哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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 最低限のペースでは投稿が続いてるので、いけるところまでやっちまえ精神で続けていきます。
 今回も一応前話と同じ改行フォーマットを試しています、アンケ次第で戻るやもしれません。


ジーサード・リーグ

 ジーサードの本拠地であるマンハッタンのビルまでは、ジーサードご自慢のスーパーカーコレクションで向かう。

 ゾンダ、フェラーリ、ロールスイス、ブガッティ等々、この数台だけでどれだけの札束が生まれることか、今更ながらゾッとしちまう。

 

「音楽の趣味は壊滅的に合わなかったが車の趣味はそうでもないな。73年型コルベットとは趣味がいい、73年ってところが気に入った」

 

「クラシックカーがモテるのは一世代前の本土だよ、時代は変わった」

 

「変わらないものもある、今でもハンバーガーは美味いまま。シカゴは寒いし、カリフォルニアは暑い。ずっと変わってない」

 

 青々しく塗装された73年型シボレー・コルベットを借りて、もはや何年振りからも分からないニューヨークの街を走る。

 キンジと相乗りできなかったことにご機嫌斜めのかなめは助手席で淡々とキャラメルを口に放り込んでいき、5個目が口に消えようとしたところで、ジーサード所有のどでかいビル──目的地についた。

 

「……」

 

 ……なんて高さだ。頭上を仰ぐと首がおかしくなりそうだ。頂上がまるで見えない。

 マンハッタンにこんなビル……札束の匂いがぷんぷんするぜ。

 

「キングコングに狙われそうな見た目してる」

 

「映画の見すぎ。ほら、行くよっ」

 

 キンジも同じこと思ってそうだけどな。

 ゴシック洋式の洒落たエントランス、その入口の上部には『G』と『Ⅲ』の字が組み合わさったロゴマークが彫刻されている。

 本当に所有しちまってるんだな、マンハッタンにビルを。派手な自家用機、スーパーカーのコレクションといい、ジーサードリーグの資金力には驚くばかりだ。

 キンジは春夏秋冬、万年金欠だってのに。

 

 当たり前のように広いエントランスを合流したジーサードたちと進むが、これまた広いホールの壁際の床を見たキンジが不意に足を止めた。

 あれは……手形か? 名前と、それに概説っぽいのも付いてるぞ。なんだよあれは……

 

「かなめ、あれなに?」

 

「サードでも100%勝てるとは言い切れない猛者の手形。ほら、あそこにお兄ちゃんの名前もあるでしょ?」

 

「ああ、なるほど。納得だ」

 

「後で手形取らせてくれよ、兄貴。ヒーローとして、ここに永久に名を遺させる、殿堂入りだぜ」

 

「ふざけんなッ! 言っとくが俺はヒーローになるつもりはない、そのスペースは他の誰かに譲ってやれ!」

 

 ようするにあれは、ジーサードをノックアウトできる可能性がある人物の、殿堂入りリストってことか。

 だが、まるで不名誉だと言わんばかりに、キンジはかぶりを振りつつ腕を組んだ。

 少し離れた場所からそんなやり取りを眺めていると、ふと見慣れた顔を見つけて、俺は壁際からやや離れた窓の近くにいた少女に歩み寄る。

 左右で色の違う瞳、前髪が切り揃えられた銀髪という姿は、一度でも会えばそう簡単に忘れられるものじゃない。

 わざとらしく足音を立てると、宝石と違わない綺麗な瞳と目が合った。

 

「ようこそ、キリ。会えても意外な気がしないのはどうして?」

 

「トラブルのあるところウィンチェスターありきでね。会えて嬉しいよ、ロカ」

 

 守備役として配置されていた銀髪の彼女は、KGBの依頼でジーサードの暗殺に派遣された腕利きの超能力者。

 俺も時たま助力を頼むことがあり、恐らくかなめやジーサードを除くとジーサードリーグのなかでもっとも交流のある人物。

 そのお召し物は、2段レイヤーの短いフレアスカート、ガーリーなプリントが裏地に施された膝丈コート、と……いつもながらお洒落なことで。

 

「褒め言葉として貰ってあげる。さっさと出すもの出してよ」

 

「さも当たり前のように心を読むな。これでも尋問科だ、心を読まれるなんて切腹もんだよ」

 

「何もないところから真実は引き出せない。あんたの言いたいことを先読みしただけ、手間が省けてよかったね?」

 

 悪びれない態度は相変わらずだな、安心した。

 俺はお目当ての物がラッピングされた箱をバッグから取り出していく。

 

