デジモンエタニティ   作:LOST

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進化!僕らは戦うんだ! A パート

「せぇの!!」

 

掛け声と共にシャオは肩に担いでいたロバートを投げ捨てた。

 

「いってぇ!もっと丁寧に扱えよ!」

「やなこった。それより、運んでやったことに感謝しろよな」

「なにぃ!?お前な!いつまでも調子に乗るんじゃないぞ!」

「そんなもんに乗った覚えはねぇよ。お前は乗せてやったけどな」

 

睨むロバートと微笑を崩さないシャオ。

 

「二人とも、喧嘩はやめてくれよ」

 

太河がその仲裁に入った。

 

「『二人とも』ってなんだよ、俺も悪いのか?」

「シャオも煽るようなこと言わない」

「へーい……」

「ちっ」

 

大人しく引き下がったシャオと舌打ちするロバート。

とにかく、この場が収まったことに安堵する太河。

 

「みなさん、聞いてください」

 

そんな中で、薬師寺がみんなの注目を集めた。

 

「今日はここでキャンプをいたします。暗くなる前に食料を集めますわ」

「ってことは野宿かよ!」

 

早速ロバートが文句を垂れる。

 

「他に方法がありませんわ」

「ったく、なんで僕がこんなめに……」

 

ぶつくさと呟くロバート。ワニャモンがその頭に飛び乗った。

 

「普段の行いが悪いからだべ」

「なんだと!」

「静かにしてください!」

 

薬師寺に一喝され、ロバートはワニャモンから視線を逸らす。

したり顔のワニャモンが楽しそうに笑っていた。

 

「これから食料集めをしますわ。その前に持ち物を確認しておきましょう、みなさん、自分の手持ちのものを出してください」

 

断る理由はなく、みんなはポケットの中身を取り出し、持っていた鞄を開いた。

 

「瑠々川さんは持ち物がないのですか?」

「うん、鞄はあったんだけど……襲われた時に置いてきちゃって。あるとすれば、これぐらい」

 

太河は腰にさげたゴーグルを見せた。

 

「ゴーグル?」

「御守りなんだよ」

 

シャオも鞄は持っていたが、ゴリモンに追われた時に捨ててきたらしい。彼の唯一の持ち物は大きめのキーホルダーであった。

 

「それはなんですの?」

「サバイバルキットだよ。役に立ちそうだろ?」

 

シャオは流れるような手つきでナイフを出した。

とはいえ、ペーパーナイフ程度の刃だ。

他には缶切りや栓抜きが付いてる。

 

「まぁ、デジモンに通用するとは思えないけどさ」

 

シャオはそう言って笑った。

 

「木村さんはソーイングセットですの」

「うん……女性の嗜み……」

 

渚沙は表情を微かに動かし、ドヤ顔をしてみせた。

 

「女子力アピールはまたにしてください」

「……むぅ」

 

次はロバートの持ち物だ。

 

「ロバートは……櫛?」

「男性の嗜みだ」

 

そんなロバートに渚沙がぼそりと言った。

 

「……どうせ誰かからの贈り物……」

「これは自分で買ったんだ」

「…………それを贈りたい人はきっと多い……」

「そりゃそうだ。何せ僕は会社の跡取り息子だからな!」

 

自慢するロバート。渚沙はつまらなさそうにロバートから目を逸らした。

他の皆は特別な持ち物はない。食料を持っている者もいなかった。

 

「それでは食料集めを行いましょう」

 

そう言った矢先に子供達の間ですぐに手が上がった。

 

「食べ物に関しては僕らに任せてよ」

 

手をあげたのはアグモンだった。

 

「任せるとは?」

 

薬師寺の質問にはバドモンが答えた。

 

「私達はずっとこの島で暮らしてきてるから。食べ物の場所ならだいたいわかってるわ」

「そう?でも全部をやってもらうわけにはいきませんわ。わたくしたちもそれぞれ……」

 

役割分担をしようと思った矢先、声があがった。

 

「僕はもう動きたくないからな!」

 

胡坐をかいて明後日の方を向くロバート。

いつもなら許されざる行為であるが、これ以上面倒を抱える余裕は子供達にもなかった。

 

