哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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キンジvs記念撮影

 諸葛亮──ホームズやジャンヌダルクに負けず劣らずの知名度を誇る三國志の英雄。その手の歴史には知識の疎い者でも、とりあえず頭の回る賢い人ってことくらいは分かるほどに、その名前は後世に轟いている。かつては劉備に遣えていた話だが、今の時代の諸葛は魏の国の長──曹操の血縁者であるココたちの上役。魏には程昱、荀彧と言った軍師がいるが過去は過去、今は今、そこまで混同するのは筋違いだろう。

 

「さあどうぞ、ご入城を」

 

 その諸葛が両手を広げるような歓迎の言葉を放つ。俺たちが乗っているクルーザーから見える建物は──目測でも横幅200m、奥行きも50mはくだらない。そんな巨大な建物が、あろうことか海面に浮かんでいた。東京武偵高の人工浮島のように。

 

「ご入場か、デススターじゃなかったな」

 

「宇宙じゃないんだ、仕方ない」

 

 平静を保つ為のキンジの軽口に乗ってやる。洋上に浮かんでいるのは3階建ての豪華絢爛と言って差し支えない巨大な城。至るところに青龍、白虎、朱雀、玄武の四神をモチーフにした金の彫刻が掘られており、藍色の根瓦と外壁は朱色を基調に、薄青緑、白、目立つ金色で彩られている。まるで巨大な美術品がそのまま洋上に安置されているようだ。

 

 入口の左右に飾られた青龍の像の陰からチャイナドレスの女がゾロゾロと、クルーザーから降りる俺たちを出迎えるように出てくる。これが香港で活動する藍幇の本営──海面に浮かぶ連中の根城、藍幇城。キンジが悟空と決着をつけることになる、今回のステージだ。

 

 

 

 

 

 

「白馬だぜ、白馬。あいつ、白馬に乗って高速道路を走ってきやがった。夾竹桃もオープンカーで船に向かってジャンプしたり、タンカーに突っ込んだりバカなことはしょっちゅうやるけど白馬で高速道路だぞ? ありえないだろ?」

 

「愚痴を言いたいのか、すごいって言いたいのかはっきりさせなさいよ」

 

「キリくん、本当に夾ちゃんと車でタンカーに突っ込んだの?」

 

 大理石の床を通り、バスカビールの面々が案内されたのは2階にある貴賓室だった。至るところに窓や扉の備えられている藍幇城だが、この貴賓室からはヴィクトリア湾に暮れゆく夕陽を眺められると、これまた旅館のようなアピールポイントが諸葛から語られた。事実、俺たちへの対応はまさしく宿に泊まり来た旅客へのそれだ。

 

「車に乗ると性格が変わるって言うだろ。1400キロのマシーンだ、人も殺せるマシーンだ。特に、あの蠍みたいな怪物が乗るとなんでもできると思って、区別がつかなくなる──ローラーダービーと。もしくは障害物レース」

 

 海を越えた先にいる誰かさんに愚痴を吐くことで、ここが敵の本拠地であるという忘れそうになる現実を繋ぎ止める。接待ムードで忘れそうになるがここは高級ホテルでも経営の悪化してる温泉宿でもない。極東戦役で敵対関係にある組織の本拠地、それが本質だ。

 

 理子のパラシュートを使った空力ブレーキによって、デビルとZ8のチキンランが幕を閉じた刹那、再び睨み合いになりかけた場に新たな援軍が参戦した。バスカービルからは平賀さん製の飛行ユニットでレキを抱えた神崎が空から、藍幇からはココたちの上役である諸葛亮が高速道路を白馬に乗って駆け付けた。

 

 互いに派手さには事欠かない登場をしたわけだが、市街地でありながら問答無用で仕掛けてきたココと違って、彼が提案してきたのは停戦。細かく言えば、キンジが説いた講和案に大筋の同意とバスカビールを気賓客として迎える提案を出してきた。ココが決議を下す前に仕掛けた無礼への詫び──と、諸葛亮は言っていたがこいつはどうにも頭が回る。俺が足掻いたところで腹の底が読める相手じゃなさそうだ。

