哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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ブラド編
帰宅


 

「みんなー、おっひさしぶりー! りこりんが帰ってきたよー!」

 

 極秘犯罪捜査でアメリカに行っていて、昨日までクラスにいなかった──世間では小学生がやるような言い訳も武偵高では信憑性のある言い訳として通る。

 教壇に登った理子を囲むようにクラスの連中が集まっていく光景はその節を確固たるものにしていた。

 

 気づいたときに理子はあっという間にクラスの中心に返り咲いている。

 俺は教室の後ろの席から眺めるだけだが、クラスのマスコットキャラ的な位置にいた理子のご帰還で教室は朝っぱらから活気づいてやがる。

 

 峰理子、器用が服着て歩いてるような女だよ。

 この場で彼女が国際的な犯罪組織の構成員だと公言して、果たして何人が信じるだろうな。

 

「着実に外堀を埋められてるな」

 

「ああ、器用な女さ。あのヴェロニカ・マーズは間違いなくクラスの人気者だよ。あそこではしゃいでる誰一人として理子の正体を知らない」

 

「悪い癖を秘密にしとくのが上手かったんだろ」

 

「知らないってのは幸せだね」

 

 人気者の帰還を席から眺めつつ、俺とキンジは理子のコミュ力に揃って舌を巻いていた。

 あれは一種のカリスマなのかもなぁ、他者を惹き付ける力。

 

「それでお前の単位はどうなんだよ、猫探しで小遣い稼ぎか?」

 

「足りないと困るからな。暇ならお前も手伝え」

 

「嫌だよ。猫好きじゃねえし」

 

 隣の席で頬杖をついたキンジが欠伸を掻いた。活気づいている壇上とクラスからこの一角だけが隔離されてるみたいに静かで平穏だ。

 

「俺は好きだぞ」

 

「そりゃ好きだろ、単位くれるんだから」

 

「すばしっこくて賢い。小さい忍者みたいじゃないか。普通は好きだろ?」

 

「バカかお前は。嫌いじゃないよ、賢いのも認める。でも奴等は捕食本能を忘れてない、可愛くても機嫌を損ねると顔を引き裂かれる。知ってるか、ペットの犬を野生に戻してみろ24時間で倒れる。だが猫は違う、狩猟を忘れない」

 

「お前、ひっかかれたな?」

 

「忘れたよ」

 

 クラス中の男子が熱烈なラブコールを理子に注ぐ中、猫について話し込んでいた俺とキンジに声がかかる。

 壇上でみんなにちやほやされながら理子が手招きしていた。ファンの対応に追われる人気アイドルみたいだな、距離感が近すぎる気もするけど。

 

 しかし、後ろで神崎が殺気を飛ばしてくるので、俺たちは席を立とうにも立てない。

 

「でもお前は犬って言うより猫だよな」

 

「なんだよそれ。今日で一番意味不明な発言だ」

 

「猫ってのは群れにならず、気分屋でつんつん、神経質で人にはなれにくい上に、毛繕いに尋常じゃない時間かけるだろ?」

 

 ……ついていけるか。よく口の回るルームメイトだこと。

 

「まず相手を理解してから自分を理解してもらう。成功する7つの習慣のひとつだ、覚えとけ」

 

「それ猫が言いそうだな」

 

「ミルクでももらおうか?」

 

 机に頬杖を突きながら、俺は鞄から缶コーラを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 生徒が帰宅の準備を始める放課後。尋問科棟、6階。廊下はシンと静まり返っていた。

 

 深閑とした廊下を歩き実習室なる狭い部屋に入ると、パイプ椅子にジャンヌが座っていた。

 テーブルには氷の浮かんだレモンティーとCz100が置かれている。自慢の聖剣は星枷に斬られてからお留守番みたいだな。無駄に美人な横顔がこっちを向いた。

 

「来たか。待っていたぞ」

 

「尋問科の部屋で密会かよ。俺にもレモンティーある?」

 

「コーラならあるわ」

 

「ありがとよ。で、夾竹桃まで呼んで何を始めるか教えてくれ。理子はいないみたいだが」

 

