哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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とものなまえ(ジャンヌ・ダルク)

 

 

 教会でのルシファーによる神父の殺害ーー

 無論、それは公には神父に宿っていたグレゴリのこともルシファーのことも明らかにされていない。真実を知ったところで一体誰が信じるというのだろう。

 

 ルシファーがよりによって教会で、最初に地上に降り立った先遣隊の天使を葬った。それも神父の体に宿ったグレゴリを。

 最初から最後まで、どの角度から覗き込んでも皮肉が効きすぎてる。

 

 

『いや、切のヤツが電話をよこしたんだがインパラが動かないから助けてくれって叩き起こされてなぁ』

 

『ふむ。キリがインパラをか⋯⋯?』

 

 

 武藤からそのやや不可解な電話をもらったのは、ちょうど同僚の毒使いの退院が決まった日だった。

 

 ご自慢の1967製のインパラ。

 何度壊れても修理を諦めず、家族以外にはハンドルすら明け渡さない男。

 育ての親同然のボビー・シンガーもかつて修理工だった、車輌科に転科してもそれなりにやっていけると言っていたのは武藤自身。

 

 

『これまたさらに不可解なことに、レッカーは来れないからってインパラのエスコートまで頼まれちまってな。今は車輌科のガレージで預かってるんだが自慢の彼女待たせといてあの野郎連絡がつかねえんだよ。お前のほうでなんか心当たりねえかァー?』

 

 

 だからこそ、武藤から発せられる言葉の一つ一つが不可解だった。

 シボレー・インパラはあいつにとって単なる車以上の意味を持った家族であり、帰るべき家だ。

 

 武藤の声に怪訝な顔が付いているように、少し頭を冷して整理してみても違和感が纏わりつく。

 

 そして、やや悲観的な私の違和感が真実味を帯びたのはーー

 ガレージで見つけたインパラのシートに選り分けるようにして置かれていた、ナイフ、スキットルや写真というあいつが大事に抱えていた大切な形見の数々を見つけたときだった。

 

 

 あれだけ騒がしかった男は、まるで役目を終えたとばかりにーー12月、年が終わってしまおうと一瞬の影すら見せず、姿を消してしまった。

 

 そして年が明けてすぐ、ブランドのコートを靡かせてそれはつまらなさそうな顔でアナエルが現れた。

 

 とき同じくして、音沙汰のなかったルシファーの動向と聞きたいとも思わなかった、すべての事実を引き連れて。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁーんだ、いつものパターンじゃん。死んだと思わせてまた何食わね顔で現れちゃうんでしょー。ね、アリアもそう思うよね? なんたってキリくんは素っ裸にして北極点に置き去りにしても次の日にはよく分かんない英語が並んだ変なシャツ着て、何も無かったように満面の笑みでプールサイドに現れる男だよ? まさか⋯⋯まさかね⋯⋯卒業式はまだまだ先なんだよ? 死ぬわけないじゃん」

 

 

 ソファーに寝そべり、家主がいなくなった男子寮の部屋で理子は足をばたつかせ早口に言い切った。

 テーブルの上に散乱したスナック菓子の袋もイチゴ牛乳のパックも、いつもなら小言を真っ先に入れている誰かがいないせいで、荒れるままだった。

 

 

「そ、そうね⋯⋯珍しくあんたとまた意見があったわね。落としても落としても首が生えてくるようなヤツよ、あたしはよく知ってる。ジャンヌあんたも白雪もこっち系に詳しいんだから分かるでしょ? それで、今回はどのくらいで帰ってくるの? ちなの誕生日もすっぽかして背中に蹴り入れてやるんだから⋯⋯ううん、風穴、風穴よ。キリは風穴、はい決まりっ、はい決定っ!」

 

 と、理子に話を振られたアリアも同様に。

 落ち着きとは無縁な態度で、それでも腕を組みながら緋色の瞳は平然を装おうとしている。

 

 

「⋯⋯教えなさいよ⋯⋯帰ってくるんでしょ? まだあの馬鹿に500ドル貸したままなの、アナハイムに試合観に行くってかなめも楽しみにしてる。ジャンヌあんた魔女なんだから分かるでしょ。で、いつなのよ⋯⋯どれくらいの期間⋯⋯なの? 今度はいつ戻ってくるのよ」

