哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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帰る場所は?

 武偵高には優れた血統の子孫が多く在籍している。キンジの後輩である諜報科の風魔、装備科の平賀さん、星枷と遠山。そして司法取引を行ったジャンヌ、神崎や理子は説明する必要のない巨頭だ。かつて兄は言っていた──生き方は変えられる、けど血は変えられない。

 

「そうね、貴方の血はとってもレア。その薄皮の中にはカインとアベルの血が脈々と受け継がれてる。この世界で最初の殺人者の血、品性の欠片もない吸血鬼や怪物には勿体ないわね?」

 

 偽りの声色じゃない、本心から俺の血統を褒め称えてやがる。ウィンチェスターとキャンベルの家系を遡った先にあるのはカインとアベル──最初に殺人を犯した者。

 

 カインとアベルの末裔、例によって壮大なスケールで並べ上げた戯れ言だと最初は思った。思いたかったのかもしれない。どんどん普通から離れていくばかりの現実を信じたくなかった。何よりあれは……兄弟殺しの血だ。

 

「そのレアな血統のせいでこっちはさんざんな目に遭ってきたんだ。俺にとってカインの血は朽ち果てた石ころほどの価値もねえよ」

 

「価値はあるわ。その血が流れていないと大天使の器にはなれない。力が強いミカエルには絶対条件、ルシファーも道に転がってる器を使ったらすぐにくたびれる。貴方たちも星枷に劣らず可哀想な人生ね?」

 

「天使のタクシーになるなんて願い下げだ。それにお前がどこまで知ってるか知らねえが、ミカエルはもういない。跡を引き継ごうとしたラファエルも死んだ。天使のファンクラブは解散だ、ざまあみろ」

 

 俺は吐き捨てるように言ってやる。だが、女は薄ら笑いを浮かべて気にしもない。彼女から垣間見えるその本性は得体の知れない闇だ。

 

 こんなのに生贄を捧げてどうなる、邪神を崇拝するのと変わらない。俺はトーラスの用心金に指を掛けたまま、油断なく牽制を続ける。銃に怯えるわけもねえがな。

 

「可哀想なキリ。信仰心をなくして祈ることもすがりつくこともできない。今のあなたは砂漠を水無しで歩いてる。待ってて、すぐにあなたの信仰できる神になってあげる、お腹の中で崇めることになるけど」

 

「神はいる。俺も信じてたよ。だが向こうは俺たちを見放した。てめえの家族の確執を俺たちに押し付けてな」

 

「人間は神に導かれてる。良い事があれば、神の意志。悪い事があればそれにも何かの意味付けにするじゃない。意思の弱い生き物をずっと導いてるでしょ?」

 

「恩着せがましいんだよ。導いたからって俺たちの問題が帳消しになるのか? お庭で仲良くキャッチボール? 冗談じゃない」

 

 勢い込んで一歩詰め寄ると、すっとレイシーが腕を上げる。ここだ──強烈な発火炎と共に腕が跳ね上がる。一発十万円の法化銀弾が着弾した瞬間、異教の神は両手で被弾した胸を抑えるようにしながら目の色を変える。

 

 浴びせかけるように俺は連発、バチカンで儀式を受けた銀弾だけあって効果はあった。スライドがロックされると後ずさるレイシーの服は血で濡れている。

 

 人外には毒でしかない浄化された銀弾を弾倉一本分、後ずさる効き目はあった。脳が警笛を鳴らし、俺は予備の弾薬をリロード。転じて、血を流しながら歩いてくる彼女に引き金を引く。

 

 先制攻撃のつもりだったが怒らせただけだな。扉の前から右へ飛び、距離を取るがレイシーは首をもたげて俺に目を向けてきた。理も論もない、食事を見つけた怪物の目だ、他のことを考えてねえ……

 

「異教の神は色々見てきたがお前が一番見境ないぜ」

 

「人間には負ける、貴方たちの方がずっと見境ない連中よ。ケダモノだわ」

 

 ホールドオープンした隙を突かれ、懐にククリナイフが潜り込む。速度だけが異常な刺突を回避して、脇で挟み込むように腕を捕まえる。このまま投げの体勢に持ち込むが、体格離れした異常な力で腕のロックが外れると目の前で刀身が光る。強引に引き抜かれた剣は脇を浅く裂くが、咄嗟に抜いたルビーのナイフが肘を斬りつける。

 

「ケダモノで悪かったな──アバズレ」

 

 ナイフが血で汚れるが構わず胸に一突き。直後、首が曲がるような衝撃に見舞われ視界が揺れる。裏拳で殴り飛ばされたと気付き、崩れかける姿勢を制して、ルビーのナイフを失った左手に袖から天使の剣を滑り落とす。

 

 大音響と共に剣とククリナイフが衝突、頭部を狙った裏拳を首だけの動きで逃れると、胸に刺さったナイフの柄を目掛けて掌底を撃ち込んだ。傷口の奥に一段深くナイフが沈む。人間相手なら痛みで卒倒するはず、相手がまともな痛覚を持ってれば悲鳴の1つや2つは上がるのが当然だ。ナイフが刺さりながら表情を変えない女に、心底舌打ちをしてやりたくなる。

