哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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数話一組予定。



Daydream―File.1

 

 

 

『──ああ、じゃあそれで。卒業式が終わったらそっちに戻る、後片付けをやって一週間後。そこからは俺も特別捜査隊に加わるよ、ミカエルを追いかける』

 

 

 またな、と残して海の向こう、長距離でかけていた電話を畳む。

 

 淡々と用件を伝えるだけのキャスとの電話は3分すらかからなかったが背中をインパラのシートに倒すと、ちうーと隣からはストローを啜る音が聞こえる。

 その音はどこか「退屈」と言っているように聞こえたのは俺の気のせい、なんだろう。晴れてるなぁ、今日も天気は快晴上昇か。

 

「お嬢様、人のポケットマネーで飲むシェイクはうまいか?」

 

「ちうー」

 

「……聞けよ。完全に毒されてんな」

 

 ハンドルで頬杖を突くと、両手でシェイクを啜ったままかなめはまんまるな目を向けてきた。

 ちなみに支払いは俺持ち、この戦妹は俺より遥かに金持ちだってのにな。

 

 滑走するリニアを舞台にした緋緋神との最終決戦も終わり、シャーロックから始まった色金を巡る物語もとりあえず一段落、終わりを迎えた。

 

 抜け出すために虚無と結んだ契約、たまたま会うことはなかったがカツェとナチス連中との確執もまた降りかかってきそうだが、いまは神崎が無事であることを喜ぼう。

 

 数シーズンにも渡って持ち込まされたトラブルがようやく解決したんだからな。

 頭を悩ませる種は探さなくてもそこいらに転がってる、だからいまだけは朗報だけに目を向けるとするさ。

 

 

「ねえ、ウィンチェスター」

 

「ナゲットは半分ずつだぞ?」

 

「分かってる。そうじゃなくてさ、アメリカに帰っちゃうんでしょ。今度はそれなりに長く」

 

 ちうー、とストローの音がふたたび、わざとらしく鳴らされる。

 新手の間の置き方には、なんとも言い様のない気持ちが込み上げて、とりあえずうすら笑って濁しておくことにした。

 

「色金が一段落したらって決めてたからな。自前の軍隊がついてこないといえ、今回の敵はミカエルだ。無慈悲で強力、おまけに善意は皆無。完全なモンスターだ、さすがにほっとけない」

 

「わくわくドキドキ?」

 

「それ以上だ。スリルがきつすぎて頭がどうにかなりそう。紐なしバンジーをやらされる気分」

 

「今度セラピストの番号教えてあげるね。腕のいいセラピスト」

 

 売れてる女優みたいな顔で、かなめはおどけるように微笑む。気付くと「どうも」と言葉を返してた。

 空港で斬り合っていたときの俺がこの状況を見たらきっと幻覚を疑うだろうな。あのときはお互いに相手の首を落とす、落としてやるの関係だった。

 

 初めて顔を合わせたときのことを思うと、こうやってインパラで一緒にナゲットを食ってるなんてユニコーンを見つけるくらいありえない。

 

「夾竹桃が言ってたけど、一緒にフェスティバル行くってほんと?」

 

「ああ、行くのは初めてだ」

 

「文学フェスティバルに興味あるって顔じゃないもんね。行くって聞いて驚いちゃった」

 

「本なら読むぞ? いま我が家にはハリーポッターが……」

 

「あるのは信じるけど、読んでるかは別」

 

 言ってくれるぜ。

 クレアといい、どうして俺の教え子は口の回る跳ねっ返りばかりなんだ。会話に退屈しない。

 

(ああ、悔しいことにしばらくおまえと話す機会がなくなると思うと、ちょっと淋しいよ)

 

 

 でも幸せなことだ、別れを惜しめる相手がいるっていうのは幸せなこと。また会いたいと思える相手ができるってのは、幸せなことだ。

 理不尽で、アンフェアまみれの世の中じゃ忘れそうになるけどな。

 

「なるほど、お前は本の虫か。キーボードを叩くよりページをめくるタイプ」

 

「読んでるよ? スパナチュなら」

 

「……聞かなきゃよかった。中学のときのテストの点数まで載ってる、まさに悪夢だ。電子書籍化でネットの海にまで広がっちまった」

 

 ネットの海、大平洋より広い。一度拡散されたらお手上げだ。

 今日も今日とてどこかで俺の黒歴史が暴かれてると思うとゾッとする。いや、もうここまで来ると出版が5シーズンで止まったことを喜ぶべきかな。

 