 

 

 だが、それも壊れて私と白雪に大きく開いた目で首を振った。

 

 レキとハイマキは何も言わず天井を見つめるばかりで、夕暮れをカーテンが隠しているおかげで目覚めたヒルダもつまらなさそうに、何もない虚空を影で持ち込んだアンティークチェアから虚ろ気味に眺めているだけ。

 

 あれだけ煩かった部屋が、今は剣戟も銃声も喧騒も何もない。

 

 

「アリア、キリは⋯⋯」

 

「無理ね。虚無に落ちたとすれば話が違う」

 

 言い淀む私とは対照的に、端的に、冷え切った声色でヒルダが眩い金髪をなびかせかぶりを振る。それはとても、とてもつまらなさそうな顔で。

 

「煉獄、地獄からも帰ってきたわ。でも今回は、雪平は虚無に堕ちたんでしょう? 無理よ、今までと違って隙間を突けるような浅い墓穴じゃない。虚無は特別。それはね、一番あの男が分かってる」

 

 そうではない現実を、できれば求めたいと⋯⋯ヒルダの横顔は本当はそう口にしたいと言っているように見てしまう。

 

「殺しても死なない男じゃない。殺してもあの手この手で墓穴から出てくるのがウィンチェスター、死なないわけではないの。ありとあらゆる『死』を拒絶できるわけじゃない」

 

「⋯⋯虚無はヒルダの言うとおり特別なのだ。この話を持ってきたアナエルが嘘をつく理由も⋯⋯ない。彼女もキリにとっては友人のようなものだからな、嘘ではないだろう」

 

 

 できれば受け取ることなど拒否してしまいたい現実を口にする。ここで現実を逸らしたところで、どうにもならない。何の解決にもなりはしない。

 

 アリアも理子も馬鹿ではない。

 二人とも聡明で、何より脈々と偉大な先祖から受け継がれてきた鋭い直感が備わってる。本当は理解しているんだ、アリアも理子も。

 

 口を閉ざしたままの白雪もレキも、目を伏せてジッと動かないハチマキですらなんとなしに察しているのだろう。

 

 

「キリは虚無に飲まれた⋯⋯つまり、それは⋯⋯そういうことだ。ルシファーという怨敵を自分の身を賭けて打倒した。もうーー戻ってこない」

 

 

 

 ああ、きっと今の私は、ひどい顔をしているのだろう。   

 それはそれはひどい顔で、今にも打ちひしがれそうなのを必死に足掻き耐えているんだ。

 厳しい現実が押し寄せてきたときこそ冷静に、常日頃の鍛錬を活かすべきだと頭では分かっているのにな⋯⋯

 

 

 

 

『2100万⋯⋯絨毯が? 高すぎすぎだろ』

 

 

『そう驚くな。100年くらい経ってるんだろう』

 

 

『それじゃ中古だ。考えてみろよ、聖女さま。20万もあったら家中に敷けるぞ、床にも天井にも。高すぎる、空飛ぶ絨毯じゃあるまいし』

 

 

『しつこいぞ、アラジン。次の店だ、Follow Meーーーー』

 

 

『絨毯なんてベルベル人でも書いてる適当なのを⋯⋯ああちょっと待てェ!』

 

 

 

 仕方がない、私も楽しかったからな。過ごした時間は二年年足らずだが、とても楽しかった。

 ああ、だからとても⋯⋯残念だよ、キリ。

 本当に残念だ。信じたくはない、お前のことだ何かをねじ曲げて帰ってきてくれると本当はそう思いたいのだ⋯⋯

 

 だが、お前もそれは望まないだろう。それは⋯⋯現実を見ていないだけだからな。

 お前が多くの、仲間の犠牲を受け入れ背負い、それでもハンターで、武偵であり続けたように私も現実を見るとするよ。

 

 

 ⋯⋯少し、前のようなタフな私に戻るには時間はかかるだろうがな。

 とても、残念だ。私も理子と同じで⋯⋯お前と桃子からの招待状を楽しみに⋯⋯楽しみにしていたんだがーー

 

