哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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アニメovaの話になります。


温泉研修編
霧の中の温泉宿―File.1


 

 

 降ってきやがったな。濡れたフロントガラスで揺れるワイパーがうっとおしい雨粒を弾く。

 

 先導する車を追って走るのはシボレー・インパラの67年モデル、希少な4ドアのスポーツセダン。あるオーナーから譲り受けたものを一部リストアした自慢のbaby。

 

 用がなければ走らない鬱蒼とした山道を、助手席にジャンヌ、後部座席に理子を乗せて──俺こと雪平切はハンドルを握っていた。

 

「ねえねえ、キリくんの初恋は? ブロンド? ツインテール? それともウェイトレス?」

 

 鬱蒼とした山道、生憎の天気だが理子のテンションには左右しなかった。

 修学旅行のバスを思わせるハイテンション、三人だけの車内も実に賑やかに感じる。

 

 そんな理子は髪色、髪型、職業と繋げてきたが、その推測は何を材料に組み立てたのだろう。俺は理子を映しているバックミラーに視線をやり、答えた。

 

「部分点はやる。でもブロンド以外は外れだ。とっくに初恋には破れたよ」

 

「ほほう、キリくんにもいたんだねぇ。青春してるじゃん」

 

「男だからな。けどお前が喜ぶような明るい話じゃない。暇潰しにもならねえさ」

 

「時間はたっぷりあるぞ。この濃霧ではたいした速度でも走れまい。お前の下手な歌を聞くより楽しめそうだ」

 

 ……悪かったな、下手くそで。

 少なくともディーンよりは上手い。兄貴の懐メロよりは上手い自負がある。キャスの子守唄には負けるけどな。

 

 理子がこの手の話を好むのは知ってるがジャンヌまで相乗りしてくるとは意外だ。よっぽど俺の歌が気にくわないのかな……

 

「親父が常連だった店のマスターに一人娘がいてさ。ブロンドで気が強くて、一度もポーカーで勝ったことがなかった。酔い潰れた親父を迎えに行くたびに彼女を目で追いかけるようになって、でも彼女が好きになったのは俺じゃなくて兄貴だった」

 

「キリくんじゃなくてお兄さんを好きになっちゃったの?」

 

「ああ、兄貴が彼女と出会ったのは俺が彼女と出会ってからずっと後のことだ」

 

 面白くもなんともない話だがジャンヌや理子はよっぽど暇なのか耳を傾けている。

 助手席のジャンヌにラジオも切られ、望んでもいないのに車の中は静かだった。

 

「でも兄貴には他に好きな人がいたんだ。旅暮らしで会えること全然なんてなかったのに気持ちの変わらない相手がいた、自分の命を天秤にかけてでも守ろうとする大切な相手がな。彼女にとって俺は弟としか見られてなかった、そして兄貴にとって彼女は妹としか見られてなかった。痛み分けの恋愛さ」

 

 でも俺は兄貴を恨めなかった。変な話だが嫉妬を感じたことだってない。

 

 兄貴と俺にとって彼女は紛れもなく戦友で家族だった。それ以上ない大切な関係。理由なんて必要ない、すべてを賭けて守るべき存在だった。

 でも現実は逆だった、俺と兄貴が彼女に救われたんだ。言葉どおり彼女に命を救われた。

 

「結局、俺は身を退いた。最後までプレゼントの一つもやれなかったんだよ。ああ、最後までやれなかった……本質は臆病者で馬鹿なんだよ、俺はな。今でも後悔してる」

 

 やりきれないよ。彼女を殺す原因を作った地獄の猟犬が憎くて仕方ない。救われるだけだった自分の不出来な腕に吐き気がする。

 

 なのに俺たちは猟犬を操っていたメグにも命を救われてる。

 馬鹿な話だよ、家族を殺したあの悪魔を──メグを憎みきれない。

 

 怪物や悪霊を狩って人を救うのが仕事だった、親父のやり残したことを引き継いだつもりだった。

 

 なのに一緒に戦った仲間はいつも欠けていく。最後には夥しい血で汚れた野原に俺たちだけ立ち尽くしてるんだ。最後にあるのは死屍累々、分かってるよ。

 

「俺の話は終わりだ。まだ旅館まで長いのに重たい空気でドライブなんて最悪。心が明るくなる良いニュースでもないもんかね」

 

「キリくん分かってなーい。これは一大イベントなの。みんなで旅行なんだよ?」

 

