままプールの方へ吹っ飛んでいく。

 ‥‥‥まあ、超能力者を縛り付けるのに用意された手錠に『神』を抑えつけてくれてってのは酷な話か。

 

 

「けっ、いつでも逃げられたワケか」

 

「キサマとの話も退屈しのぎよ。じゃが妾の口から告げたのはすべて真実、ゆめ忘れるでないぞ」

 

 殺戮の女神ガイデロニケ、しつこく釘を刺すようなリービアーザンに俺は降参するように両手を挙げる。

 

「覚えとくよ。元々あんたを倒してどうのこうのってつもりで来たわけじゃない、貴重な話と時間をくれただけで十分だ」

 

 演算の邪魔はしない、そう両手を挙げて俺は一歩リクライニングチェアから立ち上がって後ろに退く。

 するとリービアーザンは満足気に一度頷いて、回収していた竪琴に手を這わせ、ゆるりと鳴らす。

 

 その体は、瞬間移動の光靄で顔から尾ビレの先まで水色に輝いて見える。

 

 

「今宵の死合いはうまかった」

 

 

 リービアーザン、レクテイアの海の神。

 今日はこのまま友好的に別れるとしよう、たった一柱でも話の分かる女神がいたってだけで収穫だ。

 

 

「しかし、また次が。うまいとは限らない」

 

 

 水色の光が失せたとき、鮮やかな髪の人魚の姿もそこから跡形もなく失せていた。 

 最後の最後に奇天烈な言葉を残していきやがって。

 

 

(変な女だな。けどまぁ、悪意の塊ってヤツじゃなかったな)

 

 リービアーザン。

 できることなら、次に会うときも友好敵なお別れで終わりたいもんだね。

 

 あ、言うの忘れてた。

 

 

「──May we meet again. (再び会わん)

 

 

 

 

 

 

「呆れた」

 

「呆れたわ」

 

「呆れたな」

 

 挟み撃ち、板挟み、計三人からの不穏な視線の集中砲火を浴び、俺はこれ以上ない不満を込めて溜息をこぼしてやった。

 

「なあ、お前らもしかして俺がプールで女とはしゃいで遊んでたとでも思ってないか?」

 

「あら、そうじゃないの?」

 

「全然違う。ロウィーナ、さっき言った通りだ。俺は人魚みたいな神様と派手にやりあって、そのあとプールサイドで話してただけ。なんで俺が金を出すのに俺が集中砲火浴びるんだ、ちくしょうめ」

 

 

 サンペドロから車で一時間もかからない距離にあるLA最大の日本街『リトル・トーキョー』の小料理店の一つから個室を借りて、今まさに俺のポケットマネーでロウィーナ、夾竹桃、ケッチの三人は飲み食い真っ只中。

 

 そこそこ格式のある立派な店を選んだのは、高級ホテルに宿を取るのが大好きなロウィーナと夾竹桃。一級品を好むケッチも流されるように二つ返事、リービアーザンへの謁見から一夜明けないうちにこの有様とはな。

 さすがは夜も昼も賑やかな欲望と金の渦巻くロサンゼルスだ。退屈させてくれない。

 

「派手に戦った相手とその日のうちにプールサイドで雑談を? レアなパターンね」

 

「安心しろ、ちゃんと役に立つ話を聞いてきたよ。人魚のお話によれば、あっちの女神のなかにはいけ好かないミカエルみたいな自尊心の塊みたいなヤツの他にも、ガニメデなんたらって危険なのがいるらしい。いわく、殺戮と不死の龍神さまだと」

 

 さっきから古風な皿に盛り付けられたカンパチにご執心な夾竹桃に、そしてケッチとロウィーナにも交互に視線を振りながら答えておく。

 個室とはいえ、一応名前は伏せて。

 

「いいニュースと悪いニュースは天気と交通情報のようにセットだと思っていたが、なにかいいニュースはないのか?」

 

「そうだなぁ、人魚の方は多少癖はあるがこっちの異教の神々よりずっと話が通じるヤツだった。あの犯罪コンサルタントと取引したからって全員が倫理観とは無縁のやばいヤツってわけでもないらしい」

 

「いいニュースって言うには弱くない?」

 

「夾竹桃、一度頭をクリアにしてから考えてみろ。もし俺と一番相性がいいって言ってた女神がコミニケーションの成立しないガゾートみたいな人食いだったらどうする? 実際、異教の神のなかには人を食うやつがたくさんいる。そうじゃないって分かっただけでも収穫じゃないか?」 

 

「咄嗟によくそれだけ屁理屈が吐けるわね、あなたのそういうところたまに感心しちゃう。美味しいわよこのカンパチ。シェアする?」

 

「おっ、じゃあもらう。どうも」

 

 何よりのいいニュースはまたこうやって全員首が繋がって飯が食えてるってことか。まあ、正確には俺は一回殺されてるわけだけどそれは野暮ってことで。

 

「それで、あのホテルにまじないをかけた魔女のほうだけど。えっと、なんだ。泥棒魔女だって?」

 

