特秘の名目でキンジが部屋を去って数日──相変わらず、我が家はバスカビールの面子の溜まり場と化していた。俺が腰かけているソファーには理子、彼女を挟んで神崎が横並びに座り、真正面に置かれたテレビには理子が持ちこんできた映画が現在進行形で流れている。
「どういうこと?」
「なにが」
「いや、いきなり悲しい音楽に変わったから」
「だから、ここは泣けってこと、泣くシーン。泣くんだよ」
「だってこれラブコメだろ? ラブラブかゲラゲラしかないだろ、なんで泣く?」
膝の上で抱えているポップコーンを摘まみながら、俺は至極当たり前の疑問を口にする。すると隣から理子が──
「だから、これは新しい展開なんだよ。誰か邪魔する相手が出て、それを乗り越えて、最後はめでたしめでたし。ハッピーエンドっ」
「ねえ、そういうコメンタリーは一度最後まで見てからにしない? あたしは恋愛映画なんて全然興味ないけど、仮にもオスカーを取った映画なんでしょ、これ」
「取ってない、理子の勘違い」
「まあ、たしかに他の賞だったかも……でも名作だよ?」
「あー、それは俺の借りてきた『チャイルド・プレイ』が名作じゃないってことか?」
「だってあんな映画、子供の頃見ても怖くないじゃん。ギミパペみたいでキリくんは好きかもしれないけど」
どうにも俺の借りたホラー映画は理子の肌には合わなかったらしい。なんて失礼な……みんなチャッキー人形は好きだろ。内心悪態を突いているとまたしても理子が画面を指で示してくる。
「ほらほら、もうすぐだよ」
「何が?」
「いいから見てなって。画面がフェードアウトして──」
刹那、淋しげだった音楽は壮大に、一気に盛り上がった。
「ね、言ったでしょ? これがラブコメ、ラブコメなの。このジャンルなら理子に任せて」
「く、くくっ……こんな、現実離れした映画あるんだ。駄目だ、笑いそう……ひ、ひぃ……! 腹が……腹が捻れ狂う……!」
「……」
「キリ、ほんとやめて!あたし、真剣に鑑賞してたのよ!?」
リモコンで映画を一時停止させた神崎の怒号が突き刺さる。が、世の中には出来ることと出来ないことがある。いや、無理だって……駄目だ、まだ笑える。やっぱりラブラブかゲラゲラしかないだろ。
「……無駄だって。カーチェイスも爆発も起きない映画はキリくんには退屈ってこと。筋肉モリモリマッチョマンの俳優がドンドンパチパチしてない映画に興味ないんだよ」
「ええ、そのとおりだわ。理子、珍しく意見が合ったわね?」
「うん、珍しく合ったね。珍しく」
どうやら笑えたのは俺だけだったらしい。ホームズとリュパンの子孫、本来は宿敵同士の筈の二人の視線に同時に責められた俺は、苦笑いで視線を明後日の方向に逃がした。普段はいがみ合うことも少なくないが、今みたいに思わぬところで馬が合うのが理子と神崎だ。ああ、仲良くなってくれて俺も嬉しいよ、まるで針のむしろだ。
「二人とも仲良くやってくれてるのは嬉しいが俺も一つ言わせてくれ。俺だって映画で涙することはある、良い作品やその場面ではちゃんと感動するし、泣くことだってあるさ」
「それってどんな場面?」
「どんなって……」
「プレデターに機銃弾200発とチェーンガンをフルパックでお見舞いしたときでしょ」
理子の質問に言い淀んでいると、神崎が助けにもならない横槍を挟んでくれた。人間が自分たちの造り上げた技術と知恵で、未知の生命体に立ち向かう──まあ、確かに彼等の勇気と意思の強さには俺も感動したが……このまま話を流されるのも癪なので、真面目に思案してみる。
「401……401だな。ムサシを沈めたあとの艦長と401の別れ。考えてみたが、あれが一番涙腺を抉られた」
「401と武蔵って同じ生まれの潜水艦と戦艦でしょ? その映画では仲間で争ってたわけ?」
「ああ、かなり激しく。争いと言うか姉妹喧嘩だな。最初にヤマトとムサシが喧嘩して、コンゴウとヒエイも喧嘩する。身内で争いまくり」
「姉妹艦同士で戦わされるなんて悲しいわね」
