デジモンエタニティ   作:LOST

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冒険!デジタルワールド! Dパート

【ツノモン進化ーーーベタモン】

【フリモン進化ーーーレオルモン】

 

「進化……した……」

 

鐘山が呆然と呟く。ベタモンは大型のカエルのような姿をしていた。丸っこい身体にヒレのような手足があり、その背中には角の名残のような大きなオレンジ色の背ビレがついていた。鐘山は一回り大きくなった自分のパートナーの背中を見つめる。そんな鐘山を振り返り、ベタモンは笑ってみせた。

 

「善久は僕が守る」

 

ベタモンの身体が静電気でバチリと煌めいた。

 

進化を一度目撃している鐘山に対して、渚沙は初めてデジモンの進化を見た。

だが、彼女はさほど反応を示さなかった。

 

「レオルモン……猫になったの?」

「猫……これでも聖獣……まぁ、いい」

 

レオルモンはこんな時でもペースを崩さない渚沙に苦笑してしまう。レオルモンは黄金色の体毛を持つ四足歩行のデジモンだ。その容姿はライオンの子供のように見えるが、首についた金色の首輪とそこから下がるエメラルド色の宝石がレオルモンに聖なる気を纏わせていた。

 

進化したレオルモンとベタモンはお互いに視線を交わし、決意を固めるかのように首肯する。

 

「レオルモン!!行くよ!」

「ああ、前は任せろ!」

 

ベタモンの掛け声に応じてレオルモンが一気に距離を詰める。

レオルモンを援護すべく、ベタモンは全身の静電気をその背びれに集中させた。

 

「『電撃ビリリン』」

 

ベタモンの放った電撃がスナイモンに直撃する。

 

「ぐっ、ぐああああ!」

「動きを止めただけだよ。さぁ、今のうちに逃げて!」

 

急に頼もしくなったベタモン。鐘山はベタモンに頷き返し、渚沙を連れて薬師寺達のもとへと走った。

 

「薬師寺さん、立てる!?」

「た、立てます!立てますわよ!だから、士ノ道さん!しっかり支えてくださいまし!」

「は、はい!わかって……わかっております!!」

 

2人はお互いを支えにしながら立ち上がろうともがく。だが、一度味わった恐怖は簡単には抜けない。彼女達の足腰は今も震えたままで、まるで力が入らない。

その背後ではレオルモンがスナイモンに接近戦を挑んでいた。

 

「くらえぃ!『レオクロー』」

 

レオルモンがその頑丈な爪をスナイモンの腹部に叩きつけた。その攻撃はスナイモンの外骨格に傷をつけ、数歩よろめかせた。だが、やはり致命傷には程遠い。

レオルモンは自分が刻み込んだ傷を見上げ、唇を噛みしめる。

 

「くっ……やっぱりそう簡単にはいかないか……」

「クソガァァ!チョコマカト!!」

 

スナイモンのカマがレオルモンに迫る。だが、その動きを既にレオルモンは見切っていた。

レオルモンはその場から素早く後方へと飛びはねて距離を取る。

空を切るスナイモンのカマ。その間隙を逃さずベタモンが追撃を浴びせた。

 

「『電気ビリリン』!」

 

電撃を浴びせられ、スナイモンが苦しむような声をあげる。

一度の攻撃では弱くとも、度重なる連携はスナイモンの身体に確実にダメージを蓄積していった。

 

その間にも薬師寺達は、身体を持ち上げようとする。だが、女子2人は震えたまま立っているだけで精一杯だ。逃げることはおろか、この場から歩けるかさえ疑問であった。

 

鐘山は焦ったように振り返る。

 

「クソガァアアア!!イイキナルナヨオォ!」

「くっそぉ!まだ立つのかよ!!『電撃ビリリン』!」

 

後ろではまだデジモン達がスナイモンを足止めしようと戦い続けていた。

 

鐘山は奥歯を噛み締めた。

 

ベタモンは『守る』と言ってくれた。

 

その言葉の通り、ベタモンは今も体を張っている。

だが、このまま動けずにいては彼らの頑張りが何の意味もなくなってしまう。

鐘山は意を決して前に出た。

 

「士ノ道さん!ちょっとどいてくれる」

「何をする!薬師寺様は私が……」

「いいから!どいてくれ!!!」

 

普段なら絶対に発しないような強い声。

声変わりしたての鐘山の低音が鋭く士ノ道の耳に突き刺さった。

 

思わず手を引いてしまった士ノ道。

鐘山はすぐさま、薬師寺の膝裏と背中に手を回し、一息で彼女を持ち上げた。

俗に言う『お姫様だっこ』という状態だった。

 

