「それじゃあ、ジャックとアナエルによろしく」
久しい再会を果たした友人とのお別れはやけにあっさりと訪れた。まじないを使ってこの国に乗り込んできたトレンチコートの天使は、大変口にしづらいのだが不法滞在状態。武偵的に複雑な気持ちを抱いたまま、ジャックへのお土産に『私立探偵マグナムーリブート版』のDVDを持たせてそそくさと俺はキャスを本土に送り返すまじないを描いた。
常日頃、俺が目眩ましに活用している天使を強制的に吹き飛ばす血の図形──あれに座標を固定したバージョンというべきか。そもそもどうやってキャスは翼をもがれた体で日本に乗り込んできたんだろう。得体の知れないまじないで一時的に天使の翼を取り戻した、とか。いや、無いなそんなこと。切ったりくっつけたりできるもんじゃない。
あれやこれやと刻印のことでトークバトルをやったが、アマラのことをおとなしくゲロったら緋緋神の件が済むまで──ようするに、様子見に考えを改めてくれた。キンジの影響かな、その場凌ぎの口八丁が上手くなった気がする。
『アリアを救いたければ、まずは神崎かなえに会いなさい』
脳裏に甦るのは昨夜のカナの言葉。すべてを握っているのは神崎の母親──神崎かなえ。俺たちと神崎が出会うきっかけを作った人、シャーロックの研究を盗み見たというカナですら触れていないことを彼女は知ってる。
緋緋色金とホームズ家。元を辿れば、全てはシャーロックが神崎に撃ち込んだ『緋弾』から始まった。鍵を握るのはホームズ家、最後に待ち構えているのは結局家庭の問題か。本当に──何の面白味もない。
◇
「釈放じゃねえのかよ」
「お前のために嘘を言ったんだ。周りの連中は釈放と思ってる。外に出てると思ってる。ようするに俺が言いたいのは、襲撃されたトラックについて知ってること全部話してもばれやしない」
──尋問科。話術、心理学、人体学などを使用し、確保した犯罪容疑者から情報を引き出す方法を学ぶ学科。同じく犯罪容疑者から情報を引き出す諜報科と合わせて『
教務科でも蘭豹先生と並んで危険人物と評されている綴先生が取り仕切る学科。そして、入学当初より俺が今でも席を置いている学科。賢人のしがらみは置いて、組織や集団とは無縁だった俺にはある意味初めての居場所だ。
そして、先生は俺にとって初めてできた明確な上役。軍隊式に言うと、初めて持った上官。こと尋問に腕かけては日本でも5本の指に入り、一方で悪夢のような戦闘力を併せ持った教務科有数の武闘派。
飲み仲間で隣室の蘭豹先生との逸話は尽きず、お互いの部屋を行き来できるように素手でベランダの非常扉をぶち抜いた、合コンでハブられて島を傾かせた、など事欠かない。それが誇張された嘘と言い切れないのがこの学校の講師、最高にイカれてる。
「知ってるってなんだよ」
話を戻そう──明日なき学科と呼ばれる強襲科ほどではないにしろ、この学科も危険度0とは行かない。その性質上、小物から大物まで犯罪者と面をつき合わせることになるからな。尋問科においては、ランクが上がる=危険な相手を任される機会が増えるということ。
大きな境界線はCランク。Cランク(まずまず)より上になれば、そこそこ有名人と出会うことにもなるだろう。嬉しい嬉しくないは別として。