 まあ、仮に続編が出たとして続きはイヴの脱走にキャスとラファエルの内戦なんて誰が読みたがるんだって話だ。

 興味を惹きそうなのは、せいぜいディーンが岩に刺さった英雄の剣を手で抜かずに、お約束ガン無視のプラ爆弾で岩をバラバラにして手に入れた下りくらいか。

 

 

「海。海かぁー。文明から離れて海の上で暮らしたら? ほら、船やクルーザーでも買ってさ。ネットともさよならできるし」

 

「無理。潮風べたべた、傷には滲みるし、俺は一生丘でいいよ。酔うと大変だし」

 

「だよね、薬飲んでも酔うし」

 

「……なんだその眼は、荒れたときは誰だってそうなる。みんなグロッキーだ。それに船もクルーザーも金食い虫、俺やキンジとは縁なしだよ」

 

 いまでさえ軽い財布の中が食い荒らされる、まさしく悪夢だ。ゾッとする。

 

 しかし、うまいなぁこのチキン。

 こいつの味が分かる間は俺はまだ幸せか。ミカエルを追い返したらダイナーで死ぬほど食ってやる。

 

 幸せの価値とは人それぞれだというが、鶏肉ひとつで幸せを感じれるあたり俺のはお手軽だ。

 

「ひゅー、クレジットカードを錬金術できるのにクルーザーが金食い虫かぁー」

 

「心臓に悪いジョークをどうも」

 

 軍隊同様、上下関係にうるさい武偵高において俺とかなめの戦徒はやはり異質だ。公然では器用に見せちゃいるが、いざ二人になると俺たちに上下の差はない。

 

 一介の人工天才と一介のハンター、綺麗な横並びの関係。俺はそれでいいと思ってる、というかそれが分かって俺はかなめを誘った。

 戦徒にありがちな面倒なしがらみもかなめにはない。後輩への教育も必要もない、一年のなかでは間違いなく実力が頭一つ飛び抜けてる。

 

 紆余曲折に組んだ契約だが、意外と──ハマっちまったのかな、うまく。

 

「かなめ、俺にブラックジョークを吐く以外の趣味を見つけたらどうだ? 将棋以外にあと2つくらいさ」

 

 ちょいとジョークに毒が入りすぎてる気はしないでもないが。話題を逸らす意味でも提案してやると、かなめは少し考えるような仕草で、

 

「じゃあ質問ね。500万ドル、何に使う? 一般人として合法にもらったら」

 

「飛行機でどこか静かなところに行く、もちろん過激な戦妹はつれていかない。おまえは?」

 

「そのお金で最高の探偵を雇う」

 

 探偵……? 

 

「尾行させる気か?」

 

「見つけたらアリアを送ったげる、桃まん付きで」

 

 静かなところでガバメントの銃声を聞けと?。

 してやった、とでも言いたげな顔に溜め息が出る。はいはい、楽しそうな顔しやがって。

 

「桃まんと一緒にレオポンも付けてくれ、動物はいつでも落ち着きをくれる。まあでもあの船はいいなぁ、話を戻すが欲しいのが1つあった。何だと思う?」

 

 今度は俺がコーラのプラストローを鳴らす。

 炭酸が喉を殴る中で助手席のかなめに横目を向けて答えを待っていると、

 

「船かぁー。ハン・ソロのミレニアム・ファルコンってのはなしだよ?」

 

 ……たしかにそいつは船だがどちらかというとあれは宇宙船だ。地球の枠をとびこえて銀河系で最速の。

 

「残念だったな、正解はーーダッチマン。向かい風ならカリブ最強の船だ。知ってるか、すごいぞあれ。急速潜航だってできる」

 

「はぁ……そんなことだろうと思ったけど。もしかして知らない? ダッチマンの船長が陸に上がれるのは十年に一度だけ、それ以外は海の上に縛り付けられる。潮風べたべだだよ?」

 

「夢を壊すようなこと言うなよ。でもまあ、過酷な仕事だよな。魂を導く、死の騎士も似たような仕事だがあれも楽しい仕事じゃなかった」

 

 会話と一緒に二人分の手で減っていくサイドメニューのチキンナゲットとソース。

 本土のダイナーもいいが、この味ともしばらくはお別れと思うと淋しいものがある。十年ってほどじゃないんだけど。

 