 

 隙を突かれて失ったトーラスを回収する時間はなかった。お喋り好きだった姿は転じて無口な狩人と化し、好戦的にナイフが振るわれる。天使の剣でククリナイフを捌くが腕に伝わる衝撃は異常だ。

 

 横なぎに振るわれたナイフを受けとめ、目の前の天敵を見据える。悪魔のような女から貰ったナイフは異教の神に深々と突き刺さってるが、動きは愚鈍になるどころか機敏にすら見える。

 

「──斧で首を跳ねるしかないってか」

 

 吐き捨てたのと同時に、甲高い鋼の悲鳴が鳴り響く。演奏とは呼べない下卑た音色がよりによってスタジオで響くのは皮肉もいいところだ。虚を突き、足を払って姿勢を崩しにいくが先読みされてカウンターを受ける。力業で体は宙を舞い、背中から壁にぶつかってようやく止まった。

 

「活きの良い魚は好き。でもまな板で暴れる魚は嫌い」

 

 ……錆びた包丁で、調理されてたまるかよ。トランクから引っ提げた純銀のダガーを投擲、ククリナイフが火花を散らして軌道は逸れるが、復帰していた俺は頭上から天使の剣を振り下ろす。異常な反応速度でナイフが受けに来る。

 

「斧もない、必殺のコルトもない。私は殺せないわよ」

 

「血が出るなら殺せるかもよ?」

 

「武偵とは思えないわね。血の気が多くて野蛮。腕は一番最初に斬ることに決めたわ」

 

「やってみろよ、フカヒレ女」

 

 鍔迫り合いになると、頭に頭突きを受けて後退。年季の入った床に靴跡が焼き付けられる。交差、斬りつけ、後退の繰り返し。いつしか戦いは消耗戦になっていた。殺傷圏内でルビーのナイフを引き抜き、血飛沫が舞い上がる。とっくに致死量の出血、にも関わらず薄ら笑いを浮かべる女に背筋が凍てついた。

 

「抗うのは辞めれば? 生きていても苦しみと後悔しかない。貴方がいい見本」

 

「死んだところでどうなる。俺はスイートルームには泊まれないんだよ」

 

「ああ、そうだった。けど素晴らしいことよ、貴方たちは最終戦争を引き起こしてくれた。私も便乗したわ、満足するまで食べまくってやった。乗るしかないわ、あんな大波」

 

 ああ、そうだよ。だから、死んだ先にスイートルームは用意されてない。笑えねぇ、薄ら笑いも浮かばない。

 

「こんなことを言うとは思わなかったがお前があのモーテルの集会にいなくて残念だよ。大波を起こした張本人に癇癪を食らえばよかったんだ。お仲間と一緒にな」

 

「カリやバルドルは大騒ぎだった。インドや北欧は小心者の集まり、たかが天使二人の内輪揉めに大袈裟よ。世界が終わるなら、開き直って楽しまなきゃ」

 

「その天使にお仲間は挑んで全滅した。まだ問題と向き合おうとしたあいつらの方がマシだ。お前は俺と同じだ、何もせず問題の顛末をただ見てただけ──腰抜けだよ」

 

 俺は防弾制服の上着を脱ぎ捨てる。ナイフを捨て、空いた手で汗ばむネクタイをほどいた。

 

「死んだら全部おしまいなの、頭を使わないと」

 

 みしりと床が軋む。レイシーの踏み込みの動作と同時に俺は制服のシャツを力業で開くと──

 

「狂ってるわね……」

 

 そんな声が聞こえてきた。開いた手を赤くなった図形、自分の胸に押し当てる。見開いた目が捉えていたのは血で滲んだ丸い図形、俺は自分の体に図形をカッターナイフで描いてやったのだ。

 

 媒体は血、それなら傷で事足りる。自分の体に魔方陣を刻むべき行為はレイシーの足を一瞬、踏み込んだ足を留まらせる。図形が閃光を放ち、青白い光は質量を持った衝撃となって彼女の体を吹き飛ばした。異教の神、人の肉を食らうお前にとって自傷行為での攻撃は……ちょっと残酷すぎたかな。

 

 天使の剣を逆手にも持ち替え、倒れた体へ疾駆。起き上がろうとする体に剣を突き立てた。

 

「あああああぁぁ!」

 

 刺されたレイシーは口と両目から青白い光を発し、苦悶の叫びを上げながら身をよじる。

 

「ゲームオーバーだまぬけ! 食事の予定が外れたな!」

 

 首を落とさずとも確かな手応えを感じる。いけるぞ……剣を押し込もうとした刹那、猛烈な寒気がして手が止まった。後ろに誰かいる……いつからいた?