「きゃっ!」

「薬師寺さん、ごめんね。我慢してもらうよ」

 

そして、鐘山は片手と片足で薬師寺を抱え、士ノ道に向けて手を差し出した。

 

「士ノ道さん!掴まって!!」

「あ、ああ……」

 

言われるがままに手を伸ばす士ノ道。

そして、その手を鐘山に掴まれたと思った時には既に万力のような力で身体を引き上げられていた。

驚くほどにすんなりと立てた士ノ道。先ほどまでの膝の震えも嘘のように止まった。

 

「あ……」

「士ノ道さん!歩ける!?」

「え……あ、ああ……」

 

士ノ道の首にキョキョモンが素早く巻き付いた。

 

「真央殿、今は呆けてる場合ではありませんぞ」

「そ、そうだな……」

「みんな!逃げるよ!!」

 

鐘山が大きな声で号令を放つ。

 

だが、その時だった。

 

「イイカゲンウットウシイゾ!!!『シャドウシックル』」

 

スナイモンのカマから衝撃波が打ち出される。

飛ぶ斬撃と化した一撃がレオルモンを直撃した。

 

「ぐぉっ!」

 

吹き飛ばされるレオルモン。

それを一瞥し、スナイモンは素早く次の獲物へと狙いを定めた。

 

「ツギはオマエだ!!」

 

ベタモンに向け、カマを振り上げるスナイモン。

 

「くっ!でも……僕は引かないぞ!!『電撃ビリリン』!!」

 

ベタモンが放った電撃。それをスナイモンはその鋭いカマで切り裂いた。

 

「うっ……」

「『シャドウシックル』!!」

 

再び放たれる衝撃波。その攻撃をベタモンはまともに受けてしまった。

 

「うわああぁあああ!!」

 

パートナーの危機。それは自ずと子供達の足を止めてしまう。

 

「ベタモン!」

「善久……早く……逃げ……」

 

ベタモンは仰向けに倒れ、今にも閉じそうな目で鐘山を見つめていた。

 

「……レオルモン」

「うぅ……私は……まだ……」

 

レオルモンはなんとか身体を起こそうとするも、震える四肢ではまともに身体を支えられない。

 

「キシャァァァア!」

 

スナイモンはそんなデジモン達を前に勝利の咆哮をあげる。

そして、スナイモンは次なる狙いを定めた。それは、逃げようとしている子供達。

スナイモンの顔にある紅色の文様が光を放つ。顎が奏でる不協和音はその大きさを増していく。

 

「くっ……」

「か、鐘山さん!は、はやく逃げませんと、あのカマキリが……」

「いや……ダメだ!!」

 

鐘山はそのスナイモンを前に立ち止まり、真正面に見据える。

渚沙も士ノ道もその場から動こうとしない。

だが、それは恐怖で立ち止まったわけではない。むしろ、身体の中の恐怖は逃走を必死に呼びかけていた。だが、彼らの生存への本能がスナイモンに背を向けることを拒否していた。今、スナイモンから目を離せば背中から切り裂かれるまで一瞬だ。それよりかは真正面から回避を挑んだ方がまだマシであった。

 

スナイモンが翅を広げた。

 

「キシャァァァァァアアア!」

 

透明な羽が小刻みに振動する。スナイモンの身体が宙に浮き、真っすぐに子供達へと飛びかかる。

 

その刹那。

 

「『ベビーフレイム』」

 

スナイモンの横っ面に火炎弾が叩き込まれた。

空中で衝撃を受けたスナイモンはバランスを崩し、その飛行コースが大きくズレた。スナイモンは森の方向へとよろめき、木々をなぎ倒しながら森の中へと頭から突っ込んでいく。

 

怒りに燃えるスナイモンはすぐさま森から飛び出してきて、叫ぶ。

 

「ダレダァアア!!」

 

火炎弾が放たれた方向へと子供達も目を向ける。

 

そして、渚沙が茫然と呟いた。

 

「太河……」

「渚沙!みんな!大丈夫か!?」

 

彼女らの視線の先。太河とシャオが上流から走ってきていた。

 

太河は走りながら、同級生達の様子を確認する。少なくともその場にいる4人は大きな怪我はなさそうだった。

 

だが、危機が去ったわけではない。

 

スナイモンは再び怒り狂い、手当たり次第に襲いかかろうとしていた。そのスナイモンの動きに気づいたシャオが叫んだ。

 

「っ!お前ら、伏せろ!!」

 