「ところで、騎士の指輪ってあのあとはどうなったの? 檻を開いたあとのことは何も書いてないし、気になるんだよねぇ」

 

 うまいものを食いながら、なんともダークな話だ。騎士の指輪──戦争、飢饉、疫病、死の4人の騎士たちが持っている指輪は、ルシファーを閉ざす檻を開ける鍵。

 ローレンスのスタール墓地で俺たちは開けた檻にヤツを叩き落とした。

 嫌な記憶だ。ミカエルの入ったアダムと俺も、ルシファーを入れたままのサムと一緒に穴の底へ落ちた。地獄の檻に続く深い穴に。

 

「ルシファーを落とした、正確には道連れで落としたあとにディーンが隠した。場所は俺も分からない。けど死の騎士の指輪だけは分かってる、あの指輪だけは元の持ち主に戻ったからな」

 

「元の持ち主ってことは、死の騎士に? ふーん、四人の中でも『死』だけは別格って匂いがしたけど、やっぱり特別なんだ」

 

 本当に読み漁ったらしい。

 その考察は当たってる。四人の黙示録の騎士のなかでも『死』だけは明らかに特別だ、それなりの付き合いから言わせてもらうとヤツは他の3人とは格が違う。

 

「他の騎士たちはあれ以来縁がないが、死の騎士は言ってみりゃ死神の元締めだ。狩りをやってれば連中とは少なからず縁が、最終戦争が終わったあとも何度も顔を合わせてる。できれば会いたくもないけどな、特にいまのは俺と相性が悪い」

 

 

 前の死の騎士はおもしろかったよ、真面目そうな顔してジャンクフードが大好きってのが。でもいまのは、俺やディーンとは相性が悪い。

 騎士の指輪と鎌は、死の騎士のスターターセットみたいなもの。死の騎士がその席に収まっている限り付いて回る。

 

 今は後任となったビリーの指に指輪が、なんでも両断しちまいそうな鎌も彼女の懐。

 そしてお世辞にも俺たちと彼女の仲はよろしくない、考えるだけで背中が寒くなる。冥界もテッサみたいに優しい死神で溢れてたら良かったのにな。

 

 

「悪い、電話だ」

 

「あ、こっちも──あかりちゃん?」

 

 

 一瞬、会話が途切れると、珍しいことに同じタイミングで別の相手から呼び出しがかかった。

 かなめは高性能デバイスに間宮から、そして俺への電話はーー

 

 

「えっ……どこで?」

 

 

 武偵病院からだった。

 

 

 

 

 

 

「それで、ドクの診断は?」

 

「あらゆる検査をしてみたけど、至って健康そのもの。あんた何か聞いてない? 特別な持病とか、緊急の連絡先あんたになってたんだけど」

 

「いいや、あったとしても冷え性くらいだ。こんな昏睡状態になるようなのは聞いたことがない」

 

 歯痒い表情で馴染みのドクが顔をしかめる。

 ジャンヌに持病、まさかと思い隣の夾竹桃を見るがかぶりを振られる。俺より付き合いの長い夾竹桃も知らないか。

 

 ……病の類いじゃないな。

 

「外傷は? たとえば黒い痣や斑点、噛み傷とか」

 

「気になる傷はなかった。綺麗そのもの、感染症や毒にやられたってわけでもない」

 

 だから困ってる、そう言いたげにドクの白衣がなびいた。原因不明の昏睡状態、医者が穏やかでいられるわけないか。

 だが、分かったこともある。外傷はなし、歩く毒の百科事典みたいな夾竹桃が何も言わないってことは毒物を接種したわけでもない。

 

 ってことは、残る原因は絞られる。

 瞼を下ろしたままのジャンヌの表情は眠ったように穏やかで、発作の兆候もない。

 目を覚まさないのが不思議なほどに健康そのもの。おかしな話だ、となると──

 

 

「体にさわると悪い、俺たちはそろそろいきます。ジャンヌのこと、よろしくお願いします」

 

 ドクに後のことは任せ、俺たちは病室をあとにする。医療スタッフと患者が行き来する廊下を歩きながら、

 

「どう思う?」

 

「毒でもない、ましてや病気でもない。なのにジャンヌは昏睡状態、まるで眠ったように。普通じゃないな」

 

「そうね、普通じゃない。やったのはおそらくーー超能力」

 

「まじないか呪いか。なんにしてもジャンヌクラスの魔女にかけるとなると強力だ。通販で売ってるような代物じゃない」

 

