哿(エネイブル)のルームメイト   作:ゆぎ

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アメリカ本土編
再度のお招き


「──待ってたよ、ウィンチェスター」

 

 以前、庭掃除で一度訪れたキンジの実家。塀の前にいた仏頂面の獣人が声をかけてくる。

 

「再度のお招きありがとう、ツクモ。サードは中に?」

 

 妖狐ツクモ──ジーサード一派の超能力、及び獣人絡みの外交や交渉を担当する女。目立つマッドブラックのプロテクターを着こんだツクモは俺には何も言わず、踵を返して家に入っていく。

 

 腰部プロテクターの穴からシッポが丸出しの背中を追いかけて、俺も玄関の敷居を跨いだ。今では米国のブラックリスト入りを果たしているキンジの祖父様、そしてどこかの戦闘民族の出と言われている祖母様に挨拶してから──ツクモの消えたキンジの部屋の襖を開いた。

 

「……ジーサード?」

 

 クエストを片付けた翌日。今日俺をここに招いた張本人であるジーサードが、畳に座り込んでトマトを丸かじりしていた。ギプスとサージカルテープを体に巻きつけた、明らかに負傷した姿で。

 

「──よう、ユキヒラ。そのツラどうした、ココナッツが落ちてきたか?」

 

「そんなにひどい?」

 

「いや、前よりマシになったぜ」

 

「切れ味の良い皮肉をありがとう。そっちは二階建てバスの下敷きにでもなったわけ?」

 

「バスならパンチ一発で沈めてやった。もっとやばい化物さ」

 

 トマトの咀嚼音に続き、背筋の冷たくなる言葉が出てくる。元大統領のボディガードに化物と言わせる相手……考えたくないな。ジーサードに敗走を決めさせたとなりゃ、そいつは間違いなく化物だ。プレデターやメガトロン級の。

 

 元々、ジーサードはロスアラモス研究所から逃げ出した脱走兵。かなめと同じく追われる身の立場だ。

 

 暗殺におくられた刺客を片っ端から退けては味方につけて、ジーサードリーグという一勢力を築いたことで新しい刺客がおくられることはなくなったが、出生のしがらみや因縁はそう簡単には無かったことにできない。私怨や恨みを買ってる相手は0じゃないだろう、本土は広いからな。

 

「エイリアンの尻尾を踏みつけちまったか」

 

「そんなところだ。ちぃとばかし掠り傷をもらってな」

 

「ライフが0にならなきゃ掠り傷?」

 

「首が繋がってりゃなんとかなる」

 

 乱暴に投げられるトマトを左手で受け取り、ありがたく齧りながら敷かれている座布団の上に座り込む。

 

「兄貴の方には部下を向かわせてある、そろそろ外務省も小細工に気づくだろうさ。イギリスも黙っちゃいねえ」

 

 それは、まるで先のことが見えているような口振りだった。今頃、神崎はキンジを伴って母親と面会してる。

 

 ──神崎かなえさんが "すべてを握っている" というカナの助言に従って。

 

「神崎の強制送還か。どこもかしこもあのお嬢様に躍起だな。んで、お招きしてくれたからには理由があるんだろ。お話はキンジが来てから?」

 

「ツクモ」

 

 守備役のツクモを部屋の外に下がらせる。和気藹々と話せる内容じゃないらしい。二人になった部屋で、ようやく本題とばかりにジーサードが話し始める。

 

「俺は本土の空軍基地──ネバダのエリア51とカリフォルニアのエドワーズをハシゴする予定だったんだがよ。目的の物がエリア51にある事が分かったんで、そこを攻めた」

 

 ジーサードは一度言葉を切ると、深く息を吐いた。

 

「色金だ。瑠瑠色金、空軍の保有する色金を狙って俺は攻撃を受けた」

 

「瑠瑠色金。というと、青い色金か」

 

「兄貴が大事にしてる以上、アリアには手を出せねえ。そっちの方は諦めたさ。だから、ネバダの瑠瑠色金を取りにいく。緋弾よりでかいヤツで場所が割れてるのは、エリア51のやつだけだ」

 

 色金──近頃、嫌でも耳にする単語が投げられる。ジーサードが色金を求める理由は、キンジが武偵高を留守にしているとき、かなめから聞かされた。恩人であるサラ博士の蘇生、こいつは色金がもたらす超々能力によって、かつて事故死したサラ博士を甦らせようとしている。

 