 

 あの好戦的なココや悟空を、言葉だけで説き伏せ、あの一触即発の場を、血を流させずに納めたんだからな。言葉は武器であり、時には凶器となる。よく言ったもんだよ。10人は寝れそうな天蓋つきの大ベッドにダイブした理子、神崎も玉座風の椅子に腰を下ろして、高速道路で見せた明らかな敵意はない。

 

「悪くない部屋だけど、赤と金が目立ちすぎるわね」

 

「中国では赤は健康運、金や黄色は金運を表す色とされています」

 

「それでもよ。それにクリスマス・ツリーが無いのはいただけないわ」

 

 玉座風の椅子の上で神崎がつまらなさそげにボヤいた。

 

「ツリーって。この部屋にツリーは似合わないだろう。誰がどう見ても」

 

「あのね、これは似合う似合わないの問題じゃないの。キンジ、あんた何も分かってないわ。感謝祭のあとには何がやってくる?」

 

「何って……」

 

「ブラックフライデーでしょうか?」

 

「そう、ブラックフライデーよ」

 

 言い淀んだキンジに代わってレキが正解を当ててしまった。本土のイベントだけあり、ルームメイトのやや疲れてそうな瞳がこっちを向く。

 

「ブラックフライデーって、海外のホームドラマなんかでやってる、あの?」

 

「ああ、一年で最大の買い物デー。福引きやセール品、一足早くクリスマスの買い物を終えようとする衝動に駆られ、ごく普通の主婦が暴徒と化す日だ。家電量販店が戦場に変わる、バイ・モアとかな」

 

「そのブラックフライデーが終わって、明後日はクリスマス。クリスマスなの。クリスマスにはツリーが必要でしょ?」

 

「アリア、ここはバリバリの中国間だぞ。そんなもん置いたらカオスになるだろ」

 

 クリスマスにこだわる神崎、現地の雰囲気を崩したくないキンジ。珍しくお怒りムードの神崎にも退かないキンジ──と思ったが、

 

「お……俺はちょっと偵察してくる。調査は武偵の基礎だからな」

 

 巧みな台詞でバルコニーに回避、機嫌の悪くなった神崎との衝突を避けた。実際、理子がさっき言っていたのを聞いたがバルコニーは城の外周を繋ぐ回廊になっているらしく、偵察には悪くないコースだろう。理子がいるとはいえ、俺たちはまだこの城について知らないことの方が多い。悟空についても同様だ。探って不利益を被ることはない。

 

「待て、俺も行く。なんていうか、突然現れた豪華なホテルってシチュエーションには嫌な思い出しなかない。のんびり座ってるより散歩したい気分だ」

 

「いつもの重たい話か?」

 

「雨宿りに止まった高級ホテルで、隣の部屋の新婚がスープのダシにされた話」

 

「一年前なら冗談だって笑えたのに。最悪だ」

 

 そう嘆いたキンジの後を追いかけ、俺もバルコニーに出た。今まで、曰く付きのホテルやモーテルには何度も泊まったがおっかなさではあのホテルがダントツで抜き出ている。隣の新婚はスープのダシ、ホテルのスタッフや常連客はみんな揃って異教の神、お次はルシファーと来た。雨宿りに知らないホテルには泊まるな、高い授業料と引き換えに学んだよ。

 

 一応……のつもりだろうがベレッタの安全装置を外したキンジが窓から他の部屋も改め、当初自分で言った探索の目的に勤しんでいく。熱心なチームリーダーに引っ張られ、俺も右左と視線を泳がせるがどうにも戦闘拠点と呼ぶには怪しくなってきたな、この城。連中の資金力を考えると、もっと頑丈で強固な要塞を組めたんじゃないか。大雑把に見ただけだと、見た目の絢爛さが先歩きしてるだけで難攻不落の施設とは言い難い。

 

「造りが甘いっていうか、何回も増改築を繰り返してる感じだな」

 

「京都で見た星枷の神社の方がよっぽど砦や要塞っぽかった。働いてるスタッフを含めて」

 