 案の定、見立ては同じだった。

 ここ最近のジャンヌの足取りは不明だが、十中八九でああなった原因は超能力や魔法といった非日常の力が絡んでる。

 

 仮にもそれなりの設備の整った武偵病院の検査で何も出ないってのが怪しすぎる。

 御丁寧に体は健康そのもの、寝顔まで穏やかってのもできすぎてる。現代の医学を嘲笑うようなこの感じ、科学とは正反対にある異能の力って思うのが一番しっくりくる。

 

「しかし、となると厄介だな。相手を昏睡状態にするっていっても色んな魔法や呪いがある。破るにしてもどうやってアプローチしたもんかな」

 

 超能力に無数の分類があるように魔法や呪いにも気が遠くなるような歴史、山のような種類がある。使う道具も違えば、分類、体系、教科書一つで纏められる数じゃない。

 

 ジャンヌにかけられた魔法がいったいなんなのか、探り当てるのも簡単じゃないだろうな。

 唯一の判断材料は、シャーロックに歓迎されるほど手練れの魔女だったジャンヌにも通用する強力な代物ってことくらいか。なんとも嬉しくないない情報だ。

 

「ロウィーナが言ってた。強力なまじないや呪いは力ずくで破ろうとすると痛いしっぺ返しをもらう、二度と解けなくなることもあるって。ブラドがパトラにかけられた呪いを破れずにいたのはそういうことだ、下手に手を出したら取り返しがつかなくなる。力業のピッキングは許されない、錠前に合うちゃんとした鍵がいる」

 

「問題はその鍵の検討がつかないってことね。誰がかけたのか、どんなまじないなのか、そもそもあの子がホテルのベッドで見つかるまで何をしていたかも不明」

 

「なんでこう、会話を重ねるごとに前から火が迫ってくるみたいな気持ちになるのかねぇ。さっきから悪い情報ばっかだ」

 

 ダメだ、切り替えよう。

 自販機あるし、炭酸で頭を叩き起こすか。突然の病院からの連絡でまだ頭が落ち着いてないってのもあるし、近くの自販機で買ったコーラを握りながら俺はインパラに戻った。

 

 悩みごとに頭を回すならインパラか安っぽいモーテルって相場が決まってる。

 飲み物片手に悩み事といこう、いつもみたいにウィンチェスターお決まりのパターンで。

 

 

 

「──本当にいつものパターンだな」

 

 

 シボレー・インパラ1967。

 今まで降りかかってきた山のようなトラブルの一緒に乗り越えてきた相棒と、炭酸飲料を飲みながら俺は突破口を思案中。

 もう一人の乗客はというと、助手席のドアに背を預けたままいつものように煙管の紫煙を快晴の空へ立ち昇らせていた。

 

 黒いセーラー服の真上をくすぶる煙。

 そんな煙管とはミスマッチに見える服装も、視線を呪縛させちまうんだから美人ってのはズルい。窓の向こうに覗いてるその顔はほんと──

 

 

「なあ、夾竹桃」

 

「何?」

 

「おまえって無駄に美人だよな」

 

「……バカなの、おまえは」

 

 

 喫煙の時間をくれてやってんのに冷たいこって。ほんと、お可愛いいこと。

 

 

「それって、やっぱり吸わないと落ち着かないの? 先生もヘビーだがおまえもなかなか重症だ」

 

「言ったはずよ、これは喉のおくすり」

 

「それいつも言ってるよな。営業の電話に、もう保険には入ってますって感じで」

 

「これはヤマアジサイを主成分とする混合薬品よ。私は体内に83種の毒を飼ってるから、蓄積した毒物による自家中毒を予防するために定期的な接種が必要なの」

 

 すっ、と綺麗な唇から新たな煙が虚空にとけていく。

 ……毒を中和ってそんなの初めて聞いたぞ。てことは、あの煙管は体の中の毒をそのまま使役しておくのに必要なマジの薬ってことか。

 

「……新手のネオシーダーもあったもんだな。待て、もしかしてその薬品も手作りか?」

 

「とぼけちゃって。人の経歴を覗いたのは貴方もでしょう?」

 

 そう、この女は童顔と制服に騙されそうになるが本当は24歳のれっきとした大人。

 しかも東大の薬学部を出てる超エリート、頭がいいとは思ってたがまさか東大とはなぁ……

 

 

「私は使役した体内の毒を自由に分泌できる、ためしに貴方も飼ってみる?」

 

