哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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差し込み投稿
いまさらX用のアカ作りました、


お誘い

 

 

「昨日の夜? 二回目のダブルショットだよ。2×2で4、業界用語でクアッド。綴先生も蘭豹先生も植木に水やりってレベルで飲んでた」

 

 クアッド──久々に使う言葉だ。

 エレンのバーを手伝ってとき以来だから、もう十年振りかな。懐かしい。

 

「綴と蘭豹にアルコールが入ってよく五体満足で帰ってこれたな‥‥‥もはや奇跡だぞ」

 

「穏やかなもんだったよ、今回はな。お前もこれば良かったのに」

 

「世迷言もここに極まりだな」

 

 おお、実にキンジっぽい言葉だ。久々に我が家の敷居をまたいだキンジは、帰ってきたのも早々に懐かしいネガティブ顔を見せてくれる。

 一般校で学んだのは微分方程式と生き方──と、なかなか渋い答えをくれたルームメイトの心境の変化は如何程に。

 

「ま、レキとここを離れて何があって、何を得たのかはさておいて。またお前とルームシェアすること自体は嬉しいよ。とりあえず先のことは置いといて、おかえり、キンジ」

 

「ただいま──と、言いたいけどな。そのおかえりには裏があるんだろ?」

 

「おい、なんだよ裏って」

 

「お前の手口は知ってる、機嫌を取ったうえで悪い知らせをぶちこむ気だろ。鉄槌を下すように、言い渡そうって訳だ」

 

「‥‥‥ひねくれものは顕在だなぁ。安心したよ、また楽しくやれそうだ。正直に言うとご機嫌斜めの神崎を一人で相手するのは大変だった。お前はいないし、軽くこなせるはずの依頼から蛇が出ちまったしな」

 

 根本的なところは変わってなくて安心した。これまでどおり気兼ねなくトークバトルができそうだ。 

 早速インスタントコーヒーをカップに注いだキンジは、続きをどうぞって感じで首を揺らす。

 

「依頼って?」

 

「神崎に誘われて一件依頼をやったんだ。簡単な依頼だと思ったんだけど、途中で雲行きが変わった」   

 

「コナ・コーヒーは?」

 

「いる。もう解決したから言うと──裏でフェンタニルが絡んでた」

 

 所々がでかい弾痕にやられてるソファーでお世辞にも楽しいとは言えない記憶を掘り起こす。

 キンジが一般校に潜り込んでるときに、俺と神崎に降り掛かって来た依頼の記憶を。

 

「お前の口から出ると、なんとも不穏な言葉だな。フェンタニル、強襲科でも世話になるがもちろん治療絡みじゃないんだろ?」

 

「メグが昔言ってたよ、もし悪魔がドラッグビジネスに参戦するならフェンタニルを選ぶってな。簡単に水にとけて触れれば死ぬ薬だ、鎮痛剤として正しく使われるならいいけど。被害者が倒れてた水溜まりからフェンタニルが検出されて‥‥‥まあ、退屈しないよ」

 

 良薬と猛毒は紙一重、夾竹桃の言葉はなんとも芯を食ってる。

 ああ、どうも。貰うよ、コナ・コーヒー。神崎が勧めてくれたギリシャコーヒーも悪くなかったけど、一番しっくりくるのはやっぱりこっちかな。

 

「でもお前が戻って来るまでに片付いてよかった。藍幇の連中、まさか孫悟空を引き入れるとはな。面識はないが獣人の界隈じゃ相当の有名人だ、正一位レベルの獣人を‥‥‥やっぱりお前の周りは退屈しないよ」

 

「専門家の見立てはどうなんだよ。玉藻も言ってたけどそっちの世界じゃかなりのお偉いさんなんだろ。藍幇はそんな大物をどうやって懐柔したんだ?」

 

「さあな、野球のチケット? 分かんないよ、玉藻の勘だと楽しい理由じゃなさそうだけどな。藍幇、ココを思い出してみろ。あいつの得意技は? 不正行為に策略に誤魔化し、諜報科御用達のスパイの技だ」

 

 文明の誕生と共に生まれた。

 しかし、やっぱり気になるぜ。気が立ってたにしても正一位の玉藻の言葉が欠片も届かなったのがどうにも気になる。

 

 ソファーで頬杖とコーヒーをセットにしながら状況を整理すると、どうにも目隠しされてるような気持ち悪さが残って仕方ない。

 あの玉藻だぞ? 妖狐の元締、誇張抜きで日本の化生のなかでも重鎮も重鎮。そこらに散らばってる獣人や怪物ならまだしも正一位の言葉がまったく届かないとは、なにかおかしい‥‥‥