 ドアの鍵を閉め、俺は近くにあったパイプ椅子を広げて座る。夾竹桃まで呼んだのか。ジャンヌが俺の電話番号を知ってるわけだ、お前が流出先かよ。

 コーラのタブを捻って部屋に目を配るが理子の気配はない。司法取引組が三人仲良く密会ってわけじゃねえな。

 

「理子は用で出ている。トオヤマとホームズをパーティーに招待するようだ」

 

 聡いジャンヌには俺の考えは筒抜けだった。お前はイルカのように聡いな。

 

「どうやら賑やかな同窓会になりそうだ。どこでパーティーを?」

 

「秋葉原。馴染みの店で話をするみたい。何が目的か検討がつくでしょ」

 

「……ブラドか。神崎は食いついたな」

 

 理子が以前から裏で手を回していたのは知ってたが、神崎とキンジを抱え込むつもりだな。

 手数を増やせとは言ったが、あの二人なら俺も連携をとりやすい。神崎と理子には私怨と一族の確執がある。理子は神崎の母親を材料に取引するつもりだな、カードの切り方が上手い。

 

「お前は横浜郊外にある、紅鳴館という館を知っているか?」

 

「いや、初めて聞いた」

 

「今はハウスキーパーと管理人しかいないが、あそこはブラドの別荘なのだ。私はヤツの娘から話を聞いた。そして理子の大切な物が別荘の地下に保管されている」

 

 思わず腰を浮かせそうになる。

 

「おい娘がいるのかよ。聞いてねえぞ」

 

 ブラドの娘ってことは魔臓持ちか。親子で組まれたら四人でも勝ち目が見えねえぞ。情報が足りないことだらけだ。

 それに俺たちはブラドの顔を知らないがブラドは俺たちの顔を知ってる。夾竹桃やジャンヌが知っていてブラドが俺たちの顔を知らないのは希望的観測だ。

 

 さっそく情報戦で俺たちは後手に回ってるな。

 

 横浜に別荘を抱えてるってことにも驚きだがそんなことより娘がいるなんて話の方がよっぽど無視できない。今の話は完全に虚を突かれた。

 

「ブラドの娘は強いのか?」

 

「イ・ウーで学ぶことを許された。つまり、そういうことよ」

 

 つまり、常識の通用しない化物か。

 反射的に後ろ頭を掻く。良いニュースはねえのかよ。

 

「だが、彼女は日本にはいない。ブラドとは別行動と見て間違いないだろう」

 

「その根拠は?」

 

「私がイ・ウーでブラドの姿を見たのは理子と決闘したときだけだ。常に親子揃って過ごすわけではない。私が最後にコンタクトしたとき、彼女はルーマニアに帰国する間近だった。そのときに聞いたのだ。古物商を営む魔女、願いを叶える魔法の大家と大きな取引があると」

 

「取引に追われて手一杯?」

 

「彼女に限って言えばだが」

 

「そいつはいいや。久しぶりに良いニュースが聞けて嬉しいよ」

 

 イ・ウーの構成員を同時に相手するほど無謀なこともなかなかない。

 願わくば、ブラドの娘とやらには取引に精を出してほしいもんだぜ。

 

「理子は二人を率いて保管された物を盗むつもりでいる。お前が呼ばれなかったのは表立って動いてほしくないからだ。お前は彼等の長を仕留めている、理子もブラドの警戒心を煽りたくないのだろう」

 

「……一人で仕留めたわけじゃない」

 

「だが、実績は実績だ」

 

「化物に名前が売れてもつまんねえよ。履歴書に書けるわけでもないんだ。夾竹桃、この際購買で御守りグッズでも売ってみるか?」

 

「ツリーを売るのに、サンタを信じろって?」

 

 速攻、よく通る声で皮肉を言われた。毒を吐くのに躊躇いがないな、夾竹桃は。

 

 理子が動き出したこと、ブラドと接触する可能性があること、ジャンヌが話してくれた内容を頭で整理して俺はかぶりを振った。

 今度の相手は魔女でも人間でもない、正真正銘の怪物だ。夏の休暇の前に一雨来そうだぜ。

 