その言葉に鐘山がいち早く反応した。

鐘山は薬師寺を抱えたまま、渚沙と士ノ道を手を伸ばして引き倒した。

その直後、彼等の首が先程まであった場所をスナイモンのカマが通り過ぎた。

 

まさに危機一髪。

 

それを見た太河はすかさず追撃を指示する。

 

「アグモン!もう一発だ!」

「わかった。『ベビーフレイム』」

 

アグモンは足を止め、その口を開いて火炎の弾を放った。

『ベビーフレイム』は寸分たがわず、スナイモンの顔面を直撃した。

 

「クソガァアアアアアアアアアア!」

 

アグモンを睨みつけるスナイモン。

だが、その時には既に跳躍したガジモンがスナイモンの眼前に迫ってきていた。

 

「くらえ!『パラライズブレス』」

 

麻痺性の毒ガスの空気弾を至近距離で叩きつけられ、スナイモンは鎌で空気を払いののけながら後退する。

そうやってガジモンが作った隙を逃さず、シャオが一気に加速しスナイモンの脇をすり抜けた。

 

「お前ら大丈夫か!」

 

シャオは鐘山達に駆け寄り、まず渚沙に手を貸して引き起こした。

起こされた渚沙は無表情の顔を不機嫌な顔に変えた。

 

「……シャオ……来るのが遅い……反省文」

「冗談言える余裕はあるらしいな!無事でなにより!」

 

渚沙の皮肉に言葉を返すシャオ。シャオは続けて鐘山と士ノ道を助け起こす。

 

「ほら!さっさと離れるぞ!……っておい、立てよ『魔王』!いつもの仁王立ちっぷりはどこいった!!」

「う、うるさい!」

 

士ノ道の二の腕を掴んで、強引に立たせようとするシャオ。

そんな子供たちをスナイモンが睨みつけた。スナイモンのカマが怪しく光る。

 

真っ先に反応したのは太河だった。

 

「アグモン!!」

 

そのたった一言でアグモンは太河の意図を察した。

 

「わかった!!投げて!」

 

太河は腕を組んで足場を作り、アグモンがそこに足をかける。

そして、太河はアグモンに呼吸を合わせてスナイモンめがけてを放り投げた。

通常の跳躍とは桁違いの速度と高度。一気に距離を詰めたアグモンは口の中に溜めた火炎を一気に吐き出した。

 

「『べビーフレイム』」

 

スナイモンの顔面に三度目の火炎弾が打ち込まれる。

 

「ぐっ、クソォ!!」

 

燻ぶる煙で視界を一瞬奪われたスナイモン。

 

アグモンはそのままスナイモンの甲殻に着地する。そして、アグモンはその懐へと潜り込んだ。

狙いはスナイモンの腹部。ツノモンが突進し、レオルモンが幾度も爪を叩き込んだ外骨格。

わずかな傷口から流れる体液の臭いをアグモンは正確に嗅ぎ取っていた。

 

「くらえぇえ!」

 

アグモンの爪が光る。

度重なる攻撃に脆くなっていた外骨格をアグモンの鋭い爪がついに貫いた。

 

「ぐぅううううううう!」

 

悲鳴こそあげなかったものの、スナイモンが数歩後退する。

そんなスナイモンの前には戦意剥き出しのデジモンが並んでいた。

 

「まだやるか!」と、アグモンが叫ぶ。

「ガルルルル!!」と、ガジモンが牙を剥いた。

「助かったぞみんな!」と、レオルモンも復活してくる。

「僕も……まだやれるぞ!!」と、ベタモンも背中から火花を散らした。

 

彼等を前にしてスナイモンは怒りの衝動よりも自分の命を優先した。

 

「くそぉ……オボエてろぉ!」

 

スナイモンは翅を広げ、森の方へ飛んで行く。

スナイモンの姿はすぐに森の奥に消え、その羽音も次第に小さくなっていった。

 

子供達はその羽音が完全に消え去ってから、身体の中の空気をようやく吐き出したのだった。

 

「みんな!」

 

太河はすぐさま皆に駆け寄った。

 

「鐘山君!ロバートは!?」

「……あ、うん……ロバートも怪我はないと思う」

「そう、良かった」

 

川に流された二人を心配していた太河は大きなため息を吐きだした。

その隣ではベタモンやレオルモンがアグモンに礼を言っていた。

 

「アグモン、助かったよ~」と、ベタモンが何度も頭を下げている

「ああ、一時はもうだめかと思った。助かった」と、レオルモンも礼を言っていた

「えへへ……どういたしまして」

 

そんなアグモンの隣ではガジモンが羨ましそうに自分の爪を咥えていた。

 

