哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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香港編
キンジvsボンドカー


 両開きの扉を開き、踏み入れた先にあるのは長椅子と祭壇。両脇の壁に備えられたステンドグラス、十字架に磔となっている聖人の彫刻。四方を見渡してもそこは外界と切り離された空間、神を敬い、神に祈りを捧げる場所。至って普通の礼拝堂だった。燦々と照り付けている陽射しからの透過光で、槍を持った大天使ミカエルが描かれたステンドグラスが、頭上で鮮やかに煌めいている。

 

「武偵病院に礼拝堂なんてあったんだな。何度も世話になったのに全然知らなかった」

 

「珍しいものじゃありません。手術前のお祈りにだって来られるし、入院中の患者も来られる。トリプラー陸軍病院にもあると聞きましたよ?」

 

「あそこにはまだ一度も」

 

 案内してくれた一年下の後輩──乾桜に俺はそっと横目を流す。

 

「人間、本当にどうにもならなくなったときは誰かにすがりたくなる。どうにもならない困難が来たとき、人間は救いを求めるんです。自分より大きな存在に」

 

「そうだな、助けてくれるなら祈りたい。けど」

 

「けど、なんですか」

 

「いくら祈ったところで届かない。神は行方を眩まし、天国は機能しなくなってる──だとしたらどうする?」

 

 とても聖堂にやってきた人間とは思えない質問を投げると、乾は真剣な顔つきで頭上を仰ぐ。

 

「大事なことを忘れてます。私は天国を知らないから、本当のところどうなっているかは分かりません。でもそれは雪平先輩の真実で、私たちみんなの真実とは違う。本当に神を信じてるなら、雪平さんの言葉で揺らいだりしない。信じるってそういうことです」

 

「……神がとんでもないロクでなしだったとしてもか?」 

 

「祈りは届くと思います。神様でなくとも、きっと誰かに」

 

 真っ直ぐな乾の瞳に、俺はそれ以上のことは言えなかった。近日中には香港への修学旅行Ⅱも始まる。神には滅多に祈らないのが俺だが、今日に限っては俺も祈りを込めた。一日でも早く、神崎が母親との失った時間を取り戻せるように──

 

 

 

 

 

「車はアメリカで生まれました。日本の発明品じゃありません。我が国のオリジナルです。しばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です」

 

「理子もキャデラックは好きだよ?」

 

「キャディがお好き? 結構。ではますます気になりますよ。ああ、仰らないで──シートがビニール、でもレザーなんて見かけだけで夏は熱いし、よく滑るわすぐひび割れるわ、ろくな事はない。天井もたっぷりありますよ、どんな長身の方でも大丈夫。まあ、コンバーチブルだし」

 

「もしかして、そのやり取りがしたいためにキャデラックにしたんじゃないだろうな?」

 

 ーー残念ながらそれは外れだ。渡りに船のつもりで乗り込んだ香港で、キンジが操るキャデラックは現在進行形でメーターを振り切っていた。

 

 時速100kmはあろう速度で四つん這いで追いかけてくる孫悟空から逃げるために。……なんともふざけた脚力だこと、まるでピューマだ。

 

 理子が調達し、キンジの運転するキャデラックには俺と星枷を加えて戦闘要員が四人。しかし、このカーチェイスに至った原因の一つは、市街地で装甲車を乗り回そうとしたココの無茶苦茶な戦術にある。車で装甲車と戦うワイルドスピード的なシチュエーションは、スリル中毒のケがある理子でも賛同しないだろう。俺だって反対だ。

 

 ココが装甲車を用意してるのは想定外もいいところだが、だだっ広いこの国で孫悟空を炙り出すという本来の作戦は成功だ。その孫悟空に現在進行形で追い回されてるがな……

 

「いつもの感じでこの状況をたとえるなら?」

 

「いつもの感じ? 俺とキンジ初の香港旅行は非常にまずいことになってます」

 

「ちょっと待て……嘘でしょ……キーくん、後ろから来てるのあれZ8だよッ!」

 

「……いい車を見つけたね。足の速さじゃ、まず勝てない」

 