 どうやら全員が全員、手練れの戦闘員や後方支援の人員ということではないらしい。バルコニーを見て回っただけでも、おおよそ非日常とは無縁な匂いをした人たちの姿も何人か見かけた。植物園みたいなエリアにいた庭師らしき数人の女がまさにそれだ。

 

「あの軍師のこと、お前はどう見る?」

 

「さあな、まだ何とも。猴のことも……まだ見えてないことがあるような気がする」

 

「バナナで手懐けようとした話?」

 

「今度はお前がやれよ。得意だろ、人間以外の相手を口説くのは」

 

「いたしません。お前が無理なのに、俺に靡くわけあるか。相手はあの神仙・孫悟空だ。猿の惑星に出てくるような連中を手懐けるのとはワケが違う」

 

 来る道中、クルーザーでキンジから聞いた話だと悟空には好戦的な『孫』と大人しい『猴』の二つの人格が形成されているらしい。これまた陰と陽、表と裏と言いたくなる正反対の人格だ。キンジが香港の街を彷徨いていたときにたまたま遭遇し、神社でバナナを一緒に食べながら話をしたのが猴。その後、ココの乗る装甲車と共に強襲して来たのが孫。

 

 一つの体に二つの人格。キンジが直接聞いた話では、孫は後天的に作り出された人格で、かつて三蔵法師と大立ち回りを演じたのも孫。天笠への旅のお供を勤めた有名な話も全部真実だ。真実なだけにこれは……

 

「しかし、悲しい話だな。悟空は不老不死を求めた末に、ありとあらゆる術を体得した天下無双の大妖怪。三蔵法師の手足として、大人から子供までみんなに知られてる。そんな英雄が現代では身内がおらず、お金もなく、仕事に就くことすらままならない。変な話、お前の話を聞いてランボーを思い出したよ」

 

 そう、悲しい話だ。城から見えるヴィクトリア湾を眺めながら、やっぱり俺はそう思う。

 

「戦場では100万ドルの武器も任される、けど国に戻れば駐車係の仕事すらまともに任せてもらえない。力だけではどうにもならいことが、一番厄介なのかもな」

 

「ああ、俺は小難しい話は得意じゃないが。悟空が現代のこの国で生きていくには藍幇の手を借りるしかなかった。みんながみんな、玉藻やヒルダみたいに現代に馴染んでるわけじゃなかったんだよ。けど、それでもあいつは孫が連中の手駒として人を殺めることを許さず、お前に自分を殺すように頼んだんだろ?」

 

「……」

 

「どうせ死ぬなら良い人のまま、誇り高く死にたい。俺とあいつは種族も生まれた場所もまるで違うが、その気持ちだけは分かる。でも本音を言えば、安っぽくても血の流れない結末になることを願ってる」

 

「世の中、そう何でもかんでも都合良くは運ばない。でも求める結果を願うことは自由だ。祈ることもな?」

 

 心地良く飛ばされてくるキンジの軽口に、俺もうっすらと笑みを返した。

 

「人間、自分ではどうにもならなくなったときにより大きな存在に祈りを捧げて、救いを求めるらしい。香港に来る前、乾がそう言ってたんだ」

 

「乾が?」

 

「お前なら、いつもみたいに俺にはとても真似できない結末を運んでくれるって期待してる。プレッシャーをかけるなって言うなよ、バスカービルのリーダーはお前なんだからな」

 

「なんで俺なんだよ」

 

「人間は八方塞がりになったとき、自分より大きな存在に縋るんだろ? 残念ながらみんなが敬ってる神はただのロクでなし、イカれた小男だ。俺は頼りにするなら神なんかよりお前に賭ける」

 

 忘れてないーー死神の長、先代の死の騎士が言った言葉。死は等しくやってくる。それに例外はない。

 

(ーーいつかは神を連れていく)

 

 もう随分と昔に聞いた言葉なのに、昨日のことのように記憶の深くにそれは刻まれている。神が完全に消えて去った世界ーーそうなったら、俺たちはどうなるんだろ。怪物や獣人との小競り合いはまだしも、最終戦争やスケールの狂った問題はきっと起きなくなる。

 