「いいな~いいな~アグモンばっか。オイラも頑張ったのにな~」

 

そんなガジモンの肩にキョキョモンが巻き付いた。

 

「うむ、ならば拙者が他のデジモンに代わって礼を言おう。かたじけない。助かったぞ」

「へへっ、だろ?次もオイラに頼っていいぜ!」

 

誇らしげに胸を張るガジモンの首筋をシャオが掴み上げた。

俗に言う『猫掴み』というやつである。

 

「のわっ、シャオ、何すんだよ!」

「調子にのんなっての」

「なんだよう!シャオが誉めてくれないからだろ!!オイラだってな……」

「ったく、うるさい犬だなぁ」

「あぁっ!また言ったな!!オイラは犬じゃねぇってのに!!」

 

そんなやり取りをしていたシャオに鐘山が声をかけた。

 

「あ、あの、ロン君……」

「あん?なんだよ?」

 

すぐさまシャオの表情が変わった。優し気に緩められていた目元が引き締まり、表情筋が強張って固くなる。半ば威嚇するような視線で鐘山を睨みあげるシャオ。『不良』とのレッテルを張られることもあるシャオのその顔に鐘山の表情が一瞬怯む。

 

今までの鐘山であればそれだけで引き下がってしまっていただろう。

だが、鐘山は口の中に溜まった唾をのみ込み、握手を求めるように右手を差し出した。

 

「さ、さっきは……ありがとう。助けてくれて」

「さっき?」

「ほら、あの時、ロン君が声をかけてくれなかったら」

「ああ、あれか、そんなこと気にすんなよ。礼を言われる程のことじゃねぇっての」

 

シャオは蠅でも追い払うかのように手を振り、握手に応じることなく顔を背けた。

鐘山が差し出していた右手は行き場をなくし、重力に従うように垂れ下がっていく。

 

「あ……うん……そう、だよね……」

 

そんな鐘山を横目にシャオは頭をぽりぽりと掻きながら、ボソリと呟いた。

 

「助けたのは……お前だよ」

「え?」

「俺は『危ない』って声をかけただけだ……あいつらを助けたのはお前だ」

 

シャオはそう言ってガジモンを掴んだまま歩き出す。

 

「シャオって素直じゃねぇよな~」

「うるせぇぞ犬っころ」

「だぁかぁらぁ!オイラは犬じゃねぇっての!」

 

やんややんやと言い合いながら、離れていくシャオ。

 

そして、残された鐘山は握手をもらえなかった自分の掌を見つめた。

そこにはスナイモンの鎌を枝で払った時にできた小さな肉刺が水泡となって残っていた。

その肉刺は勇気を出した証明でもあり、スナイモンに立ち向かった勲章のように鐘山には感じられた。

 

鐘山はひりつく掌を固く握りしめる。

 

僕も少しは前進できたのだろうか。

 

そんな彼の様子をベタモンが見上げていた。

 

「ふふっ」

「ん?どうしたのベタモン?僕の顔に何かついてる?」

「ううん、何でもない!」

 

ベタモンは鐘山に向けて笑いかけた。

 

そんな時、逃げていたロバートがようやくて戻ってきた。

 

「ふぅぅ……あのカマキリお化けはいなくなったな?」

「あ……ロバート……」

「よしっ、ならもう大丈夫だな!鐘山、早く焚き火を作れよ。寒くてしょうがないんだ」

「……ご、ごめん……枯れ木……置いてきちゃって」

「はぁっ!?なら、さっさと取りにいけよマヌケ!!」

 

一歩進んだとは思っても、やはり彼を前にすると萎縮してしまう自分がいる。

鐘山は足元のベタモンを拾い上げてもう一度枯れ木を集めに森に入ろうとした。

 

「お待ちなさい!」

 

それを強い声が止めた。

 

「鐘山さん、焚き火は後にしましょう!あのカマキリを倒しきった訳じゃありませんわ」

 

薬師寺はその両足でしっかりと大地を踏みしめてそう言い放った。

さっきまでの怯えた姿などまるで無かったのかのような態度の薬師寺。

 

だが、彼女の指先は今も恐怖で色を失ったままであった。よく見れば彼女の膝は今も震えており、その身体を支えるのがやっとの状態だ。それでも、彼女は毅然とした態度を崩さない。

 

それが薬師寺の最低限の矜持であった。

 

「とにかく、ここから移動した方が賢明です!」

 

薬師寺の提案にロバートが即座に不満の声をあげた。

 