「はぁ……わかりましたわ……Mr.アットマンは休んでてかまいませんわ」

「わかればいいんだよ、わかれば」

 

堂々と寝転がるロバート。

その態度に皆言いたいことがあったが、今更ロバートと口論をする程の気力は誰にも残されていなかった。

 

「それでは二手に別れましょう、瑠々川さん、ロンさん、木村さんは森でデジモン達と一緒に食料探しをお願いしますわ。それと、焚火の為の枯木もお願いします。くれぐれも気を付けてくださいね」

「おっけー」

 

太河は気心が知れてきたメンバーでの行動にほんの少し安堵した。

 

「大丈夫、僕らがついてるもんね」

 

そう言ったのはアグモンだ。続いてレオルモンも大きく頷いた。

 

「うむ、皆の護衛は我らに任せてくれ」

 

そして、最後にガジモンが自分の胸を叩いて言った。

 

「大船に乗って気でいてくれ!」

「頼もしいですわね」

 

彼等がいれば滅多なことにはならないだろう。

この三匹の強さは先程の戦いでよくわかっていた。

 

だが、問題があるとするならそのパートナーである人間の方である。

仕事する気のありそうな太河は良いとしても、無表情のままの渚沙と面倒くさそうなシャオ。

欠伸をするシャオに向けて、士ノ道が厳しい目を向けていた。

 

「シャオ、サボるなよ」

「わかってるって」

 

ヘラヘラと笑うシャオの隣で渚沙が親指をたてた。

 

「……安心して……私とレオルモンが、サボらせない」

「信用ないな、ったく」

 

シャオはそう言ったものの、その笑みは崩さない。

 

「鐘山くんは魚をお願いします。川沿いで魚を取ります。わたくしと士ノ道さんもお手伝いしますわ」

「うん」

 

川魚と聞いて、ベタモンが意気揚々と飛びはねる。

 

「川の中なら僕が役に立つよ」

「ええ、期待しておりますわ」

 

薬師寺は皆を改めて見渡した。

 

「それでは、みなさんよろしくお願いしますわ。日が沈み切る前に戻ってくること」

 

薬師寺の言葉を合図に皆はそれぞれ行動を開始した。

 

森に入った太河達は木の実や山菜を探して森を歩いていた。

 

「おっ、こんなところにキノコだ」

 

手を伸ばそうとするシャオの手をガジモンが止める。

 

「そいつはダメだ、毒があるキノコなんだ」

「へぇ、そうなのか……んじゃ、こっちは?」

 

隣の木の根元を指差すシャオ。

 

「そいつは食べられるぜ。焼けば結構美味しいんだぞ~」

「へぇ……以外と詳しいんだな」

「まっ、オイラにかかれば、匂いで食えるもんと食えないもんがわかるんだよ」

 

自分の鼻を自慢げにさするガジモン。

それをシャオは鼻で笑った。

 

「食い意地張ってるだけだろ」

「コラァ!そういうこと言うな!!ガルルルル」

「唸るなっての。ったく、うるさい犬だ」

「だから!オイラは犬じゃねぇって!」

 

シャオとガジモンはそんな会話をしながらキノコを摘む。

2人で両手一杯に抱えれば結構な量になりそうだった。

 

そして、一通り集め終わったシャオは大きく伸びをした。

すかさず後ろで枯れ枝を集めていた渚沙が声をかけた。

 

「……サボる気?」

「おい、俺は一息つくこともできねぇのかよ」

「……既に三回……」

「え?」

「……三回も休憩してた……」

「今回は違う。ちゃんと食料集め終わったんだよ。ってか、渚沙も疲れたろ?少しは休め」

「……もっと枯れ木……集める」

 

渚沙の手には枝が既に大量に集まっている。

それでも、渚は地面を見渡して枯れ枝を探していた。

 

「もういいだろ。これだけあれば火ぐらい起こせるって」

「……着火剤がわりに枯れ草とかも……必要」

「それこそ心配いらないだろう。アグモンがいる」

「……あぁ……そっか」

 

アグモンは口から火球を打ち出せる。火元は困らない。

 