「『IWC クロノグラフ』──米軍パイロット用だ」

 

「──Good.。気の利いたギフトがあるとは思わなかった」

 

「それなりに助けられたからな、幸運と不幸を平等にもたらすって例のまじない」

 

 目の前で、桜色の唇が弧を描く。

 ロカは時計のコレクターで、キンジが絶句する程度にはコレクションに金を注ぎ込んでいる。

 価値のある物には金を惜しまない、そこはジーサードにちょっと似てる。

 何はともあれ、中身の時計を確認したロカはご満悦。クールな表情が珍しく軟化してる。

 

「律儀なところは嫌いじゃないよ。これからも良い関係を」

 

 小首を揺らし、不敵に笑ったロカに俺も小さく頷いてやる。

 賢い女を敵に回すのはごめんだ、超能力者となればなおのこと。厄介極まる。

 

「仲良くしたいもんだね」

 

 守備役に入っていたロカの案内で、俺たちはホールのエレベーターから上の階層へと上がる。

 外から見ただけでも首が痛くなりそうな高さだったが、なんと最上階は115階。

 そして113階から上のフロアはすべてジーサードリーグの居住区。当たり前のようにどの部屋もホテルのスイートルーム並みの豪華さだ。

 ロカを先頭に通されたそのうちの一室に入るやいなや、かなめとツクモが一目散に御馳走が用意されているテーブルへと駆けていった。

 

 はは……これは……ちょっと俺もテンション上がるなぁ。

 テーブルには、ロカが用意してくれたらしいハンバーガー、チーズバーガー、ビッグマック、クォーター・パウンダーといったマックが山積みされている。

 他にもブリトー、フライドピクルス、アップルパイ等々……日本より一回り大きいアメリカサイズのコーラと併せてジャンクフードのオールスター揃い踏みだ。 

 

「な、なんてテーブルだ……見てるだけで胸焼けしそうだ」

 

「ここはアメリカだぞ? 主食がハンバーガーって言っても通る。それにジャンクフードもあながちバカにできないぞ、死の騎士のご機嫌を取れる唯一の交渉材料がジャンクフードだ」

 

「……死神ってジャンクフードが好物なのか?」

 

「変だろう、大好物だ」

 

 ヤツを呼び出すときはご機嫌取りのジャンクフードが必須。

 まあ、そもそも呼び出さないに限るがな。

 懐かしい本土サイズのコーラを流し込み、かなめ、ツクモに続いて、俺もテーブルに積まれたマックからベーコンチーズバーガーを抜き去る。

 うん、この味……チーズと肉、幸せを感じる。個々でも美味しいが2つ揃うともっと美味い。

 

「いつの時代もうまいピザ屋とバーガーショップショップは必需品。キンジ、折角のタダ飯を食わないつもりか? 食えよ、今回は誰かに横取りされて食いそびれる心配もないんだぜ?」

 

「そうだぜ、兄貴も食っとけ。腹が減っては戦が出来ぬ、日本ではそう言うんだろ?」

 

「いや、準備してくれたのは嬉しいけどさ。毎日三食これとかはよせよ?」

 

 「かなめの教育に悪い」と、小言を吐いても空腹には勝てないのが人間。

 ポテトに向かってキンジの指は至って正直に伸びた。

 不意に名前が挙がったかなめはというと、

 

「お兄ちゃん。このポテト、すっごく美味しいよね。るんるんって感じ……ふぉふらふぁーぃ(とまらなーい)

 

「おい、口の中のもん、ちゃんと飲み込んでから喋れ」

 

 ポテト数本を一度にくわえ、行儀悪く喋るかなめへキンジが珍しく兄っぽい注意をする。

 目を丸めて、一瞬だけ咀嚼するのを止めたかなめはストローの音を思い切り立ててコーラを流し込んだ。

 

「……ちゃんと噛めよ」

 

 アンガスがコーヒーメーカーで淹れてくれたブラックコーヒーを傾け、キンジの呆れた視線がかなめを射る。

 賑やかな兄妹で微笑ましい限りだ、外から見る分には楽しい。

 

「よく噛まずにすぐ飲みこむってのは太る要因なんだぞ?」

 

「貴希も同じこと言ってたけど、うまいもの食って太るなら幸せだろ」

 

「日本ではな、太りすぎると社会的ハンデを背負い込む恐れがあるんだぞ?」

 