「どっかの金持ちが運悪くドライブしてたか。足漕ぎボートでブラックパールと競争するようなもんだ。目測、距離600メートル。理子、やっぱり買うならキャディより──」

 

「どうせカマロにしとけって言うんでしょ。変形して戦ってくれるなら理子も大賛成だよ、黄色いやつ」

 

 トランスフォーマーが味方、それは何とも心強いな。かなり心強い。後ろからは、既に運転手を並走していた別の車に投げ捨て、ドライバーの権利を奪った悟空が追走して来ている。流石はボンドカーだな、こっちはメーターを振り切って120km前後だが、あっちは150kmは出てる。

 

 開いていた距離は次第に詰められるがそこで理子が動いた。ヘッドスライディングするような姿勢で、車体後部のトランク上へ上体を乗り出している。ったく、このキャデラックも100kmは出てるのにまるで物怖じしてないな。

 

「あの速度だと並ぶまで一分ってところか。直線にハンドルを固定する、狙えるか?」

 

「──I copy。理子にお任せ」

 

「それで給料を貰ってる──Hoo-yah」

 

 思い思いに返事を返し、キャデラックが直線の走行に固定されると同時に、二丁拳銃のワルサーP99とトーラスPT92の計三丁による一斉射撃。ばらまかれた9mmパラベラムは左右のタイヤに着弾し、くぐもった命中音が上がるが──車はスリップやコースアウトどころか、何事もなかったように走行を続ける。

 

「防弾のタイヤだね、さっきのはあれを選んでたみたい」

 

 そう会長が睨んだ通り、あのタイヤはどっちも防弾製らしい。あれでは9mmが通らない。空になった弾倉を入れ換えながら、素直に舌を鳴らしてやる。

 

「……金持ちってなんでああいうところに金を賭けたがる。トップガン、何か作戦は?」

 

「くししし、備えあれば嬉しいな!」

 

 器用に後部座席まで戻ってきた理子は……おいおい、マジか。オイル缶まで調達してたのかよ。

 

「きゃはーっ」

 

 追走するZ8が眼下に迫ったところで、理子は切り開いたオイル缶の中身を思いっきり道路の上にぶちまけた。こんなことされたら、いくら速度が速かろうと追跡どころじゃなくなる。無理に走れば、十中八九でクラッシュだ。これなら馬力の差も防弾のタイヤも関係ないはず……

 

「キンちゃん……!」

 

 しかし、そこは孫悟空。人間の理屈など嘲笑うようにむしろスピードを上げて、こっちのキャデラックを追ってくる。

 

「悟空め。お次はなんだ……?」

 

 照準越しに睨んだ先、左右の裸足を──フロントガラスの上縁とハンドルに乗せて、とんでもない体勢で立ち上がる悟空の姿が映っていた。車体は悪環境になった道でスピンしかけるが、それをハンドルを右足で操作する曲芸で──立て直してる。信じられないことに今やZ8はキャデラックの横にぴったり張り付いていた。

 

 無茶苦茶やりやがるな……理子がトップガンのマーヴェリックなら、あれはイーサン・ハント並みのクレイジーな運転だ。

 

 人間離れした緻密な運転に唖然とする俺たちを差し置いて、前方のビルから第三者によって投擲された『青龍偃月刀』が、難なくキャッチした悟空の手で振り回されていく。その一連の動きの間も、悟空は足でハンドルを操作したままだ。ここまで見せられると、運転が上手い下手の問題で片付けられないな。

 

「呂布、張飛、趙雲、関羽、夏侯惇──あの頃の中国には、遠山のような一騎当千の将、いい男がゴロゴロいたものさ」

 

 三国時代、今でも語り継がれている武将たちの名を懐かしむように悟空は並べていく。その宝石のような丸い瞳は右目だけが紅く、紅く、力を溜め込んでいるように輝いていく。あれは玉藻が重苦しい声で語ってくれた如意棒、レーザーの予備動作だ……!