 つまり、()()()()()。一度消えた命をやり直させる、自然の摂理に反する行為。何の思案もなしに賛成していいほど、軽い願いではない。与えられた命は一度きり、その絶対的ルールをねじ曲げるって言うんだからな。十中八九、死の騎士の眼に留まる。

 

 自然と喉が詰まる。愛するものを失えば、誰だって最初は同じ事を考える。その願いは否定しない、少なくとも一度きりの命を贔屓してもらってる俺には否定できない。否定しちゃいけない。

 

「おい、何考えてやがる。眉間のシワはなんだ」

 

 トマトの咀嚼音に思考は引き戻された。

 

「トップガンの新作が楽しみでね。ネバダと聞いて心が騒いじまったんだよ、ユー・コピー?」

 

「そういうことにしといてやる。テメエから本心を聞き出すとなりゃ骨が折れる」

 

「地獄で30年仕込まれたからな。相手の本心を引き出すやり方も、本心を隠すやり方も」

 

 キンジによく似た、皮肉めいた顔でジーサードは笑う。どこか自嘲めいた、そんな笑みで。

 

「ユキヒラよォ、俺も足掻いてはみたが過去からは逃げられねえな。どこまでもついて回る」

 

「過去も未来も現在も、どこを見ても厄介だ」

 

 とりわけ過去ってやつは特にそうだ。何をどうやっても、書き換えれない代物だからな。

 

「んで、近況報告とうまいトマトを食わせる為に呼んでくれたのか?」

 

「行き詰まってんだろ、アリアの緋弾の件。俺は俺なりに空軍の保有する瑠瑠色金について調べててよォ。使えそうな情報だったんで差し入れに来たのさ。どうも、やたらでっかいやつらしくてな。色金が超々能力を発現させる強度は、質量に比例するってのも分かってる。日本にもあるんだろ、目に目をってやつが」

 

 投げられた言葉をそのまま頭に並べていく。目には目を、歯には歯を、色金には色金を──ってことか。とどのつまり、緋緋色金よりもさらに強力な色金を利用して緋弾の問題を解決する、そういうことだ。

 

 だが、それは『緋緋色金』という現状の問題を対処するために『瑠瑠色金』という新たなトラブルの種を抱えるということ。俺の躊躇いは、沈黙という形で独りでに返答を返していた。

 

「顔に出てるぜ、問題の解決に新たな火種を抱え込むのは許せないって顔だ。だが、時間がねえってことも分かるだろ?」

 

 すべてを理解した上での言葉なのだろう。目の前の問題を解決する為に新たな火種を抱え込む──そして目の前の問題が解決すれば、その火種が燃え盛って新たな問題を巻き起こす。それは何度やっても学習しないウィンチェスターのお決まりの展開だった。

 

 犠牲を犠牲でしかない解決できない、いつだって最後にあるのは苦い結末。なのに何度もそれを繰り返してきた、何度も何度も。それ以外解決の方法を知らないとばかりに、繰り返した。

 

 瑠瑠色金が新たな問題を生んだら──どうしても不穏な考えが頭をよぎる。だが、サードが言ったとおり時間はない。一度、既に緋緋神は外に出てしまった。神崎を完全に器とするまで、あとは時間の問題だ。仮にジーサードがキンジにこの提案を持ちかけるなら、キンジはきっと "Yes." を口にする。

 

「キンジを誘うつもりなら止めないよ、退路が焼かれてるのは真実だしな。だが、個人的に疑問がある。かなり脱線しちまったが色金の場所が分かってて、お前はそこに出向いた。傷を負ったとするならそこだ、Rランクのアイアンマンをどこのどいつが包帯まみれにした?」

 

 ずっと気になってた。ジーサードの傷はおそらく色金奪取を阻もうとして迎撃にあったときの傷だ。だが、仮にも大統領のボディーガードもやった無敵のRランク武偵だぞ? 義手は予備のものに取り替えられ、畳には携帯式の酸素呼吸器まで転がってる。

 

 腕をもがれて自律呼吸に支障をきたすまでやられた、このターミネーターにそんなことができるやつがキンジ以外にいるのか? 腕を組みながら投げかけた疑問に、ジーサードは細長い眉をつり上げた。

 

「超先端科学兵装。俺ら先端科学兵装よりも新しい、正真正銘のモンスターさ」

 

 ……超先端科学兵装? 本土ではそれなりに身を置いてた俺だが、初めて耳にする言葉だ。が、次第に背筋に冷たいものが走るのが分かった。科学ってのは基本的に古いものを改良して新しいものを作るのが常。言ってみれば、古いものより新しいものの方が強い。

