哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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アンケート結果一位の【夾竹桃と人探し】になります。想定より遥かに時間がかかりましたが、代わりに文字数が過去最長になったので前後に区切りました。飲み物片手にお楽しみください。


ーーの封書(前)

「つまりその……オンラインゲームだかの友達が行方不明になって探すの手伝えってことか?」

 

「そういうこと。いつもの雑な解釈だけどそれで正解よ。頭数は多いに限るわ。それでなかったことにしてあげる、このバカな手品の時間。早くなんとかしなさよ、金庫破りは数少ない特技って言ってたじゃない。身分査証と不法侵入が仕事でしょ、それと墓荒らし」

 

「今やってるって。それとやってることは間違ってないけど否定させてくれ。必要なかったら不法侵入もしないし、墓荒らしもしねえよ。どの州でも禁止されてるし、今は武偵三倍ルールで大変なことになる。実際、過去にはFBIにだなーーつか、こいつ妙に曲者なんだが。真新しい金庫だって今頃降参してるぞ」

 

 俺の人生を振り返っても珍しく高いホテルに宿泊しているというのに、穏やかな気分とは正反対の気分で指先に集中する。ちくしょうめ、購買の商品はいつからクオリティーがここまで跳ね上がったのか。もしくは単純に出来の良い一つを選んじまっただけなのか。とにかく自分の腕が錆び付いたとは思いたくない。

 

「キリくん、準備できてるーー?」

 

 ……やばい、理子だ。一番の危険牌の声がドアの外から聞こえてくる。隣にいる女と必然的に視線がぶつかった。

 

「来たわよ、どうする?」

 

「招くしかないだろ。お前が挑戦するなら、一分くらい時間稼ぐけど」

 

「無理ね。お手上げだわ」

 

「……見りゃ分かるよ。実際に手を上げなくてもな。ドアを開けるから下ろしてくれ」

 

 そう言うと連動している腕が下がり、俺はかけていたドアのロックを外した。外にいたのは理子と神崎のいつもの組み合わせ。休日だろうが変わらず普段の防弾制服で揃えている。いつもみたく両手を横に伸ばして飛行機の真似をしながら、ハイテンションで理子が部屋に上がってくる。まんまるな瞳が驚きに変わるまで数秒、神崎が何か言う前に俺たちは声を揃える。

 

「「どうも」」

 

 とりあえず、俺たちの意思は繋がっていた。問題をまずは理解して貰うべくーー手錠で繋がった腕をとりあえず一緒に提示してみる。微動だにしない二人の反応に先んじて夾竹桃が口を開いた。

 

「誤解しないでね?」

 

「分かったわ。あたし、敵にも義理堅いから。貴族だから」

 

「キリくん、出直してこようか?」

 

「いや、大丈夫。大丈夫だから。夾竹桃はプール入りに来ただけ」

 

「いや、夾ちゃん泳げないじゃん……」

 

 刹那、脇に肘が入った。とても痛い。

 

「訂正するわ。プールじゃないの、というかスパサービス受けに。評判良いみたいだから」

 

「部屋についてるんだ、泊まると受けられる」

 

「そう、ホットストーンマッサージ」

 

「俺は興味ないけど、でも折角だから夾竹桃に電話してどうかなって」

 

「だから、漫画を買うついでに寄ったの。今日が発売日の店舗特典のポストカード付き」

 

「それで手錠は?」

 

 腕を組むと、カメリアの瞳が訝しげに細められる。味方に尋問される気分はとても心地よいとは言えない。

 

「雪平が見せてくれるって、ジャージス……」

 

「ジャージー・スリップ。手錠をはずす技。東部の子供は皆やるんだ、見せようって」

 

「ええ、でも選んだ手錠がとんでもない優れものだったみたい。それで苦戦した挙げ句に途中で鍵がどこかに……ソファーかも?」

 

「そこは最初に探しただろ。半狂乱になりながら」

 

「なってないわよ。謝りなさい、雪平切」

 

「まあ、分からないけど捜索隊出すとか武偵犬呼ぶとかとにかく探してくれ。施錠には結構自信あったんだけどなぁ、この手錠どうなってんだ?」

 

「謝りなさいな、雪平切」

 

 そこまで促されると、逆に謝りたくなるのは俺がどこか歪んで育ってしまったせいだろう。いや悪いのは俺なんだけどさ。十中八九。

 

「よし、何回謝ればいい?」

 

「50万回よ」

 

「分かった。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん」

 

「キリくん、やめて。話が進まないから。ホームドラマみたいなボケいらない。やめて」

 