 キンジめ。食い物のことになると、途端に理知的なことを言いやがる。

 ま、たしかに武偵もハンターもコンディション調整は大切だ。肝心なときの行き死にに直結しちまうからなぁ。

 

「ていうか、これ……ピクルスを、油で揚げてるのか……?」

 

「兄貴、そいつはフライドピクルスだ。こっちじゃ定番のスナックさ」

 

「定番にして最強のスナックだ、一口食うと病み付きになる。この濃い味をコーラで流し込む、これ以上の贅沢はない。炭酸が喉で弾けるとき、生きてるって実感するよ」

 

「この世から炭酸が消えたら、真っ先にのたれ死ぬのはきっとお前だな」

 

「人はそれを地獄と呼ぶんだ、マッドマックスの世界だよ。ここは天国、見ろよ。チップスもあるし、ディップもあるし、コーラだってある。全部揃ってる」

 

 本当の天国より良いよ。

 フライドピクルスを口に投げ入れ、コーラで流し込む、考えられる限り最高の食い方を満喫していると、

 

「で、いつ出るんだ。瑠瑠色金を取りに」

 

 コーヒーで一息ついたキンジが、ジーサードに問いかけた。

 

「全員の休息とコンディション調整、兵装調達とサジタリウスの整備。ま、合わせて3日ってとこだな。兄貴用のプロテクターも、今夜イニシャライズすりゃ3日後には装備できるぜ、楽しみにしてろ」

 

 ジーサードは肩についたマッドブラックのプロテクターを指で叩いて見せる、その表情も至って愉しげだ。

 へぇ、ただでさえ化物のキンジに先端科学兵装の鎧か。

 それは心強い、ドムにレンチ──鬼に金棒ってやつだな。

 いや、ドムにダッジチャージャーか。

 

「俺はいいから、切にくれてやれよ。同郷のよしみ、ってやつがあるだろ?」

 

「いたしません。ジーサードやかなめと血縁関係があるお前の方が調整もしやすいだろ。俺はいつもみたいにシャツを血だらけにして戦うから結構だよ」

 

 キンジもあのメタルヒーローのコスプレみたいなプロテクターは着たくないんだろうが、ジーサードがそう簡単に引き下がるような男じゃないことも知っていて、言葉に詰まったって感じか。

 俺を変わり身に使おうとは、なんともずぶとい神経をしてやがる。

 だが、あのプロテクターの性能はバカにできない。かなめと初めて遭遇したときは、結局最後まであの鎧を攻略できなかった。

 

 最先端科学兵装の力は、紛れもなく第一級。侮る余裕なんて持てない。

 ──それを越える、超先端科学兵装。楽しい里帰りになりそうだ。

 噛み砕いたフライドピクルスを嚥下し、次第に空っぽだったお腹も膨れていく。

 

 未来は不確定なことだらけだな、一年前前では想像すらしてなかったよ。

 本土、それもマンハッタンでキンジやレキとハンバーガーを食べる日が来るなんてさ。

 

「ジーサード。少し、外に出てもいいか。久々に本土の街を歩いてみたい」

 

 食後、キンジとレキの来客二人はジーサードの一声でアンガスの部屋に招かれることになった。

 恐らく、さっき話にも出たプロテクターのサイズ合わせってところだろう。

 久々の里帰り、帰郷ということもあってジーサードは「好きにしろ」と言って、懐から車のキーを投げ渡してくれた。

 

「これ、コルベットの?」

 

「現地妻ってやつだ、今回の件が終わるまで貸してやる」

 

 キンジによく似た、淡い笑みを見せたあとジーサードはすぐに背を向けてしまった。

 インパラがいなくて淋しかったところだ、このサプライズは素直にありがたい。

 

「ありがとう、ジーサード。現地妻という表現は複雑だが、73年のコルベットは実に素晴らしい趣味だ」

 

「けっ、朝までには帰れよ」

 

「門限を守ることだけは得意だ。あと、食うことも」

 

 雇われの立場で、放し飼いを許してくれたジーサードに礼を言いつつ、

 

「──フライドピクルスうまかったよ」

 

 俺は夜の近いマンハッタン向けて、踵を返すのだった。

 

 

 

 

 久々の本土、とはいえニューヨークというのはそこまで馴染みがある場所でもない。

 良くも悪くも、この国は広いからな。

 バーで浴びるように酒を飲む、クラブで遊び倒す……なんてこともなく、コルベットで市内を走り回っては、車外に出て、漆黒の摩天楼を吹き抜ける夜風を満喫しながら、自販機で買ったソーダをドアを背にして飲む。