 理子は変わらず、いつもの明るいノリでツインテールを揺らしていた。

 妙に気を使われるよりもずっと楽だ。誰にだって背に纏わりついてくるような過去はある。自分の身に起きた悲劇を他人と比べるほど愚かなもんはないことを理子はよく知ってる。

 ま、単に皆でフィールドワークの気分に浮かれてるのもあり得るがな。そういうところを曖昧に見せてくれんのもある意味すごいよ、理子。

 

「旅行じゃない。武偵研修だよ、自由参加のな。まあ、先生が同伴してなかったら武藤も歓喜に震えただろうさ。自分から運転手を買って出たのに報われないね」

 

 先導する車には運転手に武藤、助手席にはキンジ。後部座席には星枷、神崎、レキが座っている。そして研修の引率者として我等が尋問科の講師、綴先生が参加だ。

 

 武藤は嘆いていたが綴先生はあれでも良い先生だ。悪名高い噂はそのほとんどが真実、普通にはどこまでも遠い人だが武偵高の教師陣の中では一番信用できる。頭に多少穴が空いてるのは真実だけどな。

 

 尋問科に綴先生がいない光景は考えられないーー尋問科二年、雪平切談。

 

「お前も自分から運転手を志望したのだろう?」

 

「自分で運転しないと落ち着かないんだよ。理子のルノーや神崎のMINIも良い車だが67年のインパラには負ける」

 

「あーあ始まった、キリくんの愛車自慢。理子、ずばり聞いちゃおうっと。インパラの走行距離は?」

 

「それを聞くな。魂がなかったときの兄貴と同じ質問だ。V8エンジンだぞ、馬力が違うよ。インパラは40年経ってもがんがん走る」

 

「……魂ってなくなるの?」

 

「理子、深く考えるな。ウィンチェスター兄弟にはよくあることなのだ」

 

 バックミラーには理子の苦笑いが見えた。ジャンヌは冗談を言わない女だからな。

 イ・ウーで彼女と同期だった理子はそのことをよく知ってる。天然ボケはやらかしても冗談は言わないのがジャンヌ・ダルク。即答されるのは複雑だけどな。

 

「……よくあることなんだね」

 

「ああ、家庭の問題」

 

「どんな家庭だ」

 

「お前が言うな。そこらの怪物や異教の神よりお前は俺の家庭事情に詳しいだろ。明日ハンターに転職してもやっていけるよ」

 

「なるわけないだろう。バカか、お前は」

 

 ……冗談に決まってるだろ。

 つか、その台詞を言われるのはなんか複雑だ。

 

「霧が濃くなってきたね」

 

「だな、薄気味悪ぃ。化物でも住んでそうな霧だぜ」

 

「ミストみたいにか?」

 

「縁起でもないけど、理子もジャンヌと同じこと思ったよ。あの映画にそっくり」

 

「縁起でもないよな。でも俺もあの映画を思い出したよ」

 

 霧の中から襲ってくる化物に人が殺されていく映画。容赦のないストーリーや捕食シーンは一度見れば頭から離れない怪作だ。

 

 とある事件で虫に良い想い出がない俺には忘れられない作品になった。

 ケビンと一緒に見た最後の映画だっけ。映画見ながら一緒にポップコーン食べまくってたの今でも覚えてるなぁ……

 

「キリくん、似合わない顔してる」

 

「どんな顔だよ?」

 

「似合わない顔は似合わない顔だよ」

 

 ……無茶苦茶言いやがるな。

 だが、今の俺は似合わない顔でハンドル握ってるんだろうな。

 

 センチメンタルになっても過去は変えられない。

 ケビンを巻き込んだ事実は変えられないし、忘れられない。

 

「分かった。センチメンタルになるのは終わりにするよ。しかし、なんだよこの霧。さっきより濃くなってないか?」

 

 こればかりは理子とジャンヌも同じ意見らしい。

 本当に霧が酷いな。進んでいくほど濃霧が悪化してる。一本道が続いてるから問題ないが車間距離には気を使った方が良さそうだ。

 

 研修で接触事故なんて笑ない。視界の悪いフロントウィンドウを睨み運転していると、

 

「キリくんはアメリカでもインパラで旅してたんだよね?」

 

 後部座席から理子が話を振ってきた。

 

「ああ、飛行機が使えない事情があって、移動はどこに行くにしてもインパラだ」

 

 ディーンが飛行機に乗れないからな。だからどこに行くにしても車なんだ。アメリカのどの州を横断するのも使うのはインパラ一台。車で過ごす時間が長くなった理由の一つだ。

 

「信用できる日本車に乗るって考えはなかったの?」

 