 

 デス・スターレベルの大虐殺じゃないにしてもが正一位の言葉を無視してヤツが暴れまくれば日本妖怪と中国妖怪、化生の間に軋轢や最悪全面戦争にならないとも言い切れない。

 それだけ玉藻は日本の妖怪たち、獣人界の界隈に影響力を持ってる。妙だ、考えれば考えるだけ疑問が浮かんでくる。

 

 

「なあ、眉間の皺はイヤなニュースの前触れか?」

 

「まだウラは取れてないってところ。皮膚科の医者みたいなこと言うんじゃないの。ま、ポルノみたいなもんだよ、見れば分かる」

 

「‥‥‥妙なたとえ使うなって」

 

 どうやって孫悟空を従えたのか、ココや藍幇と直接相対すればそれも見えてくるだろ。

 

 争わず平和的に殻金を回収できれば最高だが、それこそ楽観論。悲観論での備えもいる。現状の材料じゃここまで、と手の平を横に振ってお手上げのジェスチャーをしてやると、

 

「‥‥‥そうだな、もし戦うことになったらあのレーザーもどうにかする必要がある。名案があったら教えてくれ、頼りにしてやる」

 

 まだ解決策が見えてないって顔で対面のソファーに背中を預けたキンジも嘆息。

 今度は何と言ってもモノホンのレーザーだからな。銃弾を弾くのとはまた話が違ってくる。なんて言ったっけな、理子風に言うと、そう、超必だ。

 

「お馬鹿、そういうありえないことをやるのはお前の担当だろ。海兵隊の教えだ、作戦が成功するかどうかは計画にかかってる。キンジ、レーザーが来たときはお前に任せた」

 

「おい、ちょっと待て、ふざけんな。それは計画じゃない、ぶっつけ本番の他人任せじゃねえか!」

 

「ヤツのレーザーはジーサードの先端科学兵装のプロテクターを貫いたんだろ? 俺の奇策じゃクモの巣を張るようなもんだ、とてもじゃないがレーザーなんて止められない」

 

「じゃあ計画を立てればいいだろ。クモの巣をコンクリートに変える計画を」

 

「アメリカの科学の結晶に風穴が空くんだぞ? コンクリートなんて貫通だよ」

 

「分かった、とにかく乾杯しよう。現実逃避じゃないけどな」

 

 立ち上がったキンジは、冷蔵庫から瓶入りコーラと一緒に戻ってくる。

 ああ、そうだな。それがいいかも、ああだこうだ言ってもどうせレールは一本しかないんだ。

 

「なんとかなるほうに──」

 

「ルームメイトの帰宅と、なんとかなるほうに」

 

 二人で使うには、持て余すくらいの広さはある部屋に瓶同士がぶつかって音を響かせた。

 はっ、なんだろ。そんなに会ってなかったわけじゃないのにこうやってキンジと話して、こういうお決まりのやりとり、もう何年もしてなかった気がする。

 

 一人で映画見ながら飲むコーラも悪くないけど、これはこれでなんとも捨てがたい。

 

「誉められたことじゃないけど、いや、ほんとに誉められたことじゃないけど」 

 

「なんだよ急に、炭酸で恥ずかしい記憶でも思い出したか?」

 

「うるせぇ、そうじゃない。こうやってお前とこの部屋でまた話せるのは嬉しい、素直にな。また一緒にテレビ見たり、遊んだり話したりとか、またできると思ったら嬉しいよ。嘘じゃない」

 

「それがなんだ、ハッキリ言えよ。らしくないぞ」

 

 

 うるせぇ、これでも言葉を選んでるんだよ。

 待つことをしらないやつだ、そこも変わらなかったな。

 

「帰ってきてくれて嬉しい。けど、銃や硝煙とは無縁の普通の日常を過ごすのがお前の夢だったろ? 俺だってそうだ、普通の暮らしに憧れてた、狩りとは無縁の普通の暮らしに。だからお前の気持ちも分かるんだよ、撃った撃たれたがない、普通のなんでもない生活をしたいって気持ちがさ」

 

 

 ある意味、似てたんだ。そこだけは、その一点だけは俺たちはよく似てた。

 俺は正義の味方じゃないし、キンジみたいに不可能を塗り替えることはできない。だが、普通の日常を夢見て非日常から抜け出したいってその願いだけはよく似てた。

 