 

 ただでさえ手に負えない性能の先端科学兵がさらに改良された代物。そんなものがあるなら、サードが言うとおりモノホンのモンスターだ。ゾッとする。

 

「俺の界隈じゃ古ければ古いほど、生まれたのが早ければ早いほど基本的には強かった。リリスよりルシファー、ルシファーよりミカエル、ミカエルよりアマラ。誕生したのが早ければ早いほど化物が生まれる。科学サイドと魔術サイド、どこまでも正反対だな」

 

「マジのミカエルと知り合いとはまだ信じられねえよ。殴りかかったって本当か?」

 

「異世界産の方にね。本土にはヤツを崇拝する建物が腐るほどあるけど、初聖体の儀式はぶどうジュースを飲みまくったこと以外に記憶がない。隠れてワインでもくすめたのかな、懺悔してる大人の」

 

「一応教えといてやるがあそこはパーティー会場じゃねえぞ」

 

「当時の俺にすれば、ジュース飲めるだけでパーティー会場だよ」

 

 初聖の儀式は小さいうちに楽しむことだ。大人になるとワイン飲んで自分の罪を懺悔するようになる。

 

「NSAのマッシュ・ルーズヴェルト。ネバダで俺はそいつに迎撃された」

 

 過去の微妙な思い出にほんの僅かな間浸っていると、無視できない単語がジーサードから飛び出した。

 

「あ、安全保障局……!?」

 

「マッシュとは色々あったが、ここが踏ん切りをつけるいいタイミングでもあるのさ。俺はもう一度ネバダに仕掛ける、日本には兄貴の力を借りるために戻った」

 

 変わらない態度でジーサードは続ける。NSAとはまたデカイところが出てきたもんだ。本土の捜査機関には嫌な思い出しかない。

 

「──さっ、兄貴に話をつけたら、一緒に行くぜユキヒラ。本場のベーコンチーズバーガーを食いによォ」

 

「お、俺も……?」

 

 予期しない一撃を貰った気分だった。が、ジーサードはそんなことお構い無し。

 

「兄貴が来るんだ、お前も来るだろ? 兄貴が筋肉、お前が頭だ。二人揃って一人前の働きができる」

 

「……微妙にいい感じの例えなのが腹立つんだよなぁ」

 

「ベーコンチーズバーガーの他にフライドピクルスをご馳走してやる。それでどうだ?」

 

 こ、こいつ……どうしてどいつもこいつも食い物や玩具で俺を雇おうとするんだ。俺もかつては死の騎士との取引に好物のメキシコ料理を交渉材料に使ったが……食い物を交渉カードに使うって改めて考えるとどうなんだ……?

 

「煮え切らねえ男だな。今なら『NCIS:LA』の最新シーズンだって見れるんだぜ?」

 

「俺の一番好きなシリーズ……なんでそんなこと知ってんだよ」

 

 肩の力が抜けて、自然と後ろ頭を左手が掻いた。そんな勧誘のやり口があるか。ったく、常識の斜め上を行くところ、キンジによく似てる。

 

 

 

 

 

 遠山家の庭先は広い。庭の一角を使って、ビニールハウスのトマト栽培ができる程度には、それはそれは広いのだ。縁側に座りながら、広い庭先の一角にはジーサードが土を掘り起こし、せっせと作ってしまったビニールハウスが見える。

 

「……過去からは逃げられないか。ジーサードは本当のことしか言わないんだな」

 

 瞼を下ろし、肺が空になるようなため息と共に、力のないぼやきが漏れた。鉛色のスキットルを呷ると、わざとらしく背後の誰かが足音が立てる。遠山かなめだ。

 

「太陽が明るいうちに武偵が堂々と飲酒? いっそ清々しいね、驚いちゃった」

 

「空港じゃそんなのお構いなしだよ、朝から店が空いてる。でも中身は水だ、ただの水。水道から出てるやつ」

 

 肩越しにかなめを見ながら、スキットルを振る。中で液体が揺れる音。何も言わず、隣に戦兄妹が座ってきた。

 

「俺のこと見てた?」

 

「はずれ。あたしはビニールハウスを見てたんだよ。そしたらお前がいた。不思議だなって」

 

「スキットルで一杯やってるのがか?」

 

「似合わない顔してたから。スキットルを呷りながら似合わない顔してる、変だなーって」

 