圧迫感を感じさせる取調室の壁にもたれて先生は腕組み、俺は机の前に座って男と同じ目線の高さに合わせた。徹底的に追い込むつもりなら、相手だけを座らせて攻める側は上から見下ろせばいい。目線を同じにすれば、それだけ相手の心はリラックスする。忌々しいアラステアの教えだ。
「お前さぁー、盗難品を所持、売りさばいた前歴があるよなぁ。それと、お前の家を調べたらトラックから盗まれたものが続々と出てきちゃったんだよねぇ。けど、お前その身長だと170ないよなぁ? 被害者を襲った犯人の体躯とは一致しない。これは良いことだぞ?」
「トラックを襲う度胸もないだろ。だから盗品をさばく担当になった、財布係にな」
「襲撃の黒幕の名前は? 話してくれたら、帰してやってもいいんだけどさぁー?」
しかし、今回は追い込む必要はないと先生は餌をちらつかせた。
先生と組んで仕事をする機会は少なくない。例えば警察から押し売りされた仕事だったり、曰く付きの相手を俺が担当するときに横から保護者顔で乗り込んできたりと様々。
そして目の前の20半ばの男は、最近トラックを襲撃しては金品強奪を繰り返しているライダー集団のメンバーの一人。元々は道路を占拠して改造バイクで派手なパフォーマンスを繰り返すだけだったが、最後は五人組でサブマシンガンを使ってカージャックするところまで行き着いた。
それはそれで手錠ものだが、俺たちが調べてるのは別の案件。こいつらが使ったサブマシンガンと同じモデル──MACー11を使った殺人。バイクで高層ビルに乗り込んで男性一人を射殺、そのあとはパニックになった出入口を避けて、屋上から隣にビルにバイクごとジャンプ。銃声でごった返したビルから見事に逃走した。
アクション映画みたいな見事な手際だが、屋上に乗り捨てたバイクは当然のように改造された違法バイク。フレーム・スライダー、ブレーキ、マフラー……どこでカスタマイズしたかは分からないが正規の店には請け負ってもらえない仕事だ。それが糸口となった。
修理工の知り合いを通して、その糸を手繰り寄せた先にいたのがこのライダー集団。バイクのことを話したら、あの手のカスタマイズを頼む若者が最近一気に増えたらしい。つまり出所、要因がある。『どこで流行ってる?』と聞いたら二つ返事、『面倒なもんを流行らせてくれた』ってぼやきながら連中のことを教えてくれた。
さて、多少強引なやり方を使ったがこうして身柄はとりあえず抑えることができた。目の前の金庫番が口を開かないなら久々に綴先生のお手前を見れるのだが、
「分かった。アイスマンってやつだ」
それはお預け。意外にも黒幕の名前はあっさりと出てきた。
「アイスマン?」
「ああ。アイスマン」
「『トップガン』の?」
「『トップガン』って?」
まさかの返しに、俺は息を呑んだ。
「『トップガン』知らない……? こいつ、逮捕もんですよ」
「どうやって連絡するか教えてくれる? そのアイスマンにさぁー」
「しない。本名も知らない」
「へぇー。そりゃまあ、都合がいいこと」
「『ザ・エージェント』じゃねえし、電話番号もメアドも交換しないって」
「『ザ・エージェント』は知ってるのに『トップガン』は知らない……!?」
「……あたし、人選ミスったかなぁ」
いけない薬草を詰めたいけないタバコをふかしながら、先生はぼやく。その呆れた目は俺にでしょうか、それともこっちのやさぐれ?