 ⋯⋯分かっているとも。

 お前は自分の首を賭けて、もっと大切なものを手元に残した。それは、お前の嫌いな自己犠牲でも等価交換でもない。

  

 

「⋯⋯ねぇ、十字路は? 十字路なら⋯⋯」

 

「ダメだよ、理子。虚無はルシファーですら飲み込みんでしまうんだ。キミがどれだけ取引の期限を叩き売りして、どれだけ好条件を出しても十字路の悪魔に虚無にContactできる力なんてない。何よりーーキミが取引することなんてユキヒラは望まない、それは⋯⋯キミだって分かってることじゃないか。ダメだよ、理子」

 

 

 踏み込むべきではない扉に、手をかけようとした理子にワトソンが制止をかける。

 

 

「分かってるよ、ボクだってそうさ。色んな物を犠牲にして⋯⋯国と国民に尽くした人間が⋯⋯っ! どうして、どうしてちゃんと、弔ってあげることもできないんだ⋯⋯!!」

 

 

 声を押し殺すようなワトソンの姿に、それ以上私たちの誰もが何も言えなかった。

 人の命は本来替えの利かない唯一無二の代物、そんな当たり前のことをいまさら思い知るとは私も思ってなかったよ。

 

 

 

 

 

  

「話してたの、もし日本に残るなら年末や都合をつけられる日は一緒に本土に帰ろうって。LAに家を借りて、だから落ち着いたら民泊しながら住みたいエリアを決めましょう、そう話をしてた」

 

「切のお勧めは⋯⋯そうだな、ダウンタウン。いや違うな、グレンデールだろ。ATFがすぐそばにある」

 

「いいや、私の読みではウエストLAだな。しかしLAの部屋探しはなんと言っても渋滞が問題だ。大抵は職場の近くに部屋を借りると聞くが」

 

 

 桃子の提案で、今はもう公には武偵高に踏み入ることもなくなった遠山の居を訪れた。

 67年、製造されてから今でも問題なく、パワフルな走りを見せてくれる愛しのBabyと一緒に。

 

 アリア、そして理子からすべてを聞かされた遠山は何も言わずにインパラのベンチシートの助手席側を陣取り、ただぼんやりとした瞳で外を覗き込んでいる。

 アイドリングもしていない、少し冷ややかな車内で桃子はハンドルを時折撫で、私は広い後部座席で横になっていた。

 

 もし幽霊にでもなっていれば、ここにいれば話ができただろうか。

 などとーーやはり私の頭は冷静には遠い。だがそれが未熟さから来るものなら、今はまだ未熟であってもいいのかもしれない。

 達観することが成長であったなら、今はまだこのままでいることを望んでしまう。

 

 

「LAの魅力はなんと言っても色々な地形よ」

 

「高架橋とか? ジーサードと少し寄ったくらいでLAはあんまり詳しくないんだ」

 

「他にもあるわ、ビーチとか渓谷とか、高層ビル。何から初めようか考えてるところだった」

 

「ビーチ⋯⋯?」

 

「見るだけなら悪くない、見るだけならね。サンペドロの夕日は悪くなかった、また一緒に見れたら⋯⋯よかったんだけど」

 

 私への問いに返ってくるのは、過去の記憶のページを捲ったような切なさを滲ませた答え。

 

 

「ーー人の魂は、全て帰るべき場所がある」

 

 

 頭の後ろに両手を回し、ふと遠山が聞き慣れた言葉を口にした。

 人にはそれぞれ魂の帰る場所がある、同じ意味合いの言葉を私は何度も聞いてきた。忘れるわけもない。

 

 

「しょっちゅう言ってた、なんかの口癖みたいに。アリアが来るずっと前から、一年の頃からずっと言ってたよ。でも今ならわかる気がする。それは人の命も、魂も宿しているのは一つだけ。そんな当たり前のルールを捻じ曲げて、歪めてきたからこそのあいつの言葉だったんだな⋯⋯」

 