 折角のニューヨークにしては、我ながら質素な夜の過ごし方を送ったものだ。

 

 帰郷して初めての夜、この最上階層の居住区にはゲストルームがないとのことで俺とキンジはジーサードの部屋を借りて特大ベッドの上で眠ることになった。

 

「男三人が特大ベッドひとつに並んで寝る。とんでもないことだよな」

 

「けど、男子寮のベッドよりふかふかだぞこれ」

 

「やめろ、帰ったときにあのベッドで寝れなくなるぞ。でも確かにこのベッドはふかふかだ」

 

 ジーサードが用意したローブのような寝巻きに着替えていたキンジに、悲しい警告を促す。

 高級品に慣れちまうと、元の生活に戻ったときが恐い。

 高級ホテルを味わったあとに、埃まみれのモーテルに泊まったときの心境といったら……あれは忘れられないね。

 

「よく門限までに帰ってきたな、俺は遊び歩くと思ってた」

 

「学生服でバーに入るわけにもいかないだろ。マンハッタンのカフェで、新聞とコーヒー片手に数時間も座ってられるタイプでもない。会話の弾むお友達でもいりゃ別だけどな」

 

 制服を脱ぎ去り、上は黒いシャツ一枚になると一瞬身を裂かれるような圧迫感が背筋に走った。

 

「……今から寝ようってときに脳を騒がせるのはやめてほしいんだけど?」

 

 俺は嘆息し、殺気を飛ばす──なんて、悪趣味な悪戯をしてくれたジーサードに小言をこぼす。 

 フェイスペイントを下ろしたジーサードは怪訝な目で、とんとんと左胸を指で叩く。

 なんとなく意味を察した俺は、黒い布の境目から少しだけ覗いた()()を晒すようにシャツの襟元を下に下げる。

 

「そいつが悪魔避けか?」

 

「ご名答。この刻印があると、悪魔や邪な存在に取り憑かれなくなる。アクセサリーなんかでも効果はあるが、首から提げるより肌に刻んでる方が何かと便利でね。持ち歩かなくていいし」

 

「俺はずっとS研絡みの悪趣味なタトゥーと思ってた」

 

「それもだいたい当たってるよ。ま、この模様に意味があるんであって焼き潰されでもしたら効果はなくなるけどな」

 

 欠伸を混ぜながら、キンジに冗談めかして答えてやる。

 

「お前の身内はみんなソイツを刻むのか?」

 

「ルールってわけじゃないがみんな入れてる。首を折られるよりマシだ、ミミッキュみたいに」

 

 人差し指を横に振って、ねじ曲げるジェスチャーをしてやるとジーサードは愉しげに笑ってからモダン調のテーブルランプの僅かな灯りだけを残し、部屋の照明を切った。

 だだっ広い部屋が、テーブルランプの微かな黄色い光だけになる。

 

「なぁ、変なこと言うみたいだけどさ。修学旅行に来た気分だ」

 

「修学旅行はもう行っただろ? 京都と香港に」

 

「あのときはベッドで寝転んで話す余裕もなかったじゃないか。それにジーサードだっていなかったし。なぁキンジ。バレンタイン、神崎からはチョコ貰えたのか?」

 

「こふっ!?」

 

「吐血したみてえな声出すなよ……」

 

 思わぬキンジの反応に、静かにジーサードがぼやく。

 

「こいつは貰ったな、金三」

 

「貰ったな、キリ」

 

 面白い反応が見れたせいか、普段は呼ぶことの名前で俺たちは目を合わせた。

 一方、キンジは怨めしさたっぷりの顔で俺たちを睨んでくる。

 

「なんでそんなこと聞くんだよ、お前たちには関係ないだろ。意味が分からん」

 

「意味なんてねえだろ」

 

「そのとおり、意味なんてない。でも気になるだろ、神崎がお前にチョコを渡せたのか。興味がある」

 

「……つまり意味があるんだろ」

 

「で、うまかったのか兄貴。アリアのチョコとやらは」

 

「ああ、どうだった?」 

 

 キンジのこと、というのもあってかジーサードもそこそこ乗り気だ。

 2対1で感想を求められたキンジは少しの沈黙を挟み、

 

「まず……まずまずの味だったな」

 

 うまく言葉を選んだキンジに、真意を悟った俺とジーサードは小さく笑った。

 

「ほら、いいだろ。やっぱり顔を付き合わせて話をするの。最近はしないもんなぁ」

 