 

 

 

 

「んで、救護科に何しに行くわけ?」

 

「野暮用だよ。ちょっと付き合え」

 

 ああいいよ。どうせ暇してるだろ、って顔しなくてもさ。ああ暇だよ、ヴァンパイア・ダイアリーズを一気見してるだけの暇人さ。

 

 救護科棟一階の第7保健室の扉をキンジが叩いた。

 救護科は苦手な俺も付き添いの軽い気持ちで中へと続く。この軽率な判断を後悔するのに一分もいらなかった。

 

「誰もいねえぞ。待ち合わせじゃなかったのか?」

 

「電話するからそこで待ってろ」

 

「あとでジュース奢れよ? それとホワイトハウスダウンのレンタル明日までだからな、見るなら今夜までだぞ?」

 

「おい、俺はまだ冒頭しか見てないんだぞ。あの映画もう返すのかよ」

 

「昨日も言っただろ。電話したじゃないか、ボケたな」

 

 もう会うことの叶わない安息王子と呼ばれた友人を真似て、俺は肩をすくめた。

 にしても保健室で待ち合わせか、斬新だな。人体模型の前で腕を組みながら待っていると──

 

「キンジ、誰か来るぞ。お前誰と待ち合わせたんだ?」

 

 連なってやってくる足音に眉を寄せる。聞こえるのは全部女子の声だ。理子や平賀さん、神崎もいる。

 保健室に大人数でやって来るなんざ、どうにも嫌な予感がしてならない……

 

 脳が警笛を鳴らすが遅かった。青ざめたキンジがブギーマンみたいな顔でこっちを見てる。みなまで言うな、どうせハメられたんだろ。

 ああ、言いたいことは分かってるよ。保健室で女子を待ち伏せした、キンジの悪評がまたひとつ増えるわけだ。よくぞ誘ってくれたなルームメイト、ちくしょうめー!

 

「走れ、キンジ、逃げるんだぁ!」

 

「どこに逃げ──おいあそこだ。ロッカーの中に隠れるんだ」

 

 足音はすぐそこまで来ている。俺とキンジはやけくそになりながら、逃げ込めそうなでっかいロッカーの中に飛びこんだ。

 お喋りしながら入ってきた女子たちは俺たちがいることも知らず、ふ、服を脱ぎ始めたぞ……!

 

 

(閉じ込められた!)

 

 完全に逃げ場を失ったぞ。

 女子の会話から推測するに健康診断か。またもや遠山キンジお決まりの展開かよ。んで、お前がどうしているんだ武藤。

 

 

「よお、同志。席はぎりぎり余ってるぜ」

 

 馴染みの大男はとても周りを火に囲まれているとは思えない口振りだった。

 偶然居合わせた俺たちと違って、多分こいつは故意だろう。覗きのために命を捨てる気かよ尊敬するぜ。

 

「最高の席だよ。足を滑らせたら死ぬ。地獄の釜の淵から天国を覗くようなもんだ」

 

「ありえん、ありえんだろ。地獄から地獄を覗いてるぞ。これが天国なわけないだろ」

 

「悪かった、訂正するよ。本当の天国よりずっといい。で、誰がいるんだよ武藤」

 

 こうなりゃ便乗だぜ。つか、三人もいればロッカーは窮屈ってレベルじゃねえな。VIP席には遠いぞ。

 

「そう焦んなさんな。さーて本日のメニューは……おー大漁大漁、平賀文に峰理子に、諜報科のふぅかぁ。しかし星枷さんはいねえな」

 

「キンジ、レキがいるぞ。おっ、神崎も来たぜ」

 

「おいキンジ、なに顔伏せてんだ。もったいねーな。スキマからちゃんと見ろよ」

 

「お前らで勝手にやってろ。説得力皆無だが俺は覗きに来たんじゃない。ハメられたんだ、要は──覗く気はない」

 

「よし、捕まったときはそれで口裏合わせるべ」

 

「乗った」

 

「お前ら楽しいのかよ……俺は胸かきむしられそうなんだぞ。コードレッドだ、コードレッド。もう真っ赤だよ、深紅だ深紅。真っ赤っかなんだよ現在最高警戒状態だ。早くなんとかしないとって意味」