「……レオルモンはできないの?」

「静電気なら起こせるがな」

「……地味」

「渚沙、傷つくからやめてくれるか?」

「……冗談」

 

二人の掛け合いを見ていたシャオはもう1人のメンバーがいないことに気が付き、ふと周りを見渡した。

 

「あれ?太河はどこいった?太河!」

 

その返事はシャオの頭上から聞こえてきた。

 

「シャオ!上だよ上!」

「ん?上?」

 

シャオが上を見上げると太河はアグモンと一緒に木に登り、木の実を集めているところだった。シャオが見ている間にも太河は器用に枝から枝に移り、軽快な動きで木の実へと手を伸ばす。その後ろではアグモンも爪を使って木の幹をスルスルと登っていく。

細い枝の先の木の実は太河が獲り、より高い位置にある木の実はアグモンが獲る。

 

なかなかのコンビネーションで木登りをしていた太河とアグモンはキリのいいところで下に向かって手を振った。

 

「木の実が結構取れたから、そっちに落とすよ!」

「ああ、ちょっと待ってろ!」

 

シャオは手にしていたキノコを落とし、受け取る体勢を作る。

太河はそこにめがけてポケットに突っ込んでいた木の実を手あたり次第に落としていった。

 

太河は一本の木から木の実を集めていたはずなのに、落ちてきた実はあまりに多種多様であった。リンゴのような果物風のものから、栗のような形のものまで。そして、最後には特大のドングリが落ちてきた。

 

「おわっ!」

 

あまりの大きさにシャオが回避すると、その巨大ドングリは地面に勢いよく落下し、そのまま腐葉土の中に埋まってしまった。

 

「あっぶね!!おい、太河!こんなもん落としてくんな!!」

「えっ?僕じゃないけど……アグモン?」

「あっ、ごめんなさ~い」

 

木の上から両手を合わせて謝ってくるアグモンにため息を吐きつつ、シャオは落ちてきたドングリを眺める。

 

「しかし、でかいなこれ、食べれるのか?」

 

それは人の顔すら覆い尽くせるような巨大なドングリ。

そのドングリを見て苦笑いをしたのはレオルモンだった。

 

「それは食べれるが、かなり苦いし固い。食べれるのはアグモンぐらいだろう」

 

レオルモンの情報をもとに、渚沙は一言。

 

「……じゃあ、捨てよ」

「ええっ!」

 

驚きの声をあげたのは木の上にいたアグモンだった。

アグモンは急いで木から滑り降りてきた。

 

「待って待ってよ!僕が食べるから!僕が責任もって食べるから!ねっ?持ってっていいでしょ?ねぇ?ねぇ?」

 

大袈裟な身振り手振りでアピールし、涙目にまでなるアグモン。

その後ろから太河が苦笑いを浮かべながら木から降りてきた。

 

「アグモン、大丈夫だよ。今のは渚沙の冗談だから」

「本当!?じゃあ、持って帰って食べていいの!?」

「もちろん」

「やったぁ!!」

 

諸手をあげて喜ぶアグモンとそれを笑顔で撫でる太河。

そんな太河を見てシャオが「意外だな」と言った。

 

「意外ってなにが?」

「いや、太河って結構面倒見がいいなと思ってな」

「それは多分弟がいるかからかな」

「ああ、なるほど。納得したよ」

「それより、そろそろ暗くなってきた。みんなのところに戻ろう」

 

太河がそう言うと、渚沙も枯れ枝を拾っていた手を止めて頷いた。

シャオと太河で食料を抱えて、元来た道を戻っていった。

 

 

 

そして、川の方は大漁だった。

 

「『電撃ビリリン』」

 

川の浅瀬では鐘山の指示で岩を並べ、川の流れが滞る場所を作っていた。

その上流からベタモンが川に電撃を流せば、ショックで気絶した魚達が流れに沿って自然と集まってくる。

それを士ノ道と薬師寺が拾い上げていた。

 

「う、うう……ぬるぬるですわ」

「薬師寺様……無理なさらずとも」

「いいのです!働かざるもの……食うべからず、と……きゃっ!ムシ!ムシが魚の口から!!」

 