「変な形だけど、ある意味今回叶ったわけだろ? 普通の学生として勉強して、学業をやってさ。けどお前はいまここにいて、なんつーか。素直に喜んでいいものかと思ってさ」

 

 らしくない、そのとおりだ。

 でも言っとくよ、これだけは。

 敷かれたレールから逸れようとしても結局はハンターという元あるレールに戻される、それが俺の人生だった。

 

 一度はクレアと‥‥‥そうじゃない道に流れかけたこともあった。でも結局気付いたときには、俺はこれまで通りに怪物を狩ってた。

 

 ディーンは? リサと家庭を持っても結局はハンターの暮らしに舞い戻った。

 サムは? 同じことだ、犬をキッカケに同棲した恋人とも離れてもう会わないことを決めた。今でもハンターとして過ごしてる。

 

 普通の暮らしは望めない。

 いいのは最初だけ、すぐにダメになる。それがウィンチェスターだ。分かってる。だから身勝手にも思ってんだろうよ、キンジが普通の暮らしを望むなら、どうか諦めた俺の分までその願いを叶えて欲しいって。

 

 

「そんなどうでもいいことに頭使ってたのか? レーザーの対処は投げやりのくせに」

 

「はぁ? 一応気を使ってやったんだぞ?」 

 

 ま、律儀に気を使うだけ無駄だったわけなんだが。

 

「お前がどう思ってようが俺は気にしない。変なところでルールまみれだな、お前の頭は」

 

 コーラ片手に飛んでくるのは容赦のない言葉。

 渇いた笑いと額を抑えて、俺も感傷的になるのはそこで止めた。

 

「それに今回の件、行った意味はあったさ。色々学んだし。好きなことや望んだことがうまくいかないときもある、それが人生だろ?」

 

「それ、誰かの言葉か?」

 

「らんらん」

 

「‥‥‥たまに思うけど、お前はお前でほんと‥‥‥容赦のないヤツだね。その度胸は勲章ものだよ」

 

 密かに蘭豹先生がサバを読んで登録している出会い系アプリのニックネームを出したキンジには‥‥‥

 いや、たまに怖くなるよ。お前のその度胸。なんでもないってコーラ飲みながら、とんでもないことを言ってくれる。

 

 根暗と言われがちなルームメイトは飲み干した瓶をテーブルに置き、

 

 

 

「本心からいうが、お前は面倒だが良いヤツだぞ」

 

 ‥‥‥笑えねえ。どっちだよ、それ。

 

「そこは面倒ってのも抜いてくれりゃよかった。でもありがとう、これまでどおりいい関係でいたいもんだな」

 

 さて、コーラはなくなったし、映画でも観るかな。手持ち無沙汰は勿体ない。

 

「どうせさ、不意に思うんだよ。俺もお前もふとしたときに普通の日常とか生活とか望んじまうんだ、これから先もな」

 

「折り合いか、無理だろ。つけられねえよ。折り合いはつけられない、突き進むだけだ」

 

「ああ、手に入らないものを羨ましく思いながら生きていくのが人間。望んだものが全部手に入るならそれはそれでおかしくなっちまう──ちなみにこれから部屋で映画見るか、外に遊びに行こうかと思ってるんだけど一緒にどう?」

 

「あ、ちょうどよかったな。武藤から誘いが来た、不知火とロキシーに行くからこないかって。お前もご指名みたいだぞ?」

 

 お見事なタイミングだな。

 キンジが見せてくれる携帯には、武藤からのメール。ちょうどいま来たところだ、どこかで見てんのかあの大男。すごいタイミング。

 

「よし、方針変更だ。武藤に奢ってもらおう」

 

「切、落ち着いて考えてみろ。武藤の財布に余裕があると思うか? あいつはサファリ弄るのだけが生き甲斐だ、知ってるだろ」

 

「いや、だけってことはないと思うけど‥‥‥お前のなかで武藤は一体なんなんだよ。とりあえずロキシー行くか? ウチのベイビーで」

 

「実を言うと、インパラのシートは恋しかった。で、先に聞いとくぞ、BGMは?」

 

「いいよ、特別にセトリを決める権利をやる。その代わり楽しい土産話があったら聞かせろ。なんかあるだろ、コーラがうまくなる話的な」

 

「情報の共有は一方通行じゃ駄目だ、不公平だろ。それこそお前お得意のアンフェアってやつだ、お前が先に聞かせてくれたら俺も話す」

  

