デジモンエタニティ   作:LOST

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海上戦線!シードラモン!Bパート

生け簀の魚を食べつくしたガジモンとベタモン。

気持ちよさそうに川辺に寝そべる二人を見ながら、シャオと善久は改めて川に入るための準備を始めた。

 

「さて、これでお互いに晩飯に困らないぐらいには魚を持って帰らないといけなくなったわけだ」

 

シャオは「めんどくせぇ、めんどくせぇ」とぼやきながら、袖をめくりあげた。

 

言い渡された仕事をサボり、他の人が空腹を我慢しているなかで勝手に食事をする。それ相応の埋め合わせはしなければ帰ることはできない。食べ物の恨みは恐ろしいというので1人1匹程度の分量じゃ納得してもらえないだろう。

 

シャオは士ノ道に説教を受けるだろうし、善久もロバートに色々と言われるかもしれない。

それでも、2人は決して悪い気分ではなかった。罪悪感の共有というのは時に真の友情よりも固い結束になる。

 

善久とシャオは少し傾きかけてきた太陽をに照らされながら、顔を見合わせて苦笑いをする。

 

「さて、いっちょやったるか」

「うん。今からじゃ、木材を持ってくるのはちょっと難しそうだもんね」

「木材……ねぇ……」

 

その話になり、シャオの声のトーンが落ちた。

面倒な仕事の話を持ちだされ、気分が落ちたのかとも思ったが、どうやらそうではなさそうだった。

 

「なぁ、善久。目印になりそうな木材って意味があると思うか?」

「……え?」

「まさかお前まで、あの海の向こうから助けが来るなんておめでたい考えを持ってるわけじゃねぇよな」

「……それは……」

 

善久はシャオの声が落ちた理由を察した。

シャオはこれから『楽観視できない話』をしようとしていたのだ。

 

「ここは地球じゃねぇだろ。間違いなく。なのに、目印を立てるってのはどうよ?無駄じゃねぇか?」

「……」

 

善久は言葉を探すために押し黙る。

少しばかり長い沈黙であったが、シャオは善久が言葉を見つけるまで待った。

 

「無駄じゃ……ないと思う……」

「根拠は?」

「もし……この世界が『デジタルワールド』っていう別世界だとしても……僕らみたいに飛ばされてきた人間がゼロというわけじゃないはず……だよね?」

「まぁな。実際、織原がこっち来てる可能性が高いわけだしな」

「だから……僕らみたいな人間がここに来ていることを示しておくのはやっぱり大事だよ……それに、このファイル島の中よりも、海の外に人間がいる可能性の方が高いと思う……その……単純な面積的に……だから、やっぱり目印は立てた方がいいと思うんだ」

 

善久がそう言うと、シャオは大きく鼻を鳴らした。

 

「……確かにそうか……ってことは、下手したら明日も同じ仕事言い渡されるわけか……あぁあ、メンドくせぇ」

「そう言わないで、大事なことだよ」

「ヘェヘェ、わかりましたよ……ってか、善久。お前そんなしっかり自分の意見持った上で仕事受けてたんだな」

「え……まぁ……その……うん……えと……なにか、まずかった?」

「いや、別に。ただ、お前がロバート盲目的にに従ってるだけなら、脅せばサボらせられるかとか思ってたからさ」

「そんなこと考えてたんだ」

「まぁな」

 

そう言ってケラケラと笑うシャオ。

善久はシャオに脅しをかけられている自分を想像して、わずかに身震いした。

 

ある程度打ち解けることができた今ならいざ知らず、ほとんど初対面の時にそれをやられていたら自分を押し通せる自信はなかった。

 

「ってかよ。そうやってしっかり自分の意見言えるなら、ロバートにもたまにはガツンと言ってみろよ」

「それは……その……無理……かな」

「それって、あれか?ほれ……その……」

 

言いかけて、言葉を濁すシャオ。

善久は彼が言わんとしていることをすぐに察した。

 

それは所謂『家庭の事情』というやつだった。

 

「シャオも……親父のこと……しってるんだ……」

「まぁ、耳には入ってくるよな。ロバートの奴もそこらで言いふらしてるし」

「うん……」

 

善久がロバートの軍団の一番下っ端にいるのは、彼が気弱で真面目で言い返すことをしないからではない。

もちろん、その性格が一因であることは否定しない。

ただ、ロバートが善久に対して極めて高圧的に出るのはそれだけが理由ではなかった。

 

「まぁ、あんま俺も詳しくは知らねぇけど……お前の親父さんの会社をロバートの親父が救ったんだっけか?」

「うん……親父の会社が危なくなった時に、ロバートのお父さんが拾ってくれたんだ」

 

それも、利益や打算ではなく、両者の間に間に昔から続く友情があったからだった。

だからこそ、その関係は『お情け』や『慈悲』と言い換えることもできてしまう。

 

父親の権力を傘に着るロバートからすればこれ以上に下に見やすい相手もいないだろう。

 