思わず魚を手放してしまう薬師寺。流されていく魚を下流にいたキョキョモンが陸地に跳ね上げた。

 

「これは虫ではござらんな。木の皮が口に引っかかっていただけだ」

「あ、そ、そうですの……お、お手数おかけしましたわね」

「もう、真莉愛ってあわてんぼうなんだから」

 

バドモンに笑われ、少しムッとする薬師寺。

 

「こ、こんなことするの初めてなのです!誰しも最初から上手くいきません!!」

 

そう言いつつ、おっかなびっくり魚を掴む薬師寺。

それをハラハラしながら見る士ノ道。

 

鐘山はそれを見ながら、河原の石を打ち合わせて砕いていた。

電撃を流す役目を終えたベタモンが鐘山へと飛びはねていく。

 

「善久、なにしてるの?」

「これ?石のナイフを作っておこうと思ってね……」

 

鐘山は魚の確保を士ノ道達に任せて、色々と道具を作ることに専念していた。

そんな彼の隣には既に蔓をより合わせて作った紐が準備されていた。

 

「……鐘山……お前、すごいな」

 

アウトドアにはあまり縁のなかった士ノ道がそう言った。

 

「あはは……田舎育ちだったから……小さい時にはよく釣りに行ってたんだ……」

 

そう言いながらも鐘山の手はよどみなく動き続ける。石を薄く砕き、別の石にこすり合わせて磨けば簡易の石のナイフの完成だ。ナイフを作り終えた鐘山は河原に打ち上げられた魚を慣れた手つきで掴み上げた。それを水につけ、石のナイフを魚の腹に差し込む。

 

「え?なにをしていますの?」

「魚の臓物は抜いておかなきゃ。毒や寄生虫がいるかもしれないし」

 

魚の腹を開いて、臓器を掻き出す鐘山。その手際はまるで漁師のようだった。

鐘山は鮮やかな手つきで次々と魚をさばいていく。

 

「ベタモン達の分もやった方がいいかな?」

「いいよ。僕達ははいつも丸囓りだったし」

「なら人間の分だけかでいいかな……でも、誰かが間違って食べないとも限らないし」

 

誰か、というかロバートが、である。

彼はお腹を空かせていたし、デジモン達の魚に手を出すかもしれない。

 

ロバートのことをよく知る鐘山はその危険性を考え、全部処理しておこうと手を速めていった。

 

「あ、あの……」

 

魚をある程度獲り終え、仕事の無くなった士ノ道達が川からあがってくる。

 

「私も……手伝おうか?」

 

士ノ道が鐘山にそう声をかける。

 

「いや、いいよ。石のナイフはこれ一本しかないから」

「そ、そうか……」

「それに魚の捌き方とかわかる?」

「い、いや……」

「なら、今日は時間がないから僕がやるよ。また今度きちんと教えるから」

「ああ……」

 

丁寧に断った鐘山の隣にはベタモンが次々と魚を運んできていた。

 

士ノ道は自分の掌を見下ろす。

肉刺で醜く変形してしまった分厚い掌。

 

鐘山を前にして思い出すのは先程のスナイモンの出来事。

 

この手が薬師寺の身体を起こすことができなかったのはまだ士ノ道の記憶に新しい。

そして、役に立たない自分に代わり、行動を起こしたのは目の前にいる鐘山である。

今もまた鐘山は仕事をこなし、自分は何もすることができない。

 

士ノ道は手持ち無沙汰となってしまった両腕を力無く降ろした。

 

そんな彼女の方をチラリと見上げ、鐘山は作っておいた葦の紐を差し出した。

 

「士ノ道さん。魚の(えら)にこの紐を通せる?ここから入れて、口に通すんだけど……」

「ああ!あ、いや、やり方はわからないが。教えてくれるか!」

「うん、ここをこうして……」

 

魚の扱い方を嬉しそうに教わる士ノ道。

 

その後ろで薬師寺は既に河原にしゃがみこんでいた。

 

「真莉愛、大丈夫?」

「はぁ……はぁ……大丈夫、ですわ……」

 