 おどろけるようにぺろっとこっちに向けて覗かせた赤い舌、まとわりついた唾液が快晴の光を反射し妖しく煌めく、控えめに言っても……すげえ景色。

 

「……やめとく。だからその口を閉じてくれ、変な気持ちになる」

 

 俺は降参するように視線を逸らす。

 ……なんつーことするんだ、このお馬鹿。美人がそういうことやるのは、まさに『毒』だ。

 まぁ……あの唾液は消化酵素のアミラーゼ以外に色んな危ないものを含んだ、れっきとした毒なんだろうけど。

 

 ああ……ちくしょうめ、さずかに変な気持ちになりかけた。

 ダメだダメだ、怪物に首を飛ばされるならまだしも毒でやられるなんてエレンに顔向けできない。毒と同居するなんて俺は勘弁だ。

 

 

「炭酸の力を借りた結果はあった?」

 

「ジャンヌは昏睡状態で目を覚まさない。たぶん最近出会った魔女や超能力者に呪いか魔法やらをかけられた」

 

「ええ、でもそのかけられた何かが分からなくて解毒剤の射ちようがない」

 

「ああ、俺たちには分からない。でも" ジャンヌ "なら知ってるかも」

 

 助手席に座った夾竹桃の顔が怪訝に歪む。

 よし、頭が回ってきた。そうだ、俺たちには分からなくても攻撃を受けたジャンヌなら正体を知ってる。

 

 

「そう、眠ってるんだ。解けなくても、ジャンヌの頭の中に入って何があったか聞けばいい。正体が分かれば星枷の力も借りてなんとかできる。つまり、その為には……」

 

「あの子の夢の中に入る」

 

 

「ああ、そうだ。夢の中に入るのは──」

 

 

 

 

『『──────アフリカン・ドリームルーツ』』

 

 

 

 顔を見合わせると、見事懐かしの危ないドラッグの名前が揃った。

 アフリカン・ドリームルーツ、昔のシャーマンが使っていたとされる人の夢に入り込む為のオカルトグッズ。いつかまた世話になるとは思ってたが、案の定か。

 

「さて、どうするか。ボビーのときは性悪女がたまたま在庫を持ってたがあいつは猟犬に食われて地面の底。チャーリーの頭に入ったときはアジトに賢人どもが集めたのが残ってた」

 

「手元にない? 忘れてるみたいね、近くにグッズの売買をしてる魔女がいるのを忘れたの?」

 

 

 くす、と口元に手袋の手を寄せて夾竹桃は笑う。刹那、バックミラーにブロンドの髪が揺れるように入り込んだ。

 

 そういや、おまえは色んな魔女や獣人とオカルトグッズの売買をやってるんだったな。

 キスノート──すっかり忘れてた、あれもロウィーナいわくオークションには流れない激レア。取り扱っていた商人は、

 

 

「ヒルダ──今日の気分は?」

 

「……いいわけないでしょう。こんな時間に起こされて……眠くて仕方ないがないわ。感謝なさい、どうせこうなると思って、おまえの車で待っていてあげたんだから」

 

 

 いや、さすがに律儀すぎるだろ……

 そんなに穏便だったのか、おまえ……傘をさして真っ昼間に墓地を散歩してたって自信満々に語った話は覚えてるが、マジで今日は快晴の下、大丈夫か……?

 

 乾電池を飴感覚で口に放り込んでいくヒルダは、また影にとけたんだろう。ホラー映画の1シーンみたいにバックミラーに映った姿が消えた。

 ……それで日光から逃げられんのかよ。まあ、多少は対策にはなるのかもしれねえけど。案外身近にいたなぁ、オカルトグッズのバイヤー。

 

 

「そいつはお待たせ。じゃあ、夾竹桃の部屋に珈琲飲みに行くか」

 

「イケてるBGM付き」

 

「……おまえ好みのアニソンメドレーだけどな」

 

 エンジンをかけるや助手席から伸びた手はテープを納めたダンボールボックスを奪い取った。いいよ、先行はくれてやる。

 

「んで、最初の選曲は?」

 

 

「──Key plus words」

 

「……そんな新しい曲入ってたかな。サングラスいるか?」

 

 

 気楽な気持ちでハンドルを回す。

 そしてこの一件はまったく予期せぬ形で、俺をあの女と引き合わせることになった。

 

 魔剱──やがて、ここではないどこかで出会うかもしれなかった、あの女と。

 

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