 

 コンディションレッドが発令してるキンジ、一方でバケーション気分のはしゃぎ具合の武藤。二人のギャラリーはなんとも対象的だった。

 水を得た魚と言う言葉があるがやかましい武藤はいつも以上に饒舌だ。

 

 聞けば、バレたときの保険に外の茂みには迷彩した大型バイクまで用意してるらしい。

 しかもここは一階、もしものときの逃走経路も作りやすい。現実的なやり方で覗きを決行するたぁ、逞しい男だよ。その度胸は勲章ものだな。

 

「ど、どけ切っ!」

 

「うぉっ!」

 

 さっきの沈んでいた態度が一転、俺を押し退けるようにキンジはスリットに目を押し付ける。

 ったく、派手に動いて音でも鳴ってみろ。一斉放火でロッカーごと火だるまだぞ。さすが命知らずのルームメイト、お前の心臓も勲章ものだよ。

 

「キンジ、お目当ての子はいたか?」

 

「俺に質問するな。メール中だ」

 

 こんなときに誰にメール送るんだよ。よく映画であるよな、携帯の着信音で隠れてる場所を敵に知られる。ベタな最後は勘弁だぜ。狭いロッカーの中で溜め息をつくキンジ、スリットから広がる景色に眼を奪われている武藤とは正反対だ。

 

 望んで巻き込まれたわけないか、ロッカーの背面に背をつけながら俺は同情してやる。残念ながら俺も薄々と気づいている。キンジが女性を遠ざける理由は普通じゃない、もっと別の何かだ。

 

 神崎や星枷への接し方を見ると、本質的に女性が嫌いとは思えない。理由があって距離を置いてる。俺には薄々察しがつくよ。同じ顔を見てきたからな、家庭の事情に悩まされる顔だった。明確な理由までは分からん、だがキンジにも厄介な重荷が用意されているのかもな。望んでもいないのに乗せられた重荷を。

 

「……誰か来たぞ」

 

 キンジが呟く。続いて女子が色めき立った。

 

「ああ、講師の小夜鳴だぜ」

 

「救護科の非常勤講師か。俺は苦手だな。綴先生の方がいい」

 

「「……」」

 

 なるほどな、沈黙は時として罵倒よりも残酷だ。

 

「あの人はあれで立派な先生だよ。頭も良ければ器量も良い」

 

「まあ一理あるかもしれねえな。小夜鳴のやつ、善人面して……女子に手ぇ出すとか、そういう噂あんだぜ? 小夜鳴が間借りしてた研究室から、フラフラになって出てきた女子生徒がいたとかよ」

 

 武藤から棘のある返答が返ってきた。散々な評価だが俺も小夜鳴先生は苦手だな。武偵高には珍しい常識人だが俺は彼に疑いを感じてる。温和な雰囲気に包まれているがそれがなんつーか、臭いんだ。言葉には表せない違和感を感じる。自然と体に染み付いた感覚、防衛の本能が警笛を鳴らしてる。そう、信じられないことにハンターとしての勘が、彼に嫌悪感を感じているのだ。善人を疑う、どうしようもない感性だな。錆び付いた勘が早合点したことを祈るよ。

 

「ぬ、脱がなくていいんですよー? 再検査は採血だけですから。メールにも書いたじゃないですか。はい、服着るっ!」

 

 小夜鳴は奥にあった丸イスへと腰を下ろした。下心のない苦笑いも大人の余裕が見てとれる。狭いロッカーの中、キンジ、武藤と頭を寄せるようにして小夜鳴の動向を伺っていると……

 

「──Fii Bucuros…… Scoala buna. Nu este interesant de sange……」

 

 窓の外に視線を向け、小さく呟いた。

 

「……何か呟いたな。英語じゃないぞ。切、翻訳できるか?」

 

「ラテン語の影響を受けてる。ルーマニア語だな。吹き替え字幕程度なら訳せるが」

 

「やってくれ」

 

『素晴らしい、いい学校だ。だが血は、面白くない』

 