「じゃあさ、どうやってやり取りするわけ?」
「こっちからはしない、物が出そうになると連絡してくる。パソコンが入るって言ってたよ。たぶん、今夜だろうな。明日渡すって言ってた」
なら、受け渡しの現場を叩くか。そいつがこの件の黒幕かどうかはともかく、叩けば埃は出るだろう。すべてを聞き終わった先生は、気だるげに宙を仰いだのち、
「よし、受け渡し叩くぞぉ。仕事仕事仕事、金を使う暇がない」
薄汚れた灰皿で、灯したばかり火を揉み消したのだった。
◇
「しかし、無茶苦茶な事件ですね。犯人は被害者の息子と彼女、おまけに動機が父親の不倫」
「夢もキボーもありゃしないよなぁー。6年、2つの家庭で2つの顔を使って生活したツケが息子の彼女からの40S&W弾」
教員寮。綴先生の自室で、俺は先生を真似るように肩をすくめた。革張りの椅子で足を組んだ先生と、鏡合わせになるように陣取った椅子で足を組む。
「19の女が40口径で彼氏の父を殺害、世の中病んでます。どこにも救いがない。あの二人も本当なら数年後、結婚までいったかもしれないのに今回のことで歯車が外れた」
酷い話だ、どこにも救いがない。自分と母親を騙し続けてきた父親が許せなかった、そして最後には最悪の結末を迎えちまった。母親を慕うばかりに、それがそのまま憎悪に変わった。良い結末を迎えるばかりじゃないのがこの仕事だが、今回は特に後味が悪い。
だが、これが現実。選択して、積み重ねてきた時間の結果。それは当事者の問題だ、俺や先生が悔やんだところでどうこうなるものでもない。手慣れた動作でブックマッチを擦り、先生は咥えた煙草に火を灯す。程なくして白煙が立ち上った。
「結婚か。絆を深めるためと称して、儀式をやってお互い束縛し合う。時代遅れの風習だよなぁ」
「……急に気難しくなるのやめてくださいよ」
「雪平、覚えときなぁー。男ってのはな、女のヒステリックでうんざりするほど好きなことばっか喋る性癖を我慢したり、自分の夢や趣味を諦めたり、他の可愛い女に目移りするのを我慢して生活するわけ。女も男の不愉快な性格を我慢して、男好みの服を着て男好みの料理をする。お互いが我慢の連続だ」
「……否定しずらいところを突くのが実にいやらしい。だったら、先生はなんで巷の人間は結婚すると思いますか?」
「男は本質的に女が大好きで、女は本質的に男が大好きだからじゃない?」
先生はけらけらと笑う。真意の読めない、掴みどころのない顔で。
「生き物の性ってやつ、か」
張り合うように、俺も小難しい言葉を強引に使った。ジャンヌやワトソンならもっと理知的に答えを返せたんだろうが、高尚なトークバトルは得意じゃない。
「けど、最近流行りの出会い系とかマッチングアプリとか、ああいうのはどうかと思います。上っ面のプロフィールで判断して、手当たり次第に同じ言葉で誘って。恋をするならリアルで知り合うべきだ」
「言うことが古いなぁ、バーで知り合うほうが危ないぞ?」
「出会い系は嘘と誇張の巣窟です。オンラインの世界じゃ誰もがノッポでスリムだ、人呼んでイケテル度ネット変換係数。みんなが数字を書き換えてる」
まさに上っ面のプロフィール。ちなみに、俺の初恋はバーのマスターの一人娘なんだがこれは喉の奥に閉まっておく。代わりに自販機から持ってきた炭酸コーラを流しこんだ。
「お前さぁ、デジタルを嫌う昭和のアナログ人間みたいな物言いだよそれ。勇気をだして直接誘ってくる男にぐっと来るって時代は終わったの」
「相手がイケメンでも?」
「そうは言ってない。ひねくれたことしか言えないのかなぁ、あたしの教え子は。まあ、どんな出会いだろうと駄目なときは駄目になる」
「ええ、何の知らせもなく別れや嫌な時間はいきなりやってくる。アラートの一つや二つ鳴らせないもんですかね」
燻る白煙が目の前で熔けていく。マリファナと血とピーナッツ、エレンのバーと同じ匂いが一個人の部屋からするのはーーなんというか言葉が出ない。ただ、一時ばかりの懐かしさに浸れることには感謝しよう。それはもう、味わえない匂いなのだから。