「そりゃないだろ!さっき走ってもうヘトヘトなんだよ!今日はここで休もうぜ!」

「それなら夜中にまたあのスナイモンに襲われてもいいとおっしゃるのですか?」

「そんなの、またこいつらが追っ払えばいいじゃないか。なぁ?」

 

ロバートはデジモン達に声をかけた。でも、彼等から返ってきたのは不躾な視線だ。

デジモンの誰もが『お前状況わかってんのか?』という目をしていた。

 

「な、なんだよ……なんか文句があるのか!!」

「あるに決まってるだろ」

 

ため息混じりにそう言ったのは太河だった。

 

「疲れてるのはロバートだけじゃないんだ。デジモン達だってスナイモンと戦って相当疲れてる。そんな皆にこれ以上戦ってもらっても勝てる保証はない」

「そ、そんなのやってみなけりゃわからないじゃないか!」

「そうだね。でも、『やってみた結果』彼らが負けたら、次は誰がスナイモンと戦うんだ?今度こそ取り返しのつかないことになる可能性だってある。そこは理解してくれるかい?」

 

『取り返しのつかないこと』

 

その言葉の重みに周囲にいた数人が生唾を飲み込んだ。

先程、スナイモンに襲われ、危うく首が飛びかけた人もいるのだ。

 

だが、一目散に逃げ出していたロバートにはその恐怖の実感がない。

ロバートはその場に胡座をかいて、太河に背を向けた。

 

「なんだよそれ!お前の言ってることわけわかんねぇよ!!とにかく、僕はここから動かないからな!僕はもう疲れたんだ!」

 

座り込むロバート。やってることは駄々をこねる子供である。

 

「ロバート……」

 

太河が困ったように頭をかく。

ロバートに動く気配はまるでない。

太河は説教の一つでもかましてやろうかと思った。

 

だが、いざ口を開こうとした時に横合いから別の人が意見を出した。

 

「……置いてっちゃう?」

 

渚沙だった。

 

いつもの冗談かとも思ったが。彼女の声音が少し違っていた。

彼女にはおどけるような雰囲気は欠片もなく、ただ無味乾燥とした感情の乗らない声だけが機械のように放たれていた。

 

「……置いていこ」

「お、おい!」

 

そんな渚沙に文句を垂れそうなロバート。

その視線を遮るようにシャオが前に出た。

 

「あぁ、もう面倒くせぇ!!ガジモン!こいつひっくり返せ!!」

「りょうか~い」

 

ガジモンは言われるがまま、胡坐をかいているロバートの腰の下に爪を入れ一気にひっくり返した。そして、シャオは前のめりに倒れたロバートを腰から担ぎあげ、そのまま肩の上に持ち上げてしまった。

 

「うわぁ!何するんだ!!」

「やかましぃ!お荷物は黙ってろ」

「誰がお荷物だと!?」

「ワニャモン!お前も乗っかれ!」

「わかったべ」

「ぐえぇっ!」

 

ワニャモンがロバートの背の上に乗っかったことで、鳩尾にシャオの肩が刺さり、ロバートはようやく静かになった。

米俵のように担がれたロバート。彼の身体を肩に乗せたシャオを渚沙が眉間に皺を寄せつつ見上げた。

 

「……そんな奴……シャオが担ぐことない」

「俺は面倒ごとが嫌いなんだ。やらなきゃならないことはテキパキやろう」

 

そう言ったシャオにレオルモンが声をかけた。

 

「手伝おうか?」

「レオルモンの気持ちは嬉しいけどよ。お前じゃ持てないだろ?」

 

レオルモンは自分の前足をみた。ついているのは肉球と爪である。

 

「むぅ……確かにそうだな」

 

とりあえず、ロバートの問題は解決した。

薬師寺は全員が動けることを確認し、下流の方を指し示した。

 

「それでは川沿いを下流に行きますわ。皆、わたくしについてきてください」

 

薬師寺を先頭に彼らは歩き出した。

 

日は既に傾きはじめ、空はもう夕刻だ。

 

彼等に最初の夜が迫ってきていた。

 




~~~ ♪ ~~~ ♪ ~~~ ♪ ~~~ 

デジタルワールドで過ごす最初の夜。光ない世界に子供達の不安が交差する。

ここはどこなのか?
元の世界に帰れるのか?
自分達はどうなってしまうのだろうか?

そんな彼等の弱音を嗅ぎつけてゴブリモンの集団が襲いかかる。

次回『進化!僕らは戦うんだ!』

今、終わらぬ冒険譚が始まる。


~~~ ♪ ~~~ ♪ ~~~ ♪ ~~~ 
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