「皆が平等、横並びになるなど理想でしかないーーなんて言ってたけど、本当は誰よりも平等に世界を見てた。人間も獣人も悪魔も、生まれ育ち立場を抜きにして善か悪かで雪平は見てた。同業のハンターから見れば正しいかどうか、賛否は分かれるかもしれないけど私は⋯⋯そんなあの瞳が好きだった。本人には言わなかったけど」 

 

 

「ふ、言えば調子に乗ってたぞ。なんと言ってもお前の言葉だからな」

 

「違いない。ゾッコンってやつだな」

 

「遠山キンジ、あなたからそんな楽しい言葉が出るとは思わなかったわ。マルチバースの私とあなたはこんなに仲良くはならなかったかも」

 

「だとしたら⋯⋯それも誰かのおかげだな」

 

「遠山、キリは形見と一緒にこれもインパラのなかに残していった。お前と欧州に立つときに話していた、これだ」

 

 スッ、と私が後ろから投げ渡したカードを受け取り、やんわりの遠山が小さく微笑えむ。必死に、なんとか取り作った気丈な笑みーー

 

 

「ーー()()()()()()。あいつは必ずこいつを返しに来る。だからこのカードを持ってる限りあいつは死なない、大丈夫だってそう思ってた。いつか、あいつがそのまま卒業しちまって、でも返すの忘れてた、悪かった、とか言ってふらっと現れて⋯⋯じゃあ久々にデュエルするかぁ、とか言って⋯⋯また昔みたいにーー遊べるかと思ってた。ったく、色んな意味で忘れられねぇカードになっちまったじゃねーか⋯⋯元々俺のなのによ⋯⋯」

 

「ああ、いいなぁ⋯⋯そのときは私も、私も是非混ぜてほしいものだ。ああ、それはとても⋯⋯楽しい時間になっただろうな」

 

 音楽もない、エンジンもない。

 人工浮島の一角、この一角だけがまるで世界から切り取られてしまっかのように静かだった。

 

 桃子、遠山。

 涙をこらえるのもたまにはいいさ。

 でも、そのうちこらえるのが当たり前になってしまう。私たちのような人間は、特にな。

 

 そして最後には、心が何も感じなくなってしまうんだ。キリがいなくなってから嫌というほど実感させられた。

 辛い時に泣けないことほど、悲しいことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 頭では分かってる。

 アナエルが嘘をつく理由もなく、ルシファーがまったく姿を見せないというのはそういうことだって。

 

 ガブリエルだけが虚無に戻ったという話、思い返せば不自然な部分はあった。今となっては意味はないけれど。

 

 ドアを開けても部屋には灯りがついておらず、テレビは真っ黒のままで静まり返ってる。

 もしかしたら灯りが灯っていて、テレビは煩くアクション映画を流していて、ソファーには見慣れた雪平の顔があるんじゃないかと、いつもそう思って⋯⋯

 

 暗い部屋に踏み切った時、現実に戻る。

 

 

 

「⋯⋯馬鹿ね。生きてれば、別に本土に戻ろうとどこに行こうとかまわないのに。生きてれば、いつでも会えたのに」

 

 

 センチメンタルな独り言。

 でも構わない、どうせ誰も聞いてないし、虚無に落ちれば幽霊にすらなれはしないらしいから。

 

 ふふ、御破算よ雪平。

 クリスマスにイルミネーションを見に行くのも、来年に考えていたプレゼントも、LAで部屋を借りる話も全部台無し。

 

 ああ、あなたが置いていった時計は、ジーサード・リーグのオッドアイの超能力者の彼女に返しておいたわ。一緒にあったあなたのダイバーウォッチも添えてね。

 

 泣いてたわよ、ひどい男ね。KGBと関わりがあるならこの手のことには慣れてるでしょうに、それでも涙を見せたんだからあなたは、彼女の心の深くにいた。

 

 あなたもディーンのことを言えない。心の深くに入り込まれたのは、私やイ・ウーを抜けても関係の続く同僚の二人もだけれど。

 

 ああ、そうだった。冷蔵庫の裏に隠してあるナストイカは私も貰うわね。あのお酒は、竜悴公姫の好みじゃなさそうだから。

 

 

 グラスを二つ、テーブルに並べてーージョアンナ・ハーベルの、今は彼女と雪平、二人の形見とも言えるナイフも傍らに置く。

 あ、こっちのエナジードリンクは私からの援軍ってことで。乾杯。

 

 

「ーーノックはなし? 無礼者は嫌ったわよ、彼」

 

 

「ごめんなさい、ドアを通らなかったから」

 

 

 あまり穏やかな気分じゃないの。

 だから優しくは言えない、相手が死神なら尚のこと、ね。何をしに来たわけ⋯⋯?