「おいおい、そいつはどういう意味だ?」

 

 訝しげに聞いたのは武藤だが、翻訳した俺も首を振りたいところだ。

 

「さあな、もしかすると本訳に穴があったかもしれない。せいぜいピザを配達する程度だからな。最後の血への否定形は俺にも分からん」

 

 一方──小夜鳴の言葉で女子達が脱いだ服を着直していた。まあ、献血に服を脱ぐ必要はないからな。ご指摘は至極当然なのだが、スリットに顔を押し付ける武藤が血の涙でも流しそうな面してやがる、酷い顔だ。眼福の時間も終了と思いきや一人だけ服を着ていない生徒がいた。

 

 レキだ。棒立ちで窓の外をじっと見つめている。ゼンマイが切れた人形のようにその場から動こうとしない。

 

「お、おおっ!?」

 

 突如として武藤が間抜けな声をあげる。レキが俺たちの隠れているロッカーを開け放ってしまったからだ。下着姿のレキに俺も頭の中が真っ白になるが、彼女は有無を言わず左右の手でキンジと武藤のネクタイを引っ張ってロッカーから引きずりだそうとする。そして、

 

「雪平さん、待避行動を」

 

 レキが発したのは警告だった。その瞬間、言葉ではとても表せない胸騒ぎがして、俺は前にいた二人を後ろから蹴飛ばすように押し出した。そこは武偵、キンジと武藤は回転受け身をとってロッカーの外に出るがほぼ同時に窓ガラスが割れる音が響いた。レキの脇で受け身を取った俺は、変わり果てたロッカーの有り様に言葉を失う。床へと無惨に横転し、冗談のようにひしゃげたロッカーにこの場の全員が息を呑んでいた。

 

「──ウソ、だろ……?」

 

「ああ、ちくしょうめ。お次はなんだ?」

 

 最初に言葉を発したのは武藤だった。腰のホルスターから獰猛な回転式拳銃を抜いたが……指は引き金を引こうとしない。キンジや俺、周りの女子さえもその存在に眼を奪われている。

 

 白い体毛、異様に発達した犬歯、イヌ科特有の鼻梁──オオカミだ。絶滅危惧に指定されている猛獣が殺気を放っていた。

 

 雪のような銀の毛、種は分からないが生息地は日本ではなさそうだ。かといって、警戒心と殺意に満ちた姿は完全に野生のそれ。誰も保健室で狼に奇襲されるなんて思ってない、狼狽える俺たちを冷静に見下ろすのは餌を見つけた狩人の目だ。

 

「……お前ら、早く逃げろ!」

 

 武藤のパイソンによる天井への威嚇射撃。俺は357マグナムの轟音に肝を冷やすが、このオオカミは怯む素振りを全く見せない。そして、丸腰の女子に狙いを定めると、驚異的な脚力で跳躍する。俺はトーラスを抜こうとして……手を止めた。

 

 オオカミが乱入してきたのは女子が着替えをしていた最中。つまり、防弾制服を着ていない。それにいち早く気づいたであろうキンジは、剣山のようなオオカミの毛皮に背後から飛び付いた。

 

「──武藤、銃を使うな! 跳弾の危険性がある! 女子が防弾制服を着ていない!」

 

 キンジが叫びながら、オオカミを薬品棚のガラスに突っ込ませた。素手で狼と格闘かよ。やるときは無茶苦茶やりやがるぜ……

 

 ガラスと薬品を浴び、オオカミが激しく頭を振る。何か浴びたな、殺気だってやがるぜ。細い眼光がキンジの胸を引き裂こうと爪を立てるが、体重を乗せた回し蹴りで言葉通りの横槍を挟んでやる。俺の蹴りは後ろ足を打ち、同時にキンジが前から掌底を叩きこんだ。

 

 そんな俺達を跳ね退けるようにオオカミが真後ろにジャンプする。薬品棚で毒を貰ったのか、オオカミは頭を振り乱し、近くで立ちすくんでいた小夜鳴先生を体当りで撥ね飛ばした。

 

 

 

 

 




『電話したじゃないか、ボケたな』S11、16、ルーファス・ターナー──

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