「ごめん、ごめん、ごめん」

 

「やめて、やめて、やめて」

 

「ごめん、ごめーー」

 

「ーーやめろっつってるだろ!」

 

「ぐはぁ!」

 

 ……理子。躊躇いなく鳩尾をやりやがったな。日頃の怨みかよ、この鋭い蹴りは……!背中を折り、被弾した場所を両手で抑えていると、腕を組んでいた神崎と視線が重なる。

 

「……ねえ、理子。この二人、ついこないだまで敵対してたのよね?」

 

「理子が頼んだから間違いないよ。いやぁ、昨日の敵と手を組むのも武偵の道だよね。そもそもキリくんってカンザス育ちじゃん」

 

「そうよ、あんたローレンス出身でしょ? もっと真ん中じゃない、ニューヨークもペンシルベニアにも隣接すらしてないし」

 

 ……そこを言われると弱い。咄嗟の言い訳にはしてはちゃちだったな。武藤やキンジなら誤魔化せたが博識な探偵と怪盗を欺くには流石に厳しすぎた。ちくしょうめ、仲良し万歳。

 

「とにかく探して貰えないかしら? あるいは反則技を使って貰っても結構よ?」

 

「理子、ちょいと手伝ってくれ」

 

「ちょいと?」

 

「……分かった、言い直す。デカいちょいとだ」

 

 眉を寄せる理子に俺は肩をすくめて言い直す。

 

「やってくれ。あとで好きなもの買ってやる、背に腹はなんとやらだ」

 

「うーらじゃー!」

 

 頼もしくて泣きそうになるよ。俺は手錠に繋がれた左腕、要は夾竹桃の右腕を差し出した。この先は本職の金庫破りに任せよう。諜報、隠密活動や破壊工作の土俵で俺は理子に遠く及ばない。嘘のように解錠された手錠を見ると、本当にそう思うよ。

 

「恩に着る。依頼が終わったらなんでも言ってくれ」

 

「理子とキリくんの仲じゃん。こんなの御安いご用だよ。あ、でも理子も夾ちゃんに影響されてーーあれ、欲しいんだよねぇ。夾ちゃんがレインボーブリッジで使った悪戯っ子」

 

 頭の上に電球が灯ったように理子は右手で左手の掌を叩いた。何か閃いたときの仕草だが、レインボーブリッジで夾竹桃が、まさかあれか……?

 

「M134ミニガン、高級趣味ね。最低でも15万ドルはするわよ?」

 

「悪ノリが過ぎるぜ名探偵。そんなぶっそうなお嬢様を理子に与えられるか。もしも密林でプレデターが目撃されるようになったら喜んで買ってやるよ」

 

 呆れた視線で神崎に抗議してやる。ミニガンはイ・ウーの毒使いが珍しく信頼を預けた数少ない火器、束ねられた六本の銃身を回転させながら間隔の開かない連続射撃を行う電動式のガトリングガンとして愛好家の間では有名な一品だ。名前を聞いただけで戦慄が走る。映画やドラマに登場する頻度ならキンジのベレッタや神崎のガバメントにも負けてない、派手な見てくれは一目で強烈な印象を脳裏に焼き付ける。銃撃のシーンを見れば尚更忘れられない。

 

 目の前で回転銃身がスピンアップしたとき、生を諦めても誰も文句は言わないだろう。一秒間に無数の高速ライフル弾を吐き出す鏖殺兵器、痛みを感じるよりも先に相手が命を手放す姿から、名付けられた別名が『無痛ガン』という有り様。

 

 『苦痛を感じる間もなく死ぬ』とはおっかない以外のなんでもない。値段も神崎の言葉どおりのおっかないお嬢様だ。それに夾竹桃が扱ったモデルは凄腕の技師により、反動なしの人力で持ち運べるように細工されていたらしい。控えめに言うが反則だよ、平賀さんレベルの魔改造だ。

 

 星枷が隠し持ってる『あれ』も大概だが、人を殺してはいけない武偵に殺傷能力過多のガドリングガンが許されるわけがない。ガトリングガンの放火を浴びても平気な顔でいられるのはプレデターかキンジくらいのもんだよ。

 

「ま、あんたの隠し芸には口出ししないわ。着替えは終わってるみたいだし、式場の安全チェックと警備。打ち合わせ通りにいくわよ」

 

「意義なし、安息日だから力仕事は貴方に任せるわ。私は助手」

 

「は?」

 

 おい、待ってくれ。信じられないが、夾竹桃は俺を見ながら安息日って言ったよな?