 

「随分と久しぶりな顔、でも覚えてる。ビリー⋯⋯死の騎士よね、死神の親玉。海に囲まれた辺境の地になんの御用かしら」

 

「荒れてるわね。普段のあなたはもっとクールなのに」

 

「そうね、でもこういうときもある。それに答えにはなってない。もう知ってるでしょ? 雪平を探してるならいない、留守よ」

 

 どうせ知ってる、私やアナエルが知っていて死神の長が知らないわけがない。

 先代から死の騎士は、ウィンチェスターに目をつけていたのだから。楽しくはない来客、歓迎できないのに答えをはぐらかされる。

 

 

「知ってる。だから来たの、エンディングは近い。あなたがどうするか気になって」

 

 

 彼女は死の騎士。

 ルシファーの檻に自力で入り、魂や体を回収することすらできる数少ない強力な力を備えた存在を。

 

 

「私に何か言いたいことがあるんじゃない? あるいは、頼みたいことが」

 

 

 息を呑み、私はーー

 

 

「私に何を言ってもらいたいの?」

 

  

 右手をつよく振り払う。

 

 

「あなたは目次録の騎士、色んなものに手が届くんでしょう。でもねーー」

 

 

 でもねーー

 

 

「ーー私は言葉に出すだけで取り戻せるものなど持っていた覚えはない」

 

 

 まっすぐとそう言う。

 お呼びじゃない、あなたの手は求めてない、と。

 

 その答えを返した時、ソファーの上で⋯⋯雪平が置いていった彼の3番目の携帯が鳴った。

 トップガンの、彼が大好きだった映画のテーマが重たい空気を裂いた。そして、

 

 

『ーーディーンだ。これ聞いたら折り返してくれ、厄介事が起きた。ああ、チャックだよ。あの見栄っ張りのオタク野郎がついに本性を現しやがった⋯⋯ジャックとおふくろが⋯⋯ああ、また会ったら言うよ。頼む、キリ⋯⋯これが最後の戦いかもーーサムとレバノンで待ってる、力を貸してくれ』

 

 

 

 ⋯⋯

 ⋯⋯そう、そういうことね。

 母と愛した彼女を同時に失っても、雪平はルシファーを討つために悲しみも嘆く時間も捨てて走った。

 

 なら、私も見習いましょう。

 彼が救ってくれた世界を台無しにしようとするなら誰だって毒して葬りましょう。

 それに、あの映画オタクがいれば悲しむより好きなことをやってくれ、とそんなことを言いそうだから。

 

 

「行くのね。孤独、潔癖、よくいえばあなたはジェイソン・ボーン。でもキリを癒してるのか、自分を慰めてるのか。私にはどちらか分からない」

 

「思ってた以上に堅苦しいわね、両方でも問題はないでしょ。人間、性には逆らえない。誰もが己という刑務所の囚人なの。だから私は、私のやりたい道を進むーーそれじゃあね、今度はエンディングで」

 

 

 携帯を掴み、言われた言葉をそのまま返して私はテーブルの上のナイフと部屋を出る。

 やってあげる、キリルーーあなたが残した最後のシーズン、面倒だけど私がなんとかしてあげるわ。

 

 

 だから、せめてーーそっちで祈ってなさいな。

 

 

 







6年と半年やってきましたが次回完結です。
連載当時はスパナチュは13の終わり、アリアは静かなる鬼の刊行時期でしたね。
一通り書きたかったものは書いた満足感と楽しく振り返ることができるのも読者の皆様の感想、評価のおかげでもあります。

最終回、それほど日があかないうちに投稿したいと思います。では。





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