「ただの兵器として見るか、それ以上の存在として見るか。俺はインパラをただの車以上の存在として見てるけどそれと同じなんだよ、401って船は。とても心のない兵器とは言えない、彼女は誠実だ」
「ふーん、あんたもロマンチストよね。でも船を女性に例える習わしは、今に始まったことじゃないし」
「……この噛み合ってるようで実は噛み合ってない会話、理子じゃないと見逃しちゃうね。これはあれだね、勘違いのカーニバルだよ」
黙っていたはずが途端に苦笑いを浮かべる理子。かなり遠回しになったが俺は結論を言ってやる。
「ようするにあれだな。普段は冷静で頭が回るクールな艦長が感情を剥き出しにして、消え行く自分の船の名前を叫びながら、必死に46cm砲の上を駆け抜ける。そんなシーンに泣いちまったんだよ。素直に認める、あれには本気で感動した」
「キリくんの一押しだったチャイルド・プレイより?」
「チャイルド・プレイよりも。千早艦長とI-401《Combined;YAMATO》の勝ち」
「Combinedってなによ? 合体するの?」
「合体はロマンだからねぇ」
洋上で75ノット出せる化物になるんだよ。戦艦なのに駆逐艦より早い。スイッチが入り、神崎にマシンガントークを始めた理子を尻目に、俺は殺風景になったテーブルを見る。
「お供のコーラが切れた、ちょっと外すぞ。これ持って」
俺は膝の上のポップコーンを理子に手渡す。
「えっ、でも冷蔵庫にもないよ?」
「コンビニまで行ってくる。一番の盛り上がりは見れたしな。後は二人で仲良くコメンタリーでもどうぞ。理子はイチゴ牛乳、神崎は……炭酸飲料でも買ってくるよ。金は払っとく」
「払っとくって?」
「キリが奢ってくれるってこと?」
「そう」
「──あんた、宝くじても当たったの? 大丈夫?」
……理子も神崎も二人して目を丸めている。まるで有り得ないものでも見てるような反応だな、失礼な。
「大丈夫。宝くじには当たってないが」
「救急車を呼んでやるよ。明日は雪か?」
「……忘れてるだろ、二人とも」
男口調の裏理子と腕組みする神崎の二人に、俺は逆襲のつもりで肩を落とす。
「「なに?」」
「千円の貸し」
「千円の貸し?」
俺は、緋色の瞳を丸めて小首揺らした神崎に向けて、
「理子が言い出した賭け、先週の。三人でやったろ?」
「「あっ……」」
息の合ってる二人は、ここでも同じタイミングでそのことを思い出したらしい。先週、理子が切り出して神崎も乗ってきた賭け。正確には金銭の賭けじゃなく、『千円までで次の機会に食事、または好きなものを買ってやる』ってことになっていた。結果は俺の一人勝ち。納得したような表情を浮かべている二人に、俺は一言。
「先にいうと自分から言うのは残念だけどな」
「奢ってくれるのかと思っただけ、忘れてないよ。アリア、千円」
「分かってるわよ、忘れてないってば」
「ああ、そうか、どれどれ」
俺は理子と神崎から、それぞれ千円ずつ。計二千円を受けとる。
「ちゃんと払ったわよ?」
「じゃあ奢ってやるな。いいんだ、『ありがとう』はいらないよ」
「あたしと理子のお金よ!」
「違う、訂正。訂正。お前と理子のだったけど俺が賭けに勝った。今は俺の金──どういたしまして、ってことだ」
ソファーから立ち上がり、受け取った紙幣を制服のポケットに入れる。
「……どこまでケチなのよ」
「ツァオ・ツァオの評価もあながち間違いじゃないかもね」
「どんな評価なの?」
「性格に難あり、改善の兆しもなし。早い話がトラブルメイカー」
……はっきり聞こえてるんだが。ここまで来たらいっそ清々しいくらいだ。
「これはきっと宇宙からのメッセージね、何か悟れってことだわ」
「夾竹桃みたいなこと言うな。それになんだ宇宙からのメッセージって。マスターヨーダがテレパシーでお前になんか送ったってか?」
「キリくん、それはちょっと違うかな。ヨーダはテレパシーは使えないんだよ」
「理子、今その話するか?」
こんなときでも理子はポップコーンをもきゅもきゅと口に放り混んでいる。自由すぎる彼女に俺は右手で頭を抑えた。ありがとう、完全に毒気が抜かれた。
