デジモンエタニティ   作:LOST

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冒険!デジタルワールド! Bパート

森に入った鐘山はすぐさま、ツノモンに頼んで木に目立つ目印をつけてもらっていた。

 

「おりゃ!!」

 

ツノモンは自分の頭の角で木の表面を削って印を刻んでいく。

 

善久(よしひさ)こんな感じでいいの?」

「うん。ありがとう。それと、そこの木にもつけといて」

「うん!」

 

森の中に足を踏み入れながら、かなり頻繁に印をつけていく鐘山。それを後ろから眺めていた渚沙は首を傾げた。

 

「……鐘山君……」

「ん?どうかした?」

「……心配しすぎと思う」

「え?」

 

鐘山は渚沙が何を指して『心配しすぎ』と言ったのかを瞬時に理解できなかった。

 

「えと、どういうこと?」

「……印……つけすぎ……」

「あ、そういうことか。うん、確かにつけすぎかもしれないけど……こんな道もない森だったら方向感覚なんてすぐになくなっちゃうから、できるだけ自分達が真っすぐ進んでいるかを確かめた方がいいと思って……えと……だから……用心に越したことはないってことだよ」

「……うん」

「わかった?」

「……うん……用心は大事」

「えと……あ……うん、そうだね」

 

渚沙はそれっきり黙りこくってしまう。鐘山は今一つ彼女との会話のペースを掴みかねていた。

鐘山が女子に対する免疫をあまり持っていないのもあるが、それ以上に鐘山が渚沙に対して腰が引けているのだ。

 

鐘山はとある理由で自分が『彼女に恨まれている』と思っていたのだった。

 

だから、この仕事に一緒に来てくれたことがそもそも意外だった。

そして、普通に話しかけてくることもまた意外だった。

 

だが、彼女がその仮面のように動かない表情の下にどんな感情を秘めているのかがわからない。

そのせいでどうしても、鐘山は渚沙を相手に一歩引いてしまうのであった。

 

鐘山と渚沙がしばらく歩くと、森の中は茂みが少なくなり、土肌が剥き出しになっていく。

足元が見やすいこの辺りであれば枯れ枝を集めるのも容易だろうと思い、鐘山はその場で周囲を見渡した。

 

鐘山は地面に落ちている手頃な枯れ枝を見つけ、拾い上げる。

 

「木村さん。この辺りで枝を集めよう。それと、枝だけじゃなくて枯草も集めといてくれる?火を起こすのに必要なんだ」

「……わかった……」

 

そして、2人は無言で森の中を歩いて枝を拾い集め始める。

だが、下を向いて枝を探しているとすぐにお互いを見失ってしまう。鐘山は意図的に頻繁に視線をあげて、常に渚沙やフリモン、ツノモンを視界に入れたまま行動していた。

 

「よしひは、ほっひほっひ!」

 

ツノモンが枝を咥えて鐘山を呼ぶ。

 

「うん、ありがと。この辺、結構落ちてるね」

「枯れ枝なんて誰も食べないからね」

「……そっか……」

「あっ!あっちにも落ちてる!」

 

飛びはねていくツノモン。鐘山は足元の枯れ枝を拾い上げながら、改めて森を見渡した。

頭上に伸びた枝葉は太陽を覆い隠し、昼間だというのに薄暗い森だ。太陽の光が届かないせいで下草が生えていない。木の根にさえ気をつけておけば比較的歩きやすい森だった。

その中で鐘山が気になっていたのは木の皮だった。どの木も表面の皮はしっかりしており、何かに食べられた跡や、傷がつけられた痕跡がない。

 

「……こういった森なら……鹿とか猪とかいてもおかしくなさそうなんだけどな」

 

鹿は木の皮を食べ、猪や熊はマーキング代わりに木の幹に傷をつけたりする。

川が近く、動物達が水を飲みにやってくるであろうこの場所で野生動物の痕跡がまるでないことはあり得ない。

それが無いということは、そもそも野生動物が存在しないことを意味しているんじゃなかろうか?

 

立ち止まって考えこむ鐘山のことに気がついて、ツノモンが鐘山を見上げた。

 

「ん?善久、どうかしたの?」

「あ、いや、なんでもないよ」

 

鐘山は枯れ枝を再び集め始めた。

だが、頭の中では野生動物の気配のまるでないこの森のことが常に引っかかっていた。

鐘山は自分の足元にいるツノモンを見やる。

 

ツノモン達はここが『デジタルワールド』と言っていた。

 

やっぱりここは……

 

「……鐘山君」

 

鐘山は後ろから渚沙に声をかけられ、ハッとして顔をあげた。

 

「ど、どうしたの?」

「……枯れ枝……これくらいでいい?」

 

そう言った渚沙の手元には腕一杯に枯れ枝が集められていた。

 

「うん、十分だよ……枯草の方は?」

 

その質問に答えたのはフリモンだった。

 

「それなら私が集めておいた。ほら、あそこに溜めてある」

 

フリモンが尻尾で指した先には枯草が小さな山になっていた。

 