 

「お前のお陰で思い出したよ、あの頃を。遠山キンジ。こいつはその礼だ、見せてやる……って言うとウソになっちゃうか。如意棒は目じゃ追えないからな」

 

 最後の最後で物騒なことを言い残す悟空の目が言うなれば照準、目を合わせれば物理的に相手を撃ち抜くことができる。標的はキンジで決まりらしい。キンジも鉛弾ならいつもみたいに手で弾くなり歯で受け止めるなりで平気で回避するが、物体を飛び越えてレーザーが相手だと──ちと怪しくなってくる。

 

 高揚しているわりに悟空は運転も相変わらず緻密にやってのけ、二台が並走してる状況も変わらない。キンジは目一杯飛ばしてるが流石にキャデラックでZ8を振り切るのは難題だ。早々に切られた強力なカードに、ここでも切り返したのは理子だった。

 

「キンジはあたしの獲物だ。昨日今日出た新参者に渡すか!」

 

 お得意の双銃と変幻自在の髪を使った変則の双剣双銃──二発の弾丸と投擲した二対のタクティカルナイフが、照準を定めようとする悟空目掛けて放たれる。双剣双銃の二つ名に違わない手数の多さだが、一発は命中するも防弾制服に守られた肩、もう一発は偃月刀に阻まれ、ナイフはその場で宙返りを決める荒業によって遮られる。

 

 着地を狙って俺がばら蒔いた弾丸も、やはり偃月刀を使って綺麗に弾いていく。近頃の連中はどいつもこいつも当たり前のように銃弾を弾きやがるな。いい加減、慣れてきたぜ。もう刀や槍で弾かれたくらいでは驚かねえよ。撃った傍から、明後日の方向に消えやがる。

 

「こりゃ弾の無駄だ、残弾6」

 

「だからあたしはマグナムにしとけって言ったんだ!」

 

「うるせぇ! DEなんて使えるか! 俺は9mmが好きなんだよ!」

 

 依然、悟空はふざけた方法でハンドルを操っているが、それまでキンジ一辺倒だった視線は真っ先に牙を向けてきた理子に変えられた。あの嬉しそうな顔、躊躇なしに『目』を狙ってきた理子がいたくお気に召したらしい。こっちの理子はダーティ・ハリー気味だからな。

 

「遠山、いい女がいるじゃないか! 王元姫を思い出す!」

 

 誰だよ、それ──と、無駄な言葉を叩いてやる余裕はない。華奢な体と矛盾した速度で振るわれる偃月刀は理子が構えたワルサーを二丁まとめて弾き、俺も残っていた手持ちの弾薬を迎撃の為に問答無用で吐かされる。

 

「きひひっ!」

 

 そして、そのなけなしのパラベラム弾もどれも大した働きをこなさなず、撃ち尽くしたトーラスのスライドにロックがかかる。ちっ、やりたい放題かよ。心中、愚痴を並べてやったとき、

 

「──ハッ、あたしは女でも愛して貰ったよ。これ以上ないってくらいにな」

 

 視界の隅で、素手になった理子の両腕が悟空に突き出されるのが見えた。刹那、中の見えなかった改造制服の袖の内側から、新たなワルサーが二丁飛び出した。スリーブガン……どこまでも抜け目ない。完全に不意を突きやがった。

 

「──!」

 

 ワルサーを握ると同時に、一瞬で狙いをつけた理子の両手から発砲音が響いた。計二発、少なくとも一発は被弾したらしい悟空の小さな体がZ8のボンネットにひっくり返った。今のは完全に顔面に食らったように見えたが……

 

「──白雪、残弾13だ」

 

「後払いだ、あたしの弾をくれてやる。さっさと補充しろ」

 

 普通は顔面に弾をぶちこまれて平気ではいられない。だが、至って冷静にベレッタを手渡し、弾薬を共有してくる理子とキンジの苦々しい顔と反応を考えると、俺の普通の考えは裏切られることになる。

 

 キンジが静かに歯軋りしたのと同時に、悟空が背筋を使った綺麗なジャンプでZ8の運転席に舞い戻る。そして、もごもごと口を動かし……ペッと何かを吐き出した。おい、まさか……

 

「……あいつ、飴玉舐めて戦ったわけ?」

 

「んなわけあるか。止めたんだよ、あたしの撃った弾を。歯で()()()

 

「もう瞼でマバタキして弾丸を受け止めても驚かないよ」

 