「ない。67年のインパラは車の枠を越えた家族だ。他の車は考えられなかった。それは日本でも変わらん。ジャンヌ、まだ合宿する村まではかかりそうか?」

 

 話を新たに切り替え、隣で地図を広げるジャンヌに振ってみる。

 

「この濃霧だ。まだ30分は車を降りられそうにない。そして私からのアドバイスだがーー」

 

「カーナビならつけないぞ」

 

 ……おい、睨むなよ聖女様。ジャンヌは黙って地図を閉じると、威嚇するように俺を細めた目で見てくる。この聖女様、冷静に思えて血の気が多いんだよな……

 

「ipadとカーナビは必要ない。誰がつけるか、あんなもん」

 

「キリくんは化石時代のシーラカンスだもんねぇ」

 

「なあジャンヌ、俺はバカにされてるのか?」

 

「私が知るわけないだろう。バカか、お前は」

 

 なるほどね、お前は馬鹿にするんだな。俺は行き場のない気持ちを溜め息にして吐き出す。

 

 シーラカンスは遥か昔の古生代に起源を持った生きた化石。

 古生代から現代に生命の連鎖を繋げ、遥かなる歴史を形として残している偉大なる生き物だと俺は授業で学んだのだが……この世界に生きる仲間として俺はシーラカンスの名誉のために反論することにした。

 

「理子、シーラカンスもクラゲも俺たちより遥か昔から地球で暮らしてきてるんだ。分かるか、言うならば先輩だ。お前たちは偉大なる先輩を侮辱に使ったんだぞ?」

 

 人間じゃない先輩だけどな。頬杖を突いていたジャンヌが真っ先に反応する。

 

「お前も妙な怒り方をするやつだな」

 

「シーラカンスは分かるけど、クラゲが偉大って言われても実感ないよね」

 

「教えてやる。クラゲの中には老化しても若返ったり、二つに分裂して元の個体に再び再生する凄い奴だっている、前に神崎が見てたテレビでやってた。要は──俺のbabyにカーナビもipadもつけるな」

 

 魔女と泥棒を乗せたインパラは深い霧を奥に走る。このとき、俺は薄々と感じていた。これが単なる武偵研修で終わらないことを。

 

 

 

 

 

「晴れたぁー。太陽おぉぉぉぉ!」

 

 霧が晴れ、暖かな太陽が天に顔を出していた。鍵をかけたインパラと別れ、真っ先に飛び出した理子の後ろを俺とジャンヌが追いかける。

 

 燦々とした空に右手を翳している理子に追いつくと、先に着いていたキンジたちとも合流できた。

 ハイマキがいることには誰もツッコムつもりはないらしい。武偵犬に転職したもんな、お前。

 

「感謝してもいいよ、キーくん。理子、太陽少年だから」

 

「意味が分からん。少年ってお前は女だろ?」

 

「じゃあ、晴れ女」

 

「お前と戦ったときは酷い天気だったぞ。どこが晴れ女なんだよ」

 

「キーくん、理屈っぽいぞー。大事なのは今でしょ。理子はキーくんとのこの一瞬を永遠にするんだもーん」

 

 キンジを見つけると、理子は一目散に腕へと抱きついて隣の場所を奪った。クラスにごちゃごちゃといる理子のファンが見たときには醜い嫉妬と深い憎悪が充満する光景だな。理子のファンはいないが、その光景を良しとしない生徒がここにも一人もいる。

 

「こらー! キンちゃんにさわるなー!」

 

 おっとハイマキ、今日はソーセージはないんだ。レキの元へ帰んな。旅館に着いたらご主人様が飯をくれるよ。

 

「いつまで騒いでるんだ。これから研修でお世話になる宿に行くが、くれぐれも村の人たちに迷惑かけるんじゃないぞ。愛弟子ぃ、返事しろ」

 

「はい、先生。先生は村の人たちと面識はあるんですか?」

 

「これから行く旅館の女将とは古い知り合いだ。遠山に焦って口説くなよ?」

 

 ……焦ってないし、口説きませんよ。旅館への道を覚えている先生は先んじて先頭を歩こうとするが、その一歩は俺にも予期せぬことで一度止まることになった。

 

「焦るべきは綴だよな、すげえブーメランだぜ」

 

 武藤、お前のその勇気には感服するよ。俺はキンジに耳打ちをした武藤へ称賛を送った。尋問科で綴先生の悪口が流れることはない、発生源は必ず捕まるからな。こんな風に──

 

「私が何を焦ってるって?」

 

「……い、言い間違いです」

 

「何がブーメランになるんだ?」

 

「……言い間違いです、つ、綴先生……あ、生憎の空模様ですね……」

 

 グロックを頭に突きつけられ、武藤は真っ青な顔で両手を上げている。いわゆるホールドアップってやつ?