 

「ユダヤの戒律よ」

 

「守ってるのか……!?」

 

「日本は自由な国だから」

 

「お前、ここまで運転してきただろ!戒律に反する!」

 

「はい、そこまで!夾ちゃんもそっち系の冗談はなし、キリくんも気持ちを切り替える!時間に遅れないように式場までいくよ!」

 

 結局、珍しく真面目な理子に仲裁されて、俺たちは依頼の目的地である式場に向かった。珍しく妙な面子での警備も穏やかに時間が進み、巷で話題の式場荒らしとやらも最後まで遭遇することはなかった。式場ってのは他とは違った妙な雰囲気に包まれてるもんだが……なんか駄目だな。自分がいちゃいけない場所な気がする。なんでだろ、依頼が終わるまで妙に頭のなかが空っぽだった気がするよ。

 

 

 

 

 後日、俺は理子を連れて秋葉原に繰り出すことになった。後で好きな物を買ってやるとは言ったし、秋葉原にミニガンは置いてないだろうから問題ないか。あれは隠し芸のレパートリーからは除外だな、と一応学んだことは心に留めておく。

 

「夾ちゃん、キリくんこっちこっち~!」

 

 秋葉原ーー神崎は紅鳴館潜入の作戦会議にこの街を訪れたらしいが俺も頻繁に来る場所じゃねえからな、理子のホームグラウンドに招かれた感じが強い。別名『武偵殺しの街』だったかな、本日も晴天だ。意気揚々と一歩先を行く理子の背中を夾竹桃と並びながら追う。こっちの女は私用と理子の誘いにそのまま 乗ったらしい。

 

「理子のやつ、まるで水を得た蟹だな」

 

「それを言うなら水を得た魚よ。パーティーの警備は面白味もない仕事だったから反動でしょ?」

 

「何も起きないのが平和で良いんだよ。まあ、理子から依頼を持ちかけられんのはわりと新鮮だったな」

 

 何事もなく警備は終わり、静かに済んだと言えば刺激の足りない幕引きかもしれないな。

 

「あの会場、一日10組式を挙げるって?」

 

「世の中、愛なんてないって言ってる連中に見せたいわね」

 

 だが、本当は何もないことが一番良いし、折角のパーティーが台無しにならなかったんだ。依頼としてはこの上ない幕引きだよ。

 

「ねえ、女子の背中を追いかける気分ってどうなの?」

 

 タイミング良く、いつもの軽口を投げてくれたので思考を破棄できた。

 

「さてな、俺の進行方向に理子がいるだけだ。追いかけてるつもりはねえよ」

 

「前から聞こうと思っていたけど映画の見すぎって言われたこと、あるでしょ?」

 

「前から聞きたかったんだがアニメの見すぎって言われたことないか?」

 

 ちなみに俺に限って言えば正解だ。過去にクレアとアレックスにダブルパンチを食らってる。片方はブロンドで片方は黒髪、偶然にも理子と夾竹桃とは髪色が同じ。不意にスーフォールズの友人が脳裏をよぎり、空を仰いでしまった。あの二人は妙なところで息合ってるんだよな、アレックスは相変わらず看護婦として頑張ってるし、クレアは……あれだ。そう、クレアはクレア。

 

「キリくん、何か良いことでもあった?」

 

 ようやく理子に追い付くと、同時に振り返った理子が小首を傾げてくる。

 

「いや、そんな顔してたか?」

 

「なんとなく。気になって聞いてみただけかな」

 

「昔のことを思いだしてたんだ。でも半分は当たってるよ、悪くない記憶だ。お前の眼はいつだって鋭いな?」

 

「理子は探偵科ですから。キリくんは意外と感傷的になるんだよね、そこは夾ちゃんによく似てる」

 

「似てないわよ。それなりに雪平のことは理解はしてるけど私とはちっとも似てない。そうね、苦手な物だって知ってるわ、ピーー」

 

「ああ、正解だ。理子、実はピータパンがあんまり好きじゃなくてさ。同じファンタジーならアラゴルンが好きで堪らなかった、特に二つの搭の戦いでの演説シーンは五回は見たかな」

 

 夾竹桃が答えを言う前にカミングアウト、俺から答えを提示してやる。これで例の三文字を口にするタイミングが失われた、不服な表情で夾竹桃は渋々と口をつぐんでいる。何というか、油断も隙もない女だな。もっと別の方向で理解を深めたいもんだよ。けど、俺もそれなりにはお前の理解してるつもりでいるよ。浅くない関係と言えるくらいにはな。

 