「悲しいもんだなァ」

 

「ああ、悲しい」

 

「意識の疎通がしやすいのによォ」

 

「そのとおり。face to faceのコミニケーションは大事だぞ、キンジ?」

 

「今分かってるのは、お前らのいけすかない態度と激しい首の動きだよ。おい切、俺も聞きたいことがある。前に右目に特大の痣を作ってきたことがあったろ。あのときははぐらかされたが今夜は聞いてやる、吐け」

 

 ……抜け目ない、おとなしく転んだままでいろよ。ちくしょうめ、あれか……あの出来事は残念なことに覚えてる。

 

「あれはたしか、お前が例の鈴木さんと依頼に出てた次の日だった」

 

「なんでそんなこと知ってんだよ」

 

「理子に聞いたんだ、おもしろそうだったから」

 

 理子……便利すぎるのも問題だぞ。

 

「嫌味な野郎だ。子供の頃、サンタのブラックリストに乗ってたんじゃないか? 要注意って赤ペンで」

 

 一転、守勢の空気に嫌味たらしく言ってやるがキンジも逞しい。

 どこ吹く風って顔が、僅かなライトの灯りに照らされる。

 

「よし、やっとおもしろそうな展開になったな」

 

「また今度話す、もう寝るぞ」

 

「待て、今しろよ。おもしろい話なら早く聞いてきいい気分になりたいじゃねえか。でないと明日明後日、気になって集中力が乱れちまう」

 

 キンジを振りきろうとしたが、予想外にもジーサードが後ろからしがみついてきて、逃げ場を失う。

 これで2vs1。さっきの逆襲とばかりにキンジはイキイキとした声で、

 

「俺は話したんだから次はお前の番だ。お菓子がいるか? それとも自分から話すか?」

 

「俺を尋問しようとはいい根性してるよ。どうりで最近不吉な予感がすると思ってた、死神に取り憑かれたみたいに。お前らが死神だ」

 

「2人と1人だ、吐いちまえよユキヒラ。俺も興味がある、地雷原をスキップしながら歩いてきた男がどうやって目に痣なんざ作ったんだ?」

 

 部屋主たるジーサードの追及に、俺は諦めを込めて嘆息した。

 ちくしょうめ、あの話だな……どう話したもんかなぁ。

 

「当ててやるぜ、木にぶつかった」

 

「違う」

 

「じゃあ、破砕手榴弾が顔に落ちた」

 

「違う」

 

「転んでドアノブに」

 

「違うよ」

 

「野球のボールが飛んできた」

 

「外れ」

 

 ジーサードから始まり、キンジと交互に一度ずつ候補が上がるも全部外れ。

 額を指で数回小突き、記憶を絞りだしつつ、俺はランプの灯りに視線を定めた。

 

「ヒールだ。ヒールをぶつけられたんだ。ちょっとした行き違いがあって……」

 

 些細な口論の末にあいつの足から外れて飛んできたヒールが──

 

「右目にぶつかったの、あいつのヒールが。それで痣になったってわけ」

 

 嘘偽りなく、シンプルに原因を話す。

 

「「?」」

 

 だが、暗がりでは目を丸めているキンジの顔が見えた。

 首を動かすと、ジーサードもどこか拍子抜けしたような顔をしている。

 

「それだけ? ヒールが当たったって、なに本当にそれだけ?」

 

「それだけって……普通のヒールじゃない、船底みたいなヒール。見たことあるか? あんなの靴じゃない、あれはトマホークだ!」

 

 あんな凶悪なもんがふざけた勢いで飛んでくるんだ、凶器でしかない。

 ジャンヌもヒールが苦手って聞いたが、俺もヒール……嫌いになったよ。

 

「けっ、平和的な答えで拍子抜けだぜ。寝るぜ。兄貴、ユキヒラ。明日は日曜日だ、修学旅行気分で話込むのもここままでさ」

 

 先生みたいなことを言うジーサードに、俺もキンジも今度こそ就寝モードに入る。

 拍子抜けって……本当に凶器なんだぞ、あのトマホークは……

 

「ちくしょうめ。お休み、二人とも」

 

 ま、どうでもいいや。このベッドで寝れるならもうどうでもいい……

 男子寮のお粗末なベッドとは違った、睡魔をこれでもかと誘ってくるふかふかのベッドで、俺は瞼を下ろした。

 

   

 

 




『──フライドピクルスうまかったよ』S7、1、死の騎士──

 
 
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