 弾薬を補充しつつ、口から鉛弾を吐き出す異様な光景に視線が呪縛された。至近距離から飛び出してくる弾丸を歯で噛んで止めたはいいが、その衝撃を殺しきれずにひっくり返ったわけだ。いつかキンジが似たようなことやって鼻血を吹き出したが彼女の顔は綺麗そのもの、そこは最上級の官位にいる獣人か。人間なら、今ので勝負がついてる。

 

「これは初めてやったよ。誉めてやる。いい女だな、気に入ったよ。お前は写真で見たことがあるぞ、峰・理子・リュパン4世だな?」

 

 悟空……前半は誉め言葉だが、最後のは導火線に火を点けちまったな。

 

「4世とか呼ぶんじゃねーよこのチビ!その上から目線も気に入らねーんだよ!」

 

「きゃっ!」

 

「っおい!」

 

 理子が怒りに任せて、後部座席から掌底でハンドルを殴りつけたせいで、キャデラックも近くにいたZ8の側面を殴り付けるように体当たりをかます。いきなりのことで俺と会長は姿勢を崩しそうになるが、体当たりを受けたZ8は側面のガードレールにぶつかって火花を散らしている。なんか……オイルを撒いたときよりもダメージ大きそうだな。

 

「お前に言われたくないぞ! チビ理子!」

 

 と、今度はZ8が反撃にぶつかってくる。カーチェイスが一転、お互いに時速100kmで車体をぶつけ合うドックファイトに姿を変えた。

 

「あたしは147ある! お前は140も無いだろ!」

 

「あと2センチありゃ足りる!」

 

 すっかりキンジからハンドルの操作権を奪った理子はアクション映画さながらの勢いでハンドルを回し、体当たりを繰り返していく。普段の神崎と理子の争いを見せられている気分だがこれは悪くない展開だ。単純なレースなら匙を投げたい勝負だがドッグファイトならタフなアメ車のこっちが有利になる。

 

「何がボンドカーだ。元グリーンベレーも乗ったキャデラックに勝てるもんか! 車はアメリカで生まれたんだよ!」

 

 ぶつかる度に車は揺れ、Z8もデビルも体当たりやガードレールとの擦り傷やらでボロボロになっていく。まさに殴り合いだ。

 

「キンジ」

 

「ああ、どうやら連打はしないらしい」

 

 だな、ドッグファイトに気を取られそうになるが悟空があれだけアピールしていた如意棒をまだ撃っていない。いや、もしくは何らかの理由でもう撃てないのか。どっちにしてもレーザーが来ないのは願ったり叶ったりだ。

 

「白雪、頼む」

 

「はい!」

 

 キンジの言葉に二つ返事で星枷がベレッタの引き金に指をかける。会長が例の危ない機関銃以外の銃を扱っているところは見たことないが、即興で借りたキンジのベレッタでも立派に悟空の足を鈍らせている。俺も理子から分けられた弾薬を惜しげなく、足止めに使ってやる。お膳立てはしてやった、キンジが片手を使ってDEを取り出せる程度にはな──

 

 砲撃のような音が上がり、Z8にクレーターのような穴が生まれる。いつ見てもゾッとする威力だ。一番末恐ろしいのはそんなDEを片手で手懐けるルームメイトなのかもしれないが。すばしっこい悟空は無理でも前を走るだけの車なら当て放題──考えたな。

 

「奇ッ!」

 

「ふざけんなぁ……」

 

 Z8をクルーズモードにした悟空が偃月刀と共に──嘆いた俺の目の前に飛び乗ってきた。名古女を彷彿とさせる大胆なカットオフ・セーラー服が翻り、俺の手首に向けて巨大な偃月刀が鎌のように払われる。差し向けたトーラスが呆気なく弾き飛び、突き出しだした足が今度はDEの銃口の先を理子に変える。

 

「ちょっ!」

 

 理子も腕を慌てて押し返すが、お次はそのキンジの腕に両足で立つという無茶苦茶な姿で偃月刀を払っていく。応戦する星枷のベレッタも弾は避けられ、制服に止められ、偃月刀に弾かれて空薬莢が乱れて飛ぶ。

 

「きひひっ!」

 