 セーラー服のタイが風に揺れ、ぷらぷらと縁側に座ったままかなめは足を揺らす。似合わない顔か、クレアや夾竹桃にもよく言われたっけ。神が何を考えてるかなんてさっぱりだけど、自分自身のことはもっと分からない。今、どんな顔してたんだろ。

 

「下手だよね、本心を隠すの」

 

「バカか、お前は。仮にも尋問科だ、秘密を隠す術だって教わってる」

 

「でも顔に出てる。分かるよ、()()()なんだからさ」

 

 ジーサードに言ったばかりだってのに。なんてザマだ。女は嘘を見抜く天才、どこかの誰が言ったんだったかな。ああ、そうーーエレンだ。

 

「キンジは?」

 

「あっちでアリアとサードの話を聞いてる。今なら何を言っても聞こえない、あたし以外は」

 

「カウンセリングしてくれるって顔だな。そんな風に聞こえる」

 

「ストレス軽減の為のカウンセリングはSEALsでも取り入れられてる。何にもおかしくないよ」

 

 かなめはいつもと同じ、淡々と述べたあと封を解いたキャラメルを口に投げ入れた。キャラメル食いながらカウンセリングか、斬新にもほどがある。スキットルの残りを喉に流し込み、喉が濡れきったところで口は勝手に動いていた。

 

「形見なんだ、これ」

 

「……形見?」

 

 少しだけ大きくなったかなめの瞳に、俺は空になったスキットルを懐に戻す。

 

「エレンの形見。俺にとっては本当の母親みたいな人がよく聖水を持ち運ぶのに使ってた。幽霊になることを考えると遺品は全部燃やすのが正しいんだろうけどさ。別れ際に、霊として再会することはないって本人に言われて、受け取った」

 

 背中を逸らし、退屈そうに空に浮かんでいる雲を仰ぐ。地獄の猟犬に囲まれ、逃げ場を失った金物屋でエレンから最後に渡された贈り物だった。

 

「良い人だったよ、俺よりずっと」

 

 エレンはスキットルを、ジョーは父親の形見のナイフを最後の最後で俺に託してくれた。今ある俺の命は、二人の犠牲の上に成り立ってる。

 

「正直言うとね、びっくりしてる。その人はきっと、ユニコーンだね」

 

「ユニコーン? 人間だよ。酒に強くて、娘を溺愛してるただのハンター」

 

「ユニコーンだよ、キリ・ウィンチェスターにそんな顔をさせる人。ユニコーンくらい、ありえない」

 

 何気なく言ったその言葉が、かつてメグが口にした例えに妙に似ていて、ついつい苦笑いがこぼれる。俺にとってジョーとエレンは、ユニコーンくらい特別で、唯一無二の存在だった。そこは当たってる。鋭いくらいに。

 

「生まれつきの悪人はいない、後天的なことで善と悪に別れるーー昔、ダゴンって悪魔がそんなことを言ってた。今まで、色んなトラブルを片付けてきたけど、そこには必ず犠牲があって、色んな人の人生を台無しにしてきた。ダゴンの言葉が正しいなら善と悪、俺は一体どっちなんだろうな」

 

 悪魔は時に、天使や人間よりもっともなことを言う。ダゴンやアザゼルみたいな力を持った連中は特に。連中の言葉は、まるで杭を打たれたように心の奥底に残る。

 

「理子にも昔言われたよ、アメリカ人はなんでもタダで手に入れようとする。確かにさ、俺は等価交換ってものが心底嫌いだ。何かを犠牲にしないと何かを手に入れられないって考えが、やっぱり受け入れられない」

 

 何かを手に入れるために、何かを失ったら意味がないんだ。何かを切り捨てて、何かを得る。それが現実的と言われる世の中であっても、俺はやっぱり自己犠牲や等価交換ってものが受け入れられない。

 

「子供っぽいのは分かってる、世の中そんなに甘くないのも分かってる。どれだけ懺悔しても、過去が変わらないことも分かってるんだ。でも、ふとしたときに過去のことが頭をよぎる。もっと割り切れたら、楽なんだけどさ」

 

「無理だね。お前は死ぬほど我が儘で、いい加減で怠け者で、どうしようもないくらいの自惚れ屋だよ。だけど、友人だと思った人は心から大切にする。だから犠牲になった人たちの人生を壊してしまったことが、悔しくて悔しくて堪らない」

 