「キリくん!これだよこれ!虹色戦隊のDVDBOX!」

 

「それがお目当てか?」

 

 例の年齢制限のギャルゲーに始まり、理子の趣味は俺には分からん。俺は理子が手に取ったその商品に腕を組みながら視線をやる。少しして、後ろから夾竹桃もやってきた。理子と同じくアニメ好きの彼女は半眼を作り、

 

「ふーん。あ、でも素朴な疑問が一つ」

 

「疑問? よし、理子が夾ちゃんの疑問に答ましょう。なんでも聞いて」

 

「虹色戦隊なのに、全然、虹色じゃないんだけど。三人しかいないし」

 

「夾ちゃんの未熟者!彼等は友達が少ないんだよ!ヒーローとは孤独なものなのだ、分かったかーー!」

 

「いや、友達が少ないのは別の理由だろ……」

 

 思わずツッコまずに入られなかった。パッケージには変身ポーズを取っている三人の姿があるのだが、どう見ても既に変身後の見た目をしているのは触れてはいけないのだろう。恐らく触れてはいけない部分ばかりが目につくが……つか、このパッケージ裏にある『目指せ、魔王!』ってどういうことだ。それは夾竹桃も気になったらしく、

 

「彼等はヒーローなんでしょ? なぜ魔王の座を狙うわけ?」

 

「無論、友達が欲しいからだよ。魔王になれば友達いっぱい」

 

「……じゃあ、このレッドの後ろに行列を作ってる怪物の群れは?」

 

「勿論、金で雇った悪魔たち」

 

 ……ギャグ路線なのか? とてもツッコミが追い付かないぞ。

 

「ヒーローが悪魔に力を借りて良いのか?」

 

「キリくん、ヒーローはどんな力を使ってでも勝たないといけないんだよ!彼等は戦い続けるんだよ、いつか真の虹色戦隊を作ることを夢見て!」

 

「……この一話のスチール写真でブルーとイエローが血を流しながら横たわってるのは?」

 

「あ、変身前に攻撃されてブルーとイエローは交代するんだよね。二期ではちゃんと五人揃うんだよ?」

 

 ……やっぱりギャグ路線だろ。つか、変身する前にって悪魔の諸行だな。あ、いや戦ってるのは悪魔なのか。そりゃ仕方ないな。とりあえず、俺は中身に対して高いとしか思えない虹色戦隊のDVDBOXを籠と一緒にレジへ持っていく。これだけでレジを通すのはとてもじゃないが羞恥で心がやられるので、目についた棚から金田一少年のコミックをカムフラージュするようにDVDの上へ重ねていれる。

 

「なにしてるの?」

 

「これだけでレジ通すの恥ずかしいから。俺、他人の評価には敏感だし」

 

「……本気で言ってる?」

 

「本気だよ。エゴサとかやっちゃうタイプ」

 

 夾竹桃が呆れながら肩を落としている。新鮮な反応どうもありがとう。自分の気持ちを微塵も誤魔化さないお前には、俺も不思議と安心感を覚えるよ。真偽を疑わなくて済むからな。

 

「貴方は家来を持ってもナイフで背中を狙われるタイプね。戦徒との良好な関係は難しい。持たずに正解よ?」

 

「その結論に至った根拠は微塵も分からないが一応言っとくと、現在進行形で戦徒の制度に興味はねえよ。今は自分のことで手一杯。一年の面倒なんて見れるか」

 

「貴方より強い子でも?」

 

「単身での力が最低でも俺と拮抗、車や音楽の好みはアメリカ寄りで、ハンバーガーとコーラにも好意的。斥候や遊撃とそれなりに白兵戦ができて、狙撃手以外のユーモアのある一年生がいたらそのときは考えよう。あくまでいたときはな?」

 

 仮にクレアなら俺は二つ返事だが、彼女の代わりどころか近い人間はそうはいない。一緒に戦った、知識や戦い方を伝授した、その意味では戦徒契約の中身に一番近い関係の相手はあのブロンドの居候だったからな。スーフォルズでの記憶が不意に頭をよぎる。

 

「そんなこと言ってると現実になるかもね」

 

「まあ、そんな『非合理的』な一年がいたら俺も見てみたいよ。話題の名古女を含めてもいないだろうけどな」

 

 ーー名古女。名古屋武偵女子高、その9割が強襲科の好戦的な思想が根付いているぶっそうな場所だ。一部では軍人養成学校の別名も貰っているらしい、当たらずとも遠からずだろう。以前に一度だけだが神崎によく似た双銃(ダブラ)の生徒と衝突したことがある。名古女の制服は他の武偵高とは少し異なり、その特徴から分かる者には一目で気付かれるのだ。スプリングのポリマー銃を向けてきたあの女……鯱とか言ったな。