 四肢と偃月刀、そして尻尾まで使った変幻自在の立ち回りは無茶苦茶と言う他なかった。至近距離から放たれる鉛弾はまるで致命傷にならず、まとわりつこうとする理子の髪も不規則且つふざけた早さの動きに置き去りにされる。

 

「「このチビッ!」」

 

 ココ仕込みのクンフーで殴りかかった理子の声と悟空の声がハモる。鋭い前蹴りを回避するもコンマ数秒で追いかけてくる尻尾の振り払いが理子の頭部を強襲。デビルの後部座席に弾き飛ばす。

 

「ああ、いいなぁ。あたしは生きてる、痛みを感じてる。この戦い──大事にしよう」

 

「好きな相手とは痛みを共有したい系か。分からなくもないが今日は遠慮してもらう……!」

 

 首を払うような角度で迫る刃を、ギリギリのところで頭を下げる。恐ろしい速度のギロチンが真上を通過すると同時に、俺も懐から元始の剣を抜いてやる。問答無用で最大火力を振り払った。

 

「──!?」

 

 外した。だが、そこは隙を生じぬ二段構え。星枷が既にイロカネアヤメを抜いて、キンジを守るように刃を向けている。元々自前の武器じゃなかったからな、ベレッタを構えていたときとはまるで気配が違う。さすがは妖怪退治の専門家、威圧感だけで悟空を元いたZ8の運転席まで下がらせた。

 

 何回転も膝前宙を切り、身体能力の高さを見せつけてくれた悟空の敵意も傷だらけのZ8も未だに健在。第2ラウンドのゴング代わりに、やや怒りを滲ませた瞳が初めて俺に向けられる。

 

「おい、そっちのお前」

 

「なんだ?」

 

「その腕、酷く匂うぞ」

 

「変な意味に聞こえるから止めろ。本気で傷つくんだぞ。呪われてたとしてもな」

 

 実際、心を串刺しにされた気分だが対して悟空の口元は弧を描いた。

 

「お前がカインの野郎の後釜か。だったら、都合が良い。そいつは殺しという名のドラッグ、厄介な依存性がついて回る。お互い、喉の渇きを満たそうじゃないか!」

 

 何ともぶっそうなお誘いだ。戦うことが趣味の生粋の武道家気質らしい。俺は即座に首を横に振って、失敗しない断り文句を言ってやる。

 

「──いたしません。俺は普通にドライブして、普通に食事するお付き合いが好きなんだよ」

 

「……そ、装甲車……っ!?」

 

 お誘いを断った刹那、不穏な単語が星枷の口から溢れる。もう間近に迫っていた高速の出入り口で、機関銃を引っ提げた装甲車が逆走で侵入しようとしていた。ふざけんな……装甲車で高速を逆走したら駄目ですって習わなかったのか。

 

「クルマ対装甲車か……これは俺も初めてだ」

 

「安全運転はありがたいが今日だけはスピード違反しろ!」

 

「理子の言うとおりだ! 電信柱にぶつけてもいいから飛ばせ!」

 

 機関銃が壮大に弾をばら蒔き、デビルが出口に向こうとした車線を離れる。あんなもんに塞がれたら、降りようにも降りられないぞ。それこそクルマ対装甲車のエキシビションマッチ、ワイルドスピード的なバトルになる。消去法でこの立体高速道路をZ8と並走するしかないが……

 

「えーっと……」

 

 まずは星枷が、

 

「あちゃー……」

 

 次いで理子が困り顔を作る。それもその筈。真新しいとは思ってたがまだ作りかけか……先に繋がってる筈の道が途切れてる。このままだと先に広がってるのはヴィクトリア湾、もれなく海面に真っ逆さまだ。そして、逆方向には愚鈍な動きで機関銃を向けてくる装甲車。

 

 ブレーキをかければ、悟空と仲良くセットで襲いかかるのは目に見えて明らか。それもオススメとは言えない。前も後ろも塞がれた。

 

「仲良くみんなで泳ぐか?」

 

「魅力的な提案だが、この高さと速度で突っ込んだら海面もコンクリートみたいに固くなる」

 

「……優しい嘘はなしかよ」

 

「そんなもんいるか、現実を見ろ。キンジ、加速だッ!」

 