「うん、それぐらいあれば十分だ……僕が枯木を持つから、木村さんは枯葉の方を頼むよ」

「……わかった」

 

2人で分担して焚火を起こせるだけの材料を手に持つ。

 

そして、いざ帰ろうとして渚沙はキョロキョロとあたりを見渡した。

 

「……どっちから来たっけ……」

「あっちだよ。目印つけといてよかったでしょ?」

「……確かに……」

 

納得する渚沙。やはりその表情は変わらない。

鐘山は枯れ枝を抱えて、もと来た道を戻っていく。

 

横目に渚沙の顔色を伺うが、彼女はそんな鐘山を気にする様子もなく、垂れ目がちな瞳で前を向いて歩き続けていた。

 

「あの……木村さん……」

「……なに?」

 

頭1つ以上低い位置にある渚沙の顔を見降ろす。

薄暗い森の中で見る彼女の表情は無機質な人形を思い起こさせる。

鐘山は思わず唾を飲み込んだ。

 

だが、一度口にした言葉は二度と飲み込むことはできない。

話しかけてしまった以上、鐘山には話を続けるという選択肢しか取れない。

 

鐘山は意を決して軽く頭を下げた。

 

「あ、ありがとう……手伝ってくれて」

 

渚沙はその言葉にわずかに眉を動かしたが、そんな小さな変化など鐘山には読み取れなかった。

 

「……別に……」

 

渚沙はそれだけを言って前を向く。彼女の声音は普段と変わらない。

 

鐘山はその素っ気ない態度に、やはり口にしなければ良かったと後悔していた。

さっきよりも重くなったような気のする沈黙。風の無い森の中ではその静寂が痛い程に鐘山の耳を刺してきた。

 

やはり、自分は『恨まれている』のだろうか。

礼の言葉すら鬱陶しいと思われる程に『憎まれている』のだろうか。

 

だが、それも仕方ないのかもしれない……だって……

 

そんな時、渚沙の足元を飛びはねていたフリモンが笑い声をこぼした。

 

「ふふっ……」

 

そして、フリモンが渚沙の肩に飛び乗った。

 

「渚沙、照れてるだろ?」

「えっ!?」

 

鐘山はその台詞に驚いて、渚沙の横顔へと視線を動かした。

だが、鐘山には渚沙の顔はいつもと変わらないように映るばかりだ。

 

「……照れてない」

 

そう言う渚沙だが、フリモンは含み笑いを崩さない。

 

「そうか?私には……照れているようにしか見えないが?」

「……フリモンの錯覚……」

「そうか、そういうことにしておくか」

「……それが事実……」

 

声がどんどん強張っていく渚沙であったが、その声に感情が乗ったことが逆に人間味が出てきたように聞こえる。

渚沙とフリモンのやり取りを横目に聞いていた鐘山にフリモンがウィンクを飛ばした。

 

善久(よしひさ)。そいうわけだ」

「あ……」

 

鐘山はその時になって、フリモンに気を遣われていたことを察した。

 

「渚沙はこの通り態度がわかりにくいからな。あまり勘違いしてやらないであげてくれ」

「……あ……うん」

「……フリモン、うるさい」

 

フリモンを睨む渚沙の眉間に皺が寄っていた。それは鐘山が見る初めての渚沙の感情剥き出しの表情であった。

 

「おっと、これ以上は黙るとしよう」

「……うん……これ以上言ってたらパートナー解消」

「なっ!そこまで言わなくていいだろ!!」

「……冗談」

「……渚沙、冗談でもそれはやめてくれ。本当に傷つく」

「……ん……わかった……ごめん」

 

フリモン相手に口数が増える渚沙。

2人の会話を聞きながら、鐘山は自分の肩にかかっていた緊張感が抜けていくのを感じていた。

 

そんな時だった。

 

近くの茂みが不規則に揺れた。

 

「待って、そこになにかいる」

 

ツノモンが真っ先に気がついた。

 

「止まって!!」

 

鐘山が素早く渚沙の前に出た。鐘山は何が来てもいいように手に持っていた枯れ木を落として両手を空けた。バラバラと枯れ枝が地面に落ちて転がっていく。

 

茂みの揺れる音は次第に大きくなり、確実に『何か』がこちらに近づいてきていた。

 

そして、次の瞬間、茂みから何かが飛び出した。

 

「お前らぁ!誰の許可もらってここで枯れ木集めてるんだ!」

 

茂みから現れたのは巨大な黄色いナスのようなデジモンだった。

 

「この森はこのベジーモン様の縄張りだ!勝手にそんなことされちゃ困るんだよ!!」

 

チンピラのような文句。

 

鐘山は張り詰めていた気が抜けたような気がした。ゴリモンに襲われた直後とあっては、こうして対話する余地がある相手なだけまだましに思えたのだ。

 

とはいえ、内容は完全な暴論であり、フリモンが反論する。

 

「何を言っている!そんな決まりがあるか!!!」

 

ツノモンも飛び跳ねながら抗議の声をあげる。

 

「そ、そうだ!ここは皆の森だぞ」

 