 

「御眼鏡に適う生徒がいたときは?」

 

「そのときはホレイショ・ケインの格好で綴先生をディナーに誘ってやるよ。酒とつまみで有り金が全部飛ぶ」

 

「夜中なのにサングラスをするのは勇気がいることよ。異次元へのチャンネル」

 

「お前も俺のファンになったのか? ついでにアドバイスしとくとテレビのなかはちっとも楽しくない」

 

 ……人の日記の内容を赤裸々にぺらぺらと、語ってくれるぜ。熱心なファン(ベッキー)曰く、トリックスターが出てくる人気のエピソードらしいがよく覚えてやがるな。小学校の作文を高校の同級生に読まれてる感覚だよ。やっぱりあの本は一冊残さず燃やすべきだ。そんな俺の気持ちは露知らず、話を切り替えるように彼女は小さくかぶりを振る。

 

「私は横から見るのが好き。いまはCVRでネタは足りてる」

 

「へえ、意外だ。先生は名古女に興味ないと?」

 

「一応、私も取引中の身だから。それよりも会計済ましてきなさいな。列を作ると面倒よ」

 

「同感だ、ちょっと行ってくる。なにか買うなら一緒に済ませてこようか?」

 

「結構よ。ただーー」

 

「漫画、読んだら貸そうか?」

 

「話が早い男ね。嫌いじゃないわ」

 

 前に部屋を訪ねたとき、本棚に推理モノのコミックが何冊かあったのを覚えてる。まぁ、推理モノだけが好きっていうよりは推理モノも好きって感じがするが。コミックの貸し借りか……なんか普通の学生っぽいな。変な感じがする。

 

 レジで会計を済まし、俺は店の外に出ると理子のお目当てを袋ごと渡してやる。跳び跳ねながら両手でぶんぶん振り回しているところを見ると、どうやら満足したらしいな。良かった、満足したなら何よりだ。はしゃぐ理子の姿に俺と夾竹桃は見合わせたようにうっすらと笑みを作る。

 

「じゃあ、理子はりんりんと約束があるからまた今度ね? キリくん、夾ちゃんに乱暴したらプンプンガオーだぞ?」

 

「やらねえよ、グラスマン先生のお世話にはなりたくないんでね。CSIチームの世話になるのはもっと嫌だけど」

 

「恨み言パーティー開くの? 招待状ないけど私も参加していい?」

 

「……夾ちゃんもかなり染まってきたよね。最初は常夏のハワイでも構わずネクタイしてたのに今ではすっかり地元に染まってるって感じ。昔はもっとこう……違ってた。ウィンチェスターの空気にやられた結果がこれだよ」

 

「いや、最初からこんな言い回しだったって絶対」

 

 なんとも言えない表情で同僚の少女を見つめる理子。堪らず俺がその言葉を否定した。この蠍は会ったときから癖のある言い回しをしてた、ああ間違いない。皮肉めいた言い回しが好きになったのは俺が原因じゃない、先天的だ。絶対に。最後に傷跡を残すだけ残し、理子は一足先に俺たちに背を向けて行った。その背中が小さくなるまで見送ると、

 

「ところでりんりんって?」

 

「あの子が一年のときに契約を結んでいた戦姉妹。姉は車輌科の優良株って噂になってる」

 

「間宮のお友だちか。相変わらず、理子のセンスは分からねえな」

 

 まだ時刻は真昼を少し回った程度、理子の用事は見えないし、間宮の一派と無理に関わるつもりもないがこれからやること自体は目処がついている。理子との約束は終わった、あとは残りを片付けるだけ。

 

「いくぞ、仕事の時間だ。お前のネトゲ友達を探しに行こう。場所は?」

 

「頭に入ってる。彼女の妹には話を通してあるから明日にでも伺うつもりだった」

 

「待て、どうして明日なんだ? 早い方が良くないか?」

 

 行方不明の案件で時間のロスははっきり言って致命的。その返答は歩きながら帰ってくる。

 

「最近、他にも奇妙な事件が続いてる。そっちと関連している可能性も探りたかったのよ。何も人手が足りないだけの理由で貴方を呼んだわけじゃないわ、そっち系の可能性もあるってこと」

 

「なるほど、分かりやすい説明をどうも。言いたいことは分かった。お陰でいつもの休日になりそうだ」

 

 

 

 

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