 そうなったら、俺はどうなる。武偵として今までのような生活を送れるのか。それとも誰かと家庭を持って、普通に暮らすって、手の届かなかった夢を、送ることができるのか。神に仕組まれたシナリオを、神によって描かれたシナリオを、回し車を回すだけの日々が終わるときーーそれはたぶん、本当の本当に、俺たちにとって最後の局面だ。

 

 あの日、母さんが黄色い目の起こした火事で死んで、サムを追いかけて白いドレスの女から始まった旅がーー終わるときだ。その最後を乗り越えたとき、俺はどんな顔でその景色を見てるんだろう。あるいはーーその最後のシーズンが始まる前に俺は……

 

「随分と分の悪い賭けにBETするんだな」

 

 皮肉混じりのキンジの言葉で思考が戻る。記憶を遡っている間に、向けられている目は丸くなっていた。

 

「……大丈夫か?」

 

「ん、ああ。大丈夫だ。なあ、キンジ」

 

「なんだ?」

 

「麻雀だ」

 

「は?」

 

「俺、多面張より地獄待ち。悪い待ちの方がアガれる気がするんだよ。部の悪い勝負に慣れちまったんだろうな」

 

 関係のない話題に舵を切り替えるべく、そう口にする。だが、あながち間違えでもない。アンフェアな条件、部の悪い勝負を犠牲だらけの苦い引き分けに持っていく。それが我が家の常だったからな。

 

「地獄待ちで相手を飛ばすのか?」

 

「まあな、狙い撃ちだ」

 

「でもお前が麻雀でアガってるところ、大門未知子より見たことないぞ」

 

「……失礼な。実を言うと、城之内先生と卓を囲むのが夢なんだよ」

 

 彼女は誠実で、絶対に失敗しない麻酔科医。患者を決して見捨てず、裏切らず、多忙の日々でも娘に愛情を送ることを決して忘れないーー絶対に失敗しない医者の、最高で最強のパートナー。

 

「って、なんだその目は!別にいいだろ!城之内先生は立派な医者だ!尊敬するしかないだろ、あんな人!」

 

 嘘偽りない本心を言ってやるが、遠山キンジの視線は変わらない。おい、その星枷をバカみたいな顔で眺める武藤を哀れむようなときの視線を止めろ。

 

「お前もそっちに限っては気の多い男だよな」

 

「なら聞くが、もし自分の体がリンパ節や肝臓まで癌に食い荒らされてるとしてだ。お前は神様仏と、城之内先生ーー正確には大門先生と城之内先生のどっちを頼りにするんだ? どっちに救いを求める?」

 

「……何がどうなったらそんな話になるんだ。訳分かんねえよ」

 

 と、キンジは後ろ頭を掻いた。

 

「なあ、どうして俺たちは敵の本拠地で、もしも自分が末期癌になったらなんて不吉な話をしてるんだ? 頭を冷やして考えてみろ、やっぱりおかしいだろ?」

 

「大門先生にとっての手術はプライスレスのライフワーク。ビジネスじゃない。あそこまで言い切る姿ってさ、一銭にもならないハンターって仕事をしてる俺からすると、色々と思うことがあるんだよ。俺もフリーランスだからねえ、ハンターとしては」

 

 俺は呆れるキンジとそのまま一通りバルコニーを見て回りーー

 

「いや、分かった」

 

「何が?」

 

「お前はやっぱり神を敬わない」

 

「城之内先生は敬う」

 

「お前の屁理屈を並べたら、きっと紙の山に埋もれるな」

 

「信じられないけど、香港に来る前に今のと同じこと言われたよ。お前、実は夾竹桃の親戚?」

 

「お前を笑わせる趣味はない」

 

 最初に招かれた貴賓室に戻る。すると、キンジが反射的に視線を明後日の方向に逸らした。

 

「やっほーキーくん!見て見てー!藍幇のみんながコスくれたんだよー!」

 