「分かった。さすがは神崎、さすがは理子、持つべきものはノーガードで殴り合える友達。感謝してるよ」
寒さ対策のコートだけ引っ張り出すと、二人の同僚を置いて俺は部屋を出た。
◇
「あ、雪平切」
「違う。雪平"さん"だ」
「雪平サンダー?」
「……それも悪くないが。いや、もういい。校内でもないしな」
お馴染みとなったコンビニで、俺は肩をすくめる。ほとんど金髪と言える茶髪のポニーテールが目の前で揺れていた。上下関係に厳しい武偵高だが、稀に間宮や彼女のようにタメ口が抜けきらない生徒も勿論いる。間宮の場合はほぼ俺とキンジ限定だが。
「こんな時間に一人でコンビニか。夜中のおやつでも買いに来たのか──貴希」
「先輩だって一人じゃん。人のこと言えないぞォー?」
整った顔で間延びした返事をする彼女は車輌科の一年、武藤貴希。モデルみたいな長身とシャープな美人顔をしていて、ジャンヌや星枷に劣らずの美女である。そのブレーキ音みたいな名前に反して、スピード狂に等しい荒っぽい運転をすることでも有名な生徒だ。
「俺は飲み物が切れて買い出しに来たんだ。自分用と来客用、それとルームメイト用。退屈な映画鑑賞から逃げたかったのもあるけど。最後のはオフレコだぞ?」
買い物用の籠に、ウォークイン冷蔵庫から目的のコーラを放り混んでいく。
「退屈な映画って?」
「退屈な映画は退屈な映画だよ。まだ20分は残ってる。だから逃げてきた」
「えー、最後まで見ればいいのに。20分くらい付き合ってあげなよ?」
「2分だってあんな映画見てたらおかしくなっちまう。おかしくなるわけにはいかない」
隣でスポーツドリンクを持っていく貴希に、率直な感想を吐いていく。ジャンヌやワトソンなら楽しめたんだろうが、百人全員の客に愛される芸術はそうそうない──そういうことだ。嗜好や感覚は一人一人違うんだからな。
「まあ、本土にいる知り合いが言ってたが、全員は無理でも一人でも多くの客を満足させる為に励むのが『表現者』って生き物らしい。んで、あの映画は俺の肌には合わなかった。それだけ」
「それって役者の人?」
「昔、映画の撮影の仕事にヘルプで入ったことがあるんだよ。本土でやってたホラー映画の。そのときに主演の女優から聞いた」
「へぇ、初耳だァ。珍道中やってるね」
「現在進行形で」
ちなみに、それは例の本にも載ってる話だ。彼女も現在進行形でホラー映画に引っ張りだこ。サイン貰っときゃ良かったな。
「そうだ、聞いたよ。文化祭、たこ焼きやってたんだって?」
菓子コーナーで理子用にとんがりコーン、そして神崎には森羅万象チョコを籠に入れていく。
「キンジと神崎が誉めてたよ。ボール焼き、美味しかったってさ」
「雪平先輩が来てくれるのずっと待ってたんだけどなァ。轢いちゃうぞーー?」
ぐいぐいっと貴希がそのシャープな美人顔を近づけてくる。名字と最後の特徴的な言葉からも分かるが、彼女はあの武藤の妹である。兄とは違って、レースクイーンの仕事もこなしている整った顔がニヤニヤと詰め寄ってきた。ったく、俺は溜め息と一緒に商品棚へ目を逸らす。
「悪かったな、今度行くときは俺も20個入りを買いに行くよ。なあ、本当に武藤の兄妹か?」
「生まれたときから」
「DNA、大いなる謎だ。悪くとるなよ、良い意味で」
「それは美人ってこと?」
「解釈は任せる。ミニ四駆、今度は負けないからな。首を洗って待ってろ」
うっすら笑って、彼女の趣味であるミニ四駆で宣戦布告。すると、貴希の唇の端がゆっくりと持ち上がっていく。
「これだから身の程知らずは──その自信、粉砕しちゃうぞォー?」
「ふ、そいつはどうかな?」
棚からポテトチップスを取り、俺はお決まりの言葉を返した。
「つか、なにこれ。ポテチに遊戯王カード付いてんの? いや、びっくりだね。すごいの一言、ポテチを売るのにトレカを使う。天才だ」
「うん、最近はなんでもかんでも付録付録」
「ほんと、なんでもかんでも。景表法が煩くなるわけだ」
「と言いつつ、しっかり買って行くところが雪平先輩だよねー」
と、籠に入ったポテチを貴希が注視してくる。