 なるほど、姑息な屁理屈も健在か。 

 67年式シボレーインパラは今日も快調。快晴上昇な空の下を走り抜ける気持ち良さと来たら、やみつきになる。

 

「それで、楽しい話は?」

 

「ゴシップ好きの色武偵高女子(ブッキー)みたいに食いつきやがって、なんて節操のなさだ。蘭豹先生の授業、今日受けてる強襲科の連中は災難だね」

 

 節操のないキンジのふりに、人工浮島の道を走らせながら俺は他人事で呟く。きっといつもの数倍はスパルタだな、ご愁傷さま。

 

「災難? 合コンがうまくいかなかった話はもう聞いた、つかそんなのいつも通りだろ?」

 

「お前もなかなか失礼なやつだね‥‥‥まあ、クアッドに付き合いながら色々話は聞いた。せっかく用意した渾身の寿司バーの話が不発だったんだと」

 

「寿司バー? ちょっと待て、なんだ、何がどうなってるんだ? 寿司屋‥‥‥?」

 

 少し話し方が悪かっかな。

 けど単刀直入に言うと、寿司バーなんだ。いつものようにインパラのハンドルを切ると、ああやっぱり助手席に誰かを乗せて走るのもいいもんだな。インパラと二人きりってのも捨てがたいけど。

 

「蘭豹先生、最近いい店を見つけたんだってさ。それで、盛り上がると踏んでたみたいなんだけど狙ってた男が生の魚は食えないみたいでさ‥‥‥」

 

「蘭豹渾身の世間話は不発に終わったわけか」

 

「少し同情したよ。寿司だけにいいネタだと思ったんだけどなぁ、運が悪かったというか。でも蘭豹先生も美人なんだから、こう、自分の好きなことを前面に押し出したらどうなんだろう、ほら、持ち味だ」

 

「悪手だな、またやけ酒タイムになるぞ。好きなことはパチンコ、酒、強面のイケメン。酒癖は悪くて、気性は荒い、ついでに頭突きでコンクリートブロックを木っ端微塵にできる女だ」

 

「‥‥‥教え子なのに容赦ねえな。それが全部真実っていうのが教務科なんだけど、普通じゃない。武藤はなんて言ったっけ、機嫌がいいときは──」

 

「──すごい美人に見える。そりゃ機嫌がいいときもあるだろ、ランボーやミリタリー雑誌やパチンコの攻略本見てるときとかな」

 

 被せてきたキンジはやんわり笑った。

 けど、世の中危険な女性を好きになっちまう男だっている。

 あの二人を好きになる男が現れたときは、素直に応援してやりたいところだな。まあ、酔って島を傾かせたとか噂されるような二人だから‥‥‥色んな意味で普通の男には可能性はないだろうけど。

 

 

「子ライオンもお前の前だと、好きな男子に肘打ちくらわす小学生の女子になっちまうしな」

 

「‥‥‥? それって何の話だ。いきなり別の話になってないか? わけが分からんぞ」

 

「ああ、こっちの話。俺よりお前のほうが猛獣と仲良しになるのはうまいってこと」

 

「猫は嫌いって言ってたもんな」

 

「なんだよ、覚えてたのか。お前にとっちゃ単位をくれる天使だもんな。本物の天使もあれくらい愛嬌があれば可愛いもんだけど」

 

 スーツを着た冷徹なターミネーター、本物の天使を一言で表すならこれに尽きる。

 実際、ターミネーターみたいに過去に遡って親父と母さんを殺して歴史を改変しようとしたこともあったし。懐かしい、堅物ミカエルとのファーストコンタクトだ。

 

 忘れるに忘れられない破茶滅茶な記憶が脳裏をよぎると、キンジの声が現実に戻してくれる。もちろん喜ばしい言葉じゃないやつで。

 

「愛嬌があるのは認めるんだな。今認めたぞ、切。猫に愛嬌があるってさ」

 

「揚げ足をとろうとするな。モノホンの天使に比べたらだよ、かわいいもんだ。そうだ、お前も一応本物を見てるだろ。()()()()()だ、猫のほうがどれだけ可愛げがあるか」

 

「‥‥‥」

 

「おい、なんだよその反応は。重心を動かして、首をかしげて、目を逸らす。隠し事をしてるボディランゲージだ。なんか失礼なこと考えてないか?」

 

 ノーガードでトークバトルなんていまさらの関係だ。隠すとしたらかなり失礼なやつだな、ちょっと考えてみるか。

 