「ええ、その通り。昔、私の留守を狙ってアパートに上がり込んだいけ好かないガキよ。今回はその母親と妹と合わせて三人で私の邪魔をしにきた」

 

「上がり込んだってことは、お前の記録してるまじないとか魔導書を狙って忍び込んだのか」

 

「正面から私にかなうわけはない。だから私のいない間に忍び込んだ、部屋に仕掛けた罠に引っかかって何も盗めやしなかったけどね」

 

 ロウィーナと正面からぶつかってなんとかなる魔女なんてもうこの世界に何人いるか。しかし、ロウィーナの住処に何の考えもなしに踏み込むとはな。

 この性格を見たら保管庫を無防備にしておくわけないのによ。

 

 

「個性的な三人だった、とてもね」

 

 へぇ、癖ありまくり尖ってる夾竹桃から個性的なんて言われるのか。

 

「それ、どのくらい?」

 

「ああ、それは。呪いとドラッグの蔓延る街にパラダイスビーチと名付けるぐらいかな」

 

「そうね、そんなところよ」

 

「‥‥‥よくあの女神さまと協力関係を結べたな。とりあえずそのやばい三人は? 一応まだ首は繋がってるんだよな?」

 

「キリエル、私は血も涙もある魔女。けどこれはたとえるならスリーストライク。愚かな三人には相応の罰が必要になる」

 

「やばいとは思うがそんなに愚かか?」

 

「たった三人で私たちを相手にできると思ったのも愚かだし、私を二度も出し抜こうとしたのよ? 非常に愚かだわ。だから魔女がもっとも恐れる罰を受けてもらった」

 

 と、楽しげに、恐ろしげに。まさにステレオタイプの魔女の笑みと言うべき表情が赤毛の魔女を彩る。

 

 ‥‥‥まさかその罰って、お前が自分を追放した魔女組合のボスにかけたってハムスターになるまじないじゃないだろうな?

 

 

「分かった、魔女のことは魔女に任せる。うまくやってくれたなら何も言わない、夾竹桃が何も言ってないしな」

 

「あら、引っかかる言い方ね。あの連中は私たちの体を燃やそうと大胆不敵に仕掛けてきたの、フォックスリバーやグアンタナモに送られるよりもこれは遥かに寛大。お前とその小娘の不殺のルールに免じて減刑してあげたわ────というわけで私は傷を癒す、30年もののコニャックで」

 

「はぁ‥‥‥!?」

 

「ああ、それは素晴らしい特効薬だ。あらゆる傷に効果が見込める」

 

 俺のポケットマネーから出すのか?

 その、30年もののお高い酒を。

 

「そんな顔をするな、資金というものはたまには放出して自らに還元してこそ。20万ドルほど隠してあるんだろう?」

 

「あら、大金ね。雪平、あなたトランクルームの他に隠し口座まで持ってたの?」

 

「その危険は言い方やめろ。ったく、スミソニアンで働いてた頃に稼いでたのがいくらかあるだけだ。ああ分かった、コニャックで乾杯しよう。奢るよ」

 

 ‥‥‥でもいいのかなぁ。

 形式的には俺も夾竹桃も学生なんだけど。

 

 と、俺は夾竹桃に目を向けるが。

 

 

「いいんじゃない? ルールや法則を破るのはあなたたち一家の特技でしょ?」

 

「ルールはちゃんと守らないと痛い目見るぞ。つか、今度はなんだそりゃ、潰れたベリーか?」

 

「アサイーボウル、またの名前をアマゾンのスーパーフード。うん、悪くない」

 

「俺は離乳食みたいなスムージーで十分。あとはコニャックでお腹いっぱいの予定だ。毒をばら撒く蝶を部屋に放し飼いしときながら、健康食品を暇さえあればすすって‥‥‥矛盾してないか?」

 

「あなたはベリーの偉大さを知らないのね。狙撃科でも視力向上のブルーベリーが栽培されてるでしょ」

 

「レキが闇鍋に突っ込んだヤツだろ。食べ物ブームに踊らされすぎだ、今日はアマゾンの謎のベリー‥‥‥次はなんだ?  オメガ3がどうとかでサボテンの実でも食うか?」

 

 そうこうしてると、グラスが4つ。

 そしてお高い酒がテーブルに。ああ、このメンツでこんなものを囲むとは、予想してなかった。人生は読めないことはだらけだ。

 

 注がれたグラスを各々持ち上げて。

 俺は今日も、そして明日もジョーやエレン、みんなが繋いでくれたこの命を大切に使うよ。

 いつかそう、首が落ちるそのときまで。

 

 

「夾竹桃、ありがとう。ケッチもロウィーナも、今回のこと。力を貸してくれて本当に助かった」

 

 

 ロウィーナにケッチに、夾竹桃に、グラスをぶつけて喉に流し込む。

 

 透明なグラスに乾いた音があまりに心地良い。

 家族に乾杯。

 

 

 

 

 

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