「日本男児はおまけに弱い。それが野球カードでもポケモンシールでもな?」
お菓子も食べれて、玩具も貰える。ちょっと得した気分になれるんだよ、これが。子供にはこうかばつぐん。
「ちなみに、雪平先輩が好きなポケモンって?」
「しんちょうなブラッキー。イーブイの進化で誰が好きか、あれは好みが別れる」
「おくびょうなサンダース」
「だろうな。車もポケモンが早いのが好きなのはよく分かったよ。あいつが一番早い」
結局、コンビニを出てからも女子寮への分かれ道まで貴希と駄弁ることになった。武藤の妹ということで、彼女にはキンジも何度か世話になっている。スピード狂ではあるが兄に劣らず、彼女も車輌科では優等生。そのさっぱりとした性格も個人的には話しやすい。そこも好印象だな。
「インパラを選んだ理由?」
道中、そんなことを聞かれて、俺は歩きながら空を仰いだ。
「だってさー、67年のインパラだよー? しかも4ドアのスポーツセダンなんて滅多に見られないし?」
「クラシックカーはモテる。ニュージャージーで親父にそう教わったんだ。そう、ニュージャージーで」
「ほんとに──?」
「正解、嘘だよ。インパラはローレンスで、親父が母さんとまだ付き合ったばかりのときに買った車なんだ。元々は母さんと、別の車を買う約束をしてたんだが……たまたまそこにいた……あー、友人……そう、車に詳しい友人のアドバイスでインパラに」
まだ若い海兵隊の一人でしなかった親父が、ローレンスの一角で衝動買いしたのがシボレー・インパラ。後に本土を走り回ることになるディーンのbaby──
「275馬力、V8エンジン、ちゃんと整備すれば40年経ってもガンガン走る。そのアドバイスは正しかったな」
まあ、その友人は40年先の未来からデロリアンでやってきたディーン・ウィンチェスターなんだが……そんなややこしい話は脇に置いとこう。例によって、語ると長くなる。
「で、俺はいわゆる転勤族ってやつで、インパラに乗って本土を端から端まで行ったり来たり。ずっと車とモーテルでの生活、そうなると単なる車以上の愛着を抱くようになる。選んだのはそれが理由、日本に来たばかりのとき──たまたま縁のあったオーナーから譲ってもらったのが今のインパラ。親父のインパラも本土でガンガン兄貴たちと走ってるよ」
多少はレストアの必要もあったが、壊れたインパラを修理してやるのも我が家の伝統。babyの面倒を見たってだけのことだし、今となっては悪くない記憶だ。
「なるほどォ、良いエピソードで感動した。お兄ちゃんにも教えてあげていい?」
「ああ、構わないぞ。こんな話で良ければな。仲の良いこって」
どうやらお気に召したらしい。が、横目で見た彼女は不思議そうな顔で、
「あれ、雪平先輩は兄弟と仲が良くない?」
「……家出したからなぁ。一時は冷戦状態だよ、今は和平を結んでるけど」
微妙に痛いところを突かれた。刻印と原始の剣のことが知れたら、また針のむしろに座る思いをするのは想像に難しくない。ミカエルの一件で本土に戻って再会したときも、夾竹桃が悪魔の血を飲んでたことを事前にチクってくれたお陰で大変だった。かなめの一件では悪趣味なオカルトグッズの恩恵に甘えたが、出来ればあんな骨の塊はもう使う機会がないことを祈ってる。かぶりを振って、俺は空から視線を下げた。
「あ、今度カマロの試乗に行くんだけど一緒にどうー?」
思い出したように、話題が変えられる。
「カマロって、あのカマロか?」
「雪平先輩、好きっぽいし。ああいう野獣みたいな車、5秒で96km出せる野獣」
「96km?」
「5秒で。コーナーリングも最高。ハワイでドライブするならあの車だよね」
「それは同感、ドライブするのも犯人とカーチェイスするのもあの車で決まり」
慣れたウィンクを飛ばしてくる貴希は……武藤と同じで本当に乗り物が好きって感じだな。車輌科の仕事も彼女にとっては天職なのだろう。キンジのように武偵に後ろ向きな人間がいれば、貴希のように前向きな人間もいる。俺は──案外、この仕事が嫌いじゃない。