先生は白煙を、俺は炭酸を流し込み、意図するわけでもなく会話が途切れる。今さら沈黙を気にするような関係でもない。お互いのやり方で喉を慰めていると、先生から言葉が切り出された。
「雪平。ここを出たらそのあとどうするか、考えてんの?」
キンジに据わった目と評される瞳が、豹のように細くなる。そのあとーーそれが何を意味するのか、僅かな時間頭を巡らせてから俺は答えを投げた。
「ここを卒業したら、ですか。そうですね、俺は本土に戻ろうと思います。そこから先はまだ考えてないし、どうなるか分かりません」
「そっか、帰るのかぁ。育ちはカンザスの、あー、ローレンスだっけ?」
「ええ、それも一時。すぐに本土を転々としてましたけど」
一日の大半はシボレー・インパラに。そんな中で通気孔にはレゴ、灰皿にはコンバットフィギュア、ナイフでの名前が、まるで個性のように『家族の一員』としてのインパラを作っていった。
とはいえ、俺がインパラに乗り込むようになったのはメアリー母さんがアザゼルに殺されたあとのこと。アマラのギフトで母さんがインパラと再会を果たしたときには、今度は親父の方がいなくなってた。
俺、二人の兄、親父、メアリー母さん、一家揃ってのドライブできたのは、過去の親父と母さんを殺そうとする天使を止めるためにタイムスリップしたときの一回だけ。皮肉にもターミネーター天使が起こした騒動のあれが唯一だ。なんとも言えない顔して、後部座席で三人ふんぞりかえってたのを今でも覚えてる。
「元々、逃げるように本土からこっちに渡りました。正直なところ、去年までは帰るのが恐かったんですけど、今は明るい気持ちで考えてます。まあ、未練は増えたんですけど……」
くすりと先生が笑い、誤魔化すようにコーラを流し込んだ。
「あたしがカウンセリングしてやれんのも一年ちょっとだなぁ。あーあ、淋しくなるなぁー」
「先生の煙草と夾竹桃の煙管のコンボ攻撃に晒されるのもあと一年と少しですね。俺も淋しいですよ。あいつのお目付け役になってから色々ありすぎて、もう数年分を過ごした気分です」
「それは、楽しかったってこと?」
「良い縁に恵まれたとは思います。出会い方は最悪もいいところでしたけど、それを補うくらいの時間をくれました。ええ、出会い自体に感謝してます」
最悪な出会い方だとしても、出会わないよりはずっといい。少なくともそう思える相手だと、俺は心から思ってる。
「先生?」
ツマミに買い置きされているビーフジャーキーを机の上から拝借。封を切って一つ噛ると、眼の前には怪訝な顔が浮かんでいた。
「それ、本人に言ってやった?」
「言うわけないでしょ。俺、現在進行形であいつとは内戦中なんです。あいつ、俺が食べてるサラダにワサビ仕込んだんです、レタスの下に。気付くわけないでしょあんなの、あいつのやったことは人として許されない」
「……くだらなぁ。なに、そんな悪戯で開戦しちゃったわけ?」
「煽り耐性がないとか言わないでくださいよ。先にスティンガーをぶち込んで来たのはあっちなんだ。受けて立ってやりますよ、ゴールデンアイで逆襲してやる」
「都市部で電磁パルス起こしたら、それはもうテロだぞぉー」
俺は『幻のジャーキー』と書かれた袋から追加の一枚を拝借。鼻をならして噛み砕いてやる。
「案外、自覚がないだけでお前が先に彼女の尻尾踏んだんじゃない?」
「蠍の尻尾を踏むなんて命知らずなことはしませんよ。ああ美味い、ジャーキーと冷えたコーラを一緒に嗜めるなんて最高ですねー。高たんぱく低脂肪、スーパーフードです」
「コスパのよろしい胃袋だこと。あたしのツマミ食い尽くすなら、冷蔵庫の中身でなんか作れ。お前、キッチンに立てるタイプの男だろ?」
噛み砕いたジャーキーを嚥下し、仕上げの炭酸を流し込む。気付いたら一人で半分近くの枚数を平らげていた。これがやめられない止まらないってやつか。