慣れない仕事に疲労困憊の薬師寺。

彼女はもうこれ以上動けそうになかった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

鐘山の指導のもとで簡単な竈を作り上げ、彼らは焼き魚とキノコのサラダで食事となっていた。

そんな中、ロバートが納得いかない、といった具合にアグモンを指差した。

 

「おい!なんであいつだけあんなデカイの食べてんだ!?」

 

ロバートが指差した先ではアグモンが巨大なドングリを美味しそうに齧っていた。

 

「……えっ?なに?」

「それ、僕にもよこせ」

「えぇっ!」

 

驚いて目を見開くアグモン。

それを聞いていた太河も慌てて止めに入った。

 

「ロバート!やめろって!それは……」

 

だが、太河が言うより先にその場にシャオが割り込んできた。

 

「アグモン、そう言ってやるなよ。俺のこの木の実やるから一口だけロバートに食わせてやってくれよ」

「えぇ……」

「シャオ!」

 

太河は2人を止めようと腰をあげたが、その時にはもうロバートに向けアグモンがドングリを差し出していた。

 

「はい……一口あげる」

「最初からそうすればいいんだ」

 

差し出されたどんぐりをひったくるようにして奪ったロバート。

ロバートは手にした獲物の大きさに涎を垂らして舌なめずりをした。

 

「シャオ、お前もようやく僕という人間の偉大さがわかってきたようだな」

「へへっ、まぁそうだな。ここ数日でロバートさんのことを見直したもんで」

「わかればいいんだよ。じゃあ、いっただきまーす」

 

ロバートは大口をあけた。

そして盛大に噛み付いた瞬間だった。

金属音がした。

 

「はが……がぁぁあ!!歯が、歯があぁぁ!!」

「はははははは!マジで引っ掛かりやがったコイツ!!」

 

どんぐりのあまりの固さに悲鳴をあげるロバート。それを見て大爆笑で転げ回るシャオ。

 

「あぁ、もう!これはアグモンぐらいしか食べれない木の実なんだよ!返してもらうからね」

 

太河はロバートの手からドングリを取り返し、アグモンに渡す。

 

「はい、アグモン」

「ありがと、たいが」

 

アグモンはドングリをバリバリとかみ砕き、幸せそうに食べはじめる。

 

「他人の食べ物を取ろうとするからそうなるんだ」

 

士ノ道が呆れたようにそう言い、周囲にも笑いが広がる。

この世界にきて始めての食事は比較的平和に過ぎて行った。

 

「くそっ……なんで僕がこんなめに……」

 

からかわれて恥をかいたロバートは憮然とした顔で自分の魚にむしゃぶりついた。

そんな彼をワニャモンが呆れたように見上げる。

 

「ロバートはほんっとうに反省しないんだべな」

「うるさい、だいたいなんでお前はちっこいまんまなんだよ。他の奴らはでかくなってるってのに」

「さぁ?オラにもわからんべ」

「くっそー……」

 

まだ進化していないロバートのワニャモン。

進化の話題になり、士ノ道は自分のパートナーを見下ろした。

 

「キョキョモン、お前は自分の意思では進化できないのか?」

「はい。何度か挑戦してみたことがありましたが。拙者達は一度も進化できませんでした」

「アグモン達もか?」

「そうですな。皆とも一緒に頑張っておりましたが。進化できた者はおりませんでした」

 

キョキョモンとアグモンの間の努力に大きな差はない。

ということはやはり、人間の差なのだろうか。

士ノ道は周囲を見渡した。

 

ちょうどその時、渚沙がレオルモンの髭に手を伸ばしたところだった。

 

「……レオルモン……ほっぺについてる」

「ん?どこだ……ここか?むぅ、とれん」

「……ちょっと動かないで」

 

レオルモンの頬についた魚の骨を取ってやる渚沙。

その反対側ではまたロバートが一悶着起こしていた。相手はロバートの『パートナー』であるワニャモンであった。

 

「お前の魚もよこせよ」

「やだよ!これはオラのたべ!」

「お前の身体は小さいんだからそんなにいらないだろ!」

「いーやーだー」

 

ロバートとワニャモンは相変わらずだ。

 

私はあれと同じなのだろうか?