このことがある限り、善久はロバートに決して逆らえないのだから。

 

「けったくそ悪い話だ」

 

シャオが苛立ちを隠しもせずに吐き捨てる。

 

「お前はお前じゃねぇのか?親は関係ねぇだろうが。そうだろ?」

「そういうわけにもいかないよ……それに……」

「それに?」

 

善久はそのまま言葉を続けようと口を開く。

だが、声を出すすんでのところで口を閉じた。

 

「あ……いや……なんでもないよ」

 

善久は何かを言おうとして、止めた。

 

それは言わなくてもよいこと。

言う必要のないこと。

 

自分の胸にだけ秘めておけば良いことだった。

 

押し黙る善久にシャオは肩をすくめた。

 

「……まぁ、なんでもいいけどさ」

 

シャオは変に追求したりせず、すぐさま話題を打ち切った。

 

「それはお前とロバートの間で解決することだ。俺には関係ねぇ」

 

興味を無くしたようにそう言ったシャオ。

そんなシャオに善久は頭を下げるしかできなかった。

 

「……ごめん」

「別にいいさ。俺も深く聞きたくはねぇ。それがけったくそな話なら猶更だ」

 

そして、シャオは一呼吸置き、首を横に振った。

 

「やめやめ!こんな重い空気なんざもう終わりにして、さっさと魚獲ろうぜ」

 

空気を切り替えるかのようにシャオの声のトーンが一段階上がる。

善久もそれに乗っかるように頑張って笑顔を浮かべた。

 

「うん。そうだね。それじゃあさっきと同じようにベタモンに追いこんでもらって……」

 

二人は気持ちを切り替えて川岸へと歩を進めていった。

 

そんな二人を川の中から睨む赤い瞳が一対あった。

 

「ん?」

「どうした?善久?」

「いや……なにか、そこにいたような気がして」

 

川面を指す善久。覗き込むシャオ。

 

「なんにもいないぞ?」

「そう?魚……だったのかな?でも、それにしては目がかなり……」

 

そして、義久が一歩、水際へと足を踏み出した。

 

その直後だった。

 

突然、水面から巨大な魚影が飛び上がった。

 

だが、それは『魚』と分類するにはあまりに大きな体躯。

 

デジモンだった。

 

「なっ!」

「えっ!!」

 

驚きの声をあげる2人。

目の前に突如現れた巨大魚の光の無い濁った瞳に見据えられ、2人は背筋に怖気が走るのを感じた。

 

それは、純然たる殺意。

 

殺気に当てられて2人の動きが止まる。

その巨大魚は2人めがけて、胸ビレの箇所から鋭い骨のようなダーツを放ってきた。

 

「『ヴァリアブルダーツ』」

 

目視できないほどの速度で飛ばされたダーツ。

だが、この場には反応できた者達がいた。

 

「シャオ!」

「善久!」

 

ガジモンがシャオを押し倒し、ベタモンが善久に体当たりをぶちかました。

その直後、2人が立っていた場所に鋭い刃が突き刺さった。

 

善久がすぐに立ち上がると、先程の魚は既に川の中に身を隠していた。

 

「善久、怪我はない?」

 

心配してくれるベタモンに向け、善久は小さく頷く。

 

「うん、大丈夫。ベタモン、ありがとう!」

「それより、また来るよ!」

「あいつは一体……」

 

善久はデジヴァイスを起動した。

図鑑に表示されたのは、古代魚であるシーラカンスをより狂暴にしたような姿のデジモンであった。

 

「シーラモン、成熟期、データ種、古代魚型・・・必殺技は鉤爪を飛ばすヴァリアブルダーツ」

 

水中に逃げ込んだシーラモンは川の深いところへと潜ったのか、その姿を捉えることはできない。

相手が水中ならベタモンの出番なのだろうが、相手はベタモンより一段階上の進化を遂げた成熟期デジモン。無暗に飛び込むのは危険だった。

 

足を踏み出せない善久。

 

その隣でシャオはガジモンの身体をどけて起き上がろうとしていた。

 

「おい、ガジモンどけって……ガジモン?ガジモン!しっかりしろ!!」

「うう……い、いてぇ……」

 

シャオはガジモンを抱えてその身体を確かめる。

 

「ガジモン……くそ……このバカ!」

 

その場にうずくまって動かないガジモン。

そのガジモンの背中にはシーラモンの放ったダーツが何本も刺さっていた。

シャオを庇った時に背中に攻撃を受けたのだ。

 

「ガジモン、動けるか、立て!立つんだ!!」

「う、うん……」

 

ガジモンは身体を動かそうとするが、痛みで力が入らないのかその動きはぎこちない。

シャオとガジモンが倒れている場所は川岸から然程遠くない。

水がホームグラウンドのシーラモン相手にこの場所は危険すぎる。

 

シャオはなんとかガジモンを引きずろうとするが、脱力した相手を動かすののはかなりの体力を強いる。慣れない魚獲りで既に疲労のたまっているシャオには荷が重い。

 