小さな身体で精一杯睨みつけるフリモンとツノモン。

それに対してベジーモンは歯ぎしりをしてツタのような手足をくねられせて威嚇してくる。

 

「なにお!!なら、力づくでやってやらぁ!」

 

ベジーモンはツノモン達に向けて、突進するような構えを見せた。

それに対してフリモンが虎のような唸り声を上げた。

 

「戦うというのなら私が相手になろう!」

 

ツノモンも威嚇するように頭のツノをふりまわす。

 

「僕も戦う!善久は下がってて!」

 

睨み合う三匹のデジモン。体の大きさには差があるが、ベジーモンからはゴリモン程の恐怖は感じない。

鐘山は枯れ木の中で一番太い枝を拾い上げた。いざという時は加勢するつもりだった。

 

「おりゃぁぁぁ!」

「うぉぉぉぉぉ!」

「せいやぁぁぁ!」

 

だが、三匹がぶつかり合うと思われたその時だった。

 

彼らの戦いを遮るかのように両者の間に大きな木が倒れてきた。

 

「みんな!危ない!!」

 

鐘山の声に反応してツノモンとフリモンが後方へ飛びはねた。

 

その直後、重々しい音と共に巨木が倒れ、土埃が舞い上がった。

それは倒れた衝撃で周囲が軽く揺れたと思うほどの巨木だった。

 

デジモン達は突然倒れてきた太い木に目を丸くしていた。

 

「な、なんだぁ?」

 

ベジーモンが素っ頓狂な声をあげた。

渚沙が首を傾げつつ、フリモンに声をかける。

 

「……フリモン、何かした?」

「いや、私はなにも……ツノモンじゃないのか?」

「僕も何もしてないよ」

 

彼らじゃない。それじゃあ、一体誰が?

 

皆が疑問符を浮かべる中で、鐘山だけは背筋に悪寒が走るのを感じていた。

 

鐘山が見ていたのは倒れてきた木の切断面。それは鋭利な刃物によって切られたかのように綺麗な平面ができあがっていた。

 

この森の中に、この巨木を一撃で切り倒した奴がいる。

 

鐘山の手に汗が滲む。

 

そして、鐘山は暗い森の中で何かが煌いた瞬間を目撃した。その直後、また一本の巨木が森の中で倒れる。巨木が倒れる轟音が再び森の中に響く。

 

鐘山の中の警鐘が最大音量で鳴り響いていた。

 

「木村さん!走って!」

「……え?」

 

鐘山は無理やり渚沙の背を押し込み、倒れてきた木を乗り越えさせる。

そして、鐘山はすぐさまツノモンとフリモンを抱えて巨木を一気に飛び越えた。

 

「……鐘山くん?」

「いいから走って!」

 

渚沙はまだ状況が飲み込めていない。そんな彼女を鐘山が無理やり走らせる。

 

渚沙もその鐘山の態度に危険を悟ったのか、すぐさま自分の意志で走り出した。

 

「あっ!おい、待ちやがれ!!」

 

そして、その場に取り残されたベジーモン。

 

「このぉぉ……俺様の言うことを無視しやがって」

 

その時、ベジーモンの後ろから巨大な影が現れた。

 

「キシャァァァァァァ!」

「うわぁぁあ!まだ追ってきやがった!!こ、こっちくんな!!」

 

緑色の外骨格、両腕に構えられた鋭利な鎌。

巨大なカマキリのようなデジモン。スナイモンだ。

 

ベジーモンは慌てて近くの茂みに飛び込む。ベジーモンを見失ったスナイモン。興奮で目を滾らせたスナイモンが目をつけたのは森の中を走る二人。

 

「キシャアアアアアア!」

 

スナイモンは鎌を掲げ、左右の羽を広げた。

巨大なカマキリが飛翔し、邪魔な木を切り倒しながら目の前の標的へと疾駆する。

 

「……なんであのデジモン……追ってくるの?」

 

既に息があがりはじめている渚沙が後ろを振り返りながらそう言った。

地面に飛び降りたフリモンがその質問に答える

 

「スナイモンは一度怒り出すと見境なく周囲を攻撃するんことがある。多分、さっきのベジーモンが怒らせるようなことしたんだろう」

「……いい迷惑」

「まったくだ!!」

 

フリモンがヤケクソのように吠えながら、木の根を飛び越える。

鐘山が最後尾を走り、その前を渚沙達が走る。

 

「木村さん!目印見えてる!?」

「……うん!」

 

2人は木の目印を頼りに川へ向かって走る。

 

鐘山の頭の片隅に、このまま走っていいのかどうかという思いが掠めた。

 

このまま川へ向かえば、スナイモンをロバート達のもとに誘導することになる。

 

だが、ここは見知らぬ森なのだ。その中を闇雲に逃げるわけにはいかなかった。道に迷って遭難なんてことになれば、もはや鐘山では対応ができない。しかも今は自分の命だけでなく、同行している渚沙の命も背負っているのだ。

 

鐘山は自分の選択が最善ではないことに気づきながらも、走り続けるしかなかった。

 

 

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