「そう言わずとも、俺も手ぶらじゃ来てませんから。ビールは無理ですけど、これなら俺でも買える。ポテチ、缶コーヒー、焼き鳥、これで文句ないでしょ?」
足元のレジ袋を持ち上げて中身を見せると、先生の唇がつり上がった。雑に選んだラインナップはお気に召したらしい。とりあえず焼き鳥をレンジでチンすればなんとかなるだろ、一人でジャーキーを食い散らかしても。
豪遊セットをレジの袋に入れたまま先生に手渡す。一呼吸置いてから中身を覗き込んで、再度上げられた瞳が丸を描いた。
「ねえ、この下に転がってるのなに?」
「『ジャーキーおにぎり』です。新発売ってあったんで買ってきました。意外と美味しいらしいですよ、POPに『EXCEllENT×DANGDR』ってありましたし」
「商品開発はいつだって未開の地を切り開く仕事かぁー。ジャーキーおにぎりねぇ……」
「美味しいですよきっと。俺、ご飯とビーフジャーキーを一緒に食べたことありますけど平気でしたから」
「お前、あれだな。『弱火で10分、なら強火で2分でいいんだな』とか言っちゃうタイプ?」
「……それは俺じゃなくて神崎ですよ。弱火で5分を強火で2分でしたけど」
肩をすくめながら、すっかり部屋に居着いてしまった第2のルームメイトのエピソードを語ってやる。神崎と家事を結びつけると危険、残酷なキンジの結論は残念ながら真実だったりする。人間誰しも得意不得意はあるってことだな。
残った最後の一枚に手を伸ばしたときーー制服の内側から馴染みの着信音が鳴った。先生に目線で促され、着信画面を開く。噂をすればなんとやら、お馴染みの名前だった。
「どうした愛弟子ぃ」
「何がです?」
「だから、幼稚園初日のガキみたいにビビってるじゃん」
面白いものでも見つけたように口角を歪め、先生は缶ビールのプルタブを捻った。俺を肴にする気かよ……
「違いますよ。はい、最後の一枚どうぞ──お待たせしました、鈴木桃子に無料奉仕する会。名誉会員の雪平ですが?」
『今日も絶好調ね。けど、そんな会を許した覚えはない』
「俺とジャンヌが名誉会員。それで、頼みごとでも?」
『私の車にSUREFIREのタクティカルライトが置いてあったけど、貴方のじゃない?』
SUREFIREのタクティカルライト……?
「そういや、予備のを置きっぱなしにして帰ったかも。たぶん俺のだ、その報告の電話? 助かったよありがとう」
『別に。ついでにお願いがあるんだけど』
「……ついでに? そっちが本命じゃなくて?」
『もちろん、ついでにお願いしてる』
その攻め方は予想してなかった。まあ、どっちが本命かなんてのは些事。些細な問題だが。
「分かった、話を聞くよ。ナゲットとポテトを奢れ、ジャンクフードの王様のようなパンケーキと一緒にな」
『あら、珍しく寡欲ね。それでヘルプを頼めるなら安いものだわ』
「俺をなんだと思ってるんだ。過度なホイコーローは求めない」
『それを言うなら "
ぷつー、と通話が切れる。言いたいことだけ言って切ったな。
「ああ、いつもみたいに。ざっくばらんに話しましょ」
既に切れた受話口に向けて言ってやる。相変わらずで安心したよ。さ、焼き鳥さっさと食っちゃおうっと。
「内戦中じゃなかった?」
「休戦しました。ハンバーガーご馳走してくれるって」
「お前さぁ、ほんと良い性格してるよね……」
「平和的なんです。あ、メールも来てる。遊戯王カード買ってくれるって──俄然やる気が出てきましたね」
よし、これを食ったら仕事仕事仕事。金を使う暇がない。
「さすが東大卒、頭のよろしいこと」
「えっ、東大がどうかしました?」
「こっちは鈍いときはとことん鈍い。ピーキーな頭だこと」
バチッと不意のデコピンが俺の額を穿った。
「いってぇーーッ!!」
「卒業までは気ぃつけていけよ。我が弟子」
……肝に命じておきます、我が師。欠陥まみれの脳ミソがバラバラになった気がする、70億くらいに。
本土に行く前に寄り道を。
『ざっくばらんに話しましょ』S9、21、アバドン──