 

士ノ道は『パートナー』のキョキョモンに視線を落とした。

 

「真央殿。どうかなされたか?」

「いや……」

 

士ノ道は自分が考えてたことを打ち消すように魚の身をかじった。

 

進化できないということは士ノ道にとっては別にどうでもいいのだ。

パートナーに戦う力などなくとも、自分が薬師寺様を御守りすればそれでいい。

 

だが、そんな彼女の脳裏にスナイモンに怯えて何もできなかった自分の姿が浮かんでは消えていく。

 

士ノ道は静かに掌に爪を食い込ませた。

 

もう、先程のような無様を晒したりはしない。恐怖に怯えることなど絶対にあってはいけない。

 

なぜなら私は……

 

食べることをやめてしまった士ノ道を見上げるキョキョモン。

だが、彼の心配そうな視線に士ノ道が気付くということは無かった。

 

そんな時だった。

 

「そうだ!鐘山、お前のデジモンを寄越せ!」

「……え」

「ベタモンのパートナーには僕がなってやる。お前はワニャモンがお似合いだ」

「……そ、それは……」

 

すぐさまベタモンが鐘山の隣に寄り添った。

 

「嫌だ、僕は善久と一緒にいる」

 

回り込もうとするロバートとその視線から逃げようとするベタモンの追いかけっこが始まった。

 

「僕と一緒に来れば美味しいご飯も、柔らかいベットもあるんだぞ」

「嫌だ!」

 

鐘山の後ろに隠れるベタモン。

 

「やめろよロバート。ベタモンが嫌がってるじゃないか」

 

太河が注意するも、ロバートは止まらない。

 

「うるさいな、転校生には関係ない!」

「瑠々川だ。名前覚えろっての」

 

ロバートは太河の言葉を綺麗に聞き流し、ベタモンに迫る。

 

「ベタモン!僕についてくればお前の好きなものをなんでもやるぞ。だから僕と来いよ!」

 

そんなロバートをベタモンは警戒心むき出しで睨みあげる。

もちろん、そんなものでめげるロバートではない。

 

「僕が家に帰ればお菓子だって、ジュースだってなんでもあるんだ」

 

何時ものロバートの我儘。そのはずだった。

 

「なんでも好きなだけあるんだ……家に……帰れば……帰れれば」

 

だが、それは尻すぼみに消えて行った。

それと同じく、みんなの騒がしい声も消えていく。

 

ふと気づくと、いつの間にか子供達の声は消えてしまっていた。

 

気づいてしまったのだ。

今の自分達の状況と現実に気づいてしまったのだ。

 

「……僕達……帰れるのかな」

 

ロバートがぼそりと呟いた

 

「……ここがどこだかわかんないし……どうやって来たのかもわかんない……どうやったら帰れるんだよ」

 

彼の言葉は皆が抱えている不安そのものだった。

誰しもが言わないようにして目を背けていた現実そのものだった。

 

「……僕は……帰りたいよ」

 

暖かい食事のある家に。

不安を抱えなくて済む場所に。

自分を護ってくれる存在があるあの世界に。

 

帰りたいのだ。

 

一刻も早く。

 

ロバートの言葉に引きずられるように、皆の表情が沈んでいく。

 

そんな時だった。

 

「大丈夫。きっと帰れるさ」

 

底抜けに明るい声がそう言った。俯きかけた皆の顔が上がる。

 

「ここはどこかはよくわからないけどさ。僕らは来れたんだ。帰り道もきっとある」

 

太河がそう言っていた。

 

彼は笑顔だ。人を安心させるような明るい笑顔で太河は皆を見渡した。

 

「みんな揃って帰ろう……きっとなんとかなる!」

 

太河はそう言いきった。

 

彼の言葉にはなんの根拠もなかった。彼の自信を裏打ちするような事実は何もなかった。

それでも、彼の明るい声は優しい灯火となって皆の胸の中に伝染していく。

彼の言葉が希望となって、皆の目に宿る。

 

「きっと帰れる!!」

 

太河のその言葉に皆は確かに頷き返したのだった。

カヲルも、シャオも、鐘山も、ロバートでさえ頷き返した。

 

ただその中で、薬師寺 真莉愛だけが彼を冷たい目で見ていた。

 

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