 真剣な横顔で、淡々と綴られる言葉に視線に奪われる。

 

「お前は欠点も多いけど、多すぎるけどーー優しい人だよ」

 

 いつか、俺の腕を切り落とそうとした女とは思えないな。どうしてキンジも金一さんも、目の前の後輩も、遠山家の人間は人を揺さぶるのが上手いのか。ここまで来ると、遺伝だよ遺伝。

 

「狙いがキンジでなけりゃ誰だって落とせただろうなお前」

 

「非合理的ぃ。あたしはお兄ちゃん以外の男に興味ない」

 

「知ってるよ。なぁ、さっきの "優しい人" ってやつ、もう一回言ってくれない? 記念に」

 

「今の言葉は二度と言わない。さっきのが最初で最後と思いなよ」

 

「そっか。でもいいよ、録音したから」

 

 やや見開いた瞳と共に、首が揺れる。

 

「嘘だよね?」

 

「ほんと、ここに」

 

 俺が自分の頭を指で差すと、かなめは呆れにも似た笑みで瞼を下ろす。

 

「忘れっぽいお前のことだからすぐに忘れるでしょ」

 

「いいや、忘れない」

 

 誰かに慰められる機会なんて、案外なかったりするものだから。だから、今の言葉は忘れないと思う。

 

「即答するとか、非合理的ぃ。あげる、血糖値が上がって脳の巡りが良くなるような気がする。クモの巣だらけの頭も少しはマシになるかもね?」

 

 お気に入りのキャラメルを一つ、投げてくるやかなめは縁側に下ろしていた腰をあげた。

 

「明後日にはニューヨークだよ。武装の準備、サボらないでね?」

 

 どうやら彼女の中では、俺の里帰りは既に決まっているらしい。ニューヨークか、ああいう賑やかな場所、親父は嫌ってたな。

 

「丁度いいや。日焼けしたかったし、帰りにロスでも寄ってくよ」

 

「ロカが言ってたよ、ニュージャージにいい日焼けサロンがあるって。そこ行けば?」

 

「考えとく。はぁ……久々の本土か。今回も楽しくなりそうだ。あ、そうだ。マックスの行方もついでに探してみるか」

 

 不意に頭をよぎった考えが口に出る。頭の片隅に潜んで、しかしずっと触れてなかった問題。かなめの瞳が半眼を描きながらこちらを向いた。

 

「それ誰?」

 

 そういや、二人のことは誰にも話してなかったや。ジャンヌや夾竹桃にも言ってなかった、軽く言えることでもなかったしな。

 

「マックスと……そう、だな……アリシアって兄妹がいて、腕利きの超能力者。まあ、魔女だな。あるハンターの葬式で仲良くなって、数年前に会ったっきり連絡を取ってない。この機会に探してみるかな」

 

「全部終わったあとなら手を貸すよ。ワケありって顔に描いてあるし」

 

「かなめ。すっごくイカれたこと言うけど、お前が首を落としに来てくれて良かったよ。ありがとう、俺と組んでくれて」

 

 お前が戦妹になってくれて良かった。こればかりは嘘偽りなく、本当に。

 

「ウィンチェスター兄弟って本に書いてあるとおりなんだね。ほんと──イカれてる。元イ・ウーのならず者が揃いも揃ってお前にくっつくの、少しだけ分かっちゃった。冷房庫にコーラあるんだよねぇ、飲んでいく?」

 

「ああ、一杯やりたい気分だ。炭酸で」

 

「じゃ、ついでにゲームでもやらない? 空港での決着、ここで改めてはっきりさせとこうよ」

 

 勝ち気にかなめはほくそ笑む。細い人差し指の先に、いつのまにか収まっていた一枚のトランプに俺は小さく鼻を鳴らした。

 

「ポーカーでもやろうってか?」

 

「こっちのスキルも鍛えられてるんでしょ。まさか、逃げないよね?」

 

「なんとも平和的だな。それに、刺激的だ」

 

 悪戯に微笑むかなめが畳に敷かれたちゃぶ台にカードを置く。楽しいゲームになりそうだ。

 

 

 




 spnでは男女一括りに魔術を使えれば「魔女」の扱いなので明記に少し悩むときがある作者です。アリシアとマックスというのは本編にも二度登場して音沙汰なしのキャラクターなのですが、本編が完結したということでオリジナル要素も少しだけ入れていきたいと思います。


『生まれつきの悪人はいない、後天的なことで善と悪に別れる』S12、13、ダゴン──

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