 

「呆れるのう。御主、ここを日本と忘れておらんか?」

 

 賽銭箱を担ぎ、人にはあるはずのない耳を揺らした少女に俺は目を開いた。

 

「た、玉藻御前っ……!?」

 

 それは紛れもなく、正一位の天狐皇幼殿下。日本の獣人たちを牽引する──モノホンの神様だ。

 

 

 

 

 

『ああ、親戚の子は見つかったよ。お友達の子も無事にいる。記憶が混乱してるけど、精神的な疾患も外傷も大丈夫、強い子だよ』

 

『ありがとうキリ。また助けられた』

 

 事件は終息し、助けられた二人は病院で検査を受けている。事の顛末は星枷が丸く納まったと言っていたが、地下室の痕跡も消して俺たちに手が伸びることはたぶんないだろう。レイシーの身柄は後始末の協力と引き換えに玉藻御膳が引き取っていった。

 

 玉藻御前──言わずと知れた化生の世界の重鎮だ。いきなりの登場にはさすがに驚いたが、神や化生同士、政治的、派閥的な問題があるのかもしれねえな。人間の俺には見ることのできない問題が。

 

 あの後、体に描いた図形の傷でドクと一悶着あった俺はドナに連絡をつけている。あのドク、武偵殺しの一件で病室抜けてるからな。今回でドラが乗ったようなもんだ。裏ドラ合わせてどこまでいくか。

 

『いいよ、俺たちも救われてる。恩返しができて良かったよ。アレックスとクレアにもよろしく伝えてくれ』

 

『お嬢様に変わろうか? ピザ食べてる』

 

『気を付けろ、あいつピザの空き箱にノートパソコン入れるんだ。失くしたとか言って四時間探した』

 

『前は五時間探したって。ジョディがぼやいてた』

 

 俺は笑いながらかぶりを振る。お嬢様は変わってないな。

 

『記録更新だな。なあドナ、クレアのこと。よろしく頼むよ』

 

『今度は電話じゃなく会って話しましょう。ピザを焼いて待ってる、サムとディーンのテーブルマナーが酷いってほんと?』

 

『親父は教えてくれなかったからね、推して知るべし。じゃあまた』

 

 俺は通話を切り、インパラのドアを開けた。携帯は助手席に投げつける。星枷の外出、玉藻の目的は最初から異教の神、要はあのレイシーだったらしい。まさかレイスと共食いやるとは星枷も考えてなかったんだな。玉藻御膳が出てきたんだ、星枷も外出のことで本家から咎められることはないだろ。

 

「終わったのか?」

 

「ああ、知り合いの保安官だよ。スーフォールズの平和を守ってる」

 

「コロラド州の?」

 

「サウスダコタだよ。神崎に教えてもらえ」

 

 バックミラー越しに俺は呆れた顔を向けてやる。後部座席で寝ていたルームメイトが呑気に欠伸してやがる。キンジ。そのメロンジュース、シートにつけたら殴るからな。

 

「部屋を留守にしてただろ。なにしてたんだ?」

 

「いつもどおりだよ、インパラに乗ってトランク開けて戦ってきた。今回は森の神様だったな、あとなんだ、狐の神様だ、仲裁されたよ」

 

「……いつもそんな夢見てるのか?」

 

「ああ、つまんない夢さ。女子受けもしない、ミリオンセラーにもならない、一部のマニアだけが騒ぎ立てるような小説の夢だよ。作者は未完で失踪する」

 

 キーを回し、インパラが心地良い唸りを上げてくれる。お待たせ麗しのV8エンジン、今日もよろしく愛しの67年インパラ──

 

「腹減ったな」

 

「寝てただけだろ、ダメダメ刑事。いや、遠山刑事」

 

「ここはロスじゃないだろ。安全運転しろよ民間顧問」

 

「コルベットもイカしてるがインパラには負ける。お前がジュース汚さないならやるよ」

 

「分かったよ、腐れ縁。家(うち)に帰ろう」

 

「もう帰ってる」

 

 かぶりを振り、俺はカセットの再生ボタンを押した。

 

「──ここが家だ」

 

 大音量で響くのは、兄貴のお気に入りの曲。ディーンとサムを迎えに行ったときに流した始まりの──『バック・イン・ブラック』

 

 

 




シーズン11でメタトロンがdarknessに血の図形を使うシーンがあります。サム、ディーンが描いている天使を吹き飛ばす図形と一緒なんですね。

メタトロン自信満々に使ってるし、天使以外にも血の図形は効果があるのではないか。疑問から天使の図形を目眩ましではなく攻撃に利用しました。聖なるオイルが悪魔に効果はあるのか?メグがサークルに焼かれて悲鳴を上げていたシーンがシーズン5にありましたね。長期シーズンの作品は設定の考察が楽しい楽しい。

アリアの世界観では吸血鬼は噛まれても転化、仲間が増えることがないことは理子とヒルダに語られています。スーパーナチュラルの吸血鬼とは真逆の設定ですね。このようにクロスオーバーの段階で、どちらかの世界観を下地にすると一方の世界観が崩れます。二兎を取れはできません、本来最初に語るべきことですがこの場で、世界観が混ざること、多少の独自解釈が出ることをお知らせさせて頂くことにします。

尖った作品に感想、評価、お気に入りを頂ける皆様いつも励みになってます。アンケートの結果、記念小説は夾竹桃となりました。数多くの投票に作者はビビってます、はい。作者はAAの二期、期待してますよ?夏服の夾竹桃待ってますよ?

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