 

「世間話で気を逸らそうとするのは健気な努力ね。空は太陽が照りつけてるけど」

 

「言ってやるな。姑息な手だが武藤にしては冴えてる。勲章ものだな」

 

 最初は神崎、次は俺からの感想だ。安全なエリアで一部始終を見学していると、先生も落としどころが決まったらしい。何度かグロックで頭を小突き、講師とは思えない邪悪な笑みで先生は続ける。

 

「今度間違えたら、あの世行きか、あたしの尋問か、好きな方を選ばせてやる。三度目はないぞ、武藤」

 

 三度目ってことはカウントが一つ貯まってたんだな。今の失言で2アウト。武藤、3アウトでチェンジしないように頑張りな。幸運にもグロックは下がり、武藤は九死に一生を得る。そして、今のやりとりの本当の犠牲者はバッグを肩から落として立ったまま震えていた。

 

「聖女様、置いていかれるぜ。脅された武藤より傷を負うなんてなぁ……」

 

 仕方ないか、ジャンヌは綴先生の尋問を身を持って味わってるからな。尋問科としては同情するよ。身から出た錆だが、先生の尋問はあの世への切符と秤に乗せても釣り合っちまう。蘭豹先生の体罰、綴先生の尋問はこの世の地獄だ。

 

「ジャンヌは先生の尋問、たっぷり経験してるもんね」

 

 他人事とは今の理子を言うんだろうな。この器用な怪盗は泥棒の他にリスク管理にも才能を振るってる。司法取引も手腕をフルに活用して立ち回った結果、先生の尋問も縁なくして終わってる。理子はバカな振る舞いが独り歩きしてるが本当は恐ろしく頭の良い女だ。褒めるのは癪だが同じ泥棒でもベラより賢いのは間違いない。

 

 なんとか立ち直った氷結の魔女と、俺たちは宿泊する宿への道を歩き始める。車を停めた場所から宿まではご覧のとおりウォーキングだ。ジャンヌが確認した地図によればそれなりの距離を歩く必要があるらしい。幸いなのは霧が晴れ、天候が味方してくれていること。自然に囲まれたこんな場所で空に泣かれたときには辟易とするよ。

 

「理子、キーくんと二人だけの合宿がよかったなぁ。混浴して、布団並べて……」

 

 理子は飽きずに星枷を煽り、星枷も条件反射とばかりに噛み付く。

 

「お前も何か言わないのか?」

 

「理子のおふざけに一喜一憂してたらキリがないわ」

 

「大人になったね。我慢を覚えるなんて、成長したね、誉めてあげます」

 

「それはどうも」

 

 理子とキンジの珍道中の十歩後ろを神崎と歩いていると、星枷も巻き込んだ悪ノリも終盤を迎えたところだった。お約束の「既成事実」をここでキンジと迎えようとした星枷には神崎も顔を真っ赤に染めてやがる。キンジは止めてるが本気で脱ごうとしてるぞ、あの武装巫女……

 

「ほ、星枷さん……不品だ……」

 

 火に油を注ぎたい理子は制服をずらし、収集不可能になる前に神崎がガバメントを抜いたことで事態は強引に鎮火された。静かな山道に大口径の銃声が木霊するのは実に武偵高の研修らしいよ。膝から崩れていた武藤を誰も迎えに行かないのだが、一人で置いていれるのは武藤は耐えられないようで……すぐに走って追いかけてきた。

 

「賑やかになってきたな」

 

「最初からです」

 

「ああ」

 

 俺、レキ、ジャンヌが各々に呟く。

 

「さっきの霧、あんまり不気味だから妙な映画を思い出したわ」

 

「奇遇だな、俺たちも車の中である映画を連想したよ。人間の業は恐ろしい。人だって怪物だ」

 

 どうやら神崎も同じ映画を思い出したらしい。仕方ない、道を覆っていた霧はそれほどまでに不気味だった。俺も不気味な体験には馴れてるつもりだが遠回りしたくなるような面妖な霧だったな。

 

「あの映画、怪物も勿論だけど本気に恐ろしいのは人間だったわ。誰が人間をこの世界の支配者にしたのかしら」

 

「神じゃないよな、もういないよ。ここだけの話、神は休暇をとってる。お姉さんと釣りでもしてるよ」

 

「神に姉さんなんているのか?」

 