「シャオ!手伝うよ!」

「来るな善久!!動くんじゃねぇ!!」

「えっ!」

 

近づこうとする善久を制止するシャオ。

だが、遅かった。

 

「『ヴァリアブルダーツ』」

 

水中からシーラモンが再び飛び出してきた。その狙いは善久だった。

 

迫りくる無数の針。

 

「こぉのぉ!!『ベタカッター』」

 

ベタモンがなんとか迎撃して撃ち落とすことに成功する。

だが、ベタモンが反撃をしようとした時には既にシーラモンは水中に身を潜めてしまっている。

 

「ガジモン!くそっ、今抜いてやるからな」

 

シーラモンが再び消えたことでシャオはガジモンの背中のダーツを抜くことを優先した。ガジモンが少しでも動けるようになれば、運ぶこともできる。

 

シャオはガジモンの背中に刺さったダーツに手をかける。だが、そのダーツを掴んだシャオの手のひらに鋭い痛みが走った。

 

「だぁっ!くっそ!」

 

ダーツには小さな棘のようなものが『かえし』のように無数に突き出ていたのだ。

それを手のひらで直接掴んでしまったシャオの手はすぐさま赤く腫れあがる。

それでもシャオは痛みに顔をしかめながも無理やりダーツを引き抜いた。

 

「いってぇぞ!ったく!」

「ありがとう、シャオ……」

「ああ、どういたしましてだ!」

 

シャオは少しは動けるようになったガジモンを両腕で持ち上げながら川岸から離れようと足を踏み出した。

 

「シャオ!」

「だから動くんじゃねぇ!相手は魚なんだぞ!!お前が言ったことだろ!!」

「え……」

 

そして、シャオが歩き出した直後、再びシーラモンが川から飛び出してきた。

その視線は真っすぐにシャオの背中へと向いている。

 

だが、シャオは振り返らない。

 

「『ヴァリアブルダーツ!!』」

「『ベタカッター!!』」

 

ベタモンが迎撃する。

 

シャオは生きた心地がしなかった。

 

いつ自分の背中にシーラモンのダーツが刺さってもおかしくなという状況で一切後ろを見ないということがどれだけ恐ろしいか。それでも、シャオは立ち止まらない。ベタモンが全て叩き落としてくれることを信じた。

 

というよりも、信じる以外に道がなかった。

 

『ダーツ』と『カッター』が激突する金属音が背後で幾度と打ち鳴らされる。

そして、ついにシーラモンが着水する音がしてシャオは大きく息を吐きだした。

シャオはその隙に一気に川岸から距離を取った。

 

「ありがとーよ!ベタモン!」

「どういたしまして!」

 

シャオはひとまず安全域まで脱出した。

だが、このシーラモンを放置しておくわけにはいかなかった。

 

善久は手の中に滲む汗を握り込んだ。

 

善久は戦う気だった。

 

そのヒントは既にシャオから貰っている。

 

「相手は魚……なら僕の得意分野だ!」

 

善久は覚悟を決め、大きく足を持ち上げた。

 

「ベタモン!飛び出してくるよ!準備して!!」

「任せてよ!!」

 

ベタモンの背びれからバチバチと火花が散る音が聞こえる。

ベタモンの体内電気が背びれに集まっていた。

 

「相手が魚なら……陸の上の相手を補足する方法は一つ……それは振動だ!」

 

例えデジモンだろうと『魚』である以上そこは変わらないはず。

その証拠に、シーラモンは常に動いた相手を狙ってきた。

それは、足が地面を蹴る振動を感じ取っていたからだ

 

善久は持ち上げた足を勢いよく地面に振り下ろした。

足の裏が相撲の四股のように力強く叩きつけられ、振動を放つ。

 

「シャァアアアアアアアアア!!」

 

シーラモンが水中から飛び出した。

それは、完全に善久の真正面だった。

 

「今だ!ベタモン!!」

「任せてよ!『電撃ビリリン』」

「ギャアァアアアアアアアアアア!」

 

飛び出して来た瞬間を完全にとらえた。

シーラモンは電気の直撃を受けながら、大きな水飛沫をあげて川の中に消えて行った。

 

「やった……の?」

「ど、どうだろ?」

 

ベタモンは慎重に川岸へと近づいていく。

 

どうも呆気なかった。シーラモンはベタモンより一段階上の進化を遂げた成熟期だ。

今の一撃で倒せたかどうかはわからなかった。

 

善久も水面を注意深く観察する。

そして、大きな魚影が動いた方向を見て、途端に青ざめた。

 

「まずいシャオ!シーラモンが下流に向かった!」

「下流……海か!?」

 

シャオは血の気の引いた顔でガジモンを振り返った。

 

「ガジモン!行けるか!」

「ああ、大丈夫だ。もう走れるぜ!」

「ベタモンも行くよ!!」

「うん!!」

 

善久とシャオは冷や汗を流しながら川沿いの道を駆け下りていった。

 

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