「俺を器に取り憑いてたから、普段の俺とルシファーの物言いがあんまり代わり映えして見えなかった、とか?」

 

「────」

 

「嘘だろ‥‥‥コーラで黙秘できるのは数十秒が限度だぞ。ったく、あんなに息をするように物騒なことは言えるかって話だ」

 

 最初は楽しい話がないかって話で始まったのにどこをどうネジ曲がったらこうなるんだか。

 

「でもまあ、親近感が湧いたって意味なら仕方ないかも。とんでもない邪悪の塊なのに、妙な親近感や友達になれるかもって思っちまう。そんなに悪いやつじゃないかもって思いそうになる、そこが一番魔王の恐ろしいところだ。心底そう思う」 

 

 檻の中で全身を消し炭にされて、首を捻じ曲げられて肉と皮を何度も引き裂かれた。

 なのに俺は、ルシファーとまた手を組んだ。状況が状況とはいえ、そう思わせたあいつは──つくづく怖くなる。 

 

「悪い、失言だったな」

 

「いいよ、いまさら気にするような関係でもない。というか言葉にはなってないから失言じゃない、なる前に当てた」

 

「はぁ‥‥‥そうだな。シャーロックから貰った言葉をお前にも贈ってやる──”君には推理の才能がある”」

 

 呆れた。嘆息のあとに飛んできたのは、想像の斜め上からの贈り物だった。

 シャーロック、キンジにそんなこと言ったのか。

 

「それはまた、愉快な言葉だね。ちょっとしたユーモアもあって」

 

「いっそのことお前もシャーロックみたく多芸を目指せよ。尋問は綴、強襲科は蘭豹から学んでる、探偵科で自由履修を取れば、あれだ、三刀流ってやつ」

 

「バカかお前は。何が三刀流だ、勢いだけで変なこと言うんじゃないの。バスカービルには理子っていう凄腕の探偵が既にいるんだぞ? 専門家をさしおいてどうして俺が一人で3つも仕事をこなすんだよ、デドダムかよ」

 

「見えたぞ、ロキシーだ。この話の続きはまた後で」

 

 どの話だ、色々内容がありすぎて分からねえよ。

 シャーロックのことか、ルシファーのことか、それともデドダムか。

 ゲート式のパーキングを通り、助手席のキンジから駐車券をもらうと、武藤のサファリも発見。いつ見てもタフな見た目してるよ、オーナーに似て。

 

 ‥‥‥2ドアを開けて、何度も来たロキシーのドアを叩く。本土のダイナーくらい、いまでは馴染の深い最高の場所だ。控えめに言って最高の店だ──LAのナイトクラブにだって負けてない。

 

「お、遅かったじゃねえかお二人さん。もう食っちまってるぜ、腹ペコでよぉ」

 

「久しぶりだね、遠山くん」

 

 けどまあ、誰と来るかにもよるのかな。

 しかし、武藤のいっそ清々しい問答はあいかわらず、憎めないなぁ。

 

「ごめんね、いきなりのお誘いで。二人はもう何か食べちゃった?」

 

「いや、切が冷蔵庫に溜め込んでるコーラだけ」

 

「そりゃグッドタイミングだったな。おら、好きなもん頼めキンジ。驚くなよ? なんとな、スクラッチくじが当たったんだよ」

 

 「こんなの本当に当たるんだな」と、武藤はなんとも上機嫌に皿に残ったハンバーグにありついた。不知火とはまさに静と動、食い方に性格って出るよな。

 ああ、別に批判してるわけじゃない。ウィンチェスター家のテーブルマナーは死んでるからな、どうこう言えない。

 

「そりゃ良かったな。次は宝くじ、ロトでも当てるか?」

 

「悪い、ちょっと電話だ。──武藤、俺のもハンバーグ。チキンウィングも」

 

「あいよ、ゆっくりしてこい。半分なくなってたら許せ」

 

「いいよ、そのときはお前の奢りでもう一個頼むから。あとでな」

 

 

 こんなときに電話──いや、しかもこの番号は、

 

 

「はい」

 

『良かった、繋がるかどうか五分五分だったから』

 

 

 国際電話だ。

 一時期的に頼んで出してもらった店のすぐ外で受け取った電話の相手には、覚えしかない。本土からわざわざお電話とは、どういうことだ。

 

 

「やあ、クレア。久しぶり、珍しいなそっちから電話なんて。ああ、でも実は俺もお前の声が聞きたかったところ」

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