「分かった、一緒にカマロを転がそう。でも言っとくが転がすだけだ、浮気じゃない」
「インパラが嫁で、カマロは愛人ってこと?」
「……バカかお前は」
「え──?」
真顔でそんなことを言われ、苦笑いを返す。そういや、ジャンヌのチームのメンバーの島麒麟の姉が、乗り物に恋だとかなんとか言ってたな。彼女は二年では武藤に並ぶ優等生だとか。車輌科は尋問科に負けず劣らず、変わり種が多い。この子や武藤みたいな愉快な生徒も尽きないが。
「しかし、お前から誘ってくるなんて始めてだな。実を言うと驚いてるよ」
「雪平先輩は滅多に雇ってくれないし、一緒にドライブする機会もないから」
「自分で運転しないと酔うんだ。それに、お前はいつもアウトバーンかってくらい飛ばしまくる」
「えーー?」
「とぼけても無駄だ。あれは武藤にお前のことを紹介されて、初めてお前の運転で助手席に乗ったときだった。タイムマシーンのデロリアンでもないのに、140km出すことねえだろ?」
神崎やレキはおろか、星枷やジャンヌより高い長身でとぼけてくる武藤妹。俺もバスジャックのときは武藤に『アウトバーンのつもりで走れ』と言ったが、この子の場合は日本の道路全部がアウトバーン──制限速度なしになりかねん。
「それなら覚えてる。雪平先輩、初対面から今と何も変わってないし」
「変わってない?」
「今みたいに最初から絶好調だった。『眼鏡ないと見えてないんじゃないのか、ここはサーキットじゃねえんだぞ』とか、それとか『おい、スピーカーのボリュームあげろ。GPSの声の女がおろしてって言ってるぞー』とか」
「それ、俺が言ったのか?」
聞き返すや即座に頷かれた。
「じゃあ、本音。荒っぽい運転はともかく、おまえの技術と知識については信頼してる。真面目にな。近頃は災害級のアクシデントばっかで頼るときがなかったが、必要なときはお前を頼るよ」
ここ最近は、イ・ウーや極東戦役の普通じゃない戦いばかりだったからな。反応を窺うと……良かった、ご満悦だ。そんなこんなで話題の尽きぬまま、帰路の分かれ道はやってきた。
「思わぬ珍道中だったな」
「えー、感想聞かせてよ?」
またしても、スピード狂の彼女はぐいぐいと肩を寄せてくる。
「そうだな、久しぶりにお前とお喋りできて楽しかったよ。キンジの特秘のことで気を使ってくれたか?」
「半分正解で半分外れ。お兄ちゃんから話は聞いてるけど、コンビニで合ったのは偶然だし」
「そうか。じゃあ、今夜はたまたま会って、たまたま駄弁って、たまたまドライブの約束をしたってことで」
「約束、破ったら轢いちゃうぞーー?」
コンビニ袋から、棒つきキャンディーを取り出すとーー貴希は悪戯っぽく口に咥えたまま、こっちにウィンクしてくる。
「お休み、雪平先輩」
……ちくしょうめ。キンジの周りって、ほんと美女に事欠かないよな。この小悪魔め。
「お休み、貴希。ドライブが終わったら、ミニ四駆の勝負またやろうな?」
「勿論!」
「約束」
そして、俺たちはそれぞれの寮への帰路に別れた。少し歩いたところで、携帯が鳴る。開いた待受画面には『神崎』の二文字。
「雪平」
『あんた、いつまで珍道中? 映画終わっちゃったわよ?』
『キリくんキリくん、ドンジャラしよっ! ドンジャラ! ドンジャラ! ドンジャラ!』
『理子ー!ちょっと静かにしなさい! うるさい! うるさい! うるさい!』
『ドンジャラ! ドンジャラ! ドンジャラ!』
「……この携帯エコーでもかけてんのかな」
理子の快活な声と、神崎のアニメ声が時間差で響いてくる。こんなコントみたいな電話されたら睡魔だって吹っ飛ぶぜ。いや、待った。ドンジャラ、ドンジャラかぁ……そういや、部屋に置いてあったな。ドラえもんの。
「悪い、たまたま会った後輩と話が盛り上がってな。すぐに帰るよ」
『後輩? ま、滑って転ばないようにね』
「心配どうも。俺もやるよ、ドンジャラ」
ったく、そんな子供じゃないっての。携帯を切り、俺は仰いだ真っ暗闇の空に向けて、薄く笑ってやるのだった。さあ──
作者はブイズならシャワーズ、メンタルモデルならイオナが一番好きです。