 八方塞がりと思われた瞬間、理子が眼前の景色を見定めながら叫んだ。

 

「理子を信じるよ」

 

 迷わず、キンジはアクセルを踏み込んだ。

 

「きひひっ! 楽しいヤツらだなお前らは!」

 

 ココ一派はたまらず停車、加速するデビルには悟空だけがついてくる。そして、肉眼でも終着駅が見えてきた。綺麗に道が途切れてるな……

 

「なあ、最初で最後空気の読めないこと言っていいか?」

 

「いつもだろ、またお前らの命を救ってやる。見てろよ」

 

「しくじったら?」

 

「いける」

 

「駄目なら?」

 

「五分五分だな」

 

 と、理子は小さく笑いながら、それまで飾りだったシートベルトに制服の背面に隠していたフックを連結し、機械のような手際で何らかの仕掛けを作っていく──

 

「キンジーー!」

 

 ブレーキの一言がかかり、理子の背中のリボンが解かれていく。急ブレーキでひっくり返りそうになる視界で、デビルの背後に広がった理子お手製のパラグライダーが見えた。空気を受け止めたことで、広がりきったパラグライダーに働いている力はデビルとは逆方向──これは空気抵抗を利用したいわゆる空力ブレーキ……

 

 タイヤの痛ましい摩擦音が響き、視界は無茶苦茶に暴れるがいつまで経っても浮遊感と水面に触れる気配はない。前輪こそ高速道路の端からハミ出してるが……停車、できてるぞ。デビルがあの速度から……

 

「な、なんとか、なるもんなんだね……キンちゃん……」

 

「俺は今度ばかりはお魚さんと海の底も覚悟したけど……理子、イチゴ牛乳1ヶ月。俺の奢りでいい、マラサダもつける」

 

 Z8は減速なしで高速から飛び降り、下の波ブロックの上に突き刺さっていく。やがて前半分は海面、後ろ半分も炎上していて、スーパーカーが完全にお釈迦。なんてことだ、ゾッとするぜ。

 

「キーくん!理子偉かったでしょー! 誉めて誉めてー!」

 

「ああ、理子は天才だ」

 

 猫のように頭を差し出す理子と、それを優しい手つきで撫でるキンジ。オンとオフの落差が激しいって意味ではお似合いの二人だよ。ハニーゴールドの下着姿になった理子も頭を撫でられて、ご満悦らしい。

 

「くふふ、理子に夢中になっちゃった?」

 

「──とおっー!」

 

 まあ、少しでも甘い空気を晒そうものなら、蠍座の女こと星枷白雪が黙ってない。完全に理子の目を狙った三本貫手に、俺はどんな顔をすればいいんだ。それと、このドアに突き刺さってる星枷の鎌……

 

「おい、カインの」

 

「雪平だ。あの養蜂家はご先祖様」

 

 鎌からは玉鋼製の長い鎖が、高速の縁から下へと垂れている。デビルから降りてそこを見下ろすと、鎖の先端には分銅に掴まった悟空がこっちを睨んでいた。目に紅い光はない、レーザーの気配はなさそうだな。9条を破る心配もなくなった。

 

「キャンベルか」

 

「ハズレ。筋肉じゃなくて脳ミソの方だ」

 

 キャンベルは力、ウィンチェスターは頭。そこは組分けがちゃんと出来てる。悟空はつまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「堅物の独身貴族の集まり」

 

「それは言えてる」

 

 俺は水没するボンドカーに目をやり、

 

「派手にやったな。悟空、お前は免許を取るのに3年はかかるぞ?」

 

「おもしろい男だな、首を落とすのは最後にしてやる。遠山に言え、さっき銃弾を噛んでちょっとグラグラしてるんだぞ。これ以上あたしの歯を浮かすな」

 

「俺は一年以上あいつのルームメイトをやってるが、あれを止めるのは雪男と自撮りするより不可能に思ってるよ」

 

 依然として、背後で仲良くやってる三人に俺も即答してやる。これで仕切り直し、ココが仕掛けてくるならこれからだな。

 

「──お次はなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず緋緋神まではのんびりいきます。インポッシブルの新作が上映されるまでには……が目標。
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