「いるんだよ。喧嘩して神が物置小屋に閉じ込めた。最近になってようやく仲直りしたけど」

 

 真実は物置小屋より酷いぞ、キンジ。神を崇拝したくなる気も失せるよ。

 

「最初の数日は皆で励まし合う。でも食料がなくなったら皆が豹変するでしょう。皆が物を奪い合う、暴徒と化す、危機的状況に陥ったら理性を失う。例えば水を止められたら、すぐに騒ぎは大きくなる。烈火のごとく怒りだす。それが社会です、一瞬で崩れ去る」

 

 淡々と語り終えたレキには、俺やキンジだけでなく神崎やジャンヌの視線まで集中した。

 

「あの映画の感想です。私なりのですが」

 

「聖書にある最終戦争が起きたら、そうなるんだろうな。この世の地獄」

 

「エンドオブデイズ」

 

「キンジ、レキに座布団二枚」

 

「おふざけがすぎるぞ」

 

 そう怒るなよ、森林や砂利道が続いてどうにも空気が重たく感じる。何年も前に行方不明者を探して登った人食い鬼の出る森林そっくりだ。奴の寝床は腐臭で肺が腐りそうだったけどな。大木の繁みからカラスの鳴き声が聞こえて一斉にそちらを見る。まだ人の影は見えないが少なくともカラスは住んでるらしい。

 

 東京武偵高校指定──かげろうの宿。古めかしい木の看板を掲げている宿がこれから世話になる民宿だった。自然に囲まれた村の中にあって、民宿もどこか落ち着いた和かな雰囲気を感じさせるな。静けさに包まれた村は元より騒々しさを感じない。武偵高の騒々しさに体が馴れてるのかな、静かすぎて落ち着かない。

 

「女将ぃー、着いたぞ」

 

 薄暗い宿の中からは返事が返ってこない。キンジが構わず中へ踏み入ろうとして、先生に腕で制された。入口に置かれた灰皿に咥えていた煙草を吐き捨て、先生は険しい顔つきで木の床を踏んでいく。意図が分からないまま先生の様子を眺めていると、不意にレキが目を細めて宿の天井を仰いだ。

 

「レキゅ?」

 

「来ます」

 

 刹那、先生が懐のホルスターからグロックを抜きながら体を反転。一瞬で背後を奪った着物姿の女性に銃口を突き出していた。グロックに睨まれるも女性もUZIを先生に突き出し、鏡合わせのように二人は銃口を向けて互いを牽制してる。俺たちは一瞬の出来事に驚きを隠せないが、同時に俺は小さな戦慄を感じていた。先生の背後を、奪い取った……? 何者だ?

 

「腕は落ちてないわね、綴。久しぶり」

 

「そっちも相変わらずだな」

 

 一転、重たい殺気は嘘のように消える。銃を下げた先生は、蘭豹先生と話しているときに見せる親しい相手限定の気軽さで女性に接していた。着物姿と先生の砕けた態度、彼女が来る途中に先生が話していた宿の女将か。

 

 ……なんつーか、先生の知り合いだけあって女将さんも相当の武闘派だな。武偵高の教師を牽制できる女将なんて古今東西探しても見つからないぞ。サスペンスドラマに出てくる薙刀の名人の温泉若女将ぐらいだ。正確には大女将。

 

「そちらが綴の教え子?」

 

「ああ、お前らこれから世話になるんだ。女将に挨拶ぐらいしとけよ」

 

「ねえ、貴方が贔屓にしてる愛弟子さんは……」

 

「あの茶髪だ。あだ名はヘラジカ」

 

 ……先生、ヘラジカは俺じゃなくてサムのあだ名。理子、それに武藤も笑うんじゃない。俺は鹿が嫌いなんだよ。ちくしょうめ、不名誉なあだ名だぜ。

 

「何が悲しくて俺のあだ名が鹿なんだ」

 

「鹿はバカにするのだな」

 

「クラゲはバカにすると怒るのにね」

 

 金髪、銀髪の小言は無視だ。息合ってるな、お前ら。流石は同期の桜。

 

「大嫌いだ、お前らの世代なんか……」

 

「あんたも同世代でしょ?」

 

 

 

 

 

 




シーズン15は懐かしのキャラクターの再登場が止まりませんね。作者は吹き替え待ちですが、何シーズンも前の懐かしいキャラクターが同じキャストで登場するのは本当に嬉しいんですよね。

ウィンチェスター兄弟らしい恋愛は悲恋しか浮かばないのですが主人公はどうなるのでしょうか。シーズン15が完結すればこの作品のラストも考えていきたいですね。
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