 駆け寄ってくるのら藍色のチャイナドレスを着た理子だ。理子だけじゃない。貴賓室にいたバスカビールの女子は全員が制服からお着替え、星枷は理子と色違いのチャイナドレス。レキも神崎も韓国ドラマに出てきそうな上流階級っぽい民族衣装に肌を隠している。特に神崎なんて肌色が明るいこと以外は、完全に見た目がキョンシーだ。

 

「あっ、あっあっキンちゃんっ、私まだちゃんと着れてないの……!」

 

「切、俺は今から目を閉じる。残るのはこの両耳だけだ。だからお前も何も言うな。できるか?」

 

 星枷の声だけで、目には毒な景色が広がっていることを察したらしい。俺が横目を向けたときには両目は閉じられていた。

 

「……できるかって、必要なら貝にでもなれる男だぞ?」

 

「ちょっとキンジ!あんた何で目を閉じてんのよっ!」

 

「切、なんとか言ってくれ!」

 

「無理。今の俺、貝だから。お茶濁さず」

 

「お茶? イギリス弄り?」

 

 なんで俺を睨んでくるんだ。何にでも噛みつくカミツキガメか。いや、ガメラだな。小さいガメラ。神崎ガメラ。微妙に母音が似てるし。

 

「ちょっと何か言いなさいよ」

 

「弄ってないぞ、()()()

 

「は?」

 

 ……あ。

 

「……ねえ、キンジ。気のせいかしら。変な名前が聞こえなかった?」

 

「キンジ、武偵は黙るのが仕事だ」

 

「俺は中立、スイスと思ってくれ。レフェリーはやらん」

 

 微妙に上手いスルーの手際に、俺と神崎は揃って毒気を抜かれてしまった。

 

「キーくん、うまいっ!」

 

「だろ?」

 

 あーあ、理子とハイタッチしちゃってるよ。現金なやつ。

 

「……ぅ」

 

 そして、仲良くハイタッチする姿を羨ましげに見つめる神崎と星枷。女が苦手で知られるキンジだが、理子はいわゆる友人としての距離感を保つのが上手い。もちろん今は友人として以外の感情もあるんだろうが、こうゆうのを何気なくやってのけるのは、ある意味で理子の強味なのかもな。

 

 実際、神崎と星枷が指を咥えかねない目をしてる。武藤がいれば唇を噛んで、血の涙を流しかねない景色だな。もしくは心タンポーナデ、それこそ大門先生を呼ばないと。しかし、そこは意外と真面目且つ責任感のあるキンジ。場の空気に逆らうと分かりながら、警戒心がないこととあくまで交渉に来ていることを、リーダーとして声を大にして言い放つ。一応防弾制服だしな、あれ。

 

「だって戦って汚れてたんだもん。洗濯してくれるって言うから」  

 

「それにしても……ここは遊び場じゃない。俺たちは交渉に来てるんだぞ。切からも言ってやれ」

 

 また俺かよ……なんでもかんでも話を振られても困るんだぞ。大抵の人間には得意と不得意があるの。そりゃ世の中には、代走もできて、外野も守れて、球速は100マイル超え、絶句するレベルの変化球を投げて、セーフティバントもできるホームランバッターなんて漫画のキャラクターみたいな怪物もいるかもしれないけど。

 

「最初に着たのは理子よっ!自分で着た挙げ句、レキにも着せてたんだからっ!」

 

「理子は悪くないよ。だって雪ちゃんが言ったんだもん……そう、雪ちゃんが着ろってーー理子は悪くねぇ!」

 

「わ、私言ってないよそんなこと……!アリアが一番喜んで着てたんだよ!」

 

 俺が何か言うより前に内戦が勃発。躊躇いなしに繰り広げられる責任転嫁も見慣れた風景だ。

 

「はぁ……俺は知らん。だが、まだ交渉は終ってないってことは頭に入れとけよ?」

 

「キーくん、こっちの壁をバックに記念写真撮って!女子はこっちに並ぶ!」

 

「いたしません。切、頼んだ」

 

「……お前も言いたかったわけね。はいはい、修学旅行だしな」

 

 キンジが首を横に振ったので、代わりに理子からラインストーンでデコった携帯が渡される。観光地で家族連れにインスタントカメラを渡される時代が懐かしいね。

 


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